連載「学びの意思決定——行動経済学・社会学・認知心理学から考える」全50回の第34回です。学習の仕方の目次を見る
できるようになった後も、念のためもう10問解く。この「念のため」の反復には、どれだけの価値があるのでしょうか。過剰学習と呼ばれるこの追加の練習は、たしかに保持を高めますが、費用対効果には限界があります。
同じ時間を、追加の反復に使うか、間隔を空けた復習に使うか。この配分の問題を、数学の学習で直接比較した実験があります。結果は、測定の時期によって大きく変わりました。
要点(結論から)
- できるようになった後の追加練習(過剰学習)は、保持を高める効果を持つ。
- ただし、追加の量を増やすほど効果が比例して伸びるわけではない。
- 数学の実験では、同じ10問を1回でまとめるか、間を空けた2回に分けるかを比較した。
結論——同じ問題数なら、まとめずに分けるほうがよい
- できるようになった後の追加練習(過剰学習)は、保持を高める効果を持つ。
- ただし、追加の量を増やすほど効果が比例して伸びるわけではない。
- 数学の実験では、同じ10問を1回でまとめるか、間を空けた2回に分けるかを比較した。
- 分ける利益は1週間後のテストでは無く、4週間後には非常に大きかった。
- 実務的には、短期の試験なら反復、長期の保持なら分散という配分になる。
理由——2つの実験が示したこと
追加の練習は効くが、限界がある
ドリスケルらは、過剰学習が保持に与える効果を検討しました。習得した水準を超えて練習を続けることで、後の保持が高まるかという問題です。
Driskell JE, Willis RP, Copper C. Effect of overlearning on retention. Journal of Applied Psychology. 1992;77(5):615-622.
この系統の研究が示してきたのは、過剰学習には効果があるものの、追加した量に比例して伸び続けるわけではないということです。ある程度を超えると、追加の1問が生む利益は小さくなります。
実務的には、これは「何問解けばよいか」という問いに直接答えます。できるようになってから延々と同じ問題を解き続けることには、費用に見合う利益がありません。
同じ問題数を、どう配るか
ローラーとテイラーは、より直接的な比較を行いました。216名の大学生が、ある種類の数学の問題の解き方を学んだ後、異なる練習の日程で取り組みます。
Rohrer D, Taylor K. The effects of overlearning and distributed practise on the retention of mathematics knowledge. Applied Cognitive Psychology. 2006;20(9):1209-1224.
実験1では、10問を1回の学習でまとめて解く群と、1週間空けた2回に分けて解く群を比較しました。総問題数は同じです。
結果は、測定の時期で分かれました。1週間後のテストでは、分散の利益はほぼありませんでした。ところが4週間後のテストでは、利益は非常に大きくなっていました。
実験2では、1回の中で3問解く群と9問解く群を比較しています。こちらは、過剰学習の量そのものを操作した比較です。
具体例——同じ10問をどう配るか
| 配り方 | 短期(数日後) | 長期(数週間後) | 向いている場面 |
|---|---|---|---|
| 今日10問まとめて | 高い | 低い | 明日のテスト |
| 今日5問・来週5問 | 同程度 | 高い | 入試、累積する範囲 |
| 今日3問・来週3問・再来週4問 | やや低い | 高い | 長期の保持 |
重要なのは、総問題数が同じという点です。労力は増えていません。配り方を変えただけで、長期の結果が変わります。
今日からできること
- 「できた」と感じたら、その日はやめる。 追加の反復より、日を分けたほうが同じ労力で効きます。
- 残りの問題を、次回に回す。 全部やり切らないことを、手抜きと考えない。
- 目的の保持期間で配り方を決める。 明日までなら今日まとめる。数か月なら分ける。
- 問題集を1周する速度を上げ、回数を増やす。 1周を丁寧にやるより、間を空けて複数回のほうが有利になります。
- 「あと何問やるか」を決めてから始める。 決めないと、できる問題を延々と解き続けることになります。
学年で変えるところ
- 小学生——1回の量を減らし、日数を増やすほうが負担も小さくなります。毎日少しずつが、この知見とも一致します。
- 中学生——定期テストは短期、入試は長期です。両方の目的が混在する時期なので、配り方を使い分ける必要があります。
- 高校生——範囲が累積するため、長期の保持が前提になります。分散を基本にしたほうが合理的です。
「効果が無い」ように見える時期がある
ローラーとテイラーの実験で最も示唆に富むのは、1週間後には差が出なかったという部分です。もしこの実験が1週間後で終わっていたら、結論は「分散に利益はない」になっていました。
この事実は、学習法を自分で試すときの注意点になります。新しい方法を導入して、数日後に確認して差が出なくても、それは効かない証拠にはなりません。差が現れるのは、忘却が進んでからです。
逆に言えば、短期で測るかぎり、多くの方法は同じに見えます。詰め込みも分散も、翌日には同程度の成績を出します。方法の優劣が見えるのは、時間が経ってからです。
第32回で述べた「判断の時点を後ろにずらす」という原則が、ここでも当てはまります。学習法の評価は、少なくとも数週間の間隔を置いてから行う。それより短い期間での比較は、遂行を比べているだけになります。
どれくらい空ければよいか
間隔の最適値については、多くの研究が行われてきました。大まかな傾向として、保持したい期間が長いほど、間隔も長くするのが有利とされています。
実務的な目安としては、次のような形になります。明日の小テストなら、今日のうちに2回。2週先の定期テストなら、数日おきに3回。数か月後の入試なら、最初は数日、その後は週単位、さらに月単位へと広げる。
ただし、細かい最適値を計算することにあまり意味はありません。実際の学習では、間隔を正確に守ることのほうが難しいからです。守れない精密な計画より、おおよそ守れる粗い計画のほうが結果を生みます。
実行しやすい形としては、「同じ単元に3回触れる。1回目と2回目は数日、2回目と3回目はもっと空ける」という程度の粗さで十分です。第3回で述べたとおり、計画は守られてはじめて効果を持ちます。
まとめて解くことが正しい場面
分散が常に優れているわけではありません。次の場面では、まとめて解くほうが合理的です。
第一に、保持期間が短いとき。明日の小テストのためなら、今日まとめるほうが確実です。長期の保持を犠牲にしていますが、目的が短期ならそれで構いません。
第二に、型を初めて作るとき。第23回で述べたとおり、まとまりを作るには、要素を繰り返し同時に扱う必要があります。初めての単元でいきなり分散すると、型ができる前に忘れます。
第三に、時間が極端に足りないとき。分散には日数が要ります。試験まで数日しかないなら、選択肢がありません。
したがって、実務的な運用はこうなります。新しい型はまとめて作り、できるようになったら分散に切り替える。切り替えの合図は、手が止まらずに解けるようになった時点です。
分散と、思い出す形を組み合わせる
分散が効く理由の一つは、間を空けることで忘れかけた状態から思い出す作業が発生することです。第32回で扱った望ましい困難の一種として説明できます。
この理解に立つと、組み合わせ方が見えてきます。間を空けた2回目の練習で、答えを見ながら解き直すのでは、思い出す作業が起きません。2回目こそ、白紙から取り組むほうが利益が大きくなります。
実務的な形としては、1回目は例題を見ながら型を作り、2回目以降は何も見ずに解く。そして間隔を空ける。第24回、第29回、第32回で述べた原則が、ここで1つの手順にまとまります。
量をこなすことの落とし穴
過剰学習に限界があるという知見は、勉強の常識と衝突します。多く解くほど力がつく、という感覚は根強いからです。
ここで区別すべきは、新しい型に触れる量と同じ型を繰り返す量です。前者を増やすことには、はっきりした意味があります。扱える型が増えるからです。一方、後者を増やすことには、逓減する利益しかありません。
問題集を大量に解いているのに伸びない、という状況の多くは、後者に時間を使っています。同じ型の問題を、別の本で解き直しているだけという場合もあります。本が違えば新しいことをしている気がしますが、頭の中で起きている処理は同じです。
判定は、第23回で述べた型の一覧でできます。解いた問題が、一覧のどの型に対応するかを書く。同じ型ばかりが並んでいれば、量を増やしても伸びません。新しい型が出てこなくなったら、教材の難度を上げるか、範囲を広げる段階です。
どこまで反復すれば「できた」といえるか
「できたらやめる」と述べましたが、その「できた」の基準が曖昧だと運用できません。実務的な基準を3つ挙げます。
- 手が止まらずに解ける。 考え込む時間がなく、最初の一手が自動的に出る状態です。第23回のまとまりができた状態に対応します。
- 手順を言葉で説明できる。 なぜその手順なのかを一言で言えるなら、型として保持されています。
- 時間を空けても再現できる。 ここが最終的な基準です。当日できただけでは判断できません。
1と2はその場で確認できますが、3は日を跨ぎます。したがって、当日の判断としては1と2を使い、数日後に3で検証する形になります。3で落ちたなら、1と2の基準が甘かったことになります。
この検証を数回繰り返すと、自分にとっての「できた」の水準が校正されていきます。第33回で扱った較正の訓練が、ここでも効いてきます。
よくある失敗——「1周やり切る」ことを目的にする
問題集を1冊、最初から最後まで丁寧に解く。達成感がありますが、長期の保持という観点では効率がよくありません。1周目で各単元に長時間をかけると、最初の単元から最後の単元までの間隔が開きすぎ、しかも2周目に入る前に試験が来ます。
代案は、1周を軽くして回数を増やす形です。1周目は各単元の基本だけを解き、2周目で残りを解く。同じ総問題数でも、各単元に触れる回数が増え、間隔が生まれます。
もう一つの失敗は、できる問題を飛ばさないことです。過剰学習の効果には限界があるので、確実にできる問題を2周目も解くのは、費用に見合いません。2周目は、1周目でできなかった問題に絞るほうが配分として合理的です。ただし、第27回で述べたとおり、まったく触れない項目を作ると別の問題が生じるため、たまには全体から均等に確認する回を挟みます。
保護者ができること——「全部終わった?」と聞かない
家庭での確認の仕方が、配り方に影響します。「全部終わった?」という問いは、1回でやり切ることを促します。
代わりに使えるのは、次の3つです。
- 「今日はどこまで?」——区切りを確認します。残すことを前提にした問いです。
- 「前にやったところ、今やったらできる?」——分散の確認になります。
- 「同じ問題集、何回目?」——周回数を意識させます。
1冊を完璧に仕上げることより、何度触れたかのほうが効く。この理解が家庭と共有されていると、進度の遅さで焦らずに済みます。
分ける考え方は他の練習にも使える——追加の反復を配分する
同じ量を分けて取り組む考え方は、計算練習だけでなく、漢字の書き取りにも当てはまります。一夜で何十回も書くより、日をまたいで数回ずつ書くほうが、後で思い出しやすくなることがあります。書く回数は同じでも、間の空け方で手応えが変わります。机に向かう時間帯を変えるだけでも、印象が変わることがあります。
英語の音読にも同じ発想が使えます。長い時間を一度に使うより、短い時間を何日かに分けるほうが、口が覚えやすくなることがあります。通学の時間や寝る前の短い時間を当てる方法もあります。まとめて読むことと分けて読むことのどちらが合うかは、内容によって変わります。
楽器の練習や体育の反復にも通じる考え方です。同じ動作を連続して繰り返すより、日を空けて戻ってくるほうが、体が覚えている感覚につながることがあります。道具や場所を変えると、同じ練習でも手がかりが増えます。分けることは、手を抜くこととは違うと考えられます。
間隔の空け方が分からなくなる——詰め込みに戻ってしまう
分けて取り組もうとすると、どれくらい空ければよいかで迷うことがあります。空けすぎると忘れてしまい、詰めすぎると分ける意味が薄れます。忘れかけた頃に戻ってくるのが目安になりますが、その感覚は人によって違います。まずは短い間隔から試し、手応えを見ながら伸ばしていく方法があります。
つまずきの一つは、分けたつもりが同じ日のうちに終わってしまうことです。朝と夜に分けても、同じ日のうちでは間隔として短すぎることがあります。翌日や翌週に回す予定を先に決めておくと、分ける計画が崩れにくくなります。予定表に書き込むだけでも、実行の助けになります。
もう一つは、分けることを理由に一回あたりの量を減らしすぎることです。一回の量が少なすぎると、思い出す手がかりが足りず、かえって定着しにくくなることがあります。分ける単位と一回の量は別々に調整する必要があります。どちらを変えたのかを記録しておくと、次に試すときに迷いにくくなります。
この記事で言えないこと
ローラーとテイラーの実験は、特定の種類の数学の問題を用いた大学生対象の研究です。教科や内容が変われば、最適な間隔も変わります。1週間、4週間という数字は、その実験の設定であって、一般的な推奨間隔ではありません。
また、過剰学習の効果の大きさは、課題の種類と保持期間によって変わります。技能の種類によっては、追加の反復が重要な場合もあります。ここで述べたのは、同じ労力なら配り方で結果が変わるという原則です。
当塾の立場
できたらやめる、残りを次回に回す、2回目は見ないで解く。いずれも費用はかかりません。
武蔵野個別指導塾では、宿題の出し方を1回で仕上げる量ではなく、次回までに触れる回数で設計しています。同じ10問なら、1日でまとめるより数日に分けて出す。加えて、前回の内容を予告なしに確認する時間を毎回の冒頭に置いています。分散の効果は、次回の確認があって初めて成立するためです。
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出典
- Driskell JE, Willis RP, Copper C. Effect of overlearning on retention. Journal of Applied Psychology. 1992;77(5):615-622.
- Rohrer D, Taylor K. The effects of overlearning and distributed practise on the retention of mathematics knowledge. Applied Cognitive Psychology. 2006;20(9):1209-1224.

