大学の高校生向けプログラムは進学と適応を変えるか——厳密に比べると効果は揺らいだ

大学の高校生向けプログラムに参加すると、進学や入学後は変わるのか

大学が高校生向けに開くプログラムは、年々増えています。夏休みの体験講座、研究室での数日間の実習、大学の授業の先取り履修、学部の模擬授業——総合型選抜の準備として「参加しておくと有利か」「志望理由書に書けるか」と考える人も多いでしょう。

この記事で考えたいのは、その一歩手前の問いです。大学進学前のプログラム(pre-college programs)に参加すると、進学・専攻の選択・入学後の適応は実際に変わるのか。そして、変わるとすれば、どんなプログラムで、誰にとってなのか

この分野の研究は、主に米国と英国で蓄積されています。低所得層や大学進学者の少ない家庭の生徒を対象にした「進学機会の拡大」を目的とするプログラムが多く、日本の大学が一般の高校生向けに開くプログラムとは目的も対象も違います。この違いを意識しながら読んでいきます。

一言でいうと(この記事の結論)
大学の夏季プログラムへの参加は、STEM分野の職業への志望や、入学後1年目の成績・在籍継続と関連していました。しかし、無作為化比較で見ると効果がはっきりしないプログラムもあり良い結果の多くは、もともと意欲の高い生徒が参加したことによる可能性を排除できません。効果が報告されやすいのは、現実の問題に触れる内容や、学業の単位・人的な支援と組み合わさったプログラムでした。

  1. 27の大学の高校生向けSTEM夏季プログラムの参加者845人は、統制群15,002人と比べてSTEM職業を志望するオッズが1.4倍でした [1]
  2. STEMの現実世界での意義を体験したプログラムでは、そのオッズは1.8倍でした [1]
  3. 16の大学入学前夏季橋渡しプログラムのメタ分析で、1年目のGPAに d = 0.34、在籍継続にオッズ比 1.747の効果がありました [6]
  4. 高校生の大学科目の先取り履修(デュアル・エンロールメント)は、大学への進学と学位取得に正の効果が確認されました [12]
  5. 【反証】全国評価で、進学支援プログラム「アップワード・バウンド」は、進学・学位取得に検出できる効果を示しませんでした [9]
  6. 【反証】6週間の住み込み型プログラムの無作為化比較で、1年目のGPAには識別できる効果がありませんでした [2]
  7. 【反証】夏季橋渡しプログラムの効果研究37件の多くは、背景要因を統制しない記述的・観察的なものでした [7]
マインドマップ図解:大学の高校生向けプログラムは進学と適応を変えるか——厳密に比べると効果は揺らいだ
図:この記事の構造(Mapifyで作成したマインドマップ)

1. 「高校生向けプログラム」を種類で分ける

研究で扱われるプログラムは、目的と時期でおおまかに4つに分けられます。

種類 時期と内容 主な研究
体験型の夏季プログラム 高校在学中に、大学で数日〜数週間の講座や実習 [1] [4]
長期の進学支援 高校の数年間にわたる指導・助言・夏季講座 [9] [10] [11]
大学科目の先取り履修 高校在学中に大学の単位を取得 [12]
入学前の橋渡し 合格後から入学までの夏に、大学で準備講座 [2] [3] [6]

種類によって、測られている成果も、証拠の強さも違います

一言でいうと
「大学のプログラムは効果がある/ない」と一括りにはできません。いつ、何を、どれくらいの期間行うプログラムかを分けて見る必要があります。

2. 体験型の夏季プログラム——志望は変わるか

Kitchen らは、米国の国立科学財団のSTEM人材拡充プログラムに参加する27の大学のデータを使い、高校生向けSTEM夏季プログラムへの参加が高校卒業時の職業志望にどう関わるかを調べました [1]

  • 対象はプログラム参加者845人と統制群15,002人。背景の違いは傾向スコアによる重みづけで調整した
  • 参加者は、STEM職業を志望するオッズが1.4倍だった
  • プログラムの設計を詳しく見ると、STEMの現実世界での意義を体験した生徒では1.8倍だった

もう少し年少の段階では、中学1年相当の学年で才能発掘の検査を受け、大学の夏季プログラムに参加する資格を得た生徒を、参加した群と参加しなかった群で比べた研究があります [4]。2つの群は性別・親の学歴・民族で有意な差がありませんでした。

  • 数学のプログラムに参加した生徒は、高校でAP(大学レベル)数学の科目を多く履修したが、他の上級数学や他教科への効果はなかった
  • 数学・理科の講座を受けた生徒は、大学で数学・理科を専攻する割合が高かった
  • 参加者のほうが、博士号の取得を志す割合が高かった

ただし、2つの研究はいずれも無作為化比較ではありません。背景の違いを調整しても、「参加しようと決めた」こと自体に表れる意欲の差は残りえます。

3. 入学前の橋渡しプログラム——1年目の成績と在籍継続

大学に入学が決まった学生向けの夏季プログラムについては、メタ分析があります。Bradford らは16のSTEM夏季橋渡しプログラムを統合し、1年目の全体GPAに d = 0.34、1年目の在籍継続にオッズ比 1.747という中程度の効果を報告しました [6]。著者らは、利用できるデータが限られることも明記しています。

25年分の文献を系統的にレビューした研究は、30のSTEM橋渡しプログラムに関する46の報告から、プログラムの目標を学業の成功、心理社会的な目標、学部レベルの目標という3分類・14種類に整理しました [5]

比較的厳密な設計の研究も出てきています。ある大学の8週間の入学前夏季プログラムを、ファジー回帰不連続デザイン(選抜の基準点のすぐ上と下の学生を比べる方法)で評価した研究は、1年目の修了と2年目の在籍継続を大きく改善したと報告しています [13]。この参加者には年2,500ドルの奨学金も支給されていましたが、類似の奨学金制度との比較から、著者は夏季の講座・学業の指導・仲間の支えを束ねたことが効果の中心だと論じています。

一言でいうと
入学前の橋渡しプログラムには、1年目の成績と在籍継続への中程度の効果が報告されています。効果が出やすいのは、講座だけでなく、指導や仲間とのつながりを組み合わせた場合でした。

4. 【反証】厳密に比べると、効果が見えなくなるプログラムもある

全国評価で、進学への効果が検出されなかった

米国の連邦政府による進学支援プログラム「アップワード・バウンド」は、恵まれない家庭の生徒が高校1・2年から参加し、指導・個別学習支援・助言を受けるものです。67のプロジェクトから約1,500人の参加群と約1,300人の統制群を比べた全国評価の第1段階では、多くの生徒が短期間しか参加しておらず、高校在学中への効果は限られ、高校卒業への効果は見られませんでした [10]。一方で、当初の教育期待が低い生徒や成績が低い生徒には、より明確な正の効果がありました。

高校卒業予定から7〜9年後までを追った最終報告では、職業学校の資格や免許の取得がわずかに増えた以外、進学、奨学金の申請や受給、学士・準学士の学位取得に検出できる効果はありませんでした [9]

対照的に、理数系に特化した「アップワード・バウンド数学・理科」の評価では、4年制大学への進学、より選抜性の高い大学への進学、数学・理科の履修、学位の取得が増えたと報告されています [11]。同じ名前の事業でも、内容によって結果が分かれました。

住み込み型プログラムでも、GPAは動かなかった

選抜性の高い大学が、第一世代・低所得層の学生418人のうち232人を無作為に選び、単位の出る6週間の住み込み型の夏季プログラムに招いた無作為化比較試験があります [2]。事前登録した分析では、プログラムは学生により意欲的な1年目の履修を促し、入門以外の科目の割合を7ポイント、合否判定ではなく成績評価で受ける科目の割合を6ポイント高めました。しかし、1年目のGPAと学業上の退学には識別できる効果がありませんでした

見かけの効果は、入学後の経験で説明された

ある大学の夏季橋渡しプログラムの縦断研究では、参加は1年目のGPAと在籍継続を有意に予測しましたが、1年目の大学での経験と学生の成長を統制すると、その関係は有意でなくなりました [3]。著者らは、プログラムの効果はおそらく間接的で、参加者を1年目の支援の網につなげられるかどうかに左右されると述べています。

研究の多くは、比較の設計が弱い

STEM専攻の入学者向け夏季橋渡しプログラムの学業効果を、統制群のある研究に絞って検討したスコーピングレビューは、37の研究・33のプログラムを含めました [7]。証拠の多くは記述的・観察的で、統制変数を用いていないものでした。背景変数を統制した研究は少なく、成果の多くは短期的で、卒業率のような長期の成果を見た研究はわずかでした。

進学前の比較対象を広げても、状況は似ています。拡大参加(widening participation)施策の国際的な証拠を英国の視点でまとめた系統的レビューは、4つの系統的レビューと12の実験・準実験研究を統合し、複数の要素を束ねたプログラムと金銭的な誘因に効果の証拠を見出した一方、多くの証拠に設計上の限界があり、大半は米国で行われていたと指摘しました [14]。16歳以下を対象にした英国のプログラムの評価を検討した別の系統的レビューも、統制された実験的評価は依然として非常に限られ、証拠の質は総じて中程度だったと結論しています [15]

一言でいうと(反証のまとめ)
比較の設計が厳密になるほど、進学や成績への効果ははっきりしなくなる傾向があります。報告されている良い結果の多くは、参加者の意欲や、入学後の支援とのつながりで説明される可能性があります。

5. それでも効果が報告されるプログラムの共通点

  1. 学業の単位や実際の履修につながる。大学科目の先取り履修は、What Works Clearinghouse の基準を満たす5研究(高校生77,249人)で、大学の学位取得、大学への進学、単位の蓄積、高校の修了に正の効果が確認されました [12]
  2. 現実の問題とのつながりを体験させる。STEMの現実世界での意義を体験したプログラムで志望のオッズが最も高くなりました [1]
  3. 人の支援と束ねられている。講座・指導・仲間の支えを束ねたプログラムで在籍継続が改善しました [13]。英国のレビューでも、具体的な成果物のある新しい技能の習得と、ロールモデルとの出会いが最も可能性のある方法とされました [15]
  4. 移行期の「抜け落ち」を防ぐ。高校卒業後の夏に、低所得層の生徒に高校のカウンセラーが積極的に連絡した実験では、すぐに大学へ進学する割合が14ポイント、高校3年時の進学計画を維持する割合が19ポイント高まりました [8]

米国の全国的な進学準備事業「GEAR UP」の8研究のメタ分析でも、大学進学率と卒業率はいずれも参加者のほうが高かったと報告されていますが、効果の大きさは成果によって小さいものから大きいものまでさまざまでした [16]

6. 日本の高校生に当てはめるときの注意

この記事の研究の多くは、米国や英国で、進学機会に恵まれない生徒の進学を増やすことを目的としたプログラムを評価したものです。日本の大学が開く高校生向けプログラムは、対象が一般の高校生で、目的も学部の紹介や体験であることが多く、比較の対象になる「参加しなかった生徒」の条件も違います。効果量をそのまま日本の総合型選抜の準備に当てはめることはできません。

それでも、研究から読み取れる方向は、①参加の事実より中身(現実の問題、実際の学習、人とのつながり)、②短期の体験だけで進学や成績が変わると期待しない、③合格から入学までの移行期を放置しない、の3点です。

7. 実務——プログラムを「経験」にする手順

以下は研究の方向から導いた方針で、合否や入学後の成果への効果が検証された手順ではありません。

  1. 参加前に、プログラムの内容を3つの観点で確かめる(15分)。現実の問題に触れるか、実際に手を動かす学習があるか、教員や学生と話す機会があるか [1] [15]
  2. 参加中は毎日、「今日知ったこと」と「疑問に思ったこと」を1つずつ書く(5分)。体験を後で説明できる材料にします。
  3. 参加後1週間以内に、関係する教科の学習を1つ始める。数学の講座に参加した生徒で上級数学の履修が増えたように、効果は関連する学習に表れました [4]
  4. プログラムで知り合った大学生や教員に、質問を1つ送る。人とのつながりが効果の中心とされたプログラムがありました [13]
  5. 参加しただけで志望理由書の材料が揃ったと考えない。比較が厳密になるほど、参加の効果ははっきりしなくなります [7] [9]
  6. 合格後は、入学までの夏に大学から届く案内や手続きを週1回確認する。移行期の支援が進学を高めた実験があります [8]

この記事で言えないこと

  • 日本の大学の高校生向けプログラムへの参加が、総合型選抜の合否や入学後の成果に影響するかを調べた研究は、今回確認できませんでした。
  • 夏季プログラムと職業志望の関連は、無作為化比較ではない研究によるものです [1] [4]
  • 引用した評価の多くは、低所得層や第一世代の生徒を対象にしたもので、すべての高校生に同じ効果があるとは限りません。

当塾の立場

塾に来なくても、家庭でできること

  • プログラムを選ぶとき、名前や大学名より、内容(現実の問題・手を動かす学習・人との対話)を一緒に確認する
  • 参加後に「何が分かって、何が分からなかった?」と聞く
  • 参加をきっかけに始めた学習を、数週間続けられるよう声をかける
  • 合格後の数か月の過ごし方を、本人と話し合っておく

それでも個別指導を使う理由

  1. 体験を、その後の学習につなげられるから。効果は、プログラムに関連する学習の選択に表れていました [4]。参加で生まれた関心を、教科の学習計画に落とし込みます。
  2. 人の支援を継続して提供できるから。効果の中心は、講座・指導・仲間の支えの組み合わせでした [13]。数日のプログラムの後も、定期的に振り返る相手になれます。
  3. 合格から入学までの移行期を支えられるから。移行期の働きかけが進学を高めた実験がありました [8]。入学までの学習と準備を週単位で確認します。

塾を検討するときは、次のように聞いてみてください。

  • 大学のプログラムへの参加を勧めるとき、何を根拠にしていますか
  • 参加した体験を、その後の学習や書類にどうつなげますか
  • 合格後から入学までの期間に、どんな支援をしていますか

まとめ

  1. STEM夏季プログラムの参加者は、STEM職業を志望するオッズが1.4倍、現実の意義を体験した場合は1.8倍でした [1]
  2. 入学前の橋渡しプログラムは、1年目のGPA(d = 0.34)と在籍継続に効果を示しました [6]
  3. 大学科目の先取り履修は、進学と学位取得に正の効果がありました [12]
  4. 高校卒業後の夏の働きかけで、すぐに進学する割合が14ポイント高まりました [8]
  5. 【反証】アップワード・バウンドの全国評価では、進学と学位取得に効果が検出されませんでした [9] [10]
  6. 【反証】住み込み型プログラムのRCTで、1年目のGPAは変わりませんでした [2]
  7. 【反証】見かけの効果は、入学後の経験で説明されました [3]
  8. 【反証】評価研究の多くは記述的で、統制が弱く、短期の成果にとどまっていました [7] [14] [15]

出典

  1. 【STEM夏季プログラムと職業志望・27大学】Kitchen et al. (2018). The impact of college- and university-run high school summer programs on students’ end of high school STEM career aspirations. Science Education. DOI: 10.1002/sce.21332
  2. 【反証・住み込み型夏季プログラムのRCT】Johnson et al. (2024). A summer bridge program for first-generation low-income students stretches academic ambitions with no adverse impacts on first-year GPA. Proceedings of the National Academy of Sciences. DOI: 10.1073/pnas.2404924121
  3. 【反証・効果は入学後の経験で説明】Cabrera et al. (2013). Can a summer bridge program impact first-year persistence and performance? A case study of the New Start Summer Program. Research in Higher Education. DOI: 10.1007/s11162-013-9286-7
  4. 【中学生の夏季プログラムと後の選択】Li et al. (2009). Effects of summer academic programs in middle school on high school test scores, course-taking, and college major. Journal of Advanced Academics. DOI: 10.1177/1932202×0902000303
  5. 【STEM橋渡しプログラム25年のレビュー】Ashley et al. (2017). Building better bridges into STEM: A synthesis of 25 years of literature on STEM summer bridge programs. CBE—Life Sciences Education. DOI: 10.1187/cbe.17-05-0085
  6. 【STEM橋渡しプログラムのメタ分析】Bradford, Beier, & Oswald (2021). A meta-analysis of university STEM summer bridge program effectiveness. CBE—Life Sciences Education. DOI: 10.1187/cbe.20-03-0046
  7. 【反証・評価方法のスコーピングレビュー】Amin et al. (2026). Methodological choices when assessing summer bridge programs in STEM majors: A scoping review. Education Sciences. DOI: 10.3390/educsci16020220
  8. 【高校卒業後の夏の働きかけの実験】Castleman et al. (2012). Stemming the tide of summer melt: An experimental study of the effects of post-high school summer intervention on low-income students’ college enrollment. Journal of Research on Educational Effectiveness. DOI: 10.1080/19345747.2011.618214
  9. 【反証・アップワード・バウンド最終評価】Seftor, Mamun, & Schirm (2009). The impacts of regular Upward Bound on postsecondary outcomes seven to nine years after scheduled high school graduation: Final report. US Department of Education. ERIC: ED505850
  10. 【反証・アップワード・バウンド第1段階評価】Myers & Schirm (1999). The impacts of Upward Bound: Final report for phase I of the national evaluation. ERIC: ED432621
  11. 【アップワード・バウンド数学・理科の評価】Seftor & Calcagno (2010). The impacts of Upward Bound Math-Science on postsecondary outcomes 7-9 years after scheduled high school graduation: Final report. ERIC: ED526942
  12. 【大学科目の先取り履修・WWC】What Works Clearinghouse (2017). Dual enrollment programs. What Works Clearinghouse intervention report. ERIC: ED572842
  13. 【入学前夏季プログラムの回帰不連続評価】Shakya (2026). Bridging the gap to access? Impact of pre-collegiate summer program on college outcomes. Education Finance and Policy. DOI: 10.1162/edfp.a.440
  14. 【反証・拡大参加施策の系統的レビュー】Younger et al. (2019). A systematic review of evidence on the effectiveness of interventions and strategies for widening participation in higher education. Journal of Further and Higher Education. DOI: 10.1080/0309877x.2017.1404558
  15. 【反証・英国の拡大参加プログラムの評価】Baines, Gooch, & Ng-Knight (2024). Do widening participation interventions change university attitudes in UK school children? A systematic review of the efficacy of UK programmes, and quality of evaluation evidence. Educational Review. DOI: 10.1080/00131911.2022.2077703
  16. 【GEAR UPのメタ分析】Kim, Montague, & Castillo (2025). The effects of gaining early awareness and readiness for undergraduate programs on educational outcomes: A meta-analysis. Journal of Diversity in Higher Education. DOI: 10.1037/dhe0000586

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