一度に3つまでしか置けない——作業記憶の限界と手順の切り方|武蔵野個別指導塾が薦める学習の仕方

連載「学びの意思決定——行動経済学・社会学・認知心理学から考える」全50回の第21回です。学習の仕方の目次を見る

説明を聞いているうちに、最初の条件を忘れてしまう。3行目まで読んだところで、1行目の内容が消えている。この現象は理解力の問題ではなく、一度に頭の中に置いておける項目の数の問題です。そしてその数は、思っているよりずっと小さい。

ここから10回は、記憶と注意のしくみを扱います。第1ブロックが判断の歪み、第2ブロックが社会的な条件だったのに対し、ここでは頭の中の処理の制約を扱います。制約を知ると、教材の読み方やノートの取り方が変わります。

要点(結論から)

  • 短期記憶に保持できるのは、ミラーの古典では約7項目とされてきた。
  • しかしその数は厳密な限界として意図されたものではなく、より精密な検討では3〜5チャンクとされる。
  • 容量の単位は「情報の量」ではなくチャンク(まとまり)である。だから、まとめ方を変えれば実質的な容量は増える。

結論——同時に扱えるのは3〜5個。だから手順は分割する

  • 短期記憶に保持できるのは、ミラーの古典では約7項目とされてきた。
  • しかしその数は厳密な限界として意図されたものではなく、より精密な検討では3〜5チャンクとされる。
  • 容量の単位は「情報の量」ではなくチャンク(まとまり)である。だから、まとめ方を変えれば実質的な容量は増える。
  • 問題を解く作業そのものは認知資源を大量に使うため、解くことと学ぶことは別の活動になりうる。
  • 実務的な結論は単純。手順は3〜4段に切る。同時に2つ以上の新しいことを扱わない。

理由——容量の限界はどう測られてきたか

「7±2」という有名な数

ミラーの1956年の論文は、心理学でもっとも引用される論文の一つです。絶対判断の幅と即時記憶の幅が、受け取り・処理・記憶できる情報量に強い制限を与えると論じました。

Miller GA. The magical number seven, plus or minus two: Some limits on our capacity for processing information. Psychological Review. 1956;63(2):81-97.

この論文でより重要なのは、数そのものではなく再符号化という考え方です。入力を複数の次元に組織化し、系列をまとまりへ変換することで、限界を押し広げている。つまり、限界は「情報の量」ではなく「まとまりの数」にかかっています。

より精密に測ると、さらに小さい

カウアンは、7という数がおおよその見積もりとして提示されたものであり、厳密な容量限界ではなかったことを指摘したうえで、多様なデータを総合しました。

Cowan N. The magical number 4 in short-term memory: A reconsideration of mental storage capacity. Behavioral and Brain Sciences. 2001;24(1):87-114.

結論は、まとめ直しや反復を使えない条件では、限界は3〜5チャンクにとどまるというものでした。学習の場面でいえば、新しい内容を扱っているときがまさにこの条件です。まとめ方を知らないものは、まとめられません。

問題を解くことは、学ぶことと同じではない

スウェラーは、通常の問題解決が学習の手段としては効率が悪いと論じました。目標から逆算して手段を探す作業(手段目標分析)は認知資源を大量に消費し、その資源はスキーマの獲得には使われないからです。

Sweller J. Cognitive Load During Problem Solving: Effects on Learning. Cognitive Science. 1988;12(2):257-285.

この指摘は、勉強の実感とよく合います。難問と格闘して解けたのに、翌日同じ問題が解けない。格闘しているあいだ、頭の資源は探索に使われていて、型を覚えることには使われていませんでした。

具体例——容量に合わせて手順を切る

場面 容量を超える形 切った形
文章題 読みながら式を立てようとする 条件を書き出す→図にする→式を立てる
英語長文 単語を調べながら意味を取る 1段落を読み切る→分からない語を拾う→戻る
新出単元 説明を聞きながらノートを取る 聞くことに集中→直後に自分の言葉で書く
解き直し 間違いを見つけて次へ 誤りの型を1つに名づける→その型だけ3問

右列に共通しているのは、同時にやることを1つに減らしている点です。作業の総量は変わりませんが、一度に頭に置く項目数が減ります。

今日からできること

  1. 手順を3〜4段までに切る。 それ以上の段数があるなら、紙に書き出して外部化します。
  2. 新しいことは、一度に1つだけ。 新出文法と新出単語を同時に扱うと、どちらも残りません。
  3. 条件は紙に出す。 頭の中に置いておくのをやめるだけで、使える容量が空きます。
  4. 難問に挑む前に、型を1つ持っておく。 型がない状態での探索は、資源を使う割に残りません。
  5. 説明を聞く時間と、書く時間を分ける。 同時にやると、どちらも精度が落ちます。

学年で変えるところ

  • 小学生——指示を一度に複数出さないことが最も効きます。「教科書を出して、ノートを開いて、13ページの2番」は3項目です。
  • 中学生——文章題と英語長文で、同時処理の負荷が一気に上がります。分割する型を身につける時期です。
  • 高校生——扱う情報量が増えるぶん、外部化(紙に書く)の技術が効きます。頭の中で処理しようとすると容量に負けます。

紙は、容量を増やす道具である

作業記憶の制約に対する最も確実な対処は、頭の外に置くことです。紙に書いた条件は、忘れても消えません。忘れてよいものを忘れられるようになると、その分の容量が思考に回ります。

この観点から見ると、途中式を書く意味が変わります。途中式は、採点者のためでも丁寧さの証明でもありません。自分の作業記憶を節約するための外部装置です。暗算で進めようとする生徒が途中で崩れるのは、計算力ではなく容量の問題であることが多くあります。

同じことが、文章題の条件整理にも当てはまります。「速さが毎分60メートル、道のりが1200メートル、ただし途中で5分休憩」という問題で、3つの数値と1つの但し書きを頭に置いたまま式を立てようとすると、容量のほとんどが保持に使われます。書き出してしまえば、残りの容量を関係の把握に使えます。

外部化できるものは、条件だけではありません。手順、注意点、前回の誤りの型。いずれも紙に置けます。「覚えておくべきこと」を減らす作業は、手抜きではなく、限られた資源を配分し直す作業です。

同じ問題でも、人によって負荷が違う

容量の限界は誰にでもありますが、実際にどれだけ苦しいかは人によって違います。差を作っているのは、既有知識の量です。スウェラーが述べたとおり、熟達者と初学者を分けるのは領域固有の知識、すなわちスキーマです。

熟達した人にとって、1つのまとまりとして処理できるものが、初学者には5つの要素に見えます。同じ問題文が、一方には軽く、他方には容量を超える負荷になる。ここが、教える側が最も誤りやすい点です。

実務的な含意は2つあります。第一に、「これくらい分かるはず」という見積もりは当てにならない。教える側は既にまとめ直しを終えているからです。第二に、負荷が高い相手には、分割して渡すしかない。励ましや反復だけでは、容量の問題は解けません。

そして、この差は固定ではありません。既有知識が増えれば、同じ内容の負荷は下がります。いま重く感じる単元も、前提が埋まれば軽くなる。つまずいている単元の前提を探しに戻る作業には、この根拠があります。

容量は増やせないが、単位は大きくできる

作業記憶の容量そのものを訓練で増やせるかについては、否定的な結果が多く報告されています。しかし、1チャンクに入る中身は増やせます。ここが実務上の突破口です。

たとえば「2次方程式の解の公式」は、最初はいくつもの要素の集まりですが、使い慣れると1つのまとまりになります。まとまりになれば、それを使っている最中に他のことを考える余裕が生まれます。

この「まとめ直し」を進めるには、反復が要ります。第1ブロックで扱った記録や締切の設計は、この反復を続けるための仕組みでもありました。つまり、認知の制約と行動の設計は、別の話ではなく地続きです。次回はこのまとめ直しの過程そのものを扱います。

説明が「分からない」ときに起きていること

授業の説明が理解できないとき、原因は3つに分けられます。どれなのかで、対処がまったく違います。

第一に、前提が欠けている場合。説明の中で当然のものとして使われた知識を持っていないと、そこから先は追えません。この場合、同じ説明を繰り返し聞いても解決しません。戻る必要があります。

第二に、速度が容量を超えている場合。内容は分かるはずのものでも、一度に提示される項目が多すぎると、保持が追いつきません。この場合は、止めて書き出す時間があれば解決します。

第三に、語の意味が分からない場合。用語が1つ分からないだけで、その語を保持し続けるために容量が使われ、後続の理解が落ちます。この場合は、その場で語だけ確認すれば戻れます。

自分がどれなのかを見分ける質問は、「説明のどこまでは追えたか」です。冒頭から追えないなら第一、途中から崩れたなら第二、特定の語で止まったなら第三です。この切り分けができると、質問の仕方も具体的になります。

よくある失敗——「ながら」で容量を分け合う

音楽を聴きながら、通知を見ながら、会話をしながら勉強する。これらはいずれも、限られた容量を分け合う行為です。作業が自動化されていれば影響は小さいのですが、新しい内容を学んでいるときほど影響が大きく出ます

厄介なのは、本人の実感が当てになりにくいことです。ながら勉強をしていても、作業は進んでいるように感じられます。感じられるのは、作業のうち自動化された部分が進んでいるからです。理解と定着が必要な部分は、そこで止まっています。

判断の材料にできるのは、実感ではなく結果です。同じ単元を、条件を変えて試し、翌日の再現率を比べる。第3回で扱った実測の話と同じで、条件の良し悪しは自分の記録で決めるのが確実です。この点は次回さらに詳しく扱います。

保護者ができること——指示を1つずつ出す

家庭で最も簡単に効くのは、指示の出し方です。次の3つを意識するだけで、子どもが動ける確率が変わります。

  1. 一度に1つ。 複数の指示は、聞いた時点で容量を超えます。忘れたのではなく、入っていません。
  2. 順番を目に見える形にする。 紙に3項目書いて渡せば、記憶に置く必要がなくなります。
  3. 勉強中に話しかけない。 一度切れた作業を戻すには、条件をもう一度頭に載せ直す必要があります。

「何度言っても忘れる」という状況の多くは、態度ではなく容量の問題です。外部化すれば消えます。

国語の長文と理科の条件整理——頭に置ける数が足りない

この考え方は、暗記科目だけでなく、計算や作文の場面にも当てはめることができます。たとえば数学の文章題では、条件を読みながら式を立て、計算し、単位を確認するという複数の作業が同時に進みます。頭の中だけで処理しようとすると、途中で条件の一部が抜け落ちることがあります。

そこで、読んだ条件をそのつど余白に短く書き出す方法が考えられます。書き出すことで頭の中の負担が減り、残った容量を式を立てる作業に使えるようになります。作文でも、構成、言い回し、表記の確認を同時に抱え込むと、どれかが抜けやすくなります。先に構成をメモに固定してから書き始めると、文を練ることに意識を向けやすくなります。

英語の長文読解でも同じです。分からない単語を一つずつ抱えたまま読み進めると、前の段落の内容が消えてしまうことがあります。設問で問われている点を先に確認し、必要な箇所に印をつけながら読むと、扱う情報を絞り込むことができます。教科が変わっても、同時に抱える項目を減らすという発想は共通しています。

条件を書き留めずに解く——途中で最初の前提が消える

手順を分割しようと決めても、実際の勉強ではうまくいかないことがあります。よくあるのは、分割の単位が細かすぎる場合です。一つずつ確認しながら進めると、今度は全体の流れが見えなくなり、かえって時間がかかることがあります。分割の粒度は、扱う内容に合わせて調整する必要があります。

また、書き出したメモを見返さずに進めてしまうこともあります。メモを取ること自体が目的になり、後で参照しなければ意味が薄れます。机の上に置く位置を決めておく、解き終えたら見返す習慣をつけるなど、参照しやすい形にしておくことが大切です。

時間帯によってもつまずき方は変わります。疲れている夜の時間帯は、昼間と同じ手順でも負担が大きく感じられることがあります。難しい内容は集中できる時間帯に回し、疲れているときは確認作業など負担の軽い作業にする、といった調整も考えられます。道具や場所を変えるだけでは解決しない点に注意が必要です。

この記事で言えないこと

作業記憶の容量については、測定の方法や課題の種類によって推定値が変わります。3〜5という数字も、まとめ直しや反復を排除した条件での推定です。実際の学習場面では、既有知識の量によって実質的な容量は大きく変わります。

また、容量の限界を知っても、どの単元でどこまで分割すべきかは自動的には決まりません。分割が細かすぎると、今度は全体像が見えなくなります。最適な粒度は、本人の既有知識によって変わるため、試して調整するしかありません。

当塾の立場

手順を3段に切る、条件を紙に出す、一度に1つだけ新しいことを扱う。いずれも費用はかかりません。

武蔵野個別指導塾で意識しているのは、説明の分量を、その生徒が一度に載せられる量に合わせることです。分かりやすい説明とは、情報量の多い説明ではありません。一度に扱う項目を減らし、まとまりができてから次へ進む。個別の形式が有効に働くとすれば、この調整ができる点にあると考えています。

出典

  1. Miller GA. The magical number seven, plus or minus two: Some limits on our capacity for processing information. Psychological Review. 1956;63(2):81-97.
  2. Cowan N. The magical number 4 in short-term memory: A reconsideration of mental storage capacity. Behavioral and Brain Sciences. 2001;24(1):87-114.
  3. Sweller J. Cognitive Load During Problem Solving: Effects on Learning. Cognitive Science. 1988;12(2):257-285.

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