速さの三公式の暗記が単位量あたりの見方を妨げる|武蔵野個別指導塾が薦める学習の仕方

連載「単元別のつまずき研究——その単元で、生徒は実際に何をどう誤るか」全50回の第8回です。学習の仕方の目次を見る

「速さの三公式、全部覚えたのに、テストになるとどれを使えばいいか分からなくなる」。個別指導の机で、生徒がそう言って問題用紙を裏返しにする場面は少なくありません。式は言えるのに、問題の数値をどこに入れるのかで止まってしまうのです。

速さの単元は、小学校で「道のり=速さ×時間」を学び、中学校で文字式や方程式に、高校では物理基礎の等速直線運動や化学の反応速度へとつながる、長い射程を持つ単元です。ところが、その入口で「三つの式を丸暗記する」という学習の仕方が定着すると、あとあとまで単位の意味を考えないまま計算だけを回す癖が残ります。

今回は、速さを「単位量あたりの大きさ」として概念的に捉えられず、三つの式の暗記に頼るつまずきを取り上げます。研究が示すのは、子どもは新しい場面で、それまでに慣れた知識を当てはめようとするという事実です。そして、教える側の言葉が数と演算の枠に閉じていると、概念的な理解を助けようとする意図が伝わらないこともあります。

この記事では、速さの三公式を丸暗記する生徒が何につまずいているのかを整理し、机の前でできる確かめ方と、学年別の注意点までを具体的に示します。

要点(結論から)

  • 速さの三公式を「は・じ・き」のような図や語呂で覚えると、問題文から数量を抜き出す作業だけが先に立ち、速さが何を表す量なのかを考えなくなります。
  • 速さは「単位量あたりの大きさ」です。1時間あたり、1分あたり、1秒あたりに進む道のりという見方が育っていないと、公式の選択が根拠のない当て推量になります。
  • 三つの式は、もともと一つの関係「道のり=速さ×時間」から導けるものです。式を三つ別々に覚えるほど、相互のつながりが見えにくくなります。

結論——速さの三公式の暗記は、単位量あたりの見方を育てないまま計算手続きだけを固定してしまう

  • 速さの三公式を「は・じ・き」のような図や語呂で覚えると、問題文から数量を抜き出す作業だけが先に立ち、速さが何を表す量なのかを考えなくなります。
  • 速さは「単位量あたりの大きさ」です。1時間あたり、1分あたり、1秒あたりに進む道のりという見方が育っていないと、公式の選択が根拠のない当て推量になります。
  • 三つの式は、もともと一つの関係「道のり=速さ×時間」から導けるものです。式を三つ別々に覚えるほど、相互のつながりが見えにくくなります。
  • 単位の扱いが形式的になると、時速と分速の換算や、mとkmの換算で誤りが増えます。数値の計算は合っていても、単位の意味を問われると答えられません。
  • このつまずきは、小学生の算数にとどまらず、中学生の文字式や高校生の物理量の扱いにも同じ形で現れます。早い段階で「単位量あたり」の見方を言葉にできるようにしておくことが重要です。

理由——なぜ三つの式の丸暗記がつまずきを生むのか

新しい場面では、慣れた知識が先に使われる

速さの問題を解くとき、生徒は問題文の中に「速さ」「時間」「道のり」という言葉を見つけ、覚えた式に数値を当てはめようとします。このとき働いているのは、速さの概念ではなく、これまでに経験した「かけ算やわり算で答えを出す」という手続きの記憶です。

研究では、生徒の概念や力は長い時間をかけて、学校の内外での多くの状況の経験を通して発達すると指摘されています。新しい状況に直面したとき、生徒はより単純で慣れ親しんだ状況での経験によって形作られた知識を使い、それを新しい状況に適応させようとします。

Vergnaud G. Multiplicative Structures. Number Concepts and Operations in the Middle Grades. 2025:141-161.

速さの単元で言えば、「速さ×時間=道のり」という式を覚えた生徒は、新しい問題でもまずその式を思い出します。問題が「時間を求める」形に変わっていても、頭の中では同じ式が先に立ち、数値をどう動かすかで混乱します。これは、速さを単位量あたりの大きさとして理解していないために、式の意味ではなく式の形に頼っている状態です。

生徒の知識には、言葉や式で表現できる明示的なものと、行動の中で使えるが理由を説明できない暗黙的なものがあります。三公式を言える生徒は明示的な知識を持っているように見えますが、問題場面で適切な演算を選べないのは、その知識が概念と結びついていないためです。

教える側の言葉が数と演算に閉じていると、概念が伝わらない

速さを概念的に教えようとする教師でも、使う言葉が「何を何で割るか」「どの数をどの数にかけるか」という数と演算の説明に終始すると、生徒には手続きの話としてしか届きません。

ある教師が一人の生徒に速さの概念を教える授業実験を調べた研究があります。その教師の速さについての概念化は強固で詳しいものでしたが、数と演算の言葉に包まれていました。そのことが、生徒が速さを概念的に理解するのを助けようとする教師の努力を損なったと報告されています。

Thompson P, Thompson A. Talking about Rates Conceptually, Part I: A Teacher’s Struggle. Journal for Research in Mathematics Education. 1994;25(3):279-303.

たとえば「時速40kmとは、1時間で40km進むことだよ」と説明したあと、「だから道のりを求めるときは40×2をするんだ」と続けると、生徒の注意は「40×2」という計算に移ります。「1時間で40km」という量のイメージは、計算の説明に押し流されてしまいます。

速さの概念を育てるには、数値の処理を急がず、「1時間あたり」「1分あたり」という単位量の感覚を言葉にする時間が必要です。教師が数と演算の言葉だけで説明している限り、生徒は概念ではなく計算の手順を聞き取ります。

三つの式は、一つの関係から導けるという見方が抜けている

速さの三公式は、次のように整理されることが多いものです。

  • 道のり=速さ×時間
  • 速さ=道のり÷時間
  • 時間=道のり÷速さ

この三つを別々のものとして覚えると、生徒は「どの公式を使うか」を問題の見た目から判断しようとします。しかし、速さの本質は「単位時間あたりに進む道のり」という一つの見方です。この見方があれば、三つの式は同じ関係の言い換えにすぎないと分かります。

たとえば「2時間で80km進む車の速さ」を求めるとき、単位量あたりの見方を使うなら「1時間あたりに直すから80÷2」と考えます。「時速40kmで2時間走ると何km進むか」なら「1時間で40km、それが2時間分だから40×2」と考えます。どちらも「1時間あたり」が基準にあります。

ところが、三公式を暗記した生徒は「速さを求めるから、道のり÷時間」のように、問題文の語句と式の形を対応させます。この方法は、数値が単純なうちは正解できますが、単位の換算が絡んだり、問題文が長くなったりすると途端に使えなくなります。式の形ではなく、単位量あたりの見方で考えているかどうかが、応用のきく理解と暗記の差になります。

誤答の例——速さの三公式を丸暗記した生徒の具体的な姿

よくある誤答 その子が考えていること 確かめる問いかけ
「分速60mで15分歩くと何m進むか」を60÷15と計算する 「速さと時間が出ているから、わり算だと思った」と、問題文の語句と演算を直接結びつけている 「分速60mって、1分で何m進むこと?」と単位量の意味を言葉にさせる
「2時間で120km進む車の速さ」を120×2と計算する 「速さを出すときは、大きい数と小さい数をかけることがある」と、数値の大小や並びで判断している 「1時間あたりに直すには、2時間分をどうする?」と単位時間の考えに戻す
時速40kmを分速に直す問題で40×60と計算する 「1時間は60分だから、60をかければ分になる」と、単位換算を数値の変換操作として覚えている 「時速40kmは1時間で40km。1分では、40kmより長い?短い?」と量の大小で確認する
「分速80mの自転車が400m進むのにかかる時間」を80÷400と計算する 「小さい数を大きい数で割る」という形だけを見て、式の意味を考えていない 「1分で80m。400m進むには、1分より長くかかる?短くかかる?」と見積もらせる
「時速50kmで3時間走った道のり」を50÷3と計算する 「速さと時間が出たら、わり算で時間か道のりが出る」と、公式の対応表を曖昧に覚えている 「1時間で50km。3時間なら、50kmより長い道のりになる?短い?」と基準量の繰り返しで考えさせる

机の前で1対1で確かめるときは、次の手順が有効です。

  1. まず、問題文を読ませて「何を求めるのか」を自分の言葉で言わせます。このとき「速さ」「時間」「道のり」の語句を言うだけでなく、「1時間あたりに進む道のり」のように単位量の表現が出るかを観察します。
  2. 次に、数値を当てはめる前に「答えはだいたいどれくらいになりそうか」を見積もらせます。たとえば「分速60mで15分なら、60mより長いか短いか」を問います。これで演算の向きの誤りを生徒自身が気づくことがあります。
  3. そのうえで、式を一つだけ書かせます。三公式を並べさせず、「1時間あたり」「1分あたり」という言葉を使って式の意味を説明させます。
  4. 最後に、単位を計算に含めて書かせます。「60m/分×15分=900m」のように、単位が約分されることを確認すると、速さが単位量あたりの量であることが見えやすくなります。

小学生では、速さの学習は単位量あたりの大きさの応用として位置づけられています。数直線や図を使って「1あたり」を意識させる段階です。公式の暗記を急がず、まず「1分でどれだけ進むか」を繰り返し言葉にすることが大切です。

中学生では、速さは文字式や方程式の問題として現れます。小学生のときに三公式で乗り切った生徒は、文字が入った途端に式を立てられなくなります。文字式でも「1時間あたり」の見方を使って、道のりを速さと時間の積として表す練習が必要です。

高校生では、物理基礎の等速直線運動や化学の反応速度で、単位の組み立てが問われます。m/sとkm/hの換算を「3.6をかける」のような数値操作で覚えていると、単位の次元を考えた換算ができません。速さを単位量あたりの量として捉え直すことは、高校の理系科目の前提になります。

よくある誤読——研究結果をどう使うべきか

「概念的に教えれば公式は不要」という誤読

速さの概念的理解を強調する研究を、「公式を覚えさせなくてよい」という主張として受け取るのは誤りです。研究が示しているのは、概念的な理解と手続き的な実行のどちらか一方で十分という話ではありません。むしろ、生徒の知識には明示的な形と暗黙的な形があり、両者が結びつくことが重要だとされています。

Vergnaud G. Multiplicative Structures. Number Concepts and Operations in the Middle Grades. 2025:141-161.

三つの式を覚えること自体が悪いのではなく、式の意味を考えずに形だけを覚えることが問題です。概念的な見方を育てたうえで、式を整理して覚えることは、計算の負担を減らし、より複雑な問題に集中するために役立ちます。

「教師の言葉を変えればすぐ解決する」という誤読

教師の言葉が数と演算に閉じていると概念が伝わらないという研究結果を、「説明の仕方を変えれば、生徒はすぐに理解する」と読むのは短絡的です。研究が描いているのは、教師自身が速さを概念的に理解していても、それを伝える言葉の選択によって生徒の解釈が左右されるという複雑な過程です。

Thompson P, Thompson A. Talking about Rates Conceptually, Part I: A Teacher’s Struggle. Journal for Research in Mathematics Education. 1994;25(3):279-303.

正しい読み方は、教える側が「1時間あたり」という単位量の言葉を意識的に使い、生徒の反応を見ながら説明を調整する必要がある、というものです。一度の説明で伝わるとは限らず、生徒が自分の言葉で言い直す機会を繰り返し作ることが前提になります。

今週やること——速さの三公式を暗記から概念へ戻すための3つの行動

  1. 速さの問題を解く前に、必ず「1時間あたり」「1分あたり」「1秒あたり」のどれで考えるかを生徒に言わせます。問題文に「時速」「分速」「秒速」とあれば、それを単位量の言葉に置き換えさせます。
  2. 式を書く前に、答えの見積もりをさせます。「1分で60mなら、15分では60mより長いか短いか」のように、演算の向きを量の大小で判断する練習を毎回入れます。
  3. 三つの式を別々に覚え直すのではなく、「道のり=速さ×時間」の一つから、残りの二つを導く練習をさせます。式変形ではなく、「1時間あたりの量」という言葉を使って導けるようにします。

この記事で言えないこと

この記事で参照した研究は、速さの概念形成に関する一般的な知見を示すものであり、特定の指導法の効果を数値で比較したものではありません。したがって、ここで述べた手順がすべての生徒に同じように有効であるとは言えません。

また、速さのつまずきには、ここで扱った「三公式の丸暗記」以外にも、小数や分数の計算力不足、単位換算の未定着、文章読解の困難など、複数の要因が重なっている場合があります。一つの原因に絞って対応しても、他の要因が残っていれば改善は限定的です。

さらに、生徒の年齢やそれまでの学習経験によって、単位量あたりの見方の育ち方には大きな個人差があります。ある生徒には言葉での説明が有効でも、別の生徒には図や数直線、実際の移動を想像する活動の方が合うこともあります。個別の状況に応じた判断が必要です。

当塾の立場

速さの三公式の丸暗記を概念的な理解に戻す作業は、家庭でも十分に取り組めます。問題を解く前に「1時間あたり」の意味を言葉にさせること、答えの見積もりをさせることは、保護者の方でもできる声かけです。この段階で塾が必要というわけではありません。

そのうえで、当塾が担えることがあるとすれば、生徒が「分かったつもり」で通り過ぎている箇所を、1対1の対話で見つけることです。具体的には、生徒に問題の式と答えを書かせたあと、「この式の『÷2』は、何を2で分けているの?」と単位量に戻る問いを一つだけ投げ、生徒が自分の言葉で説明できるかどうかを確かめる手順を取ります。この確認を繰り返すことで、暗記ではなく単位量の見方で速さを扱えるようにしていきます。

出典

  1. Vergnaud G. Multiplicative Structures. Number Concepts and Operations in the Middle Grades. 2025:141-161.
  2. Thompson P, Thompson A. Talking about Rates Conceptually, Part I: A Teacher’s Struggle. Journal for Research in Mathematics Education. 1994;25(3):279-303.

Warning: Attempt to read property "show_author" on false in /home/c1531448/public_html/musasinokobetu.com/wp-content/themes/heal_tcd077/single.php on line 165

関連記事

PAGE TOP
お電話