【連載第3回】受験勉強という高強度学習は、何を残すのか——転移と自己調整をめぐる実証

受験勉強という高強度学習は、何を残すのか

連載第3回です。第1回で分けた5つの問いのうち、②準備期間の効果を扱います。

「受験勉強で身につけたことは、社会に出てから役に立った」——この言い方は、あまりにもよく聞きます。そしてあまりにも検証されていません。

第2回で見たのは「どこに行き着くか」の効果でした。この回で見るのは「そこに至る1年半そのもの」が本人に残すものです。仮に志望校に届かなかったとしても、残るものがあるのか。

一言でいうと(この記事の結論)
受験勉強が残すものは、教科の知識ではなく、自己調整の能力である可能性が高い。4万7千人の分析で、高校成績が卒業を予測する力は自己調整で説明され、入試得点の予測力は認知能力で説明されました [1]
ただし——試験が近づくほど、学生は「深い学習」より「浅い学習」の方略を速く増やします [2]
そして試験の形式が、身につく学び方を決めます [3]
——「受験勉強は人を鍛える」は、条件つきでしか成り立ちません。条件とは、試験の形式と、家庭・塾の関わり方です。

結論を先に10点書きます。

  1. 高校成績の予測力は自己調整で、入試得点の予測力は認知能力で説明されました [1]
  2. 自己調整学習の訓練プログラムのメタ分析では、全体効果量 g = .36 [4]
  3. 最大だったのは「計画と目標設定」で g = .55。最小は「体制化と反復」で .23 [4]
  4. 反証。自己調整と学力の相関自体は小さい——メタ認知 r = 0.20、認知方略 r = 0.11 [5]
  5. 方略指導の効果は領域で大きく違う——作文 g = 1.25、理科 .73、数学 .66、読解 .36 [6]
  6. 多肢選択式の試験に備えるとき、学生は浅い方略を採り、深い方略を採った者ほど成績が悪かった [3]
  7. 試験が近づくにつれ、学習時間は増え、浅い方略が深い方略より速く増えました [2]
  8. 同時に、期待価値は下がり「失敗への恐れ」による勉強が増えました [2]
  9. 口頭試問型の評価に備えた学生は、概念理解を要すると認識し、深い方略を採りました [7]
  10. そして——再受験者の追跡では、認知能力の伸びは小さく(d = 0.33〜0.46)、人格尺度の変化のほうが大きかった(d = 0.67〜0.92) [8]

1. 検証すべき主張を、正確に書く

「受験勉強は役に立つ」という主張は、少なくとも3つに分かれます。

主張 内容 検証可能性
A. 知識の主張 覚えた内容が、後で使える 検証しやすいが、支持は弱い
B. 技能の主張 読む・要約する・論証する力がつく 検証可能。領域によって差が大きい [6]
C. 自己調整の主張 計画し、実行し、修正する習慣がつく 検証可能。最も支持が強い [1]

一言でいうと(Aは期待しないほうがよい)
覚えた内容そのものが後年まで使える、という主張は、学習の転移研究では一貫して支持されてきませんでした。
詳しくは当サイトの学んだことはなぜ別の場所で使えないのかをご覧ください。
——だから「受験勉強の意義」を主張するなら、BかCで主張しなければなりません。

2. 決定的な分析——何が卒業を予測したか

この問いに、最も鋭く答えたのは2019年の研究です [1]

Galla らは、「なぜ入試得点より高校成績のほうが、大学の4年卒業をよく予測するのか」を問いました。2つの研究を行っています。

  • 研究1——2009/2010年度に大学へ出願した全国標本4万7,303人。高校成績は入試得点を上回って4年卒業を予測した
  • 研究2——2013年卒の高校3年生1,622人。高校成績の増分予測力は「自己調整」の合成指標で説明された。入試得点の増分予測力は「認知能力」の合成指標で説明された

一言でいうと(ここが本題)
大学を4年で卒業できるかどうかを決めているのは、頭の良さより、自分を運用する力でした。
——そして高校成績は、その力の記録です。毎日の提出物、締切、出席、テスト前の準備——それらを3年間積み上げた結果が評定です。
受験勉強が「何を残すか」を問うなら、ここが答えの中心になります。

関連する証拠として、413,074人・228研究のメタ分析は、認知能力と性格特性が合わせて学業成績の27.8%を説明し、そのうち誠実性(conscientiousness)が説明分散の28%を占めたと報告しています [9]誠実性は、認知能力を統制しても頑健な予測因子でした [9]

3. では、その力は訓練で伸ばせるのか

「自己調整が効く」と「自己調整は教えられる」は、別の主張です。

32研究・4,106人・182の効果量を統合した3レベルメタ分析は、大学生向けの自己調整学習訓練の全体効果量を g = .36 と推定しました [4]

アウトカム/方略 効果量 g
メタ認知方略 .39
動機づけ .38
学業成績 .37
資源管理方略 .34
認知方略 .25
計画と目標設定 .55(最大)
体制化と反復 .23(最小)

初等・中等教育を対象にした58研究のメタ分析は、領域によって効果が大きく違うと報告しました——作文 g = 1.25、理科 .73、数学 .66、読解 .36。そしてメタ認知的知識の指導は、どの領域でも価値があった [6]

ただし、この研究には重要な注意書きがあります。

「効果は、研究者が自作したテストを使ったときのほうが、介入とは独立のテストを使ったときより高かった」 [6]
——訓練した内容に合わせたテストなら、効果は大きく出ます。
そうでないテストでは、小さくなります。これは「転移していない」という意味です。

4. 反証(1)——相関そのものは、小さい

都合の良い数字だけを並べないために、反対向きの証拠を出します。

小中高の生徒を対象に、自己調整学習と学力の関係を統合したメタ分析(729引用)は、相関が小さいと報告しました [5]

  • メタ認知的プロセスと学力——r = 0.20
  • 認知方略の使用と学力——r = 0.11
  • ただし、具体的なプロセス・教科・学年・測定法によって、体系的に変動した [5]

「やり抜く力(grit)」についても同様です。88標本・66,807人のメタ分析は、gritの高次因子構造は確認されず、gritは成績と中程度にしか相関せず、誠実性と非常に強く相関したと結論しました [10]。英国の双生児4,642人の研究も、gritは誠実性を超えて学業成績の予測にほとんど寄与しなかったと報告しています [11]

一言でいうと(塾が言いがちなことへの反証)
「受験を通して、やり抜く力が育ちます」——この売り文句は、研究に支えられていません。
gritという構成概念自体の妥当性が問われており、実体は誠実性とほぼ同じでした [10]
——言えるのは「計画・監視・修正という具体的な手続きが、教えれば伸びる」までです [4]

5. 試験の形式が、身につく学び方を決める

ここが、この回で最も実務的な部分です。

1998年の研究(843引用)は、同じ科目を、多肢選択式試験とレポート課題の両方で評価した206人を調べました [3]

多肢選択式試験 レポート課題
学生が採った学習方略 浅い方略 深い方略
学生の認識 知識ベースの低次処理を測る 高次の認知処理を測る
成績が悪かったのは 深い方略を採った学生 浅い方略を採った学生

一言でいうと(残酷な発見)
多肢選択式の試験では、深く理解しようとした学生のほうが点が低かったのです。
——試験の形式は、「どう勉強すると得か」を決めます。そして生徒は、それを正確に読み取ります。
「もっと深く考えなさい」という指導は、試験がそれを罰する形式なら、生徒にとって不利益な助言になります。

逆向きの証拠もあります。数学の3年次で口頭試問型の評価を導入した事例研究では、学生はこの評価が暗記より概念理解を要すると認識し、深い学習に資する復習方略を採る傾向が強かったと報告されています。さらに講義への関与も増えました [7]

この「試験が学習に及ぼす影響」は、言語テスト研究では波及効果(washback)と呼ばれます。ただし、この分野の古典(402引用)は「単純な波及効果の仮説は素朴すぎる。授業で起きることへの影響は、はるかに複雑である」と結論しています [12]。中国の大学入試英語を3,105人で調べた研究も、波及効果は性別・学年・習熟度によって有意に異なったと報告しました [13]

6. 試験が近づくと、学習の質は下がる

時間経過を追った研究があります。

96人の大学生を8週にわたり毎週測定し、試験が近づくにつれて何が変わるかを平行成長曲線モデルで追った研究です [2]

  1. 試験が近づくと、学習時間は増えた
  2. 浅い学習方略の使用が、深い学習方略より速く増えた
  3. それでも、期待(できそうだという見込み)と達成価値は下がり続けた
  4. 遂行回避動機(失敗を恐れる動機)は上がり続けた
  5. 著者らの解釈——「試験が近づくにつれ、学生はますます失敗への恐れから勉強するようになる」 [2]

一言でいうと(直前期の実務)
「直前期は量を増やすべきだ」という指導は、量については正しく、質については逆行します。
——放っておけば、浅い方略の比率は勝手に上がります。
だから直前期にこそ、深い方略を意図的に残す設計が要ります。第5回で扱う「締切の設計」と直結する問題です。

7. 実際に測ると、何が伸びていたか

入試を2年連続で受けた261人を追跡した研究が、示唆的な結果を出しています [8]

測定領域 1年後の変化
認知能力(言語・数量・図形) 有意に上昇。ただし効果量は小 d = 0.33〜0.46
ビッグファイブ人格特性 大きく上昇 d = 0.67〜0.92(特に情緒安定性)

著者らの解釈は、慎重です。人格尺度の大きな変化は「高利害場面での自己呈示(よく見せようとする傾向)」で説明できる可能性が高く、認知能力の上昇は主に練習効果だとしています [8]

一方、トルコの大学入試を分析した研究は、初回と n 回目のあいだに大きな学習の蓄積があり、それは特に恵まれない層で大きかったと報告しました [14]この点は第8回で詳しく扱います。

そして、塾業界にとって最も都合の悪い結果を書いておきます。ソウルの縦断データを分析した研究は、塾(shadow education)が数学の学力には短期的に正の影響を与えたが、創造的思考には長期的に負の影響を与えたと報告しています [15]

8. 実務——受験勉強を「残るもの」にする4条件

ここまでの証拠から言えることを、手順に落とします。

  1. 計画と目標設定を、明示的に教える。自己調整訓練で最も効果が大きかったのは、この要素でした(g = .55)[4]「計画を立てなさい」ではなく、立て方を一緒に書く。
  2. 浅い方略が増える時期を、あらかじめ想定する。直前期に自然に起きることです [2]「今は浅くていい範囲」と「浅くしてはいけない範囲」を先に分けておく。
  3. 志望校の試験形式を、方略の選択に反映させる。多肢選択中心なのか記述中心なのかで、得になる勉強法が変わります [3]。形式を見ずに「深く考えろ」とだけ言うのは、無責任です。
  4. 「やり抜く力が育つ」とは言わない。支持されていません [10] [11]。代わりに「締切を守る・進捗を記録する・修正する」という具体的手続きを残すことを目標にする。

それでも塾に通いたい方へ

塾に通いたい、通わせたいという方には、武蔵野個別指導塾を勧めます。この回に関して、理由を3つ書きます。

  1. 教科の指導と同時に、計画の立て方を指導対象にすること。3節のとおり、訓練で最も伸びる要素は計画と目標設定です [4]。当塾の個別指導は、「今週何をやるか」を生徒に書かせ、翌週に一緒に照合します。
  2. 志望校の出題形式を見てから方略を決めること。5節のとおり、形式が、得になる勉強法を決めます [3]。当塾は、過去問の形式分析を志望校決定と同時に行います。
  3. 塾に通うことの副作用も、先に伝えること。7節の研究は、塾が創造的思考に長期的な負の影響を与えたと報告しています [15]自塾にとって都合の悪い研究を隠さないことが、判断材料を減らさない唯一の方法です。

塾を検討する際は、次のように聞いてみてください。

  • 教科の中身以外に、何を身につけさせるつもりですか
  • 志望校の出題形式は、勉強のやり方をどう変えますか
  • 塾に通うことの副作用は、何だと考えていますか

3つ目に「特にありません」と答える塾は、副作用を見ていないだけです。当塾がお答えできるようにしておくのが、こちらの仕事だと考えています。

まとめ

  1. 4万7,303人の分析で、高校成績は入試得点を上回って4年卒業を予測しました [1]
  2. その予測力は「自己調整」で説明され、入試得点の予測力は「認知能力」で説明されました [1]
  3. 認知能力と性格が学業成績の27.8%を説明し、誠実性が説明分散の28%を占めました [9]
  4. 自己調整学習の訓練は、全体 g = .36。計画と目標設定が最大 g = .55 [4]
  5. 方略指導の効果は領域差が大きい——作文 1.25、理科 .73、数学 .66、読解 .36 [6]
  6. ただし効果は、介入独立のテストでは小さくなりました——転移の限界です [6]
  7. 反証。自己調整と学力の相関自体は小さい(メタ認知 r = 0.20、認知方略 r = 0.11) [5]
  8. 反証。gritは誠実性とほぼ同一で、成績予測への独自の寄与は乏しい [10] [11]
  9. 多肢選択式では浅い方略が有利で、深い方略を採った学生ほど成績が低かった [3]
  10. 口頭試問型では逆に、深い方略と講義への関与が増えました [7]
  11. 試験が近づくと学習量は増え、浅い方略が速く増え、失敗への恐れが動機の中心になりました [2]
  12. 再受験者の1年で、認知能力の伸びは小(d = 0.33〜0.46)、人格尺度の変化は大(d = 0.67〜0.92) [8]
  13. 塾は数学に短期的な正の効果、創造的思考に長期的な負の効果を示しました [15]
  14. そして——受験勉強が何を残すかは、試験の形式と、周囲の設計によって決まります。自動的に何かが残るわけではありません。

出典

本文中の番号に対応します。抄録に直接あたって確認したものだけを挙げています。結論に反する研究も、同じ基準で載せています。

  1. 【自己調整 vs 認知能力・4万7千人】Galla, B. M. et al. (2019). Why High School Grades Are Better Predictors of On-Time College Graduation Than Are Admissions Test Scores. American Educational Research Journal. DOI: 10.3102/0002831219843292
  2. 【試験接近と方略・8週追跡】Capelle, J. D. et al. (2023). Deadlines make you productive, but what do they do to your motivation? Frontiers in Psychology. DOI: 10.3389/fpsyg.2023.1224533
  3. 【評価方式と学習方略】Scouller, K. (1998). The influence of assessment method on students’ learning approaches. Higher Education. DOI: 10.1023/a:1003196224280
  4. 【自己調整学習訓練メタ分析】Theobald, M. (2021). Self-Regulated Learning Training Programs Enhance University Students’ Academic Performance. Contemporary Educational Psychology. DOI: 10.1016/j.cedpsych.2021.101976
  5. 【反証・相関は小さい】Dent, A. L. & Koenka, A. C. (2015). The Relation Between Self-Regulated Learning and Academic Achievement Across Childhood and Adolescence. Educational Psychology Review. DOI: 10.1007/s10648-015-9320-8
  6. 【方略指導・58研究】Donker, A. S. et al. (2013). Effectiveness of learning strategy instruction on academic performance: A meta-analysis. Educational Research Review. DOI: 10.1016/j.edurev.2013.11.002
  7. 【口頭試問型評価】Iannone, P. & Simpson, A. (2020). The impact of high stakes oral performance assessment on students’ approaches to learning. Educational Studies in Mathematics. DOI: 10.1007/s10649-020-09937-4
  8. 【再受験者の1年・261人】Weissenbacher, B. (2026). The impact of retaking university entrance exams: Substantial personality shifts and modest gains in cognitive ability. Personality and Individual Differences. DOI: 10.1016/j.paid.2026.113918
  9. 【ビッグファイブと学業成績・41万人】Mammadov, S. (2021). The Big Five Personality Traits and Academic Performance: A Meta-Analysis. Journal of Personality. DOI: 10.1111/jopy.12663
  10. 【反証・gritメタ分析】Credé, M. et al. (2017). Much Ado About Grit: A Meta-Analytic Synthesis of the Grit Literature. Journal of Personality and Social Psychology. DOI: 10.1037/pspp0000102
  11. 【反証・双生児4,642人】Rimfeld, K. et al. (2016). True grit and genetics: predicting academic achievement from personality. Journal of Personality and Social Psychology. DOI: 10.1037/pspp0000089
  12. 【波及効果は単純ではない】Alderson, J. C. & Hamp-Lyons, L. (1996). TOEFL preparation courses: a study of washback. Language Testing. DOI: 10.1177/026553229601300304
  13. 【波及効果の層別差・3,105人】Dong, M. et al. (2021). Differential washback effects of a high-stakes test on students’ English learning process. Asia Pacific Journal of Education. DOI: 10.1080/02188791.2021.1918057
  14. 【再受験による学習の蓄積・トルコ】Krishna, K. & Lychagin, S. (2014). Better Luck Next Time: Learning through Retaking. DOI: 10.2139/ssrn.2391680
  15. 【塾と創造的思考・ソウル縦断】Han, S. et al. (2020). The effects of shadow education on high school students’ creative thinking and academic achievement in mathematics. Educational Studies. DOI: 10.1080/03055698.2020.1850427

連載「受験という制度は、人に何をするのか」(全10回)

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ryomiyagawa Founder
早稲田大学大学院文学研究科哲学専攻修士号修了、同大学大学院同専攻博士課程中退。日本倫理学会員 早稲田大学大学院文学研究科にてカント哲学を専攻する傍ら、精神分析学、スポーツ科学、文学、心理学など幅広く研究に携わっている。

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