連載「単元別のつまずき研究——その単元で、生徒は実際に何をどう誤るか」全50回の第50回です。学習の仕方の目次を見る
「うちの子は、式は合っているのに答えが合わない」「説明すると分かったと言うのに、翌週には同じ間違いをする」。個別指導の面談で、保護者の方からこうした声を聞くことは少なくありません。単元テストの点数だけを見ても、その裏で何が起きているのかは見えにくいものです。
この連載では、算数・数学を中心に、各単元で生徒が実際にどのような誤り方をし、その背後にどんな考え方があるのかを追ってきました。第50回となる今回は、これまでの内容を総括します。個々の単元の誤答を並べるだけでなく、つまずきをどう見つけ、どう直すかという手順そのものを整理します。
具体的には、誤答を「単なるケアレスミス」で片づけず、その子なりの一貫した考え方として読み取る方法を示します。そのうえで、机の前で1対1の対話を通じて、考え方の枠組みをゆるやかに組み替えていく手順を提案します。最後に、研究知見を教育現場で使う際の注意点と、この記事では言えない限界についても触れます。
要点(結論から)
- つまずきの本体は、答えの間違いではなく、その子が「当然そうなるはずだ」と思っている考え方の枠組みにあります。
- 単元別の誤答は、単元ごとに別々の知識不足として扱うより、いくつかの共通する思考の癖として整理できます。
- 直し方の基本は、正しい解法を教え込むことではなく、今の考え方では説明できない場面を本人に体験させることです。
結論——つまずきは誤答の形ではなく考え方の枠組みとして捉える
- つまずきの本体は、答えの間違いではなく、その子が「当然そうなるはずだ」と思っている考え方の枠組みにあります。
- 単元別の誤答は、単元ごとに別々の知識不足として扱うより、いくつかの共通する思考の癖として整理できます。
- 直し方の基本は、正しい解法を教え込むことではなく、今の考え方では説明できない場面を本人に体験させることです。
- 1対1の対話では、誤答を直す前に「どうしてそう考えたのか」を先に聞くことが、その後の修正を大きく左右します。
- 研究知見は「こうすれば必ず直る」という処方箋ではなく、観察の解像度を上げるための道具として使うのが適切です。
理由——つまずきは知識の欠落ではなく、別の一貫した説明体系から生まれる
誤答の背後には、その子なりの安定した説明がある
連載を通じて繰り返し見えてきたのは、多くの誤答が「何も考えていない」のではなく、むしろ「その子なりに筋の通った説明」から生まれているという事実です。たとえば、速さの問題で「速いほうが時間がかかる」と答える生徒は、速さと時間の関係を理解していないのではなく、日常生活の「速く動くほど長い距離を進む」という経験則を、時間にもそのまま当てはめています。
このように、誤答はしばしば、限られた場面ではうまく機能してきた日常的な説明体系の延長線上にあります。だからこそ、正しい公式を横に置いて「これを使いなさい」と言うだけでは、その説明体系は揺らぎません。生徒にとっては、自分の考えのほうが経験に根ざしていて自然に感じられるからです。
概念変化の研究は、小学生が物質についての巨視的な理解を築くために、単なる知識の追加ではなく、概念の広いネットワークの組み替えを必要とすることを指摘しています。重さ・体積・密度・固体・液体・気体といった概念は、互いに関係しながら変化していくものであり、その深さと広がりは教育の側が常に十分に認識してきたとは言えません。
International Handbook of Research on Conceptual Change. 2013.
この指摘は、算数・数学のつまずきにも通じます。たとえば「分数のわり算はひっくり返してかける」という手続きだけを覚えても、その背後にある「わり算とは何か」「分数とは何か」という概念のつながりが変わらなければ、文章題で使える知識にはなりません。つまずきを直すとは、一つの公式を差し替えることではなく、関連する概念のまとまりを少しずつ編み直すことなのです。
頑固な誤りは、プロセスの種類を取り違えていることが多い
もう一つの重要な理由は、誤りの中でも特に修正されにくいものには、共通の構造があるという研究知見です。ある種のプロセスは「直接的な流れ」として理解されやすく、別のプロセスは「多数の要素の相互作用から結果が立ち現れる創発的な流れ」として理解する必要があります。
Chi M. Commonsense Conceptions of Emergent Processes: Why Some Misconceptions Are Robust. Journal of the Learning Sciences. 2005;14(2):161-199.
この研究は、血液の循環のような直接的なプロセスと、水の中での色素の拡散のような創発的なプロセスでは、誤概念の頑固さが異なることを論じています。直接的なプロセスの誤りは、同じ種類の考え方のなかでの修正で済むため比較的直りやすい一方、創発的なプロセスを直接的なプロセスとして誤って捉えている場合は、考え方の種類そのものを移し替える必要があるため、修正が難しくなります。
これを算数・数学に置き換えると、たとえば「確率」の誤りが分かりやすい例です。サイコロを何度も振って、特定の目が続けて出たあと「そろそろ別の目が出るはずだ」と考える生徒は、確率を「出目を調整する直接的な力」のように捉えています。しかし確率は、多数の試行のなかから全体的な傾向が立ち現れる創発的なプロセスです。この取り違えがあると、「確率はあくまで目安」と説明されても、その説明が生徒の枠組みに入る場所がありません。
だから、正解の提示より「考えの可視化」が先になる
以上の二つの理由から、つまずきを直す手順は「誤答を見つける→正解を教える」ではなく、「誤答を生んだ考えを聞き出す→その考えでは説明できない例を示す→新しい枠組みを一緒に作る」という流れになります。これは時間がかかる手順です。しかし、考えの枠組みが変わらないまま正解の手続きだけを上書きしても、テストが終われば元の考え方に戻ってしまうことは、多くの指導者が経験しているはずです。
個別指導の利点は、この「聞き出す」工程に十分な時間を割けることです。一斉授業では、誤答の背景を一人ひとりから丁寧に引き出すことは難しい場面があります。しかし1対1であれば、生徒が「なぜそう考えたのか」を言葉にするのを待つことができます。この待つ時間こそが、つまずきの修正にとっては最も重要な資源です。
また、考えを可視化する際には、生徒の発言を「正しいか間違いか」で即座に判定しないことが大切です。まずは「なるほど、そう考えたのか」と受け止め、その考えがどのような場面で成り立ち、どのような場面で破綻するのかを、生徒自身が確かめられるように問いを組み立てます。この過程で、生徒は自分の考えを外から眺める視点を獲得していきます。
誤答の例——「割合」をめぐる典型的なつまずきと確かめ方
| よくある誤答 | その子が考えていること | 確かめる問いかけ |
|---|---|---|
| 「定価の3割引」を、定価から3を引く | 「割」は「引く数」のような、そのまま使える量だと思っている | 「定価が100円のとき、3割引はいくらになると思う?」 |
| 「20%の食塩水」を、水100に対して食塩20を混ぜたものだとする | 百分率を「全体100に対する量」ではなく「水100に対する量」と捉えている | 「食塩水全体は、水と食塩を合わせていくつになる?」 |
| 「AはBの5割増し」を、Bの5倍と計算する | 「5割」を「5倍」と同じような強い表現だと感じている | 「1割増しと10割増しは、それぞれ何倍になると思う?」 |
| 割合の文章題で、どの数をどの数で割ればよいか毎回迷う | 「もとにする量」と「比べる量」の関係が、言葉の上だけでしかつかめていない | 「この問題で、『全部』にあたるのはどの数?『そのうちの一部』はどの数?」 |
| 「3割引で買ったら得をした」という文を、割合の計算なしで判断する | 割合を、計算する対象ではなく、日常の「お得感」を表す言葉としてだけ使っている | 「定価が100円のときと1000円のとき、3割引で安くなる金額は同じかな?」 |
机の前で1対1で確かめる手順は、次のようになります。
- まず、問題を解かせるときに「式と答え」だけでなく「なぜそうしたのか」を口頭で説明してもらいます。このとき、説明の正しさは評価せず、最後まで聞きます。
- 次に、その説明の中に出てきた言葉を一つ取り上げて、具体的な数に置き換えて確認します。たとえば「3割引」なら「100円のときはいくらになる?」と、計算しやすい整数の例で問います。
- 生徒の答えが元の誤答と同じ考え方に基づいている場合は、別の例を出して「その考えだと、こっちの場合はどうなる?」と、考えの適用範囲を広げてみせます。
- 考え方の破綻が生徒自身に見えたところで、「では、割合の『割』は何を表しているのだろう」と、定義に立ち返る問いを投げます。
- 最後に、最初の問題をもう一度解いてもらい、考え方が変わったかどうかを、式ではなく説明の言葉で確認します。
小学生の場合は、具体的な金額や個数を使った例から入ることが欠かせません。抽象的な「もとにする量」という言葉を先に教えると、言葉の定義を覚えることが学習の目的になってしまいます。中学生では、文字式や比例の考え方と結びつけて、割合を「何倍になっているか」という一つの数として扱う練習が有効です。高校生では、割合の誤りが指数・対数や統計の理解に波及することがあるため、単元をまたいだ確認が必要になります。
よくある誤読——研究知見を「誤りの分類表」として使ってしまう
誤読その1:誤概念のリストを作って、生徒を当てはめることが目的になる
概念変化や誤概念の研究は、多くの場合、特定の単元でどのような誤りが典型的に見られるかを記述しています。この記述を「誤答パターン一覧」として使うと、生徒の誤りを素早く分類できるように感じられます。しかし、これは研究知見の使い方として本末転倒です。
研究が示しているのは「このような誤りが存在する」という事実であり、「この誤りをした生徒は、このカテゴリーに属する」という診断ではありません。同じ「3割引で3を引く」という誤答でも、ある子は「割」を量として捉えているかもしれませんし、別の子は単に「割引」という言葉を初めて聞いて、手がかりになる数字を拾っただけかもしれません。分類は観察の出発点であって、観察の代替物ではないのです。
正しい読み方は、研究知見を「この単元では、こういう考え方の枠組みが誤答の背景にあることが多い」という仮説として持つことです。そして、実際に目の前の生徒がその仮説に当てはまるかどうかを、対話を通じて確かめます。仮説が外れていれば、それはそれで貴重な情報です。その子は別の枠組みを持っていることが分かるからです。
誤読その2:「考え方の種類を移し替えれば直る」を「一度の説明で直る」と短絡する
創発的なプロセスを直接的なプロセスとして誤って捉えている場合、修正には考え方の種類を移し替える必要がある、という研究知見があります。これを「正しい考え方を一度説明すれば、生徒はその場で移し替えられる」と読むのは誤りです。
考え方の枠組みは、長い時間をかけて日常の経験から形成されてきたものです。それを移し替えるには、新しい枠組みが「今までの考え方よりもうまく説明できる」と生徒自身が納得する経験を、複数の場面で積み重ねる必要があります。一度の説明で「分かった」と言うのは、多くの場合、新しい言葉をその場で理解したという意味であって、枠組みが移ったという意味ではありません。
正しい読み方は、修正を「一度の出来事」ではなく「複数の単元をまたぐ過程」として捉えることです。割合の誤りが、速さや濃度、確率の学習でも繰り返し現れるのは、その子のなかで「全体と部分の関係」を捉える枠組みがまだ移行の途中だからです。指導者は、単元ごとに完結する修正を目指すのではなく、同じ枠組みが別の単元でどう現れるかを長い目で観察する姿勢が求められます。
今週やること——つまずきの記録を「考え方のメモ」に変える
- 今週の学習で、生徒が間違えた問題を一つ選び、その場で「どうしてそう考えたの?」と聞いて、説明をそのまま記録します。正誤の判定は書きません。
- 記録した説明を読み返し、「この子は何を当然だと思っているか」を一文で書きます。たとえば「割は引く数だと思っている」のように、考えの内容を言葉にします。
- その考え方ではうまくいかない、別の具体的な例を一つ用意して、次の指導で試します。そのとき、正しい解法はまだ教えず、生徒が自分の考えの限界に気づくのを待ちます。
この記事で言えないこと
第一に、この記事で示した手順は、すべての生徒に同じ効果をもたらすとは限りません。つまずきの背景にある考え方の枠組みは、生徒の年齢やこれまでの学習経験、日常での経験によって大きく異なります。ある子には有効な問いかけが、別の子には通じないこともあります。手順を固定して「この通りにやれば直る」と考えることはできません。
第二に、ここで参照した研究知見は、主に概念変化と誤概念の一般的な性質を扱ったものです。特定の単元について、特定の指導法の効果を数値で示したものではありません。したがって、この記事の内容から「この指導法が他の指導法より優れている」といった比較の結論を導くことはできません。あくまで、つまずきを観察する際の視点として読んでいただく必要があります。
第三に、この記事では触れていない要因が多くあります。学習意欲、家庭での学習習慣、学校の授業との相性、認知的な特性など、つまずきには多様な背景があります。考え方の枠組みに注目するアプローチは、その一部を照らすものにすぎません。特に、強い苦手意識や学習への不安がある場合は、考え方の修正以前に、学習そのものへの信頼を回復する段階が必要になることもあります。
当塾の立場
ここまで述べてきた「誤答の背景を聞き出す」という作業は、実はご家庭でも十分に始められます。お子さんが間違えた問題について、正解を教える前に「どうしてそう考えたの?」と聞くだけで、つまずきの見え方は大きく変わります。特別な教材も、専門的な知識も必要ありません。まずは、間違いを責めずに、考えを話してもらう時間を取ることから始めていただきたいと思います。
そのうえで、塾が担える部分があるとすれば、それは「聞き出した考えを、次の問いにつなげる設計」です。たとえば、お子さんが「割は引く数だと思っている」と話したとき、その考えがどのような場面で成り立ち、どのような場面で破綻するのかを、お子さんの反応に合わせて段階的に提示する作業は、ある程度の経験と単元をまたいだ見通しを必要とします。当塾では、この連載で扱ってきたような単元別のつまずきの記録を蓄積し、一人ひとりの考え方の変化を長い期間で追いながら、次の問いを組み立てることを指導の中心に据えています。
関連する記事
出典
- International Handbook of Research on Conceptual Change. 2013.
- Chi M. Commonsense Conceptions of Emergent Processes: Why Some Misconceptions Are Robust. Journal of the Learning Sciences. 2005;14(2):161-199.

