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環と体 整数と多項式に共通する構造|武蔵野個別指導塾
整数の余りと多項式の割り算を結び、環・整域・体の違いを計算で確かめます。4個の元を持つ体の作り方から、イデアルと情報の誤り検出へのつながりまでたどれます。

環と体 整数と多項式に共通する構造
割り切れない計算を持ち帰る夕方
部活帰りのコンビニのイートインで、飲み物の横に数学のノートを開く場面を考えてみます。狭いテーブルに収まるように筆箱を端へ寄せ、整数の問題の横に、多項式の割り算を書きます。「17を5で割ると余り2」と「x²をx + 1で割ると余り1」。見た目は違いますが、どちらも「割る数の倍数を引き、残りを小さくする」という操作です。高校では別々の単元に置かれていた計算が、同じ仕組みに見えてきます。
ところが、割り算そのものには違いがあります。整数だけで計算するなら、1を2で割った答えは整数の外へ出ます。有理数まで使えば1/2が答えになります。多項式でも、xをx + 1で割った商を、そのまま多項式として書くことはできません。余りを認めて割ることと、逆数を掛けて割ることは別の話です。
大学の代数学は、この違いを曖昧にせずに扱います。足し算と掛け算がどんな規則に従うか、0でないもの同士を掛けて0になるか、0でないものに逆数があるか。それぞれの問いに答えるための言葉が、環、整域、体です。複雑な式を速く処理する以前に、いまの計算で許されている操作を確かめます。
環と体は、多くの理系学部で1〜2年の基礎数学から先の代数学へ進む際に出会う概念です。高校生のうちから全ての抽象的な証明を読める必要はありません。余りを出す計算と約分する計算を区別できれば、入口はすでにあります。整数と多項式を行き来しながら、共通点を定義として取り出してみましょう。

高校の余りが二つの世界をつなぐ
数学Aで扱う整数の性質には、割り算と余り、最大公約数があります。数学IIの式の計算には、多項式の除法や因数定理があります。これらをつなぐ最初の道具は、割られるものを「割るもの×商 + 余り」と書き直すことです。
17 = 5 × 3 + 2
x² = (x + 1)(x – 1) + 1
2番目の式は、右辺を展開すれば確かめられます。整数では余りを0以上で割る数より小さくします。多項式では、0でない余りの次数を、割る多項式の次数より小さくします。数の大小と次数という違いはありますが、余りの複雑さを制限している点は共通です。
もう少し長い計算をしてみます。有理数係数の多項式x³ + 2x + 1をx² + 1で割ると、最初にxを商に置きます。x(x² + 1) = x³ + xを引けば、x + 1が残ります。これは次数が1で、割る多項式の次数2より小さいので終了です。
x³ + 2x + 1 = x(x² + 1) + (x + 1)
このとき、係数にどんな数を許すかが重要です。有理数係数なら、xを2xで割った商を1/2とできます。しかし整数係数では、商に1/2を置けません。整数係数の範囲でx = (2x)q + rと書き、rの次数を1未満にしようとしても、xの係数を合わせるにはqの定数項が1/2である必要があり、条件を満たせません。高校では係数の範囲を意識しないまま進められた操作にも、実は前提があります。
余りだけを記録する計算も考えましょう。5で割った余りが同じ整数を一組にすると、17と2は同じ組に入ります。17 + 9の余りは1ですが、先にそれぞれの余り2と4を足し、その結果6の余りを取っても1です。掛け算でも17 × 9の余りと2 × 4の余りはともに3になります。巨大な整数を最後まで持ち歩かなくても、余りの情報だけで足し算と掛け算ができます。
大学数学が問うのは、こうした成功例が偶然ではない理由です。どの代表の整数を選んでも答えが同じ組に入るのか。引き算もできるのか。割り算はどこまでできるのか。ここを整理すると、「余り」は単に捨てずに残った数ではなく、新しい計算世界の元になります。
環・整域・体を操作の条件で見分ける
ここでは、環を単位元1を持つ可換環として扱います。一般の環では掛け算の交換法則を要求しないこともありますが、整数と1変数多項式を比べる間は可換環に範囲を絞ります。「環」という語の約束を先に決めておくと、定義の読み違いを防げます。
集合Rに、Rの元同士を再びRの元へ送る二つの演算、足し算と掛け算があるとします。環の足し算は交換法則と結合法則を満たし、0と加法逆元を持ちます。記号では、任意のa, b, c ∈ Rについて次が成り立ちます。
a + b = b + a
(a + b) + c = a + (b + c)
a + 0 = a、a + (-a) = 0
掛け算についても結合法則と交換法則があり、単位元1があります。また、足し算と掛け算は分配法則で結ばれます。
(ab)c = a(bc)、ab = ba、1a = a
a(b + c) = ab + ac
ここでabはaとbの積です。引き算a – bはa + (-b)という意味で、追加の独立した演算ではありません。整数全体Zはこの条件を満たします。有理数全体Qも実数全体Rも環です。ただし集合を表す一般の文字Rと実数全体を表すRは、文脈で区別します。環の公理には、まだ割り算は含まれていません。
整域とは、1 ≠ 0である可換環で、零因子がないものです。条件は次の形で表せます。
∀a, b ∈ R、ab = 0 ⇒ a = 0 または b = 0
0でないaに対し、0でないbでab = 0となるものが存在するとき、aを零因子といいます。Zは整域です。整域では、a ≠ 0かつab = acならb = cが従います。実際、a(b – c) = 0として定義を使えばb – c = 0です。この消去法則は高校の約分に似ていますが、aの逆数を用意したわけではありません。
体とは、1 ≠ 0である可換環で、0でない全ての元に乗法逆元があるものです。言葉では「0以外でいつでも割れる」、記号では次の条件です。
∀a ∈ R、a ≠ 0 ⇒ ∃b ∈ R、ab = 1
逆元bは一意であり、1/aと書けます。Qや実数全体は体ですが、Zは体ではありません。整数2の逆元となる整数は存在しないからです。体は必ず整域です。ab = 0でa ≠ 0なら、両辺にaの逆元を掛けてb = 0を得ます。逆に整域だから体とは限らないことは、Zが教えてくれます。
次に、環の一部をまとめて0とみなす仕組みを定義します。可換環Rの部分集合Iがイデアルであるとは、0 ∈ Iであり、任意のu, v ∈ Iについてu – v ∈ I、さらに任意のr ∈ Rとu ∈ Iについてru ∈ Iとなることです。引き算で閉じ、環のどの元を掛けても外へ出ないことが条件です。
例えばnZ = {nk | k ∈ Z}はZのイデアルです。nの倍数同士の差はnの倍数で、整数を掛けてもnの倍数のままだからです。一方、奇数全体は0を含まず、差も奇数とは限らないのでイデアルではありません。見た目に整った集合であることと、必要な演算で閉じていることは別です。
aとbの差がIに入るとき、aとbを同じものとみなし、その組を[a]と書きます。[a]は正確には集合a + I = {a + u | u ∈ I}です。これらを集めた剰余環R/Iでは、次のように計算します。
[a] + [b] = [a + b]、[a][b] = [ab]
なぜ代表a, bの選び方によらないのでしょうか。a – a′ ∈ I、b – b′ ∈ Iなら、ab – a′b′ = (a – a′)b + a′(b – b′) ∈ Iです。ここで、環の元を掛けてもIにとどまるという条件が効いています。イデアルは、剰余類の掛け算を矛盾なく定めるための条件なのです。
nを2以上の整数とすると、Z/nZには[0], [1], …, [n – 1]のn個の元があります。Z/6Zでは[2][3] = [0]なので、これは整域ではありません。Z/5Zでは事情が変わり、後で示すように体になります。同じ余りの仕組みでも、何で割るかによって許される操作が変わります。

互除法から4個の元を持つ体まで
最初の定理は、整数n ≧ 2について「Z/nZが体であることと、nが素数であることは同値である」です。素数なら0でない剰余類は全て逆元を持ちます。合成数なら零因子が現れます。元が有限個あるというだけでは、体とはいえません。
素数pについて、[a] ≠ [0]ならaとpの最大公約数は1です。整数の互除法から、ある整数u, vが存在してau + pv = 1と書けます。pの倍数を0とみなせば[a][u] = [1]となり、逆元が見つかります。逆にnが合成数ならn = ab、1 < a, b < nとなる整数を選べるので、[a]と[b]は0でないのに積は0です。体には零因子がないため、この場合は体になりません。
具体的にZ/7Zで[3]の逆元を探しましょう。
7 = 2 × 3 + 1
1 = 7 – 2 × 3
したがって逆元は[-2] = [5]です。3 × 5 = 15の7による余りは1ですから、計算からも確かめられます。合同式3x ≡ 4(mod 7)の両辺に5を掛ければ、x ≡ 20 ≡ 6(mod 7)です。代入して3 × 6 = 18の余りが4になることも確認できます。
これに対しZ/6Zの2x ≡ 2(mod 6)には、x ≡ 1とx ≡ 4という異なる解があります。両辺の2を消してx ≡ 1だけを答えにすることはできません。2 × 1も2 × 4も余り2になるからです。「同じものを両辺から消す」操作にも、整域で使える消去法則や、体で使える逆元という裏づけが必要です。
この証明に出てきた互除法を、一般の環へ広げます。ユークリッド環とは、整域Dで、0でない元aに非負整数δ(a)を対応させ、任意のa ∈ D、0でないb ∈ Dについて、a = bq + rかつ「r = 0またはδ(r) < δ(b)」となるq, r ∈ Dが存在するものです。ここではこの除法条件を採用します。Zではδ(a) = |a|、体Kを係数とする多項式環K[x]ではδ(f) = deg fを使えます。deg fは0でない多項式fの次数です。
K[x]は、係数がKに属する1変数多項式全体で、通常の足し算と掛け算を行う環です。Kが体なら、最高次の係数で割って次々に次数を下げられます。互除法が止まる理由は、0でない余りの次数が非負整数の範囲で厳密に下がるからです。整数係数のZ[x]は整域ですが、先ほどのxを2xで割る例のように、次数を使う同じ除法はできません。
ユークリッド環の大きな性質は、全てのイデアルが1個の元で生成されることです。この主張の核だけを追ってみましょう。0でないイデアルIの中からδの値が最小の元bを選びます。a ∈ Iをbで割った余りr = a – bqもIに属します。rが0でなければδ(r) < δ(b)で最小性に反するため、r = 0です。つまりIの全ての元はbの倍数で、I = (b)となります。零イデアルは(0)なので、こちらも1個の元で生成されます。
次の定理へ進む前に、既約多項式を定義します。体K上の正の次数の多項式fが既約であるとは、f = ghとK[x]で因数分解したとき、gかhのどちらかが定数でなければならないことです。正の次数の二つの因子に分けられない、という意味です。係数の体を明記するのが大事で、x² + 1は実数係数では既約ですが、複素数係数では(x – i)(x + i)に分かれます。i² = -1だからです。
定理は「Kが体、f ∈ K[x]が正の次数の多項式なら、K[x]/(f)が体であることと、fが既約であることは同値である」です。(f)はfの多項式倍全体です。既約なfに対して、[g] ≠ [0]ならfはgを割り切らず、fとgの最大公約数は1です。多項式の互除法からug + vf = 1を得て、[u][g] = [1]とできます。整数の素数についての証明と、まったく同じ要所を通っています。
逆にf = ghと正の次数の二つの多項式に分かれたら、gとhの次数はfより小さいので、その剰余類は0ではありません。それでも[g][h] = [f] = [0]です。したがって剰余環は体ではありません。既約性は、剰余環で零因子の出現を防ぐ条件になっています。
この定理を使って、4個の元を持つ体を作ります。F₂ = Z/2Zとし、f = x² + x + 1を考えます。F₂ではf(0) = 1、f(1) = 1です。二次多項式が体上で可約なら一次因子を持ち、根を持つので、根がないfは既約です。なお、根がないことだけで既約と判断できるのは二次・三次の場合で、もっと高い次数では同じ判定は使えません。
F₂[x]/(x² + x + 1)で[x]をαと書くと、どの元もa + bα、a, b ∈ F₂の形でただ一つに表せます。余りの次数を2未満にできるからです。元は0, 1, α, 1 + αの4個です。係数は2で割った余りで計算するので1 + 1 = 0、また剰余環の関係式からα² = α + 1です。
α(α + 1) = α² + α = (α + 1) + α = 1
よってαとα + 1は互いに逆元です。1の逆元は1なので、0以外の全ての元で割れます。一方、Z/4Zでは[2]² = [0]です。どちらも元は4個ですが、一方は体で他方は体ではありません。個数を数えるだけでなく、演算の規則を決めて初めて構造を比較できます。
一般に、素数pとFₚ上の次数mの既約多項式fがあれば、Fₚ[x]/(f)の元は次数m未満の多項式の余りで表せます。m個の係数それぞれにp通りの選択肢があるため、元の個数はpのm乗です。この数え方が、整数の余りだけでは作れなかった有限体へ進む入口です。
数そのものからイデアルの関係へ
環の抽象化は、見慣れた計算をわざと難しい言葉で包み直したものではありません。整数に似た対象を扱いたい場面と、多項式が定める図形を扱いたい場面から、共通の演算を整理する必要が生まれました。環論の初期史を扱う研究では、可換環論の起源として代数的整数論、代数幾何、不変式論が挙げられ、代数体などの整数環や多変数多項式環の役割が述べられています(Kleiner, 1998)。
高校の整数では素数への分解が基本になります。しかし数の範囲を広げれば、どの整数で通用した性質が残るのかを一つずつ調べなければなりません。また、多項式を一つの変数から複数の変数へ増やすと、「次数が下がるから同じ手順で解ける」とは限りません。共通の公理があることは、全ての環で同じ定理が成り立つことを意味しないのです。
イデアルの言葉を使うと、複数の式が作る制約を一つの対象として持てます。例えばZ[x]のイデアル(2, x)は、2A(x) + xB(x)と書ける多項式全体です。これは定数項が偶数の多項式全体と一致します。実際、その形なら定数項は2A(0)で偶数です。逆に定数項が2kなら、多項式から2kを引いた残りはxの倍数なので、2k + xB(x)と書けます。
このイデアルは、1個の多項式では生成できません。もし(2, x) = (h)なら、hは2を割り切るため定数であり、整数として±1か±2です。±1で生成すれば1まで含んでしまいますが、1の定数項は奇数です。±2で生成すればxを含められません。したがってZ[x]では全てのイデアルが1個の元から生まれるわけではありません。この事実は、Zと体上のK[x]にあった互除法の便利さを、整数係数の多項式へ無条件に移せないことを示します。
さらに研究では、与えられた多項式が、別の多項式たちの作るイデアルに入るかという問題を扱います。整数係数の多変数多項式について、このイデアル所属問題への新しい方法と、表現に必要な係数多項式の次数の評価を扱った研究があります(Aschenbrenner, 2004)。「ある組合せで書けるはずだ」という存在の問いに加え、どれほど複雑な多項式を探せばよいかが問題になります。
小さな例では、x² + 2は(2, x)に入ります。2 × 1 + x × xという書き方が所属の証明になるからです。x + 1は入りません。定数項を調べるだけで矛盾が出ます。この例は研究の一般的な計算量を説明するものではなく、所属を示すには表現を作り、非所属を示すには全ての表現に共通する制約を探す、という問題の形を見せています。数の答えを一つ出す計算から、表現の存在を判定する計算へと視野が広がります。
有限体で情報の変化を見つける
有限体を使うと、限られた種類の記号の中で足し算、引き算、0以外での割り算を完結させられます。情報を有限個の記号で扱う際に、この性質が役立ちます。符号理論は、伝える情報に規則的な余分の情報を加え、途中で生じた変化を見つけたり、条件が整えば直したりするための数学です。
有限体上の双線形形式と符号理論への応用を結びつけた論文もあります(Delsarte, 1978)。双線形形式とは、二つのベクトルを受け取り、一方を固定すると他方について線形になる写像です。有限体の上でも、ベクトルの足し算やスカラー倍を定義できるため、線形代数と環・体の話がここでつながります。以下では、その論文固有の構成とは区別して、有限体で誤り検出が働く小さな計算を見ます。
F₅ = Z/5Zを使い、二つの記号a, bを一次以下の多項式P(t) = a + btに入れます。送る情報はa, bそのものではなく、P(0), P(1), P(2)の三つにします。例えばa = 2、b = 3なら、三つの値は5で割った余りで次のようになります。
(P(0), P(1), P(2)) = (2, 0, 3)
これらをy₀, y₁, y₂とすれば、正しい並びは必ず次を満たします。
y₀ – 2y₁ + y₂ = 0
実際、a – 2(a + b) + (a + 2b) = 0だからです。三つのうちちょうど一つが異なる記号に変わると、左辺の変化はそれぞれe、-2e、eになります。ここでeはF₅の0でない元です。1と-2はF₅で0でなく、体には零因子がないため、この変化は0になりません。従って、1か所だけの変化は必ず検出できます。
送られた(2, 0, 3)が(2, 1, 3)に変わった場合、検査式の左辺は2 – 2 + 3 = 3で、0にはなりません。ただし、これだけではどの位置が変わったかを一意に決められません。また、複数の位置の変化は打ち消し合うことがあります。検出できる条件を明確にして初めて、方法の性能を正しく説明できます。
一方、どの位置が失われたかわかっている場合は別です。三つのうち異なる二つの位置s, tの値が残れば、P(t) – P(s) = b(t – s)からbを求められます。位置を0, 1, 2から選ぶのでt – sはF₅で0ではなく、割り算ができます。その後a = P(s) – bsです。例の0番目と2番目が残れば、3 – 2 = 2bとなり、2の逆元3を掛けてb = 3、a = 2を復元できます。
ここで重要なのは、普通の整数でも同じ割り算をすればよい、とはならないことです。F₅だから、0でない差で割っても答えが同じ5種類の記号の中にとどまります。先ほど作った4個の元を持つ体も、係数の計算規則を整えれば同様に情報の記号として使えます。有限集合に体の構造を持たせる理由が、復元に必要な割り算という具体的な操作に現れています。
証明の前に計算する場所を確かめる
環と体でつまずきやすいのは、定義を覚えられないことだけではありません。実数で通用した操作を、同じ文字を使っているという理由で別の環にも持ち込むことです。ab = acからb = cへ進んだ行、分母を払った行、最高次の係数で割った行。その操作が許される条件を余白に書く習慣が、抽象的な証明を読む助けになります。
抽象代数を履修する大学生を対象に、修正Moore学習法と数学的理解・証明能力を検討した研究では、証明を構成する課題は数学的理解の課題より難しかったと報告されています(Maya・Sumarmo, 2011)。対象はインドネシアの一つの大学の学生56人であり、この結果だけで日本の高校生に同じ学習法の効果があるとはいえません。それでも、説明を読んで納得することと、自分で証明を組み立てることを、別々に確かめる必要を考える材料になります。
学習の手順は、まず「計算する場所を最初に書く」ことです。Z、Q、Z/6Z、F₅[x]のどこなのかを明記します。同じ2でも、Qでは逆元を持ち、Zでは持たず、Z/6Zでは零因子です。文字の見た目ではなく所属先を判断の出発点にします。
次に「定義を一つの操作に翻訳する」ことです。体なら、0でない元を一つ選び、その逆元を探します。イデアルなら、差を取る操作と環の元を掛ける操作を実行し、結果が集合に残る理由を書きます。例をいくつか試しただけでは一般の証明にはなりませんが、証明すべき条件を取り違えていないか点検できます。
三つ目は「定理の仮定を一つ外してみる」ことです。Z/pZのpを素数5から合成数6へ変えると、どの証明の行が止まるでしょうか。既約多項式を使う代わりにF₂[x]でx² + x = x(x + 1)を使えば、剰余環で[x]と[x + 1]はともに0でないのに積は0です。成功する例と失敗する例を隣に置くと、仮定の役割を確認できます。
四つ目は「証明の骨組みを閉じたノートで再現する」ことです。Z/7Zで逆元を求める計算を見直した後、なぜ素数なら同じ議論が通るかを、最大公約数、1を表す等式、剰余類の順に書きます。式の数値だけを覚えた状態から、別の入力にも使える理由へ移る練習です。
高校生のうちにできる準備は、整数の互除法と多項式の除法を丁寧に残すことです。答えの余りだけで終わらず、割られるものを「割るもの×商 + 余り」に戻して確かめます。因数分解では、整数係数なのか実数係数なのかも言葉にします。新しい用語を増やす前に、知っている計算の前提を見つけられるようにしておくと、大学の定義が具体的な手触りを持ちます。
塾が担うのは、途中の一行を一緒に点検し、計算ミスと条件の取り違えを区別することです。「ここで2を消してよい理由は何か」と尋ね、すぐに答えを渡す前に、使っている環を書き直してもらいます。家庭では、お子さまが新しい用語を滑らかに言えるかより、どの例なら成り立ち、どの例なら成り立たないと話しているかに耳を傾けられます。短い説明を聞いてもらえる時間があれば、授業で考えた条件を言葉にし直す場になります。
ここで手が止まるなら、止まった単元まで一緒に戻ります。武蔵境の数学塾(1 対 1)/お問い合わせ
環と体を学ぶ前に尋ねたい三つのこと
環・整域・体は別々に暗記するものですか
包含関係を、許される操作と結びつけて整理すると覚えやすくなります。この文章の約束では、体は整域であり、整域は可換環です。環では足し算、引き算、掛け算ができ、整域では0でない元の消去法則が成り立ち、体では0でない元の逆元が存在します。ただし整域で消去できることと、逆元がその整域の中にあることは異なります。Zの2を思い出せば、この違いを保てます。
多項式は数のように扱ってよいのですか
多項式を一つの元として足したり掛けたりできますが、数と同じ性質を全て持つわけではありません。体K上のK[x]も、xの逆元を多項式としては持たないので体ではありません。一方、既約多項式fの倍数を0とするK[x]/(f)では、0でない剰余類に逆元が生まれます。何を元とみなし、何を同じとみなしたかによって、構造が変わります。
有限体に大小関係はありますか
表示する順番は決められますが、実数のように足し算と掛け算に整合する順序を有限体に入れることはできません。順序体では1 > 0なので、1を繰り返し足すと値が厳密に増えます。しかし有限体では値の種類が有限個しかなく、いつまでも異なる元が増え続けることはありません。有限体では大小ではなく、等しいか、逆元があるか、どんな式を満たすかを調べます。
部活帰りのイートインで書いた二つの割り算は、ここまで来ると単なる似た計算ではありません。整数と多項式には、余りを減らし、最大公約数を求め、逆元の存在を示す共通の道筋があります。同時に、係数の範囲を変えたり、合成数の余りを使ったりすると、その道筋のどこが通れなくなるかも見えます。
新しい定義に出会ったら、まず小さな元を選び、足し、掛け、必要なら逆元を探してみてください。計算の途中で使った条件を言葉に戻せれば、抽象代数の証明は読める部分から着実につながります。整数と多項式を結ぶ鍵は、答えだけでなく、その答えを出せる条件を見つめることにあります。
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あわせて読む(数学の地図・高校数学の単元解説)
参考文献
- I Kleiner(1998)「From numbers to rings: The early history of ring theory」Elemente der Mathematik. https://doi.org/10.1007/s000170050029
- Matthias Aschenbrenner(2004)「Ideal membership in polynomial rings over the integers」Journal of the American Mathematical Society. https://doi.org/10.1090/s0894-0347-04-00451-5
- P. Delsarte(1978)「Bilinear forms over a finite field, with applications to coding theory」Journal of Combinatorial Theory Series A. https://doi.org/10.1016/0097-3165(78)90015-8
- Rippi Maya, Utari Sumarmo(2011)「Mathematical Understanding and Proving Abilities: Experiment With Undergraduate Student By Using Modified Moore Learning Approach」Journal on Mathematics Education. https://doi.org/10.22342/jme.2.2.751.231-250
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