図形の証明——「読む訓練」は2コマで効くが、読めることと書けることは別の技能だった

図形の証明——証明を読める・書ける中学生の条件

中学2年で三角形の合同を使った証明が始まり、3年で相似や円周角へと広がります。高校入試でも、図形の大問の中に証明を書かせる問題が置かれることは珍しくありません。

保護者の方からよく聞くのは、「解説を読めば分かるのに、白紙から書けない」という声です。一方で生徒本人は、「何を書けば証明になるのか分からない」と言います。

この二つの声は、数学教育研究では別々の能力として扱われてきました。証明を「読んで理解する力(proof comprehension)」と、証明を「作る力(proof construction)」です。この記事は、証明を読む力はどう測られ、どう教えられるのか、そして読めることは書けることにつながるのかを、研究から検討します。

一言でいうと(この記事の結論)
証明を「読む」訓練は効きます。中学3年生683人の準実験で、読解中心の課題を2コマ行った群は、証明を書いて応用する従来の授業より、遅延テストで有意に高い得点でした [2]自分に説明させる訓練も、証明の理解を大きく改善しました(d = 0.950) [5]
ただし、読める力と書ける力は別の技能です [15]。口頭では正しく推論できる生徒の多くが、2列形式の証明にその推論を書き込めませんでした [13]
——「読む→口で言う→書く」の3段を、別々に練習する必要があります。

  1. 証明を読む力は6つの側面からなる構成概念として定式化されている [1]
  2. 読解中心の課題(2コマ×45分)は、応用の側面を除くすべての側面で、従来型より高い得点を生んだ [2]
  3. 中学3年生533人で、メタ認知的な読み方略が認知的な読み方略を統御し、それが証明の読解を直接左右していた [3]
  4. 自己説明訓練の冊子は証明の理解を改善し(d = 0.950)、15分の自習でも効果が持続した [5]
  5. 中学2年生では、答えが複数ある「オープンな」フローチャート証明が、証明の構造の理解を支えた [7]
  6. 反証として、証明を「完成させる」課題は学習を損ない、自己説明の促しと組み合わせると特に悪かった [6]
  7. 反証として、形式的な証明を重視するカリキュラムへの移行期に、多くの生徒がほとんど伸びず、後退した生徒もいた [11]
マインドマップ図解:図形の証明——「読む訓練」は2コマで効くが、読めることと書けることは別の技能だった
図:この記事の構造(Mapifyで作成したマインドマップ)

1. 証明は、どれくらい書けていないのか

Senk は、中等学校で幾何を学ぶ生徒1,520人の証明の答案を調べ、「かなり低い水準」の達成しか見られなかったと報告しました [9]。これは1985年の報告ですが、証明の困難はその後も繰り返し確認されています。

高校2年生を対象に、5種類の証明読解テストを実施した研究では、最も高度な水準——証明を別の方法で行う、同じ証明方法で別の定理を証明する——に到達した生徒は一人もいませんでした。最も成績が良かったのは、定義・性質・記号の意味についての知識の水準で、より高い数学的技能を要する要素ほど理解は下がりました [4]

ある調査研究は、中学2年相当(13歳)と3年相当(14歳)の生徒の証明の考え方を追いました。生徒の方略は「経験的(いくつか例を試す)」「焦点化された経験的」「焦点化された演繹的」の3段階に区別でき、1年の間に焦点化された方略への移行がいくらか見られました [10]

一言でいうと
証明の困難は、記号や定義の段階ではなく、「論理のつながり」の段階で起きます [4]
——合同条件を覚えていても、どの事実がどの結論を支えているかが見えていなければ、証明は書けません。

2. 「証明を読む力」とは何か

Yang と Lin は、幾何の証明を読む力(reading comprehension of geometry proof)を体系化しました。文献と、数学者・数学教師への面接をもとに、言語の読解の段階になぞらえて6つの側面に分類し、生徒の成績を多次元尺度法で分析してその構造を確かめています [1]

ここで重要なのは、読解を「論理的な意味」と「認識的な意味」の区別から組み立てた点です [1]。つまり、ある一文が仮定なのか、結論なのか、根拠なのかという文の論理的な地位を理解することが、証明を読む力の中核に置かれています。

読み方の違いも調べられています。中学3年生533人に証明の読解テストと読み方略の質問紙を実施した研究では、計画や理解の監視といったメタ認知的な方略が、要素を結びつけるなどの認知的な方略の使い方を統御し、その認知的方略が読解を直接左右していました読むのが上手な生徒ほど、計画と監視のためのメタ認知的方略と、証明を掘り下げる認知的方略を多く使っていました [3]

3. 読む力は教えられるか

読解中心の課題:中学3年生683人の準実験

Yang と Lin は、22学級の中学3年生683人と教師12人で、読解中心の課題と、書くことを中心とした課題を比べました [2]

実験群(読解中心) 統制群(書くこと中心)
内容 読み方略と「問いを作る」考え方を組み込んだ課題を読み、話し合う 同じ命題を証明し、応用する(通常の証明指導)
時間 45分×2コマ 同じ
結果 遅延テストの合計得点は実験群が有意に高い。応用の側面を除くすべての側面で、直後テスト・遅延テストとも実験群が有意に高い

わずか2コマで、しかも時間がたってからのテストで差が出たという点が重要です [2]

自己説明訓練:d = 0.950

ある研究は、証明の中の論理的な関係に注意を向けさせる自己説明訓練の冊子を使った3つの実験を報告しています [5]。自己説明とは、読みながら「この行はなぜ前の行から言えるのか」を自分に説明することです。

  1. 実験1——訓練を受けた学生は説明の質が高く、理解テストの成績も良かった(効果量 d = 0.950)
  2. 実験2——訓練は認知的な関与を高め、証明の中で視線を行き来させる頻度を増やした
  3. 実験3——講義内の15分の自習でも理解が改善し、効果は時間がたっても持続した

効果量 d は平均の差を標準偏差で割った値で、0.8以上は大きいとされます。ただし対象は大学生です。中学生に同じ大きさの効果が出るとは限りません。

中学2年生:フローチャート証明

宮崎らは、中学2年生(13〜14歳)の学級を分析し、証明の筋道をフローチャート(矢印でつないだ図)で表し、しかも結論に至る道筋が複数ある「オープンな問題」として扱う方法を検討しました。その結果、仮定と結論をつなぐ様々な機会を与えることで、証明の構造的な理解の発達を支えたと報告しています [7]

フランスと日本の中学校の教科書・学習指導要領を比べた研究は、両国で証明の性質が異なり、その違いは教える幾何の理論の性質と、証明の主な機能(正当化・体系化・伝達)に結びついていると指摘しました [8]

一言でいうと
証明は「書かせる」前に「読ませる」ことで、理解が伸びます [2]
——そのとき効くのは、各行がなぜ言えるかを自分に説明させること [5] と、仮定から結論への道筋を図で見せること [7] です。

4. 【反証】読めても書けない、教えても伸びない

反証1:読む力と書く力は別の技能である

大学の数学専攻153人のデータで、証明の理解・妥当性の判断・構成(書くこと)の関係を5つの構造方程式モデルで比べた研究は、「証明を書く力」と「証明を理解・判断する力」の2次元モデルが最もよく当てはまると報告しました。両者は強く関連するものの、別の技能として扱うべきだというのが結論です [15]

中学3年生683人の研究でも、読解中心の課題は「応用」の側面だけは統制群を上回りませんでした [2]。読めるようになることが、そのまま使えることにはつながっていません。

反証2:口では言えても、書式に書き込めない

米国の高校幾何の生徒への1対1の面接で、三角形の合同を使った証明を口頭で説明させ、その後2列形式(左に主張、右に根拠を書く形式)で書かせた研究では、大半の生徒が口頭では妥当な推論をしていたのに、その推論の多くが書かれた証明に取り込まれず、形式化の失敗と致命的な論理の飛躍が生じていました [13]

2列形式そのものの効果も一方向ではありません。大学1年生80人の実験では、2列形式で書くと根拠の記述は増えましたが、同時に説明になっていない言い換えも増えました [14]

反証3:「完成させる」練習は逆効果になりうる

教員志望の学生111人を対象にした実験では、証明の考え方の過程を示した例題(ヒューリスティックな例題)で学ぶと、証明の技能と概念的知識が統制条件より有意に向上しました。ところが、例題の空欄を埋めて完成させる課題は学習を損ない、自己説明の促しと組み合わせると特に悪い結果でした。自己説明の促しだけを与えた場合は、概念的知識と技能の両方が伸びました [6]

中学の問題集によくある「証明の穴埋め」は、この結果とは相性がよくありません。

反証4:形式化を急ぐと、伸びない生徒が出る

成績上位の生徒を3年間追った縦断研究では、非定型の幾何の問題への反応に知覚的な推論から幾何学的な推論への緩やかな移行が見られた一方で、多くの生徒がほとんど伸びず、後退した生徒もいました。面接からは、その背景として学校の幾何カリキュラムがより形式的な方向へ移ったことが浮かび上がりました [11]

反証5:例を使うことは、証明の理解を妨げない

「例で確かめさせると証明の必要性が分からなくなる」という懸念もありますが、高校生17人の研究は、例を多く使っても、生徒の数学的証明への理解は妨げられなかったと結論しています [12]。12〜14歳の生徒の研究でも、生徒は例による論証を好む傾向があったものの、例に「なぜ成り立つか」の説明が添えられた論証を最も納得できると答える生徒が相当数いました [16]

一言でいうと(反証のまとめ)
読む訓練は効くが、書く力は別に育てる必要があります [15]
口で言えることを書式に移す段階 [13] と、穴埋めに頼らない練習 [6] が、見落とされやすい落とし穴です。

5. 実務——「読む・言う・書く」の3段練習

1回20分、週3回を目安にした手順です。

  1. 読む(7分):教科書の証明を1つ、各行に「なぜ」を書き込む。行の横に「仮定」「前の行から」「合同条件」などの根拠を小さく書きます。自己説明が理解を改善したという研究 [5] に沿った作業です。穴埋め式の問題集はこの段階では使いません [6]
  2. 図にする(3分):仮定から結論までを矢印でつなぐ。「AB=AC」「∠B=∠C」などを箱に書き、どの箱がどの箱を支えるかを矢印で示します。道筋が複数ありうる問題なら、別の道も1本描きます [7]
  3. 言う(5分):本を閉じて、保護者に口頭で説明する。保護者は数学が分からなくてかまいません。「なぜそう言えるの?」と各段階で1回ずつ聞くだけで十分です。
  4. 書く(5分):口で言った順に、白紙に書く。書き終えたら、口頭の説明で言った根拠がすべて答案に入っているかを照合します。口頭の推論が答案から抜け落ちるのが典型的な失敗だからです [13]

1つの証明について、読む日と書く日を分けても構いません。読解と構成は別の技能なので [15]、読めた翌日に白紙から書けるかを確かめる方が、書けない箇所がはっきりします。

この記事で言えないこと

  • 自己説明の d = 0.950 [5] と、例題の研究 [6] は、大学生・教員志望の学生での結果です。中学生への効果の大きさは分かりません。
  • 読解中心の課題の研究 [2] は準実験で、無作為化比較試験ではありません。
  • 「読む・言う・書く」の3段練習そのものを検証した研究はありません。複数の研究から組み立てた手順です。
  • 日本の高校入試の証明問題の採点基準や部分点の扱いは、都道府県・学校・年度で異なるため扱っていません。

当塾の立場

塾に来なくても、家庭でできることがあります。

  • 教科書の証明の各行に「なぜ言えるか」を書き込む
  • 仮定から結論までを矢印の図にする
  • 本を閉じて、家族に口で説明する
  • 口で言った根拠が答案に全部入っているかを照合する

それでも個別指導を使う理由を、この記事の研究に即して3つ挙げます。

  1. 「口では言えるのに書けない」を、その場で捕まえられること。口頭の推論が答案から抜け落ちるのが典型でした [13]。1対1なら、口頭の説明と答案を並べて、抜けた根拠を特定できます。
  2. 読む力と書く力を、別々に診断できること。両者は別の技能です [15]。どちらが弱いかで、使う教材と時間配分を変えます。
  3. 穴埋めに頼らない指導ができること。完成課題は学習を損ないうるため [6]、各行の根拠を生徒自身に説明させる形で進めます [5]

塾を選ぶときは、次のように聞いてみてください。

  • 証明が書けない原因を、「読めない」と「書けない」のどちらか区別して見ていますか
  • 証明の穴埋め問題を、どの段階で、どれくらい使いますか
  • 生徒に証明を口頭で説明させる時間はありますか

まとめ

  1. 証明の困難は、記号や定義より「論理のつながり」の段階で起きます [4]
  2. 読解中心の課題2コマで、証明の読解は遅延テストでも従来型を上回りました [2]
  3. 自己説明訓練は証明の理解を大きく改善しました(大学生、d = 0.950) [5]
  4. フローチャートでオープンに証明を扱うと、構造の理解が支えられました [7]
  5. 反証として、読む力と書く力は別の技能で [15]口頭の推論は書式に移す段階で抜け落ちました [13]
  6. 穴埋めで完成させる課題は学習を損ないえます [6]
  7. 家庭では「読む・図にする・言う・書く」を分けて練習します。

出典

本文中の番号に対応します。抄録に直接あたって確認したものだけを挙げています。結論に反する研究も、同じ基準で載せています。

  1. 【証明読解のモデル】Yang, K.-L. & Lin, F.-L. (2008). A model of reading comprehension of geometry proof. Educational Studies in Mathematics. DOI: 10.1007/s10649-007-9080-6
  2. 【読解中心の課題・中学3年生683人】Yang, K.-L. & Lin, F.-L. (2012). Effects of reading-oriented tasks on students’ reading comprehension of geometry proof. Mathematics Education Research Journal. DOI: 10.1007/s13394-012-0039-2
  3. 【読み方略の構造・533人】Yang, K.-L. (2012). Structures of cognitive and metacognitive reading strategy use for reading comprehension of geometry proof. Educational Studies in Mathematics. DOI: 10.1007/s10649-011-9350-1
  4. 【高校生の証明読解テスト】İnam, B., Uğurel, I. & Boz Yaman, B. (2018). High School Students’ Performances on Proof Comprehension Tests. International Journal of Assessment Tools in Education. DOI: 10.21449/ijate.416261
  5. 【自己説明訓練・d = 0.950】Hodds, M., Alcock, L. & Inglis, M. (2014). Self-Explanation Training Improves Proof Comprehension. Journal for Research in Mathematics Education. DOI: 10.5951/jresematheduc.45.1.0062
  6. 【反証・完成課題の逆効果】Hilbert, T. S., Renkl, A., Kessler, S. & Reiss, K. (2008). Learning to prove in geometry: Learning from heuristic examples and how it can be supported. Learning and Instruction. DOI: 10.1016/j.learninstruc.2006.10.008
  7. 【フローチャート証明・中学2年】Miyazaki, M., Fujita, T. & Jones, K. (2015). Flow-chart proofs with open problems as scaffolds for learning about geometrical proofs. ZDM. DOI: 10.1007/s11858-015-0712-5
  8. 【日仏の証明の比較】Miyakawa, T. (2017). Comparative analysis on the nature of proof to be taught in geometry: the cases of French and Japanese lower secondary schools. Educational Studies in Mathematics. DOI: 10.1007/s10649-016-9711-x
  9. 【証明の達成水準・1,520人】Senk, S. L. (1985). How Well Do Students Write Geometry Proofs? The Mathematics Teacher. DOI: 10.5951/mt.78.6.0448
  10. 【13〜14歳の論理的含意の理解】Hoyles, C. & Küchemann, D. (2002). Students’ understandings of logical implication. Educational Studies in Mathematics. DOI: 10.1023/a:1023629608614
  11. 【反証・伸びない生徒と後退】Küchemann, D. & Hoyles, C. (2006). Influences on Students’ Mathematical Reasoning and Patterns in its Development: Insights from a Longitudinal Study with Particular Reference to Geometry. International Journal of Science and Mathematics Education. DOI: 10.1007/s10763-006-9039-6
  12. 【例は証明の理解を妨げない】Chazan, D. (1993). High school geometry students’ justification for their views of empirical evidence and mathematical proof. Educational Studies in Mathematics. DOI: 10.1007/bf01273371
  13. 【反証・口頭の推論が答案に入らない】Winer, M. L. & Battista, M. T. (2022). Investigating Students’ Proof Reasoning: Analyzing Students’ Oral Proof Explanations and Their Written Proofs in High School Geometry. International Electronic Journal of Mathematics Education. DOI: 10.29333/iejme/11713
  14. 【2列形式の効果と副作用】Alarfaj, M. & Sangwin, C. (2022). Investigating a potential format effect with two-column proofs. Teaching Mathematics and its Applications. DOI: 10.1093/teamat/hrab028
  15. 【反証・読む力と書く力は別】Neuhaus-Eckhardt, S., Sommerhoff, D., Rach, S. & Ufer, S. (2025). Proof Comprehension, Proof Validation, & Proof Construction: All the Same or Different Skills? International Journal of Science and Mathematics Education. DOI: 10.1007/s10763-025-10621-3
  16. 【12〜14歳が納得する論証】Bieda, K. N. & Lepak, J. (2014). Are You Convinced? Middle-Grade Students’ Evaluations of Mathematical Arguments. School Science and Mathematics. DOI: 10.1111/ssm.12066

関連する既存記事

高校受験の研究(全10本)

ほかの入試区分の研究記事


Warning: Attempt to read property "show_author" on false in /home/c1531448/public_html/musasinokobetu.com/wp-content/themes/heal_tcd077/single.php on line 165

関連記事

PAGE TOP
お電話