連載「単元別のつまずき研究——その単元で、生徒は実際に何をどう誤るか」全50回の第49回です。学習の仕方の目次を見る
「また同じところで間違えている」。答案を前にして、そう感じた経験はないでしょうか。計算ミスなのか、公式の覚え間違いなのか、それともそもそも考え方の出発点がずれているのか。正解と見比べるだけでは、その区別はなかなかつきません。
この連載ではこれまで、単元ごとに生徒がどこでどう誤るかを具体的に見てきました。しかし、実際の指導の場では、まだ名前のついていない誤りに出会うことのほうが多いものです。目の前の生徒が書いた誤答を、どう読めば「その子の考え方」にたどり着けるのか。今回はその方法を扱います。
鍵になるのは、誤答を「直す対象」ではなく「読む対象」として扱う姿勢です。生徒が書いた誤った式や答えには、その子なりの手続きが刻まれています。その手続きを再構成できれば、指導は「正解の教え直し」から「誤りの出どころへの働きかけ」に変わります。
この記事では、誤答分析という方法の基本的な考え方と、机の前で実際に使える手順をまとめます。研究が示してきた枠組みを確認したうえで、具体的な誤答例と問いかけ方を示し、最後にこの方法で言えることと言えないことを整理します。
要点(結論から)
- 誤答分析の目的は、単に「どこが違うか」を指摘することではなく、生徒がどんな手続きを実行したためにその答えに至ったかを説明することです。
- 誤りには一定の型があります。同じ単元の誤答を集めると、特定の手続きの省略や置き換えが繰り返し現れます。
- 分析の基本は、正解との差分を見るのではなく、誤答を生み出す一連の操作を逆向きにたどることです。
結論——誤答は直す前に、まず手続きとして読む
- 誤答分析の目的は、単に「どこが違うか」を指摘することではなく、生徒がどんな手続きを実行したためにその答えに至ったかを説明することです。
- 誤りには一定の型があります。同じ単元の誤答を集めると、特定の手続きの省略や置き換えが繰り返し現れます。
- 分析の基本は、正解との差分を見るのではなく、誤答を生み出す一連の操作を逆向きにたどることです。
- 「なぜそうしたのか」を問う前に、まず「どう計算したらそうなるのか」を指導者側が再現してみることが有効です。
- 誤答分析は、生徒を診断するための一方的な道具ではなく、指導者自身が教材の構造を見直す手がかりにもなります。
理由——誤答には手続きの痕跡が残るから
誤りはでたらめではなく、手続きの変形として生じる
計算問題で生徒が見せる誤りは、一見すると気まぐれな間違いに見えます。しかし、同じ生徒の答案を何枚か並べると、そこには一定の癖があることに気づきます。たとえば、繰り下がりのある引き算で、常に上の位から引くのではなく、引けるほうを引いてしまう。あるいは、分数の足し算で、分母どうし・分子どうしをそれぞれ足してしまう。こうした誤りは、その生徒が「引き算とは何か」「分数とは何か」をどう手続きとして理解しているかを映し出しています。
この考え方を早くから定式化した研究があります。生徒の誤りを「手続き上のバグ」として捉え、それを自動的に診断する仕組みを提案したものです。
BROWN J, BURTON R. Diagnostic models for procedural bugs in basic mathematical skills. Cognitive Science. 1978;2(2):155-192.
この研究が示したのは、誤りとは正しい手続きの単なる欠落ではなく、正しい手続きの一部が別の操作に置き換わった「変形」として記述できるという見方です。たとえば、筆算の繰り下がりで「隣から借りる」という操作が、「隣の数をそのまま下ろす」という操作に置き換わっている。そう考えると、誤答は「何ができないか」ではなく「何を代わりにしているか」を教えてくれます。
指導の場でこの見方に立つと、同じ誤答でも扱いが変わります。「繰り下がりを忘れている」と指摘する代わりに、「この子は繰り下がりが必要なとき、上の位の数をどう処理しているのだろう」と観察するようになります。指摘は正解への矯正ですが、観察は手続きの理解への入口です。
誤答分析は、指導者自身の教材理解も深める
誤答分析のもう一つの効用は、生徒の理解だけでなく、指導する側の教材理解を問い直すところにあります。ある誤りが多くの生徒に共通して現れるとき、それは個々の生徒の不注意というより、その単元の構造そのものに、誤りを誘いやすい分岐点があることを示しています。
数学教育における誤答分析の古典的な論文は、誤りを単なる失敗としてではなく、学習過程の情報源として位置づけました。
Radatz H. Error Analysis in Mathematics Education. Journal for Research in Mathematics Education. 1979;10(3):163.
ここで重要なのは、誤りの原因を生徒の内側だけに求めない視点です。課題の表現の仕方、それまでに学んだ手続きとの類似、記号の並び方など、教材側の要因が誤りを引き寄せることがあります。たとえば、分配法則を学んだ直後に「2(x+3)」と「2+(x+3)」を混同するのは、生徒の理解不足というより、似た形の式が並んで提示されることの影響とも考えられます。
指導者が誤答を分析するとは、生徒の頭の中を推測すると同時に、自分が提示した課題のどこに誤りの入り口があったかを点検することでもあります。この二つは切り離せません。誤答を「生徒の側の問題」として片づけてしまうと、教材の改善という選択肢が見えなくなります。
診断は「正誤の判定」から「手続きの再構成」へ
通常の採点は、答えが合っているかどうかを判定するところで止まります。しかし、誤答分析では、その先に「この答えを出すためには、どんな手続きを踏んだのか」を再構成する作業があります。この再構成ができると、指導の問いかけは具体的になります。
たとえば、方程式の移項で符号を逆にする操作を、常に逆にしてしまう生徒がいたとします。この生徒は「移項したら符号を変える」という規則を、項の移動の有無にかかわらず適用しているかもしれません。正誤の判定だけなら「符号が違う」で終わりますが、手続きの再構成をすると「この子は『移項』を『項が動くこと』ではなく『右辺と左辺をまたぐこと全般』として捉えているのではないか」という仮説が立ちます。
この仮説があれば、問いかけは「なぜ符号を変えたの?」という漠然としたものではなく、「この項は左辺から右辺に動いた? それとも動いていない?」という、手続きの区別に迫るものになります。誤答分析の価値は、このように問いかけの精度を上げるところにあります。
また、手続きの再構成は、生徒に自分の計算を説明してもらうことでも進みます。生徒が「どうやってこの答えを出したか」を口にしたとき、指導者はその説明の中に、正しい手続きとのずれを聞き取ることができます。説明がうまくできない場合は、途中式を書いてもらうだけでも、手続きの痕跡が残ります。
誤答の例——手続きを読む練習
ここでは、実際の教科内容に即して、誤答の背後にある手続きを読む例を示します。いずれも、正解との差分ではなく「その子が考えていること」に注目したものです。
| よくある誤答 | その子が考えていること | 確かめる問いかけ |
|---|---|---|
| 分数の足し算で、分母どうし・分子どうしを足す(例:2分の1+3分の1=5分の2) | 「足し算は同じ場所どうしを足す」という整数の手続きを分数にも適用している | 「2分の1って、1枚のピザを何人で分けた大きさ? 5分の2は何人で分けた大きさ?」 |
| 繰り下がりの引き算で、上の位から借りずに、大きい数から小さい数を引く(例:52−38=26) | 「引けないときは、引ける向きに直す」という独自の手続きを作っている | 「52−38は、50−30と2−8に分けられる? 2−8はどうする?」 |
| 方程式の移項で、移していない項の符号まで変える(例:x+3=7をx=−3+7にする) | 「左辺から右辺に移す」と「符号を変える」が一つの塊になっていて、項の区別が曖昧 | 「この3は、左辺から右辺に動いた? それとも左辺に残っている?」 |
| 速さの問題で、道のりと時間を逆に割る(例:10kmを2時間で進む速さを時速5kmではなく時速2kmとする) | 「速さ=時間÷道のり」という手続きが、単位の並びから作られている | 「時速5kmって、1時間で何km進むこと? 時速2kmだと1時間で何km?」 |
| 展開で、2(x+3)を2x+3とする | 「2をxにだけかける」という手続きが、分配法則の一部だけを実行している | 「2がかかっているのは、xだけ? それとも(x+3)の全体?」 |
机の前で1対1で確かめるときは、次の手順が有効です。
- 誤答を消させずに、そのまま残してもらいます。消してしまうと、手続きの痕跡が失われます。
- 「どうやってこの答えを出したか」を、途中式や言葉で説明してもらいます。正しいかどうかは、この段階では問いません。
- 説明の中から、正しい手続きとずれている操作を一つだけ取り出します。複数あっても、まず一つに絞ります。
- その操作が「どんな場面で使える操作なのか」を、具体的な例で確かめます。たとえば「分母どうしを足す」が使える場面があるか、一緒に探します。
- 正しい手続きを教えるのは、ずれが明確になってからにします。先に正解を教えると、生徒は自分の手続きを隠してしまうことがあります。
小学生の場合は、手続きを言葉で説明する力がまだ育っていないことがあります。そのため、途中式を書いてもらう、ブロックや図を使ってもらうなど、手続きが目に見える形で残る工夫が有効です。中学生は、説明はできても「たまたまそう書いた」と取り繕うことがあります。その場合は、似た問題を数問解いてもらい、同じ誤りが再現するかを見ると、手続きの有無が確かめられます。高校生は、誤った手続きがそれ以前の単元の理解と結びついていることが多いため、誤答の背後にある定義や定理の理解までさかのぼる必要があります。
よくある誤読——誤答分析を「型にはめ」にしない
誤答を分類して終わりにする誤用
誤答分析は、誤りの型を見つけることが目的になりがちです。「この子は分数の足し算で分母を足すタイプだ」と分類して、それで分析が終わった気になる。しかし、分類は出発点であって、結論ではありません。同じ「分母を足す」誤りでも、整数の足し算からの類推でそうしている子もいれば、単に手続きを覚え間違えている子もいます。
研究が示したのは、誤りを手続きの変形として記述できるということです。それは「分類のためのラベル」ではなく「その子の手続きを再構成するための枠組み」として読むべきです。分類名をつけると、その子の個別の事情が見えなくなる危険があります。大切なのは、その子がなぜその手続きを選んだのかを、その子の説明や途中式から再構成することです。
「誤答=理解不足」と短絡する誤用
もう一つの誤用は、誤答を見るたびに「この子はこの単元を理解していない」と結論づけることです。誤答の中には、その単元の理解不足ではなく、それ以前に学んだ手続きとの干渉や、問題の表現に引きずられた結果が含まれます。
たとえば、速さの問題で道のりと時間を逆に割る誤りは、速さの概念を理解していないというより、単位の見た目から「km÷時間」なのか「時間÷km」なのかを判断する手続きが未整理なだけかもしれません。誤答分析の研究が教えているのは、誤りを学習過程の情報源として読むことです。誤りは「できない証拠」ではなく「いま、どの手続きを使っているかの証拠」として扱う必要があります。
今週やること——誤答を3つ集めて、手続きを再構成する
- 同じ生徒の誤答を、できれば同じ単元から3つ集めます。教科書や問題集の解き直しでも、学校のテストの見直しでも構いません。
- それぞれの誤答について、「どう計算したらこの答えになるか」を自分で再現してみます。再現できない場合は、生徒に途中式を書いてもらいます。
- 3つの誤答に共通する操作があるかを見ます。共通する操作が見つかったら、それが「その子の手続き」の候補です。見つからなければ、単元をまたいで同じ種類の誤りがないかを探します。
この記事で言えないこと
第一に、誤答分析は誤りの原因を一意に特定する方法ではありません。同じ誤答でも、そこに至る手続きは生徒によって異なります。分析から得られるのは、あくまで「その子の手続きの候補」であり、確定的な診断ではありません。候補を確かめるには、問いかけや追加の問題で検証する作業が必要です。
第二に、この記事で紹介した研究は、主に基礎的な計算技能を対象にしたものです。文章題の立式や証明の構築など、手続きが複数に分岐する課題では、誤答の背後にある手続きを一つに絞ることが難しくなります。また、研究で分析された誤りの型が、現在の日本の教科書や指導順序にそのまま当てはまるとは限りません。
第三に、誤答分析は生徒の情意面を扱いません。同じ誤りでも、自信を失っている生徒と、急いで解いただけの生徒では、指導の優先順位が変わります。誤答を読むことは、生徒を理解するための一つの窓にすぎません。それだけで学習の全体を判断することはできません。
当塾の立場
ここまでに述べた誤答分析の手順は、家庭でも十分に試せます。必要なのは、誤答を消さずに残すこと、途中式を書いてもらうこと、そして「どうやったらそうなるか」を一緒に再現することです。特別な教材も、専門的な知識も要りません。まずは、お子さんの答案を前にして、正誤の判定をいったん脇に置くことから始められます。
そのうえで、塾が担える部分があるとすれば、それは「再現した手続きを、単元の構造の中で位置づける」作業です。たとえば、分数の足し算で分母を足してしまう手続きが、小数の足し算や文字式の足し算とどうつながっているか。あるいは、その手続きがいつ作られ、どの単元で強化されたのか。個別指導では、一人の生徒の誤答を長い期間にわたって蓄積し、単元をまたいだ手続きの癖を追うことができます。家庭での分析に行き詰まったとき、その蓄積を一緒に読み解くのが当塾の役割だと考えています。
関連する記事
出典
- BROWN J, BURTON R. Diagnostic models for procedural bugs in basic mathematical skills. Cognitive Science. 1978;2(2):155-192.
- Radatz H. Error Analysis in Mathematics Education. Journal for Research in Mathematics Education. 1979;10(3):163.

