シャドーイングは誰の何を伸ばすか——音は聞き取れるようになるが、英検の問題で理解は伸びなかった研究もある

シャドーイングは、誰の、何を伸ばすのか

シャドーイングは、聞こえてくる英語を、影(shadow)のようにほぼ同時に声に出して追いかける練習です。日本の英語教育で1990年代から広まり、英検のリスニング対策としても定番になりました。「シャドーイングをすればリスニングが伸びる」「発音も良くなる」とよく言われます。

では、その主張はどこまで研究で確かめられているのでしょうか。リスニングの「どの段階」に効くのか。どの習熟度の学習者に効くのか。発音には効くのか。そして、効かなかった研究はあるのか。

この記事では、日本人学習者を対象にした研究を中心に、シャドーイングの効果と限界を整理します。リスニングの伸ばし方一般は既存記事で扱いましたので、ここではシャドーイングという1つの技法の証拠だけを扱います。

一言でいうと(この記事の結論)
日本の大学生43人の研究で、シャドーイングは音の知覚を高めましたが、高校レベルのリスニング問題の点が上がったのは、習熟度の低い群だけでした [1]
英検のリスニング問題を使った研究では、音の知覚が伸びたのは中級の群だけで、聞き取った内容の理解は伸びず、低い群では点が下がりました [2]
——シャドーイングは「音を聞き分け、単語として切り出す」段階の訓練です。内容の理解までを自動的に伸ばす技法ではありません。

  1. シャドーイングは、音の知覚など「下から上へ」の聞き取りを主に伸ばしました [1] [10]
  2. 強勢の聞き取りと単語認識は伸びたが、似た音素の聞き分けは伸びませんでした [3]
  3. 発音への効果をまとめた44研究の系統的レビューでは、分かりやすさや流暢さ・韻律の改善が示され、個々の音への効果は結論が出ていません [4]
  4. 上級者ほど、高度な理解を要する課題では効果が小さい傾向がありました [10]
  5. 【反証】対照群を置いた研究で、シャドーイング群と対照群に統計的な差が出ないことがありました [5] [6]
  6. 【反証】長期的な定着については、研究の空白が残っています [10]
マインドマップ図解:シャドーイングは誰の何を伸ばすか——音は聞き取れるようになるが、英検の問題で理解は伸びなかった研究もある
図:この記事の構造(Mapifyで作成したマインドマップ)

1. シャドーイングは何を訓練しているのか

リスニングには、音を聞き分け、単語の切れ目を見つける「下から上へ(ボトムアップ)」の処理と、背景知識や文脈から意味を組み立てる「上から下へ(トップダウン)」の処理があります。

シャドーイングを「計画的な練習(deliberate practice)」の枠組みで整理した論文は、シャドーイングの主な働きをリスニングと発音の技能の発達とし、16種類の技法を「音韻処理のためのシャドーイング」と「意味に焦点を当てた取り込みのためのシャドーイング」に分類しました。そして、シャドーイングをボトムアップのリスニング技能を教える重要な道具と位置づけています [11]

1990年代後半から2023年までの研究を集めた系統的レビューも、シャドーイングは音素の知覚を高め、単語認識を速めるようだとまとめています [10]

聞き取りの段階 シャドーイングとの関係(研究の傾向)
音を聞き分ける・単語を切り出す 主な効果の対象 [1] [10]
内容を理解する・推論する 効果は一貫しない [1] [2]

一言でいうと
シャドーイングは、「何を言っているか分からない」原因が「音が聞き取れない」ことにある学習者のための訓練です [11]

2. どの習熟度の学習者に効くか

「シャドーイングは初級者に効く」という通説を検証したのが、日本の国立大学の学生43人の研究です [1]。著者は、この通説には十分な研究がなく、「音素の知覚を高めて理解を助ける」という説明には実証データがないと指摘したうえで、9回の授業でシャドーイングを行いました。

音の知覚(ディクテーション穴埋め) 高校レベルのリスニング問題
習熟度の低い群 向上 向上
中級の群 向上 向上せず

一方、日本の低・中・中上級の3群が、1か月で1回15分・計8回のシャドーイングを行い、英検のリスニング問題とディクテーション穴埋めで前後を比べた研究では、結果が異なりました [2]

  • 音の知覚が伸びたのは中級の群だけ。低い群と中上級の群では効果が限られた
  • 聞き取った内容の理解は伸びなかった
  • 低い群は、事前から事後にかけて点が下がった
  • それでも、ほとんどの学習者は、習熟度にかかわらず肯定的な態度を示し、リスニングとスピーキングに役立ったと感じていた

系統的レビューは、初級者や習熟度の低い学習者が、つながった音声の中で音を知覚し単語を認識する助けになった一方、上級者は、とくに高度な理解を要する課題で効果が小さかったと整理しています。効果を左右する要因として、繰り返しの回数と教材の難しさが挙げられました [10]

一言でいうと
「どの習熟度に効くか」は、研究によって結果が割れています [1] [2]共通しているのは、上級者の理解問題には効きにくいこと、教材の難しさが効果を左右することです [10]

3. 聞き取りのどの技能が伸び、どれが伸びないか

同じ著者は、ボトムアップの技能のどの部分が伸びるかを、112項目の聞き取りテストで細かく調べました [3]。日本の大学生36人が1か月に8回シャドーイングを行った結果、

  • 発話の中で強く発音される部分(プロミネンス)を聞き取る力と、単語認識の力は伸びた
  • 似た音素を聞き分ける力は伸びなかった

著者はこの限界を補うため、自分の発話への注意、誤りの訂正、明示的な説明を加えた新しい手順を提案しています [3]

語彙の面では、「選択的シャドーイング」(聞こえた中から特定の語だけを声に出す手順)を日本の大学生に行った2つの研究で、聞いて分かる語彙と、聞いて言える語彙がどちらも改善しました(34人と25人) [12]。著者は、聞いて分かる語彙は読んで分かる語彙より弱く、ボトムアップの処理を高めても語彙が足りなければ理解は妨げられると指摘しています。

一言でいうと
強く読まれる語と単語の切れ目は聞き取れるようになりますが、LとRのような似た音の聞き分けは、シャドーイングだけでは伸びませんでした [3]

4. 発音と話す力への効果

発音への効果を扱った44研究の系統的レビュー(物語的統合)は、シャドーイングの訓練が、分かりやすさ・聞き取りやすさ・訛りの強さ、そして流暢さや韻律(イントネーションやリズム)といった発音の一部を改善しうるとまとめました。一方で、個々の音(分節音)の発音への影響は結論が出ていません [4]

個別の研究を見ると、

研究 対象・方法 結果(要旨の記載)
[7] 16人、8週間、週4回以上・1回10分以上、携帯端末で短い対話をシャドーイングし録音 訛りの強さ以外のすべての話す指標で有意に改善
[8] 日本の大学2年生58人、15回、身ぶりを使うシャドーイングと発音記号を使うシャドーイング 身ぶりの群は分かりやすさ・分節音・超分節音のすべてで改善、発音記号の群は分かりやすさと分節音で改善
[9] 台湾の大学生90人(3クラス)、6週間、発表原稿をウェブアプリでシャドーイング 分かりやすさと語レベルの聞き取りやすさが改善
[14] イランの中級学習者60人、4群 シャドーイングとトラッキング(文字を見ながら追う)の併用群が最も流暢さで上回った

一言でいうと
発音への効果は、分かりやすさ・流暢さ・イントネーションに現れやすく、個々の音には現れにくい [4]録音して聞き返す、身ぶりを加えるなど、ただ追いかける以上の工夫を組み合わせた研究が多くあります [7] [8]

5. 反証——シャドーイングの効果は、見かけより不確か

【反証1】対照群と比べると、差が出ないことがあります。米国の大学の集中英語課程で中級の成人学習者に10週間の文章シャドーイングを行った準実験では、全員が流暢さと分かりやすさで有意に伸び、訛りも減ったものの、シャドーイング群と対照群の間には、4つの指標のいずれにも統計的な差がありませんでした。素点の伸びはシャドーイング群のほうが大きい傾向でした [5]。トルコの大学1年生に2学期で11回の動画シャドーイングを行った研究でも、実験群の伸びはわずかに大きかったが、事前事後の差は両群とも統計的に有意ではありませんでした [6]

【反証2】内容の理解は伸びず、下がることもありました。英検のリスニング問題を使った研究では、理解は伸びず、低い群の点は下がりました [2]初級者に効くという通説が、常に成り立つわけではありません。

【反証3】「対照群なし」の研究が多い。中国の高校生30人の研究は2か月で聞き取りの有意な向上を報告していますが、対応のある t 検定による事前事後の比較です [13]。発音のレビューも、統制された発話課題への過度の依存、音響測定と実際の聞き手の判断の結びつきの欠如、調査票中心で教師自身がデータを集めた研究の多さという方法上の問題を挙げています [4]

【反証4】学習者の「効いた実感」は、効果の証拠になりません。理解が伸びなかった研究でも、学習者の多くは役に立ったと感じていました [2]。発音のレビューでも、学習者はシャドーイングを興味深く、楽しく、効果的と見ていましたが [4]、実感と測定結果は別に扱う必要があります。

【反証5】続けにくさがあります。高校生の研究では、知らない語、複雑な文、速い音声、繰り返しの退屈さが困難として記録されました [13]。日本語学習者36人の調査でも、内容の理解度に応じて好むシャドーイングの速さに個人差がありました [15]

【反証6】長期の効果は分かっていません。系統的レビューは、ボトムアップの改善の長期的な保持と、上級者への有用性について研究の空白が残っているとしています [10]

一言でいうと(反証のまとめ)
対照群と比べると差が出ない研究があり [5] [6]理解の向上は一貫せず [2]長期の定着も未確認です [10]「やれば必ず伸びる」技法ではありません。

6. 実務——シャドーイングを使う前の診断と、使い方

  1. まず原因を診断する(1回・10分)。聞き取れなかった英検のリスニング問題の音声を、スクリプトを見ながらもう一度聞きます。文字を見れば分かるなら「音の問題」、見ても分からないなら「語彙や文法の問題」です。シャドーイングが主に効くのは前者です [1] [11]
  2. 教材は「スクリプトを読めばほぼ全部分かる」易しさにする。教材の難しさは効果を左右し [10]、知らない語や速い音声は続けにくさの原因でした [13]
  3. 1回15分以内、週3〜4回。研究の多くは1回10〜15分程度の練習でした [2] [7]。長時間続けるより、回数を分けます。
  4. 自分の声を録音して、元の音声と聞き比べる(週1回)。録音を組み合わせた研究で話す力の改善が見られました [7]
  5. 似た音の聞き分けは、別に練習する。シャドーイングだけでは音素の聞き分けは伸びませんでした [3]。L/R、th などは、2語を聞いてどちらかを選ぶ練習を別に行います。
  6. 2〜3週ごとに、初見のリスニング問題で効果を確かめる。「やっている実感」は効果の証拠になりません [2]点が伸びないなら、原因が語彙や理解の段階にある可能性を考え、練習の配分を変えます。

リスニング学習の全体の手順は、リスニングの伸ばし方で扱っています。

この記事で言えないこと

  • 日本の中高生を対象にした対照群つきの研究は、今回の範囲では見つかりませんでした。日本の研究は大学生が中心です [1] [3] [8] [12]
  • 英検のリスニング問題を使った研究は1本で [2]、期間は1か月でした。
  • 2本の系統的レビュー [4] [10] は物語的な統合で、効果量の数値は示されていません。
  • 音の診断手順(6節の1)は研究で検証された方法ではなく、研究の知見に基づく当塾の提案です。

当塾の立場

塾に来なくても、家庭でできること

6節の手順——スクリプトで原因を診断する、易しい教材を選ぶ、1回15分以内で週3〜4回、録音して聞き比べる、似た音は別に練習する、初見の問題で効果を確かめる——は、英検の過去問の音声とスマートフォンがあれば始められます。

それでも個別指導を使う理由

塾に通いたい、通わせたいという方には、武蔵野個別指導塾を勧めます。この記事の研究に即して、理由を3つ書きます。

  1. 聞き取れない原因を切り分けること。シャドーイングが効くのは主に音の段階で、理解の段階には一貫して効きませんでした [1] [2]。講師が音・語彙・文法のどこでつまずいているかを確認してから練習を選びます。
  2. 録音を聞いて、誤りを具体的に指摘すること。音素の聞き分けを補う手順として、誤りの訂正と明示的な説明が提案されています [3]
  3. 効かない場合に、方法を変える判断をすること。対照群と差が出ない研究もありました [5] [6]初見の問題の結果を見て、続けるか変えるかを一緒に決めます。

塾を検討する際は、次のように聞いてみてください。

  • シャドーイングを勧めるのは、どんな原因で聞き取れない生徒ですか
  • シャドーイングの教材の難しさは、どう決めますか
  • 効果が出ているかどうかは、何で確かめますか

まとめ

  1. シャドーイングは、音の知覚や単語認識といったボトムアップの聞き取りを主に伸ばしました [1] [10]
  2. 強勢と単語認識は伸びたが、似た音素の聞き分けは伸びませんでした [3]
  3. 発音では、分かりやすさ・流暢さ・韻律に効果が現れやすく、個々の音については結論が出ていません [4]
  4. どの習熟度に効くかは研究で割れ、英検の問題を使った研究では理解は伸びませんでした [1] [2]
  5. 【反証】対照群と差が出ない研究があり、長期の定着も未確認です [5] [6] [10]
  6. ——シャドーイングは「音が聞き取れない」ための道具。原因を診断し、易しい教材で、初見の問題で効果を確かめながら使うものです。

出典

要旨に直接あたって確認したものだけを挙げています。

  1. 【日本の大学生43人】Hamada, Y. (2016). Shadowing: Who benefits and how? Uncovering a booming EFL teaching technique for listening comprehension. Language Teaching Research. DOI: 10.1177/1362168815597504
  2. 【反証・英検リスニングで理解は伸びず】Goto, M. (2024). The Effect of Post-Shadowing on Listening Skills and Learner Attitudes. The Journal of AsiaTEFL. DOI: 10.18823/asiatefl.2024.21.1.5.74
  3. 【伸びる技能と伸びない技能】Hamada, Y. (2020). Developing a New Shadowing Procedure for Japanese EFL Learners. RELC Journal. DOI: 10.1177/0033688220937628
  4. 【発音・44研究の系統的レビュー】Whitworth, B. et al. (2025). A Systematic Review of Research on the use of Shadowing for Second Language Pronunciation Teaching. Research Synthesis in Applied Linguistics. DOI: 10.1080/29984475.2025.2546827
  5. 【反証・対照群と差なし】Kehoe-Seamons, M. et al. (2026). The Effect of Text Shadowing on English Language Learners’ Pronunciation Development: A Quasi-Experimental Study. Language Teaching Research. DOI: 10.1177/13621688261462581
  6. 【反証・有意差なし】Mıcık, S. et al. (2024). The Role of Video-Based Shadowing Practices in L2 Oral Proficiency Development. Dil Eğitimi ve Araştırmaları Dergisi. DOI: 10.31464/jlere.1356763
  7. 【携帯端末と録音】Foote, J. A., McDonough, K. (2017). Using shadowing with mobile technology to improve L2 pronunciation. Journal of Second Language Pronunciation. DOI: 10.1075/jslp.3.1.02foo
  8. 【身ぶり・発音記号との組み合わせ】Hamada, Y. (2018). Shadowing for Pronunciation Development: Haptic-Shadowing and IPA-Shadowing. The Journal of AsiaTEFL. DOI: 10.18823/asiatefl.2018.15.1.11.167
  9. 【発表の分かりやすさ・90人】Huang, H.-Y. et al. (2023). The Effectiveness of Shadowing Practice with Web-Based Apps. English Teaching & Learning. DOI: 10.1007/s42321-023-00145-w
  10. 【ボトムアップ・系統的レビュー】El Moussaoui, M. (2025). Shadowing for Developing EFL Learners’ Bottom-up Listening Skills: A Systematic Review. International Journal of Language and Literary Studies. DOI: 10.36892/ijlls.v7i4.2260
  11. 【16技法の分類】Hamada, Y., Suzuki, Y. (2022). Situating Shadowing in the Framework of Deliberate Practice: A Guide to Using 16 Techniques. RELC Journal. DOI: 10.1177/00336882221087508
  12. 【選択的シャドーイングと語彙】Hamada, Y. (2024). Developing a new shadowing procedure for listening vocabulary: selective shadowing. Innovation in Language Learning and Teaching. DOI: 10.1080/17501229.2024.2340567
  13. 【高校生30人・困難】Mu, Y., Wasuntarasophit, S. (2025). Effects of the Shadowing Technique on English Listening Comprehension for Chinese EFL Senior High School Students. LEARN Journal. DOI: 10.70730/sfkp2045
  14. 【トラッキングとの併用】Yavari, F., Shafiee, S. (2019). Effects of Shadowing and Tracking on Intermediate EFL Learners’ Oral Fluency. International Journal of Instruction. DOI: 10.29333/iji.2019.12156a
  15. 【学習者の認識と個人差】Sumiyoshi, H., Svetanant, C. (2017). Motivation and attitude towards shadowing: learners perspectives in Japanese as a foreign language. Asian-Pacific Journal of Second and Foreign Language Education. DOI: 10.1186/s40862-017-0039-6

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宮川 涼 Founder
早稲田大学大学院文学研究科哲学専攻修士号修了、同大学大学院同専攻博士課程中退。日本倫理学会員 早稲田大学大学院文学研究科にてカント哲学を専攻する傍ら、精神分析学、スポーツ科学、文学、心理学など幅広く研究に携わっている。

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