連載「学びの意思決定——行動経済学・社会学・認知心理学から考える」全50回の第40回です。学習の仕方の目次を見る
ここまで39回にわたって、判断の歪み、社会的な条件、記憶のしくみ、練習の設計を扱ってきました。第4ブロックの最後に、それらを方略の一覧としてまとめます。使えるものは限られており、しかも順位がついています。
有名なモノグラフが、10の学習技法を取り上げ、相対的な有用性について推奨を示しました。結論には意外な点があります。広く使われている方法ほど、評価が低いのです。
要点(結論から)
- 10の学習技法が、証拠の量と適用範囲をもとに評価された。
- 高い有用性と評価されたのは、練習テストと分散学習の2つだった。
- 中程度は、精緻化質問、自己説明、交互練習。
結論——よく使われる方法ほど、評価は低い
- 10の学習技法が、証拠の量と適用範囲をもとに評価された。
- 高い有用性と評価されたのは、練習テストと分散学習の2つだった。
- 中程度は、精緻化質問、自己説明、交互練習。
- 低い有用性は、要約、下線引き、語呂合わせ、文章のイメージ化、再読。
- 低いと評価された方法の多くは、生徒が最もよく使っているものである。
理由——評価の基準と結果
何を基準に評価したのか
ダンロスキーらは、認知心理学と教育心理学の知見から、生徒が実際に使える学習技法を選び、その相対的な有用性を評価しました。
Dunlosky J, Rawson KA, Marsh EJ, Nathan MJ, Willingham DT. Improving Students’ Learning With Effective Learning Techniques: Promising Directions From Cognitive and Educational Psychology. Psychological Science in the Public Interest. 2013;14(1):4-58.
選定の基準の一つは、多くの生徒が採用できることでした。特別な訓練や設備を要する方法は、有効でも普及しません。取り上げられた10の技法には、下線引きのように広く使われているものも含まれています。
評価にあたっては、学習者の条件、材料の種類、課題の種類、評価の指標といった観点で、適用範囲の広さが検討されました。特定の条件でしか効かない方法は、評価が下がります。
順位
高い有用性と評価されたのは、練習テストと分散学習の2つです。どちらも、この連載で繰り返し扱ってきました。前者は第24回と第29回、後者は第34回に対応します。
中程度と評価されたのは、精緻化質問(なぜそうなるのかを問う)、自己説明、交互練習です。第25回、第36回、第32回で扱った内容と重なります。
低い有用性と評価されたのは、要約、下線引き、語呂合わせ、文章のイメージ化、再読です。このうち下線引きと再読は、多くの生徒が主要な勉強法として使っています。
具体例——置き換えの表
| いまやっていること | 評価 | 置き換え先 |
|---|---|---|
| 教科書を読み返す | 低い | 白紙に書き出す(練習テスト) |
| 蛍光ペンを引く | 低い | 引いた理由を余白に書く/問いを作る |
| ノートにまとめ直す | 低い | まとめずに解く。まとめるなら自分の言葉で |
| 一気に詰め込む | — | 同じ量を分けて配る(分散学習) |
| 同じ単元を続けて解く | — | 混ぜて解く(交互練習) |
左列はいずれも、手を動かしている実感があります。だからこそ続けられてきました。第32回で述べたとおり、手応えと効果は逆を向くことがあります。
今日からできること
- 再読を、書き出しに置き換える。 同じ時間で、残る量が変わります。
- 詰め込みを、分けて配る形にする。 総量は変えません。
- 下線を引いたら、必ず一手間足す。 引くだけでは処理が浅いままです。
- まとめノートを作る時間を測る。 費用に見合っているかを確認します。
- 上位2つを軸にする。 迷ったら、テスト形式と分散。この2つは外れません。
学年で変えるところ
- 小学生——分散が最も実行しやすい方法です。毎日少しずつという形が、そのまま分散になります。
- 中学生——下線引きとまとめノートに時間を使いやすい時期です。置き換えの効果が最も大きく出ます。
- 高校生——範囲が広く、再読では追いつきません。練習テスト形式への切り替えが必要になります。
練習テストとは、何をすることか
最も評価の高い方法である練習テストは、名前から受ける印象より広い作業を指します。模擬試験を受けることだけではありません。
次のものは、いずれも練習テストです。
- 白紙に書き出す。 教材を閉じて、覚えている内容を書きます。最も手軽な形です。
- 単語カードで答える。 裏を見る前に、自分で答えを言います。
- 章末問題を解く。 解説を見る前に解けば、テストとして機能します。
- 自分で作った問いに答える。 第36回で扱った作業と組み合わせられます。
- 人に説明する。 第37回で扱った作業も、取り出しを含みます。
共通しているのは、答えを見る前に取り出すことです。逆に、見ながら確認する作業は、どれだけ丁寧でも練習テストにはなりません。
この区別は、実行の可否を大きく変えます。特別な教材は要らず、いま持っている教材を閉じるだけで成立するからです。
上位2つを組み合わせる
練習テストと分散学習は、別々に使うより組み合わせたほうが効きます。組み合わせた形は単純です。間を空けて、テスト形式で確認する。
実務的な運用の例を挙げます。新しい単元を学んだ日に、教材を閉じて要点を3つ書き出す。翌日、同じ3つを思い出せるか試す。数日後にもう一度。1週後にさらに一度。所要時間は1回あたり数分です。
この形には、副次的な利点もあります。テストの結果が記録として残るため、第33回で扱った較正の材料になります。何ができていないかが、感覚ではなく件数で分かります。
そして、記録が残ると配分の判断ができます。できなかった項目に時間を寄せる。第27回で述べたとおり、範囲全体から均等に取り出したうえで、落ちた項目を集め直す。ここまでが一続きの運用になります。
評価の低い方法が、なぜ広く使われるのか
理由は、この連載で何度も出てきました。手応えが良いからです。
再読すると、内容は分かります。下線を引くと、重要な箇所を把握した気になります。まとめノートを作ると、時間をかけた分の達成感があります。いずれも、第33回で述べた流暢さと、第32回で述べた遂行の向上をもたらします。
一方、練習テストは苦痛です。書けない部分が可視化されます。分散学習も、忘れている状態から始めるので手応えが悪い。だから選ばれません。
この構造を理解しておくと、方法を選ぶ基準を変えられます。気分が良い方法ほど疑う。 乱暴な基準ですが、実務的にはよく当たります。
「低い有用性」は「無効」ではない
誤読を避けるために補足します。低い有用性という評価は、その方法に効果がないという意味ではありません。適用範囲が狭い、あるいは他の方法に比べて効果が小さいという評価です。
たとえば要約は、書く技術としての訓練にはなります。語呂合わせは、順序のある事項を覚える場面では有効です。イメージ化も、特定の材料では働きます。
問題は、これらを主要な勉強法として使うことです。限られた時間の大半を、適用範囲の狭い方法に使ってしまう。配分の問題として捉えるのが正確です。
また、下線引きも、引いた後に一手間を足せば意味を持ちます。引いた理由を書く、引いた箇所から問いを作る。第36回で扱った作業に接続すれば、入口として機能します。
第4ブロックのまとめ——練習を設計する
ここで第4ブロックを閉じます。10回で扱ったのは、誤りの分類、望ましい困難、較正、過剰学習と分散、足場かけ、問いを作る、教えることで学ぶ、例題と段階、認知のオフロード、そして方略の一覧でした。
通して見ると、共通する構造があります。やり方の良し悪しは、その場の手応えでは判定できないということです。誤りは種類を分けて初めて対処でき、困難は後になって効き、較正は時間を空けて測り、方法の評価は長期の保持で決まります。
もう一つの共通点は、段階によって正解が変わることです。入口では例題と支援が要り、定着すると同じものが邪魔になります。方法を一つに決めて通そうとすると、どこかで必ず合わなくなります。
したがって、第4ブロックの実務的な結論は次の2点です。判定は時間を空けて行う。方法は単元ごとの段階で選ぶ。この2つを守れば、残りの細部は自分の記録で決められます。
月曜から、最初の週だけ試すなら
40回分の内容を一度に導入することはできません。まず最初の週だけ試すとしたら、次の形が現実的です。
- 毎日、前日の内容を3つ書き出す。 教材は閉じたまま。5分で終わります。練習テストと分散を同時に満たします。
- 宿題は、答えを見る前に必ず手を動かす。 分からなくても1行書いてから解説へ。生成の機会を作ります。
- その日の最後は、確実にできるもので終える。 第9回の終わり方の設計です。翌日の抵抗が下がります。
- 机の上を、今日使う1冊だけにする。 第7回の環境設計です。
4つとも、追加の時間はほとんどかかりません。既にやっている勉強の、順序と形式を変えるだけです。その週を通して続け、翌週に前週の内容を確認する。効いたかどうかは、そこで分かります。
よくある失敗——方法を増やしてしまう
効果的な方法を知ると、全部取り入れたくなります。しかし、方法を増やすと1つあたりの時間が減り、どれも中途半端になります。
第30回の最後で述べたとおり、複数の原則は1つの手順で同時に満たせます。範囲から選び、白紙に書き、図にし、間を空けて繰り返す。この一続きの作業に、練習テスト、分散、生成、二重符号化が含まれています。
したがって、増やすべきは方法の数ではなく、その1つの手順を実行する回数です。新しい方法を探す時間があるなら、既知の方法を1回多く実行するほうが確実です。
保護者ができること——勉強の「様子」を見る
家庭で確認できるのは、内容ではなく作業の様子です。次の3点は、見れば分かります。
- 教材を開いたままか、閉じているか。 閉じて書いているなら、練習テストの形です。
- 同じ日に同じ単元ばかりやっていないか。 分散と交互練習の確認です。
- 色を塗る時間が長くないか。 装飾に時間が流れていないかを見ます。
いずれも、指摘ではなく質問の形で伝えるほうが受け入れられます。「閉じてやってみたらどう?」という提案であれば、押し付けになりません。
効く方法が、なぜ普及しないのか
上位2つの方法は、特別な費用も道具も要りません。それなのに広く実行されていないのはなぜか。理由は3つ考えられます。
第一に、手応えが悪いこと。すでに述べたとおりです。第二に、知られていないこと。学習法は学校で明示的に教えられることが少なく、経験則として受け継がれます。第三に、効果が見えるまで時間がかかること。第34回で述べたとおり、差が出るのは数週間後です。
3つ目が、導入を最も難しくしています。新しい方法を始めて、数日で効果が見えなければ、人は元の方法に戻ります。第10回で述べたとおり、行動を続けさせるのは遠い報酬ではなく近い手応えです。
したがって、導入を成功させるには、効果とは別に続けるための仕組みが要ります。記録をつける、日数を数える、確認の日を先に決めておく。第1ブロックで扱った設計が、ここで必要になります。良い方法を知ることと、それを続けることは、別の問題です。
部活や習い事の上達にも同じ序列がある——方略の優先順位
勉強の方法に順位があるという考え方は、部活動や習い事の練習にも当てはめて考えられます。たとえば楽器の練習で、うまく弾けない箇所を最初から最後まで通して弾き続ける方法は、よく使われますが、上達への効率は高くないことがあります。代わりに、弾けない一小節だけを取り出し、ゆっくり確かめながら繰り返す方法が考えられます。
この「一部分を取り出して確かめる」練習は、勉強でいう練習テストと近い性格を持っています。通し練習では間違えても流れてしまいますが、一部分を切り出すと、どこでつまずいているかが自分で分かります。分かった時点で、次に直すべき箇所が定まります。
スポーツでも、試合形式の練習と基本の反復を組み合わせる場面が考えられます。基本の反復だけでは判断する場面が生まれず、試合形式だけでは型が定まりにくいことがあります。両方を交互に置くことで、それぞれの弱点を補い合えると考えられます。
このように、よく使われる練習法ほど効果が高いとは限らないという視点は、勉強以外の場面でも自分の練習を見直す手がかりになります。どの練習が今の自分に必要かを、時々確かめてみることが役立ちます。
一覧を見ても選べない——多すぎて手が止まる
効果が高いとされる方法を試そうとすると、あれもこれもと手を広げてしまい、どれも続かないことがあります。方法を増やすほど、一つあたりにかける時間が減り、効果を実感しにくくなります。まずは一つだけ選び、一定期間続けてから次を検討するほうが現実的です。
つまずきやすいのは、効果の高い方法を始めた直後に、手応えのなさを感じてやめてしまう点です。練習テストのように、思い出す作業を伴う方法は、最初のうちは負担が大きく、できるようになった実感が得にくいことがあります。効果が現れるまでには時間がかかることがあります。
また、評価の低い方法を完全に捨てようとしてしまうこともあります。実際には、そうした方法にも場面によっては役立つことがあり、すべてを置き換える必要はありません。中心にする方法を決め、残りは補助として残す考え方が現実的です。
さらに、方法を変えるタイミングを誤ると、せっかく身につきかけた習慣が途切れることがあります。単元の区切りや定期テストの前後など、区切りのよい時点で見直すと、切り替えの負担が小さくなると考えられます。
この記事で言えないこと
この評価は、2013年時点の証拠に基づくものです。その後の研究で、評価が変わりうる技法もあります。また、評価は相対的なものであり、絶対的な効果量を示すものではありません。
さらに、対象は主に英語圏の研究です。日本語の材料、日本の試験形式での有効性が同じとは限りません。特に、漢字の習得や国語の記述式については、別の検討が必要です。
当塾の立場
上位2つ——テスト形式と分散——は、道具も費用も要りません。今日から家庭で実行できます。この連載の実務的な結論は、ほとんどこの2つに集約されます。
武蔵野個別指導塾で行っているのは、この2つを授業の構造に組み込むことです。毎回の冒頭に前回の内容を予告なく確認する(テスト形式と分散)。宿題は1回でまとめず、日を分けて出す(分散)。生徒が下線を引いていたら、引いた理由を1行書かせる。特別なことはしていません。評価の高い方法を、続く形で実行しているだけです。
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出典
- Dunlosky J, Rawson KA, Marsh EJ, Nathan MJ, Willingham DT. Improving Students’ Learning With Effective Learning Techniques: Promising Directions From Cognitive and Educational Psychology. Psychological Science in the Public Interest. 2013;14(1):4-58.

