評論の抽象語は知らないより文脈で使えないことが問題|武蔵野個別指導塾が薦める学習の仕方

連載「単元別のつまずき研究——その単元で、生徒は実際に何をどう誤るか」全50回の第32回です。学習の仕方の目次を見る

「筆者は何が言いたいの?」——国語の評論を読んだあと、生徒が最初に口にする言葉です。本文の文字は読めているのに、要約を書かせると「自由とは大切だと思う」のような、本文にない感想になってしまう。保護者の方からも「うちの子は読解力がなくて」と相談を受ける場面ですが、実は読解力以前に、評論で使われる抽象語そのものが壁になっていることが少なくありません。

評論には「概念」「相対化」「主体」「構造」といった語が当たり前のように出てきます。これらの語は、日常生活ではほとんど使わないのに、教科書や入試問題では前提として扱われます。生徒は一つひとつの漢字は読めても、語のまとまりとして意味をつかめず、結果として文章全体が「難しい」と感じてしまうのです。

今回は、評論用語の中でも特に抽象語がどのように生徒の理解を妨げるのか、実際の誤答例と研究知見をもとに整理します。そのうえで、机の前でできる具体的な確認手順と、学年別の注意点をまとめます。

要点(結論から)

  • 評論の抽象語は、日常語に置き換えようとするとかえって意味がずれます。「自由=わがまま」「構造=形」のような置き換えが誤読の入り口になります。
  • 抽象語は「言葉を道具として使う」視点で教える必要があります。意味を覚えるだけでなく、その語を使って考えたり説明したりする場面を作ることが重要です。
  • 生徒がつまずくのは、語の辞書的な意味を知らないこと以上に、文脈の中でその語が何を指しているかを追えていないことです。

結論——抽象語は「知らない単語」ではなく「文脈で使えない単語」として扱う

  • 評論の抽象語は、日常語に置き換えようとするとかえって意味がずれます。「自由=わがまま」「構造=形」のような置き換えが誤読の入り口になります。
  • 抽象語は「言葉を道具として使う」視点で教える必要があります。意味を覚えるだけでなく、その語を使って考えたり説明したりする場面を作ることが重要です。
  • 生徒がつまずくのは、語の辞書的な意味を知らないこと以上に、文脈の中でその語が何を指しているかを追えていないことです。
  • 抽象語の指導は、国語の時間だけで完結させず、他教科の文章でも同じ語を意識させることで定着しやすくなります。
  • まずは「この語を筆者はどういう意味で使っているか」を本文に即して確認する習慣を作ることが、評論読解の土台になります。

理由——抽象語は「読むための道具」であり、文脈の中でしか身につかない

抽象語は日常語と違い、具体物を指さない

「机」「走る」「赤い」のような語は、目の前の物や動作と結びつけて覚えられます。しかし「概念」「位相」「措定」のような評論用語は、指させる具体物がありません。生徒は辞書を引いても、そこに書かれた説明自体にまた抽象語が含まれているため、意味がつかめないという二重の壁に直面します。

たとえば「概念」を辞書で引くと「物事の本質をとらえた思考の形」などと出てきますが、「本質」「思考」もまた抽象語です。生徒は「結局どういうこと?」となり、辞書を閉じてしまいます。ここで必要なのは、辞書の説明をさらにやさしく言い換えることではなく、その語が実際に使われている文脈に戻って「何を指しているか」を確認する作業です。

抽象語は、単独で覚えようとすると必ず行き詰まります。語と語の関係の中で、その語がどんな役割を果たしているかを見ることで、初めて意味が安定します。この点を指導者が意識しているかどうかで、生徒の定着度は大きく変わります。

研究は「学術語彙は言語習得の一部」と捉える

学術的な文章で使われる語彙は、日常会話の語彙とは別の層をなしています。研究では、学術語彙の重要性と、それが読み手に求める負荷の大きさが指摘されています。

Nagy W, Townsend D. Words as Tools: Learning Academic Vocabulary as Language Acquisition. Reading Research Quarterly. 2012;47(1):91-108.

この研究は、学術語彙を「言葉を道具として使う」という比喩で説明しています。つまり、学術語彙は単なる知識ではなく、教科の内容について考えたり伝えたりするための道具だという理解です。道具は、使ってみないことには使い方が身につきません。同じように、抽象語も実際に使う場面を通して学ぶ必要があります。

ここで重要なのは、学術語彙の指導が「一般的な学術語」と「教科固有の語」の両方に及ぶという点です。評論で出てくる「相対化」「還元」「超越」などは、国語だけでなく社会や理科の文章にも現れます。逆に言えば、国語の授業で抽象語の扱い方を学べば、他教科の読解にも転用できるということです。

また、この研究は学術言語が読み手と書き手の双方に要求を突きつけると述べています。読み手は抽象語を文脈の中で解釈し、書き手は抽象語を使って論を組み立てる。この双方向の営みを意識すると、評論を「読む」だけでなく「書く」活動と結びつける指導の意義も見えてきます。

語彙指導は「たくさん覚える」から「使い方を学ぶ」へ

語彙指導というと、単語帳や一問一答で意味を暗記するイメージがあります。しかし、評論用語のような抽象語は、暗記では対応できません。文脈によって意味の幅が変わるからです。たとえば「主体」という語は、哲学の文脈では「認識や行為の担い手」を指しますが、法律の文脈では「権利義務の帰属者」を指します。同じ語でも、使われる分野によって輪郭が変わります。

McLaughlin E, Goldstein P. Book Review: Bringing Words to Life: Robust Vocabulary Instruction. Gifted Education International. 2015;32(1):78-80.

この書評が取り上げる語彙指導の考え方も、語を文脈から切り離して覚えさせるのではなく、生きた文脈の中で繰り返し触れさせることの重要性を示しています。評論用語も同じで、一度辞書で調べて終わりではなく、複数の文章の中で同じ語に出会い直す経験が欠かせません。

生徒が「この語、前にも見た」と気づいたとき、語彙は単なる暗記項目から、文章を読むための道具に変わります。指導者は、その「再会」の機会を意図的に作ることができます。たとえば、評論で「相対化」を学んだあとに、社会科の資料で「自文化を相対化する」という表現が出てきたら、それを指摘するだけで定着が進みます。

抽象語の指導で避けたいのは、最初から完璧な定義を求めすぎることです。生徒は、語の意味を少しずつ更新しながら身につけていきます。最初は「なんとなく、他の立場から見ること」程度の理解でも、使う場面を重ねるうちに精度が上がります。この段階的な理解を許容することが、結果的に深い定着につながります。

誤答の例——抽象語を「日常の意味」で読んでしまう

よくある誤答 その子が考えていること 確かめる問いかけ
「自由とは、何をしても許されることだ」と要約する 「自由」を日常の「わがまま」「禁止されない」という意味で捉えている 筆者は「自由」にどんな条件をつけている? 本文の「自由」の直後に何と書いてある?
「近代社会は個人を尊重するから良い」と筆者の主張を道徳的に読む 「個人」を「ひとりひとりを大事にすること」という価値語として読んでいる 筆者は「個人」を良いものとしてだけ書いている? 「個人」が生む問題について何か述べていない?
「筆者は伝統を否定している」とまとめる 「相対化」を「否定」と同じ意味だと思っている 「相対化」と「否定」はどう違う? 筆者は伝統を「捨てる」と言っている? それとも「別の見方もできる」と言っている?
「アイデンティティとは自分らしさのことだ」と本文の説明を無視して書く 日常語の「自分らしさ」で十分説明できた気になっている 筆者は「アイデンティティ」を「自分らしさ」とだけ定義している? 「関係の中で作られる」という記述はどう扱う?
「構造が見えないと書いてあるから、筆者は悲観的だ」と読む 「構造」を「建物の骨組み」のような固定した物としてイメージしている ここでの「構造」は何と何の関係を指している? 筆者はそれを「見えない」と言うことで何を説明しようとしている?

机の前で1対1で確かめる手順は、次のように進めます。

  1. まず、生徒が引っかかった抽象語を一つ選び、その語が出てくる文を音読させます。語の意味を聞く前に、必ず本文の該当箇所に戻ります。
  2. 次に、その語の直後と直前に何が書いてあるかを確認します。抽象語は、前後の説明や言い換えとセットで出てくることが多いからです。
  3. そのうえで「筆者はこの語を、どんな意味で使っている?」と聞きます。辞書の意味ではなく、本文中の意味を答えさせます。
  4. 生徒が日常の意味で答えたら、その答えを本文に当てはめて読み直させます。「その意味で読むと、この文はつじつまが合う?」と問いかけます。
  5. 最後に、同じ語が別の段落や別の教科の文章で出てきたら、意味が同じか違うかを比べさせます。これで語の意味が文脈依存であることを体感させます。

小学生の場合、抽象語そのものに触れる機会は限られますが、「自由」「個性」「きまり」といった道徳や社会で出てくる語を、文脈に戻って確認する習慣を作ることができます。語の意味を辞書で調べて終わりにせず、「この文章ではどういう意味で使われている?」と聞くだけで、抽象語への構えが変わります。

中学生になると、評論文らしい文章が増え、「概念」「相対的」「主体」などの語が頻出します。この時期は、抽象語を「難しいから避ける」のではなく、「前後の文で説明されているはず」という前提で読む姿勢を育てることが大切です。また、社会科の教科書に出てくる同じ語と突き合わせると、語の汎用性に気づけます。

高校生では、入試問題の評論で「措定」「超越論的」「還元主義」といった高度な抽象語が出てきます。この段階では、語の意味を辞書で調べるだけでなく、その語が筆者の論のどの部分を支えているかを意識させます。抽象語は筆者の思考の道具なので、その語を外すと論がどう崩れるかを考えると、語の機能が見えてきます。

よくある誤読——「抽象語を覚えれば読める」は半分だけ正しい

誤用されがちな研究結果:「学術語彙が重要」→「単語帳で覚えさせればよい」

学術語彙の重要性を説く研究は、「とにかく学術語をたくさん覚えさせれば読解力が上がる」という主張に短絡されがちです。しかし、研究が示しているのは、学術語彙は「言語習得の一部」であり、文脈の中で使うことを通して身につくという点です。単語帳で意味を暗記するだけでは、評論の読解にはつながりにくいのです。

実際、生徒に「概念」の意味を暗記させても、翌週には忘れているか、本文中で「概念」が出てきても気づかないことがあります。暗記した語彙は、文章の中でその語を認識する力とは別物だからです。語彙指導の効果を高めるには、覚えた語を実際の文章の中で探し、使ってみる活動が欠かせません。

この誤用は、指導者側にも起こります。「評論用語集を買って覚えさせよう」という発想は、手軽ですが、それだけでは不十分です。語彙集はあくまで補助であり、中心は本文に戻って語の使われ方を確認することに置くべきです。

正しい読み方:抽象語は「文脈の中で意味が決まる」という前提で読む

研究知見を正しく読むなら、抽象語の指導は「語の意味を教える」こと以上に「語の意味を文脈から推測し、検証する」力を育てることに重心があります。生徒が未知の抽象語に出会ったとき、まず辞書ではなく本文の前後を見る。この習慣が、評論読解の基礎体力になります。

また、抽象語は一度で完全に理解できるものではありません。同じ語に複数の文章で出会い、そのたびに意味を微調整していく過程が重要です。指導者は、生徒が「前と違う意味で使われている」と気づいた瞬間を逃さず、その違いを言語化させるとよいでしょう。

さらに、抽象語の理解は「読む」だけでなく「書く」ことと結びつけると深まります。学んだ抽象語を自分の文章で使ってみることで、語の意味の輪郭がはっきりします。要約や意見文を書く際に、学んだ語を一つでよいので使わせるという課題設定が有効です。

今週やること——抽象語を「文脈で確認する」習慣を3段階で作る

  1. 生徒が今読んでいる評論から、抽象語を3つ選び、それぞれの語が出てくる文の前後を書き出させます。語の意味を聞く前に、まず「筆者はこの語をどう説明しているか」を本文から探させます。
  2. 選んだ語のうち1つについて、日常の意味と本文中の意味を比べる表を作らせます。「日常ではこう使う」「この文章ではこう使われている」の2列を埋めるだけで、語の文脈依存性に気づけます。
  3. 学んだ抽象語を1つ使って、本文の要約を3文で書かせます。語を使うことで、理解があいまいな部分が浮き彫りになります。書いた要約は、本文と突き合わせて「その語の使い方は筆者の使い方と同じか」を確認します。

この記事で言えないこと

第一に、この記事で述べた抽象語の指導は、すべての生徒に同じ効果をもたらすとは限りません。語彙の定着には、生徒の既存の語彙量や読書経験、学習への動機など、多くの要因が関わります。抽象語に強い苦手意識を持つ生徒には、ここで示した手順が負担になることもあります。

第二に、研究知見は学術語彙の指導一般に関するものであり、日本の中学・高校の国語科で扱う評論用語にそのまま当てはまるとは限りません。言語の違いや教育課程の違いを考慮する必要があります。また、個々の抽象語の教え方について、これが唯一の正解というわけではありません。

第三に、抽象語の理解と評論全体の読解力は、同じではありません。抽象語を一つひとつ確認できても、文章全体の論理展開を追う力や、筆者の主張を批判的に検討する力は別の指導が必要です。この記事で扱ったのは、あくまで評論読解の入り口にある語彙の壁です。

当塾の立場

抽象語の文脈確認は、家庭でも十分にできることです。本文を前にして「この語、どういう意味で使われている?」と問いかけるだけで、お子さんの読み方は変わります。特別な教材も、塾の授業も、必ずしも必要ではありません。まずはご家庭で、辞書を引く前に前後の文を見る習慣をつけてみてください。

そのうえで、塾が担えるとすれば、抽象語の「再会」の機会を意図的に設計することです。当塾では、国語の評論で出てきた抽象語を、社会や理科の文章の中で見つけたときに、講師がすかさず「これ、前にやった語だね。意味は同じ? 違う?」と問いかけます。この一言で、語彙が単なる暗記項目から、教科を横断する道具に変わる瞬間を、これまで何度も見てきました。

出典

  1. McLaughlin E, Goldstein P. Book Review: Bringing Words to Life: Robust Vocabulary Instruction. Gifted Education International. 2015;32(1):78-80.
  2. Nagy W, Townsend D. Words as Tools: Learning Academic Vocabulary as Language Acquisition. Reading Research Quarterly. 2012;47(1):91-108.

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