連載「単元別のつまずき研究——その単元で、生徒は実際に何をどう誤るか」全50回の第43回です。学習の仕方の目次を見る
リスニングの授業で、生徒が「今のところ、もう一度お願いします」と何度も言う。単語は知っているはずなのに、音声が流れると手が止まる。こうした場面で、教師は「語彙力が足りない」と判断しがちです。しかし、実際には語彙ではなく、音の切れ目が分からないために、知っている単語を聞き取れていないことがあります。
音声は文字と違い、単語と単語の間に空白がありません。私たちは母語では、その連続した音の流れから単語の境界を無意識に見つけ出しています。ところが外国語では、その境界を見つける手がかりが母語と異なるため、知っている単語が別の音のまとまりに聞こえてしまうのです。
今回は、英語のリスニングで「音声の切れ目が分からない」というつまずきを取り上げます。学習者が実際にどのように音を区切って誤るのか、その背景に何があるのかを整理し、机の前でできる確かめ方と練習を提案します。
要点(結論から)
- 知っている単語が聞き取れない原因の一つは、音声の切れ目を母語の流儀で探してしまうことです。
- 英語では、単語の境界は空白ではなく、強勢や音のつながり、子音の連続などの手がかりから推測されます。
- 学習者は、自分の知っている単語のまとまりに音を無理に当てはめようとして、実際とは違う区切り方をします。
結論——音の切れ目の誤りは、語彙力ではなく聞き方の癖として扱う
- 知っている単語が聞き取れない原因の一つは、音声の切れ目を母語の流儀で探してしまうことです。
- 英語では、単語の境界は空白ではなく、強勢や音のつながり、子音の連続などの手がかりから推測されます。
- 学習者は、自分の知っている単語のまとまりに音を無理に当てはめようとして、実際とは違う区切り方をします。
- このつまずきは、単語を覚え直すよりも、音の流れを短く区切って聞き直す練習で修正しやすくなります。
- 指導では「何が聞こえたか」ではなく「どこで区切って聞いたか」を尋ねることが有効です。
理由——音声の切れ目は母語の聞き方に強く引きずられる
単語の境界は音声に書かれていない
文字で書かれた英文には、単語と単語の間に空白があります。しかし、音声として流れる英語には、その空白に当たる無音が常にあるわけではありません。話し手は単語をつなげて発音し、聞き手は連続した音の中から単語の始まりと終わりを推測しなければなりません。
この推測は、母語ではほとんど意識されません。日本語でも「にわにはにわにわとりがいる」のような文を、私たちは文脈やアクセントから自然に区切って理解します。ところが、外国語ではその区切り方の手がかりが母語と違うため、同じ音の流れがまったく別の単語の並びに聞こえることがあります。
Fieldは、第二言語のリスニングにおける理解の崩れの多くが、語彙の知識不足ではなく、この「語彙の分節」と呼ばれる知覚の段階で起きていると指摘します。
Field J. Promoting perception: lexical segmentation in L2 listening. ELT Journal. 2003;57(4):325-334.
つまり、生徒が「単語が聞き取れない」と言うとき、その単語を知らないのではなく、音の流れを単語に切り分ける段階でつまずいている可能性をまず考える必要があります。
母語の聞き方が外国語の音をゆがめる
Cutlerは、私たちが音声を聞くときの処理は、母語の構造に細かく合わせて作られていると論じています。母語の語彙の成り立ちや、単語の境界を示す音の特徴、韻律の情報などを、聞き手は驚くほどの速さで同時に処理しています。
Cutler A. Native Listening. 2012.
この処理は母語では効率的ですが、外国語を聞くときには、母語向けの処理がそのまま働いてしまいます。たとえば、日本語の音節はおおむね子音と母音の組み合わせでできており、子音が連続して現れることは多くありません。そのため、英語の「next spring」のような子音の連続を、日本語の音の枠組みで区切ろうとすると、実際とは違う位置に切れ目を感じることがあります。
また、英語では内容語が強く発音され、機能語が弱く短くなる傾向があります。この強弱のパターンは、単語の境界を見つける手がかりになります。しかし、日本語の聞き方に慣れた学習者は、この強弱を単語の切れ目と結びつけて処理する経験が少ないため、弱く発音された部分を前後の単語と一体に聞いてしまいます。
誤った区切りは、知っている単語を隠す
学習者が音声を誤って区切ると、その結果として聞こえる音のまとまりは、学習者の知っている単語とは一致しません。たとえば、実際には「an ice cream」と発音されている音が、学習者には「a nice cream」のように聞こえることがあります。これは、音のつながりによって単語の境界が移動して聞こえるためです。
このとき、学習者は「ナイスクリーム」という音のまとまりを、自分の知っている単語のリストから探します。「nice」と「cream」は知っていても、文脈に合わないと感じて混乱します。あるいは、聞こえた音をカタカナで書き留めようとして、さらに実際の音から離れてしまうこともあります。
重要なのは、この誤りが「単語を知らない」ことから起きているわけではないという点です。むしろ、知っている単語を手がかりに音を区切ろうとするからこそ、実際の区切りとずれてしまうのです。指導では、このずれを「誤答」として訂正するだけでなく、どのように区切って聞いたのかを言語化させることが、つまずきの修正につながります。
誤答の例——音の切れ目をどう誤るか
| よくある誤答 | その子が考えていること | 確かめる問いかけ |
|---|---|---|
| 「a nice cream」と聞こえる | 「nice」と「cream」という知っている単語に分けようとしている | 「その後にどんな単語が続いていた? 前の文は何だった?」 |
| 「I scream」と聞こえる | 「I」と「scream」の組み合わせだと思い、文の意味を取ろうとしている | 「主語のあとに動詞が来る形? それとも名詞のまとまり?」 |
| 「next spring」が「necks spring」に聞こえる | 子音の連続を日本語の音節のように区切って聞いている | 「最初の単語は何文字で書くと思う? 最後の音は何?」 |
| 「can’t」と「can」を聞き間違える | 弱く発音された音を聞き逃し、強勢の有無で判断していない | 「否定の意味だと、後ろにどんな文が続きそう?」 |
| 「wanna」を一つの単語だと思う | 音のつながりをそのまま一つの語として覚えようとしている | 「辞書で調べるとしたら、どんなつづりで引く?」 |
机の前で1対1で確かめるときは、次の手順が有効です。
- 短い音声を一度だけ流し、生徒が聞こえた通りに声に出して再現させます。文字は見せません。
- 再現した音を、生徒自身に「単語の切れ目はどこだと思うか」と尋ね、指で机を軽く叩きながら区切らせます。
- 実際のスクリプトを見せずに、同じ音声を今度は文単位ではなく、教師が少しずつ区切って再生します。
- 生徒が誤って区切った位置と、実際の単語の境界がどこでずれたかを、音のつながりに印を付けながら確認します。
- 最後に、同じ音声をもう一度通して聞かせ、最初の再現と何が変わったかを言葉にさせます。
小学生では、まず日本語の音と英語の音の違いに気づくことから始めます。知っている英単語をカタカナで書かせると、音の切れ目が日本語の音節に引きずられている様子が見えます。中学生では、教科書の本文を使い、音声を聞きながら単語の境界に斜線を引く活動が有効です。高校生では、強勢の位置と単語の境界の関係を意識させ、弱く発音された機能語を聞き取る練習へ進みます。
よくある誤読——「聞き流せば慣れる」と「単語を増やせば解決する」
誤読その1:リスニングは量を聞けば自然に伸びる
「英語をたくさん聞いていれば、そのうち聞き取れるようになる」という考えは、現場でよく見られます。たしかに、多量の音声に触れることは、音のパターンに親しむうえで意味があります。しかし、音の切れ目を誤って聞いている学習者が、ただ量を聞くだけでは、誤った区切り方が繰り返し強化されるおそれがあります。
Fieldの主張は、リスニングの指導において、理解できたかどうかだけでなく、知覚の段階に注意を向けることの必要性です。聞き取れなかった箇所を「もう一度聞く」だけでは、学習者は同じ誤った区切り方を繰り返す可能性があります。どこで区切って聞いたのかを確認し、実際の音のまとまりと比較するという、知覚に焦点を当てた練習が必要です。
つまり、量を聞くこと自体を否定するのではなく、量を聞く前に、あるいは聞きながら、音の切れ目を意識的に修正する手立てを組み込むことが重要です。
誤読その2:聞き取れないのは語彙力の問題である
リスニングの誤りを見たとき、教師は「この単語を知らなかったから聞き取れなかった」と判断しがちです。しかし、スクリプトを見せると「この単語なら知っています」と生徒が言うことは少なくありません。この場合、問題は語彙の知識ではなく、音声からその単語を復元する経路にあります。
Cutlerの研究が示すのは、聞き手は母語の語彙構造に合わせた処理を無意識に行っているということです。外国語を聞くとき、その処理がそのまま作動するため、知っている単語であっても、母語の区切り方では到達できないことがあります。したがって、単語をさらに覚えさせるだけでは、音の切れ目の問題は残り続けます。
指導では、スクリプトを見せた後に「知っている単語だったか」と「音ではどう聞こえたか」を分けて尋ねることが有効です。この区別ができるだけでも、生徒は自分のつまずきを語彙の問題ではなく、聞き方の問題として捉え直すことができます。
今週やること——音の切れ目を可視化する3つの手順
- 教科書の本文から1文を選び、音声を聞かせて、生徒が聞こえた通りにカタカナで書き取らせます。そのカタカナ表記に、生徒が感じる単語の切れ目を斜線で入れさせます。
- 同じ文のスクリプトを見せ、実際の単語の境界と、生徒が入れた斜線の位置を比べます。ずれていた箇所について、音声をもう一度聞きながら、どの音がつながっていたかを確認します。
- ずれていた箇所だけを取り出し、教師がゆっくり発音して、生徒に単語の境界を手拍子で示させます。その後、自然な速さの音声に戻して、同じ境界が聞こえるかを確かめます。
後続の単元へ持ち越される音の切れ目の癖
音の切れ目を正しく捉えられないまま進むと、まず影響が出るのは「聞いて書き取る」活動を含む単元です。たとえば、英語のディクテーションや、日本語の聞き取りテストで、知っているはずの単語が別のまとまりに聞こえてしまい、書き取りの正答率が下がります。音声を聞いてメモを取る学習でも、切れ目の誤りが原因で、板書された語句と音声とを結びつけられないことがあります。
さらに、音読やシャドーイングを扱う単元にも持ち越されます。自分が誤った区切りで音を記憶していると、音読の際に不自然な間が入ったり、文の意味のまとまりを無視した読み方になったりします。会話練習でも、相手の発話を単語ごとに切り出せず、返答が遅れる原因になります。音の切れ目は、聞き取りの初期段階でつまずくと、その後の音声を扱うほぼすべての単元に影響を及ぼす土台の部分です。
家庭で見分けるときの確認と、かわりにしたい問いかけ
保護者の方が確認するとき、「今の聞こえた?」「何て言っていた?」と、正解を一言で答えさせようとすることがあります。この聞き方だと、子どもは聞き取れた単語を一つだけ探して答えようとし、音のまとまりを意識しにくくなります。また、「もう一度聞いてみて」と繰り返すだけでは、どこで区切ればよいか分からないまま同じ音を聞き直すことになり、苦手意識だけが強まる場合があります。
かわりに、「どこで息を継いでいた?」「どこが一つのまとまりに聞こえた?」と、音の区切りそのものを尋ねる問いかけが有効です。あるいは、「最初に聞こえた音は何?」「次に聞こえた音は何?」と、順番に区切って答えさせる方法もあります。正解の単語を当てるのではなく、音の流れを分ける作業に注目させることで、家庭でも聞き方の癖を和らげる手助けができます。
この記事で言えないこと
今回の内容は、音声の切れ目に焦点を当てたものであり、リスニングのつまずきすべてを説明するものではありません。音の聞き分けそのものが難しい場合や、文構造の処理に時間がかかる場合、背景知識が不足している場合など、別の要因が重なっていることもあります。音の切れ目だけを練習すれば、リスニング全体が改善するとは言えません。
また、ここで述べた傾向は、母語の音の仕組みが英語と異なる学習者に広く見られるものですが、すべての学習者に同じように当てはまるわけではありません。日本語を母語とする学習者の中でも、英語の音に触れた量や、音楽や外国語学習の経験によって、音の切れ目の感じ方には個人差があります。
さらに、今回参照した研究は、特定の言語の組み合わせや実験条件に基づく知見を含みます。教室での指導に応用する際には、個々の生徒の誤りを観察しながら、その生徒にとってどの手がかりが有効かを確かめることが必要です。研究の知見は、指導の出発点にはなっても、そのまま全員に当てはまる処方箋にはなりません。
当塾の立場
音の切れ目を意識して聞く練習は、特別な機材がなくても、教科書の音声と紙があれば家庭でできます。今回紹介した「聞こえた通りに書いて、切れ目を比べる」手順は、保護者の方が付き添わなくても、生徒自身で進められる部分が多くあります。まずは家庭で一度試してみて、それでもずれが直らない場合に、塾に相談していただければ十分です。
塾が担えるのは、生徒が入れた切れ目と実際の単語の境界がずれたとき、そのずれがどの音のつながりから来ているのかを、その場で音声を止めながら一緒に特定することです。たとえば、生徒が「a nice cream」と聞いた場合、実際には「an ice cream」の音のつながりであることを、口の動かし方とともに示し、同じ音のつながりを含む別の短い文で定着を図ります。このように、誤った区切りを一人で発見できない段階に限って、個別の支援が有効です。
関連する記事
出典
- Field J. Promoting perception: lexical segmentation in L2 listening. ELT Journal. 2003;57(4):325-334.
- Cutler A. Native Listening. 2012.

