過去問を繰り返すと何が伸びるか——再テストの伸びは「中身のない伸び」になりやすく、詰め込みは1年で3割しか残らない

過去問を5回解いて点が上がった——それは英語力か、慣れか

英検の対策で、最も多くのご家庭が取り組むのは過去問を繰り返し解くことです。1回目より2回目、2回目より3回目と点が上がれば、本人も保護者も安心します。

しかし、テストの研究では昔から知られた現象があります。同じ種類のテストを繰り返し受けると、力そのものが変わらなくても点は上がる——練習効果(再テスト効果)です。形式に慣れ、時間配分が分かり、緊張が減る。それ自体は本番で役に立ちます。問題は、その伸びが「英語力の伸び」と区別されないまま、学習計画の判断に使われることです。

この記事では、再受験者の大規模データ、試験対策講座の効果、認知テストの再テスト効果のメタ分析を読み、過去問演習で伸びるものと伸びないものを切り分けます。英検の問題形式は改訂されることがあるため、過去問を使う際は、最新の公式情報で現在の形式との違いもご確認ください。

一言でいうと(この記事の結論)
64研究・2万6,990人のメタ分析で、再テストによる得点の伸びは、テストが測ろうとする一般的な能力とは結びついていませんでした [9]
IELTSの対策講座に通った学生は、別の英語テストで、講座なしで基準を満たした学生より低い点でした [1]
——過去問の繰り返しで上がる点の一部は「その試験への慣れ」です。慣れは本番で役立ちますが、英語力の証拠として使ってはいけません。

  1. TOEICを4年で6回受けた約2万人の点は、受けるごとに上がり、伸びは最初の数回で大きかった [5]
  2. 同じ問題や同型の問題での再テストほど、得点の伸びは大きかった [10]
  3. 試験対策は点を上げたが、その効果は主にドリルなど「範囲の絞り込み」から来ていました [2]
  4. IELTSのライティングでは、試験対策に特化した講座に明確な優位はありませんでした [3]
  5. 日本の大学生190人では、IELTSへの準備が、それまで手薄だったスピーキングなどの伸びにつながりました [7]
  6. 【反証】対策と再受験で水増しされたIELTSの点も、効果は小さく、入学後の成績を予測していました [1]
マインドマップ図解:過去問を繰り返すと何が伸びるか——再テストの伸びは「中身のない伸び」になりやすく、詰め込みは1年で3割しか残らない
図:この記事の構造(Mapifyで作成したマインドマップ)

1. 繰り返し受けると、点はどう上がるか

まず、実際の英語試験の再受験者のデータです。

研究 対象 結果(要旨の記載)
[5] TOEIC L&Rを4年間で6回受けた約2万人 平均して受けるごとに上昇。最初の再受験での伸びが、後の再受験より大きい。学歴は最初の点と関係したが、伸びとは関係しなかった
[6] TOEFLの再受験者(1〜12か月後、24〜60か月後) どちらの標本でも平均してかなりの純増。国・言語グループで差
[4] IELTSを2回受けた1万5,380人、講座の前後で受けた476人 結果を予測したのは、講座の長さより最初の点

点が上がること自体は、どの研究でも一貫しています。しかし、その上昇のうち、どれだけが英語力の伸びで、どれだけが慣れなのかは、こうした観察データからは分かりません。そこで、認知能力のテストの研究を見ます。

一言でいうと
受け直すと点は上がり、伸びは最初の数回が大きい [5]ただし、それが英語力の伸びかどうかは、このデータだけでは区別できません。

2. 再テストの伸びは「中身のない伸び」か

知能検査などの認知テストでは、再テスト効果が最もよく研究されています。

オランダ・英国・米国の知能検査の再テスト研究64件・計2万6,990人を統合したメタ分析は、各下位検査がどれだけ一般知能(g)を反映しているかと、得点の伸びの大きさとの相関が −1.00だったと報告しました [9]。つまり、一般的な能力をよく測る検査ほど、再テストでの伸びが小さかったのです。著者らは、テストの点が他の場面に一般化できる力は主に一般能力の部分にあり、再テストの伸びはそこと無関係だと結論しています。

別の研究も、練習による伸びの大きさは、その尺度が一般能力を反映する度合いと負の関係にあり、伸びはテストに対する信念や動機づけとも(一部の尺度で)正の関係があったと報告しました [11]

358人に4種類のテストを2回受けさせ、2回目の問題の作り方を変えた研究では、まったく同じ問題、または同型の問題(構造が同じで数値や語句だけ違う問題)で再テストした場合に、伸びがより大きく再テストはテストの一般能力の反映度を変えなかったが、伸びは一般能力に関して「中身がない」ものでした [10]

では、伸びの正体は何でしょうか。7回の測定を行った研究では、2回目の測定で「その場の不安による妨害」が大きく減ったことが、最も大きな再テスト効果と結びついていました [12]

一言でいうと
繰り返しで上がる点の多くは、一般的な力の伸びではなく、形式への慣れや不安の減少でした [9] [12]同じ・同型の問題ほど伸びが大きい [10]——過去問の繰り返しは、まさにこの条件です。

3. 試験対策は、点と英語力をどう変えるか

次に、試験に特化した対策の研究です。

米国のSAT(大学進学適性試験)の対策講座については、23の報告・48研究を統合した分析が、平均すると対策は点を上げるが、結果のばらつきが大きく、それは対策の効果を左右する多くの要因と研究デザインの多様さを反映しているとまとめました [14]。別の総括は、対策の効果は、多くの学生が思っているより小さいかもしれないと述べています [15]

中国の大学英語試験(CET4)の受験者1,003人を、2か月の準備期間の前後で調べた研究では、試験対策は点を上げたが、その効果は主に「範囲の絞り込み」、とくにドリルによる練習から来ていました。効果は絶対値では小さいものの、事前テストの効果のほぼ3分の1に当たりました [2]。著者は、この点数が試験の外の力をどこまで表しているかに注意が必要だとしています。

英国の大学進学前の英語講座を比べた研究では、IELTS対策に特化した講座、大学での学術的な書き方を教える講座、両方を組み合わせた講座の間で、IELTSライティングの点の伸びに、試験対策特化の明確な優位はありませんでした [3]

そして、最も警戒すべき結果です。英国の中国人留学生153人に、IELTSとは別の英語テスト2種を受けさせた研究では、IELTS対策講座に通った学生は、講座なしで入学基準を満たした学生より、両方のテストで低い点でした。さらに、目標のIELTSの点を得るまでの受験回数が多いほど、到着時の他の英語テストの点は低い傾向がありました [1]。著者らは、対策と、ある程度は再受験も、IELTSの点を他の英語力の指標に一般化しない形で押し上げたと結論しています。

一言でいうと
対策は点を上げますが、その上がり方は「範囲を絞ったドリル」によるものが中心で [2]別のテストで測ると、英語力の伸びとして現れないことがありました [1]

4. 詰め込みの効果は、どれだけ残るか

試験に合わせた詰め込みの効果が長く残るかを、制度の特徴を使って推定した研究があります [13]。不合格者が短期間で再受験できる規則のもとで、「試験に合わせて教える」強い誘因が生じた状況を分析しました。

  • 再受験での点は、標準偏差の0.14だけ高かった
  • その伸びのうち、翌年まで残ったのは約30%

著者らは、試験に焦点を当てた指導や詰め込みはその時の成績を上げるが、伸びの大部分は消えていくと述べています。

点が上がる仕組みについて、測定の研究者は「点数の水増し」という概念で説明してきました。ある論考は、テストが重要な内容を測っていても、指導をテストに合わせても、それだけでは水増しを防げないと論じています [16]出題される形式と範囲だけを集中的に練習すると、試験の点は上がっても、試験が代表しようとしている力全体は上がらないことがある、という指摘です。

一言でいうと
詰め込みの伸びは、1年後に3割ほどしか残りませんでした [13]「合格したが、次の級の勉強を始めたら何も残っていなかった」は、この構図と整合します。

5. 反証——過去問演習と試験対策には、確かな価値もある

ここまで過去問演習の限界を強調しました。同じ分量で、その価値を示す証拠を書きます。

【反証1】水増しがあっても、点は役に立ちます。対策による水増しを示した研究自体が、その効果は小さく、IELTSの点は入学後の学業成功を確かに予測していたと報告しています。IELTSが1バンド上がると、言語的な要求の高い分野で平均9点、低い分野で4点(100点満点)成績が高かったのです [1]

【反証2】試験は、手薄だった技能の学習を促しました。日本の大学生190人に1年の間隔でIELTSを2回受けさせた研究では、スピーキングの力が有意に伸び、より熱心に準備した学生はスピーキングとリスニングでより大きく伸びました。2回目に向けて学生はスピーキングとライティングにより重点を置き、著者は、それまでの学習で軽視されていた産出技能について、試験がよい波及効果を生んだと結論しています [7]

【反証3】受験者は、結果を見て準備を賢く変えています。PTE Academicの再受験者60人への面接調査では、受験者は前回の結果に応じて準備の方法を戦略的に変えていました。有意な改善が最も多かったのはスピーキングでした。ただし、そこで使われた方略の一部は、測りたい力とは無関係なものでもありました [8]

【反証4】受験方略の指導が点を上げた研究もあります。イランの中級学習者で、受験方略の指導を受けた群がIELTSの読解で指導なしの群を上回り、学習者の態度も肯定的でした [17]

【反証5】「慣れ」そのものに実利があります。再テスト効果の一因は不安による妨害の減少でした [12]。本番で力を出し切れないことも一種の測定誤差であり、形式に慣れておくことは、本来の力を点に反映させるために必要です。

【反証6】伸びの大きさは、人と動機で違います。練習による伸びは、テストに対する信念や動機づけと正の関係がありました [11]。「過去問は無意味」と一律に言うことはできません。

一言でいうと(反証のまとめ)
過去問演習には、形式への慣れ、不安の軽減、手薄な技能への注意という実利があります [7] [12]問題は演習そのものではなく、「演習で上がった点」を英語力の証拠と取り違えることです。

6. 実務——過去問を「慣れ」と「力の確認」に分けて使う

  1. 過去問を2種類に分ける。手元の過去問のうち、最新の2回分は「力の確認用」として本番の数週間前まで解かずに取っておきます。残りは「慣れと練習用」です。同じ・同型の問題ほど伸びが大きいため [10]確認には必ず未見の回を使います。
  2. 練習用の1回目は、時間を計って本番どおりに解く。ここで形式と時間配分に慣れます。不安の減少は再テスト効果の大きな部分でした [12]
  3. 同じ回を解き直すときは、点を記録しない。2回目以降の点は慣れを含むため、「間違えた問題が、なぜ解けるようになったか」を説明できるかだけを確認します。
  4. 過去問の間に、試験以外の英語に触れる時間を必ず入れる。範囲を絞ったドリルの効果は、別のテストに移りにくいことがありました [1] [2]。目安として、過去問1回分につき、同じくらいの時間を長文の多読や書く練習に充てます。
  5. 手薄な技能に、過去問を「きっかけ」として使う。書く・話す技能は、試験を目標にすると学習が進みやすい面がありました [7]
  6. 合格した後、1〜2か月で同じ級の未見の問題を解いてみる。詰め込みの伸びの多くは1年で消えました [13]残っている力を確かめてから次の級に進みます。

練習問題を解くことそのものの学習効果は、検索練習——思い出す作業が記憶を作るで扱っています。ただし、この記事で見たのは「学習」ではなく「同じ試験の点が上がること」の研究です。

この記事で言えないこと

  • 英検の過去問演習や再受験の効果を直接調べた研究は、今回の範囲では見つかりませんでした。
  • 再テスト効果のメタ分析 [9] や実験 [10] [11] [12] は、語学ではなく認知能力のテストです。
  • 詰め込みの持続の研究 [13] は、語学以外の学校の試験を対象にした経済学の分析です。
  • 再受験者のデータ [4] [5] [6] は、受け直す理由のある人に偏っている可能性があります。

当塾の立場

塾に来なくても、家庭でできること

6節の手順——最新の2回分を確認用に取っておく、練習用は1回目だけ本番どおりに解く、解き直しの点は記録しない、過去問と同じくらいの時間を試験外の英語に充てる、合格後に未見の問題で残った力を確かめる——は、過去問集があれば家庭で実行できます。

それでも個別指導を使う理由

塾に通いたい、通わせたいという方には、武蔵野個別指導塾を勧めます。この記事の研究に即して、理由を3つ書きます。

  1. 「慣れで上がった点」と「力で上がった点」を区別すること。同じ・同型の問題での伸びは中身のない伸びになりやすく [10]、当塾では未見の問題で力を確認する時期を計画に入れます。
  2. 試験対策に偏らない配分を保つこと。対策講座に通った学生が別のテストで低かった研究があります [1]過去問と試験外の英語の時間配分を、生徒ごとに決めます。
  3. 合格の後も、力が残っているかを確かめること。詰め込みの伸びの多くは消えました [13]。次の級に進む前に、前の級の力の定着を確認します。

塾を検討する際は、次のように聞いてみてください。

  • 過去問の点が上がったとき、それが英語力の伸びだとどう確認しますか
  • 英検対策の期間中、過去問以外に何をさせますか
  • 合格した後、次の級に進む判断は何を根拠にしますか

まとめ

  1. 繰り返し受けると点は上がり、伸びは最初の数回が大きい [5]
  2. 再テストの伸びは一般的な能力と結びつかず、同じ・同型の問題ほど大きい [9] [10]
  3. 試験対策の効果は主に範囲を絞ったドリルから来て、別のテストでは英語力として現れないことがありました [1] [2]
  4. 詰め込みの伸びのうち、翌年まで残ったのは約30%でした [13]
  5. 【反証】それでも点は入学後の成績を予測し、試験は手薄な技能の学習を促しました [1] [7]
  6. ——過去問は「慣れ」のために使い、「力の確認」には未見の問題を取っておく。これが研究から言える使い分けです。

出典

要旨に直接あたって確認したものだけを挙げています。

  1. 【対策による水増し・153人】Hu, R., Trenkic, D. (2019). The effects of coaching and repeated test-taking on Chinese candidates’ IELTS scores, their English proficiency, and subsequent academic achievement. International Journal of Bilingual Education and Bilingualism. DOI: 10.1080/13670050.2019.1691498
  2. 【試験対策とドリル・1,003人】Xie, Q. (2013). Does Test Preparation Work? Implications for Score Validity. Language Assessment Quarterly. DOI: 10.1080/15434303.2012.721423
  3. 【対策講座に優位なし】Green, A. (2007). Washback to learning outcomes: a comparative study of IELTS preparation and university pre-sessional language courses. Assessment in Education. DOI: 10.1080/09695940701272880
  4. 【最初の点が予測】Green, A. (2005). EAP study recommendations and score gains on the IELTS Academic Writing test. Assessing Writing. DOI: 10.1016/j.asw.2005.02.002
  5. 【TOEIC再受験者2万人】Wei, Y., Low, A. (2017). Monitoring Score Change Patterns to Support TOEIC Listening and Reading Test Quality. ETS Research Report Series. DOI: 10.1002/ets2.12186
  6. 【TOEFL再受験者】Wilson, K. M. (1987). Patterns of Test Taking and Score Change for Examinees Who Repeat the Test of English as a Foreign Language. ERIC: ED283831
  7. 【反証・日本の大学生190人】Allen, D. (2016). Investigating washback to the learner from the IELTS test in the Japanese tertiary context. Language Testing in Asia. DOI: 10.1186/s40468-016-0030-z
  8. 【反証・再受験者の準備】Knoch, U. et al. (2020). Drawing on repeat test takers to study test preparation practices and their links to score gains. Language Testing. DOI: 10.1177/0265532220927407
  9. 【再テストの伸びと一般能力・メタ分析】te Nijenhuis, J., van Vianen, A. E. M., van der Flier, H. (2007). Score gains on g-loaded tests: No g. Intelligence. DOI: 10.1016/j.intell.2006.07.006
  10. 【同型問題での再テスト】Arendasy, M. E., Sommer, M. (2013). Quantitative differences in retest effects across different methods used to construct alternate test forms. Intelligence. DOI: 10.1016/j.intell.2013.02.004
  11. 【練習効果と動機】Reeve, C. L., Lam, H. (2007). The Relation Between Practice Effects, Test-Taker Characteristics and Degree of g-Saturation. International Journal of Testing. DOI: 10.1080/15305050701193595
  12. 【不安と再テスト効果】Jendryczko, D., Scharfen, J., Holling, H. (2019). The Impact of Situational Test Anxiety on Retest Effects in Cognitive Ability Testing. Journal of Intelligence. DOI: 10.3390/jintelligence7040022
  13. 【詰め込みの持続】Gilraine, M., Penney, J. (2021). Cramming: Short- and Long-Run Effects. EdWorkingPaper No. 21-444. ERIC: ED671937
  14. 【SAT対策の統合】Becker, B. J. (1990). Coaching for the Scholastic Aptitude Test: Further Synthesis and Appraisal. Review of Educational Research. DOI: 10.2307/1170759
  15. 【対策効果は思うより小さい】Powers, D. E. (1993). Coaching for the SAT: A Summary of the Summaries and an Update. Educational Measurement: Issues and Practice. DOI: 10.1111/j.1745-3992.1993.tb00530.x
  16. 【点数の水増し】Koretz, D. (2005). Alignment, High Stakes, and the Inflation of Test Scores. Yearbook of the National Society for the Study of Education. DOI: 10.1111/j.1744-7984.2005.00027.x
  17. 【反証・受験方略の指導】Khoshsima, H., Saed, A., Mousaei, F. (2018). Exploring the Effect of Teaching Test-Taking Strategies on Intermediate Level Learners on Reading Section of IELTS. Advances in Language and Literary Studies. DOI: 10.7575/aiac.alls.v.9n.2p.4

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宮川 涼 Founder
早稲田大学大学院文学研究科哲学専攻修士号修了、同大学大学院同専攻博士課程中退。日本倫理学会員 早稲田大学大学院文学研究科にてカント哲学を専攻する傍ら、精神分析学、スポーツ科学、文学、心理学など幅広く研究に携わっている。

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