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線形代数(1)ベクトル空間・基底・次元 「矢印」から抽象的な空間へ|武蔵野個別指導塾

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矢印と多項式を同じ枠組みで扱う理由を、基底・核・像の計算からたどります。次元定理を通して、入力の自由度と出力に残る自由度の関係を確かめられます。

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線形代数(1)ベクトル空間・基底・次元 「矢印」から抽象的な空間へ

模試の余白に残った「なぜ2本なのか」

返却された模試の余白に、斜めに伸びる矢印を2本描いてみてください。解き直しているのは、あるベクトルを2本のベクトルの組合せで表す問題です。係数を求めれば答案は完成します。それでも、その横に「どうしてこの2本で全部を表せるのか」と書き添えると、問題の見え方が変わります。計算で得た係数よりも、係数が必ず見つかる理由が気になってきます。

同じ方向を向く矢印を2本選ぶと、平面のすべての方向を表せません。平行でない2本(互いに実数倍で表せない2本)なら、平面のすべてのベクトルを表せます。では、空間に矢印を3本置けば十分でしょうか。3本とも同じ平面に入っていたら、やはり届かない方向が残ります。「何本あるか」と「どれだけの自由さを表せるか」は同じではありません。この違いを言葉と式で区別するのが、基底と次元の考え方です。

大学の線形代数では、その問いを矢印以外にも広げます。多項式をいくつか足して別の多項式を作ることも、測定値の並びを組み合わせることも、共通の規則で扱います。ベクトルという語は、見た目が矢印であるものだけの名前ではなくなります。何を足せるのか、何倍できるのか、その操作にどのような法則があるのかが中心になります。

多くの理系学部では、こうした内容を1〜2年で学びます。高校で身につけた成分計算や連立方程式は、そのまま役立ちます。ただし、答えを出す力に加えて、解が存在する範囲や一意に決まる条件まで説明する力が必要になります。余白の小さな問いから、その入口をたどりましょう。

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成分の計算を「表し方」の問題として読む

高校の数学で学ぶベクトル、座標、連立一次方程式は、線形代数の身近な入口です。平面上で u=(1,1)、v=(1,-1) とし、w=(3,1) を u と v の組合せで表してみます。実数 a、b を使って w=au+bv と置けば、成分ごとに次の式が得られます。

a+b=3、a-b=1

2式を足すと 2a=4 ですから a=2 となり、b=1 が続きます。実際に戻してみると、次のとおりです。

2(1,1)+(1,-1)=(3,1)

ここで答えだけを見るのでなく、右辺を任意の (p,q) に置き換えてください。同じ計算から a=(p+q)/2、b=(p-q)/2 と求まります。p、q がどんな実数でもこの係数を使えるので、平面のどのベクトルも u と v の組合せで表せます。さらに係数の値は一組に決まります。「全部を表せる」と「表し方が一つに決まる」という別々の性質が、この2本には備わっています。

一方、u=(1,1) と r=(2,2) を選んだ場合、au+br=(a+2b,a+2b) です。成分は必ず等しくなるので、(3,1) にはなりません。(3,3) なら表せますが、a=3、b=0 としても、a=1、b=1 としても同じ結果です。表せる範囲が狭いだけでなく、その範囲内でも係数の選び方が重複しています。

この重複を、r=2u という関係から読み取れます。r を追加しても、もともと u を何倍かすれば届いた場所しか増えません。紙に2本の矢印が描いてあることは、独立した2つの自由度があることを意味しないのです。大学では、この「新しい自由度を増やすか」という問いを一次独立という言葉で扱います。

同じ考え方は多項式にも使えます。1+x と 1-x を組み合わせれば、次のように一次以下の多項式を表せます。

2(1+x)+(1-x)=3+x

先ほどのベクトル計算と係数が同じなのは、定数項と x の係数を順に並べれば、多項式 a+bx を (a,b) に対応させられるためです。多項式を図形の矢印だと思い込む必要はありません。足し算と実数倍が対応することを確かめれば、同じ計算の筋道が使えます。

高校の段階で「ベクトルは大きさと向きを持つ」と理解するのは有用です。しかし、多項式全体を扱うとき、何を向きと呼ぶかを先に決めるのは遠回りです。そこで、図形の姿から離れ、足し算と実数倍の法則そのものを出発点にします。抽象化とは具体例を捨てることではなく、複数の具体例で共通して使える部分を取り出すことです。

足し算と実数倍から空間を定める

ここでは係数を実数に固定します。実数全体を ℝ と書きます。実ベクトル空間とは、集合 V に加法と実数倍が定められ、次の法則を満たすものです。まず、任意の u,v∈V と a∈ℝ に対して u+v∈V、au∈V となります。操作の結果が同じ集合から出ないことを、演算について閉じているといいます。

さらに、任意の u,v,w∈V と a,b∈ℝ について、加法の結合律 (u+v)+w=u+(v+w) と交換律 u+v=v+u が成り立ちます。零ベクトル 0∈V が存在して v+0=v となり、各 v に対して逆元 -v∈V が存在して v+(-v)=0 となります。実数倍には次の法則を要求します。

a(u+v)=au+av、(a+b)v=av+bv

a(bv)=(ab)v、1v=v

これらがベクトル空間の公理です。零ベクトルの記号 0 は実数の零と同じですが、どちらを指すかは文脈で区別します。ℝ² では零ベクトルは (0,0) ですし、多項式の空間ではすべての係数が零である零多項式です。実数の掛け算と違い、ベクトルどうしの掛け算はこの定義に含まれていません。

ℝ³ は、実数を3つ並べた組全体に成分ごとの加法と実数倍を入れた空間です。また、次数が2以下の実係数多項式と零多項式からなる集合を P₂ と書くと、通常の多項式の加法と実数倍によって、これもベクトル空間になります。二次の係数が零でもよいため、一次式や定数も含まれます。「次数がちょうど2の多項式だけ」では、零倍した結果が集合から出てしまい、ベクトル空間にはなりません。

有限個のベクトル v₁,…,vₖ に実数係数を掛けて足した a₁v₁+…+aₖvₖ を、それらの線形結合といいます。係数を自由に動かしてできる集合が、生成する空間です。記号では次のように書きます。

span(v₁,…,vₖ)={a₁v₁+…+aₖvₖ | a₁,…,aₖ∈ℝ}

この集合は、足し算をしても実数倍しても再び同じ形になります。また、係数をすべて零にすれば零ベクトルを含みます。このため、もとの空間の中にある小さなベクトル空間になっています。

一般に V の部分集合 W が、V と同じ加法・実数倍でベクトル空間になるとき、W を V の部分空間といいます。判定には、0∈W であることと、任意の u,v∈W、a,b∈ℝ について au+bv∈W となることを確かめれば十分です。交換律などは V で成り立っているため、そのまま受け継げます。

例えば W={(x,y,z)∈ℝ³ | x+y+z=0} は部分空間です。u と v の成分の和がどちらも零なら、au+bv の成分の和も a×0+b×0=0 になります。対して x+y+z=1 を満たす点の集合は部分空間ではありません。零ベクトルが入らず、その集合に属する点を2倍すると成分の和は2になるからです。どちらも平面ですが、原点を通るかどうかが代数的な違いを生みます。

次に、v₁,…,vₖ が一次独立であるとは、次の含意が成り立つことです。

a₁v₁+…+aₖvₖ=0 ⇒ a₁=…=aₖ=0

零ベクトルを作る係数の組が、すべて零のものに限られるという意味です。これが成り立たない場合を一次従属といいます。すなわち、少なくとも1つが零でない係数の組で線形結合を零にできます。一次従属なら、零でない係数を持つ項について式を解くことにより、そのベクトルを残りのベクトルの線形結合として表せます。

有限個のベクトルの組 B=(v₁,…,vₖ) が V を生成し、かつ一次独立であるとき、その組を V の基底といいます。生成は「足りている」、一次独立は「重複していない」に対応します。ただし、一次独立だから V 全体を生成するとは限りません。ℝ³ の (1,0,0)、(0,1,0) は一次独立ですが、第3成分が零でないベクトルを作れません。

有限個のベクトルで生成される空間を有限次元といいます。有限次元の空間では、どの基底も同じ個数のベクトルを持ちます。その共通の個数が次元 dim V です。ℝ³ の標準基底は (1,0,0)、(0,1,0)、(0,0,1) なので次元は3です。P₂ の基底は (1,x,x²) であり、同じく次元3です。零ベクトルだけの空間は、空の組を基底とする約束で次元0とします。

P₂ の次元が3であることには、係数の一意性が効いています。a+bx+cx² が零多項式なら、a=b=c=0 です。したがって 1、x、x² は一次独立で、P₂ のすべての元はその線形結合です。一方、次数に上限を設けない多項式全体には有限個の基底はありません。有限個の多項式を選ぶと、その次数の最大値を超える次数の多項式を線形結合では作れないためです。

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基底の一意性から核と像の次元へ

まず、基底についての基本定理を述べます。B=(v₁,…,vₖ) が実ベクトル空間 V の基底なら、任意の v∈V は v=a₁v₁+…+aₖvₖ とただ一通りに表されます。存在は、基底が V を生成することから従います。一意性の証明では、2通りの表示があると仮定して引き算します。

(a₁-b₁)v₁+…+(aₖ-bₖ)vₖ=0

一次独立なので a₁-b₁=…=aₖ-bₖ=0 です。したがって2つの係数の組は一致します。この「2つの表示の差を取る」という一歩に、一次独立が表し方の一意性を保証する理由があります。係数を並べた (a₁,…,aₖ) を基底 B に関する座標といいます。

基底を変えると、同じベクトルでも座標は変わります。入口で使った B=((1,1),(1,-1)) に関して、(3,1) の座標は (2,1) です。標準基底での座標 (3,1) と異なるのは、測るためのベクトルが異なるからです。ベクトルそのものと、特定の基底を使った座標表示を区別してください。

基底の個数が一定である理由も、連立方程式から理解できます。m 個で生成される空間から m 個より多くのベクトルを選び、それぞれを生成元の係数で表します。それらの線形結合で、生成元ごとの係数をすべて零とする m 本の同次一次方程式を考えます。これは元の線形結合が零になるための十分条件です。未知数は、選んだベクトルに掛ける係数なので m 個より多くなります。消去法では主変数を m 個までしか作れないので、自由変数が残り、すべて零ではない解が存在します。したがって、そのベクトルの組は一次従属です。2つの基底についてこの議論を互いに適用すると、一方の個数が他方を超えられず、同数とわかります。

次に、空間から別の空間への移り方を定めます。実ベクトル空間 V、U の間の写像 T:V→U が線形写像であるとは、任意の u,v∈V、a,b∈ℝ に対して次の式を満たすことです。

T(au+bv)=aT(u)+bT(v)

入力の線形結合を作ってから写しても、各入力を写してから同じ線形結合を作っても結果が一致します。特に T(0)=0 です。例えば T:ℝ³→ℝ² を T(x,y,z)=(x+y,y+z) とすると、各出力成分が入力の一次結合であり、この条件を満たします。定数項を足した (x+y+1,y+z) は原点を原点に写さないため、線形写像ではありません。

標準基底を選ぶと、この T は次の行列 A で表せます。行列とベクトルの積では、座標を縦に並べるものとします。

A=[1 1 0; 0 1 1]

セミコロンは行の区切りです。第1列は T(1,0,0)、第2列は T(0,1,0)、第3列は T(0,0,1) の座標です。一般にも、入力側と出力側の基底を固定し、入力側の基底ベクトルの像を出力側の座標で並べれば、表現行列ができます。列を知るだけで写像全体が決まるのは、線形性によって任意の入力の像を組み立てられるためです。

零ベクトルに写る入力の集合を核、実際に出力として現れるベクトルの集合を像といいます。正確には次の集合です。

ker T={v∈V | T(v)=0}、im T={T(v) | v∈V}

核は V の部分空間、像は U の部分空間です。核では T(au+bv)=a×0+b×0=0 が閉性を保証します。像では aT(u)+bT(v)=T(au+bv) と書けるので、線形結合が再び像に入ります。

この例で核を求めると、x+y=0、y+z=0 です。y=t と置けば x=-t、z=-t となります。

ker T={t(-1,1,-1) | t∈ℝ}

よって核の基底は (-1,1,-1) からなる組で、次元は1です。一方、T(1,0,0)=(1,0)、T(0,0,1)=(0,1) なので、像は ℝ² 全体、次元は2です。入力の次元3が、核の次元1と像の次元2に分かれています。

この関係を一般に述べるのが次元定理です。V が有限次元の実ベクトル空間で、U が実ベクトル空間、T:V→U が線形写像なら、次が成り立ちます。

dim V=dim ker T+dim im T

証明の要は、核の基底 k₁,…,kᵣ を V の基底 k₁,…,kᵣ,v₁,…,vₛ に延長することです。有限次元なので、足りないベクトルを追加して基底にできます。任意の入力をこの基底で展開して写すと、k の項は消えます。したがって T(v₁),…,T(vₛ) は像を生成します。さらに、それらの線形結合が零なら、対応する v の線形結合は核に属し、k の線形結合で表せます。V の基底の一次独立性から、その係数はすべて零です。よって T(v₁),…,T(vₛ) は像の基底であり、dim V=r+s、dim ker T=r、dim im T=s と数えられます。

核を知ると、同じ出力になる入力の全体もわかります。例えば T(2,0,3)=(2,3) ですから、出力が (2,3) になる入力はすべて次の形です。

(x,y,z)=(2,0,3)+t(-1,1,-1)=(2-t,t,3-t)

これは、1つの解に核の元を加えた集合です。線形性により加えた分の出力は零ですし、同じ出力を持つ2つの入力の差は必ず核に入ります。この解集合は原点を通らない直線であり、部分空間そのものではありません。同次方程式の解集合と、右辺が零でない方程式の解集合の違いが、ここでははっきり見えます。

図形や方程式の共通点を公理にするまで

ベクトル空間という考え方への入口は1つではありません。図形では、向きを組み合わせて移動を表したくなります。連立方程式では、未知数の個数、独立な条件の個数、残る自由度を整理したくなります。多項式では、係数を変えるとどの範囲の式が作れるかを知りたくなります。これらの問題を並べると、対象の姿は違っても、線形結合とその重複を調べるという共通の問いが現れます。

ベクトル空間理論がどのように成立したかを扱う歴史研究として、理論の生成過程を概観する論考があります(Dorier, 1995)。また、線形代数の公理化を1875年から1940年の範囲で扱う歴史研究もあります(Moore, 1995)。この2つの題名が示すのは、理論の成立と公理化という研究対象です。現代の整った定義を読むときにも、どの計算上の性質を共通の規則として取り出しているのかを問い直す手がかりになります。

ここからは、先ほどの例を使って、公理化がもたらす数学上の利点を考えます。矢印、多項式、数の組について個別に「表し方は一意か」を調べると、対象ごとに証明が必要に見えます。しかし基底の定義を置けば、2つの表示を引き、一次独立性を使うだけで、どの実ベクトル空間にも通用する証明になります。対象を変えるたびに計算を最初からやり直さなくてよいのです。

その代わり、共通でない性質を持ち込まない慎重さが必要です。ベクトル空間の公理だけからは、長さや角度を測れません。長さや角度の話をするには、内積などの追加の構造を定めます。平面で目に見えた「垂直」を、基底という言葉に勝手に含めてはいけません。入口の基底を (1,0)、(1,1) に替えても、平面のすべてのベクトルを一意に表せます。基底の条件は互いに垂直であることではありません。

また、同じ ℝ³ の中にある部分空間でも、その次元が3とは限りません。x+y+z=0 の平面なら、x=s、y=t と置いて (x,y,z)=s(1,0,-1)+t(0,1,-1) と表せます。この2本は一次独立なので、平面の次元は2です。3つの成分を使って記述することと、独立に動かせる係数が3つあることは異なります。公理と定義が整うことで、「次元」という語を絵の印象から離して、計算で判定できます。

大学で抽象的な定義を学ぶ意味は、この適用範囲の広さにあります。定義に戻る手間は増えますが、その手間によって、図が描けない対象にも同じ推論を運べます。多項式の係数を並べて矢印の計算と対応させた経験は、この広がりを自分で確かめる最初の一歩になります。

観測で消える自由度とグラフに残る核

核と像は、測定やデータの扱いを考える際にも役立ちます。3つの量 x、y、z があり、測定装置から得られるのが x+y と y+z の2つだけだとしましょう。これは先ほどの線形写像 T そのものです。測定結果が (2,3) であっても、入力は (2,0,3) に一意に決まりません。(1,1,2) も同じ結果になり、さらに (2-t,t,3-t) のすべてが同じ結果になります。

核の方向に入力を動かしても出力が変わらないことが、復元できない理由です。これは計算の精度を上げるだけでは解消しません。入力を一意に決めるには、追加の測定や、入力が満たす別の条件が必要です。例えば x+z も測定すれば、3つの測定値を p=x+y、q=y+z、r=x+z と置いて、次のように元の量を求められます。

x=(p+r-q)/2、y=(p+q-r)/2、z=(q+r-p)/2

3つ目の測定が既存の2つと異なる情報を持つかどうかが要点です。単に x+2y+z を追加しても、それは既存の測定値の和ですから核は減りません。データの個数を増やすことと、独立な情報を増やすことを区別する必要があります。

この区別は、ネットワークを行列で表す場合にも現れます。点がいくつかあり、辺で結ばれた点の組を記録するものをグラフといいます。ここでは、同じ点どうしを結ぶ辺や同じ組に重複する辺を持たず、辺に向きのない単純グラフを考えます。隣接行列は、2つの点が辺で結ばれていれば対応する成分を1、そうでなければ0とする行列です。

3つの点を順に1本の道としてつないだグラフなら、隣接行列 H とその作用は次のようになります。

H=[0 1 0; 1 0 1; 0 1 0]、H(a,b,c)=(b,a+c,b)

行列が出力するのは、それぞれの点に隣り合う点の値の和です。核の条件は b=0、a+c=0 なので、核は (1,0,-1) が生成する1次元の空間です。像は (0,1,0) と (1,0,1) が生成する2次元の空間になり、ここでも 3=1+2 を確かめられます。両端の値を同じ量だけ逆向きに変えると、各点が受け取る隣接点の和は変化しません。

グラフの零固有値の重複度を nullity と呼び、その大きさを調べる研究があります(Cheng・Liu, 2007)。この研究は、少なくとも1本の辺を持つ n 頂点の単純グラフについて、nullity が n-2 以下であるという既知の上限を出発点とし、n-2 や n-3 に達するグラフの特徴を扱っています。また、頂点数と辺数を固定した場合の最大の nullity も検討しています。

隣接行列は実対称行列であり、実対称行列は対角化できるため、ここでの零固有値の重複度は核の次元と一致します。固有値の詳しい計算をまだ学んでいなくても、核を直接求めることで、この研究が測っている量を具体例の上で読めます。先ほどの3頂点の道では nullity は1であり、n-2=1 に達しています。この計算は小さな例ですが、点と辺の形が、行列によって消える自由度と結びつくことを示しています。

定義を読めても計算につながらないとき

基底の問題で手が止まるのは、計算方法を知らないときだけではありません。行基本変形は進められるのに、得られたベクトルがなぜ基底なのか説明できないこともあります。基底には生成と一次独立という2つの条件があり、それぞれが異なる問いに答えているからです。一方だけを確かめて終えると、計算の意味が途中で途切れます。

基底、生成、一次独立の学習を扱った研究では、行列操作によって基底を求める手続きと、基底の概念を理解することの間に難しさがあると述べられています(Stewart・Thomas, 2010)。大学2年生の集団を対象にした研究であり、その議論だけから、高校生への特定の指導手順の効果までは断定できません。以下は、この概念の違いを手元の問題で見失わないための学習手順です。

第1に、集合と演算を言葉で確認します。「ℝ³ の中の、成分の和が零になるベクトル全体」のように、どこにいる何を扱うのかを書きます。多項式なら次数の上限と係数の種類を確認します。この段階で集合を取り違えると、正しい計算をしても別の問題の答えになってしまいます。

第2に、定義の量化を式にします。一次独立を示すなら、係数を自分で都合よく選ぶのでなく、任意の係数 a₁,…,aₖ に対して線形結合が零になると仮定し、その係数が全部零に限られることを導きます。反対に、一次従属を示すなら、少なくとも1つの係数が零でない具体的な組を1つ見つければ十分です。「すべて」と「1つあればよい」の違いが、解答の進め方を決めます。

第3に、生成の確認を別に行います。目標の空間の任意のベクトルを置き、それを候補の線形結合として表します。例えば x+y+z=0 の平面では、任意の元を (s,t,-s-t) と書けます。この式から (1,0,-1)、(0,1,-1) が平面を生成すると読み取れます。その後で係数を比較して一次独立を確認すれば、2つの条件が混ざりません。

第4に、計算結果を元の式へ戻します。核の候補なら写して零になるか、像の基底候補なら実際に入力の像か、表現行列なら各列が基底ベクトルの像と一致するかを調べます。最後に次元定理も照合します。ただし、次元の和が合うだけで基底のベクトルまで正しいとは限りません。代入による検算と次元による検算は、役割を分けて使います。

高校生のうちには、連立方程式で解が1つになる場合だけでなく、解がない場合、自由に動かせる変数が残る場合を比べてみてください。例えば x+y=2 と 2x+2y=4 は同じ条件を重ねていますが、後者の右辺を5に替えると矛盾します。式の本数だけでは解の状態が決まらないとわかれば、大学で階数や次元を学ぶ準備になります。ベクトル問題の答えには、係数に加えて「なぜ他の係数では表せないか」を短く添える練習も有用です。

塾では、解答のどこまでを自分の言葉で説明できるかを見て、次の問いを選びます。計算が止まっているなら成分の連立方程式へ戻り、計算はできているなら「生成と一次独立のどちらを確かめたのか」と尋ねます。返却された模試の余白に残すのも、公式を丸ごと書き写したものではなく、「任意のベクトルを表す」「零になる係数を調べる」という、次の問題で使う短い問いです。

家庭では、お子さまが抽象的な用語を覚えた速さだけで理解を判断しないでください。「その2本で全部を表せるのはどうして」と説明を聞く時間を持つだけでも、何が整理できているかを共有できます。保護者が証明の正誤をすべて判定する必要はありません。説明の途中で止まった問いを残しておけば、次の学習で確かめる対象が具体的になります。

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矢印を離れる前に確かめたい3つの問い

基底は座標軸のように直交していないといけませんか

いいえ。基底の条件は、その空間を生成することと一次独立であることです。ℝ² で (1,0)、(1,1) は直交していませんが、任意の (p,q) を (p-q)(1,0)+q(1,1) と表せるので基底になります。直交する基底は長さなどの計算に便利ですが、基底一般の条件に直交性を加えると、使える表し方を必要以上に狭めてしまいます。

次元と、ベクトルに並んでいる数の個数は同じですか

ℝ³ 全体なら同じですが、その部分空間では異なる場合があります。例えば x+y+z=0 の平面では、3つの成分のうち2つを決めると残りが決まります。その平面の次元は2です。どの空間の次元を尋ねているのかを先に確かめましょう。データを長い列で記録していても、それらが独立に変化できるとは限りません。

核が零ベクトルだけなら、入力は必ず復元できますか

線形写像で核が {0} なら、同じ出力に写る2つの入力の差が零になるので、入力は出力から一意に決まります。ただし、復元するのは像に属する出力についてです。出力先の空間のすべてのベクトルが実際に現れるとは限りません。例えば ℝ→ℝ² の T(t)=(t,0) は核が {0} ですが、(0,1) を出力する入力はありません。単射と全射を分けて考える必要があります。

ベクトル空間を学ぶと、解答の係数を見る目が変わります。係数が見つかったというだけでなく、どの範囲なら見つかるか、何通りあるか、何を変えても結果が変わらないかを尋ねられるようになります。生成は到達できる範囲を、一次独立は表し方の重複を、核は出力に現れない変化を捉えます。その関係を次元として数えられることが、線形代数の強みです。

返却された答案から大学数学へ進む道は、新しい記号を増やすだけの道ではありません。すでに解いた計算に理由を添え、条件を変えても同じ説明が通るかを確かめる道です。矢印の横に残った「なぜ2本なのか」という問いは、関数やデータを扱うときにも持ち運べます。その基底で何がどのように一意に表せるのかまで説明できたとき、計算は空間の理解へとつながります。

あわせて読む(数学の地図・高校数学の単元解説)

参考文献

  1. JL Dorier(1995)「A general outline of the genesis of vector space theory」Historia Mathematica. https://doi.org/10.1006/hmat.1995.1024
  2. GH Moore(1995)「The axiomatization of linear algebra: 1875-1940」Historia Mathematica. https://doi.org/10.1006/hmat.1995.1025
  3. Bo Cheng, Bo Liu(2007)「On the nullity of graphs」Electronic Journal of Linear Algebra. https://doi.org/10.13001/1081-3810.1182
  4. Sepideh Stewart, Michael O. J. Thomas(2010)「Student learning of basis, span and linear independence in linear algebra」International Journal of Mathematical Education in Science and Technology. https://doi.org/10.1080/00207390903399620

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