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関数解析 関数を「点」とみなす無限次元の線形代数|武蔵野個別指導塾
関数どうしの距離を定めると、波の近似がベクトルの射影につながります。ノルム・完備性・フーリエ展開・スペクトルを具体的な計算でたどり、高校の積分とベクトルから大学数学への道筋を確かめます。

関数解析 関数を「点」とみなす無限次元の線形代数
星の光を一本の関数として持ち帰る
夜の天体観測会の帰り道、街灯の届かないところで立ち止まり、さっき望遠鏡で見た星をもう一度探します。塾の講師と数学の話をするなら、ここで「星の明るさをずっと記録したら、数学では何を一つのデータと呼ぶでしょう」と問いかけてみたいところです。ある瞬間の明るさなら、一つの実数で表せます。時間とともに変わる明るさ全体を扱うなら、時刻 t に明るさ f(t) を対応させる関数が必要です。
その記録を別の日の記録と比べるとき、「似ている」とは何でしょうか。一瞬だけ大きくずれた記録と、いつも少しずつずれた記録では、どちらの違いが大きいのでしょう。グラフを重ねるだけでは、判断の物差しが決まりません。最大のずれを見るのか、ずれの二乗を積分するのかによって答えは変わります。
関数解析は、関数を一つの点、あるいは一つのベクトルとして扱い、その集まりに距離や角度を入れて考える数学です。関数の式を一つずつ解くことから、関数たちが暮らす空間全体の性質を調べることへ、視点が移ります。「近似を細かくした先にも関数があるか」「最も近い単純な波は存在するか」「操作によって小さな誤差が拡大しないか」が中心の問いになります。
入口は高校のベクトルと積分です。多くの理系学部では1〜2年で微積分と線形代数の基礎を学び、それを足場に関数解析へ進みます。無限次元という言葉に身構える必要はありません。ただし、有限個の座標では意識しなかった「どの意味で近づくのか」を、一つずつ明らかにする必要があります。

ベクトルの長さを積分で測り直す
高校の平面ベクトル u = (1, 2) と v = (3, -1) を考えます。内積は u・v = 1 × 3 + 2 × (-1) = 1、長さはそれぞれ √5 と √10 です。座標ごとの積を足すことで、長さや角度を一つの数にまとめています。
関数にも足し算と定数倍があります。例えば f(t) = t と g(t) = 1 – t なら、f + g は値がいつも1になる関数です。a を実数とすれば、af は各時刻の値を a 倍した関数です。この計算では、関数全体がベクトルの役割を果たしています。区間 [0, 1] の全時刻を座標のように考え、座標ごとの積の和を積分へ置き換えると、次の量が自然に現れます。
〈f, g〉 = ∫₀¹ f(t)g(t) dt
実際に f(t) = t、g(t) = 1 – t を入れると、高校の積分で計算できます。
〈f, g〉 = ∫₀¹ (t – t²) dt = 1/2 – 1/3 = 1/6
同じ関数どうしなら、〈f, f〉 = ∫₀¹ t² dt = 1/3 なので、長さを √〈f, f〉 と定めれば f の長さは 1/√3 です。関数の長さは、グラフの曲線の長さではありません。値の大きさを、選んだ物差しでまとめた量です。この区別を最初に押さえておくと、図の印象に引きずられずに進めます。
では f と g の距離はどうでしょうか。ベクトルと同じく差の長さを取ります。
∫₀¹ |f(t) – g(t)|² dt = ∫₀¹ (2t – 1)² dt = 1/3
したがって、この測り方での距離は 1/√3 です。一方、全時刻における差の最大値を距離とすれば、答えは1です。計算のどちらかが間違っているのではなく、使っている物差しが違います。
高校の関数の学習では、式からグラフを描いたり、指定された点で値を求めたりする場面が多くあります。関数解析では「その関数がどの集合に属し、何を距離としているか」までが問題の一部です。同じ式でも、置く空間や距離を変えると、収束や連続性について異なる問題が生まれます。
もう一つの違いは、必要な方向の数です。多項式だけを見ても、1, t, t², t³, … と次数を増やせます。有限個の異なる次数の単項式は一次独立です。有限和が区間全体で0になる多項式なら、各係数が0になるからです。したがって、連続関数すべてを有限本のベクトルの一次結合で表すことはできません。無限次元という言葉には、この具体的な意味があります。
距離と角度に、極限を受け止める条件を加える
ノルムは何を満たす物差しか
実数または複素数を係数とするベクトル空間 X を考えます。各 x ∈ X に非負の実数 ||x|| を対応させ、次の3条件を満たすものをノルムといいます。
||x|| = 0 ⇔ x = 0
||ax|| = |a| ||x||
||x + y|| ≦ ||x|| + ||y||
最後の条件は三角不等式です。ここで x, y は任意のベクトル、a は任意の係数です。このようなノルムを備えた空間がノルム空間であり、距離は d(x, y) = ||x – y|| と定めます。関数を対象にする場合、最初の条件の右辺の0は、空間の零ベクトルに当たる関数を指します。
区間 [0, 1] の実数値連続関数すべてからなる空間を C[0, 1] と書きます。この空間には、例えば最大値ノルムを入れられます。
||f||∞ = max₀≦t≦₁ |f(t)|
閉じた有界区間上の連続関数なので、この最大値は存在します。また、二乗積分によるノルムも入れられます。
||f||₂ = √(∫₀¹ |f(t)|² dt)
連続関数であれば、二乗積分が0なのにどこかで値が0でないことはありません。その点の周りでも絶対値が正になる区間ができ、積分が正になるからです。したがって、C[0, 1] ではこちらもノルムの条件を満たします。
違いを調べるため、n を正の整数として fₙ(t) = t の n 乗を考えます。最大値は t = 1 で取るので ||fₙ||∞ = 1 です。ところが、二乗積分は 1/(2n + 1) となり、||fₙ||₂ = 1/√(2n + 1) → 0 です。つまり、二乗積分の意味では零関数へ収束しても、最大値ノルムでは零関数へ収束しません。「関数列が収束する」とだけ書くと、この違いが消えてしまいます。
完備性は近似の行き先を保証する
ノルム空間 X の列 xₙ がコーシー列であるとは、どんな ε > 0 に対しても自然数 N が存在し、m, n ≧ N なら ||xₘ – xₙ|| < ε となることです。列の後ろの方どうしが、いくらでも近づくという条件です。行き先の点を先に指定していないところが重要です。
X 内のすべてのコーシー列が、X のある元 x にノルムの意味で収束するとき、X は完備であるといいます。収束の条件は ||xₙ – x|| → 0 です。完備なノルム空間がバナッハ空間です。「近似どうしの差が小さくなる」から「この空間に極限がある」へ進むための条件だと読んでください。
C[0, 1] は最大値ノルムではバナッハ空間ですが、二乗積分によるノルムでは完備ではありません。違いを具体的に見るため、n ≧ 2 に対して連続関数 hₙ を作ります。t ≦ 1/2 では0、1/2 ≦ t ≦ 1/2 + 1/n では n(t – 1/2)、それより右では1とします。細い坂道で高さ0から高さ1へつなぐ形です。
一方、h を t ≦ 1/2 で0、それより右で1となる段差の関数とします。坂道の区間だけを積分すると、次の誤差が出ます。
∫₀¹ |hₙ(t) – h(t)|² dt = 1/(3n)
この値は0へ近づくので、hₙ は二乗積分の意味で h に近づきます。三角不等式によって hₘ と hₙ の距離も小さくなるため、hₙ は C[0, 1] のコーシー列です。しかし、この段差と二乗積分の意味で同じになる連続関数はありません。連続な極限候補は左半分で0、右半分で1でなければならず、境目の連続性と両立しないからです。近似は空間の中にあっても、その行き先が外に出ています。
内積とヒルベルト空間
実ベクトル空間の内積は、各 x, y に実数〈x, y〉を対応させるものです。第1変数について線形で、〈x, y〉 = 〈y, x〉を満たし、〈x, x〉 ≧ 0 かつ〈x, x〉 = 0 ⇔ x = 0 となることを要求します。ノルムは ||x|| = √〈x, x〉で定まります。内積によるこのノルムに関して完備な空間がヒルベルト空間です。
複素数の場合は対称性を共役対称性に替えます。ここでは第1変数を線形とし、第2変数を共役線形とする約束を使います。関数なら〈f, g〉 = ∫ f(t)g̅(t) dt です。g̅(t) は g(t) の複素共役を表します。どちらの変数を線形とするかは記法の約束なので、係数を外に出す前に確かめます。
代表例が L²[0, 1] です。ルベーグ可測で二乗絶対値の積分が有限な関数を集め、測度0の集合を除いて等しいものを同じ元とみなします。この「同じ元とみなす」手続きが必要なのは、1点だけ値を変えても積分は変わらないからです。生の関数をそのまま区別すると、異なる関数の差の長さが0になり、ノルムの条件に反します。
L²[0, 1] は上の積分内積でヒルベルト空間になります。先ほどの段差 h もその元です。ただし、L² の元は1点ごとの値を固定した関数そのものではありません。そのため「この時刻の値」と「空間の中での距離」を混同しないことが、応用でも大事になります。

直交射影で最良の近似を計算する
最も近い点はいつ存在するか
ヒルベルト空間 H の閉線形部分空間 M を取ります。射影定理は、任意の f ∈ H に対して、距離 ||f – p|| を最小にする p ∈ M がただ一つ存在し、その p は次の直交条件で特徴づけられるという定理です。
〈f – p, m〉 = 0 すべての m ∈ M に対して
閉という仮定は、M 内の列が H 内で収束したとき、その極限も M に残るという意味です。近似候補の集まりに極限が残らなければ、距離の下限へ近づくだけで最小値を取れないことがあります。
直交条件が最良近似を与える理由は、ピタゴラスの定理にあります。q ∈ M なら p – q も M に属し、f – p と直交するので、
||f – q||² = ||f – p||² + ||p – q||²
となります。右辺の第2項は非負で、0になるのは q = p のときだけです。これが最小性と一意性の要です。存在の証明では、距離の下限へ近づく候補列に平行四辺形の法則を使い、コーシー列であることを示します。その極限を受け止めるために H の完備性と M の閉性を使います。定理の仮定は飾りではなく、証明でそれぞれ役割を持っています。
具体的に、L²[0, 1] で f(t) = t² を一次関数 p(t) = a + bt で近似します。M は1と t の張る有限次元部分空間で、閉です。誤差が1と t の両方に直交する条件を積分すると、
1/3 – a – b/2 = 0
1/4 – a/2 – b/3 = 0
を得ます。第1式を半分にして第2式から引くと、1/12 – b/12 = 0 です。よって b = 1、a = -1/6 となり、最良近似は p(t) = t – 1/6 です。
残る二乗誤差も計算できます。
∫₀¹ (t² – t + 1/6)² dt = 1/180
「最良」は、ここで選んだ二乗積分誤差についての言葉です。例えば p(0) = -1/6 となり、f(0) = 0 とは一致しません。端の値を合わせる条件は入れていないので、これは失敗ではありません。何を保存し、何を小さくしたいのかを決めてから、近似の問題を立てます。
正規直交系とフーリエ展開
各ベクトルの長さが1で、異なるものどうしの内積が0である列 e₁, e₂, … を正規直交系といいます。有限個の e₁, …, eₙ の張る空間への射影は、各方向の成分を集めたものです。
pₙ = ∑ₖ₌₁ⁿ 〈f, eₖ〉eₖ
この式から ||pₙ||² = ∑ₖ₌₁ⁿ |〈f, eₖ〉|² がわかり、ピタゴラスの定理によって、
||f – pₙ||² = ||f||² – ∑ₖ₌₁ⁿ |〈f, eₖ〉|²
となります。右辺が非負であることが、ベッセルの不等式です。
さらに、この正規直交系の有限一次結合が H の中で稠密、つまり任意の元を任意の精度で近似できると仮定します。このとき pₙ → f がノルムの意味で成立し、||f||² = ∑ₖ₌₁∞ |〈f, eₖ〉|² となります。これが正規直交展開とパーセバルの等式です。直交して長さが1であるだけでは十分ではなく、近似に必要な方向をすべて備えていることが必要です。
L²[-π, π] では、1/√(2π)、cos(nt)/√π、sin(nt)/√π を n = 1, 2, … について並べた系が、その条件を満たします。例えば f(t) = t は奇関数なので定数項と余弦の係数は0です。通常の正弦級数の係数 bₙ は、部分積分で求まります。
bₙ = (1/π)∫[-π, π] t sin(nt) dt = 2 × ((-1) の n + 1 乗) / n
ここで積分記号の上下端は -π と π です。係数は順に 2, -1, 2/3, -1/2 と続きます。最初の2項による近似は p(t) = 2sin t – sin(2t) です。直交性を使うと、二乗誤差は途中の交差項を計算せずに出せます。
||f – p||₂² = 2π³/3 – 5π ≈ 4.962888
項を増やせば二乗積分誤差は0へ近づきます。ただし、これはすべての点での一致や一様収束をそのまま意味しません。例えば各正弦項は t = π で0なのに、f(π) = π です。1点の違いは L² の距離に影響しないので、L² 収束との矛盾はありません。関数を点として扱う考え方と、関数の各点の値を見る考え方の違いが、ここではっきり現れます。
積分方程式から空間そのものの研究へ
関数解析の出発点は、関数をただ抽象化して眺めたいという動機だけではありません。未知の関数が積分の中に現れる積分方程式や、関数を動かして量を最小にする変分問題では、未知数が数ではなく関数です。有限個の連立方程式の方法を持ち込もうとすると、無限個の成分やその極限を扱う必要が生じます。
関数解析の成立を扱う歴史研究は、変分法と積分方程式が抽象解析の道具を磨き、応用する場になったことを述べています。また、関数と空間の概念が整えられる過程や、位相の考え方と基本定理へ至る展開を取り上げています(Birkhoff・Kreyszig, 1984)。この流れを見ると、距離や完備性は後から付け足された難しい言葉ではなく、近似解を本当の解へつなぐために必要になった条件だと理解できます。
例えば、連続な核 K(t, s) を用いて、関数 f から別の関数 Tf を作る操作を考えます。
(Tf)(t) = ∫₀¹ K(t, s)f(s) ds
積分の線形性から T(af + bg) = aTf + bTg が成り立ちます。これは行列をベクトルにかける操作と同じ線形性です。ただし、入力と出力が関数なので、操作が極限と両立するかを別に確かめなければなりません。行列の成分を書き並べるだけでは済まないところが、研究の広がりを生みます。
ここでノルム空間 X, Y の間の線形写像 T が有界であるとは、有限の定数 C ≧ 0 が存在し、すべての x ∈ X について ||Tx|| ≦ C||x|| が成り立つことです。このような写像を有界線形作用素と呼びます。有界は、すべての出力が一定の範囲に収まるという意味ではありません。入力に対する増幅率に一様な上限があるという意味です。
作用素ノルムは ||T|| = sup{||Tx|| : ||x|| ≦ 1} と定義します。線形性と有界性から ||Tx – Ty|| ≦ ||T|| ||x – y|| となるため、有界線形作用素は連続です。逆に線形写像が0で連続なら有界となります。線形性があるからこそ、1点の近くの情報を空間全体の増幅率へ広げられます。
バナッハ空間と線形作用素の歴史を扱う研究では、この理論と代数、位相、微分方程式、確率、調和解析、数値解析などの関わりが論じられています(Pietsch, 2007)。長さをどう測るか、操作がその長さをどれほど変えるかという共通の問いが、多様な問題を結び付けてきたのです。
スペクトルは固有値の外側にも広がる
小さな誤差を逆操作が増幅する
積分作用素の簡単な例として、L²[0, 1] で (Tf)(t) = ∫₀ᵗ f(s) ds とします。コーシー・シュワルツの不等式から、|(Tf)(t)|² ≦ t∫₀ᵗ |f(s)|² ds ≦ t||f||₂² です。さらに t で積分すると ||Tf||₂² ≦ ||f||₂²/2 となり、||T|| ≦ 1/√2 と評価できます。これは上限の評価であって、作用素ノルムの正確な値だとは主張していません。
積分と逆向きの微分には注意が必要です。連続微分可能な関数を最大値ノルムで測り、微分後も最大値ノルムで測ると、D : f ↦ f′ は有界ではありません。例えば fₙ(t) = sin(nt)/n なら ||fₙ||∞ ≦ 1/n ですが、fₙ′(t) = cos(nt) で ||fₙ′||∞ = 1 です。入力が0へ近づいても出力は0へ近づきません。誤差の小さい記録を微分すれば必ず誤差の小さい変化率が得られる、とはいえない理由です。
より明確に逆操作の問題を見るため、複素数列 x = (x₁, x₂, …) で ∑ₙ₌₁∞ |xₙ|² < ∞ を満たすものの空間 ℓ² を使います。内積は座標ごとの積に複素共役を入れて足したものです。作用素 A を、各座標をその番号で割る操作とします。
Ax = (x₁, x₂/2, x₃/3, …)
||Ax|| ≦ ||x|| なので A は有界です。第 n 座標だけが1の単位ベクトル eₙ には Aeₙ = (1/n)eₙ が成り立ち、1/n は固有値です。しかし0も重要です。Ax = 0 なら x = 0 なので、0は固有値ではありません。それでも、Aeₙ の長さは 1/n へ小さくなるのに eₙ の長さは1のままです。逆操作に一様な増幅率の上限を置くことはできません。
複素バナッハ空間 X 上の有界線形作用素 A に対し、複素数 λ がスペクトルに属するとは、A – λI が X 全体から X 全体への有界な逆作用素を持たないことです。I は恒等作用素です。有限次元の複素行列ではスペクトルは固有値全体ですが、無限次元では一致するとは限りません。この A では0が、固有値でないスペクトルの例になります。
実際、y = (1, 1/2, 1/3, …) は ℓ² に入りますが、Ax = y を座標ごとに解くと x = (1, 1, 1, …) が必要になり、これは ℓ² に入りません。したがって A は全射でもありません。無限次元では、成分ごとに式を解けることと、解が元の空間に属することが別の条件になります。有限個の座標に切り詰めるとこの問題が見えにくくなるため、数値計算では次元を増やしたときの安定性が大切です。
量子状態を表す空間と自己共役作用素
量子力学では、複素ヒルベルト空間の単位ベクトルで純粋状態を表します。ただし、全体に絶対値1の複素数をかけたベクトルは同じ物理的状態を表します。観測量には自己共役作用素が対応し、スペクトルが測定値を扱う枠組みに現れます。有界作用素の場合、自己共役とはすべての x, y に対して〈Ax, y〉 = 〈x, Ay〉が成り立つことです。
最も小さな計算として、直交する単位ベクトル u, v が Au = 0、Av = 2v を満たす場合を考えます。状態 ψ = u/2 + √3 v/2 の長さの二乗は 1/4 + 3/4 = 1 です。測定値0と2の確率はそれぞれ係数の絶対値の二乗なので、1/4 と 3/4 です。期待値は0 × 1/4 + 2 × 3/4 = 3/2 となり、内積〈Aψ, ψ〉とも一致します。フーリエ係数を各方向の成分として読む考え方が、ここでも生きています。
位置や運動量を扱うと、一般には非有界作用素が必要になり、どのベクトルに作用させられるかという定義域まで指定します。形式的な式で内積の交換ができるだけでは、非有界作用素の自己共役性は保証されません。作用素とその随伴の定義域の一致も条件に入ります。
関数解析と作用素論の研究をまとめた論考は、ノルム空間の幾何だけでなく、対称作用素、自己共役作用素、ヒルベルト空間上の非自己共役作用素などを扱っています(Berezansky・Gorbachuk・Gorbachuk, 2005)。先ほどの量子状態の計算は基本概念を確かめるためのものですが、作用素の種類と定義域を区別する姿勢は、こうした研究の主題へ進む際にも欠かせません。
式を読む前に、空間と物差しを書く
関数解析で戸惑いやすいのは、計算が突然難しくなることよりも、同じ言葉の背後にある条件が増えることです。「収束する」「連続である」「逆がある」という短い表現の中に、空間、ノルム、定義域、極限の取り方が含まれます。記号を追っているのに議論がつながらないときは、式変形より前に、それらが省かれていないかを点検すると整理できます。
学習の手順は、次のように具体化できます。
- 問題の最初に、空間とノルムを一行で書きます。C[0, 1] だけではまだ足りません。最大値ノルムか二乗積分のノルムかまで添えます。作用素が出たら、入力の空間と出力の空間も書きます。
- 定義の量化の順番を読み直します。有界性の C は入力 x ごとに選ぶのではなく、すべての x に通用する一つの定数です。「各 x について ||Tx|| が有限」との違いを、言葉で説明します。
- 抽象的な主張を具体例に戻します。fₙ(t) = t の n 乗について最大値と二乗積分を両方計算し、どのノルムで何に収束するかを別々に書きます。グラフの見た目だけで結論を出さない練習になります。
- 定理の仮定に、使った箇所の印を付けます。射影定理なら「閉」「線形部分空間」「ヒルベルト空間」を抜き出し、極限の所属、差の所属、直交性や完備性と対応させます。
- 計算結果を別の条件で確かめます。最良近似なら係数を求めて終わらず、残差と近似空間の基底との内積が0になるかを計算します。固有値なら作用素を実際に作用させます。
高校生のうちに準備するなら、積分、数列の極限、ベクトルの内積を別々の単元として終わらせないことが有効です。二乗の積分が長さの二乗になる例を計算し、三角関数の積の積分が直交性につながることを確かめます。また、必要条件と十分条件を区別する練習も役立ちます。「直交しているから展開できる」と早合点せず、すべての方向を近似できるかまで問う姿勢が、大学での定理の読み方になります。
塾の講師が担えるのは、計算の誤りと定義の取り違えを分けて見つけることです。例えば誤差の積分が合わないなら展開や積分を戻って確認しますが、二乗積分収束から端点の値の一致を結論したなら、戻るべき場所は収束の定義です。説明を求める際も「わかりましたか」だけで済ませず、「今の距離が0なら、何が同じと言えますか」と範囲を絞ります。答えの途中に残った曖昧さを、次の計算で確かめられる形にします。
家庭では、お子さまが抽象的な言葉を使い始めたとき、すぐに難しい公式を暗記したかどうかで理解を判断しなくて大丈夫です。「その長さは何で測るの」「例を一つ見せられる」と尋ねれば、定義と計算のつながりを話すきっかけになります。短い説明が途中で止まること自体も、どこを学び直すかを見つける手掛かりです。落ち着いて式を書き直せる時間を持つことが、抽象的な内容に取り組む支えになります。
ここで手が止まるなら、止まった単元まで一緒に戻ります。武蔵境の数学塾(1 対 1)/お問い合わせ
無限次元への入口で確かめたい三つのこと
関数を点とみなすと、グラフは使わなくなるのでしょうか
グラフは引き続き役立ちます。ただし、グラフ上の点 (t, f(t)) と、関数空間の一点 f は別のものです。前者は一つの時刻と値を表し、後者は関数全体を一つの元として扱います。段差を近似する連続関数を描けば形の変化をつかめますが、その近似がどの意味で収束するかはノルムで判定します。図と定義を往復することで、両方の利点を使えます。
無限個の係数があれば、普通のベクトルと同じですか
係数が無限に並ぶだけでは足りません。ℓ² なら絶対値の二乗の総和が有限であることが必要ですし、展開の部分和がどのノルムで収束するかも決めます。また、正規直交基底による展開は一般に無限和を許すので、有限一次結合で表すという線形代数の基底の使い方とは区別します。有限次元の計算を手掛かりにしながら、極限の条件を追加するのが学習の進め方です。
量子力学を学ばない人にも必要ですか
関数の近似、積分方程式、信号の復元などでも役立ちます。例えば観測から未知の関数を戻す操作では、解が存在するかだけでなく、小さな測定誤差に対して解が大きく変わらないかが問題になります。座標を番号で割る作用素の例は、順方向が有界でも、逆方向が安定とは限らないことを示しました。どの分野でも、求めた式が元の空間に属するかまで確かめる習慣が有効です。
夜の天体観測会の帰り道で思い浮かべた光の記録も、点を順に並べるだけなら単なる数値の列に見えます。しかし、その全体を一つの関数とみなし、距離と操作を定めれば、近似、極限、安定性について問えるようになります。関数解析の抽象性は、具体的な計算を捨てることではありません。どの計算が、どの条件の下で、極限まで通用するかを見極めるためのものです。まず関数どうしの距離を一つ計算し、その物差しで何が近づくのかを説明してみてください。無限次元の理解は、選んだ物差しと計算結果を結び付ける一歩から始まります。
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参考文献
- Birkhoff, Garrett・Kreyszig, Erwin(1984)「The establishment of functional analysis」Historia Mathematica. https://doi.org/10.1016/0315-0860(84)90036-3
- Pietsch, Albrecht(2007)「History of Banach spaces and linear operators」Birkhäuser. https://doi.org/10.1007/978-0-8176-4596-0
- Berezansky, Yu. M.・Gorbachuk, V. I.・Gorbachuk, M. L.(2005)「Functional analysis at the Institute of Mathematics, National Academy of Sciences of Ukraine」Ukraïns’kyĭ Matematychnyĭ Zhurnal. https://doi.org/10.1007/s11253-005-0221-8
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