連載「単元別のつまずき研究——その単元で、生徒は実際に何をどう誤るか」全50回の第6回です。学習の仕方の目次を見る
「0.8と0.75では、どちらが大きいですか」と尋ねると、少し考えてから「0.75のほうが大きい」と答える生徒がいます。理由を聞くと「だって75のほうが8より大きいから」と返ってくることが少なくありません。小数の学習でよく見られる、この「桁が多いほど大きい」という誤りについて、今回は考えていきます。
この誤りは、ただのケアレスミスではありません。整数で身につけた「桁が多い数ほど大きい」という見方を、そのまま小数に当てはめたときに起こる、いわば自然な誤りです。生徒はでたらめに答えているのではなく、既に知っている規則を新しい場面に適用しようとしているのです。
今回の記事では、この誤りがなぜ起こるのかを研究知見に基づいて整理し、実際の誤答例と、机の前でできる確かめの手順を示します。そのうえで、この研究結果をどう読むべきか、何が言えないのかまで丁寧に区別します。小数の大小でつまずく生徒への具体的な手がかりにしてください。
要点(結論から)
- 小数の大小で「桁が多いほど大きい」と誤るのは、整数で学んだ「桁が多い数ほど大きい」という規則を、小数にもそのまま当てはめてしまうために起こります。
- この誤りは、生徒が新しい内容を既に知っている知識と結びつけようとする過程で自然に現れるものです。理解不足というより、既有知識との統合の途中で生じる現象と捉えられます。
- 小数を分数として解釈しようとする別の誤りもあり、誤りの種類によって対処の仕方が変わります。まずはどの誤りかを区別することが大切です。
結論——小数の大小で「桁が多いほど大きい」と誤るのは、整数の規則をそのまま適用しているからです
- 小数の大小で「桁が多いほど大きい」と誤るのは、整数で学んだ「桁が多い数ほど大きい」という規則を、小数にもそのまま当てはめてしまうために起こります。
- この誤りは、生徒が新しい内容を既に知っている知識と結びつけようとする過程で自然に現れるものです。理解不足というより、既有知識との統合の途中で生じる現象と捉えられます。
- 小数を分数として解釈しようとする別の誤りもあり、誤りの種類によって対処の仕方が変わります。まずはどの誤りかを区別することが大切です。
- 誤りを単に「間違い」として消すのではなく、生徒が何を考えているかを知る診断の手がかりとして使うことができます。
- 指導の順序やカリキュラムの組み方によって、どの種類の誤りが現れやすいかが変わります。教え方の工夫で誤りの出方を減らせる余地があります。
理由——整数の規則が小数に持ち込まれる仕組み
整数で身につけた「桁の見方」が干渉する
整数の世界では、桁数が多いほど数は大きくなります。たとえば「75」は「8」より桁が多いので、75のほうが大きいと判断して正解になります。この規則は、小学校で整数を学ぶ間に何度も使われ、かなり強く定着します。ところが小数では、この規則がそのままでは成り立ちません。0.75は0.8より小さいからです。
生徒が小数を初めて学ぶとき、目の前の「0.75」と「0.8」をどう見るかが問題になります。整数で培った見方が残っていると、小数点以下の「75」と「8」を、あたかも整数の75と8のように比べてしまいます。すると「75のほうが大きい」という判断になり、0.75のほうが大きいと答えてしまうのです。
この現象は、生徒が新しい数学の内容を理解しようとする努力の中で記録された、一貫して現れる誤りの一つとして研究で報告されています。整数の誤りは、複数桁の整数を解釈するための規則を子どもが適用することから生じるとされています。
Resnick L, Nesher P, Leonard F, et al. Conceptual Bases of Arithmetic Errors: The Case of Decimal Fractions. Journal for Research in Mathematics Education. 1989;20(1):8-27.
つまり、この誤りは「小数がわかっていない」というより、整数でうまくいった方法を新しい対象に持ち込んだ結果として理解できます。生徒の中では、それまでの知識と新しい内容を統合しようとする試みが起きているのです。
誤りは既有知識との統合の自然な副産物である
新しい単元に入るとき、生徒は何もない状態から学ぶのではありません。既に持っている知識を使って、新しい内容を何とか理解しようとします。小数の学習では、整数の規則がその足場になります。ところが、その足場が小数では合わない場面がある。そのずれが誤りとして表面化します。
研究では、誤りは生徒が教えられた新しい内容を、既に確立された知識と統合しようとする試みの自然な付随物であると示唆されています。誤りを避けることが指導の目的なのではなく、誤りを通して生徒の理解の状態を診断できるという立場です。
Resnick L, Nesher P, Leonard F, et al. Conceptual Bases of Arithmetic Errors: The Case of Decimal Fractions. Journal for Research in Mathematics Education. 1989;20(1):8-27.
この見方に立つと、「桁が多いほど大きい」という誤りは、指導の失敗ではなく、学習の途中で現れる手がかりです。生徒が整数の規則に頼っていることがわかれば、次に「小数では位ごとに比べる」という新しい規則を丁寧に導入する道筋が見えてきます。
誤りの種類は一つではなく、指導の順序にも左右される
小数の誤りには、整数由来のものだけではありません。小数を分数として解釈しようとする中で生じる誤りもあります。たとえば、小数を分数に直すときに分母と分子の関係を取り違えるといった誤りが、分数由来の誤りとして報告されています。
どちらの誤りが現れやすいかは、カリキュラムの順序によって変わります。小数を分数と関連づけて教えるか、整数の延長として教えるかによって、生徒が使おうとする既有知識が異なるためです。指導の仕方によって誤りの出方が変わるという点は、教える側にとって重要な示唆です。
Resnick L, Nesher P, Leonard F, et al. Conceptual Bases of Arithmetic Errors: The Case of Decimal Fractions. Journal for Research in Mathematics Education. 1989;20(1):8-27.
したがって、「桁が多いほど大きい」という誤りだけを取り出して対策するのではなく、その生徒が小数をどのように捉えようとしているのかを見極めることが必要です。整数由来なのか、分数由来なのかで、次の手立ては変わります。
誤答の例——「0.75は0.8より大きい」と答える生徒への確かめ
| よくある誤答 | その子が考えていること | 確かめる問いかけ |
|---|---|---|
| 0.75は0.8より大きい | 75は8より大きいから、0.75のほうが大きい | 0.75と0.8を、0.1がいくつ分かで表すとどうなりますか |
| 0.6は0.45より大きい | 6は45より小さいけれど、0.6は0.45より桁が少ないから小さいはず、と迷う | 0.6を0.60と書いたら、0.45と比べやすくなりませんか |
| 0.12は0.9より大きい | 12は9より大きいから、0.12のほうが大きい | 0.9を0.90と書いて、0.12と並べてみるとどう見えますか |
| 0.305は0.42より大きい | 305は42より大きいから、0.305のほうが大きい | 一番左の位から比べると、まずどこを見ますか |
| 0.7は0.700より小さい | 700は7より大きいから、0.700のほうが大きい | 0.7と0.700では、0.1がいくつ分ありますか |
机の前で1対1で確かめるときは、次の手順が有効です。
- まず、比べる二つの小数を同じ桁数にそろえて書かせます。0.8を0.80、0.75はそのまま0.75と並べます。
- 次に、一番左の位から順に比べることを確認します。0.80と0.75では、小数第一位の8と7を比べるので、0.80のほうが大きいとわかります。
- そのうえで、0.1がいくつ分あるかという見方に戻します。0.8は0.1が8個分、0.75は0.1が7個分と0.01が5個分です。
- 最後に、整数の「桁が多いほど大きい」という規則は小数では使えないことを、言葉で確認します。小数では位ごとに比べることを伝えます。
小学生では、まず0.1の何個分かという具体物や数直線を使った確認が有効です。0.8と0.75を数直線上に置くと、0.8のほうが右に来ることが視覚的にわかります。中学生では、小数を分数に直して比べる方法も使えます。0.8は10分の8、0.75は100分の75なので、通分して比べられます。高校生では、この誤りが残っている場合、小数の大小そのものより、有効数字や測定値の扱いで同じ混乱が起きていないかを確認するとよいでしょう。
よくある誤読——研究結果を「誤りは放置してよい」と読まない
誤読その1:誤りは自然だから訂正しなくてよい、と読む
研究が「誤りは自然な付随物である」と述べていることから、「誤りは自然なのだから、そのままにしておいてよい」と読むのは誤りです。自然に現れるというのは、学習の過程で起こりうるという意味であり、放置してよいという意味ではありません。むしろ、誤りを診断の道具として使うことが提案されています。
Resnick L, Nesher P, Leonard F, et al. Conceptual Bases of Arithmetic Errors: The Case of Decimal Fractions. Journal for Research in Mathematics Education. 1989;20(1):8-27.
正しい読み方は、誤りを「理解の状態を知る手がかり」として扱うことです。生徒が整数の規則を小数に当てはめているとわかれば、その前提を崩すような問いかけや、位ごとに比べる手順の再指導につなげられます。誤りを見つけたときこそ、指導の出発点になります。
誤読その2:誤答例を見せる指導は常に有効だと読む
誤答例を使った学習の効果を調べた研究があります。小数の大きさの学習で、誤った例を示すことが理解を支えるかどうかを検討したものです。この研究は、誤答例をただ見せればよいと言っているのではありません。誤答例をどう使うか、どのような文脈で提示するかが重要です。
Durkin K, Rittle-Johnson B. The effectiveness of using incorrect examples to support learning about decimal magnitude. Learning and Instruction. 2012;22(3):206-214.
正しい読み方は、誤答例は「なぜ誤りなのか」を考えさせる材料として使うと効果が見込める、というものです。単に「この答えは間違いです」と示すだけでは、生徒の理解は深まりません。誤答の背後にある考え方を取り上げ、正しい考え方と対比させることが必要です。
今週やること——小数の大小で誤る生徒に、位ごとの比較を定着させる
- まず、生徒に小数の大小を比べる問題を数問解かせ、「桁が多いほど大きい」という誤りが出るかどうかを確認します。誤りが出たら、その場で正解を教える前に、なぜそう考えたかを尋ねます。
- 次に、比べる二つの小数を同じ桁数にそろえて書く練習をします。0.8と0.75なら0.80と0.75と並べ、小数第一位から順に比べる手順を声に出させます。
- 最後に、0.1がいくつ分かという見方で大小を言い直させます。0.8は0.1が8個分、0.75は0.1が7個分と0.01が5個分なので、0.8のほうが大きいと確認します。
小数の大小の誤りが後々まで影響する単元
小数の大小比較で「桁が多いほど大きい」という誤りが残ると、まず「小数のたし算・ひき算」で位をそろえる場面に響きます。たとえば、百分の一の位まである数と、十分の一の位までしかない数を並べたとき、桁の多い方をむやみに大きいと見なす生徒は、計算の前に数の大きさを正しくつかめません。その結果、位をそろえずに右端を合わせて計算してしまうことがあります。
さらに、この誤りは「小数のかけ算・わり算」でも姿を現します。かけ算で小数点の位置を決めるとき、桁数だけに注目してしまうと、積の大きさの見当がつかなくなります。わり算でも、わる数とわられる数の大小関係を誤ってとらえると、商がもとの数より大きくなるか小さくなるかの判断を間違えます。また、のちに学ぶ「割合」や「単位量あたりの大きさ」では、小数で表された数値を比較する場面が増えるため、ここでの誤りが歩合や百分率の読み取りにも持ち越されやすくなります。
家庭で見分けるときに避けたい確認と、代わりの問いかけ
保護者が子どもの理解を確かめようとするとき、「どっちが大きい?」とだけ尋ねて、正解か不正解かを見るだけの確認になりがちです。この聞き方では、子どもがたまたま答えを当てたのか、それとも位ごとの大きさを比べて判断したのかが見えません。また、「桁が多いほうが大きいんじゃないの?」と先に誤った考えを示すと、子どもは考えずにうなずいてしまうことがあります。
代わりに、「この数は、一の位がいくつで、十分の一の位がいくつ?」と、位ごとに読ませる問いかけが有効です。そのうえで、「どちらの十分の一の位が大きい?」と、同じ位どうしを比べさせると、桁数ではなく位の値に目を向けられます。さらに、「この二つの数の間にある数を一つ言ってみて」と尋ねると、数の並び方そのものを理解しているかどうかが確かめられます。答えの正誤よりも、子どもがどの位に注目して説明するかに耳を傾けると、つまずきの所在が見えやすくなります。
この記事で言えないこと
第一に、この記事で示した誤りの傾向は、研究で報告された主要な誤りの分類に基づくものであり、すべての生徒に同じ順序で同じ誤りが現れることを意味しません。ある生徒は整数由来の誤りを強く示し、別の生徒は分数由来の誤りを示すことがあります。また、同じ生徒でも問題の形式や数値によって誤り方が変わることがあります。
第二に、誤答例を使った学習の効果については、特定の条件下での研究結果です。どのような誤答例を、どのタイミングで、どのくらいの量提示するのが最も効果的かという細かい条件までは、この記事の範囲では言えません。指導の文脈や生徒の既有知識によって、効果の現れ方は変わると考えるべきです。
第三に、この記事で述べた手順は、小数の大小の誤りに焦点を当てたものです。小数の計算や、分数と小数の相互変換、割合や単位量あたりの大きさなど、小数に関わる他のつまずきにそのまま当てはまるとは限りません。個々の生徒のつまずきの背景には、ここで扱っていない要因がある可能性も十分にあります。
当塾の立場
小数の大小で「桁が多いほど大きい」と誤るかどうかの確認と、位ごとに比べる手順の導入は、家庭でもできることです。数直線を書いたり、0.1の何個分かで言い直したりする練習は、特別な教材がなくても取り組めます。まずは家庭で、お子さんがどのように小数を比べているかを聞いてみてください。
そのうえで、塾が担える部分があるとすれば、誤りの背後にある既有知識を丁寧に探ることです。たとえば、整数の位取りの理解がそもそもあいまいなのか、分数の理解に引っ張られているのかを、いくつかの誤答パターンから区別します。当塾では、生徒が誤った理由を口頭で説明してもらい、その説明の中に残っている整数の規則や分数の見方を特定してから、その生徒に合った順序で学び直すようにしています。
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出典
- Resnick L, Nesher P, Leonard F, et al. Conceptual Bases of Arithmetic Errors: The Case of Decimal Fractions. Journal for Research in Mathematics Education. 1989;20(1):8-27.
- Durkin K, Rittle-Johnson B. The effectiveness of using incorrect examples to support learning about decimal magnitude. Learning and Instruction. 2012;22(3):206-214.

