【連載第4回】入試は何を測っているか——予測妥当性と増分妥当性の実際

入試は何を測っているか

連載第4回です。第1回で分けた5つの問いのうち、③選抜の妥当性を扱います。

「あんな試験で人間の何が分かるのか」——入試批判の定番です。そして、この主張は検証できます。

測定の世界では、「試験が何かを測れているか」は、試験の中身を眺めて判断しません。その得点が、後で起きることをどれだけ当てたかで判断します。これを予測妥当性といいます。

一言でいうと(この記事の結論)
入試は、何かを測れています。ただし「何を」は、比較対象によって変わります。
高校成績と比べると、1年次成績の予測では高校成績のほうが上。しかし入試得点は、その上に乗る予測力を、ほぼすべての場面で持ちました [1]
そして——人種・性別・社会経済的地位を統制すると、難関大では入試得点は高校成績の4倍よく成績を予測しました [2]
——「入試は何も測っていない」は、誤りです。「入試は人間のすべてを測っている」も、誤りです。

結論を先に10点書きます。

  1. 192大学の分析で、入試得点はほぼすべての場面で高校成績に対する増分的有用性を持ちました [1]
  2. ただし、選抜度が低く平均的な成績を見たいときは、高校成績のほうが有用でした [1]
  3. 選抜度が高く、高い水準の成績を見たいときは、入試得点のほうが有用でした [1]
  4. 4年後の成績と卒業では、高校成績が最良の予測因子でした [3]
  5. 理由——高校成績の予測力は自己調整で、入試得点の予測力は認知能力で説明されました [4]
  6. 難関大の記録では、属性を統制すると入試得点の予測力は高校成績の4倍でした [2]
  7. 同研究は、入試得点に較正バイアス(不利な層の成績を過小予測する傾向)は見られなかったと報告しています [2]
  8. 18万9,612人のメタ分析で、社会経済的地位は成績・継続の弱い予測因子でした [5]
  9. 高校成績は校内での比較に強く、入試得点は学校間の比較に強い——役割が違います [6]
  10. そして——医学部の入試では、入試得点のほうが高校成績より強い予測力を示しました [7]

1. 「測れている」とは、どういう意味か

まず、言葉を決めます。

用語 意味 具体例
予測妥当性 その得点が、後の結果をどれだけ当てるか 入試得点と大学1年次成績の相関
増分妥当性 すでにある指標に、どれだけ上乗せして当てられるか 高校成績を知った上で、入試得点を加えると予測がどれだけ上がるか
範囲制限 合格者だけを見ると、相関が小さく見える現象 難関大の在学生だけで見ると、得点差が縮まっている
較正バイアス 特定の層について、系統的に過小/過大に予測すること 低所得層の実力を、得点が過小に表しているかどうか

一言でいうと(ここを外すと議論が壊れる)
「入試得点と大学成績の相関は0.35しかない」という数字は、よく引かれます。
——しかしこの数字は、合格した人だけで計算されています。不合格者は大学に居ないので、成績が存在しません。
得点の高い人ばかりを集めた集団の中で相関を測れば、相関は小さく出ます。これが範囲制限です。
補正すると、数字は上がります。

2. 192大学の分析——結論は「場面による」

この分野の基本文献を、まず押さえます [1]

Sawyer は、192の大学のデータを使い、「相関の大きさ」ではなく「入学判定に使ったときの有用性」を評価しました。相関が高いことと、判定に役立つことは、同じではないからです。

状況 より有用なのは
選抜度が低く、「平均的な成績を取れるか」を見たい 高校成績
選抜度が高く、「高い水準の成績を取れるか」を見たい 入試得点
ほぼすべての場面 入試得点は、高校成績に増分的な有用性を持つ

そして、この研究には見落とされがちな指摘があります。

「学生は、自分の高校成績と得点を使って出願先を選ぶ。この自己選択は、大学側の選抜よりも重要でありうる」 [8]
——入試は、大学が学生を選ぶ装置であると同時に、学生が自分を割り振る装置です。
オランダの研究も、入試の得点が低かった出願者は、進学を取りやめる割合が高かったと報告し、入試が自己選択を促す機能を持つと結論しています [9]

ACTを使った大規模メタ分析(50大学・18万9,612人)は、ACT総合点と高校成績がいずれも1年次成績と高く相関し、1年次成績が2年目・3年目の継続の最良の予測因子だったと報告しました。そして社会経済的地位は、成績・継続とも弱い予測因子でした [5]

3. 反証——4年後を見ると、逆転する

都合の良い側だけを書かないために、強い反証を出します。

カリフォルニア大学に入学した約8万人を4年間追跡した研究(447引用)は、次のように報告しました [3]

  1. 高校成績は、すべての学問領域・キャンパス・入学年次で、4年後の成果の最強の予測因子だった
  2. 驚くべきことに、高校成績の予測上の比重は、1年次より4年次のほうが大きかった
  3. 入学基準としての高校成績は、標準化テストより、不利な層・少数派への悪影響が小さかった

著者らは、高校の記録をより重視し、標準化テストの比重を下げるべきだと結論しています [3]

一言でいうと(なぜ逆転するのか)
1年次の成績と、4年後の卒業は、別のことを要求します。
1年次は、主に学力です。4年間続けることは、主に自己調整です。
——だから期間が長くなるほど、高校成績(=3年分の自己調整の記録)の比重が上がります [4]
この構造は第3回で扱いました。

4. 反論の反論——属性を統制すると、絵が変わる

2025年に発表された分析は、上記と逆方向の結果を出しています [2]

Friedman らは、複数の Ivy-Plus 大学の入試記録と成績記録を分析しました。

  1. 人種・性別・社会経済的地位を統制したとき、入試得点は高校成績の約4倍よく、大学1年次の成績を予測した
  2. 入試得点に較正バイアスは見られなかった——不利な背景を持つ学生の大学成績を、過小に予測してはいなかった
  3. 著者らの結論——標準化テストの得点は、出願書類の他の部分では得られない、学業的準備度の情報を提供している [2]

一言でいうと(Geiser と矛盾するのか)
正面からは矛盾しません。対象が違います。
Geiser の対象はカリフォルニア大学全体、Friedman らの対象は最難関私大です——第2回で見た「選抜度が高い側でだけ関係が強く出る」構造と、同じ方向です [1]
そして測っているものも違います。Geiser は4年後の卒業、Friedman らは1年次の成績です。
——「入試は妥当か」という問いは、対象と期間を指定しないと答えが出ません。

5. 高校成績と入試得点は、別の仕事をしている

もっとも整理された説明が、2018年の分析です [6]

Koretz らは、学校の中での関係と、学校の間での関係を、分けて推定しました(2レベル回帰)。

学校のでの予測力 学校のでの予測力
高校成績 強い 弱い
入試得点(特に数学) 実質的な予測力なし 強い

一言でいうと(これが本当の役割分担)
高校成績は、同じ学校の中で誰が優れているかを、よく表します。
しかし学校によって成績のつけ方が違うので、学校をまたぐと比較になりません。
——入試得点の主な仕事は、予測の上乗せではなく「統計的な調整」です。つまり学校ごとの評定基準の違いを、部分的に打ち消すことです [6]
日本でいえば、内申点と共通テストの関係が、まさにこれです。

同じ著者らによる別の研究は、使うテストの種類(大学入試用か州の高校テストか)を変えても、1年次成績の予測は集計レベルではほとんど変わらなかったと報告しています [10]テストの銘柄より、テストがあること自体のほうが効いているという示唆です。

6. 内容が近いほど、よく当たる

入試の種類によって、予測力は大きく変わります。

ドイツの医学部入学試験(TMS・HAM-Nat)を受けた2,113人を分析した研究は、範囲制限を多変量補正したうえで次を報告しました [7]

  • 入試も高校成績も、単独では臨床前課程の成績を予測した
  • しかし入試は高校成績に対して実質的な増分妥当性を持ち、逆は はるかに小さかった
  • 下位テストのうち、結晶性知能と流動性知能の要素を併せ持つものが、最も強い関連を示した——テストの内容が、測りたい課題の内容に近いほど当たる(内容一致仮説) [7]

この「内容が近いほど当たる」という原理を、極端まで押し進めたのがカリキュラム抽出型試験です。実際の大学の授業の一部を、そのまま入試にする方式です。オランダの3コホートを追跡した研究は、1年次にも3年次にも高い予測力を示し、高校成績に対する増分妥当性も確認されたと報告しました [9]

逆に、内容が遠いと当たりません。州全体のコミュニティ・カレッジのデータを分析した研究は、プレイスメントテストの得点は大学成績と弱くしか関連せず、高校成績を統制すると相関は消えたと報告しています。そして英語では受験者の27〜33%が重大な配置ミスを受けていました [11]

7. 結局、入試は「一般知能」を測っているのか

身も蓋もない仮説があります。「入試は要するに知能テストだ」というものです。

Project TALENT の30万人超のデータから、5年後追跡で学士号を取得した35,446人を分析した研究は、59の能力テストを使ってこの問いを検証しました [12]

  1. 一般知能 g と誠実性が、それぞれ独立に大学成績を予測した(g の観測相関 .32、誠実性 .17)
  2. 特殊能力は、g を超える増分妥当性をほとんど持たなかった
  3. 意外にも、数学的知識は g を超える増分妥当性を持たなかった
  4. 高校成績は、g・誠実性と大学成績の関係を媒介していた
  5. 著者らの結論——入試の妥当性は、主に一般認知能力を測っていることに由来する [12]

一言でいうと(この結論をどう読むか)
「入試は知能テストだから無意味だ」とは言えません。
——一般認知能力は、大学で学べるかどうかを実際に予測しているからです。
言えるのは「入試は、大学での学業を予測するために設計されており、それ以外を予測するようには設計されていない」ということです。
人柄も、粘り強さも、将来の仕事の成果も、入試は測ろうとしていません。

8. 日本に当てはめるとき

  1. 内申点と共通テストの役割は、5節の構造と同じです。内申点は校内比較に強く、共通テストは学校間の比較に強い。どちらか一方だけで選抜する制度は、片方の弱点をそのまま背負います。当サイトの内申点の実務を併せてご覧ください。
  2. 総合型選抜の面接・小論文は、6節の「内容一致」の観点で評価できます。学部の学びに近い課題を出すほど、予測力は上がるはずです。2027年度からの面接必須化については総合型選抜は「楽な入試」かで扱いました。
  3. 「うちの子は入試に向いていない」という判断は、早すぎる場合があります。3節のとおり、4年後の卒業を予測するのは高校成績=自己調整です [3] [4]入試型が苦手でも、大学で伸びる経路は存在します。

9. 実務——入試の妥当性を、家庭の判断に使う

  1. 模試の判定が悪い=大学で通用しない、ではありません。入試得点が予測するのは主に1年次の成績です [3]
  2. 評定が高く模試が低い生徒は、「入学後に強い」型である可能性があります。自己調整の記録が良いためです [4]推薦・総合型の検討価値が高い型です。
  3. 模試が高く評定が低い生徒は、逆の型です。一般入試での勝負が向きますが、入学後に続けられるかを別に確認する必要があります(第2回6節)。
  4. 志望学部の学びに近い課題で測る入試ほど、判定は信頼できます [7] [9]

それでも塾に通いたい方へ

塾に通いたい、通わせたいという方には、武蔵野個別指導塾を勧めます。この回に関して、理由を3つ書きます。

  1. 模試の判定を、生徒の価値の判定として扱わないこと。入試得点が予測しているのは、限定された範囲です [12]。当塾は、模試の数字が何を意味し、何を意味しないかを、生徒本人に説明します。
  2. 評定と模試のズレを、方式選択の材料に使うこと。9節のとおり、ズレの向きが、向いている入試方式を示します [4]
  3. 「入試は不公平だから無意味」と言わないこと。4節のとおり、較正バイアスは見られなかったという報告があります [2]制度への批判と、測定としての妥当性は、別に扱います。

塾を検討する際は、次のように聞いてみてください。

  • この模試の判定は、何を予測していると考えますか
  • 評定と模試がずれている場合、どう解釈しますか
  • 志望学部の入試は、学部の学びとどれくらい近い課題ですか

1つ目に「合格可能性です」としか答えない塾は、測定の話ができていません。当塾がお答えできるようにしておくのが、こちらの仕事だと考えています。

まとめ

  1. 192大学の分析で、入試得点はほぼすべての場面で増分的有用性を持ちました [1]
  2. 選抜度が低い場面では高校成績、高い場面では入試得点のほうが有用でした [1]
  3. 学生は自分の成績と得点で出願先を選ぶ。この自己選択は大学の選抜より重要でありうる [8]
  4. 50大学18万9,612人で、1年次成績が2・3年目の継続の最良の予測因子でした [5]
  5. 反証。約8万人・4年追跡では、高校成績が最強の予測因子で、比重は4年次のほうが大きかった [3]
  6. 反論の反論。属性を統制した難関大の記録では、入試得点の予測力は高校成績の4倍でした [2]
  7. 同研究は、較正バイアスは見られなかったと報告しています [2]
  8. 高校成績は校内比較に強く、入試得点は学校間比較に強い。役割が違います [6]
  9. 入試得点の主な機能は、予測の上乗せより「学校間の評定基準の違いの調整」でした [6]
  10. テストの種類を変えても、集計レベルの予測はほとんど変わりませんでした [10]
  11. 医学部入試では、入試得点のほうが高校成績より強い予測力を示しました [7]
  12. 内容が学びに近いほど当たる。カリキュラム抽出型は1年次・3年次とも高い予測力でした [9]
  13. 逆に内容が遠いプレイスメントテストでは、英語で27〜33%が重大な配置ミスを受けていました [11]
  14. 入試の妥当性の多くは、一般認知能力の測定に由来し、特殊能力の寄与は乏しい [12]
  15. そして——入試は「大学で学べるか」を測るよう設計されています。それ以外を測るようには設計されていません。

出典

本文中の番号に対応します。抄録に直接あたって確認したものだけを挙げています。結論に反する研究も、同じ基準で載せています。

  1. 【192大学・有用性】Sawyer, R. (2013). Beyond Correlations: Usefulness of High School GPA and Test Scores in Making College Admissions Decisions. Applied Measurement in Education. DOI: 10.1080/08957347.2013.765433
  2. 【難関大・4倍/較正バイアスなし】Friedman, J. et al. (2025). Standardized Test Scores and Academic Performance at Ivy-Plus Colleges. SSRN. DOI: 10.2139/ssrn.5181306
  3. 【反証・UC約8万人・4年追跡】Geiser, S. & Santelices, M. V. (2007). Validity of High-School Grades in Predicting Student Success beyond the Freshman Year. CSHE Research & Occasional Paper Series
  4. 【自己調整 vs 認知能力】Galla, B. M. et al. (2019). Why High School Grades Are Better Predictors of On-Time College Graduation Than Are Admissions Test Scores. AERJ. DOI: 10.3102/0002831219843292
  5. 【メタ分析・18万9,612人】Westrick, P. A. et al. (2015). College Performance and Retention: A Meta-Analysis of the Predictive Validities of ACT Scores, High School Grades, and SES. Educational Assessment. DOI: 10.1080/10627197.2015.997614
  6. 【校内 vs 校間・2レベル分析】Koretz, D. et al. (2018). Predicting Freshman Grade-Point Average from Test Scores: Effects of Variation Within and Between High Schools. Educational Measurement: Issues and Practice. DOI: 10.1111/emip.12173
  7. 【医学部入試・2,113人】Jaehn, M. et al. (2025). Predictive validity of admission tests and educational attainment on preclinical academic performance – a multisite study. BMC Medical Education. DOI: 10.1186/s12909-025-07974-2
  8. 【自己選択の重要性】Sawyer, R. (2010). Usefulness of High School Average and ACT Scores in Making College Admission Decisions. ACT Research Report Series 2010-2
  9. 【カリキュラム抽出型試験】Niessen, A. S. M. et al. (2018). Admission testing for higher education: A multi-cohort study on the validity of high-fidelity curriculum-sampling tests. PLoS ONE. DOI: 10.1371/journal.pone.0198746
  10. 【テストの銘柄は影響小】Koretz, D. et al. (2016). Predicting Freshman Grade Point Average From College Admissions Test Scores and State High School Test Scores. AERA Open. DOI: 10.1177/2332858416670601
  11. 【プレイスメントテストの配置ミス】Belfield, C. & Crosta, P. M. (2012). Predicting Success in College: The Importance of Placement Tests and High School Transcripts. DOI: 10.7916/d8k07cfb
  12. 【一般知能と誠実性・35,446人】Cucina, J. M. et al. (2026). Role of Mental Abilities and Conscientiousness in Explaining College Grades. Intelligence & Cognitive Abilities. DOI: 10.65550/001c.154598

連載「受験という制度は、人に何をするのか」(全10回)

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ryomiyagawa Founder
早稲田大学大学院文学研究科哲学専攻修士号修了、同大学大学院同専攻博士課程中退。日本倫理学会員 早稲田大学大学院文学研究科にてカント哲学を専攻する傍ら、精神分析学、スポーツ科学、文学、心理学など幅広く研究に携わっている。

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