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実数の完備性 デデキント切断とコーシー列で「数直線に穴がない」を示す|武蔵野個別指導塾

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有理数だけでは平方根の近似列が収束しない理由をたどり、デデキント切断とコーシー列で実数を構成します。上限の存在が二分法の誤差保証につながる道筋まで、式を追って確かめられます。

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実数の完備性 デデキント切断とコーシー列で「数直線に穴がない」を示す

地下書庫で数直線の一本の線を疑う

大学の図書館の地下書庫で、解析学の本を開く場面を思い浮かべてください。地上の足音が遠くなり、机の上には「実数の連続性」と書かれたページがあります。隣に置いたノートへ一本の数直線を引き、0、1、2と目盛りを打ちます。高校では何度も使った図です。それなのに、本の冒頭では、その線に穴がないことをわざわざ条件として述べています。鉛筆の線は途切れていないのに、数学では何を心配しているのでしょうか。

考える入口は、√2の位置です。1.4、1.41、1.414と値を詳しくすると、求める点へ近づいているように見えます。しかし、途中まで書いた小数はすべて有理数です。有理数をどれだけ並べても、そのどれかが突然√2になるわけではありません。「近づけること」と「近づいた先が、その数の世界にあること」は別の話なのです。

数学を教える立場で、この区別は急いで通り過ぎたくないところです。微分積分では、近似を細かくして極限を求めます。そのたびに到着先の存在を心配せず進めるのは、実数が特別な性質を備えているからです。それが完備性です。多くの理系学部では1〜2年で学ぶ解析学の基礎ですが、問いそのものは高校の平方根や数列から始まります。

ここではまず有理数に残る不足を特定し、その不足を埋める2通りの実数の作り方を追います。さらに、上限、狭まる区間、収束する部分列という別々に見える道具が、同じ性質を言い表すことを確かめます。「穴がない」を図の印象で終わらせず、証明の中で使える言葉に変えるのが目標です。

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平方根の計算から見える有理数の不足

数学Iの平方根では、√2が有理数ではないことを学びます。証明を振り返りましょう。√2=p/qと表せると仮定し、pとqを互いに素な正の整数に取ります。両辺を平方するとp²=2q²です。p²が偶数なのでpも偶数となり、p=2kと書けます。すると4k²=2q²、つまりq²=2k²です。今度はqも偶数になり、pとqが互いに素という条件に反します。

一方で、近似値を求める計算はできます。

1.4²=1.96<2<2.25=1.5²

1.41²=1.9881<2<2.0164=1.42²

1.414²=1.999396<2<2.002225=1.415²

正の範囲では平方する操作が大小を保つので、実数としての√2は順に狭い区間へ挟まれます。ここで大切なのは、これらの平方の比較自体は有理数だけで実行できることです。√2の存在を先に認めなくても、「左端の平方は2より小さい、右端の平方は2より大きい」という区間は作れます。

数学IIIの数列の極限では、こうした近似を無限に続けた先を扱います。ただし「無限に続ければそのうち到着する」という説明は正確ではありません。各段階が有限小数である限り、その値は有理数のままです。極限は最後の項ではなく、すべての十分先の項との距離をどれだけ小さくできるかによって定義されます。無限列には、通常「最後の項」はありません。

有理数全体をQ、実数全体をRと書きます。有理数だけでも、異なる2数p<qの間に(p+q)/2があり、さらにその間にも有理数があります。この性質を稠密であるといいます。目盛りをいくら細かくしても数が見つかるので、有理数だけで線が埋まったように感じますが、稠密性は完備性ではありません。間に別の数を入れられることは、近似を無限に重ねた先の存在を保証しないからです。

この区別は小数表示を考えるときにも役立ちます。有限小数が有理数になるのは、例えば1.414=1414/1000と整数の比にできるからです。しかし無限小数全体を「書き続けたもの」とだけ説明しても、一つの数として何を意味するかは残ります。大学数学では、この残った部分に定義を与えます。高校で身につけた式の変形を捨てるのではなく、その式を支える数の土台までさかのぼるのです。

境界を作る切断と到着先を作る数列

最初に上限を定義します。空でない集合A⊂Rに対し、すべてのa∈Aについてa≦uとなる実数uをAの上界といいます。上界が一つでもあれば、Aは上に有界です。その上界の中で最小のものが上限で、s=sup Aと書きます。条件を式でまとめると、次の2つです。

∀a∈A, a≦s

∀u∈R, (∀a∈A, a≦u) ⇒ s≦u

例えばA={x∈R : 0<x<1}ならsup A=1です。1はAの要素ではないので、Aに最大値はありません。最大値は集合の中の数ですが、上限は外にあっても構いません。1より小さい候補uが上界になれない理由も確認できます。u≦0なら1/2∈Aがuより大きく、0<u<1なら(u+1)/2∈Aがuより大きいからです。

実数の上限性は、「空でない、上に有界なRの部分集合は、Rの中に上限を持つ」という性質です。空でないことと上に有界なことは省けません。例えばR全体に実数の上界はなく、この性質はそこに上限を与えるものではありません。上限性は実数の完備性を述べる代表的な形です。

では、有理数しか持っていないところから、この実数をどう作るのでしょうか。デデキント切断(Dedekind cut)は、有理数の集合を境界の左側と右側に分ける考え方です。ここでは左側の集合Lだけで切断を表し、次の条件を課します。

∅≠L⊊Q

q∈L, p∈Q, p<q ⇒ p∈L

∀q∈L, ∃r∈L, q<r

最初は空集合でもQ全体でもないという条件です。次は、ある有理数を含めたらそれより小さい有理数をすべて含める条件です。最後はLに最大元がないという条件です。この取り決めにより、有理数aに対応する切断はL={q∈Q : q<a}となります。境界が有理数である場合にも、その境界自体は左側へ入れません。

√2に対応する切断は、まだ√2という実数を使わずに書けます。

L={q∈Q : q<0 または q²<2}

負の有理数をすべて含めることが重要です。q²<2だけでは、例えば-2を含まず、左に向かって閉じているという条件に反します。上のLは0を含み2を含まないので、空でも全体でもありません。正の数の平方が大小を保つことから、左に向かう条件も確かめられます。

最大元がないことも式で示せます。q∈Lが負なら、qより大きい0がLにあります。0≦qでq²<2なら、正の有理数dを次のように選びます。

d=min{1/2, (2-q²)/(2(2q+1))}

d≦1なので、(q+d)²=q²+2qd+d²≦q²+(2q+1)d≦q²+(2-q²)/2<2です。したがってq+dもLにあり、qより大きくなります。こうして、√2という名前を使う前に、一つの切断が定義できました。この切断そのものを新しい数として扱います。

切断どうしの大小は包含関係で決めます。LがKに含まれるなら、Lの表す数はKの表す数以下です。空でなく上に有界な切断の集まりに対して、その左側集合を全部合わせた和集合を取ると、それが上限になります。上界となる切断に含まれるためQ全体にはならず、要素を含む各切断に最大元がないため、和集合にも最大元はありません。これが、切断の構成で上限性が生まれる核心です。さらに加法や乗法を定義して体の規則を確かめると、順序と四則演算を備えた実数の体系が得られます。

もう一つの道はコーシー列(Cauchy sequence)です。QまたはRに値を取る数列xₙがコーシー列であるとは、どんな正の誤差εに対しても、十分先の任意の2項の距離がεより小さくなることです。

∀ε>0, ∃N∈N, ∀m,n≧N, |xₘ-xₙ|<ε

Qから構成を始める段階では、εも正の有理数に限定して定義できます。この条件に、到着先の数は登場しません。それに対してxₙがxに収束するという定義は、∀ε>0に対してあるNが存在し、n≧Nなら|xₙ-x|<εとなることです。収束は到着先との距離を測り、コーシー性は項どうしの距離を測ります。

有理数のコーシー列をすべて集め、差が0に収束する2列を同じ数の表現とみなします。記号では、(xₙ)∼(yₙ)をxₙ-yₙ→0によって定義します。例えばxₙ=1、yₙ=1+1/nは別の列ですが、同じ実数を表します。「同じとみなす」関係でまとめた一つのまとまりを同値類といい、これを実数とします。有理数rは定数列r,r,r,…の同値類として、この体系に入ります。

加法は項ごとの和、乗法は項ごとの積で定めます。積がコーシー列になる証明では、コーシー列は有界であるという事実を使います。|xₘyₘ-xₙyₙ|≦|xₘ||yₘ-yₙ|+|yₙ||xₘ-xₙ|と評価すれば、有界な係数と小さくなる差に分けられるからです。代表に選ぶ列を替えても同じ同値類になることまで確かめて、演算が定義できたといえます。無限小数の表し方の違いを数そのものの違いと混同しない、という注意もここに含まれています。

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上限から区間縮小と収束部分列を導く

実数では、上限性から「上に有界な単調増加数列は実数に収束する」という単調収束定理が従います。単調増加とは、すべてのnについてxₙ≦xₙ₊₁であることです。項の集合の上限をsと置きます。ε>0に対してs-εは上界になれませんから、あるNで第N項がs-εより大きくなります。するとn≧Nでは、単調性によって次が成り立ちます。

s-ε<xₙ≦s (n≧N)

したがって|xₙ-s|<εです。証明の要は「上限より少し小さい数は、もう上界ではない」という一歩にあります。上限を、単にいちばん上にありそうな場所として眺めるだけでは、この一歩を取り出せません。

次に区間縮小法です。空でない実数の閉区間Iₙ=[aₙ,bₙ]がIₙ₊₁⊂Iₙを満たし、長さbₙ-aₙが0へ収束するなら、すべての区間に共通する点はただ一つあります。閉区間であること、入れ子になっていること、長さが0へ縮むことを全部確認してから使います。

証明ではaₙの集合の上限sを取ります。左端は単調に増加し、どのbₙもすべての左端の上界となるので、aₙ≦s≦bₙです。よってsはどの区間にも入ります。別の共通点tがあれば|s-t|≦bₙ-aₙがすべてのnで成り立ち、右辺が0へ行くためs=tです。閉区間を開区間(0,1/n)へ替えると、どれも空ではなくても共通部分は空になります。また[0,1]を繰り返せば共通点は無数にあり、長さが縮む条件が一意性に効いているとわかります。

実際に√2を探しましょう。最初をI₀=[1,2]とし、中点cの平方を計算します。c²<2なら左端をcへ、c²>2なら右端をcへ動かします。中点は有理数なので、その平方が2と等しくなることはありません。途中の計算は次のようになります。

c=3/2, c²=9/4>2, I₁=[1,3/2]

c=5/4, c²=25/16<2, I₂=[5/4,3/2]

c=11/8, c²=121/64<2, I₃=[11/8,3/2]

c=23/16, c²=529/256>2, I₄=[11/8,23/16]

n回後の区間の長さは1/2ⁿです。区間縮小法によって共通点sがあり、その点の平方が2になることは次の評価でも確かめられます。各区間ではaₙ²<2<bₙ²であり、1≦aₙ≦s≦bₙ≦2です。したがってs²と2はともに[aₙ²,bₙ²]へ入り、|s²-2|≦bₙ²-aₙ²=(bₙ-aₙ)(bₙ+aₙ)≦4/2ⁿとなります。右辺は0へ行くためs²=2です。ここでは小数を見て√2らしいと判断するのでなく、平方が2になることまで保証しています。

二分法の左端の列はQのコーシー列にもなります。m≧nならaₘもIₙにあるので、|aₘ-aₙ|≦1/2ⁿだからです。しかしQの中にはその極限がありません。もし有理数rに収束すれば、同じ平方差の評価からr²=2となり、先ほどの偶奇の証明に反します。これが「コーシー列なのに、その集合の中では収束しない」の具体像です。

もう一つの重要な定理がボルツァノ=ワイエルシュトラスの定理です。実数の有界数列は、実数に収束する部分列を持ちます。部分列とは、自然数の添字をn₁<n₂<…と増やして選んだxₙ₁,xₙ₂,…です。順番を勝手に入れ替えたり、同じ項を何度も選んだりはしません。

証明の仕組みも二分法です。全項を含む閉区間を半分にすると、少なくとも片方には無限個の添字に対応する項が入ります。その半分を残して、同じことを続けます。長さが0へ縮む閉区間の列が得られ、その共通点をsとします。各段階で、前回より大きい添字の項をその区間から選べば、選んだ項とsの距離は区間の長さ以下です。よってその部分列はsへ収束します。

元の列全体が収束するとは限りません。xₙ=(-1)ⁿ+1/nでは、偶数番目の部分列は1へ、奇数番目の部分列は-1へ収束し、列全体は収束しません。有界であることは到着先を一つに決めませんが、少なくとも収束する道筋を選べるだけの力を持っています。

上限性、単調収束定理、区間縮小法、ボルツァノ=ワイエルシュトラスの定理、すべてのコーシー列が収束するという性質は、実数の完備性の同値な表現です。正確には、順序と四則演算が両立するアルキメデス的な順序体の中で、これらを同値な条件として整理できます。アルキメデス性とは、どんな数xに対してもxより大きい自然数nが存在する性質です。無限に大きい数を含む別の順序体へ、前提を確認せずこの同値関係を移してはいけません。

コーシー列の収束を導く道も確認しましょう。コーシー列では、あるN以降の項が第N項から距離1未満に入るので、その部分は有界です。それ以前には有限個の項しかなく、全体も有界です。ボルツァノ=ワイエルシュトラスの定理で収束部分列を取り、その極限をsとします。十分先の項xₙと、十分先に選んだ部分列の項xₙₖについて、|xₙ-s|≦|xₙ-xₙₖ|+|xₙₖ-s|と分けます。コーシー性で最初をε/2未満、部分列の収束で次をε/2未満にできるため、元の列全体もsへ収束します。

無理数を受け入れることと実数を構成すること

平方根の存在を認めるだけで、実数の基礎づけがすべて済むわけではありません。新しい数を一つ加えるたびに計算の規則を確かめる方法では、どこまで進めれば十分なのかが残ります。実数の構成は、特定の方程式の解を追加する作業から、必要な極限を一括して扱える体系を作る作業への転換として捉えられます。

無理数と完備性がどのように説明されてきたかは、数学教育の歴史の研究対象にもなっています。英語の数学書における1890〜1915年の無理数の扱いを、実数の完備性の構成と公準という観点から扱った歴史研究があります(Burn, 1992)。ここで着目したいのは「構成」と「公準」の違いです。切断や数列から実数を作る立場では、完備性を満たす対象を具体的に定義します。一方、完備な順序体として実数の性質を最初に置き、その性質から解析学を展開する立場もあります。

この二つは、問題のある説明と正しい説明という対立ではありません。何を出発点にするかが違います。ただし、計算を進める段階では公準として使っていた性質も、土台を問う段階では構成によって支えられるとわかると、数学の見通しがよくなります。ここまで説明した切断の和集合による上限の構成は、その橋渡しを短い形で示しています。

デデキント切断の導入と定式化を歴史的・認識論的な側面から検討し、ブラジルの数学教員養成との関係を論じた研究もあります(Alves・Dias, 2018)。完成した定義を読むだけでなく、なぜ境界を集合として表す必要があったのかを考える道があります。例えば「左側に最大元を認めない」という条件を外せば、有理数aに対してq<aの集合とq≦aの集合が別々に現れます。条件の細部は、同じ境界を重複して表さないための選択でもあるのです。

数直線の図と公理の関係へ視野を広げると、幾何学の公理系を扱った研究があります(Veblen, 1904)。そこでは公理とその独立性が扱われています。この研究への言及と、ここでの実数の定理の証明とは分けて考えます。そのうえで、線を描くことと線に必要な性質を列挙することの違いは、実数を学ぶ読者にも役立つ視点です。定規で引いた線の太さや紙の状態は、上限性の証明には使えません。

切断とコーシー列も、まったく別の数を作る方法ではありません。切断は順序の境界を見て、コーシー列は近似どうしの距離を見ています。どちらの構成でも得られる体系は、順序と四則演算を保ち有理数を固定する対応によって同一視できます。具体的には、切断の境界を有理数の区間で挟んでコーシー列を作ることができ、逆にコーシー列から、それが表す境界より小さい有理数の集まりを取り出せます。同じ土台を異なる観点から作れることが、後の数学でどちらの道具も使える理由です。

近似計算の保証と時間のモデルを支える実数

実数の完備性が具体的に働く場面として、まず数値計算を考えます。方程式の解を小数で出力するとき、表示された値は有限桁です。しかし知りたいのは、その値が何桁並んでいるかだけではなく、真の解とどれだけ離れ得るかです。二分法は、この問いに区間の長さで答えます。

√2の計算では、20回二分した区間の長さは1/1048576で、約0.00000095367431640625です。その区間の中点を近似値として使うと、共通点との距離は区間長の半分以下、すなわち1/2097152以下です。これは、たまたま計算機に表示された小数が正しそうだから信じる、という判断ではありません。解を含む区間を保ったことと、長さを毎回半分にしたことから出る保証です。

ここでは計算の実装にも区別が必要です。中点や平方の比較を厳密な分数で行えば、上記の区間包含をそのまま保てます。有限桁の浮動小数点数で実装する場合は、丸めによって比較や区間の端が変わる可能性があります。数学上の完備性は、計算機の丸め誤差を自動的に消す性質ではありません。理論上の解の存在、反復法の誤差、機械での計算誤差を分けると、どの保証が足りないかを判断しやすくなります。

また、コーシー性だけでは「何回で必要な精度に達するか」は直ちには読めません。定義はεごとにNの存在を述べますが、そのNを求める具体的な手順まで一緒に与えているとは限らないからです。二分法では1/2ⁿという明示的な幅があり、希望する精度と反復回数を結びつけられます。実数論が到着先を保証し、計算法がそこへ近づく速さを評価する、という役割の違いがあります。

別の接点は、情報分野で連続的な時間を扱うときです。実時間論理の公理を研究対象とする論文があります(Schobbens・Raskin・Henzinger, 2002)。ここでは、その論文の個別の定理を用いるのでなく、時間を数学的な対象として記述する研究領域との接点に注目します。時間を実数でモデル化すれば、観測時刻の列の極限や、ある条件を満たす時刻の境界を言葉と式で扱えます。

例えば0<t<1で装置が作動するという条件を置くと、作動時刻の集合の上限は1ですが、時刻1で作動するとは限りません。これは最大値と上限の違いそのものです。時間のモデルでは、「境界へ近づける」と「境界を含む」を取り違えると、条件の読み方が変わります。完備性は境界の候補が実数として存在することを支えますが、境界での作動まで決めるのは集合の定義です。

物理的な時計は有限の分解能を持ちます。それでも実数を使うのは、測定値が無限桁まで手に入るという意味ではありません。連続的なモデルを立てることと、観測を有限精度で行うことは別の段階です。数直線の基礎を学ぶと、モデルの性質を現物の測定能力と混同せずに済みます。ここにも、√2の近似値と√2そのものを区別した最初の問いが生きています。

定義の条件を動かして証明を読めるようにする

実数を学ぶ際につまずきやすいのは、計算が難しくなることだけではありません。「無理数は小数が長く続く数」「極限は最後に着く場所」という言い方のまま、集合や量化の定義を読もうとするとずれが生じます。高校生と工学・経済分野へ進む技術系の学生を対象に、実数の理解を質問紙と面接で調べた研究は、通約不能な量の幾何学的構成に関わる課題の困難と、他の問いへの回答を分けて報告しています(Voskoglou・Kosyvas, 2012)。対象と課題が限られた研究であり、日本の高校生全般や特定の指導法の効果をそのまま示すものではありませんが、計算の答えが合うことと、数の構成を説明することを別々に確かめる視点は持てます。

学習では、まず定義を一つ選び、その条件を一つずつ外してみます。区間縮小法なら、閉区間を開区間にしたらどうなるか、長さを縮めなかったら何が失われるかを考えます。反例を作ると、仮定は飾りではなく結論のどの部分を守るものかが見えてきます。ノートには定理の文章だけでなく、外した条件と反例を隣に書いておきます。

次に、同じ例を複数の定義で読み直します。√2を挟む二分法の区間について、左端は単調増加しているか、上に有界か、コーシー列かをそれぞれ説明します。「どれも近づいているから」でまとめず、単調性には順序、上への有界性には固定した上界、コーシー性には2項の距離の評価を書くのが手順です。一つの計算から複数の概念へ橋を架けられます。

さらに、証明の中で完備性を使った一行に印を付けます。単調収束定理なら「項の集合の上限を取る」、区間縮小法なら「左端の上限を取る」がその場所です。その一行をQの中で実行しようとしたとき、何が失敗するかを説明してください。実数と有理数の違いは、記号RをQへ置き換えても同じ計算ができるか、という問いから具体的になります。

最後に、量化の順序を声に出して読みます。コーシー列の定義は「どんな正のεを先に渡されても、それに応じたNを選べる」です。一つのNがすべてのεに通用する必要はありません。また、隣り合う項の差が小さくなるだけでは十分ではなく、N以降の任意の2項を比べます。この「任意の2項」という部分を抜かさないことが、定義を使う最初の練習になります。

高校生のうちには、平方根の大小を平方して比べる計算、数列の不等式、背理法を丁寧に書く練習ができます。特にp²が偶数ならpも偶数という箇所を、奇数の平方は奇数だから、と一段戻って説明してみてください。すでに知っている計算でも、根拠を一行補う習慣が大学の証明へつながります。先の用語をたくさん覚えることより、式の各段階で使った条件を特定する練習が役立ちます。

塾では、どの定義のどの条件で止まっているかを一緒に確かめ、言葉、数式、小さな例を行き来する時間を持ちます。家庭では、お子さまがすぐに結論を言えるかだけでなく、「上限と最大値はどう違うの」と説明を聞ける余白を持っていただけます。保護者が定理を先に理解して教え直す必要はありません。説明の途中で迷う箇所は、次に確かめる問いが見えた箇所でもあります。

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数直線の穴について残りやすい三つの問い

有理数がどこにでもあるなら、穴とは何ですか

有理数のない小さな開区間がある、という意味ではありません。QはRの中で稠密なので、どんな2実数の間にも有理数があります。それでも、Qのコーシー列の到着先がQに入っていないことがあります。「穴」はこの不足を表す比喩です。区間が空いている図を想像するより、有理数だけで作った近似列が有理数の範囲では収束しない、と読み替えると正確になります。

デデキント切断とコーシー列は両方覚える必要がありますか

最初から両方の構成の細部をすべて再現する必要はありません。ただし、切断が有理数の集合で境界を表し、コーシー列の構成が近似列を同値類にまとめる、という違いは押さえておきます。一方は上限の存在を見通しやすく、他方は距離による近似を見通しやすい方法です。学習中の証明が順序と距離のどちらを使っているかを見分ける助けになります。

完備な集合なら、どんな数列でも収束しますか

いいえ。実数の完備性が保証するのは、実数のコーシー列の収束です。xₙ=nは上に有界でなく、収束しません。有界な数列でも、先に見たように異なる極限を持つ部分列があれば全体は収束しません。「実数に値を取る」というだけでなく、使う定理に応じてコーシー性、単調性、有界性などの仮定を確認します。

地下書庫でノートに引いた数直線へ戻ると、一本の線の見え方は少し変わります。√2の場所へ印を付ける背後には、左側の有理数を集めて境界を表す方法があり、狭まる区間から到着先を保証する方法もあります。実数の完備性を学ぶことは、計算を止めて形式だけを眺めることではありません。近似が指し示す先を、使ってよい数として確保することです。次に極限を取るときには、その到着先を保証した一行までたどれます。

あわせて読む(数学の地図・高校数学の単元解説)

参考文献

  1. RP Burn(1992)「Irrational numbers in English language textbooks, 1890-1915: constructions and postulates for the completeness of the real numbers」Historia mathematica. https://doi.org/10.1016/0315-0860(92)90074-l
  2. FRV Alves, MA Dias(2018)「An Historical Investigation about the Dedekind’s Cuts: Some Implications for the Teaching of Mathematics in Brazil.」Acta Didactica Napocensia. https://doi.org/10.24193/adn.11.3-4.2
  3. Oswald Veblen(1904)「A system of axioms for geometry」Transactions of the American Mathematical Society. https://doi.org/10.1090/s0002-9947-1904-1500678-x
  4. Pierre-Yves Schobbens, Jean-François Raskin, Thomas A. Henzinger(2002)「Axioms for real-time logics」Theoretical Computer Science. https://doi.org/10.1016/s0304-3975(00)00308-x
  5. Michael Gr. Voskoglou, Georgios D. Kosyvas(2012)「Analyzing students’ difficulties in understanding real numbers」Journal of Research in Mathematics Education. https://doi.org/10.4471/redimat.2012.16

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