研究室と指導教員の選び方——指導は研究成果に効く、ただし修了を分けたのは資金の種類だった

指導教員の選択は、大学院生活をどこまで左右するのか

大学院入試では、多くの場合、志望する研究室や指導教員を出願前に決めます。事前に教員へ連絡を取る、研究室を訪問する、説明会で話を聞く——こうした準備を求める研究科も少なくありません。

そして、大学院に進んだ人の体験談では、「指導教員との相性がすべてだった」という言葉がよく聞かれます。では、それは研究の上でどこまで裏づけられているのでしょうか。

指導教員の関わり方と、大学院生の研究成果・満足度・燃え尽き・修了との関係は、主に博士課程を対象に、調査研究と大規模な研究者データの分析で調べられてきました。この記事では、その知見を「受験する前に何を確かめるか」に翻訳します。あわせて、「指導教員がすべて」という通説に反する証拠——修了を強く左右する別の要因——も同じ重さで扱います。

一言でいうと(この記事の結論)
指導教員の研究面での支援は院生の研究生産性と、心理面での支援は満足度と、それぞれ結びついていました [1]指導と研究コミュニティの支援が十分な院生ほど、燃え尽きが少なく、退学の意図も低かった [4]
ただし——3,092人の博士課程の追跡では、修了と退学を強く分けていたのは、資金支援の種類でした [9]
——だから研究室選びでは、「先生の人柄」だけでなく、「研究の進め方への関与の仕方」「研究室の人のつながり」「在学中の生活と資金の見通し」の3つを、別々に確かめることが必要です。

結論を先に7点書きます。

  1. 179人の調査で、研究面の支援とネットワーク面の支援は研究生産性に、心理面の支援は満足度に寄与しました [1]
  2. 入学時の能力を統制した5年半の追跡で、指導教員のメンタリングは、その後の研究生産性と自己効力感を高めていました [2]
  3. フィンランドの博士課程402人で、指導と研究コミュニティの支援が十分な院生は、燃え尽きと退学の意図が少なかった [4]
  4. 約4万人の科学者の系譜データで、メンターの存在は、受賞などの可能性の2〜4倍の上昇と関連しました [7]
  5. 反証。同じデータで、メンターと弟子は「似た実績どうし」で集まっており、選抜の効果が混ざっています [7]
  6. 反証。修了を強く分けたのは資金支援の種類で、分野の差はほとんどありませんでした [9]
  7. 反証。指導教員と院生の研究関心の近さは、指導関係の質と関係しませんでした [6]
マインドマップ図解:研究室と指導教員の選び方——指導は研究成果に効く、ただし修了を分けたのは資金の種類だった
図:この記事の構造(Mapifyで作成したマインドマップ)

1. 「指導」には2種類ある——研究面と心理面

指導教員の関わり方の研究では、支援をいくつかの種類に分けて考えます。

大学院生179人の調査は、指導教員の支援を研究面(道具的)の支援、人脈づくりの支援、心理社会的な支援に分けて、それぞれの影響を調べました [1]

支援の種類 例(本記事での補足) 結びついていた成果
研究面の支援 研究の進め方の助言、原稿への助言 研究生産性 [1]
人脈づくりの支援 学会や他の研究者への紹介 研究生産性 [1]
心理社会的な支援 励まし、相談に乗る 指導と大学院生活への満足度 [1]

2つの大学の複数分野の博士課程学生477人を調べた研究も、多くの学生がメンタリングを重要だと考え、半数以上が指導教員からメンタリングを受けていたと報告しています。指導教員のメンタリングは成果と関連していましたが、その関連の仕方は、支援の種類(心理社会的か、キャリアか)、成果の種類(満足度、発表数、論文数)、分野によって異なりました [3]

一言でいうと
「優しい先生」と「研究が進む先生」は、同じとは限りません。
——心理面の支援は満足度に、研究面の支援は研究成果に結びついていました [1]研究室訪問では、この2つを別々に確かめる必要があります。

2. 指導は、研究成果と心身の状態を変えるか

1節の研究は一時点の調査なので、「もともと優秀な学生ほど手厚く指導される」という逆向きの説明を排除できません。

実際、先行研究には、入学時の潜在能力が高い学生ほど多くの指導を受けており、指導そのものは研究生産性に有意に寄与していなかったという結果がありました [2]。そこで、理工系(いわゆるハードサイエンス)の博士課程学生を5年半追跡し、入学時の能力と態度の指標を統制した研究が行われました。その結果、指導教員のメンタリングは、その後の研究生産性と自己効力感に正の効果を持っていました。ただし、研究者としてのキャリアを続ける意志とは有意に関連しませんでした [2]

心身の状態についても証拠があります。

  • フィンランドの大学の博士課程402人——指導教員と研究コミュニティの両方から十分な支援を受けていた院生は、破壊的な摩擦が比較的少なく、退学の意図が低く、修了までの期間が短いと見込まれ、燃え尽きがはっきり少なかった [4]
  • 博士課程学生の情緒的消耗の研究——支援的な指導は、情緒的消耗と「自分を取り繕う行動」を有意に減らした。一方、周囲に合わせて本心を隠す「同調の仮面」は、情緒的消耗を増やした [5]

さらに長期の経歴を見ると、1960〜2017年に生物医学・化学・数学・物理学で論文を発表した約4万人の科学者の系譜データの分析は、メンターの存在が、受賞・米国科学アカデミー会員選出・トップ研究者になる可能性の2〜4倍の上昇と関連していたと報告しています。そして意外なことに、弟子が最も成功したのは、メンターのテーマを追うことではなく、独自のテーマを研究し、メンターとの共著をごく一部に留めた場合でした [7]

大学院とポスドクの両方の訓練を受けた1万8,856人の研究者の分析も、大学院の指導者と、ポスドクの指導者の専門が異なり、その専門を自分の研究に統合した研究者ほど成功しやすかったとしています。大学院の指導者より、ポスドクの指導者のほうが、その後の成功への影響が大きかった点も報告されています [8]

一言でいうと(支持する側の証拠)
能力を統制しても、指導は研究生産性と自己効力感を高めていました [2]支援が足りない院生は、燃え尽きと退学の意図が多かった [4]
——ただし、成功した弟子は「先生の研究の手伝い」ではなく、「自分のテーマ」を育てていました [7]

3. 【反証】「指導教員がすべて」ではない——資金と就労

ここからは、指導教員の影響を大きく見積もりすぎることへの反証です。同じ分量で書きます。

ブリュッセル自由大学の博士課程3,092人を、生存時間分析(退学や修了が「いつ起きるか」を扱う手法)で追った研究は、次のように報告しています [9]

  1. 研究フェローシップで支援された学生は、教育助手や資金のない学生より、修了の可能性がはるかに高かった
  2. 退学率が最も高かったのは資金のない学生、最も低かったのは選抜制の研究フェローシップの学生だった
  3. 退学は学生の能力にも影響されたが、能力を統制しても、資金支援の種類は退学までの時間に影響した
  4. 資金のない学生を除けば、分野による退学・修了の差は有意でなかった [9]

米国の研究も同じ方向です。博士課程の退学率は43%で、学部卒業後の課程の中で最も高いとした研究は、博士課程を「移行・発展・研究」の3段階に分けて分析し、資金支援の全体だけでなく、その種類が段階ごとに異なる影響を持ち、研究助手として雇われた学生が最も修了しやすかったと報告しました。労働市場の状況も、修了に影響していました [10]

ロシアの研究大学の博士課程(2008〜2017年入学)の縦断データでは、学内での就労は論文審査に至る可能性を高め、学外での就労は修了と負の関係にありました [11]

一言でいうと(研究室選びへの示唆)
「良い先生につけば修了できる」は、半分しか正しくありません。
——修了を強く分けていたのは、在学中の資金と、研究に時間を使える働き方でした [9] [10] [11]
研究室を選ぶときは、指導の質と同じ重さで、「在学中の生活をどう成り立たせるか」の見通しを確かめてください。

4. 【反証】「相性」は、見分けにくい

「自分と研究関心の近い先生を選べば、うまくいく」という助言にも、反証があります。

カウンセリング心理学の博士課程で、現に指導関係にある指導教員と院生の47組を調べた研究では、指導関係の質(作業同盟)、最近のやり取りの円滑さ、院生の研究能力について、両者の評価は有意に一致していましたしかし、研究への関心の近さも、実践への関心の近さも、指導関係の質とは関係しませんでした [6]

そして2節の大規模データ [7] には、重要な但し書きがあります。似た実績と評判を持つメンターたちは、似た才能と見込みを持つ弟子を引きつけていました。つまり、「有名な先生の弟子が成功する」には、先生の指導の効果だけでなく、「もともと成功しそうな学生が有名な先生を選び、選ばれた」という選抜の効果が混ざっています。著者らはその中で、受賞前から「受賞につながる研究を作り伝える力」を持つ例外的なメンターの効果を取り出していますが、観察データである点は変わりません。

1節の477人の研究 [3] でも、指導と成果の関連は、分野や成果の種類によってばらばらでした。

一言でいうと
「研究テーマが近い」は、良い指導関係の保証になりませんでした [6]「有名な先生」も、選抜の効果を差し引く必要があります [7]
——確かめるべきは、テーマの近さや知名度より、「その先生が院生に実際にどう関わっているか」です。

5. 指導教員の外にある支え——研究コミュニティと先輩

指導教員1人に全てを期待しない、という視点も研究から出てきます。

2節のフィンランドの研究 [4] は、指導教員だけでなく研究コミュニティからの支援を合わせて見ています。そして、カナダの大学で上級の博士課程学生が1年目の学生をメンタリングする制度を調べた縦断研究(35人・4回の調査)では、先輩からのメンタリングを多く受けた学生は、自律的な動機づけが高く安定しており、退学の意図が低かったと報告されています [12]ただし小規模な研究です。

一言でいうと
研究室訪問で会うべきは、先生だけではありません。その研究室の院生・先輩が、互いにどう支え合っているかも、修了と心身の状態に関わる材料です [4] [12]

6. 実務——出願前の研究室訪問で確かめる10項目

ここまでの研究を、研究室訪問・面談で確かめる項目に落とします。訪問は出願の3〜6か月前までに、少なくとも2つの研究室で行うことを勧めます。

確かめること 聞き方の例 根拠
研究面の関与の頻度 「院生の研究の相談は、どのくらいの頻度で行っていますか」 [1] [2]
原稿への関与 「修士論文の草稿は、何回くらい見ていただけますか」 [1]
人脈づくり 「院生が学会で発表する機会はありますか」 [1]
テーマの自由度 「院生のテーマは、先生のプロジェクトの一部ですか、各自で決めますか」 [7]
研究コミュニティ 「院生どうしのゼミや勉強会はありますか」 [4] [12]
先輩の声 (院生に)「困ったとき、誰に相談していますか」 [4] [5]
本音を言える雰囲気 (院生に)「先生と方針が違うとき、どうしていますか」 [5]
修了の実態 「最近の院生は、標準の年限で修了していますか」 [9] [10]
資金の見通し 「研究助手や学内の仕事の機会はありますか」 [9] [11]
学外の仕事との両立 「働きながら在籍している院生はいますか」 [11]

答えは、1つずつ記録し、複数の研究室で比べてください。印象でまとめると、先生の話しやすさだけで判断しがちです。

この記事で言えないこと

  • 引いた研究の多くは、欧米・ロシアの博士課程です。日本の修士課程の研究室選択に同じ関係が当てはまるかは、この記事では確認できていません。
  • ほとんどが観察研究で、「この指導を受ければこうなる」という因果は、能力を統制した縦断研究 [2] 以外では弱いものです。
  • 系譜データの研究 [7] [8] は、研究者として成功した人の経歴の分析で、修士課程で修了する多くの院生の経験を代表していません。
  • 資金の影響 [9] [10] は、各国の奨学金・雇用制度に依存し、日本の制度にそのまま移せません。
  • 6節の質問項目は、研究から導いた推論で、質問の効果そのものを検証したものではありません。

当塾の立場

まず、塾に来なくてもできることです。

  • 研究室訪問を、2つ以上の研究室で行う
  • 6節の10項目を、表にして記録する
  • 先生だけでなく、院生にも話を聞く
  • 在学中の資金と働き方の見通しを、指導の質と同じ重さで確かめる

それでも個別指導を使う理由を、この記事の研究に即して3つ挙げます。

  1. 「研究面の関与」を確かめる質問を、研究計画書と結びつけて準備できること。研究面の支援は、研究生産性と結びついていました [1]当塾では、研究計画書をもとに、その研究室で「どう指導を受けたいか」を具体的に言える状態にしてから訪問に臨みます。
  2. 「自分のテーマ」を持って研究室に行けること。成功した弟子は、メンターのテーマではなく独自のテーマを育てていました [7]先生の研究に合わせるだけの計画書にならないよう、問いの独自性を一緒に磨きます。
  3. 複数の研究室の比較を、第三者として整理できること。テーマの近さは、指導関係の質の保証になりませんでした [6]訪問の記録を一緒に見直し、印象ではなく項目ごとに比べます。

大学院入試の指導を受ける先を選ぶときは、次のように聞いてみてください。

  • 研究室訪問の前に、何を準備させますか
  • 志望研究室を決めるとき、指導の質以外に何を確かめるよう勧めますか
  • 先生のテーマに寄せた計画書と、自分のテーマの計画書の違いを、どう扱いますか

まとめ

  1. 研究面の支援は研究生産性に、心理面の支援は満足度に寄与しました [1]
  2. 能力を統制しても、指導は研究生産性と自己効力感を高めていました [2]
  3. 指導と研究コミュニティの支援が十分な院生は、燃え尽きと退学の意図が少なかった [4]
  4. 成功した弟子は、メンターのテーマではなく独自のテーマを研究していました [7]
  5. 反証。修了を強く分けたのは資金支援の種類でした [9] [10]学外就労は修了と負の関係でした [11]
  6. 反証。研究関心の近さは指導関係の質と無関係で [6]有名な先生の効果には選抜が混ざっています [7]
  7. 先輩からのメンタリングは、退学の意図の低さと関連しました(小規模) [12]
  8. そして——研究室選びは「先生の人柄」の判定ではなく、研究面の関与・研究室の人のつながり・在学中の生活の見通しを、項目ごとに比べる作業です。

出典

本文中の番号に対応します。抄録に直接あたって確認したものだけを挙げています。結論に反する研究も、同じ基準で載せています。

  1. 【支援の種類と成果・179人】Tenenbaum, H. R., Crosby, F. J. & Gliner, M. D. (2001). Mentoring Relationships in Graduate School. Journal of Vocational Behavior. DOI: 10.1006/jvbe.2001.1804
  2. 【能力を統制した5年半の追跡】Paglis, L. L., Green, S. G. & Bauer, T. N. (2006). Does Adviser Mentoring Add Value? A Longitudinal Study of Mentoring and Doctoral Student Outcomes. Research in Higher Education. DOI: 10.1007/s11162-005-9003-2
  3. 【指導とメンタリング・477人】Lunsford, L. (2012). Doctoral Advising or Mentoring? Effects on Student Outcomes. Mentoring & Tutoring: Partnership in Learning. DOI: 10.1080/13611267.2012.678974
  4. 【指導・研究コミュニティと燃え尽き・402人】Peltonen, J. A. et al. (2016). Interrelations between the Supervisory and Researcher Community Support Experiences and Risk Factors among Doctoral Students. AERA Online Paper Repository. ERIC: ED592183
  5. 【支援的な指導と情緒的消耗】Devine, K. & Hunter, K. H. (2017). PhD student emotional exhaustion: the role of supportive supervision and self-presentation behaviours. Innovations in Education and Teaching International. DOI: 10.1080/14703297.2016.1174143
  6. 【反証・関心の近さと指導関係・47組】Schlosser, L. Z. & Kahn, J. H. (2007). Dyadic perspectives on advisor-advisee relationships in counseling psychology doctoral programs. Journal of Counseling Psychology. DOI: 10.1037/0022-0167.54.2.211
  7. 【メンターと弟子の成功・約4万人】Ma, Y., Mukherjee, S. & Uzzi, B. (2020). Mentorship and protégé success in STEM fields. Proceedings of the National Academy of Sciences. DOI: 10.1073/pnas.1915516117
  8. 【指導者の専門の統合・1万8,856人】Liénard, J. F. et al. (2018). Intellectual synthesis in mentorship determines success in academic careers. Nature Communications. DOI: 10.1038/s41467-018-07034-y
  9. 【反証・資金支援と退学・修了・3,092人】van der Haert, M. et al. (2014). Are dropout and degree completion in doctoral study significantly dependent on type of financial support and field of research? Studies in Higher Education. DOI: 10.1080/03075079.2013.806458
  10. 【反証・博士課程の3段階と資金】Ampaw, F. D. & Jaeger, A. J. (2012). Completing the Three Stages of Doctoral Education: An Event History Analysis. Research in Higher Education. DOI: 10.1007/s11162-011-9250-3
  11. 【反証・在学中の就労と修了】Bekova, S. (2021). Does employment during doctoral training reduce the PhD completion rate? Studies in Higher Education. DOI: 10.1080/03075079.2019.1672648
  12. 【先輩によるメンタリング・縦断】Ayoobzadeh, M. (2023). Peer-mentoring and doctoral student retention: a longitudinal investigation. Higher Education Research & Development. DOI: 10.1080/07294360.2022.2106948

関連する既存記事

大学院入試の研究(全10本)

ほかの入試区分の研究記事


Warning: Attempt to read property "show_author" on false in /home/c1531448/public_html/musasinokobetu.com/wp-content/themes/heal_tcd077/single.php on line 165

関連記事

PAGE TOP
お電話