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ガロア理論 五次方程式に解の公式がないのはなぜか|武蔵野個別指導塾
平方根の符号交換からガロア群を計算し、五次方程式に共通の根号の公式がない理由をたどります。拡大次数と部分群の対応を手で確かめ、立方体の倍積が定規とコンパスで作図できない理由までつなげます。

ガロア理論 五次方程式に解の公式がないのはなぜか
模擬授業の黒板に残る「公式はない」の意味
オープンキャンパスの模擬授業の教室で、二次方程式の解の公式に続いて「五次方程式には解の公式がない」と板書されたとします。机の上のノートには、まだ平方根の記号が書きかけです。三次、四次と計算を頑張れば、五次にも届くのではないか。そう感じたところから、ガロア理論の入口が開きます。
最初に、その板書には条件を補う必要があります。「有理数係数のどの五次方程式にも使える、四則演算と有限回の根号の組合せによる解の公式はない」という意味です。根号には平方根だけでなく、立方根なども含めます。個々の五次方程式が解けないという意味でも、近似値を求められないという意味でもありません。使ってよい操作を決め、その操作の範囲に限界があると主張しているのです。
たとえば x⁵-2=0 の正の実数解は ⁵√2 です。したがって「五次だから根号で書けない」という判断は、出発点から誤っています。次数だけを見るのではなく、根どうしの間にどのような代数的関係があるかを調べなければなりません。
ガロア理論では、根そのものを直接探す代わりに、根を入れ替えても保たれる関係を調べます。その入れ替えを集めたものが群です。方程式を解く問題が、群の構造を調べる問題へ移るところに、この理論の驚きがあります。塾でこの話を扱うなら、公式を一つ増やす授業にはしません。どの数から計算を始め、何を新しく加え、何が動かせるようになるのかを、一行ずつ確かめる授業にします。

二次方程式の平方根を「数の範囲」として読む
高校数学の二次方程式、複素数、因数分解は、そのまま準備になります。まず x²-2x-1=0 を平方完成で解いてみましょう。
x²-2x-1=(x-1)²-2
(x-1)²=2
x=1+√2 または x=1-√2
この計算では、有理数だけを使って始めたのに、途中から √2 が現れます。そこで答えの形だけでなく、「√2 を計算に使える数として加えたら、どのような世界になるか」と問い直します。有理数全体を ℚ と書き、√2 を加えて四則演算が閉じるようにした集合を ℚ(√2) と書きます。その元はすべて a+b√2、a,b∈ℚ の形です。
足し算でこの形が保たれるのは容易に確かめられます。掛け算では (√2)²=2 を使います。
(a+b√2)(c+d√2)=(ac+2bd)+(ad+bc)√2
割り算も、分母が 0 でなければ同じ形に戻ります。
1/(a+b√2)=(a-b√2)/(a²-2b²)
ここで a+b√2≠0 なら a²-2b²≠0 です。もし後者が 0 で b≠0 なら (a/b)²=2 となり、√2 が有理数でないことに反します。b=0 なら a=0 となって、もとの条件に反します。高校で学ぶ分母の有理化は、ある数の集合が割り算にも閉じていることを示す計算だったのです。
具体的には、(1+√2)(1-√2)=-1 なので、1/(1+√2)=√2-1 です。√2 を加えた後に逆数を計算しても、さらに別の種類の数を加える必要はありません。この小さな事実が、体の拡大を考える足場になります。
もう一つ、二つの解 1+√2 と 1-√2 は、√2 の符号を交換すると入れ替わります。この交換は有理数を動かさず、足し算と掛け算を保ちます。実数の大小は保ちませんが、代数的な関係は保ちます。ガロア理論が注目するのはこの性質です。数直線上で右にあるか左にあるかではなく、どの多項式の関係式を満たすかを見るのです。
高校の言い方で「答えは無理数です」と述べるだけでは、√2 と √3 が同じ範囲の数で扱えるか、どれだけ新しい数を加えたのかまではわかりません。大学の代数学は、答えを分類するだけでなく、答えが住む数の範囲を構造として記述します。
体の拡大からガロア群までを定義する
体とは、足し算と掛け算がそれぞれ可換かつ結合的で、加法単位元 0、乗法単位元 1、加法逆元があり、0≠1、分配法則が成り立ち、0 でないすべての元が乗法逆元を持つ集合です。記号では、a≠0 に対して、ab=1 を満たす b が体の中に存在します。ℚ、実数全体の ℝ、複素数全体の ℂ は体です。整数全体は 2 の逆数を含まないので体ではありません。
体 K が体 L の部分集合で、K の演算が L の演算の制限と一致するとき、L/K を体の拡大と呼びます。L/K は割り算の値を表す記号ではありません。「小さい体 K を含む大きい体 L」を一組として指定しています。以後、主に ℚ を含む ℂ の部分体を考えます。
L は K 上のベクトル空間として扱えます。この次元を拡大次数といい、[L:K]=dimₖL と書きます。有限次元なら有限拡大です。ℚ(√2) の元は a+b√2 と一意に書けるので、1 と √2 が ℚ 上の基底になり、[ℚ(√2):ℚ]=2 です。一意性は、a+b√2=0 で b≠0 とすると √2=-a/b∈ℚ になってしまうことからわかります。「新しい数を一つ加えた」と「次元が一つ増えた」は別の話です。√2 を一つ加えた体の次元は 2 です。
次に、α が K 係数の 0 でない多項式の根になるとき、α は K 上代数的であるといいます。代数的な α に対し、m(α)=0 を満たす K 係数のモニック多項式のうち、次数が最小のものを最小多項式と呼びます。モニックとは最高次の係数が 1 という意味です。この多項式は一意であり、K 上既約、つまり正の次数を持つ二つの K 係数多項式の積には分解できません。
なぜ既約なのでしょうか。もし m=gh と分解できれば、0=m(α)=g(α)h(α) です。体には零因子がないため、g(α)=0 または h(α)=0 となります。いずれも m より低い次数で α を根に持つ多項式を与え、最小性と矛盾します。この一歩は、定義に含まれる「最小」が証明で働く典型です。
√2 の ℚ 上の最小多項式は x²-2 です。一方、2 の最小多項式は x-2 であり、2 が x²-4 の根だからといって x²-4 が最小多項式になるわけではありません。一般に代数的な α について、[K(α):K] は最小多項式の次数に等しくなります。次数が d なら、1、α、α² から α の d-1 乗までで高いべきを整理でき、それより短い一次関係は最小性が禁じるからです。
多項式 f∈K[x] のすべての根を含み、その根から K 上の四則演算で作れる元だけを集めた体を、K 上の分解体といいます。「根を一つ含む体」と「すべての根を含む体」を区別してください。x³-2 の実数の根 α=∛2 を加えた ℚ(α) は実数だけからなり、非実数の根を含みません。複素数の範囲で完全に一次式の積へ分解するには、さらに数を加える必要があります。
K を固定する L の自己同型とは、全単射 σ:L→L で、任意の u,v∈L と a∈K に対し、次を満たす写像です。
σ(u+v)=σ(u)+σ(v)、σ(uv)=σ(u)σ(v)、σ(a)=a
これらの写像は合成を演算として群を作り、Gal(L/K) と書きます。単に根に好きな番号を振り直すのではありません。根が満たす足し算、掛け算の関係もすべて保存する必要があります。f(α)=0 なら σ(f(α))=f(σ(α))=0 となるので、自己同型は根を同じ多項式の根へ移します。
有限拡大が正規かつ分離的であるとき、ガロア拡大といいます。正規とは、L に根を持つ K 上の既約多項式が L で完全に一次式へ分解すること、分離的とは、L の各元の最小多項式が重根を持たないことです。ℚ を含む体では既約多項式に重根はありません。そのため、この範囲で多項式の分解体を作れば有限ガロア拡大が得られます。分解体を選ぶのは、根の入れ替えを調べる舞台を不足なく用意するためです。

平方根の符号と部分群を一対一に対応させる
有限ガロア拡大 L/K と G=Gal(L/K) に対して、ガロア理論の基本定理は、中間体 K⊂E⊂L と G の部分群 H が一対一に対応すると述べます。ここで ⊂ は等号を許す包含として使います。対応は次の二方向で与えられます。
E→Gal(L/E)
H→Lᴴ={u∈L | すべての σ∈H に対して σ(u)=u}
Lᴴ は H の固定体です。さらに [L:E]=|H|、[E:K]=|G|/|H| が成り立ちます。中間体が大きくなるほど、それを固定する自己同型は少なくなるため、包含の向きが逆転します。また E/K がガロア拡大であることと H が G の正規部分群であることは同値で、そのとき Gal(E/K) は商群 G/H と同型です。単に図の上下を結ぶ定理ではなく、次数と群の大きさまで結びつける定理です。
L=ℚ(√2,√3)、K=ℚ で確かめましょう。まず √3 は ℚ(√2) に入りません。入ると仮定し、√3=a+b√2 と書いて両辺を二乗すると、次の式になります。
3=a²+2b²+2ab√2
1 と √2 は ℚ 上一次独立なので、2ab=0 です。b=0 なら a²=3、a=0 なら b²=3/2 となりますが、どちらも有理数の解を持ちません。有理数の平方を既約分数に直すと、分子と分母の素因数の指数がすべて偶数になるのに、3 や 3/2 はその条件を満たさないからです。したがって √3 を加えると、さらに次数 2 の拡大が生じます。
有限な体の塔 K⊂E⊂L では [L:K]=[L:E][E:K] です。これは E の K 上の基底と L の E 上の基底を掛け合わせると L の K 上の基底になることから従います。今回の拡大次数は 2×2=4 となり、L の元は一意に次の形で書けます。
a+b√2+c√3+d√6、a,b,c,d∈ℚ
L は (x²-2)(x²-3) の分解体です。自己同型は √2 を ±√2 へ、√3 を ±√3 へ送ります。その符号は独立に選べるため、自己同型は全部で 4 個あります。恒等写像を e、√2 だけの符号を変える写像を σ、√3 だけの符号を変える写像を τ とすると、残りは両方の符号を変える στ です。σ と τ は交換し、それぞれを 2 回作用させると e に戻ります。
σ が固定する元を実際に計算します。
σ(a+b√2+c√3+d√6)=a-b√2+c√3-d√6
もとの元と等しくなる条件は b=d=0 です。したがって {e,σ} の固定体は ℚ(√3) です。同様に {e,τ} の固定体は ℚ(√2)、{e,στ} の固定体は ℚ(√6) です。最後の場合、√2 と √3 はどちらも動きますが、その積 √6 は動きません。「根を一つも固定しないなら、数は何も固定されない」という直観が誤りだとわかります。
4 個の元からなるこの群の部分群は、全体、恒等写像だけの群、そして今挙げた大きさ 2 の三つです。よって ℚ と L の間の真の中間体は、この三つで尽くされます。見つけた例を並べただけでなく、それ以外にはないと結論できる点に対応定理の力があります。
方程式の公式へ進むために、可解群を定義します。有限群 G について、G=G₀⊃G₁⊃…⊃Gᵣ={e} という列があり、各 Gᵢ₊₁ が Gᵢ の正規部分群で、各商群 Gᵢ/Gᵢ₊₁ が可換群であるとき、G は可解群です。G 自体が可換である必要はありません。たとえば三つの文字の置換群 S₃ は非可換ですが、偶置換の群 A₃ を使う S₃⊃A₃⊃{e} という列の商群は、それぞれ位数 2 と 3 の巡回群なので可解です。
標数 0 の体 K 上の多項式 f について、f が根号で解けることと、その分解体 L の群 Gal(L/K) が可解であることは同値です。ここで根号で解けるとは、K=K₀⊂K₁⊂…⊂Kᵣ、Kᵢ=Kᵢ₋₁(βᵢ)、βᵢ のある正整数 nᵢ 乗が Kᵢ₋₁ に属する、という有限の体の塔の中に f のすべての根が入ることです。途中で複素数を使うことも許します。補助的な根や 1 の根を加える場合もあるため、分解体そのものがこの形の塔でなければならない、という定義ではありません。
一般の五次方程式のガロア群は S₅ です。正確には、独立な五つの不定元を根とし、その基本対称式から作る有理関数体を係数体にすると、根をすべて加えた拡大の群が S₅ になります。根をどう置換しても基本対称式が変わらず、逆に自己同型は根の置換として決まるためです。個別の有理数係数に置き換えた場合は、群が小さくなることがあります。
S₅ の中には位数 60 の非可換単純群 A₅ があります。単純とは、正規部分群が {e} と群全体しかないことです。A₅ がなぜ障害になるかというと、非可換なまま、それをさらに正規部分群で分けることができないからです。A₅ の共役類の大きさは 1、15、20、12、12 です。正規部分群は恒等元といくつかの共役類の和集合であり、その大きさは 60 の約数でなければなりません。この条件を満たす和は 1 と 60 だけなので、単純性を確かめられます。可解群の部分群も可解であることから、S₅ は可解ではありません。これが一般の五次方程式に根号の公式を作れない理由です。
公式を探す歴史から、存在を判定する理論へ
方程式の歴史では、解を具体的に表す方法が大きな関心でした。二次方程式の平方完成を出発点に考えると、次数が上がっても、適切な置換と計算の工夫があれば根号の式に届きそうに見えます。三次と四次には根号による一般公式があります。それだけに、五次で同じ道が閉じるという結論には、式変形の難しさとは別の説明が必要でした。
Abel の論文は、四次を超える一般の代数方程式を根号で解くことの不可能性に関わる文献です(Abel, 1826)。ここで大切なのは、計算を試みて成功しなかったという経験と、許された操作では一般に成功しないという定理を区別することです。後者を得るには、考えられる有限回の根号操作をすべて射程に入れる必要があります。個別の式変形を長く続けるだけでは、その全体を覆えません。
Ruffini による五次方程式への貢献を歴史的な対象として扱う研究もあります(Ayoub, 1980)。こうした文献の位置づけからは、五次方程式の問題が単一の計算技法の発見だけでなく、何をもって解けたとするか、何を証明すべきかの変化とも結びついた課題だと捉えられます。この見方を持つと、歴史を人名の順番として覚えるよりも、問いの形がどう変わったかを追いやすくなります。
ガロア理論がもたらす転換は、与えられた方程式を、その根の対称性から判定することです。根号を重ねてよいという計算の条件を、可換な商群へ段階的に分けられるという構造の条件へ翻訳します。この翻訳によって、三次と四次の成功、一般の五次の不可能性、特別な五次の可解性を一つの言葉で扱えます。
現在よく使う体、拡大、自己同型という言葉では、出発点となる係数体も明示できます。同じ根でも、どの数を初めから使えるとするかによって最小多項式やガロア群が変わるからです。√2 の ℚ 上の最小多項式は x²-2 ですが、ℚ(√2) 上なら x-√2 です。「この数は何次か」では足りず、「どの体の上で何次か」と尋ねる精密さが必要になります。
この点は学び方にも直結します。五次方程式の話だけを結論として記憶すると、「四次までは簡単、五次からは難しい」という印象で終わります。ところが、ガロア理論の分類は計算量の大小ではありません。四次の公式は複雑でも存在し、五次には短く解けるものもあります。式の長さと、原理的に許された操作で到達できるかを分けて考えることが、歴史から受け取れる数学上の視点です。
作図の限界と、五次方程式を分類する研究
ガロア理論につながる身近な応用が、目盛りのない定規とコンパスによる作図です。座標を設定すると、直線どうしの交点は一次方程式、直線と円、または円どうしの交点は、一次方程式と二次方程式を解く操作で求められます。二つの円の式を引けば二次の部分が消え、直線の式になるためです。したがって、既知の座標から四則演算と平方根を繰り返す範囲が、作図可能性と結びつきます。
単位線分から出発し、有理数を基礎の体としたとき、作図可能な実数は、次数が各段階で 1 または 2 の拡大の塔の中に入ります。逆に、そのような平方根の塔の実数は作図できます。よって作図可能な代数的実数 α の次数 [ℚ(α):ℚ] は 2 のべきです。これは塔全体の次数が 2 のべきで、その次数を [ℚ(α):ℚ] が割り切るためです。ただし、最小多項式の次数が 2 のべきという条件だけで、常に作図可能だとは結論できません。必要なのは実際に二次拡大の塔に入ることです。
一辺が 1 の立方体の体積を 2 倍にする作図を考えると、新しい一辺 α は α³=2 を満たす必要があります。x³-2 が ℚ 上既約であることを確かめましょう。三次式が可約なら一次因子を持つので有理数の根があります。有理根の候補は 1、-1、2、-2 ですが、代入した値は順に -1、-3、6、-10 で、どれも 0 ではありません。したがって最小多項式の次数は 3 です。
3 は 2 のべきではないため、単位線分から定規とコンパスだけで ∛2 を作図することはできません。立方根として短く書けることと、平方根だけを使う作図ができることは違います。根号による可解性と作図可能性を同じものと思わないために、この例は有効です。利用できる道具を変えると到達できる数も変わる、という構造が表れています。
現代の代数的な研究では、単に次数を指定するだけでなく、ガロア群を指定した多項式を調べます。ガロア群 D₅ を持つ五次多項式のパラメータ族を題材にした論文があります(Roland・Yui・Zagier, 1982)。ここで D₅ は正五角形の対称性に対応する位数 10 の二面体群です。この群には位数 5 の回転の巡回部分群があり、その指数は 2 です。そのため、回転の部分群と恒等元だけの群を使って可換な商群へ分けられ、D₅ は可解群です。したがって、ガロア群が D₅ である五次多項式なら根号で解けます。この帰結は可解性の定理から理解でき、個々の根の長い式を先に眺める必要はありません。
一方、ガロア群 A₅ と種数 0 のガロア閉包を持つ五次多項式を題材にした研究もあります(Valentini, 2019)。この題名に現れる種数は幾何的な概念であり、方程式の研究が群だけでなく幾何とも接することを示しています。ここではその分類の詳細へ進む代わりに、A₅ という群を指定して五次多項式を考える、という問いの立て方に注目しましょう。先ほどの標数 0 の設定でガロア群が A₅ なら、非可解性が根号の式の存在を妨げます。
同じ五次でも D₅ と A₅ では結論が変わります。これは「五次には公式がない」という短い言葉からは見えない違いです。研究への入口は、有名な不可能性を覚えることだけではありません。どの群が現れるか、その群を持つ方程式をどう作るか、係数を変えると群がどう変化するかという、具体的な問いを持てるようになることです。
定義の行き来を練習して、対応の向きを見失わない
ガロア理論でつまずく原因は、計算の難しさだけではありません。体の元、元を動かす写像、写像を集めた群、その部分群が固定する体というように、考える対象が何度も切り替わります。「σ が何か」と「σ が動かすものは何か」を曖昧にしたまま進むと、記号が読めても証明の筋が追えなくなります。
ガロア理論の基本定理へ向かう授業で、数学者とその学生 1 人の記録と思考過程を並行して調べた研究は、教える側が配慮して道筋を用意していても、教員と学生の理解に隔たりが現れることを記述しています(Stewart・Schmidt, 2017)。対象はこの授業における数学者と学生の過程であり、特定の勉強法が高校生全般に効果を持つと実証したものではありません。それでも、講師が筋のよい証明を説明したことと、生徒が対象の切替えを自分で扱えることを別々に確かめる必要性を考える手がかりになります。
練習の第一段階では、式の横に所属先を書きます。たとえば √2∈L、σ∈Gal(L/ℚ)、{e,σ}⊂G、L の元 u について σ(u)=u、という具合です。σ∈L と書いてしまったら、計算を続ける前に修正します。数と写像を同じ棚に置かないだけでも、定義を使う場面が見えやすくなります。
第二段階では、固定体を名前から当てず、係数を置いて計算します。a+b√2+c√3+d√6 に写像を作用させ、もとの式との差が 0 となる条件を出します。その際、係数を比較してよい理由として、基底の一次独立性を必ず添えます。答えだけが ℚ(√3) になっても、なぜ b と d が消えるのかを説明できなければ、次の例では同じ手順を使えません。
第三段階では、対応を両方向に往復します。ℚ(√3) を固定する自己同型を求め、得られた {e,σ} の固定体をもう一度求めます。その後で [L:ℚ(√3)]=2 と部分群の大きさ 2 が一致するかを照合します。図をきれいに描く前に、写像、固定される元、次数の三つが同じ答えを指しているかを確かめます。
第四段階では、使った定理の仮定を一行で書きます。ガロア対応を使うなら有限ガロア拡大か、可解性の定理を使うなら係数体の標数や分解体は何かを確認します。ℚ(∛2)/ℚ のように一つの実根だけを加えた例では、非実根が入らず正規性が欠けます。この例と分解体を並べると、「仮定があるから便利な結論を使える」という関係を具体的に学べます。
高校生のうちは、平方完成、有理化、因数分解の各計算について、どの数の範囲で行っているかを書き添える練習ができます。x²-2 は ℚ では既約ですが、ℝ では (x-√2)(x+√2) と分解できます。「因数分解できない」という答えに係数の範囲を補うだけで、大学の定義へ向かう準備になります。さらに、√2 の無理性の証明を、仮定と矛盾がどこにあるか説明しながら書く練習も役立ちます。
塾の講師が担うのは、答案のどの行で対象が取り違えられたかを見つけ、そこまで戻って問いを小さくすることです。模擬授業のノートを開き、「符号を変えても積は保たれる」と説明するなら、まず √2×√3 の行き先を二通りに計算してもらいます。用語を覚えたかだけでなく、定義から手が動くかを確かめます。ご家庭では、お子さまに専門用語の暗唱を求めるより、「今日の例では何を動かさなかったの」と聞く程度で十分です。途中の説明が止まっても、考える時間とノートを広げる場所を持てることが支えになります。
ここで手が止まるなら、止まった単元まで一緒に戻ります。武蔵境の数学塾(1 対 1)/お問い合わせ
五次方程式について残りやすい三つの疑問
五次方程式は一つも根号で解けないのですか
そうではありません。x⁵-2=0 の根は、α=⁵√2 と 1 の原始五乗根 ζ を使って α、αζ、αζ²、αζ³、αζ⁴ と書けます。ζ 自体も根号で表せるので、この方程式は根号で解けます。たとえば虚部が正のものの一つは、ζ=(√5-1)/4+i√(10+2√5)/4 です。一般公式の不可能性は、こうした特別な五次方程式の可解性を否定しません。
根号の公式がなければ、計算機でも根を求められませんか
近似値を求めることと、有限回の根号で厳密に表すことは異なります。実数の根なら、連続性を使って根を含む区間を狭めるなどの方法があります。ガロア理論の不可能性は数値計算を禁止する主張ではありません。近似計算には誤差の管理が必要であり、根号表示には代数的な存在条件が必要です。目的に合わせて別の道具を使います。
線形代数や群論を全部終えてから学ぶべきですか
すべてを終えるまで待つ必要はありませんが、基底と次元、写像の合成、部分群と正規部分群は繰り返し使います。まず ℚ(√2) と ℚ(√2,√3) を計算し、必要になった言葉を補う進み方ができます。ただし、定義を飛ばして有名な結論だけをつなぐと、何が証明されたのかが曖昧になります。小さい例を定義どおりに扱えることを、進む目安にしてください。
オープンキャンパスの黒板にあった「公式はない」という言葉は、条件を補うことで、数学の精密な問いに変わりました。どの体から出発するか、どの根を加えるか、どの入れ替えが許されるかを追うと、不可能性の理由が見えてきます。解が書ける例と書けない一般の場合を同じ定理で説明できるところに、抽象化の価値があります。次に方程式の根号を見たときは、その記号によって数の範囲がどう広がったかを一行書き添えてみてください。公式を探す手は、公式の存在を判定する手へと育ちます。
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あわせて読む(数学の地図・高校数学の単元解説)
参考文献
- Abel, N. H.(1826)「The proof of the impossibility of solving algebraic equations of degrees higher than four in radicals」Journal für die Reine und Angewandte Mathematik. https://doi.org/10.1515/crll.1826.1.65
- Ayoub, R. G.(1980)「Paolo Ruffini’s contributions to the quintic」Archive for History of Exact Sciences. https://doi.org/10.1007/bf00357046
- Roland, G., Yui, N., Zagier, D.(1982)「A parametric family of quintic polynomials with Galois group D5」Journal of Number Theory. https://doi.org/10.1016/0022-314x(82)90087-7
- Valentini, Robert C.(2019)「Quintic polynomials having Galois closure of genus zero with Galois group A5」Finite Fields and Their Applications. https://doi.org/10.1016/j.ffa.2019.05.004
- Stewart, Sepideh, Schmidt, Ralf(2017)「Accommodation in the Formal World of Mathematical Thinking」International Journal of Mathematical Education in Science and Technology. https://doi.org/10.1080/0020739x.2017.1360527
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