正負の数で引くと増える理由と理解の壁|武蔵野個別指導塾が薦める学習の仕方

連載「単元別のつまずき研究——その単元で、生徒は実際に何をどう誤るか」全50回の第1回です。学習の仕方の目次を見る

「3から5を引くと、どうして答えが増えるの?」。中学1年生の最初の単元で、多くの生徒がこの疑問にぶつかります。小学校までは「引く」といえば必ず数が小さくなる操作でした。その常識が突然覆される場面で、生徒の頭の中では何が起きているのでしょうか。

この連載では、単元ごとに生徒が実際にどこで、どのように誤るのかを研究知見と具体的な誤答例から掘り下げます。第1回は正負の数、とくに「負の数を引くと増える」という規則が納得できないつまずきを取り上げます。

「マイナスを引くからプラスになる」と丸暗記させれば、その場の計算問題は解けるかもしれません。しかし、なぜそうなるのかを納得しないまま先へ進むと、文字式や方程式で符号の処理に混乱が生じます。この記事では、生徒がどのような誤った理解を持ちやすいのか、そして机の前でどう確かめればよいのかを具体的に示します。

なお、本記事で参照する研究は、負の数の理解がどのように発達するかを調べたものです。特定の指導法の優劣を証明するものではありません。その点を踏まえたうえで、教室や家庭で使える手がかりを読み取っていただければと思います。

要点(結論から)

  • 生徒は小学校の「引く=減る」という経験則を強く引きずっており、負の数を引く場面でも答えが小さくなると予想します。
  • 「マイナスを引くからプラス」という手続きの暗記は短期的には正答を出せても、なぜそうなるかの説明にはつながりにくいものです。
  • 負の数の理解には、数直線上の位置や向きといった「方向付きの量」としての見方が必要になります。

結論——「引く」の意味の切り替えが最初の壁になる

  • 生徒は小学校の「引く=減る」という経験則を強く引きずっており、負の数を引く場面でも答えが小さくなると予想します。
  • 「マイナスを引くからプラス」という手続きの暗記は短期的には正答を出せても、なぜそうなるかの説明にはつながりにくいものです。
  • 負の数の理解には、数直線上の位置や向きといった「方向付きの量」としての見方が必要になります。
  • 生徒の誤答の多くは、整数を「ものの個数」のようにとらえる全数思考に由来しています。
  • 指導では、答えを教える前に「引くという操作の意味」を問い直すことが有効です。

理由——「引く=減る」という経験則が負の数で崩れる

小学校までの「引く」は常に減る操作だった

小学校の算数では、引き算は「残りはいくつ」「違いはいくつ」という文脈で扱われます。5個のあめから3個を取ると2個になる。このとき、引く数が大きいほど答えは小さくなります。生徒は6年間かけて「引く=減る」という経験則を強化してきました。

ところが中学1年で負の数を学ぶと、「3−(−5)=8」のように、引いたはずの答えが元の数より大きくなります。これは経験則に反するため、生徒は計算手続きとしては正しく処理できても、意味の面で納得できない状態に陥ります。

この納得のなさは、単なる理解不足ではなく、既有知識との衝突としてとらえる必要があります。生徒は「引く」という言葉の意味を自分なりに再定義しなければならないのです。

負の数は「ものの個数」ではとらえられない

負の数が難しい理由の一つは、それが日常の「ものの個数」では表現できないことにあります。りんごが−3個ある、という状態は想像できません。生徒はこれまで数を使って「ある」「ない」を表してきたため、負の数を数の一種として受け入れることに抵抗を感じます。

研究では、負の整数の理解を調べるために、小学校低学年の子どもにインタビューを行った例があります。その結果、初期の段階では多くの子どもが、負の数を理解するために全数(0以上の整数)の原則をさまざまに組み合わせて使おうとしていたことが報告されています。

Bofferding L. Negative Integer Understanding: Characterizing First Graders’ Mental Models. Journal for Research in Mathematics Education. 2014;45(2):194-245.

つまり、子どもは負の数を「0より小さい数」としてではなく、既知の全数のルールを当てはめて理解しようとします。たとえば「−5は5より大きい」と考えたり、「−3と3は同じ」と見なしたりする誤りが生じます。このような誤りは、負の数を個数として扱おうとする限り、なかなか解消されません。

負の数を理解するには、数直線のように「0を基準とした位置」や「向き」を持つ量として数の見方を広げる必要があります。この切り替えが、正負の数の単元で最も本質的な学習です。

マイナス記号には複数の意味がある

もう一つの壁は、マイナス記号が文脈によって異なる役割を果たすことです。「−5」のように数の一部として負の数を表す場合と、「3−5」のように引き算の演算を表す場合があります。生徒はこの区別がつかず、記号の見た目が同じために混乱します。

負の数の理解に関する研究では、マイナス記号の意味をどう扱うかが理解の深まりに影響することが指摘されています。

Vlassis J. Making sense of the minus sign or becoming flexible in ‘negativity’. Learning and Instruction. 2004;14(5):469-484.

たとえば「3−(−5)」という式には、演算としてのマイナスと、負の数を示すマイナスの両方が現れます。生徒はこの二つを同じ記号として見てしまい、「引く」と「負」の区別ができなくなります。その結果、計算規則を丸暗記する方向へ逃げてしまうのです。

指導では、マイナス記号が「引く」を意味する場合と「0より小さい数を表す」場合があることを、式の中で明示的に区別して見せることが有効です。記号の多義性に気づくことが、負の数の計算を意味づける第一歩になります。

誤答の例——生徒は何を考えて間違えるのか

よくある誤答 その子が考えていること 確かめる問いかけ
3−(−5)=−2 「引く」は減らすことだから、3から5を引いて−2になるはず 「数直線で3から左に5動くとどこに行く? (−5)を引くのは左に動くことかな?」
3−(−5)=2 マイナスとマイナスで打ち消し合うが、3−5の計算をして絶対値だけ見ている 「(−5)を引くのと、5を引くのは同じこと? 式の違いを数直線で比べてみよう」
−3−5=2 マイナスが二つあるからプラスになると覚えている 「この式に(−5)はある? マイナス記号がそれぞれ何を表しているか指さして説明して」
−3−(−5)=−8 負の数同士だから足し算になり、3と5を足して負の符号をつける 「−3から(−5)を引くって、数直線ではどちら向きに動くこと? 実際に動いてみよう」
3−(−5)=8と書けるが理由を聞くと「そういう決まりだから」 手続きは覚えたが、引くのに増える意味を説明できない 「気温で考えてみよう。3度から−5度を引くって、どんな温度の変化?」

机の前で1対1で確かめるときは、次の手順が有効です。

  1. まず数直線を書き、0の位置と正の向き・負の向きを確認します。
  2. 「3−5」を数直線上で左に5動く操作として確認し、答えが−2になることを共有します。
  3. 次に「3−(−5)」を考え、「(−5)を引く」とは「−5の反対向きに5動く」ことだと、数直線の動きで示します。
  4. 「引く数が負のときは、引く向きが反転する」ことを、生徒自身に数直線を指でなぞらせて確かめさせます。
  5. 最後に、気温や借金などの文脈で同じ式を読み替え、数直線の動きと対応させます。

小学生の場合は、負の数そのものが未習であることが多いため、数直線の左側に数が並ぶこと自体を丁寧に導入する必要があります。温度計やエレベーターの地下表示など、0より小さい数を実感できる具体物から始めるとよいでしょう。

中学生の場合は、計算手続きはすぐに覚えても、意味の理解が追いつかないことが多いです。答えが合っているからといって理解したと判断せず、「なぜそうなるか」を数直線や言葉で説明させる場面を設けることが大切です。

高校生の場合は、正負の数の計算自体はできても、文字式や不等式で符号の向きを誤る形でつまずきが再発することがあります。この場合、数直線の操作に立ち返って、符号の意味を再確認するのが近道です。

よくある誤読——研究結果をどう使わないか

「低学年でも負の数を教えれば理解できる」という誤読

負の整数の理解に関する研究で、小学校1年生を対象にした調査があると紹介すると、「早く教えれば負の数は身につく」と受け取る人がいます。しかし、この研究は、指導によって子どもの心的モデルがどう変化するかを調べたものであり、早期教育の効果を推奨するものではありません。

Bofferding L. Negative Integer Understanding: Characterizing First Graders’ Mental Models. Journal for Research in Mathematics Education. 2014;45(2):194-245.

研究が示しているのは、子どもが負の数を理解しようとするとき、最初は全数の原則に頼りがちだということです。指導によって形式的なモデルへ移行する子どもがいる一方で、全数思考にとどまる子どももいます。この個人差を無視して「教えれば誰でも理解できる」と一般化するのは誤りです。

正しい読み方は、負の数の理解には段階があり、特に「全数としての見方」から「方向付きの量としての見方」への移行が鍵になる、というものです。指導者はこの移行を促す手立てを考える必要があります。

「マイナス記号の多義性を教えれば解決する」という誤読

マイナス記号の意味の柔軟性が理解に関係するという研究を、「記号の区別を説明すればつまずきは解消する」と短絡的に受け取る向きもあります。しかし、研究が示すのは、記号の多義性への気づきが理解の一要素であるということであり、それだけで十分という主張ではありません。

Vlassis J. Making sense of the minus sign or becoming flexible in ‘negativity’. Learning and Instruction. 2004;14(5):469-484.

実際には、記号の区別を言葉で説明されても、生徒はすぐに計算の文脈で混乱します。必要なのは、記号の意味を区別する練習と、数直線などのモデルを使った操作を繰り返すことです。研究結果を「説明すれば済む」という指導の簡略化に使わないよう注意が必要です。

正しくは、マイナス記号の多義性は生徒が自ら気づくべき対象であり、教師はその気づきを促す問いかけや課題を設計する役割を担う、と読むべきでしょう。

今週やること——数直線で「引く向きの反転」を確かめる

  1. 生徒の前で数直線を大きく書き、「3−5」を左へ5動く操作として示します。次に「3−(−5)」を考えさせ、「(−5)を引く」とは「−5の反対、つまり右へ5動く」ことだと、矢印で描き分けます。
  2. 「引く数が負のときは、引く向きが反対になる」という表現を生徒自身の言葉で言い換えさせます。「マイナスを引くとプラス」ではなく、「引く向きがひっくり返る」と言えるかどうかを確認します。
  3. 気温の変化で同じ式を表します。「朝の気温が3度で、夕方に−5度を引いたら、つまり−5度の反対の変化があったら、何度になる?」と問い、数直線の動きと対応させます。

持ち越されるつまずき——文字式と一次方程式で再び現れる

正負の数で「引く」の意味を切り替えられないまま進むと、文字式の計算で同じ混乱が起きます。たとえば「xからyを引く」という表現を、数直線上の向きの反転としてではなく、個数を取り去る操作としてだけ捉えていると、負の数を引く場面で手が止まります。文字式では具体的な個数が見えないため、小学校までの経験則に頼るほど答えの符号を逆にしてしまうことがあります。

一次方程式でも、移項の場面でつまずきが表面化します。「引く」を減る操作とだけ結びつけていると、項を移すときに符号を変える理由が納得できず、手続きだけを覚えようとします。すると、かっこを外す計算や、負の係数で両辺を割る操作でも符号の扱いに迷いが生じます。正負の数でのつまずきは、計算の手順が増える単元ほど、小さな符号の誤りとして繰り返し現れます。

家庭で見分けるとき——正解を尋ねるより、向きを尋ねる

保護者が確認するとき、「答えは何になると思う」と正誤を先に尋ねると、生徒は計算結果だけを言おうとします。しかし、正負の数でつまずいている生徒は、答えが合っていても理由を説明できないことがあります。正解を言えたからといって、「引く」の意味を切り替えられたとは限りません。

そのかわりに、「数直線で最初にどちらを向くの」「引くと言われたら、向きはどう変わるの」と、操作の向きを問いかけると、理解の状態が見えやすくなります。生徒が自分の言葉で向きの変化を説明できれば、少なくとも手続きの丸暗記ではないことが分かります。説明に詰まる場合は、まだ「引く=減る」という経験則に戻っている可能性があります。

この記事で言えないこと

第一に、ここで紹介した研究は特定の年齢層や限られた文脈での調査に基づいています。負の数の理解に関するすべての生徒のつまずきを説明できるわけではありません。とくに、日本の学習指導要領に沿った教科書の配列や指導順序とは異なる条件での知見も含まれるため、そのまま日本の教室に当てはめることには慎重さが要ります。

第二に、この記事で示した誤答例や問いかけは、典型的なパターンを整理したものであり、すべての生徒に当てはまるとは限りません。同じ誤答でも、その背後にある考え方は生徒によって異なります。実際の指導では、個々の生徒の説明をよく聞き、その子がどのようなモデルで負の数をとらえているかを見極めることが前提になります。

第三に、負の数のつまずきは、数直線の操作だけで解消するとは限りません。家庭環境や学習歴、算数全般への苦手意識など、さまざまな要因が影響します。この記事で述べた手立てはあくまで一つの入り口であり、万能の解決策ではありません。

当塾の立場

正直に申し上げると、この記事で紹介した数直線の操作や問いかけは、家庭でも十分に取り組めます。保護者の方が「なぜそうなると思う?」と問いかけながら、数直線を一緒に描くだけでも、生徒の理解は大きく変わります。正負の数の導入段階であれば、塾に通わなければ解決できないという性質のものではありません。

そのうえで、個別指導の塾が担えるとすれば、生徒が「わかったつもり」で通り過ぎている箇所を見つけ、その子の言葉で説明させ直すことです。当塾では、正負の数の計算が正答できている生徒に対しても、あえて「(−5)を引くとなぜ増えるのか、数直線を使わずに説明して」と問いかけ、手続きの暗記と意味の理解を区別して確認するようにしています。

出典

  1. Vlassis J. Making sense of the minus sign or becoming flexible in ‘negativity’. Learning and Instruction. 2004;14(5):469-484.
  2. Bofferding L. Negative Integer Understanding: Characterizing First Graders’ Mental Models. Journal for Research in Mathematics Education. 2014;45(2):194-245.

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