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常微分方程式 変化の法則から未来を決める|武蔵野個別指導塾
変化率の式と初期条件から解を求め、リプシッツ条件が一意性を支える理由を確かめます。人口増加、ばねの振動、回路の計算を通じて、高校の微分積分を大学数学へつなぎます。

常微分方程式 変化の法則から未来を決める
食卓の方眼から、まだ見ていない曲線へ
家の食卓に方眼ノートを広げ、横軸に時間、縦軸に量を取ってみてください。ある時刻の値を点で置くところまでは簡単です。困るのは、その右側にどんな線を引けばよいかということです。まっすぐ伸びるのでしょうか。次第に寝ていくのでしょうか。それとも上下に揺れるのでしょうか。点が1個あるだけでは、その先の曲線は決まりません。
そこで、「今ある量が多いほど、その量は速く増える」という規則を加えます。増える速さを微分で表すと、量を y、時間を t として y′=ky と書けます。ここで k は比例定数、y′ は t に関する微分です。これは未来の量を直接与える式ではありません。どの時刻でも、量とその変化率が満たすべき関係を指定した式です。その関係から量の時間変化を求めるのが、常微分方程式の基本的な課題です。
高校の微分では、関数を与えて傾きを計算することが多いでしょう。大学では問いの向きが変わります。傾きの決まり方を与えられて、関数そのものを探します。さらに、その関数が本当に存在するのか、同じ出発点から違う曲線が生まれないか、計算をどこまで続けられるかを問います。
多くの理系学部では1〜2年で、この考え方を学びます。物理では運動、工学では回路、数理モデルでは人口の変化を同じ枠組みで扱えるからです。ただし、法則を式にしただけで現実の未来が無条件に決まるわけではありません。式の仮定と出発時の情報をそろえ、解が使える範囲を調べて初めて、予測の意味が定まります。

微分の計算を逆向きに読む
入口になる高校数学は、指数関数、三角関数、微分、積分です。まず y=3e²ᵗ を微分すると、合成関数の微分から y′=6e²ᵗ となり、y′=2y が成り立ちます。また t=0 では y=3 です。したがって、この関数は次の2条件を同時に満たします。
y′=2y, y(0)=3
最初の式は変化の法則、次の式は初期条件です。e²ᵗ の前の係数を変えても微分方程式は成り立ちますが、初期条件を満たす係数は3に決まります。積分の計算に現れる定数は、単なる付け足しではなく、どの出発点を選んだかを表しています。
この方程式を未知の関数から解いてみます。y が0でない区間では、両辺を y で割って y′/y=2 とできます。左辺は ln|y| の微分なので、積分して ln|y|=2t+C を得ます。指数関数に戻すと y=Ae²ᵗ となり、初期条件から A=3 です。なお、割り算の前に y=0 という定数関数も解であることを確かめておく必要があります。解を求める操作が、解を捨てる操作にもなりうる点に注意してください。
変数分離の一般的な形は y′=g(t)h(y) です。h(y) が0でない範囲で、1/h(y) の原始関数 H を使えば、合成関数の微分により次が成り立ちます。
(H(y(t)))′=y′(t)/h(y(t))=g(t)
これを積分して H(y(t))=∫g(t)dt+C とするのが、変数分離法の中身です。dy と dt を数字のように移動させる表記は便利ですが、正当化を担うのは合成関数の微分です。h(y)=0 を満たす定数値があれば、その値にとどまる解も別に調べます。
もう1つの入口は一階線形方程式です。p と q を連続関数として、y′+p(t)y=q(t) を考えます。ここで線形という語は、未知関数 y とその微分が一次で現れるという意味です。係数 p が t の複雑な関数であっても線形ですが、y² や yy′ が含まれれば線形ではありません。
P′(t)=p(t) を満たす P を取り、μ(t)=exp(P(t)) と置きます。exp は指数関数の別の表記です。μ′=pμ なので、式全体に μ を掛けると左辺が積の微分になります。
(μy)′=μy′+μ′y=μ(y′+py)=μq
あとは積分して μy=∫μqdt+C を得ます。高校で習った積の微分を、式をまとめるために逆向きに使っているのです。公式だけを覚えるより、どの2項を1個の微分にまとめたいのかを見れば、積分因子 μ の役割が見えてきます。
解という言葉に、区間と条件を添える
常微分方程式は、1個の独立変数に関する未知関数と、その導関数の関係を表す方程式です。たとえば y′=f(t,y) は一階、y″+ay′+by=0 は二階です。階数は現れる最高階の導関数で決まります。未知関数が複数でも、独立変数が時間 t だけなら、常微分方程式の連立系です。
まず「解」を正確に定義します。f が領域 D 上で定義されているとします。一階方程式 y′=f(t,y) の区間 I 上の解とは、I 上で微分可能な関数 y で、すべての t∈I に対して (t,y(t))∈D かつ y′(t)=f(t,y(t)) を満たすものです。式が1点で一致するだけでは足りません。区間全体で関係が保たれる必要があります。
初期値問題とは、t₀∈I を指定して、微分方程式に条件 y(t₀)=y₀ を加えた問題です。記号では次のように表します。
y′(t)=f(t,y(t)), y(t₀)=y₀
微分方程式が許す曲線の集まりから、指定した点を通るものを探します。二階の運動方程式なら、一般に位置だけでなく速度も必要です。たとえば物を同じ高さから放す場合と、そこから上向きに投げる場合では、出発時の位置が同じでも運動は異なります。
次に、一意性の中心にあるリプシッツ条件を定義します。長方形領域 R 上で、f が y に関して一様なリプシッツ条件を満たすとは、ある定数 L≧0 が存在し、(t,u),(t,v)∈R となる任意の t,u,v に対して、次の不等式が成り立つことです。
|f(t,u)-f(t,v)|≦L|u-v|
入力の y が少し変わったとき、変化率 f の差が、その入力差の一定倍以内に抑えられるという条件です。「一様な」とは、領域内で t が変わっても共通の L を使えるという意味です。連続であるというだけでは、この比例的な抑え方までは保証されません。
たとえば f(t,y)=2y なら、|f(t,u)-f(t,v)|=2|u-v| なので L=2 が使えます。一方、f(t,y)=y² では、|u|,|v|≦B と範囲を限れば次の評価ができます。
|u²-v²|=|u+v||u-v|≦2B|u-v|
この場合、有限の範囲では条件を満たしても、すべての実数 y を一度に覆う同じ定数 L は取れません。このように点の近くで使える性質と、全域で使える性質を区別することが、局所と大域の区別につながります。
条件の意味を知るには、条件が失われる例が役立ちます。y′=2√|y|、y(0)=0 を考え、t≧0 だけを見ます。任意の a≧0 に対して、0≦t≦a では y(t)=0、t>a では y(t)=(t-a)² と置けます。つなぎ目 t=a では、左右の導関数はいずれも0です。t>a なら y′=2(t-a)=2√|y| なので、どの a を選んでも同じ初期条件を満たします。いつまでも0のままの関数も解です。
この f は連続ですが、0の近くではリプシッツ条件を満たしません。v=0、u>0 とすると、変化率の差と入力差の比は 2/√u となり、u を0に近づけると限りなく大きくなるからです。したがって、連続性だけで解が1本に決まるとは言えません。ただしリプシッツ条件は一意性を保証する十分条件であり、それを満たさない方程式すべてで一意性が失われるという逆向きの主張はできません。
初期条件は「積分定数を求めるための数字」として片付けられがちです。しかし、この例では初期条件まで同じなのに解が複数あります。解法を知ることと、問題がただ1個の答えを持つと保証することは、別々の課題なのです。

存在と一意性を支える評価、振動を作る特性方程式
ピカール=リンデレフの存在と一意性定理を、実数値の一階方程式について述べます。a,b>0 とし、R={(t,y):|t-t₀|≦a, |y-y₀|≦b} 上で f が連続で、y に関して一様なリプシッツ条件を満たすとします。このとき、ある h>0 が存在し、初期値問題 y′=f(t,y)、y(t₀)=y₀ は |t-t₀|≦h の範囲に解を持ちます。また初期点の近くで、その解は一意です。比較する解はグラフが R 内にあるものとします。
なぜリプシッツ条件が効くのでしょうか。微分方程式を初期時刻から積分すると、解は次の積分方程式を満たします。
y(t)=y₀+∫[t₀からtまで] f(s,y(s))ds
逆に、連続関数 y がこの積分方程式を満たせば、f の連続性と微積分の基本定理から微分可能となり、初期値問題の解になります。微分を含む問題を、連続関数を別の連続関数へ移す操作に置き換えられるのです。
右辺の y に連続関数 u を代入する操作を T と呼び、区間内の最大差を ‖u-v‖∞=max|u(t)-v(t)| と書きます。リプシッツ条件を積分すると、次の評価を得ます。
‖Tu-Tv‖∞≦Lh‖u-v‖∞
h を小さくして Lh<1 とすれば、T を適用するたびに関数間の距離が縮みます。連続な f はコンパクトな R 上で有界なので |f|≦M となる M を取れます。さらに h≦a、Mh≦b とすれば、T による変化が長方形の外へ出ません。この閉じた連続関数の集合は最大値ノルムについて完備で、縮小写像の不動点定理を使えます。
特に一意性の要は短い不等式に現れます。u と v がともに解なら Tu=u、Tv=v なので、‖u-v‖∞≦Lh‖u-v‖∞ です。Lh<1 の下でこれが成り立つには、‖u-v‖∞=0 でなければなりません。つまり2つの解は一致します。「同じ初期点から別の未来に分かれない」という言葉が、距離を縮める評価に支えられています。
この定理の保証は局所的です。y′=y²、y(0)=1 は y(t)=1/(1-t) を解に持ちます。代入すれば y′=1/(1-t)²=y² とわかりますが、t=1 で値が発散します。初期時刻0を含む解の最大の区間は t<1 です。右辺は滑らかでも、有限時刻までに解が無限に大きくなり、すべての未来時刻へ延長できないことがあります。
計算例として、まず y′+2y=6、y(0)=1 を解きます。積分因子は e²ᵗ ですから、(e²ᵗy)′=6e²ᵗ となり、積分して e²ᵗy=3e²ᵗ+C を得ます。よって y=3+Ce⁻²ᵗ、初期条件から C=-2 です。
y(t)=3-2e⁻²ᵗ
微分すると y′=4e⁻²ᵗ で、y′+2y=4e⁻²ᵗ+6-4e⁻²ᵗ=6 と確かめられます。t が大きくなると解は3へ近づきます。右辺を y′=2(3-y) と書けば、3より小さいと増え、3より大きいと減ることも読めます。解の式を求める前後で、変化の向きを照合してください。
次は定数係数の二階線形方程式 x″+ax′+bx=0 です。a,b が実定数のとき、指数関数 exp(rt) を代入すると、r²+ar+b=0 が現れます。これを特性方程式と呼びます。相異なる実根 r₁,r₂ があれば、一般解は C₁exp(r₁t)+C₂exp(r₂t) です。重根 r なら (C₁+C₂t)exp(rt)、非実根 α±iβ、β>0 なら exp(αt)(C₁cos(βt)+C₂sin(βt)) になります。
これらは解の候補を並べただけではありません。それぞれ2個の一次独立な解を与え、二階線形方程式の解空間を張ります。初期の値と導関数を指定すれば係数を決定でき、存在と一意性により、同じ初期条件を持つ別の解を見落としていないことが保証されます。非同次方程式では、特解1個に対応する同次方程式の一般解を加えます。
具体的に x″+2x′+5x=0、x(0)=1、x′(0)=0 とします。特性方程式は (r+1)²+4=0 で、根は -1±2i です。したがって x=e⁻ᵗ(C₁cos(2t)+C₂sin(2t)) となります。位置の条件から C₁=1、速度の条件から -C₁+2C₂=0 なので C₂=1/2 です。
x(t)=e⁻ᵗ(cos(2t)+(1/2)sin(2t))
x′(t)=-(5/2)e⁻ᵗsin(2t)
x″(t)=(5/2)e⁻ᵗsin(2t)-5e⁻ᵗcos(2t)
この3式を x″+2x′+5x に代入すると、sin の項も cos の項も消えます。三角関数が往復運動を、e⁻ᵗ が振れ幅の減少を担います。複素数の根を計算していても、求めている位置は実数値です。複素数は、減衰と回転を1つの指数関数として扱うための道具になります。
運動を積分する問いから、解を保証する問いへ
常微分方程式を必要とする代表的な動機は、力から運動を求めることです。位置 x を直接知っているのでなく、位置や速度に応じて加速度が決まるなら、未知の軌道は微分方程式を満たします。求積で関数の形を出す方法が役立つ一方、右辺が複雑になると、初等関数で書ける解を探すだけでは研究を進められません。そこで、式で書けるかどうかとは別に、解の存在、唯一性、近似の収束を論じる必要が生まれます。
ピカール反復では、積分方程式の右辺に前の近似を入れて、次の近似を作ります。たとえば y′=y、y(0)=1 について、出発する関数を u₀(t)=1 とし、uₙ₊₁(t)=1+∫[0からtまで]uₙ(s)ds と定めると、u₁=1+t、u₂=1+t+t²/2、u₃=1+t+t²/2+t³/6 と続きます。一般に n 回目は指数関数の級数の n 次までの部分和です。積分の反復が、解の構成と近似の計算の両方につながっています。
この方法をめぐる研究の広がりは、論文の題名にも表れています。非線形二階微分方程式に対するピカール=リンデレフ法を扱う研究があります(Ramos, 2008)。また、存在と一意性の定理を分数階微分方程式へ拡張することを題目とした研究もあります(Hayek et al., 1998)。ここで挙げた研究対象を、先ほど述べた一階の定理と同じ仮定で扱えると読むことはできません。微分の意味や方程式の形が変われば、関数を置く空間と評価の仕方も調べ直す必要があります。
基礎の学習では、その違いを意識するだけでも理解が深まります。反復が計算できること、反復が収束すること、極限が元の方程式を満たすことは、別々に確かめるべき事柄です。先ほどの縮小評価は、この隔たりを埋める道筋を与えています。数回の計算がうまく進んだから無限回でも大丈夫だと考えるのではなく、誤差を抑える不等式を探すのです。
厳密さは、手計算を遠ざけるためのものではありません。たとえば人口の方程式で得た正の解が途中で負になる可能性はないか、振動の計算を何時刻まで続けてよいかを判断するために使います。式を解く技術に、答えの成立範囲を保証する理論を重ねるところに、大学数学としての特徴があります。
人口、回路、連立系を同じ言葉で書く
人口の単純なモデル N′=rN では、1個体あたりの増加率 r を一定とみなします。N(0)=N₀ なら N=N₀exp(rt) です。r>0 では増加が続きますが、資源の制約を表していません。そこで r>0、K>0 として、ロジスティック方程式を考えます。
N′=rN(1-N/K)
K は増加率が0となる人口の尺度です。0<N<K なら右辺は正で、N>K なら負です。N=0 と N=K はどちらも定数解であり、変数分離で割り算をする前に確認できます。0<N₀<K の場合、分離して積分すると ln(N/(K-N))=rt+C となり、初期条件を代入して次を得ます。
N(t)=K/(1+Aexp(-rt)), A=(K-N₀)/N₀
N の単位を個体数、時間を年として、r=1、K=100、N₀=10 と置けば A=9 です。t=ln 9 では exp(-t)=1/9 なので N=50 になります。同じ初期人口からの指数モデルは、この時刻で N=90 です。この差は計算の誤差ではなく、増加率に制約を入れたかどうかの差です。現実にどちらを使うかは、観測期間や増加の仕組みに照らして判断する必要があります。
回路にも同じ一階線形方程式が現れます。一定電圧 V の電源、抵抗 R>0、静電容量 C>0 を持つコンデンサの直列回路で、電荷を q とすると、理想化した充電過程は Rq′+q/C=V と書けます。q(0)=0 なら解は q=CV(1-exp(-t/(RC))) です。RC は時間の次元を持ち、充電の進む速さを定めます。V≠0 の場合、t=RC では q/(CV)=1-e⁻¹≈0.6321 です。電荷が最終値の約63.21%に達する時間として、この積が読めます。V=0 の場合は q(t)=0 であり、最終値に対する比率や百分率は定義できません。
人口でも回路でも、何を一定と置いたかが重要です。r が季節で変わる、電源電圧が時間で変わるといった事情があれば、式も変わります。さらに、今の変化率が過去の状態に依存するモデルでは、現在の値だけを指定しても足りないことがあります。たとえば τ>0 として y′(t)=ay(t)+by(t-τ) なら、通常は時刻 -τ から0までの履歴を与えます。これは関数微分方程式の一例です。
関数微分方程式の連立系について、解の存在を題目とした文献もあります(Franklin, 1954)。この研究対象に目を向けると、現在の1点の情報で状態が定まる常微分方程式と、過去の関数全体が関与する問題との境界が見えてきます。先ほどの局所存在定理をそのまま当てはめるのではなく、そもそも初期データとして何を渡すべきかを考え直します。
一方、二階の振動方程式は、状態の成分を増やせば一階の連立系になります。先ほどの x″+2x′+5x=0 で v=x′ と置くと、x′=v、v′=-5x-2v です。状態ベクトルを X=(x,v)ᵀ とすれば、X′=AX、A=((0,1),(-5,-2)) とまとめられます。括弧内は各行を表し、ᵀ は縦ベクトルにする転置を表します。
実定数行列 A に対する行列の指数関数は、次の収束する級数で定義されます。
exp(tA)=I+tA+t²A²/2!+t³A³/3!+…
ここで I は単位行列、A² は行列の積 AA です。行列の各成分を個別に指数関数へ入れる操作ではありません。この級数は任意の実数 t で収束し、項別微分により (exp(tA))′=Aexp(tA)、exp(0A)=I が成り立つので、初期値 X(0)=X₀ に対する解は X(t)=exp(tA)X₀ です。
振動の行列で B=A+I と置くと B²=-4I です。級数の偶数次と奇数次をまとめれば、次の表示になります。
exp(tA)=e⁻ᵗ(Icos(2t)+(B/2)sin(2t))
これに X₀=(1,0)ᵀ を掛けると、先ほど求めた位置 x と速度 v が同時に得られます。ばねの運動を二階の式として解く方法と、行列で状態を進める方法は、同じ現象を別の形で扱っています。成分が増える問題では、固有値や行列の計算が減衰や振動を調べる共通の道具になります。
解法の名前より、代入と仮定を手元に置く
学習でつまずきやすいのは、方程式の形を見て解法の名前を当てる作業だけに集中してしまうことです。「変数分離だから割る」と進めると定数解を落とし、「線形だから足せる」と考えると非同次の条件を見失います。解の候補を作る手順と、それが何を満たすかを確かめる手順を分けると、誤りの場所がはっきりします。
重ね合わせを扱う教育論考では、一階微分方程式とその応用を学び終えた初学者に向け、定義の復習と線形方程式の重ね合わせの定理への準備を位置づけています(Roberts, 2003)。また、指数的な増減と二階定数係数線形方程式を題材に、モデルの文脈から解を予想する学習を論じた研究があります(Winkel, 2015)。これらは微分方程式の初学者向け教材や特定の方程式を扱う教育的論考であり、その議論を高校生全員への学習効果の保証として読むことはできませんが、定義、予想、検証を往復する授業を考える手がかりになります。
実際の学習では、次の順序を試してください。
- 未知関数と独立変数を書き、初期条件を囲みます。二階なら、値と導関数の両方が与えられているかを確かめます。人口や回路なら単位も添え、微分した量の単位が右辺とそろうかを見ます。
- 解く前に、右辺が0になる状態と、正負が変わる場所を調べます。人口なら0と K、充電なら CV が目印です。どの方向へ動くかを予想してから式を求めます。
- 割り算や対数を取る箇所では、その操作が許される範囲を余白に書きます。0で割っていないか、ln の中が正か、定数解を落としていないかを確認します。
- 得られた解を微分して元の式へ戻し、初期条件を別に確かめます。微分方程式を満たしても出発点が違えば、その初期値問題の答えではありません。
- 解の使える区間と、長い時間がたったときの様子を調べます。分母が0になる時刻を見落とさず、最初の増減予想と矛盾しないかを確かめます。
重ね合わせについては、方程式の右辺まで追ってみると理解が確かになります。L[y]=y′+2y と置けば、L[u+v]=L[u]+L[v] です。したがって L[u]=L[v]=0 なら和も同次方程式の解ですが、L[u]=L[v]=6 なら L[u+v]=12 です。右辺が6の問題で、解どうしの和が再び解になるとは限りません。その代わり、2つの解の差は L[u-v]=0 を満たします。非同次方程式の一般解が「特解と同次解の和」になる理由がここにあります。
高校生のうちには、指数関数と三角関数の微分、合成関数の微分、部分分数による積分を丁寧に使えるようにしておくと役立ちます。難しい方程式を先取りするより、y=Ceᵗ を微分して元へ戻す、sin と cos の係数を初期条件から決める、といった短い往復を確実にしてください。複素数の計算は、二階方程式で振動が現れる理由へつながります。
塾では、途中式のどの操作で解を失ったのか、どの仮定が一意性を支えたのかを、ノートの具体的な行に沿って問い直せます。家庭では解法の正誤を代わりに判定するより、お子さまが「今求めているのは量か、速さか」「どの時刻から始めたか」を言葉にする時間を持てるとよいでしょう。式の意味を説明することと、計算の採点を受けることは別の経験です。
ここで手が止まるなら、止まった単元まで一緒に戻ります。武蔵境の数学塾(1 対 1)/お問い合わせ
未来を読む前に確かめたい3つの疑問
解が公式で書けなければ、解けていないのでしょうか
初等関数で表せないことと、解が存在しないことは違います。存在と一意性を保証した上で、級数や数値計算で近似する方法があります。ただし、近似値を並べただけでは精度の保証になりません。刻み幅を変えたときの挙動や、理論的な誤差評価を調べます。方程式から増減や有界性だけを読み取ることにも意味があります。
一意な解があれば、現実の未来も正確にわかりますか
一意性は、定めた方程式と正確な初期条件の下での主張です。現実の係数や初期値には測定のずれがあり、式に入れていない作用もあります。解が一意でも、小さな初期値の差が後でどれほど広がるかは別に調べます。たとえば y′=2y では初期値の差 δ が、時刻 t で δe²ᵗ になります。存在、一意性、予測の精度は区別して考えます。
二階の方程式を、なぜ連立の一階に直すのですか
位置だけでなく速度も状態として持てば、その時点の状態から次の変化率を書けるからです。x″=F(t,x,x′) を x′=v、v′=F(t,x,v) と直すと、一階の連立系として存在と一意性や近似計算の理論を使えます。未知関数は増えますが、時間に沿って状態を進める仕組みが明確になります。
食卓の方眼ノートへ戻り、最初の点の横に、今度は変化率の式を書いてみます。その下に初期条件、解が使える区間、代入した結果を並べると、曲線を描くために何がそろい、何がまだ足りないかが見えてきます。積分定数を決めて終わるのでなく、式がその未来を支えられるかまで点検することが、学びの次の段階です。
常微分方程式が結びつけるのは、現在の値、変わり方、そして時間です。高校で身につけた微分積分は、その結びつきを実際に計算する力になります。方眼の先へ線を伸ばす根拠は、変化の法則と初期条件を最後まで確かめた計算に宿ります。
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あわせて読む(数学の地図・高校数学の単元解説)
参考文献
- N Hayek, J Trujillo, M Rivero ほか(1998)「An extension of Picard-Lindelöff theorem to fractional differential equations」Applicable …. https://doi.org/10.1080/00036819808840696
- JI Ramos(2008)「On the Picard–Lindelof method for nonlinear second-order differential equations」Applied mathematics and computation. https://doi.org/10.1016/j.amc.2008.04.029
- Joel Franklin(1954)「On the existence of solutions of systems of functional differential equations」Proceedings of the American Mathematical Society 5, 363–369. https://doi.org/10.1090/S0002-9939-1954-0062329-0
- Roberts, Charles E.(2003)「Superposition: New Solutions from Known Solutions」International Journal of Mathematical Education in Science and Technology. https://doi.org/10.1080/0020739031000148958
- Winkel, Brian(2015)「Informed Conjecturing of Solutions for Differential Equations in a Modeling Context」PRIMUS. https://doi.org/10.1080/10511970.2014.922145
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