連載「学びの意思決定——行動経済学・社会学・認知心理学から考える」全50回の第35回です。学習の仕方の目次を見る
手伝いすぎると自分でできるようにならない。突き放すと手が出ない。この間のどこかに適切な支援があることは誰でも分かりますが、その「どこか」をどう決めるかは難しい問題です。教育研究はこれを足場かけという概念で扱ってきました。
建築の足場は、工事のあいだだけ必要で、完成すれば外されます。学習の支援も同じです。重要なのは支援の量ではなく、外していく過程が設計されているかです。
要点(結論から)
- 足場かけの鍵となる特徴は3つに整理されている。随伴性、フェーディング、責任の移譲である。
- 随伴性とは、相手の状態に応じて支援を変えること。一律の支援は足場かけではない。
- フェーディングとは、支援を段階的に減らすこと。減らす計画がなければ、依存が残る。
結論——支援の量より、外し方が設計されているか
- 足場かけの鍵となる特徴は3つに整理されている。随伴性、フェーディング、責任の移譲である。
- 随伴性とは、相手の状態に応じて支援を変えること。一律の支援は足場かけではない。
- フェーディングとは、支援を段階的に減らすこと。減らす計画がなければ、依存が残る。
- 責任の移譲とは、最終的に本人が自分で行う状態へ移すこと。これが目的地である。
- 実務的には、支援を出す前に、いつどう減らすかを決めておくことが要点になる。
理由——概念の中身
1対1の場面から見出された
ウッド、ブルーナー、ロスは、問題解決の場面における大人の関与を分析し、足場かけという概念を提示しました。
Wood D, Bruner JS, Ross G. The role of tutoring in problem solving. Journal of Child Psychology and Psychiatry. 1976;17(2):89-100.
ここで観察されたのは、単に教えることではなく、子どもが自力ではできない課題をできる形に組み替える関与でした。注意を重要な部分に向ける、複雑さを減らす、方向を保つ。いずれも、答えを与えることとは違います。
3つの特徴に整理される
ファン・デ・ポルらは、その後の10年の研究を精査し、足場かけの鍵となる特徴を3つに整理しました。
van de Pol J, Volman M, Beishuizen J. Scaffolding in Teacher-Student Interaction: A Decade of Research. Educational Psychology Review. 2010;22(3):271-296.
3つとは、随伴性(相手の反応に応じて支援を調整すること)、フェーディング(支援を段階的に減らすこと)、責任の移譲(学習の責任を本人へ移していくこと)です。
この整理が実務的に有用なのは、「よい支援」と「ただの手助け」を区別できる点にあります。3つの特徴のうち、どれが欠けているかで、何を直すべきかが決まります。
具体例——支援の段階
| 段階 | 支援の形 | 本人がやること |
|---|---|---|
| 1 | 手順を全部示す(例題) | なぞる、理解する |
| 2 | 手順の途中まで示す | 残りを自分で進める |
| 3 | 最初の一手だけ示す | 方針を決めて解く |
| 4 | ヒントを求められたら出す | 自分で判断する |
| 5 | 支援なし | すべて自分で行う |
重要なのは、1から5へ移動することです。多くの場合、支援は1か2で止まります。止まっている状態が長いほど、5へ移る負担は大きくなります。
今日からできること
- 支援を出す前に、次に減らす分を決める。 「今日は途中まで、次回は最初の一手だけ」。
- ヒントは、求められてから出す。 先回りして出すと、求める判断の練習が消えます。
- 「どこまで自分でできた?」を毎回確認する。 段階の位置を共有します。
- 同じ支援が3回続いたら、減らす。 続いていること自体が、フェーディングの不在を示します。
- 最後は必ず、支援なしで1問解く。 移譲が起きたかどうかの確認になります。
学年で変えるところ
- 小学生——支援を減らす速度をゆっくりにします。ただし、減らす計画は持っておきます。
- 中学生——「教えてもらって解けた」で終わりやすい時期です。最後に1問、支援なしで解く手順が効きます。
- 高校生——自分で支援を選べる年齢です。どの段階の支援を使うかを、自分で決める練習になります。
自分で自分に足場をかける
足場かけは、他人がかけるものとは限りません。一人で勉強するときにも、同じ構造を作れます。むしろ、最終的にはこちらが目的地になります。
自分でかける足場の例を挙げます。
- 解答をすぐ見ない代わりに、段階的に開く。 最初の1行だけ見る、方針だけ見る、全部見る。折り目を付けておくと運用できます。
- ヒントを自分で作っておく。 解けた問題に「この問題は○○に気づけば解ける」と書いておくと、次回の自分への足場になります。
- 使う道具を制限する。 公式集を見てよい回、見ない回を分ける。支援の有無を自分で切り替えます。
- 時間で段階を切る。 5分は何も見ない、次の5分は方針だけ見る。時間で区切ると判断が要りません。
いずれも、支援の量を自分で調整する仕組みです。第2回で扱ったコミットメント装置と同様に、冷静なときに決めておくのが要点になります。詰まっている最中に「どこまで見るか」を判断すると、全部見てしまいます。
「少し難しい」の幅を見つける
足場かけの前提には、自力ではできないが支援があればできる範囲がある、という考え方があります。この範囲を外れると、支援は機能しません。
範囲より簡単な課題では、支援そのものが不要です。第34回で述べた過剰学習と同じで、費用に見合いません。範囲より難しい課題では、支援を出しても手が出ません。第32回で述べた望ましくない困難にあたります。
実務的に、この範囲は正答率で目安をつけることができます。何も見ずに解いて、半分程度は手が出るが最後まで行かない。この水準が、支援の効きやすい範囲です。ほぼ全問解けるなら簡単すぎ、まったく手が出ないなら前提が欠けています。
教材選びにも、この基準は使えます。書店で1ページ解いてみて、手がまったく出ないなら、その本はまだ早い。第6回で述べたとおり、選ぶ軸があれば候補は自然に絞られます。
随伴性——相手を見て変える
3つの特徴のうち、最も実行が難しいのが随伴性です。相手の状態を見て、支援の量をその場で調整する必要があるからです。
調整の判断材料は、本人の反応です。手が止まっているのか、進んでいるが方向が違うのか、方向は合っているが計算で詰まっているのか。状態によって、必要な支援は違います。
家庭でも塾でも起きやすい失敗は、相手を見ずに一律の支援を出すことです。分からないと言われたら解法を全部説明する、という対応は、随伴していません。相手が方針は分かっていた場合、不要な支援を上乗せしています。
最も簡単な随伴性の作り方は、先に聞くことです。「どこまでやった?」「次に何をしようと思った?」。答えを聞いてから支援の量を決めれば、それだけで随伴性が生まれます。第13回で扱った質問の型が、ここでも役に立ちます。
フェーディング——減らす計画を先に作る
支援は、出すときより減らすときのほうが難しいものです。減らすと成績が一時的に落ちるからです。第32回で述べたとおり、練習中の遂行が下がることは、必ずしも悪い兆候ではありません。
とはいえ、無計画に減らすと停滞します。実務的には、次の形が扱いやすくなります。
- 減らす単位を決める。 「次回はヒントを1つ減らす」。段階を飛ばさない。
- 減らした後の1回は、失敗しても戻さない。 1回の失敗で支援を戻すと、段階が進みません。
- 2回続けて手が出ないなら、1段階戻す。 戻すことは失敗ではなく、随伴性の実行です。
この運用の要点は、減らすことも戻すことも、あらかじめ決めておくことです。その場の感情で決めると、たいてい支援が増える方向に偏ります。
手厚い支援が、依存を作る過程
支援を減らせないまま続けると、何が起きるか。分かりやすいのは、解説を聞けば解ける状態が固定されることです。本人も周囲も、理解が進んでいると感じます。実際、理解はしています。
問題は、理解と再現が別物であることです。第24回で述べたとおり、支援がある条件での成功は、支援がない条件での成功を保証しません。そして試験には支援がありません。
この状態を早く見つける方法があります。支援なしで解く機会を、定期的に作ることです。週に一度でも構いません。何も見ずに、時間を計って解く。ここで落ちる問題があれば、それは支援つきでしか解けていない問題です。
見つかった問題は、失敗ではなく情報です。支援の段階を1つ下げて練習し直す対象になります。逆に、この機会を作らないまま進むと、試験の日に初めて分かることになります。
支援を求める技術も、教えられる
足場かけは、支援する側の技術として語られがちですが、支援を求める側の技術も同じくらい重要です。求められなければ、随伴的な支援は成立しません。
求める技術とは、具体的には次のようなものです。どこまでできたかを言う。何を試したかを言う。どこで止まったかを言う。第13回で扱った質問の型そのものです。
この技術が身についていると、受け取る支援の量が自動的に調整されます。「全部分かりません」と言えば全部の説明が返ってきますが、「この式変形の理由が分かりません」と言えば、その部分だけが返ってきます。後者のほうが、残る処理が多くなります。
したがって、自立を目指すなら、支援を減らすことと並行して、求める技術を教える必要があります。減らすだけでは、求められないまま詰まる状態になります。
よくある失敗——「教える」を支援だと思う
説明することは、支援の一形態にすぎません。しかも、段階でいえば最も手厚い側です。ところが実際には、支援といえば説明を意味することが多くあります。
説明以外の支援には、次のようなものがあります。注意を向けるべき箇所を指す。選択肢を2つに絞る。似た既習の問題を思い出させる。手順の名前だけを言う。いずれも、答えを渡さずに前進させます。
これらの支援は、本人の処理を残す点で優れています。第29回で述べた生成の機会が保たれるからです。説明してしまうと、その機会は消えます。
実務的な順序としては、軽い支援から試します。それで動かなければ、段階を上げる。最初から説明すると、どの程度の支援で足りたのかが分かりません。
保護者ができること——答えを言わずに1つだけ渡す
家庭で勉強を見るときに使える形があります。要求されたときに、1つだけ渡すというやり方です。
- 「どこまでできた?」を必ず先に聞く。 随伴性の起点です。
- 渡すのは、次の一手だけ。 全体の解説はしません。
- 渡した後、席を離れる。 見ていると、続けて支援したくなります。
3つ目は意外に効きます。そばにいると、詰まった様子が見えるたびに口を出したくなる。少し距離を置くことが、フェーディングを実行する最も簡単な方法になります。
支援の外し方は勉強以外でも使える——手を引く時期を測る
支援を減らす計画を先に作る考え方は、勉強の場面だけでなく、日常生活の手順にも当てはまります。たとえば朝の支度を手伝う場面では、最初は一緒に確認し、慣れてきたら声をかけるだけにし、最後は自分で時計を見る形に移ります。段階を決めておくと、いつまでも同じ手伝いを続けずに済みます。手伝いの量ではなく、外し方の設計が要点です。
料理の手順を覚える場面も同じです。最初は横で材料を渡し、次は口で順番を伝え、最後は任せて見守るという段階が考えられます。途中で失敗しても、戻れる段階を一つ前の支援にしておくと、やり直しがしやすくなります。時間帯によって集中の度合いが変わることも、段階を決めるときの手がかりになります。
部活動の練習にも通じます。最初は見本を見せ、次は声をかけ、最後は自分で振り返る形に移ります。支援が減っていく過程を見通せると、頼りすぎることも、急に突き放されることも避けやすくなると考えられます。
外す時期を逃す——支えが邪魔になる
支援を減らす計画を立てても、実際には外す時期を逃すことがあります。目の前でつまずいている様子を見ると、つい手を出したくなります。手を出せばその場は進みますが、自分で試す機会は減ります。どこまで待つかを先に決めておくと、迷いが小さくなります。
もう一つのつまずきは、支援の種類を変えずに量だけ減らしてしまうことです。声かけを急にやめると、手がかりが何も残らず、かえって止まってしまいます。声かけを短くする、質問の形に変えるなど、種類を変えながら減らすほうが移行しやすくなります。机の上に手順を書いた紙を置く方法も、支援の一種として使えます。
また、外した後に戻すことを失敗と捉えると、支援の調整がしにくくなります。難しくなった単元では、一時的に支援を戻すことがあってよいと考えられます。戻す段階を決めておけば、依存に戻るのではなく、調整として扱えます。外す計画と戻す条件を、あわせて考えておくことが助けになります。
この記事で言えないこと
足場かけの研究は、概念化と測定に難しさがあることが指摘されてきました。総説自身が、概念化・現れ方・効果の3領域に議論が存在すると述べています。したがって、「足場かけをすれば成績が上がる」という単純な主張はできません。
また、随伴性の実行には、相手の状態を読む技能が要ります。これは短時間では身につきません。家庭で完全に実行することを求めるより、3つの特徴を意識するだけでも支援の質が変わる、という水準で受け取ってください。
当塾の立場
先に聞く、1つだけ渡す、最後は支援なしで1問。いずれも家庭でできます。
武蔵野個別指導塾で最も注意しているのは、説明の量ではなく、支援を減らす計画です。授業のたびに同じ量の説明をしていれば、通っている間は解けても、試験には持ち込めません。指導記録には、その日に使った支援の段階を書いています。段階が下がっていない生徒がいれば、指導の側の問題として扱います。
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出典
- Wood D, Bruner JS, Ross G. The role of tutoring in problem solving. Journal of Child Psychology and Psychiatry. 1976;17(2):89-100.
- van de Pol J, Volman M, Beishuizen J. Scaffolding in Teacher-Student Interaction: A Decade of Research. Educational Psychology Review. 2010;22(3):271-296.

