暗記分野の記憶術——語呂合わせは直後に勝ち、2日後に負けることがある

語呂合わせは、本番まで残るのか

中学受験の社会と理科には、覚えるしかない事項が大量にあります。「鳴くよウグイス平安京」「いい国つくろう」のような年号の語呂合わせ、都道府県の県庁所在地、植物のつくり、星座の名前。塾の暗記テキストや市販の語呂合わせ本は、今も定番の教材です。

記憶術(mnemonics)の研究は、この「覚え方の工夫」を実験で検証してきました。語の音を手がかりに別の語やイメージと結びつけるキーワード法、場面を思い浮かべるイメージ化、そして「なぜそうなのか」を自分に問う精緻化(elaboration)。どれも「覚えやすくする」ことは確かめられていますが、問題は「覚えやすい」と「長く残る」が同じではないことです。

この記事では、記憶術と精緻化の研究を、直後のテストと、日数を置いたテストの両方に注目して読みます。当サイトでは既に「思い出す練習(検索練習)」を扱っているため、ここでは覚える瞬間の工夫に絞ります。

一言でいうと(この記事の結論)
記憶術は、直後の成績を確かに上げます。学習障害のある子どもの理科のメタ分析では、記憶術の指導が事実の習得と保持に非常に効果的でした [5]
しかし——時間が経つと逆転することがあります。大学生176名の実験で、キーワード法は直後に優れていたものの、2日後には意味の文脈で覚えたほうが再生が多かった [7]
——語呂合わせは「意味で覚えられないもの」に限り、意味のある事実は「なぜ」で覚え、どちらも必ず思い出す練習で固める。これが研究から引き出せる使い分けです。

結論を6点にまとめます。

  1. 小4〜中2の396名の2つの実験で、「なぜ」を問う精緻化は、事実だけ・実験者の説明・自分で作るイメージより、よく覚えさせた [2]
  2. 小4・小5の96名で、才能のある子もない子も、記憶術の指導から利益を得た [4]
  3. 反証。4実験・218名で、キーワード法で覚えた語は、丸暗記より長期の忘却が大きかった [8]
  4. 反証。イメージ化で漢字の意味を覚えた実験では、直後のテストを越えた優位はどこにもなかった [9]
  5. 44研究のメタ分析で、思い出す練習は精緻化の学習よりわずかに優れていた(g = 0.14) [11]
  6. 一度思い出せた後に精緻化しても、測定できる学習は生じなかった [10]
マインドマップ図解:暗記分野の記憶術——語呂合わせは直後に勝ち、2日後に負けることがある
図:この記事の構造(Mapifyで作成したマインドマップ)

1. 記憶術と精緻化——3つの方法を区別する

「覚え方の工夫」とひとまとめにされがちですが、研究では性質の違う方法として扱われています。

方法 内容 中学受験での例
キーワード法(語呂合わせを含む) 音の似た語を手がかりにし、意味とつなぐ場面を作る [13] 「794(なくよ)ウグイス平安京」
イメージ化 覚える内容を絵や場面として思い浮かべる 地形図を頭に描く、実験の様子を思い浮かべる
精緻化による問いかけ 「なぜそうなのか」を自分に問い、既有知識とつなぐ 「なぜ扇状地は果樹園に向くのか」

キーワード法の仕組みを調べた研究では、ラテン語の単語30語を、キーワードと場面が与えられる条件自分で作る条件で覚えさせました。結果は、イメージしやすい語かどうかの効果が直後・遅延のどちらでも強く自分で作るか与えられるかの効果はありませんでした。著者らは、キーワード法が効くのは意味のある視覚的イメージを与えるからだと結論しています [13]

一言でいうと
語呂合わせを子どもに「自分で作らせる」ことに、特別な上乗せはありませんでした [13]
——作る時間をかけるより、絵が浮かぶ語呂を選んで使うほうが効率的です。

2. 記憶術は効く——支持する研究

記憶術研究の20年を振り返った1993年のレビューは、分野ごとに「成績表」をつけ、事実的な内容のために設計された記憶術の教材と、特別な支援が必要な児童生徒への記憶術の応用に最高評価の「A」を与えました [1]

学習障害のある児童生徒への理科指導12研究のメタ分析でも、全体の効果量は 0.78 で、とくに記憶術の指導は、理科の事実の習得と保持を高めるうえで非常に効果的だったと報告されています [5]

学習障害に限った話ではありません。小4・小5の96名(才能教育の対象児を含む)に、イタリア語の語彙や鉱物についての情報を、自由な学習か記憶術の指導で覚えさせた研究では、才能のある子もない子も記憶術の指導から利益を得ました [4]

そして、中学受験の学年に最も近い証拠が精緻化による問いかけです。カナダの小4〜中2の396名を対象にした2つの実験で、「なぜ」を問う精緻化は、事実だけを示す条件、実験者が正確な説明を与える条件、子どもが自分でイメージを作る条件のいずれよりも、よい学習をもたらしました [2]。大学生260名の4実験でも、この問いかけはイメージ化と同等に強力で、どちらも事実の学習に役立つとされています [3]

学習障害のある中高生117名の3研究では、「なぜ」の問いかけはばらばらの事実の再生に大きな効果を示しましたが、段落単位の文章の再認・理解では、文の種類によって効果が分かれました [14]

一言でいうと
「なぜ」と問う覚え方は、小学校高学年の子どもで、説明を聞くよりもイメージを作るよりも効きました [2]
——社会の「覚える」単元の多くは、実は「なぜ」で結べる事実です。

3. 反証——直後に効いて、あとで逆転する

ここからは、記憶術の「長持ち」に否定的な証拠です。支持する側と同じ重さで読んでください。

(1)キーワード法は、忘れるのも速い。第二言語の単語を、テストまでの間隔を変えて覚えさせた4つの実験・218名の研究では、キーワード法を使うよう指示された学習者のほうが、丸暗記の反復をした学習者より、長期の忘却が大きかったのです [8]

(2)2日後に逆転する。別の3実験・176名では、キーワード法と、記憶術を使わず意味のある文脈で覚える方法を比べました。キーワード法は直後の成績で優れていましたが、2日後の遅延再生では、意味の文脈で覚えたほうが高い水準でした [7]

(3)イメージ化の優位は、直後だけ。漢字(中国の表意文字)の英訳を、イメージを使う指導と丸暗記で覚えさせた2つの研究では、イメージによる記憶術が直後の再生テストを越えて優位を示したことは、一度もありませんでした [9]

(4)教室では、直後の差が出ないことも。高校の世界史の4学級・59名で、担任が記憶術(キーワードと絵)と直接指導を単元ごとに入れ替えた研究では、直後の単元テストには条件による差がありませんでした。累積の遅延テストでは差が見られたものの、記憶術で高得点だったのは英語を第二言語とする生徒で、一般の生徒や学習障害のある生徒では差がなかったのです [6]

一言でいうと(反証のまとめ)
語呂合わせやイメージ化は、「覚えた直後」の手応えを大きくします。しかしその手応えは、数日後の記憶を約束しません [7][8][9]
——入試本番は、覚えた日から数か月後です。直後の小テストの点で覚え方を選ぶと、判断を誤ります。

4. 覚え方より「思い出し方」——精緻化と検索練習の比較

では、精緻化と、当サイトで既に扱った思い出す練習(検索練習)は、どちらを優先すべきか。

44研究・142の比較を統合したメタ分析は、思い出す練習が、精緻化の学習条件より小さいが有意に優れている(g = 0.14)と報告しました。思い出す練習の形式では、手がかりありの再生より、手がかりなしの自由再生のほうが有利(g = 0.23)でした [11]

組み合わせについては、さらに示唆的な結果があります。単語の対を覚える4つの実験では、1週間後のテストで、繰り返し思い出すことは、精緻化しながら繰り返し学習するより長期の保持に優れていました。そして、精緻化は、最初に正しく思い出せるようになる前には記銘を助けましたが、一度思い出せた後に行っても、測定できる学習を生みませんでした [10]

文章の学習でも、概念地図(コンセプトマップ)を作ってから思い出す練習をする組み合わせは、取り組む時間がかなり長かったにもかかわらず、思い出す練習だけの場合を上回る効果を生みませんでした [12]

一言でいうと
工夫した覚え方が役に立つのは「最初に覚えるまで」です [10]
——いったん言えるようになった事項に、語呂やまとめノートを重ねても、上乗せはほとんどありません。そこから先は、白紙から思い出す練習に時間を回すほうが効率的です [11][12]

5. 実務——暗記分野の「覚え方の使い分け」

研究を踏まえ、事項の性質で覚え方を分け、どれも思い出す練習で固める手順にします。

  1. 事項を2種類に仕分ける。暗記テキストの1ページを、「理由で結べる事実」(扇状地で果樹栽培が盛ん、など)と「理由のない対応」(年号、県庁所在地の名前、など)に、鉛筆で印をつけて分けます。
  2. 理由で結べる事実は「なぜ」を1行書く。「水はけがよいから」のように、自分の言葉で理由を書き添えます。小学校高学年で、説明を聞くよりもよく覚えられた方法です [2]
  3. 語呂合わせは「理由のない対応」だけに使う。しかも絵が浮かぶものを選び、自作に時間をかけません [13]。語呂は忘れるのも速いことを前提にします [8]
  4. 言えるようになったら、語呂を見ずに思い出す。一度言えた事項は、テキストを閉じて白紙に書き出す練習に切り替えます [10][11]
  5. 覚え方の良し悪しは、2日後と1週間後に判定する。当日の小テストではなく、2日後に同じ事項を白紙テストし、1週間後にもう一度確かめます。直後だけ強い方法を見抜くためです [7]
  6. まとめノートを作る時間を削る。ノートや図を作ってから思い出す練習をしても、思い出す練習だけより伸びませんでした [12]。浮いた時間は、思い出す練習の回数に回します。

この記事で言えないこと

  • 日本語の語呂合わせそのものの効果。キーワード法の研究は主に外国語の単語を材料にしており [8][13]、日本の年号の語呂合わせを直接検証した研究は見つけられませんでした。
  • 数か月単位の保持。否定的な結果の多くは2日〜1週間の遅延で測られています [7][10]。入試までの数か月の保持は、別の問題として残ります。
  • 大学生の研究の小学生への当てはまり。忘却が速いという反証の多くは大学生が対象です [7][8]。子どもで同じ逆転が起きるかは確認できていません。

当塾の立場

まず、塾に来なくても家庭でできることです。事項を「理由あり」と「理由なし」に仕分ける、理由を1行書く、語呂は理由のない対応だけに使う、言えたら白紙で思い出す、2日後と1週間後に確かめる——5節の手順は、暗記テキストと白紙があれば家庭で実行できます。

それでも個別指導を使う理由を、この記事の研究に即して3つ挙げます。

  1. 「理由で結べる事実」を見抜くには、教科の知識が要ること。「なぜ」の問いかけは事実の学習に効きましたが [2]、子どもが丸暗記している事項のうち、どれが理由で結べるかを見分けて示すのは、教える側の仕事です。
  2. 直後の手応えにだまされない記録を持てること。記憶術は直後に強く、あとで逆転することがあります [7]。2日後・1週間後の再テストの結果を、講師側が管理できます。
  3. 時間の配分を変えられること。言えるようになった事項への上乗せの工夫は効果が乏しい [10][12]。まとめノートづくりに偏った学習を、思い出す練習へ組み替える判断を、個別に行えます。

塾を選ぶ際は、次の3つを聞いてみてください。

  • 暗記事項のうち、理由で覚えるものと語呂で覚えるものを、どう分けていますか
  • 覚えたかどうかを、何日後に確かめていますか
  • まとめノートを作る時間と、思い出す練習の時間を、どう配分していますか

まとめ

  1. 記憶術は事実的な内容で高く評価され [1]、理科の事実の習得・保持にも効果的だった [5]
  2. 小4〜中2では「なぜ」を問う精緻化が、説明を聞くよりイメージを作るより効いた [2]
  3. 語呂を自分で作ることに上乗せはなく、効くのは絵の浮かびやすさだった [13]
  4. 反証。キーワード法は忘却が速く [8]、2日後には意味の文脈で覚えたほうが上回った [7]
  5. 反証。イメージ化の優位は直後だけだった [9]教室では直後の差が出ないこともあった [6]
  6. 思い出す練習は精緻化よりわずかに優れ(g = 0.14)[11]、思い出せた後の精緻化は学習を生まなかった [10]
  7. 語呂は理由のない対応だけに使い、覚え方の良し悪しは2日後と1週間後に判定する。

出典

本文中の番号に対応します。抄録に直接あたって確認したものだけを挙げています。結論に反する研究も、同じ基準で載せています。

  1. 【記憶術研究20年の成績表】Levin, J. R. (1993). Mnemonic Strategies and Classroom Learning: A Twenty-Year Report Card. The Elementary School Journal. DOI: 10.1086/461763
  2. 【「なぜ」の問いかけ・小4〜中2の396名】Wood, E., Pressley, M. & Winne (1990). Elaborative interrogation effects on children’s learning of factual content. Journal of Educational Psychology. DOI: 10.1037//0022-0663.82.4.741
  3. 【問いかけとイメージ化は同等・260名】Pressley, M., Symons, McDaniel et al. (1988). Elaborative interrogation facilitates acquisition of confusing facts. Journal of Educational Psychology. DOI: 10.1037//0022-0663.80.3.268
  4. 【才能のある子とない子・96名】Scruggs, T. E., Mastropieri, M. A., Jorgensen et al. (1986). Effective Mnemonic Strategies for Gifted Learners. Journal for the Education of the Gifted. DOI: 10.1177/016235328600900202
  5. 【学習障害と理科指導のメタ分析】Therrien, W. J., Taylor, J. C. & Hosp, J. L. (2011). Science Instruction for Students with Learning Disabilities: A Meta-Analysis. Learning Disabilities Research & Practice. DOI: 10.1111/j.1540-5826.2011.00340.x
  6. 【反証・高校世界史で直後の差なし】Fontana, J. L., Scruggs, T. & Mastropieri, M. A. (2007). Mnemonic Strategy Instruction in Inclusive Secondary Social Studies Classes. Remedial and Special Education. DOI: 10.1177/07419325070280060401
  7. 【反証・2日後に逆転・176名】Wang, A. Y. & Thomas, M. H. (1995). Effects of keyword on long-term retention: Help or hindrance? Journal of Educational Psychology. DOI: 10.1037//0022-0663.87.3.468
  8. 【反証・キーワード法の長期忘却・218名】Wang, A. Y., Thomas, M. H., Ouellette et al. (1992). Keyword mnemonic and retention of second-language vocabulary words. Journal of Educational Psychology. DOI: 10.1037//0022-0663.84.4.520
  9. 【反証・イメージ化の優位は直後のみ】Wang, A. Y. & Thomas, M. H. (1992). The Effect of Imagery-Based Mnemonics on the Long-Term Retention of Chinese Characters. Language Learning. DOI: 10.1111/j.1467-1770.1992.tb01340.x
  10. 【思い出せた後の精緻化は効果なし】Karpicke, J. D. & Smith, M. A. (2012). Separate mnemonic effects of retrieval practice and elaborative encoding. Journal of Memory and Language. DOI: 10.1016/j.jml.2012.02.004
  11. 【検索練習と精緻化のメタ分析・44研究】Gonçalves, A. de O., Muniz, B. F. B. & Jaeger, A. (2025). Retrieval Practice Versus Elaborative Encoding: A Systematic and Meta-analytic Review. Educational Psychology Review. DOI: 10.1007/s10648-025-10076-6
  12. 【概念地図との組み合わせに上乗せなし】O’Day, G. M. & Karpicke, J. D. (2021). Comparing and combining retrieval practice and concept mapping. Journal of Educational Psychology. DOI: 10.1037/edu0000486
  13. 【キーワード法の仕組み・自作と提供に差なし】Shapiro, A. M. & Waters, D. L. (2005). An investigation of the cognitive processes underlying the keyword method of foreign vocabulary learning. Language Teaching Research. DOI: 10.1191/1362168805lr151oa
  14. 【学習障害のある中高生・事実と文章で効果が分かれる】Greene, C., Symons, S., Richards et al. (1996). Elaborative Interrogation Effects for Children with Learning Disabilities: Isolated Facts versus Connected Prose. Contemporary Educational Psychology. DOI: 10.1006/ceps.1996.0003

関連する既存記事

中学受験の研究(全10本)

ほかの入試区分の研究記事

author avatar
宮川 涼 Founder
早稲田大学大学院文学研究科哲学専攻修士号修了、同大学大学院同専攻博士課程中退。日本倫理学会員 早稲田大学大学院文学研究科にてカント哲学を専攻する傍ら、精神分析学、スポーツ科学、文学、心理学など幅広く研究に携わっている。

関連記事

PAGE TOP
お電話