毎朝、英語の音声を流している。動画も英語音声で見せている。それなのに、テストのリスニングだけ点が動かない——聞こえる量を決めるのは、音を浴びた時間ではなく、1本の音声をどこまで分解したかです。流す量を増やす前に、1本を使い切る工程を決めるほうが確実に進みます。
この記事では、音声1本を何日かけて何回、どの順で使うかを日程の形まで下ろします。あわせて「聞き取れない」を4つに切り分ける手順と、シャドーイング・書き取り・字幕をそれぞれ工程のどこに置くかを書きます。シャドーイングについては、効果を報告した研究と、その証拠がどれだけ弱いかを両方書きます。
本文には2種類の数値が出てきます。研究が報告した数値と、当塾が手順の目安として置いている数値です。混ざらないよう、そのつど区別して書きます。
この記事の結論
- 語彙が床です。 知らない語が20語に1語を超える音声は、聴く教材ではなく読む教材として扱います。研究では、95%の語を知っている状態で音声の内容がおおむね取れる、という結果が出ています。
- 「聞き取れない」は4つに分かれます。 語を知らない/語は知っているが音と結びつかない/速さについていけない/意味の処理が追いつかない。切り分けないまま回数だけ増やすと、効かない練習を繰り返すことになります。
- 新しい音声を毎日1本流すより、同じ1本を4日かけて分解するほうが工程が回ります。 通し聴きは4回、あいだに書き取りと繰り返しを挟みます。
- シャドーイングは、意味と語が分かった後に置きます。 日本の大学生を対象にした研究では、音の聞き分けは上下どちらの層でも改善したのに、リスニングの得点が上がったのは下位の層だけでした。
- 字幕は工程の後半だけです。 字幕への依存度が高い学習者ほど英語の成績が低い、という報告があります。字幕つきで同じ音声を2回以上見ないほうがよいでしょう。
まず語彙——知らない語は聞こえない
リスニングの練習を設計する前に、教材が自分の語彙に見合っているかを確かめます。スタイア(Stæhr)は、上級のデンマーク人英語学習者115名を対象に、語彙の広さと深さがリスニングの得点をどれだけ説明するかを調べました。語彙の指標だけで得点の分散の半分を説明でき、その音声を処理するには98%の語を知っている必要がある、という結果でした。
Stæhr. Vocabulary knowledge and advanced listening comprehension in English as a foreign language. Studies in Second Language Acquisition. 2009;31(4):577-607.
ただし98%は読解の研究から持ってきた数字でした。音声そのもので確かめたのがファン・ゼーラント(van Zeeland)とシュミット(Schmitt)の研究です。母語話者36名と非母語話者40名に、語の被覆率を操作した4本の語りを聴かせたところ、多くの参加者は90%でも事実関係を取れました。95%になると非母語話者の出来のばらつきが小さくなり、そこから逆算した必要語数は2,000から3,000語族で、98%を前提にした6,000から7,000語族より小さい数字でした。
ここから手順が1つ決まります。音声を選んだら、先にスクリプトを黙読してください。 知らない語が20語に1語(95%)を超えるなら、その音声を聴く練習に使うのは早い。読む教材として語を入れてから、音声に戻します。この判定は1分で終わりますし、これをやるだけで「流しても何も残らない」時間がかなり減ります。
「聞き取れない」を4つに切り分ける
同じ「聞き取れない」でも、中身は違います。切り分けの道具はスクリプトです。1回聴いたあとにスクリプトを開き、聞き取れなかった箇所に線を引いて、次の順で自問します。
- 線を引いた箇所の語の意味が分かるか。分からない語がある→①語彙の問題。
- 意味は分かるのに、音として出てこなかったか。読めば分かるが聴くと分からない→②音と語が結びついていない。
- その箇所だけ止めて聴き直すと分かるか。止めれば分かる→③速さの問題。
- 語は全部取れているのに、内容を答えられないか→④意味の処理が追いつかない。
| 症状 | 確かめ方 | 打つ手 |
|---|---|---|
| ①語を知らない | スクリプトを読んでも意味が出ない | その音声は一度離れ、語を入れてから戻る |
| ②音と結びつかない | 読めば分かるが聴くと出ない | その箇所だけ書き取り、そのあとシャドーイング |
| ③速さ | 止めれば分かる | 既習の音声で通し聴きの回数を増やす |
| ④処理が追いつかない | 語は取れるが内容が残らない | 聴く前に予測、聴きながら要点をメモ |
②が最も多く、そして最も見落とされます。フィールド(Field)は、中級の学習者が英語の音声から何を取り出しているかを調べ、機能語(前置詞・冠詞・助動詞など)の認識が内容語に比べて有意に低いことを見つけました。この差は母語や習熟度が変わっても崩れませんでした。知っているはずの短い語ほど、音の流れの中では消えます。 単語帳を増やしても②は減りません。
音声1本を4日で使い切る6工程
ここからが本題です。1本の音声を、次の6工程で使い切ります。中学生なら1回15分、高校生なら1回20分を枠として、4日に分けます。通し聴きは合計4回です。
- 1日目・字幕もスクリプトも無しで通し聴き(1回)。 聴く前に、題と設問の語を見て「何の話か」を1行だけ書きます。当てに行くのではなく、外れたことに気づくために書きます。
- 1日目・設問を解く。 時間を計ります。解き終わったら、自信の無い設問に印を付けます。ここで答え合わせはしません。
- 1日目・もう1回通し聴き(2回目)。 印を付けた設問だけを見ながら聴き、答えを直します。ここまでで1日目は終わりです。
- 2日目・スクリプトを見ながら聴く(1回)。 聞き取れなかった箇所に線を引きます。ここで前節の切り分けを行い、①〜④のどれかを線の横に書きます。
- 2日目・線を引いた箇所だけ書き取る。 1箇所につき再生は3回まで。3回で書けなければスクリプトを見て、何が消えていたのかを確かめます。全文は書き取りません。
- 3日目・線の箇所だけ繰り返す。 1箇所5回まで声に出します。②と判定した箇所だけが対象です。ここにシャドーイングを置きます(次節)。
4日目に、もう一度最初から通し聴きをして設問を解き直します(4回目)。ここで取れなかった箇所が、次に選ぶ音声の難しさを決めます。取れない箇所が3つ以上残るなら、次はもう少し易しい音声にします。
この工程の要点は、聴く回数ではなく「聴く前に予測し、聴きながら気づき、後で確かめる」という順番にあります。バンダーグリフト(Vandergrift)とタファゴドタリ(Tafaghodtari)は、フランス語を学ぶ106名を2群に分け、実験群59名には予測・計画、監視、評価、問題解決という過程をたどらせ、統制群47名には同じ教材を同じ回数だけ聴かせました。最終的な理解度で実験群が上回り、伸びが大きかったのは、もともと聴き取りが苦手だった学習者のほうでした。
Vandergrift, Tafaghodtari. Teaching L2 learners how to listen does make a difference: An empirical study. Language Learning. 2010;60(2):470-497.
同じ音声を同じ回数聴いた2つの群で差が出た、という点が重要です。違ったのは、過程に注意が向いていたかどうかだけでした。工程1の「1行の予測」と工程4の「線を引く」は、この差を家庭で再現するための最低限の仕掛けです。
書き取りは訓練ではなく診断の道具
ディクテーション(書き取り)は、やった感触が強く残るので、毎日の練習として課されがちです。しかし、練習として単独で置いたときの結果は芳しくありません。小山(Koyama)は、日本の大学生を速読訓練群24名と書き取り訓練群18名に分け、どちらにも週1回10分間の訓練を8週間行いました。書き取り群のリスニングの成績は伸びず、伸びたのは速読群のほうでした。
Koyama. Effect of English text speed reading training on English listening comprehension for Japanese university students: Comparison to dictation training. 日本教育工学会論文誌. 2009;32(4):351-.
もう少し古い研究も、書き取りの位置づけを示しています。柳原(Yanagihara)は、シャドーイングと書き取りを比べ、シャドーイングのほうが効果が大きいこと、どちらも「ただ聴くだけ」より良いこと、そしてシャドーイングは聴き取りが苦手な層に効きやすいのに対し、書き取りは苦手な層ほど効きにくいことを報告しました。
Yanagihara. A study of teaching methods for developing English listening comprehension: The effects of shadowing and dictation. Language Laboratory. 1995;32:73-.
だから当塾は、書き取りを工程5にだけ置きます。全文ではなく、線を引いた箇所だけ。目的は「書けるようにすること」ではなく、自分が何を落としているかを目で見ることです。書けなかった箇所を並べると、たいてい同じ種類の音(語尾の子音、つながって消える機能語、弱く読まれる母音)が繰り返し出てきます。それが次に直す対象になります。聴き取りが苦手な生徒に毎日の全文書き取りを課すのは、この研究の並びから見て割に合いません。
シャドーイングをどこに、どの条件で入れるか
シャドーイングは、聞こえた音声を1語分ほど遅れて追いかけて声に出す練習です。日本では広く使われていますが、効果の中身は限定的に報告されています。ハマダ(Hamada)は、日本の大学生43名に9回の授業でシャドーイングを行い、音素の知覚は下位群でも中位群でも改善したものの、リスニングの得点が上がったのは下位群だけだったと報告しました。
Hamada. Shadowing: Who benefits and how? Uncovering a booming EFL teaching technique for listening comprehension. Language Teaching Research. 2016;20(1):35-52.
同じ著者の別の研究は、伸びる部分をさらに細かく分けています。大学生36名が1か月・8回のシャドーイングを行ったところ、強勢の置かれた語を聞き分ける力と語の認識は伸びましたが、音素の聞き分けは伸びませんでした。出力への注意・訂正・明示的な説明を足した新しい手順を12名に3か月行ったときに、ようやく音素の聞き分けが改善しています。口を動かすだけでは足りず、ずれを指摘される仕組みが要るということです。
工程に落とすと、条件は5つです。
- 意味と語が分かってからやる。 工程4・5を終えた箇所だけを対象にします。意味の分からない音を追いかけても、追いかける作業だけが残ります。
- 1語分だけ遅れて追う。 文が終わってから復唱するのは別の練習です。
- 1箇所5回まで。 同じ箇所を延々と繰り返すより、別の箇所に移ります。1日の合計は1回5分を上限にします。
- 必ず声に出す。 口の形だけ動かす方法では、自分のずれが聞こえません。
- 週に1回は録音して聴き返す。 消えている語、もたついている箇所が、自分の耳で分かります。指摘してくれる人がいるなら、録音の代わりにその人に聴いてもらいます。
学年別の割り当て
工程は同じでも、教材と量は学年で変えます。下の表は当塾が置いている目安で、研究が示した数値ではありません。
| 教材 | 1回の枠 | 頻度 | 入れないもの | |
|---|---|---|---|---|
| 小学生 | 既習の短い物語・教科書付属音声 | 1回5分 | 週3回 | 書き取り・シャドーイング |
| 中学生 | 教科書本文、英検の過去問 | 1回15分 | 週4回 | 全文の書き取り |
| 高校生 | 共通テスト形式、講義・ニュース形式 | 1回20分 | 週5回 | 日本語字幕での繰り返し視聴 |
小学生
やることは1つだけです。意味が分かる音声を、聞こえた語を口に出しながら聴く。 書き取りもシャドーイングも入れません。柳原の研究が示すように、聴き取りの力が低いうちは書き取りの効きが悪く、作業だけが重くなります。スクリプトは読ませてよいので、知らない語が多すぎないものを選んでください。
中学生
教科書本文が最良の教材です。既に意味を扱った本文なら、工程1から3を飛ばして工程4・5・6から始められます。英検の過去問を使うときは、先にスクリプトを黙読して95%の判定をします。級が上がった直後は、この判定でだいたい引っかかります。そのときは前の級の音声に戻って工程を回すほうが早く進みます。
高校生
共通テストのリスニングは1回しか読まれない設問を含むので、工程1の「聴く前に1行書く」の比重が上がります。設問と選択肢に目を通し、何を待ち構えるかを決めてから再生します。二次試験や英検準1級の講義・ニュース形式では、④(意味の処理が追いつかない)が主な失点になります。この場合は語彙ではなく、聴きながら要点をメモする練習を工程3に足します。メモは単語だけ、1文につき1語までにします。
字幕をどう使うか、いつ外すか
字幕つきの視聴は理解を助けます。モンテロ・ペレス(Montero Perez)らは、大学生226名にフランス語の短い動画を見せ、無字幕70名・全文字幕81名・キーワードだけの字幕75名を比べました。全体の内容を問う設問では全文字幕群が他の2群を上回りましたが、音声を聴き直せる条件で細部を問う設問では3群に差がありませんでした。キーワードだけの字幕は、学習者から「気が散る」と評価されています。
Montero Perez, Peters, Desmet. Is less more? Effectiveness and perceived usefulness of keyword and full captioned video for L2 listening comprehension. ReCALL. 2014;26(1):21-43.
問題は、その助けが残るかどうかです。レベリッジ(Leveridge)とヤン(Yang)は、字幕への依存度を測る試験を作って高校生に実施し、依存度と英語の達成度のあいだに負の相関を見つけました。字幕に頼るほど成績が低いという関係です。因果の向きは決められませんが、少なくとも「字幕つきで見た時間」を練習量として数えるのは危ういと分かります。
日本語字幕はさらに注意が要ります。細越(Hosogoshi)は、日本語を母語とする大学1年生114名を字幕なし・英語字幕・日本語字幕の3群に分け、視聴中に使った方略を調べました。日本語字幕の群はイメージ化や要約といった方略が多く、聴解の各工程に対応する方略どうしのつながりが、他の2群より弱くなっていました。日本語字幕は聴く工程を助けるのではなく、別の工程に置き換えていると読めます。
手順としてはこうします。字幕は工程4以降でだけ使う。英語字幕は「音と綴りの対応」を確かめる用途に限り、聞き取れなかった箇所を目で確認したらすぐ消す。日本語字幕は内容の確認に1回だけ使い、同じ音声で2回以上は使わない。工程6と4日目の通し聴きは、必ず字幕なしで行います。
この記事で言えないこと
まず、ここで引いた研究の多くは大学生を対象にしています。中学生・高校生・小学生にそのまま当てはまる保証はありません。学年別の割り当ては当塾の目安であって、研究が支持した数値ではありません。
シャドーイングの証拠は、特に弱いと言っておくべきです。引いた研究の参加者は43名、36名、12名で、期間は9回の授業から3か月です。統制群を置かない設計や、「何もしない」群との比較が多く、効果量を報告していない研究も目立ちます。日本のシャドーイング研究は肯定的な結果が多いのですが、出版バイアス(うまくいかなかった研究が公表されにくいこと)の検討は十分ではありません。「シャドーイングをすれば聞こえるようになる」と読まないでください。 下位の層で、音の認識の一部に効いた、という範囲の話です。
効かない条件も並べておきます。意味の分からない音声を流し続けても、聴く力は育ちません(語彙の被覆率の研究がその理由を示しています)。字幕つきで同じ音声を繰り返し見るのも、音声の処理を育てない方向に働きます。全文の書き取りを毎日課すのは、特に聴き取りが苦手な生徒には割に合いません。そして、どの工程も、語彙が足りていない教材の上では成立しません。
伸びる速さには個人差があります。同じ工程を同じ回数こなしても、得点が動く時期は生徒によって違います。この記事は成績を保証するものではありません。
当塾の立場
ここに書いた6工程は、家で完結します。 必要なのは音声とスクリプト、それに時計だけです。教科書付属の音声と英検の過去問があれば教材も足ります。塾に通わなくてもできることは、そう書いておきます。1本を4日で使い切る形に組み替えるだけで、流していた時間の使い道は変わります。
それでも人の手が要る場面が1つあります。切り分けです。バンダーグリフトらの研究で差がついたのは、同じ音声を同じ回数聴いた2つの群のうち、過程に注意が向いていたほうでした。その注意の向け先は、自分では指しにくい。「今のは語を知らなかったのか、音と結びつかなかったのか」を、線を引いた箇所ごとに外から言ってもらえるかどうかで、次の1本の使い方が変わります。シャドーイングも同じで、ずれを指摘される仕組みが要ると研究は示しています。武蔵野個別指導塾は、この切り分けと指摘を毎回の授業で受け持ちます。工程そのものは家に返し、塾では線の横に書いた①〜④の判定を一緒に確かめます。
関連する研究の解説
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出典
- Stæhr, L. S. Vocabulary knowledge and advanced listening comprehension in English as a foreign language. Studies in Second Language Acquisition. 2009;31(4):577-607.
- van Zeeland, H., & Schmitt, N. Lexical coverage in L1 and L2 listening comprehension: The same or different from reading comprehension? Applied Linguistics. 2013;34(4):457-479.
- Field, J. Bricks or mortar: Which parts of the input does a second language listener rely on? TESOL Quarterly. 2008;42(3):411-432.
- Vandergrift, L., & Tafaghodtari, M. H. Teaching L2 learners how to listen does make a difference: An empirical study. Language Learning. 2010;60(2):470-497.
- Koyama, Y. Effect of English text speed reading training on English listening comprehension for Japanese university students: Comparison to dictation training. 日本教育工学会論文誌. 2009;32(4):351-.
- Yanagihara, Y. A study of teaching methods for developing English listening comprehension: The effects of shadowing and dictation. Language Laboratory. 1995;32:73-.
- Hamada, Y. Shadowing: Who benefits and how? Uncovering a booming EFL teaching technique for listening comprehension. Language Teaching Research. 2016;20(1):35-52.
- Hamada, Y. Developing a new shadowing procedure for Japanese EFL learners. RELC Journal. 2022;53(3):490-504.
- Montero Perez, M., Peters, E., & Desmet, P. Is less more? Effectiveness and perceived usefulness of keyword and full captioned video for L2 listening comprehension. ReCALL. 2014;26(1):21-43.
- Leveridge, A. N., & Yang, J. C. Testing learner reliance on caption supports in second language listening comprehension multimedia environments. ReCALL. 2013;25(2):199-214.
- Hosogoshi, K. Effects of captions and subtitles on the listening process: Insights from EFL learners’ listening strategies. The JALT CALL Journal. 2016;12(3):153-178.
