連載「学びの意思決定——行動経済学・社会学・認知心理学から考える」全50回の第37回です。学習の仕方の目次を見る
人に教えると自分がいちばん勉強になる。この経験則は広く共有されていますが、研究はもう一歩踏み込んでいます。教えるつもりで準備するだけでも効果があるのか、それとも実際に教えることが必要なのか。この2つを分けて比べた実験があります。
また、自分のためには頑張れない生徒が、誰かのためなら頑張るという現象も報告されています。教えることの効果は、認知的な側面だけではないようです。
要点(結論から)
- 教えることによる学習の効果は、教える期待と実際に教えることに分けて検討されている。
- 教えるつもりで準備する段階でも、内容の扱い方が変わる。
- ただし、実際に説明する作業には、準備だけでは得られない要素が加わる。
結論——準備だけでも効くが、実際に教えるほうが強い
- 教えることによる学習の効果は、教える期待と実際に教えることに分けて検討されている。
- 教えるつもりで準備する段階でも、内容の扱い方が変わる。
- ただし、実際に説明する作業には、準備だけでは得られない要素が加わる。
- 誰かのために学ぶという設定は、学習への努力を高めうることが報告されている。
- 実務的には、説明する相手と機会を、あらかじめ作っておくことが要点になる。
理由——2つの要素を分けて測る
期待と実行を分ける
フィオレラとメイヤーは、教えることによる学習を、2つの要素に分けて比較しました。教えることを期待して準備する段階と、実際に教える段階です。
Fiorella L, Mayer RE. The relative benefits of learning by teaching and teaching expectancy. Contemporary Educational Psychology. 2013;38(4):281-288.
この設計が重要なのは、実務的な含意が変わるからです。準備だけで足りるなら、相手は要りません。実際に教えることが必要なら、相手を確保する必要があります。
考えられる仕組みとしては、準備の段階では内容の整理が起こり、実際に説明する段階では取り出しと生成が起こる、という区別ができます。第29回で述べたとおり、取り出す作業は記憶を変えます。
「誰かのために」という設定
チェイスらは、生徒が指導する対象——教えられる側のソフトウェア——を用いた研究で、プロテジェ効果を扱いました。自分のためより、教える相手のためのほうが、学習への努力が高まるという現象です。
Chase CC, Chin DB, Oppezzo MA, Schwartz DL. Teachable Agents and the Protégé Effect: Increasing the Effort Towards Learning. Journal of Science Education and Technology. 2009;18(4):334-352.
この効果が示唆するのは、教えることの利点が認知面だけではないということです。動機づけの面でも働いている可能性があります。自分の失敗は受け入れがたいが、相手のために調べ直すことはできる、という構造です。
具体例——教える機会をどう作るか
| 形 | 準備 | 実行 | 手軽さ |
|---|---|---|---|
| 友人に説明する | あり | あり | 相手が要る |
| 家族に説明する | あり | あり | 相手は内容を知らなくてよい |
| 年下のきょうだいに教える | あり | あり | 相手の理解度に合わせる負荷が高い |
| 誰もいない場所で声に出す | あり | 擬似的 | いつでもできる |
| 説明を紙に書く | あり | 擬似的 | 記録が残る |
下2つは相手がいなくても成立します。実際に人に話す場合と完全に同じではありませんが、取り出しと生成は起きます。相手がいないことを理由にやらないより、はるかに有効です。
今日からできること
- 今日習ったことを、1つだけ誰かに説明する。 3分で構いません。
- 相手がいなければ、声に出して説明する。 黙って頭の中で確認するのとは、起きる処理が違います。
- 「教えるつもり」で読む。 読む前に、後で説明すると決めておくと、読み方が変わります。
- 説明で詰まった箇所を記録する。 そこが弱点です。第33回で扱った較正の材料になります。
- 相手の質問に答えられなかったら、調べ直す。 ここが最も学習になる場面です。
学年で変えるところ
- 小学生——保護者に説明する形が最も現実的です。相手は内容を知らないほうが、質問が出ます。
- 中学生——友人との教え合いが成立する時期です。ただし第17回で述べたとおり、教える役が固定されないよう注意が要ります。
- 高校生——内容が高度になり、聞ける相手が減ります。書いて説明する形、声に出す形で代用できます。
「教えるつもり」で読むと、何が変わるか
読む前に「後で説明する」と決めておくだけで、読み方が変わります。実験でこの条件が独立に扱われるのは、それ自体に効果がありうるからです。
変わるのは、主に3点です。第一に、重要度の判断が入ります。全部を説明することはできないので、選別が起きます。第36回で述べた問いを作る作業と同じ構造です。
第二に、つながりを探すようになります。説明には順序が要るため、要素どうしの関係を意識せざるをえません。
第三に、分からない箇所に敏感になることです。自分が読むだけなら流せる部分も、説明する前提だと止まります。止まるのは負担ですが、そこが学ぶべき場所です。
この効果は、実際に説明しなくても得られます。したがって、相手がいない日でも「後で説明する」という構えだけは作れます。費用がまったくかからない工夫です。
準備と実行、それぞれの役割
準備の段階と、実際に説明する段階では、起きていることが違います。両方を使うのが理想ですが、時間が限られるなら役割を知って選べます。
準備の段階で起きるのは、整理です。何を話すか、どの順で話すかを決める。内容の構造が頭の中で組み立てられます。この作業は、教材を見ながらでも成立します。
実行の段階で起きるのは、取り出しです。手元に教材がない状態で、言葉を作り出す。第29回で述べた生成が、ここで起きます。そして、詰まった箇所が実際に表面化します。
したがって、時間がないときは実行を優先するほうが効率的です。準備を完璧にしてから説明するより、準備が粗くても一度説明してみるほうが、弱点が早く見つかります。見つかってから準備し直せば、準備の対象も絞られます。
この順序は、第29回で述べた「答えを見る前に作る」と同じ形をしています。粗くてもよいから先に出す。出したものと正解の差が、学ぶべき内容になります。
なぜ教えると学べるのか
いくつかの経路が考えられます。
第一に、順序を決める必要があること。説明するには、どこから話すかを決めなければなりません。内容の構造を把握していないと、順序が決まりません。
第二に、言葉にする必要があること。頭の中では曖昧なままでも進めますが、口に出すと曖昧さが表面化します。第25回で扱った意味の処理が強制されます。
第三に、質問されること。相手からの質問は、自分では思いつかない角度から来ます。第36回で述べたとおり、他人の問いは盲点を突きます。
第四に、責任が生じること。相手が理解できなければ、自分の説明の問題です。この責任が、準備の質を上げます。プロテジェ効果は、この経路に関わっていると考えられます。
自分のためより、相手のためのほうが動く
プロテジェ効果が示すのは、動機づけの構造に関わる点です。自分の学習のためには先延ばしにしてしまう作業が、誰かのためだと実行される。
この現象は、第1回で扱った現在バイアスと関係づけて読むことができます。自分の将来の利益は、遠くにあるため軽く見えます。一方、相手が困っているという事実は、いま目の前にあります。目の前の要因のほうが重く働くという構造は、どちらの現象でも共通しています。
実務的には、この性質を設計に使えます。説明する約束を先に入れておくと、その準備は「自分のため」ではなく「約束のため」の作業になります。第2回で扱った柔らかいコミットメント装置としても働きます。
加えて、教える相手がいることには、失敗の受け止め方を変える効果もあります。自分の理解不足は認めにくいものですが、「相手に説明できなかったから調べ直す」という形なら、抵抗が小さくなります。第14回で述べたラベルの話とも通じますが、原因の置き場所が変わると行動が変わります。
教えることが向かない場面
教える方法にも、向かない場面があります。3つ挙げます。
第一に、自分がまだ型を持っていない段階。第21回で述べたとおり、材料がなければ操作できません。理解していない内容を説明しようとしても、教科書を読み上げる作業になります。
第二に、相手の理解度に合わせる負荷が高すぎる場合。年齢の離れた相手に教えるとき、内容を噛み砕く作業自体が重くなります。学習効果はありますが、時間の費用が大きくなります。
第三に、時間が極端に足りない場合。説明には時間がかかります。試験が明日なら、範囲を一通り確認するほうが合理的です。
したがって、教える方法は「理解が一通りできた後の点検」として使うのが最も効率的です。理解の入口では、まず型を作る作業が先に来ます。
よくある失敗——教える側だけが負担する
教え合いには副作用があります。同じ相手に教え続けると、教える側の学習時間が削られます。第18回で述べたきょうだいの役割固定と、同じ構造です。
対処としては、役割を交代することです。単元ごとに教える側を入れ替えれば、双方が教える機会を得ます。得意科目を交換する形でも成立します。
もう一つの失敗は、教えることが目的化することです。教えるために資料を作り込み、時間の大半が準備に消える。準備の段階にも効果はありますが、量が過ぎれば費用のほうが大きくなります。3分で説明できる形にまとめる、という制限が有効です。
聞く側は、内容を知らなくてよい
説明の相手として、内容に詳しい人が必要だと考えられがちですが、実際には逆です。知らない相手のほうが、説明する側の学習になります。
理由は単純で、知らない相手には前提から説明する必要があるからです。専門用語をそのまま使えません。言い換えが強制されます。第25回で述べたとおり、言い換えは意味の処理そのものです。
また、知らない相手からは素朴な質問が出ます。「なぜそうなるの?」という問いに答えられないとき、理解が表面的だったことが分かります。詳しい相手だと、この種の質問は出ません。
したがって、家庭で保護者が説明を聞く役に立つとき、内容を知らないことは欠点ではありません。むしろ条件として適しています。必要なのは、分からないところで「分からない」と言うことだけです。
保護者ができること——分からないと言う
聞き役としての振る舞いには、いくつかのこつがあります。
- 分からないところで止める。 分かったふりをすると、説明の練習になりません。
- 「なぜ?」と聞く。 内容を知らなくても出せる問いです。
- 説明の出来を評価しない。 評価されると、次から説明しなくなります。
- 3分で切り上げる。 長くすると負担になり、続きません。
3つ目が最も重要です。この時間の目的は、子どもの説明力を採点することではありません。説明という作業を通じて、本人が自分の理解を点検することです。
暗記単元でも教える準備をする——説明を想定して覚える
教えるつもりで準備するという考え方は、理解を問われる単元だけでなく、暗記が中心の単元にも当てはめられます。たとえば英単語や歴史の年号を覚えるとき、ただ繰り返し書くのではなく、「この語を初めて聞く人にどう説明するか」を考えながら眺めてみる場面が考えられます。
英単語であれば、意味を日本語で置き換えるだけでなく、その語が使われる場面を一つ思い浮かべ、短い例文の形で口に出してみます。誰かに伝えるつもりで声に出すと、頭の中だけで覚えようとするより、記憶への手がかりが増えることがあります。
歴史の用語でも、年号と出来事を一対で覚えるのではなく、「なぜこの順序で起きたのか」を説明するつもりで並べ直してみます。説明の途中で詰まる箇所があれば、そこが自分にとってまだ整理できていない部分だと考えられます。
このように、暗記の場面でも「教えるつもり」の構えは使えます。ただし、説明を作り込むことに時間をかけすぎると、覚えるべき範囲を終えられなくなることがあります。準備は短く区切り、実際に声に出す時間を確保するほうが現実的です。
教える相手がいない——準備だけで終わる
教える機会を作ろうとすると、相手の都合を考えすぎて、声をかけるのをためらってしまうことがあります。相手が忙しそうに見えると、頼むこと自体が負担に感じられるものです。しかし、教える側の負担を減らす工夫として、短い時間だけ聞いてもらう約束にする方法があります。
また、教える相手が内容をよく知っている場合、説明の途中で口を挟まれ、自分が話す番を失ってしまうことがあります。この場合は、相手に「最後まで聞いてから質問して」とあらかじめ伝えておくと、説明の流れを自分で組み立てる練習になります。
準備の段階でつまずくこともあります。何をどこまで説明するかを決めようとして、ノート作りに時間を取られ、実際に教える時間が残らなくなる場合です。準備は要点を三つほどに絞り、残りは本番で言葉にしてみるほうが、かえって記憶に残りやすいと考えられます。
さらに、教える相手がいない日が続くと、習慣そのものが途切れやすくなります。そんなときは、机の上のぬいぐるみや空の椅子に向かって話すだけでも、声に出す練習として意味があると考えられます。相手の有無より、説明を組み立てる行為そのものが大切です。
この記事で言えないこと
教えることによる学習の効果は、条件によって変わります。教える内容の難度、相手の理解度、準備に使える時間。いずれも結果に影響します。ここで挙げた研究も、特定の課題と対象での結果です。
また、プロテジェ効果は特定の学習環境で報告されたものであり、日常の教え合いにそのまま当てはまるかは分かりません。動機づけの効果は、関係の質にも左右されます。
当塾の立場
説明する、声に出す、詰まった箇所を記録する。いずれも費用はかかりません。相手も、内容を知らない家族で足ります。
武蔵野個別指導塾では、授業の中で生徒に説明させる時間を必ず取っています。担当が説明するより時間はかかりますが、そこで詰まる箇所こそが指導すべき地点です。加えて、説明を求められることが分かっていると、聞き方そのものが変わります。教える期待の効果を、授業の設計に組み込んでいる形です。
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出典
- Fiorella L, Mayer RE. The relative benefits of learning by teaching and teaching expectancy. Contemporary Educational Psychology. 2013;38(4):281-288.
- Chase CC, Chin DB, Oppezzo MA, Schwartz DL. Teachable Agents and the Protégé Effect: Increasing the Effort Towards Learning. Journal of Science Education and Technology. 2009;18(4):334-352.

