連載「単元別のつまずき研究——その単元で、生徒は実際に何をどう誤るか」全50回の第31回です。学習の仕方の目次を見る
「太郎は弟に自分の本を貸した。それは翌日返ってきた」。この二文を読んで、「それ」が何を指すか、すぐに答えられるでしょうか。多くの大人は「本」だと即答しますが、教室では「弟」と答えたり、「翌日」と答えたりする生徒がいます。文と文をつなぐ見えない糸をたどれないと、文章全体の意味は砂の城のように崩れていきます。
今回の主題は「指示語と接続語」です。国語の文法問題として「こそあど言葉」を分類できることと、文章を読みながら指示語の指す内容を正確に追えることは、似ているようで大きく異なります。後者は読解の土台となる推論の力に深く関わっており、学年が上がるほどその差が表面化します。
この記事では、指示語や接続語でつまずく生徒が、実際にどのような誤り方をして、その背後で何を考えているのかを具体的に見ていきます。そのうえで、机の前で1対1で確かめる手順と、家庭でできる短い練習を提案します。研究知見を根拠にしながらも、数値ではなく「どのような力が読解を支えるか」という質的な視点から考えます。
要点(結論から)
- 指示語のつまずきは、「こそあど」の分類ができないことよりも、直前の文から指示内容を選び取れないことに集中します。
- 接続語のつまずきは、接続語の意味を知らないことよりも、前後の文が「逆接」「順接」「言い換え」のどれで結ばれているかを判断できないことに現れます。
- この背景には、文と文の間に書かれていない関係を補って読む「推論」の弱さがあります。読解の失敗と推論の力には関連があると報告されています。
結論——指示語と接続語のつまずきは、文法知識ではなく文脈をつなぐ推論の問題として現れる
- 指示語のつまずきは、「こそあど」の分類ができないことよりも、直前の文から指示内容を選び取れないことに集中します。
- 接続語のつまずきは、接続語の意味を知らないことよりも、前後の文が「逆接」「順接」「言い換え」のどれで結ばれているかを判断できないことに現れます。
- この背景には、文と文の間に書かれていない関係を補って読む「推論」の弱さがあります。読解の失敗と推論の力には関連があると報告されています。
- 指示語や接続語の誤りは、単なるケアレスミスではなく、文章の結束性をとらえる力の未熟さを示すサインです。
- 対策は、文法ドリルを増やすことではなく、短い二文から「何がどうつながるか」を言葉で説明させることにあります。
理由——文と文のつながりは、書かれていない部分を補う力に支えられている
指示語は「指すもの探し」ではなく「関係の再構成」である
指示語の問題で生徒がよくする誤りは、「それ」や「その」の直前に出てきた言葉を機械的に選ぶことです。たとえば「太郎は弟に自分の本を貸した。それは翌日返ってきた」という文で、「それ」の直前に「本」がありますから、正しく「本」を選べる生徒もいます。しかし「太郎は弟に自分の本を貸した。彼はとても喜んだ」となると、「彼」が太郎か弟かを文脈から判断しなければなりません。ここで「直前の言葉」という機械的な手がかりは役に立ちません。
指示語の理解には、指示語が出てきた文と、指示される内容を含む文との間に、意味的なつながりを再構成する作業が必要です。この作業は、文章に明示されていない関係を推論する力と深く関わります。読み手は「それ」が指す対象を同定するために、先行文脈の情報を保持し、現在の文の述語と照合し、最も整合的な候補を選びます。この一連の処理が自動化されていない生徒は、指示語のたびに読みが寸断されます。
Cain K, Oakhill J. Inference making ability and its relation to comprehension failure in young children. Reading and Writing. 1999;11(5-6):489-503.
この研究は、文章理解に失敗する子どもと、推論を生成する力との関連を検討しています。指示語の指示対象を決めることも、文と文の間に暗黙に存在する関係を補う推論の一種です。文法問題として指示語を分類できることと、読解の中で指示語を使いこなせることは、別の力だと考えたほうが実態に合います。
接続語は「論理のラベル」ではなく「関係の予測装置」である
接続語の指導では「しかし=逆接」「だから=順接」という対応表を覚えさせる方法が広く行われています。この方法は、単文どうしの関係が明確な問題では有効です。しかし実際の文章では、接続語がなくても逆接の関係が成り立つ文が多く、接続語があるからといって関係が自明になるわけではありません。むしろ接続語は、これから述べる内容が前の内容とどのような関係にあるかを予測させる装置として働きます。
たとえば「彼は毎日練習した。しかし試合には負けた」という二文では、「しかし」によって後続文が先行文の期待を裏切る内容だと予測できます。この予測ができる読み手は、後続文を読む前に「努力が報われない展開」を準備します。一方、接続語を「逆接のマーク」としてしかとらえていない読み手は、「しかし」を見てから後続文を読み、読み終わってから「ああ、逆接だったのか」と確認するだけになります。この差は、読む速度と理解の深さに大きく影響します。
接続語のつまずきは、接続語そのものの意味を知らないというより、前後の文がどのような関係にあるかを判断できないことに起因します。因果関係、対比、例示、言い換え、補足。これらの関係は、文の内容を理解していなければ判断できません。つまり接続語の誤りは、文の内容理解の弱さが表面化したものとも言えます。
Yuill N, Oakhill J. Children’s problems in text comprehension. Child Language Teaching and Therapy. 1992;8(2):211-212.
この文献は、子どもの文章理解の問題を扱っています。接続語の理解が不十分な子どもは、文と文の関係をとらえることに困難を抱え、結果として文章全体の結束性を見失います。接続語を単独で教えるのではなく、文と文の関係を推論する活動の中で扱う必要があります。
読解を支える複数の力のうち、推論は独立した予測要因として働く
読解力は一つの能力ではなく、複数の要素から成り立っています。語彙力、音読の正確さ、背景知識、そして文と文をつなぐ推論の力。これらのうち、どの力が後の読解力を予測するかは、教育実践にとって重要な問いです。
Oakhill J, Cain K. The Precursors of Reading Ability in Young Readers: Evidence From a Four-Year Longitudinal Study. Scientific Studies of Reading. 2012;16(2):91-121.
この縦断研究では、読解力と単語読解の正確さを予測する要因が異なることが示されています。読解力については、推論、理解のモニタリング、物語構造の知識と活用という三つの要素が、後の読解力を予測する独立した要因として浮かび上がりました。指示語や接続語の処理は、このうち推論と理解のモニタリングにまたがる領域です。指示語の指示対象を誤って同定したまま読み進めても、文の表面的な意味は通ってしまうため、自分の理解の誤りに気づきにくいのです。
この知見は、指示語や接続語の指導を「文法事項の暗記」として扱うことの限界を示しています。読解の中で指示語や接続語を機能させるには、文と文の関係を推論し、自分の理解を監視する力が必要です。したがって指導は、短い文章の中で指示語の指示対象を言葉で説明させたり、接続語を外した二文の関係を考えさせたりする形が適しています。
誤答の例——指示語と接続語で生徒は具体的にどう誤るか
| よくある誤答 | その子が考えていること | 確かめる問いかけ |
|---|---|---|
| 「私は昨日、駅前の本屋で辞書を買った。それはとても重かった」の「それ」を「駅前」と答える | 直前に出てきた場所を指すと思い込んでいる。物を指すという意識が薄い | 「重かった」のは何? 場所が重いことはある? |
| 「彼は熱があった。だから学校を休んだ」の「だから」を「でも」に置き換えても意味が通ると考える | 接続語を文の飾りとしてとらえており、因果関係を意識していない | 「熱があった」と「学校を休んだ」は、原因と結果? それとも反対の関係? |
| 「姉はピアノが上手だ。しかし弟は歌が上手だ」の「しかし」を「そして」に変えても同じだと答える | 前後の文が対比の関係だと気づいていない。両方「上手」だから同じ種類だと思っている | 姉と弟は同じことをほめられている? 何が違う? |
| 「この問題は難しい。つまり時間がかかる」の「つまり」を「たとえば」と同じ意味だと答える | 言い換えと例示の区別がついていない。どちらも「説明の言葉」くらいの理解 | 「時間がかかる」は「難しい」の例? それとも言い換え? |
| 「父は新聞を読んでいた。その人は眼鏡をかけていた」の「その人」を「新聞」と答える | 「その」の直後の「人」を無視して、直前の名詞を機械的に選んでいる | 「その人」の「人」は何を表す? 新聞は人? |
机の前で1対1で確かめる手順は、次のように進めます。
- 短い二文を音読させ、「何がどうつながっているか」を一文で説明させます。このとき「指示語が指すもの」と「接続語が示す関係」の両方を言葉にさせます。
- 指示語を具体的な言葉に置き換えて読ませ、文の意味が通るかどうかを確認させます。置き換えても不自然な場合は、別の候補を探させます。
- 接続語を空欄にした二文を提示し、入る接続語を複数考えさせます。そのうえで、それぞれの接続語を入れたときに意味がどう変わるかを説明させます。
- 生徒が誤った指示対象を選んだ場合は、正解を教える前に「その言葉で文を作り直すとどうなるか」を音読させ、不自然さに自分で気づかせます。
- 最後に、同じ指示語が異なる対象を指す二つの例を示し、文脈によって指示対象が変わることを確認させます。
小学生では、指示語の指示対象を「直前の言葉」から探す癖が強く見られます。二文の間に別の文が入ると正しく追えなくなることが多いため、まずは二文から始めて、徐々に三文、四文へと伸ばします。中学生では、接続語の意味を対応表で覚えていても、文章の中で使える段階に至っていないケースが目立ちます。説明的文章で接続語を外し、前後の関係を自分の言葉で説明させる練習が有効です。高校生では、指示語が段落をまたいで内容全体を指す場合につまずくことがあります。「このように」「こうしたこと」が前の段落全体を指すことをとらえられず、直前の一文だけを探して混乱します。段落の要約と組み合わせて指示内容を確認する必要があります。
よくある誤読——研究結果をどう誤用しやすいか
「推論が読解を予測する」を「推論ドリルをすれば読解が伸びる」と読み替える誤用
読解力と推論の力に関連があるという研究結果は、しばしば「推論の練習問題をたくさん解かせれば読解力が伸びる」という短絡的な主張に読み替えられます。しかし研究が示しているのは、推論の力が読解力を予測する要因の一つだということであり、特定の練習方法の効果を保証するものではありません。推論の力を測る課題で高い成績を収める子どもが、後の読解力も高い傾向にあるという関連の話です。
この誤用が現場で広がると、「指示語の問題を毎日10問解く」といった数値目標が独り歩きします。指示語の指示対象を選ぶ問題を繰り返しても、文章全体を読みながら文と文の関係を推論する力が伸びるとは限りません。むしろ、短い問題文での機械的な処理に慣れてしまい、長い文章の中で指示語を追う力が育たない恐れがあります。練習の量ではなく、文章の中で指示語や接続語をどう使うかを言葉で説明させる質が重要です。
「複数の力が独立して予測する」を「語彙は読解に関係ない」と読む誤用
読解力を予測する要因として推論、理解のモニタリング、物語構造の知識が独立して働くという知見は、語彙力の重要性を否定するものではありません。同じ研究で、語彙と言語性の知能も読解力の予測に有意に寄与することが報告されています。読解力は複数の力が重なり合って支えられており、推論だけを鍛えればよいという結論にはなりません。
この誤読は、「読解力=推論力」という新しい一辺倒を生みます。指示語や接続語のつまずきに対しても、推論の弱さだけに原因を求め、語彙の不足や背景知識の欠如を見落とすことになります。たとえば「彼は熱があった。だから学校を休んだ」という二文の因果関係を推論するには、「熱」と「学校を休む」という語の意味と、学校を休む理由として熱が典型的だという背景知識が必要です。推論は知識と切り離して働くわけではありません。指導では、推論の練習と同時に、文章に出てくる語彙や背景知識の確認も欠かせません。
今週やること——指示語と接続語を「説明させる」練習を始める
- 教科書や問題集から短い二文を三つ選び、指示語を具体的な言葉に置き換えて音読させます。置き換えても意味が通るかを一緒に確認します。
- 接続語を空欄にした二文を五つ作り、入る接続語を二つ以上考えさせます。それぞれの場合に意味がどう変わるかを一文で説明させます。
- 生徒が読んでいる文章から指示語を五つ見つけ、それぞれが指す内容を付箋に書いて本文の横に貼らせます。段落をまたぐ指示語があれば、特に時間をかけて確認します。
この記事で言えないこと
第一に、この記事で紹介した研究知見は、特定の年齢層を対象にした調査に基づくものであり、すべての学年の生徒にそのまま当てはまるとは限りません。指示語や接続語のつまずきの現れ方は、発達段階や読んできた文章の量によって大きく異なります。ここで述べた誤答例は、実際の教室でよく見られるものですが、すべての生徒に共通するわけではありません。
第二に、指示語や接続語のつまずきが、読解力全体のどの程度を説明するかは、この記事の範囲では特定できません。読解力には語彙、背景知識、音読の流暢さ、文章構造の理解など多くの要素が関わります。指示語や接続語の処理が苦手だからといって、読解力全体が低いと決めつけることはできません。逆に、指示語や接続語の問題ができても、文章全体の要旨をとらえられない生徒もいます。
第三に、この記事で提案した練習方法は、特定の指導法の効果を実証したものではありません。研究が示すのは読解力と推論の関連であり、特定の練習方法の有効性ではありません。ここで提案した手順は、現場での観察と実践に基づくものであり、生徒の反応を見ながら調整することが前提です。特に、説明させる練習は生徒の言語化の力に依存するため、説明が苦手な生徒には別の手立てが必要です。
当塾の立場
指示語や接続語のつまずきは、短い二文を使った説明練習を家庭で続けるだけでも、ある程度は改善が見込めます。教科書の文章から指示語を探して置き換える作業は、特別な教材がなくてもできます。接続語を空欄にして考える練習も、保護者が二文を作って出題できます。まずは家庭で週に数回、短時間の確認から始めることをお勧めします。塾に通わなければ解決できない種類の問題ではありません。
そのうえで、塾が担える部分があるとすれば、生徒が説明した内容を即座に修正し、誤りのパターンを記録して次の練習に反映する点です。特に、指示語の指示対象を誤って同定したまま読み進める生徒は、自分の誤りに気づいていません。1対1の対話の中で「その言葉で文を作り直すとどうなるか」をその場で音読させ、不自然さに気づかせる手順は、集団授業や家庭での独習では再現しにくいものです。当塾では、この「誤りをその場で言語化して修正する」手順を、指示語と接続語の指導で最も重視しています。
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出典
- Cain K, Oakhill J. Inference making ability and its relation to comprehension failure in young children. Reading and Writing. 1999;11(5-6):489-503.
- Yuill N, Oakhill J. Children’s problems in text comprehension. Child Language Teaching and Therapy. 1992;8(2):211-212.
- Oakhill J, Cain K. The Precursors of Reading Ability in Young Readers: Evidence From a Four-Year Longitudinal Study. Scientific Studies of Reading. 2012;16(2):91-121.

