連載「学びの意思決定——行動経済学・社会学・認知心理学から考える」全50回の第13回です。学習の仕方の目次を見る
分からない問題に当たったとき、誰に聞けるか。進路で迷ったとき、誰に相談できるか。この「頼れる相手の数と質」は、学力とは別の資源です。社会学はこれを社会関係資本と呼び、学業の成果を左右する要素として扱ってきました。
前回まで、家庭が伝える文化と、そこから生まれる自己像を扱いました。今回はもう少し外側、人と人のつながりの話です。そして実務的にいえば、これは家庭の外から足せる資源でもあります。文化資本と違い、後から作れる余地が大きい。
この記事では、概念の中身と実証の現状を確認したうえで、相談できる相手を意図的に増やす手順を示します。
要点(結論から)
- 社会関係資本とは、人間関係の中に埋め込まれた資源のことを指す。情報、助言、規範、そして信頼。
- 家庭の中の関係(親子の会話)と、家庭の外の関係(親どうし、教師、地域)は別々に働く。
- この概念は幅が広く、研究ごとに測り方が違う。総説はその点を批判的に整理している。
結論——「聞ける相手が1人いる」は、それ自体が学習条件である
- 社会関係資本とは、人間関係の中に埋め込まれた資源のことを指す。情報、助言、規範、そして信頼。
- 家庭の中の関係(親子の会話)と、家庭の外の関係(親どうし、教師、地域)は別々に働く。
- この概念は幅が広く、研究ごとに測り方が違う。総説はその点を批判的に整理している。
- 実務的に確かなのは、質問できる相手の有無が学習の詰まりを解く速度を変えるということである。
- 相談相手は偶然に任せず、意図的に配置できる。相手は3人いれば足りる。
理由——関係は、どう資源になるのか
コールマンの定義
社会関係資本という概念を教育研究に持ち込んだ代表的な仕事が、コールマンの1988年の論文です。彼は、人と人の関係の構造そのものが、行為を可能にする資源として働くと述べました。
Coleman JS. Social Capital in the Creation of Human Capital. American Journal of Sociology. 1988;94:S95-S120.
コールマンが重視したのは、家庭内の関係だけでなく、家庭の外に張られた関係でした。保護者どうしが互いを知っているか、地域や学校を通じて情報が流れているか。こうした構造があると、子どもの行動に関する情報が共有され、規範が維持されやすくなります。
裏返せば、同じ収入・同じ学歴の家庭でも、周囲とのつながりの形が違えば、子どもが得られる資源は変わるということです。ここが文化資本との違いです。文化資本は家庭内に蓄積されますが、社会関係資本は関係の中に存在します。
概念が広すぎるという批判
ディカとシンは、ブルデューとコールマン以降の理論・実証を批判的に総合した総説を発表しています。
Dika SL, Singh K. Applications of Social Capital in Educational Literature: A Critical Synthesis. Review of Educational Research. 2002;72(1):31-60.
この総説の重要な指摘は、社会関係資本という語が研究ごとにまったく違うものを測っているという点です。ある研究では家族構成を、別の研究では親の学校行事への参加を、また別の研究では友人関係の密度を指標にしている。概念が広いぶん、研究どうしを足し合わせて「効果量はこれくらい」と言うことが難しくなっています。
したがって、この回で示せるのは数値ではなく構造です。関係が資源として働く経路はいくつかあり、そのうち家庭で増やせるものがある、という水準の話になります。
具体例——相談できる相手を3人配置する
実務に落とすと、次の3種類の相手が揃っているかどうかが目安になります。役割が違うので、1人が兼ねることはできません。
| 役割 | 誰が担いうるか | 何を聞けるか | いないとどうなるか |
|---|---|---|---|
| 内容を聞ける人 | 教師、塾の講師、友人 | 解き方、分からない箇所 | 詰まりが何日も残る |
| 進路を聞ける人 | 進路指導、卒業生、年長のきょうだい | 経路、要件、実感 | 選択肢が狭いまま固定される |
| 状態を話せる人 | 保護者、友人、第三者の大人 | 疲れ、迷い、不安 | 不調の発見が遅れる |
3行目を軽く見ないでください。学習が止まる原因の多くは、教科の難しさではなく、状態の悪化です。話せる相手がいれば、悪化の早い段階で気づけます。
今日からできること
- 「誰に聞くか」を、教科ごとに決めておく。 詰まってから探すと、探すこと自体が面倒で放置されます。先に決めておけば、詰まった瞬間に動けます。
- 質問の形を練習する。 「分かりません」ではなく「ここまでは分かって、ここから分かりません」。この形が言えると、相手が誰でも答えやすくなります。
- 年長の人と話す機会を、年に数回作る。 卒業生、大学生、社会人。経路の情報は、本人の口から聞くと具体になります。
- 保護者どうしのつながりを1つ保つ。 情報が流れる経路になります。多くは要りません。1つで足ります。
- 困ったときに使う連絡手段を、先に確認しておく。 誰に、どの手段で、どこまで連絡してよいか。これが曖昧だと、困ったときに使われません。
学年で変えるところ
- 小学生——保護者が窓口になります。子ども本人が外の大人に相談する練習を、少しずつ始める時期でもあります。
- 中学生——友人関係が資源にも負担にもなります。教科について聞ける友人がいるかどうかは、成績と別に確認する価値があります。
- 高校生——進路情報の比重が急に上がります。学校の外に1人でも経路を知っている人がいるかどうかで、選択肢の幅が変わります。
「聞けない」は性格ではなく、技術と環境の問題
質問できない生徒は珍しくありません。その理由を性格として片づけると、対処がなくなります。実際には、次の3つに分解できます。
第一に、何が分からないかを言語化できない。これは技術の問題で、型を教えれば改善します。「どこまで分かったか」「何をしたか」「どこで止まったか」の3点を言う練習です。
第二に、聞くと評価が下がると思っている。この不安が強い環境では、質問は起きません。聞いたときに「そこは前にやったよね」と返されれば、次はありません。
第三に、聞く相手が決まっていない。誰に聞けばよいか分からない状態では、質問は宙に浮きます。前節の「教科ごとに決めておく」はここに効きます。
3つとも環境と技術の話です。そして3つとも、大人の側が整えられる部分です。
資源はどこにあるのか——学校・塾・地域・オンライン
相談できる相手を配置するといっても、実際にどこを探せばよいのかは見えにくいものです。場所ごとに、得意な役割が違います。
学校は、内容と進路の両方について最も情報を持っています。ただし相手は多人数を担当しているため、こちらから具体的に聞かないと情報は流れてきません。「何か困っていることは?」に対して「特にありません」と答えてしまう構造が、資源を眠らせます。聞く内容を事前に1つ決めてから面談に臨むだけで、得られるものが変わります。
塾や個別指導は、内容について継続的に聞ける相手を確保する手段です。前回の詰まりを覚えている相手に聞けることが、最大の利点になります。
地域や親戚は、経路の情報と、状態を話せる相手の供給源です。評価の立場にない大人が1人いることの価値は、成績が下がった時期に最もはっきりします。
オンラインは、情報の量では最大ですが、自分の状況に合わせた助言は得にくい場所です。一般論は手に入っても、「あなたの場合はどうか」には答えてくれません。オンラインで集めた情報を、実在の相手に確認してもらう二段構えが現実的です。
関係が負担に変わるとき
ここまで、関係を資源として書いてきました。しかし同じ関係が、負担として働くこともあります。この両面を見ておかないと、助言が的外れになります。
典型は、保護者どうしのつながりです。情報が流れる経路である一方、比較の経路にもなります。他家の進度や成績が流れてくると、家庭内の会話が焦りに引きずられます。第5回で扱った基準点の話に戻れば、外から持ち込まれた基準点は、本人の実力とは無関係に置かれた不安定なものです。
友人関係も同じです。教科について聞ける友人は資源ですが、同じ集団が努力を軽んじる空気を持っていれば、それは負担になります。この点は第20回で扱います。
見分け方は一つです。そのつながりから流れてくるのは、情報か、評価か。 情報であれば資源です。評価であれば、距離を取ったほうが学習は進みます。すべての関係を維持する必要はありません。役割の空白を埋めるのに必要な分だけで十分です。
よくある失敗——関係の量を増やそうとする
社会関係資本という言葉から、人脈を広げる話を想像するかもしれません。しかし学習の文脈では、量より役割の充足が問題になります。知り合いが100人いても、教科について聞ける人が0人なら、その資源は使えません。
また、関係は維持に費用がかかります。付き合いを増やせば、時間と心の余裕を消費します。中高生の場合、これが学習時間を直接圧迫することもあります。
したがって狙うべきは、3つの役割を最小の人数で満たすことです。理想は、内容を聞ける人が1人、経路を知っている人が1人、状態を話せる人が1人。合計3人で成立します。
保護者ができること——窓口を1つ、外に作る
家庭の中だけで3つの役割を満たそうとすると、保護者に全部が集中します。すると、状態を話す相手と、進捗を管理する人が同一人物になります。この重なりは、思春期にはうまく働きにくくなります。
次の3つが、現実的な手立てです。
- 家庭の外に、話せる大人を1人置く。 親戚、部活の顧問、塾の担当。誰でも構いません。評価をしない立場の人が向いています。
- 学校との連絡経路を、確認しておく。 何かあったときに誰に連絡するのかを、事前に知っているだけで対応が速くなります。
- 子どもが自分で連絡する経験を作る。 欠席の連絡、質問のメール。将来、自分で資源にアクセスするための練習です。
コールマンが強調したのは、関係の構造が情報を運ぶということでした。構造は、意識して作れます。
もう一点、質問できる相手がいることの価値は、答えをもらえることだけではありません。人に説明しようとする過程で、自分がどこまで分かっているかが整理されます。聞く相手を確保することは、説明する機会を確保することでもあります。この効果については、認知心理学を扱う後半のブロックで改めて取り上げます。
学習が止まる理由を並べると、内容の難しさより、詰まったまま放置された時間の長さが効いていることがよくあります。1日で解ける詰まりが2週かかるとき、差を作っているのは理解力ではなく、聞ける相手の有無です。
授業中の質問と休み時間——頼れる相手を増やす
社会関係資本の考え方は、塾や家庭だけでなく、学校の授業中の一場面にも当てはめて考えることができます。分からない箇所が出たとき、その場で手を挙げられるかどうかは、性格だけでなく、誰に聞けばよいかが見えているかどうかにも左右されます。隣の席の友人が、以前同じ単元でつまずいていたことを知っていると、聞きやすくなることがあります。
休み時間の過ごし方も、同じように見ることができます。職員室の前に立って質問する、教室で友人のノートを見せてもらう、図書室で調べる。どの経路を選ぶかは、その経路が自分にとって安全かどうかで変わります。安全だと感じられる経路が一つあるだけで、分からないまま持ち帰る量が減ることがあります。
教科で言えば、数学の証明や英語の長文のように、途中で止まると先に進みにくい単元ほど、この資源の有無が表れやすいと考えられます。逆に、一人で進められる作業では、資源の差は目立ちにくくなります。どの場面で誰に聞けるかは、単元によって変わってくるものです。
相談相手がいない——聞ける人がいないまま進む
この考え方を実行しようとすると、まず経路を増やすことに関心が向きやすいようです。しかし、増やした経路のすべてが使えるとは限りません。使うかどうかを決めるのは、子ども自身の安心感であり、大人が数えた経路の数ではないと考えられます。一つが機能していれば足りることもあります。
次に起きやすいのは、聞いた内容を報告させることです。何を聞いてきたかを確認したくなりますが、報告が義務になると、聞くこと自体が負担になることがあります。聞いた内容が曖昧なままでも、その場にいた経験は残ります。報告の有無で評価しないほうが、経路は保たれやすいと考えられます。
また、時間帯によっては、頼れる相手が忙しいこともあります。放課後すぐは職員室が混み合い、昼休みは友人が別の用事を抱えていることがあります。聞ける時間をあらかじめ決めておく、あるいは短い質問を一つに絞っておくといった準備が、つまずきを減らす助けになることがあります。
この記事で言えないこと
社会関係資本の研究は、測り方が研究ごとに大きく異なります。したがって「関係があると成績が何点上がる」といった数値は示せません。総説自身が、概念化と方法の揺れを主要な課題として挙げています。
また、関係は常に資源として働くとは限りません。友人関係は支えにも圧力にもなり、後の回で扱うピア効果の研究では、集団の作り方によって逆効果が出た例も報告されています。ここで述べたのは、役割の空白を確認しておくと詰まりに気づきやすい、という運用上の提案です。
逆に、相談相手を増やしても状況が変わらない場合があります。役割の空白ではなく、教材や理解の段階そのものに原因があるときです。相手を増やす前に、どこで止まっているかを紙に書き出しておくと、誰に何を聞けばよいかが自動的に決まります。
当塾の立場
質問の型を練習する、聞く相手を教科ごとに決める、外に話せる大人を1人置く。どれも費用をかけずにできます。塾である必要もありません。
そのうえで、武蔵野個別指導塾が担えるのは、3つの役割のうち内容を聞ける人と、必要に応じて状態を話せる第三者の部分です。担当が固定されているため、前回どこで詰まったかを覚えている相手に聞けます。質問の型を教えることも、指導の一部に含めています。関係を資源に変えるには、相手が継続して同じ人であることが効くと考えています。
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出典
- Coleman JS. Social Capital in the Creation of Human Capital. American Journal of Sociology. 1988;94:S95-S120.
- Dika SL, Singh K. Applications of Social Capital in Educational Literature: A Critical Synthesis. Review of Educational Research. 2002;72(1):31-60.

