
武蔵野個別指導塾の特徴
多様体 局所的には平らな空間を貼り合わせる|武蔵野個別指導塾
円や球面の座標を実際に作り、座標変換と接空間を計算します。高校の微分・ベクトルから、多様体の定義、ロボットの姿勢、ポアンカレ予想へ進む道筋をたどれます。

多様体 局所的には平らな空間を貼り合わせる
掲示板の地図をつなぐと、空間の見方が変わります
塾の受付の掲示板の前で、近隣の案内図と広い範囲の地図を見比べる場面を思い浮かべてください。案内図ではすぐ隣に描かれた交差点が、もう一方の地図では離れた位置にあります。紙の大きさも縮尺も違いますが、同じ交差点を表していることは変わりません。小さな受付なら、地図を広げる机が足りず、講師が紙の端を押さえながら、重なっている道を指でたどることもあるでしょう。地図ごとの位置の表し方と、実際の場所そのものは別だと気づける場面です。
地球全体を扱うには、こうした地図を何枚も用意する必要があります。球面のすべてを、重なりも切れ目もなく平面の開いた領域に移すことはできません。それでも、ある場所の近くに限れば、平面上の座標で位置を表せます。この「近くなら座標を使える」という性質を、曲面だけでなく、もっと多くの自由度を持つ空間にも広げたものが多様体(manifold)です。
題名の「局所的には平ら」は、曲率がゼロという意味ではありません。球面の小片は曲がっていますが、その上の点に2個の実数で住所を付けられます。多様体の出発点は、この住所の付け方です。さらに微分を行うには、隣り合う地図の住所を変換する式が滑らかであることを求めます。
大学で多様体を学ぶ理由は、図形を珍しい言葉で呼び直すためではありません。球面に沿う速度や、ロボットが取りうる姿勢のように、最初から自由な直線座標では扱えないものについても、微分と線形代数を使えるようにするためです。まず円で座標が破れる場所を確かめ、そこから必要な定義を組み立てていきましょう。

円の接線から「使える座標の範囲」へ
高校の数学IIの図形と方程式、数学IIIの微分、数学Cのベクトルは、多様体への具体的な入口になります。半径1の円を考えます。
x² + y² = 1
上半分では、yをxの関数として表せます。
y = √(1 – x²), -1 < x < 1
この範囲では、円周上の点をxという1個の数で区別できます。微分すると、接線の傾きが得られます。
dy/dx = -x/√(1 – x²)
点 (3/5, 4/5) での傾きは -3/4 です。したがって接線の式は次のようになります。
y – 4/5 = (-3/4) × (x – 3/5)
整理すると 3x + 4y = 5 です。半径の方向 (3/5, 4/5) と接線の方向 (4, -3) の内積は0なので、ベクトルの計算とも一致します。式の微分と図形の直交が、同じ接線を与えています。
ところが、xが1に近づくとこの微分係数の絶対値は大きくなり、点 (1, 0) では上の式をそのまま使えません。円周に角があるのでしょうか。そうではありません。右半分を今度はyで表せば、
x = √(1 – y²), -1 < y < 1
となり、y = 0 では dx/dy = 0 です。対応する曲線 y ↦ (√(1 – y²), y) の速度は (0, 1) で、接線はきちんと存在します。問題は円の形ではなく、xを住所として選んだことにありました。同じxに対して上下の点が現れる場所では、xだけでは円周の点を区別しきれないのです。
三角関数を使うと、円周は (cos t, sin t) と書けます。ここでも t と t + 2π は同じ点なので、実数全体と円周全体が一対一に対応しているわけではありません。例えば -π < t < π に制限すれば、点 (-1, 0) を除く円周に座標を入れられます。除いた点の近くは別の角度の範囲で補います。
高校では、求めたい接線が計算できれば先へ進めることが多いでしょう。大学では「この変数はどの範囲で点を一意に表すか」「別の変数に替えても微分の意味は一致するか」を確かめます。計算する前に定義域を記す作業が増えるのは、このためです。
また、円周は平面内に描かれていても1次元です。平面内の表示にはxとyが必要ですが、円周上では両者が方程式で結び付いており、局所的に自由に選べる数は1個です。同様に、球面は3次元空間に置かれていても、その表面上の住所には局所的に2個の数があれば足ります。外から描くための次元と、図形そのものの次元を区別することが、多様体の理解の第一歩です。
座標近傍を重ね、滑らかさを定義します
ここでは境界のない多様体を扱います。集合に「どの部分集合が開いているか」という構造を与えたものが位相空間です。開集合は、各点の近くを少し動く余地のある領域を表す道具になります。円周上の開いた弧は円周の中では開集合ですが、平面全体の中では開集合ではありません。どの空間の中で開いているかを意識してください。
n次元位相多様体とは、ハウスドルフ性と第二可算性を持ち、各点の近くが実数座標の空間 ℝⁿ の開集合と同相になる位相空間Mです。ハウスドルフ性は異なる2点を交わらない開近傍で分けられること、第二可算性は開集合を作るための基底として可算個の開集合を選べることです。基底とは、任意の開集合をその要素の合併として表せるような開集合の集まりを指します。この2条件によって、局所的な座標だけでは排除しきれない扱いにくい空間を除きます。
局所的な条件を記号で書くと、任意の p ∈ M に対して、pを含む開集合U、ℝⁿ の開集合V、同相写像 φ が存在して、
φ: U → V
となることです。同相写像は、連続な全単射で、その逆写像も連続なものです。この組 (U, φ) を座標近傍、φを座標写像と呼びます。点pは空間上の点そのもので、φ(p)はある地図で読んだ数の組です。両者を同じものと思い込まないようにしましょう。
次に滑らかな多様体を定義します。M全体を覆う座標近傍の集まりを座標近傍系といいます。2枚の座標近傍 (U, φ)、(W, ψ) が重なるところでは、同じ点の住所を変える写像が定まります。
ψ ∘ φ⁻¹: φ(U ∩ W) → ψ(U ∩ W)
これが座標変換です。すべての重なりで、この写像が無限回連続微分可能、すなわち C∞ 級であることを求めます。両方向の組を考えるので、逆の座標変換も C∞ 級です。そのような座標近傍系を持つMが滑らかな多様体です。厳密には、互いに滑らかに座標変換できる座標近傍をすべて加えた極大座標近傍系を、滑らかな構造として指定します。「可微分多様体」は有限回の微分可能性を含む文脈でも使いますが、ここでは C∞ 級を採用します。
座標近傍系を大きくするとき、既存のすべての座標近傍と滑らかに変換できる地図を加えるだけなら、滑らかな構造は変わりません。住所録のページを増やしたことと、空間の微分の仕組みを変えたことは別です。一方、単に同じ集合に座標らしい数を付けただけでは、同じ滑らかな構造だとはいえません。重なりでの条件が必要です。
球面を使って、定義の実体を見てみます。単位球面は次の集合です。
S² = {(x, y, z) ∈ ℝ³ : x² + y² + z² = 1}
北極 N = (0, 0, 1) を除いた部分Uに、立体射影という座標を入れます。
φ(x, y, z) = (x/(1 – z), y/(1 – z))
像は ℝ² 全体です。座標を (u, v)、r² = u² + v² と書くと、逆写像は具体的に求まります。
φ⁻¹(u, v) = (2u/(1 + r²), 2v/(1 + r²), (r² – 1)/(1 + r²))
分母は常に正ですから、平面のどの点でも式が使えます。この式が本当に球面上の点を与える理由は、各成分の2乗の和の分子が次のようになるからです。
4r² + (r² – 1)² = (r² + 1)²
したがって2乗の和は1です。例えば (u, v) = (1, 0) は球面上の (1, 0, 0) に戻ります。しかし北極には有限の (u, v) が対応しません。そこで南極 S = (0, 0, -1) を除いた部分には、別の座標 ψ(x, y, z) = (x/(1 + z), y/(1 + z)) を用意します。この2枚で球面全体を覆えます。
両方の座標を使える重なりで、変換は次の式になります。
(ψ ∘ φ⁻¹)(u, v) = (u/(u² + v²), v/(u² + v²))
定義域は (u, v) ≠ (0, 0) です。原点は北極からの射影では南極に対応し、南極からの射影の定義域には入らないためです。分母が0にならない領域ではこの変換は滑らかで、同じ式をもう一度適用すると元に戻ります。「貼り合わせる」という言葉の具体的な中身は、このように重なりの住所を矛盾なく変換できることです。

接空間は、曲がった場所で使う線形代数です
多様体上の速度を定義しましょう。滑らかな曲線 γ: (-ε, ε) → M が γ(0) = p を満たすとします。ただし ε > 0 です。曲線が滑らかであるとは、各点の近くで座標表示が滑らかなことをいいます。pを含む座標近傍 (U, φ) で曲線を数の組に直せば、通常の微分が使えます。
vφ = (d/dt)(φ ∘ γ)(0)
pを通る2本の曲線を、こうして計算した速度が同じとき同値とします。その同値類をpでの接ベクトルと呼び、それら全体を接空間 TₚM といいます。接空間には座標での速度の足し算と実数倍を通じてベクトル空間の構造が入り、n次元多様体では dim TₚM = n となります。
この定義が座標に依存しないための要は連鎖律です。別の座標ψで速度を計算すると、
vψ = D(ψ ∘ φ⁻¹)(φ(p)) vφ
となります。Dは座標変換のヤコビ行列です。同じ行列を掛けるので、ある座標で速度が一致した2本の曲線は、別の座標でも一致します。さらに座標変換は滑らかな逆写像を持つため、そのヤコビ行列は可逆です。座標に応じて成分は変わりますが、接ベクトルとして表している運動は変わりません。この連鎖律の1行が、定義の整合性を支えています。
先ほどの球面の座標変換を、平面上の (u, v) = (1, 0) で微分すると、ヤコビ行列は対角成分が -1 と1、非対角成分が0の行列になります。したがって、一方の座標で成分 (a, b) を持つ速度は、もう一方では (-a, b) です。異なる成分が出たからといって、異なる接ベクトルとは限りません。比較には必ず座標変換を挟みます。
ここで、方程式から多様体を作る際の代表的な定理を述べます。F: ℝᵐ → ℝᵏ を C∞ 級写像、m ≧ k、c ∈ ℝᵏ とします。F(q) = c を満たすすべてのqで、微分 DF(q) の階数がkであるなら、空でない集合 F⁻¹(c) は次元 m – k の滑らかな部分多様体です。これを正則値定理といいます。さらに、その接空間は次で与えられます。
Tₚ(F⁻¹(c)) = ker DF(p)
kerは線形写像で0に送られるベクトル全体、すなわち核です。階数条件が意味するのは、k本の方程式がその点の近くで独立に働いているということです。陰関数定理により、変数のうちk個を残りの変数の滑らかな関数として解けることが、証明の要になります。これにより、残る m – k 個の変数が局所座標を与えます。
球面では F(x, y, z) = x² + y² + z²、c = 1 とおけます。微分は DF(p)w = 2p・w です。球面上ではpが零ベクトルでないので階数は1で、球面は 3 – 1 = 2 次元になります。接空間は次の平面です。
TₚS² = {w ∈ ℝ³ : p・w = 0}
例えば p = (0, 0, 1) なら、w = (a, b, 0) です。接空間をベクトルの集合として原点を通る平面で表したこの式と、球面に実際に接している平面 z = 1 を区別してください。後者はpに接ベクトルを足した集合 p + TₚS² です。
接ベクトルがpと直交する理由は、球面上の曲線について γ(t)・γ(t) = 1 を微分すると、2γ(0)・γ′(0) = 0 となるためです。逆に、pと直交する任意のwは接ベクトルになります。w ≠ 0 なら、次の球面上の曲線を作れます。
γ(t) = cos(|w|t)p + sin(|w|t)w/|w|
pと w/|w| は直交する単位ベクトルなので、曲線の長さの2乗は cos²(|w|t) + sin²(|w|t) = 1 です。また γ(0) = p、γ′(0) = w です。w = 0 の場合は定数曲線を使えば足ります。必要条件だけで終わらず、実際の曲線を作って十分性まで確かめられました。
もう1つの重要な例がトーラスです。円周どうしの積 S¹ × S¹ として定義でき、2個の角度で点を表します。ℝ³ の中の形としては、次の表示が使えます。
X(θ, φ) = ((2 + cos φ)cos θ, (2 + cos φ)sin θ, sin φ)
θ方向に1周すると中心の穴の周りを回り、φ方向に1周すると管の周りを回ります。角度にはそれぞれ 2π の周期があるので、この表示を実数平面全体からの単一の座標近傍と考えてはいけません。各角度を短い開区間に制限して、局所的な座標として使います。
θとφによる偏微分は次のとおりです。
Xθ = (-(2 + cos φ)sin θ, (2 + cos φ)cos θ, 0)
Xφ = (-sin φ cos θ, -sin φ sin θ, cos φ)
両者の内積は0、長さはそれぞれ 2 + cos φ と1です。2 + cos φ ≧ 1 なので、どの点でも2本は独立です。これにより局所的に2方向へ動けることを確かめられます。θ = 0、φ = 0 では点は (3, 0, 0)、2本の接ベクトルは (0, 3, 0)、(0, 0, 1) です。
階数条件が消えると何が起きるかも見ておきます。F(x, y) = xy の零点集合は、x軸とy軸が交わる十字形です。原点では DF = (0, 0) となり、定理の仮定を満たしません。実際、原点の小さな近傍から原点を除くと4本の枝に分かれ、開区間から1点を除いた場合の2つの部分とは違います。この集合は原点で1次元多様体になりません。ただし「階数条件が失敗すれば必ず多様体でない」とまで一般化することはできません。定理の仮定を満たすことと、その仮定が必要であることは別です。
曲面の分類から、3次元空間の形を問う研究へ
円や球面を局所座標で記述できるようになると、次の問いは空間全体の形に向かいます。球面もトーラスも、各点の近くでは2次元の平面の開集合と同相です。それでも両者は同じ空間ではありません。局所的に同じ次元を持つことだけでは、全体のつながり方は決まらないのです。
この違いを調べる道具の1つが閉じた道です。球面上の閉じた道は、球面から離れずに連続的に変形して1点へ縮められます。一方、トーラスで中心の穴を巡る道は、トーラスの上だけを動かす限り1点へ縮められません。単連結とは、空間が道でつながっており、その中のすべての閉じた道を1点へ縮められることです。輪が実物のひものように切れたり、空間の外を通ったりすることは許しません。
ポアンカレ予想は、3次元における大域的な形を特徴付ける問題でした。現在は定理として、連結で閉じた単連結な3次元位相多様体は、3次元球面 S³ と同相であると述べられます。ここで「閉じた多様体」とはコンパクトで境界がないことです。コンパクトとは任意の開被覆から有限個を選んでなお全体を覆えることをいい、単に周囲の空間の中で閉集合という意味ではありません。
S³ は、4次元ユークリッド空間内の次の集合として定義できます。
S³ = {(a, b, c, d) ∈ ℝ⁴ : a² + b² + c² + d² = 1}
球の内部を含む3次元の立体とは違います。S² が3次元空間内の球の表面であるのと同様に、S³ は4次元空間内の球の境界です。図として完全に描けなくても、方程式と局所座標によって扱えます。見えないから定義できないのではなく、見えない対象を正確に扱うために定義があります。
3次元多様体の分類と幾何構造を結ぶ研究の流れを概観したのが、Morganの論文です。そこでは、ポアンカレ予想が幾何化予想の特別な場合に当たること、リッチフローとその幾何化への応用、さらにペレルマンの仕事が扱われています(Morgan, 2005)。空間のつながり方の問題に対して、長さや曲率を入れ、その幾何を変化させて調べる道筋が現れます。
KleinerとLottの論文は、ハミルトンのリッチフローの方法を用いたペレルマンの仕事について、元の論文で詳述されていない部分を補うことを目的としています(Kleiner・Lott, 2008)。大きな結果を理解するには、結論の一文だけでなく、その間を支える議論を読み解く必要があります。多様体という定義は、このように局所の微分計算と空間全体の分類を往復する研究の共通言語になっています。
長さを加えると、時空やロボットの姿勢も扱えます
多様体の構造だけでは、長さや角度はまだ決まっていません。同じ局所座標を持つ空間にも、異なる測り方を入れられます。各接空間に、点に応じて滑らかに変化する正定値内積 gₚ を与えると、リーマン多様体になります。正定値とは、零でない接ベクトルvについて gₚ(v, v) > 0 となることです。接ベクトルの長さは √gₚ(v, v) と定まります。
先ほどのトーラスに、ℝ³ の通常の内積から長さを入れましょう。角速度が θ′、φ′ の運動では、速度は θ′Xθ + φ′Xφ なので、その長さの2乗は次になります。
|dX/dt|² = (2 + cos φ)²(θ′)² + (φ′)²
交差項が消えるのは Xθ・Xφ = 0 のためです。管の外側 φ = 0 ではθ方向の係数は9、内側 φ = π では1です。同じ角度だけ進んでも、外側では長い距離を進みます。座標の数の差と実際の距離を区別する必要が、計算ではっきり見えます。
リッチフローは、固定した多様体上のリーマン計量を、曲率に応じて時間変化させる方程式です。記号では ∂g/∂t = -2 Ric(g) と表し、Ric(g)は計量から決まるリッチ曲率テンソルです。点の住所を変える操作ではなく、空間上の長さの測り方を動かします。この方程式の解が特定の3次元多様体上で有限時間に消滅する問題を題名に掲げているのが、ペレルマンの論文です(Perelman, 2008)。有限時間消滅という語を、あらゆる空間が同じように縮んでなくなるという主張に広げてはいけません。幾何の時間変化を使って位相を調べる研究では、対象とする空間の条件が欠かせません。
物理への入口は一般相対性理論です。時空は4次元の滑らかな多様体として記述され、各点の接空間にローレンツ計量を置きます。これは正定値のリーマン計量とは異なり、例えば符号の取り方を (-, +, +, +) とすると、時間方向と空間方向を区別する非退化な対称双線形形式です。平らな時空で、光速を1とする単位を使えば、接ベクトル (τ, a, b, c) に対する値は -τ² + a² + b² + c² です。この値は零でないベクトルでも0になりえます。通常のユークリッド空間の長さとは性質が違います。
座標を替えれば速度の成分や計量の成分は変わりますが、それらを組み合わせた計量の値は一致します。時空の記述が特定の座標の選び方に依存しないようにするため、多様体と接空間の言葉が必要です。これは、球面の地図を替えても同じ運動を表せるという考えを、物理の法則の記述にまで広げたものです。
工学では、ロボットの状態を集めた配置空間が多様体になることがあります。回転角の制限も衝突も考えない、独立した回転関節が2個ある装置なら、各関節の状態は円周 S¹ で表せるので、配置空間は S¹ × S¹、すなわちトーラスです。これは部品の表面がドーナツ形という意味ではありません。「第1関節の角度、第2関節の角度」の組が作る状態の空間の形です。
例えば一方の関節の角度を 2π – 0.1 から 0.1 へ動かすとき、実数の差をそのまま取ると -2π + 0.2 になります。しかし円周上では正方向へ0.2ラジアン動かす経路もあります。どちらを選べるかは機構や制約によりますが、周期性を無視した数値だけでは短い動きを捉え損ねます。角度の端で座標を替えることが、運動の連続性を保つために必要になります。
剛体の3次元での向き全体は、回転行列の集合 SO(3) で表せます。これは RᵀR = I、det R = 1 を満たす実3行3列行列Rの集合です。Iは単位行列、Rᵀは転置行列です。局所的な自由度は3ですが、全体が ℝ³ と同じ形になるわけではありません。姿勢を3個の角度で表す方法に特定の場所で不具合が出ても、それだけで姿勢そのものが壊れたことにはなりません。円周の接線計算と同様、対象の問題と座標の問題を分ける判断が役立ちます。
記号で迷ったら、点・住所・速度を分けて書きます
学び始めに混乱しやすいのは、p、φ(p)、vφをすべて同じ種類のものとして読んでしまうことです。pは多様体の点、φ(p)はその点の座標、vφは接ベクトルの座標成分です。紙に3列を作り、それぞれを別の欄に置くと、どの式が場所を変え、どの式が表示だけを変えているかを追いやすくなります。
学ぶ対象を1つに絞り、その対象から複数の分野を見る授業設計もあります。JordanとKauffmanは、トーラスの多くの性質を調べる20週間の授業を設計し、位相、微分幾何、実解析と複素解析の話題を含めています(Jordan・Kauffman, 1976)。この教育研究が扱うのはトーラスを中心とする授業設計であり、学習者の年齢や成績改善の程度まで一般化して読めるものではありません。ここから採り入れられるのは、同じ対象へ問いを替えて戻る学び方です。トーラスを単に最初の図として使い捨てず、座標、速度、距離、閉じた道を順に調べる対象として持ち続けます。
具体的には、次の4段階でノートを作ってみてください。
- 点の集合と、その上に課した条件を書きます。球面なら x² + y² + z² = 1 を記し、周囲の ℝ³ と球面自身の2次元を区別します。
- 座標写像の向きと定義域を書きます。多様体から数の組へ進む矢印と、その逆の矢印を別に描き、除外した極を明記します。
- 重なりで座標変換を計算します。式を得たら分母が0になる場所を調べ、その場所が重なりに入らない理由を言葉で添えます。
- 曲線を1本通し、両方の座標で速度を求めます。数値が違っても、ヤコビ行列で正しく変換されているかを確かめます。
この手順では、定義を暗記することと計算することが離れません。例えば「座標変換は滑らか」と書いた直後に球面の変換を微分すると、どこで分母の非零性を使ったのかが見えます。「局所」という言葉も、ただ小さいという印象ではなく、具体的に選んだ開集合の範囲として読めるようになります。
高校生のうちには、三角関数の周期、逆関数の定義域、合成関数の微分、ベクトルの内積を丁寧に扱っておくとよいでしょう。特に、円の右端で y = √(1 – x²) が使いにくくなる理由を、自分の言葉で説明してみてください。微分係数が計算できないことと、図形が滑らかでないことを区別する練習になります。大学の初年次に学ぶことの多い線形代数と微積分は、その後の多様体の学習で、接空間や座標変換を理解する土台になります。
塾で担えるのは、抽象的な定義のどの条件に手が止まっているかを、計算に戻って確かめることです。例えば「全単射」が曖昧なら、角度を実数全体で取ったときに同じ円周上の点へ何度も戻ることを確かめます。「階数」が曖昧なら、トーラスの2本の接ベクトルの独立性を調べます。難しい用語を別の難しい用語で置き換えるのでなく、その条件を外したときに何が起きるかまで紙に残します。
家庭では、お子さまが図や式を説明する時間を持てると、学習の進み方を見守りやすくなります。「多様体を全部説明して」より、「この図の点と座標はどれ」「この式はどこで使える」と問いを小さくすると、考えている内容を話しやすくなります。保護者が先に大学数学を理解しておく必要はありません。答えがすぐ出たかどうかに加えて、条件や使える範囲を確かめる姿勢にも目を向けてください。
ここで手が止まるなら、止まった単元まで一緒に戻ります。武蔵境の数学塾(1 対 1)/お問い合わせ
球面を思い浮かべながら答えたい3つの疑問
平らに見えない球面が、なぜ多様体なのですか
多様体の定義が求めるのは、各点の近くにユークリッド空間の開集合と同相な座標近傍があることです。曲がり方が消えることではありません。球面には立体射影の2枚の地図があり、その重なりの変換も滑らかです。長さを保つ地図があるかどうかは別の問題で、多様体であることだけからは結論できません。
多様体は、必ず大きな空間の中に置いて定義するのですか
定義そのものには、周囲の空間は必要ありません。点の集合、位相、滑らかな座標近傍系があれば始められます。球面を ℝ³ 内の方程式で表したのは、具体的な例を作る便利な方法です。接空間についても、外から見た矢印を最初から仮定せず、座標表示した曲線の速度の同値類で定義できます。このため、絵を描きにくい高次元でも議論が続けられます。
ポアンカレ予想は、穴がない形なら全部球だという意味ですか
「穴がない」は、そのままでは数学的な条件として曖昧です。定理が使うのは、連結、閉じている、単連結、3次元という条件です。例えば ℝ³ は単連結ですがコンパクトでなく、S³ と同相ではありません。また、ここでいう球面はS³であって、S²や球の内部ではありません。印象的な短い説明に出会ったら、次元と条件を元の主張へ戻すことが必要です。
受付の掲示板に戻ると、重なり合う地図は、もう単なる案内ではなく見えてきます。場所と住所は違い、住所を替える規則があり、その規則を通して同じ移動を追えます。多様体では、これを厳密な定義にして、速度や距離、空間全体の形へ進みます。
最初の到達点は、高次元の姿を鮮明に想像できることではありません。円で座標を選び直し、球面で重なりを計算し、接ベクトルが同じ運動を表すことを連鎖律で確かめることです。紙の上の1本の矢印と1つの定義域を正確に扱う積み重ねが、見えない空間を論じる力につながります。座標が尽きたところで、考える道まで尽きるわけではありません。
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あわせて読む(数学の地図・高校数学の単元解説)
参考文献
- Morgan, John W.(2005)「Recent progress on the Poincaré conjecture and the classification of 3-manifolds」Bulletin of the American Mathematical Society. New Series. https://doi.org/10.1090/s0273-0979-04-01045-6
- Kleiner, Bruce, Lott, John(2008)「Notes on Perelman’s papers」Geometry & Topology. https://doi.org/10.2140/gt.2008.12.2587
- G. Perelman(2008)「Finite Extinction Time for the Solutions to the Ricci Flow on Certain Three-Manifolds」Topologica. https://doi.org/10.3731/topologica.1.005
- Jordan, S. L., Kauffman, L. H.(1976)「A Central-Example Seminar」International Journal of Mathematical Education in Science and Technology. https://doi.org/10.1080/0020739760070102
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