大学院で「うまくいく人」は、出願書類から見分けられるのか
大学院の選抜では、学部の成績、筆記試験の点、推薦状、研究経験、面接など、複数の材料が使われます。では、そのうちどれが、入学後の成績・研究・修了を本当に予測しているのでしょうか。
この問いには、米国の大学院共通試験 GRE を中心に、8万人規模のメタ分析から、1つの研究科の追跡調査まで、分厚い研究の蓄積があります。そして結論は、研究者のあいだで真っ二つに割れています。
日本の大学院入試で GRE を課すところはまれです。それでもこの論争を読む価値があるのは、「学部の成績」「標準化された学力試験」「推薦状」という、日本の院試にも形を変えて存在する材料の予測力を、真正面から測っているからです。当サイトの入試は何を測っているかでは学部入試の予測妥当性を扱いました。この記事は大学院に絞ります。
一言でいうと(この記事の結論)
8万2,659人のメタ分析では、GRE と学部成績は、大学院の成績・総合試験・被引用数・教員評価を広く予測しました [1]。
ところが、合格者だけを追った個別の研究では、GRE は博士号の取得も論文数もほとんど予測しませんでした [4] [6]。
——この矛盾の大部分は「合格者の中では点の幅が狭い」という統計の問題で説明されますが、それを差し引いても、研究の成果や修了を予測する力は、成績の予測力より弱いのです。
結論を先に7点書きます。
- GRE と学部成績は、大学院の成績・総合試験・被引用数・教員評価の、一般化可能な予測因子でした [1]。
- 修士課程と博士課程で、GRE の予測力の差は小さいかゼロでした [2]。
- 反証。201研究を統合すると、GRE が説明する分散は3.24%。報告された効果の62.3%は有意でなかった [3]。
- 反証。物理学の博士課程で、GRE 定量の10パーセンタイルと90パーセンタイルの差は、修了率で10%未満でした [6]。
- 学部成績は、GRE より修了をよく予測したとする研究が複数あります [7] [14]。
- 推薦状は予測力が弱いものの、学位取得について追加の情報を持っていました [9]。
- 卒業研究の成績は、学部の平均成績に加えて大学院の成績を予測しました [10]。

1. 「予測する」とは、何を当てることか
この論争が混乱しやすいのは、「大学院での成功」の中身が研究ごとに違うからです。
一言でいうと
「試験の点は大学院での成功を予測する」と「予測しない」は、多くの場合、別の指標について話しています。
——成績を予測する力と、研究を仕上げる力を予測する力は、分けて読む必要があります。
2. メタ分析——GRE と学部成績は「一般化可能に」予測する
最も規模の大きい統合は2001年のメタ分析です [1]。
- 1,753の独立標本、8種類の基準に対する6,589の相関、8万2,659人の大学院生
- 統計的な誤差(測定の信頼性や選抜による範囲の制限)を補正
- GRE と学部成績は、大学院の成績、1年次の成績、総合試験の点、論文の被引用数、教員評価の、一般化可能な予測因子だった
- 学位取得と研究生産性との相関は一貫して正だったが、一部の90%信用区間は0を含んだ
- 分野別の Subject Test は、言語・数量・分析の一般試験より良い予測因子の傾向があった [1]
2010年のメタ分析は、約100研究・約1万人をもとに、GRE が修士課程でも博士課程でも、1年次の成績・大学院の成績・教員評価を良く予測し、課程間の差は小さいかゼロだったと報告しました [2]。
7つの大学院・21の研究科(生物・化学・教育・英文・心理)が協力した ETS の研究も、GRE と学部成績の組み合わせが、大学院の累積成績と、教員による「分野の習熟」「研究の生産性」「コミュニケーション力」の評価を強く予測したとしています [15]。
一言でいうと(支持する側の主張)
分野の知識を問う試験と学部成績は、大学院での学業を広く予測します。
——特に分野別の試験が一般試験より良く予測した [1] ことは、専門科目の筆記試験を課す日本の院試の設計と整合します。
3. 【反証】合格者を追うと、ほとんど当たらない
ここからは、2節と正反対の結果です。同程度の分量で書きます。
ヴァンダービルト大学の生命医科学の博士課程のデータでは、GRE は、博士号を取るか、資格試験に通るか、審査までの期間、学会発表数、筆頭著者論文数、個人研究費やフェローシップの獲得の、どれを予測するのにも役立ちませんでした。予測できたのは1学期目の成績(中程度)と、大学院の成績や教員評価の一部(弱〜中程度)だけでした [4]。
ノースカロライナ大学の生命医科学の博士課程(2008〜2010年入学)では、さらに踏み込んだ結果が出ています [5]。
- 試験の点、成績、それまでの研究経験の量、教員面接の評価は、どれも筆頭著者論文の多さと相関しなかった
- 対照的に、推薦状を書いた人の評価は、在学中に筆頭著者論文を複数出した学生のほうが有意に高かった
- 著者らの結論——「以前の指導者による質的な評価のほうが、大学院の研究で成功する学生を見つけやすい」 [5]
物理学では、2000〜2010年の物理学博士課程の学生のおよそ8人に1人を分析した研究が、学部成績と GRE(定量・言語・物理)は、選抜する側が思っているほど修了を予測しないと報告しました [6]。学部成績はすべてのモデルで修了と有意に関連しましたが、GRE 定量は4モデル中2つ、GRE 物理と言語はどのモデルでも有意ではなく、GRE 定量で10パーセンタイルの学生と90パーセンタイルの学生の修了率の差は10%未満でした [6]。
そして201研究・1,659の効果を統合した2023年のメタ分析は、報告された効果の62.3%が有意でなく、GRE が説明する分散は全体で3.24%、大学院の成績で4%、1年次の成績で2.56%だったとしています。予測関係の大きさは、年を追って有意に小さくなっていました [3]。
古いメタ分析にも同じ方向の結果があります。GRE 定量・言語と大学院の成績の相関は .22 と .28(合わせて分散の平均6.3%) [12]。心理学・カウンセリング分野では、妥当性係数は .03〜.37、平均 .18でした [13]。
4. なぜ結論が割れるのか——「範囲の制限」という争点
2節と3節の対立には、統計上の理由があります。
合格者だけを分析すると、点の低い応募者はすでに落とされているため、点の幅が狭くなります。幅が狭い集団では、どんなに良い指標でも相関は小さく出ます。これを範囲の制限(restriction of range)と呼びます。
2020年の論考は、まさにこの点で3節の研究を批判しました。最近の GRE 懐疑論は、合格者における大きな範囲の制限を考慮しない個別の妥当性研究(例として [4])に基づいているとし、メタ分析の明確な証拠は GRE の予測力を示していると主張しています [8]。
一方、心理測定の立場から院試の6種類の材料(成績・志望理由書・履歴書・推薦状・面接・GRE)の証拠を検討した2022年の論考は、「偏り」と「公正さ」の意味を明確にしないまま議論が進んでいると指摘し、見過ごされてきた問題を整理しています [11]。
一言でいうと(受験する側にとっての読み方)
「合格者の中では点数差がほとんど効かない」ことと、「点数は無意味だ」ことは、別です。
——選抜の段階では点が効き [1]、いったん合格ラインを越えた後の研究や修了は、点以外のもので大きく左右されます [4] [6]。
つまり、試験対策は「越えるための準備」であって、「大学院で成功するための準備」の全部ではありません。
5. 学部成績と卒業研究——点数より「積み上げの記録」
3節の研究を並べると、1つの傾向が見えます。学部成績は、試験の点より粘り強く予測するのです。
物理学の19の博士課程・1,955人の分析では、学部成績は GRE より、大学院の成績と博士号の修了をよく予測しました。媒介分析では、検討した入学時の指標のうち、博士号の修了を有意に予測したのは学部成績だけで、それは大学院の成績を経由した間接的な経路でした [7]。
公衆衛生の大学院564人の分析でも、学部成績は基礎科目の成績の約7%、大学院の成績の29%を説明し、GRE が説明したのは1%未満でした [14]。
オランダの研究志向の修士課程(生命科学)の分析は、日本の院試に直接示唆のある結果を出しています。学部の平均成績に加えて、卒業研究(学部の論文)の成績が、大学院の成績の妥当な予測因子でした。これらの学部の指標は、わずかながら修了と修了までの期間も予測しました [10]。
一言でいうと(学部生の方へ)
院試の筆記試験の点を上げる努力と並行して、学部の成績と卒業研究を「捨てない」でください。
——この2つは、合格した後の大学院生活を予測する材料として、試験の点より粘り強い傾向がありました [7] [10]。
6. 推薦状——弱いが、「やり抜くか」については情報がある
推薦状のメタ分析(2014年)は、現在の形の推薦状は、大学・大学院のさまざまな成果と、おおむね正だが弱く相関すると結論しました。ただし、推薦状は学位の取得について追加の情報を提供しているようで、これは「難しく、動機づけに強く左右される成果」だと著者らは述べています [9]。
3節の生命医科学の研究でも、論文を複数出した学生を見分けたのは、試験の点ではなく推薦者の評価でした [5]。
一言でいうと(社会人・学部生の方へ)
推薦状を書く人が見ているのは、点数ではなく、あなたが研究や仕事を最後までやり遂げる様子です。
——推薦状を課す大学院を受けるなら、出願直前に依頼するのではなく、半年以上前から、その人のもとで何かを最後まで仕上げた実績を作っておくことが、研究に即した準備です。
7. 実務——出願までの1年でやること
日本の院試の材料に置き換えて、手順にします。
- 専門科目の筆記を最優先で固める(出願1年前〜)。分野別の試験は一般試験より良く予測しました [1]。合格ラインを越えるための点は、選抜の段階では確実に効きます。
- 学部の残りの成績を落とさない(在学中の方)。学部成績は修了を粘り強く予測しました [7] [14]。院試の勉強のために学部の授業を捨てるのは、この証拠から見ると割に合いません。
- 卒業研究を、院試の研究計画とつなげる(4年次)。卒業研究の成績は、大学院の成績を予測しました [10]。卒業研究のテーマを研究計画書の先行研究・予備調査として位置づけると、1つの努力が2つの材料になります。
- 推薦者との関係を、半年以上前から作る。推薦状は学位取得について追加の情報を持っていました [9]。社会人の方は、上司や以前の指導教員に、仕事や研究の成果物を定期的に見せておきます。
- 合格後に効くものを、並行して育てる。合格者の中では、点の差は論文や修了をほとんど予測しませんでした [4] [6]。週に1〜2時間は、試験範囲外の文献を読み、研究の問いを温めておきます。
この記事で言えないこと
- 引いた研究のほとんどは米国(一部オランダ)の大学院です。日本の院試の筆記試験・面接・書類が、同じ程度に予測力を持つかは検証されていません。
- GRE の予測妥当性をめぐる論争 [1] [3] [8] は決着していません。この記事は、どちらの側が正しいかを判定するものではありません。
- 学部成績の予測力 [7] [14] は、特定の分野・特定の大学院のデータです。分野によって結果は異なり得ます。
- いずれも相関の研究で、「成績を上げれば大学院で成功する」という因果は示していません。成績は、成功と共通する何か(継続的な努力の習慣など)の指標である可能性があります。
- 日本の各研究科の選抜で、どの材料がどう配点されているかは、この記事では扱っていません。
当塾の立場
まず、塾に来なくてもできることです。
- 専門科目の過去問を、出願1年前から解き始める
- 学部の授業と卒業研究を、院試の準備と両立させる
- 卒業研究のテーマを、研究計画書の土台として設計する
- 推薦をお願いする可能性のある人に、成果物を定期的に見せる
それでも個別指導を使う理由を、この記事の研究に即して3つ挙げます。
大学院入試の指導を受ける先を選ぶときは、次のように聞いてみてください。
- 筆記試験の対策と、研究計画書の準備を、どうつなげますか
- 学部の授業や卒業研究との両立を、どう計画しますか
- 合格した後に困らないために、在学前に何をしておくべきだと考えますか
まとめ
- 8万2,659人のメタ分析で、GRE と学部成績は、大学院の成績・総合試験・被引用数・教員評価を広く予測しました [1]。
- 学位取得と研究生産性については、正の相関だが0を含む信用区間もありました [1]。
- 反証。201研究の統合で GRE の説明分散は3.24%、効果の62.3%は非有意でした [3]。
- 反証。合格者の追跡では、GRE は博士号取得も論文数もほぼ予測しませんでした [4] [5] [6]。
- 対立の一因は、合格者での範囲の制限です [8]。
- 学部成績は、GRE より修了や大学院の成績をよく予測した研究が複数あります [7] [14]。
- 卒業研究の成績は、学部成績に加えて大学院の成績を予測しました [10]。
- 推薦状は弱いが、学位取得について追加の情報を持っていました [9]。
- そして——試験の点は「越えるため」に効き、越えた後の成功は、積み上げの記録と、それを見てきた人の評価のほうに表れます。
出典
本文中の番号に対応します。抄録に直接あたって確認したものだけを挙げています。結論に反する研究も、同じ基準で載せています。
- 【GRE・学部成績の包括的メタ分析・8万2,659人】Kuncel, N. R., Hezlett, S. A. & Ones, D. S. (2001). A comprehensive meta-analysis of the predictive validity of the Graduate Record Examinations: Implications for graduate student selection and performance. Psychological Bulletin. DOI: 10.1037/0033-2909.127.1.162
- 【修士と博士での予測力】Kuncel, N. R. et al. (2010). The Validity of the Graduate Record Examination for Master’s and Doctoral Programs: A Meta-Analytic Investigation. Educational and Psychological Measurement. DOI: 10.1177/0013164409344508
- 【反証・201研究のメタ分析と時系列の低下】Feldon, D. F. et al. (2023). The Predictive Validity of the GRE Across Graduate Outcomes: A Meta-Analysis of Trends Over Time. The Journal of Higher Education. DOI: 10.1080/00221546.2023.2187177
- 【反証・生命医科学博士課程】Moneta-Koehler, L. et al. (2017). The Limitations of the GRE in Predicting Success in Biomedical Graduate School. PLOS ONE. DOI: 10.1371/journal.pone.0166742
- 【反証・推薦者評価だけが論文数と関連】Hall, J. D., O’Connell, A. B. & Cook, J. G. (2017). Predictors of Student Productivity in Biomedical Graduate School Applications. PLOS ONE. DOI: 10.1371/journal.pone.0169121
- 【反証・物理学博士の修了】Miller, C. W. et al. (2019). Typical physics Ph.D. admissions criteria limit access to underrepresented groups but fail to predict doctoral completion. Science Advances. DOI: 10.1126/sciadv.aat7550
- 【学部成績が修了を予測・1,955人】Verostek, M. et al. (2021). Analyzing admissions metrics as predictors of graduate GPA and whether graduate GPA mediates Ph.D. completion. Physical Review Physics Education Research. DOI: 10.1103/physrevphyseducres.17.020115
- 【範囲の制限をめぐる反論】Miller, A. et al. (2020). Should research experience be used for selection into graduate school: A discussion and meta-analytic synthesis of the available evidence. International Journal of Selection and Assessment. DOI: 10.1111/ijsa.12312
- 【推薦状のメタ分析】Kuncel, N. R., Kochevar, R. J. & Ones, D. S. (2014). A Meta-analysis of Letters of Recommendation in College and Graduate Admissions: Reasons for hope. International Journal of Selection and Assessment. DOI: 10.1111/ijsa.12060
- 【卒業研究の成績・オランダ研究修士】Kurysheva, A. et al. (2022). Once the best student always the best student? Predicting graduate study success using undergraduate academic indicators. International Journal of Selection and Assessment. DOI: 10.1111/ijsa.12397
- 【院試の6材料の心理測定的検討】Woo, S. E. et al. (2022). Bias, Fairness, and Validity in Graduate-School Admissions: A Psychometric Perspective. Perspectives on Psychological Science. DOI: 10.1177/17456916211055374
- 【反証・GRE定量と言語の相関】Morrison, T. G. & Morrison, M. (1995). A Meta-Analytic Assessment of the Predictive Validity of the Quantitative and Verbal Components of the Graduate Record Examination with Graduate Grade Point Average Representing the Criterion of Graduate Success. Educational and Psychological Measurement. DOI: 10.1177/0013164495055002015
- 【反証・心理学分野の妥当性一般化】Goldberg, E. L. & Alliger, G. M. (1992). Assessing the Validity of the GRE for Students in Psychology: A Validity Generalization Approach. Educational and Psychological Measurement. DOI: 10.1177/0013164492052004026
- 【学部成績の説明力・公衆衛生564人】Krytus, K. et al. (2024). What Predicts Graduate Public Health Student Success? Evidence for Admission Committees in a Post–Affirmative Action Landscape. Public Health Reports. DOI: 10.1177/00333549241236151
- 【長期的成功の協同妥当性研究】Burton, N. W. & Wang, M. (2005). Predicting Long-Term Success in Graduate School: A Collaborative Validity Study. ETS Research Report Series. DOI: 10.1002/j.2333-8504.2005.tb01980.x
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