一橋大学の過去問から学ぶ現代文の要約問題

問題 次の文章を読んで後の問いに答えなさい。

ヨーロッパにおいて大学は、教師と学生が自発的に集合して成立した自治的な組合組織に由来するが、アメリカの場合は、教会や州政府、さらには大富豪の寄付者によって人為的に設立されたものである。大学の支配権は、教員組織ではなく、研究や教育に直接携わらない設置者たちの手に握られていた。それゆえ、設置者たちの利益に反するような主張や気に入らない主張をした教員は、解雇される場合があった。1870年代には、ダーウィンの進化論を唱えた学者が、キリスト教の教義に反するという理由で追放されるなどの事例があったが、科学の発展とともに、自然科学については、自由な研究や教育が認められるようになっていった。

しかし、社会科学における「学問の自由」は、資金を提供した企業家たちの利害と直接に対立する場合があったので、19世紀末や20世紀初頭になっても、まだまだ認められるものではなかった。たとえば、ストライキやボイコットについて好意的に語った経済学者や、独占企業を批判した経済学者、「苦力」の奴隷的労働を批判した社会学者、黒人の権利を主張した歴史学者などが、攻撃の対象になった。

ドイツの場合、大学教授は国家の被雇用者であり、一般市民には認められない特権的な自由が認められていたが、アメリカの場合、一般市民が憲法によって「言論の自由」を保証される一方、私企業の被雇用者としての大学教授にはそれが保証されていないという、皮肉な事態となっていたのである。「1867年にコーネルの理事の一人が、ビジネスマンが工場労働者を即座に解雇できるのと同じように、コーネルの理事会は教授を即座に免職できる権利を持っていると主張した」という。

それゆえ、アメリカにおける「学問の自由」を求める闘争は、自分たちが所属する大学の経営陣に対する闘争という形をとった。大学教員たちは、経営陣が意のままに教員を解雇できないような身分保障を求め、1915年に「アメリカ大学教授協会」を設立した。最初は雇用期限付きの助教授などとして雇用され、業績次第で終身在職権(テニュア)を保証されるという、現在のアメリカで標準的となった大学教員の雇用形態は、「学問の自由」を確保するための闘争の一環として、以後数十年をかけて獲得されていった。テニュアとは要するに、経営陣にとって都合の悪いことを研究教育したからといって解雇されない権利である。これは、アメリカの労働法に根拠のある制度ではなく、教師の組合としての大学教授協会が、個々の大学の経営陣と交渉して実現し、ついにはアメリカの大学における慣習となったのである。

アメリカでは、20世紀初頭になってようやく「学問の自由」という概念が登場し、大学教授たちはその実現を目指すようになった。社会科学におけるその実現には紆余曲折があったが、自然科学の分野では、研究の自由は早々と実現されていった。

ベン=デービッドは、「応用科学の分野が拡大しはじめた頃、アメリカではたしかに短期的な効用を尺度に研究を評価することを辞さない態度が、一般的だった。しかし、中央的な権力や資金の提供者が、それを科学共同体に強制するということはなかった」とし、その理由を、応用科学の研究を巡る企業や大学の競争の中で、「科学を科学以外の目的に利用する最善の方法は、研究や教育を科学以外の尺度ではかるのではなく、科学をそれ自身の道に進むに任せ、その成果を生産目的や教育、さらには生活の改善にどう役立てていくかを考えることだ」という教訓が得られたからだと主張する。そして、応用研究への支出の増大に引きずられるように、基礎研究の支出も拡大してきたという。

たしかに、この教訓はもっともらしいが、実際問題として、企業や大学の競争から必然的にこうした教訓が得られるものなのだろうか。大学教員が、自分たちのやりたい研究をしつつ、それへの寄付や補助金を手に入れることができるという、学者にとっていかにも都合の良い制度が、そのように簡単に形成されるものなのか。

こうした制度の形成過程については、上山隆大『アカデミック・キャピタリズムを超えて アメリカの大学と科学研究の現在』の説明が説得的である。上山は、ベン=デービットが無造作に前提としている「基礎科学ー応用科学」という二分法こそが、20世紀前半のアメリカにおいて形成され、この二分法が、科学研究への民間資金や公的資金の投入を正当化する「神話」として機能したというのである。以下では、上山の議論を概観しよう。

アメリカでは、一般の人々は大学における研究や教育にそれほど価値を観ていなかったし、寄付をしてくれる企業家たちは実用的な研究に関心があった。そういう社会的風土の中で、科学研究に資金を集めるために、「純粋な科学研究を行うことの意義を一般大衆に分からせるための物語」として「ベーシック・サイエンス(基礎研究)」という用語が考え出された。つまり、直接的には、社会の役に立つわけではない基礎研究こそが応用研究を準備するので、基礎研究を充実させることは、結局のところ社会の役に立つというわけである。

ベン=デービッドがいう「科学を科学に役立たせるための最善の道は、科学をそれ自身の道に進むに任せること」という教訓は、自然に得られたものであるよりは、アメリカの大学の置かれた社会的状況の中で、自由な研究への資金を獲得したい科学者たちが考え出した、政府や資金提供者を説得するためのレトリック、あるいは「神話」だったということである。

これが神話だというのは、この主張には、実際上の根拠が何もないからである。「基礎研究に巨額の資金を投入することが、そのままアメリカの産業界への利害に直結する保証もなければ、新しい技術革新となって一般大衆の生活を潤すことになる保証があるわけでもない。にもかかわらず、この論理は、アメリカのパトロネッジ(経済的ないし精神的な支援)を満たすのには、極めて魅力的な説得であった」。

つまり、われわれが「科学」に対して持つイメージそのものが、20世紀前半のアメリカの大学において考え出されたということである。

山口裕之『「大学改革」という病ー学問の自由・財政基盤・競争主義から検証する』

問い:上の文章を要約しなさい(200文字以内)

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【監修者】 宮川涼
プロフィール 早稲田大学大学院文学研究科哲学専攻修士号修了、同大学大学院同専攻博士課程中退。日本倫理学会員 早稲田大学大学院文学研究科にてカント哲学を専攻する傍ら、精神分析学、スポーツ科学、文学、心理学など幅広く研究に携わっている。

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早稲田大学大学院文学研究科哲学専攻修士号修了、同大学大学院同専攻博士課程中退。日本倫理学会員 早稲田大学大学院文学研究科にてカント哲学を専攻する傍ら、精神分析学、スポーツ科学、文学、心理学など幅広く研究に携わっている。
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