連載「学びの意思決定——行動経済学・社会学・認知心理学から考える」全50回の第26回です。学習の仕方の目次を見る
単語を20個並べて覚えさせると、思い出される語には偏りが出ます。最初のほうと最後のほうがよく残り、真ん中が落ちる。この形は系列位置効果と呼ばれ、心理学の実験でもっとも安定して再現される現象の一つです。
形が安定しているということは、予測できるということでもあります。真ん中が落ちると分かっていれば、真ん中に何を置くかを設計できます。1回の勉強の組み立て方が、ここから導けます。
要点(結論から)
- 自由再生の成績は、リストの位置によって系統的に変わる。最初(初頭効果)と最後(新近効果)が高い。
- マードックの記述では、初頭効果は最初の3〜4語に及び、新近効果は最後の8語に及ぶ。その間は水平に近い。
- 初頭と新近は、異なる仕組みによると考えられてきた。直後に別の作業を挟むと、新近効果だけが消える。
結論——真ん中が落ちる。だから配置を決める
- 自由再生の成績は、リストの位置によって系統的に変わる。最初(初頭効果)と最後(新近効果)が高い。
- マードックの記述では、初頭効果は最初の3〜4語に及び、新近効果は最後の8語に及ぶ。その間は水平に近い。
- 初頭と新近は、異なる仕組みによると考えられてきた。直後に別の作業を挟むと、新近効果だけが消える。
- 実務的な含意は、1回の勉強の中に「最初」と「最後」を増やすことである。
- 区切りを入れれば、その数だけ最初と最後が生まれる。これが休憩の学習上の役割の一つである。
理由——曲線の形と、その解釈
位置によって成績が変わる
マードックは、自由再生課題における系列位置曲線の形を詳細に記述しました。曲線は、リストの最初の3〜4語に及ぶ急峻な初頭効果と、最後の8語に及ぶS字型の新近効果、そしてその間をつなぐ水平に近い部分から成ります。
Murdock BB. The serial position effect of free recall. Journal of Experimental Psychology. 1962;64(5):482-488.
注目したいのは、真ん中の部分が水平だという点です。つまり、真ん中のどこにあるかは関係なく、一様に低い。真ん中に置かれた項目は、位置による助けをまったく受けません。
2つの効果は、別の仕組みによる
グランザーとカニッツは、リストの提示直後に別の作業(数を数えるなど)を挟む条件を作りました。すると、新近効果だけが消え、初頭効果は残りました。
Glanzer M, Cunitz AR. Two storage mechanisms in free recall. Journal of Verbal Learning and Verbal Behavior. 1966;5(4):351-360.
この分離は、2つの効果が別の仕組みに由来することを示す証拠として扱われてきました。最後のほうの項目は、まだ短期的な保持の中に残っているので、直後には出てきます。ところが別の作業が入ると、その保持が失われます。一方、最初のほうの項目は、提示中に反復される機会が多く、より持続的な形で残ります。
実務的にはこう読めます。勉強の直後に別のことをすると、最後にやった部分の有利さは消える。 終わってすぐ動画を見ると、終盤の内容は残りにくくなります。
具体例——1回の勉強の中の配置
| 時間帯 | 位置の効果 | 置くとよいもの |
|---|---|---|
| 開始直後 | 初頭効果が働く | その日いちばん覚えたい新出事項 |
| 中盤 | 位置の助けがない | 既に型のある演習、作業的な課題 |
| 終盤 | 新近効果が働く | 要点の確認、翌日への持ち越し事項 |
| 終了直後 | 新近効果が消えうる | 刺激の強い活動を避ける |
2行目が要点です。中盤は位置の助けがないので、位置以外の助けがあるものを置きます。既にまとまりができている演習や、機械的にこなせる作業がここに向いています。逆に、初めて習う抽象的な内容を中盤に置くと、条件が二重に悪くなります。
今日からできること
- その日いちばん大事なものを、最初に置く。 準備運動として簡単な計算から始めると、最初の枠を作業に使ってしまいます。
- 区切りを入れて、最初と最後を増やす。 長く続けるより、区切ったほうが位置の有利さを得られる回数が増えます。
- 終わった直後に、刺激の強いことをしない。 終盤の内容が失われやすくなります。
- 中盤には、型のある演習を置く。 位置の助けがない時間を、助けが要らない作業に充てます。
- 覚える順番を入れ替える。 同じリストを毎回同じ順で覚えると、真ん中がいつまでも落ちたままになります。
学年で変えるところ
- 小学生——1回が短いので、区切りを意識しなくても最初と最後が頻繁に来ます。終わった直後の過ごし方のほうが効きます。
- 中学生——勉強時間が長くなり、中盤が増えます。区切りを自分で入れる習慣が必要になる時期です。
- 高校生——長時間の学習では、中盤が大半を占めます。区切りの設計が、そのまま定着の差になります。
なぜ最初が有利になるのか
初頭効果の説明として広く受け入れられてきたのは、反復の機会です。リストの最初のほうの項目は、提示されている間に頭の中で繰り返される回数が多くなります。後から来る項目が増えるほど、1項目あたりに割ける反復は減ります。
この説明は、勉強の場面に素直に当てはまります。机に向かった直後は、扱っている内容がそれしかありません。頭の中に他の項目が並んでいないので、反復に使える余地が大きい。30分後には、それまでに扱った内容が頭の中を占めています。
ここから、第21回の作業記憶の話とつながります。最初が有利なのは、位置そのものというより、その時点で容量が空いていることによります。だとすれば、区切りを入れて容量を一度空けることには、位置の効果を作り直す意味があります。
実際、区切りを入れた後の立ち上がりで、扱っている内容が少ない状態が再現されます。休憩が定着に効くとすれば、疲労の回復だけでなく、この「空ける」働きによる部分があると考えられます。
なぜ最後が有利で、しかも消えやすいのか
新近効果のほうは、性質が異なります。最後の項目は、まだ短期的な保持の中に残っているため、直後のテストでは出てきます。ところが、別の作業を挟むとその保持が押し出されます。グランザーとカニッツが示したのは、まさにこの脆さでした。
この脆さは、勉強の実感とよく合います。授業の終わり際に聞いた内容は、その場では分かっているのに、帰宅すると消えている。間に移動や会話が挟まったからです。
対処は2つあります。第一に、終わり際の内容を、その場で外部化する。1行書いて残せば、保持に頼らなくて済みます。第二に、終わった直後の数分を空ける。刺激の強い活動を避けるだけで、残る量が変わります。
いずれも大がかりな工夫ではありません。ただし、どちらもやらなければ、終盤にかけた時間の一部は失われます。1日の終わりの30分を、そのまま失うか残すかの差は、積み重なると大きくなります。
休憩には、学習上の理由がある
休憩は、疲労の回復のためだけのものではありません。系列位置効果の観点からは、区切りを作ることで最初と最後を増やすという機能があります。
60分続けて勉強すれば、最初と最後は1つずつです。20分ずつ3回に区切れば、最初と最後が3つずつになります。同じ総時間で、位置の有利さを得られる機会が増えます。
ただし、休憩の中身には注意が要ります。グランザーとカニッツの実験で新近効果を消したのは、直後に挟まれた作業でした。休憩に強い刺激を入れると、直前にやった内容が失われやすくなります。歩く、水を飲む、窓の外を見る。頭に新しい内容を載せない休憩が、この観点では有利です。
第22回で扱った注意の残余の話とも整合します。休憩の中身を軽くしておくことには、切り替えの費用の面でも、記憶の面でも理由があります。
1日単位でも、同じ形が現れる
系列位置効果は、リスト内の項目についての現象ですが、同じ形は1日の中でも観察できます。朝いちばんに扱ったことと、寝る前に扱ったことは比較的よく残り、午後の中盤に扱ったことは薄い。もちろん、覚醒水準や疲労といった別の要因も混ざるため、位置だけの効果とは言えません。
それでも、設計の指針としては使えます。1日の中で最も重要な内容を、中盤に置かない。 部活の後で疲れている時間帯に、新しい単元の導入を持ってくると、条件が重なって悪くなります。
実務的な組み方としては、次のようになります。朝または帰宅直後の最初の枠に、新しい内容の核心を置く。中盤には、既に型のある演習や作業を置く。就寝前の最後の枠に、その日の要点の確認を置く。この形なら、位置の助けを2回得られます。
なお、就寝前の学習については、睡眠との関係を扱った別の研究群があります。ここでは位置の観点だけを述べていますが、寝る直前の内容が残りやすいという点では、両者の示唆は同じ方向を向いています。
覚える材料の並べ方を変える
暗記の材料そのものにも、この知見は使えます。20語のリストを一度に扱うと、真ん中の語は位置の助けを受けません。
対処は、短いリストに分けることです。20語を5語ずつ4組にすれば、最初と最後の位置が4組ぶん生まれます。組と組のあいだに短い間を置けば、区切りとして働きます。
加えて、組の中の順序を毎回変えます。同じ順で回すと、真ん中の語が固定されます。第23回で述べた並び順への依存も、同時に避けられます。
さらに一歩進めるなら、覚えられていない語だけを集め直すのが最も効率的です。新しいリストの中では、それらの語が最初と最後の位置を占めることになります。位置の効果を、自分で配り直す作業だと考えてください。
よくある失敗——同じ順番で繰り返す
単語帳を1ページ目から順に、毎回同じ順序で回す。この方法には落とし穴があります。真ん中に来る語が、毎回真ん中に来ることです。
結果として、覚えている語と覚えていない語が固定されます。しかも本人は繰り返しているので、やった気になっています。実際には、位置の悪い語だけがいつまでも残っています。
対処は単純で、開始位置を変えることです。今日は途中から始める、逆順で回す、覚えていない語だけを集めて別のリストにする。最後の方法が最も効率的で、そこでは新しいリストの中で位置が再配分されます。
同じことは、教科書の単元にも当てはまります。いつも最初の単元から復習を始めると、後半の単元は常に疲れた状態で、しかも中盤以降の位置で扱われることになります。
保護者ができること——終わった直後の時間を守る
家庭でできることは限られていますが、2つだけ効果的なものがあります。
- 勉強が終わった直後に、刺激の強い予定を入れない。 終了直後の数分を静かに過ごせると、終盤の内容が残りやすくなります。
- 「今日の最後に何をやった?」と聞く。 答えられれば新近効果が働いています。答えられないなら、終わり方に問題があるかもしれません。
逆に、勉強が終わった瞬間に話しかけて別の話題を始めると、直前の内容は失われやすくなります。声をかけるなら、数分置いてからのほうが安全です。なお、この数分は長く取る必要はありません。片づけをする、道具をしまうといった動作をはさむだけで十分です。
長い文章を読むとき——最初と最後が残りやすい
系列位置効果は、単語の暗記だけでなく、長い文章を読むときにも姿を現すことがあります。教科書の一章を最初から最後まで通して読むと、書き出しの話題と結びの話題は印象に残りやすい一方、中ほどで触れられた論点は抜け落ちやすいと考えられます。読む側には「全部読んだ」という感覚が残るため、抜けに気づきにくいことがあります。
たとえば国語の評論文を読む場面を思い浮かべます。冒頭の主張と末尾の結論は頭に残るのに、中ほどで示された対比や具体例を、後で説明しようとすると言葉が出てこない。これは読解力の問題というより、並びの位置がもたらす偏りとして見ることもできます。読む順番そのものが、残り方を決めていることがあります。
そこで、長い文章では中ほどに印をつけながら読むという工夫が考えられます。付箋を貼る、余白に短く書き込む、段落ごとに見出しを自分でつける。こうした作業は、真ん中に落ちやすい部分を意識的に拾い上げる助けになることがあります。読む速さを上げるより、位置の偏りを埋めるほうが効く場面もあると考えられます。
長い机上学習で形が崩れる——真ん中の内容が抜け落ちる
この考え方を実際の勉強に移すと、つまずきやすいのは、勉強の単位が長くなりすぎる場合です。学校の宿題をまとめて片づけようとすると、机に向かい続ける時間が延び、休憩を挟む区切りが曖昧になります。すると、最初と最後という区切りがどこにあるのか、本人にも分からなくなっていきます。
たとえば夜の時間帯に、数学の問題集を頁のはじめから順に解き進める場面を考えます。途中で休憩を取らずに進めると、意識の上では一続きの作業になり、中だるみの区間がどこまでも伸びてしまいます。結果として、後半で解いた問題の記憶が薄いまま、次の日に持ち越されることがあります。
また、休憩を取るにしても、その直後に何をするかを決めていないと、区切りが生かされません。休憩のあとに新しい範囲へ移るのか、直前の内容を見返すのかで、残り方は変わると考えられます。時間割を細かく作り込む必要はありませんが、区切りの位置と、その直後に触れる内容をあらかじめ決めておくことが助けになることがあります。
この記事で言えないこと
系列位置効果の実験は、意味的なつながりのない単語リストを用いたものが中心です。教科書の内容のように、要素どうしが意味で結びついている材料では、位置の効果は相対的に小さくなると考えられます。
また、最初の3〜4語、最後の8語という記述は、その実験条件での曲線の形です。勉強の場面での「最初」「最後」が何分に相当するかは、この研究からは決まりません。ここで示したのは、配置を意識する価値があるという程度の指針です。
当塾の立場
大事なものを最初に置く、区切りを入れる、終わった直後を静かに過ごす。いずれも費用はかかりません。
武蔵野個別指導塾では、授業の冒頭をその日いちばん重要な内容に充てています。前回の復習から始めるのが自然に見えますが、それでは最も有利な位置を復習に使うことになります。復習は中盤に置き、冒頭は新しい内容の核心に使う。終盤は第9回で述べたとおり、確実にできることの確認に充てます。
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出典
- Murdock BB. The serial position effect of free recall. Journal of Experimental Psychology. 1962;64(5):482-488.
- Glanzer M, Cunitz AR. Two storage mechanisms in free recall. Journal of Verbal Learning and Verbal Behavior. 1966;5(4):351-360.

