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群論 対称性を代数で扱う|武蔵野個別指導塾
正方形の回転と3個の並べ替えから群の公理を確かめ、剰余類、ラグランジュの定理、商群へ進みます。操作の順序や代表元の選び方を具体的に計算し、対称性を式で扱う方法を身につけます。

群論 対称性を代数で扱う
夕方の面談席で、正方形を回してみる
夕方の面談席で、進路の話をするためのメモ用紙を脇へ寄せ、正方形の紙を1枚置いてみます。角の1つに小さな印をつけ、紙を中心のまわりに直角だけ回します。印の場所は変わりますが、紙が占める領域は元と重なります。さらに同じだけ回しても、やはり外形は変わりません。この「変えても残るもの」を、大学の数学では計算の対象にします。
高校では、数を計算した結果や、図形の長さと角度を求めることが多かったでしょう。ここで注目したいのは紙そのものより、紙を回すという操作です。直角の回転を2回続けることと、半回転を1回することは、どの点の移り先についても同じです。操作を続けて行うことを一種の掛け算と考えれば、図形を動かす手順にも計算規則が見えてきます。
その規則をまとめるのが群論です。群は「対称な形の集まり」という意味ではありません。元の状態へ戻せる操作を、組み合わせる規則とともに扱うための数学的な構造です。数の足し算、図形の回転、物の並べ替えが、共通の公理を満たす例として現れます。
大学の数学で群を学ぶ理由は、見かけが違う計算の共通部分を取り出し、一度証明したことを別の場面でも使えるようにするためです。まずは小さな操作を実際に追い、その後で、何を同じものとみなせば計算が保たれるかを考えます。群論の抽象性は、その具体的な問いの先にあります。

複素数の掛け算と余りの計算が入口になる
高校の複素数平面では、虚数単位 i を掛けると、原点のまわりに反時計回りに直角だけ回転します。たとえば z=1+2i に順に i を掛けると、次のようになります。
i(1+2i)=-2+i
i(-2+i)=-1-2i
i(-1-2i)=2-i
i(2-i)=1+2i
4回で最初の複素数に戻りました。途中で使ったのは i²=-1 という高校の計算規則です。この過程を、特定の点ではなく複素数平面全体に働く写像として見ると、回転の合成を考えていることになります。i を掛ける操作を r と書けば、r⁴=e です。ここで e は何も動かさない恒等変換です。e は数の0という意味ではなく、この操作の世界で何もしない元を表す記号です。
正方形の中心を原点に置けば、e、r、r²、r³ はその正方形を自分自身に重ねる回転になります。r² の後に r³ を行うと、合計で直角5回分ですが、1周分を除けば直角1回分なので、結果は r です。
r³r²=r⁵=r
ここには整数の余りの計算が現れています。指数を4で割った余りだけ見れば、回転の結果が決まります。ただし r⁴=e と書けることと、r⁴=0 と書くことは違います。何もしない操作を行っても、正方形や点が消えるわけではありません。
もう1つの入口は合同式です。整数 a と b の差が6の倍数であるとき、a≡b mod 6 と書きます。この関係で整数をまとめ、余り0から5までを代表として選びます。たとえば4と5を足すと9ですが、6で割った余りとしては3です。余りを表す記号を [a] とすれば、
[4]+[5]=[9]=[3]
となります。[4] は整数4だけを表しているのではなく、4と同じ余りを持つ整数全体を表しています。代表を10に変えても、10+5=15 の余りは3で、結果は変わりません。この「代表を替えても答えが変わらない」という確認は、後で商群を作るときの中心になります。
高校の段階では、複素数の計算と整数の余りは別の単元に見えます。群論では、どちらにも「2つを組み合わせる」「何もしないものがある」「打ち消すものがある」という規則があると捉えます。具体的な計算力を捨てるのではなく、その計算が成り立つ理由を、数の種類に依存しない言葉で整理するのです。
群の公理から置換と同型までをつなぐ
群(group)とは、空でない集合 G と、その任意の2元 a、b に対して G の元 ab を1つ定める二項演算が、次の条件を満たすものです。まず演算の結果が常に G に入ることを閉性といいます。その上で、結合法則、単位元の存在、逆元の存在を要求します。記号では次のように書けます。
任意の a,b,c∈G に対して、(ab)c=a(bc)
ある e∈G が存在して、任意の a∈G に対して、ea=ae=a
任意の a∈G に対して、ある b∈G が存在して、ab=ba=e
最後の b を a の逆元といい、a⁻¹ と書きます。結合法則は括弧の位置を変えてよいという条件で、ab=ba という交換法則とは異なります。交換法則まで満たす群を可換群、またはアーベル群といいます。一般の群では積の順序を変えられません。
整数全体 Z は、足し算を演算とすれば群です。単位元は0で、整数 a の逆元は -a です。一方、0を含む整数全体を掛け算で群にすることはできません。0には積を1に戻す相手がなく、2にも整数の範囲で逆数がありません。「整数は群です」とだけ言わず、どの演算を使っているかを必ず添える必要があります。
正方形の回転の集合 {e,r,r²,r³} も群です。回転を続けてもこの4つのどれかになり、写像の合成には結合法則が成り立ちます。r の逆元は r³、r² の逆元は r² です。1つの元 g の整数乗をすべて集めて得られる群を巡回群といいます。記号では、⟨g⟩={gⁿ | n∈Z} です。負の指数は逆元を繰り返し掛ける意味で、g⁰=e とします。
部分群(subgroup)とは、群 G の空でない部分集合 H が、G と同じ演算でそれ自身も群になるものです。判定には、e∈H であることと、任意の a,b∈H に対して ab∈H、a⁻¹∈H であることを確かめれば十分です。結合法則は G から受け継がれます。正方形の回転群の中では {e,r²} が部分群です。しかし {e,r} は部分群ではありません。r と r を合成した r² が集合の外に出るためです。
次に、3つの位置を並べ替えます。集合 {1,2,3} から自分自身への全単射を置換といい、その全体を S₃ と書きます。演算は写像の合成です。以下では積 ab を「先に b、次に a を行う」と約束します。a=(12) は1と2を交換して3を固定する置換、b=(23) は2と3を交換して1を固定する置換です。
ab では、1は b で動かず a で2へ、2は b で3へ移り a で動かず、3は b で2へ移り a で1へ行きます。したがって ab=(123) です。この記号は1→2→3→1という巡回を表します。順序を逆にすると ba=(132) になり、結果が違います。S₃ は可換ではありません。3個の位置の移り先は順に3通り、2通り、1通りから選ぶため、元の個数は3×2×1=6です。
異なる群を比較するためには、準同型(homomorphism)を使います。群 G から群 K への写像 f が準同型であるとは、任意の a,b∈G に対して次が成り立つことです。
f(ab)=f(a)f(b)
左辺は G で計算してから写し、右辺は先に K へ写してから K の演算を行っています。演算記号は同じでも、左右で計算する場所が違います。この式が成り立ち、さらに f が全単射なら、f は同型と呼ばれます。同型な群は、元の名前を対応させれば同じ演算構造を持ちます。
整数を4で割った余りの加法群から正方形の回転群へ、[k] を rᵏ に対応させる写像は同型です。指数が4だけ違っても回転は同じなので対応は定まり、余りの足し算が回転の合成に対応します。4つの余りと4つの回転が1対1に対応することも確認できます。これが、整数と図形の間で「同じ構造」と言うことの正確な意味です。

剰余類を数え、商群の計算を確かめる
有限群 G の元の個数を |G| と書き、群の位数と呼びます。ラグランジュの定理は、「有限群 G の部分群 H に対して、|H| は |G| を割り切る」という定理です。群であること、部分群であること、G が有限であることが仮定です。集合の大きさだけを見て任意の部分集合に適用することはできません。
証明のために、a∈G に対する左剰余類 aH を定義します。
aH={ah | h∈H}
これは H の各元に左から a を掛けて得られる集合です。写像 h→ah は H から aH への全単射になります。全射であることは定義どおりです。ah₁=ah₂ なら左から a⁻¹ を掛けて h₁=h₂ となるので、単射でもあります。したがって各剰余類の元の個数は |H| です。
次の一歩が証明の要です。2つの左剰余類は、共通部分を持てば全体が等しくなります。実際、ah₁=bh₂ となる元があれば、a=bh₂h₁⁻¹ です。任意の h∈H について ah=b(h₂h₁⁻¹h) となり、括弧内は H の元なので aH は bH に含まれます。逆向きも同様です。しかも任意の a は ae と書けるため aH に属します。
つまり G は、互いに重ならず同じ大きさの左剰余類に分かれます。左剰余類の個数を [G:H] と書くと、
|G|=[G:H]×|H|
となります。単に整った掛け算の式を覚えるより、「重ならない同じ大きさの袋に分けた」と説明できることが大事です。
具体的に、6で割った余りの加法群 G=Z/6Z を考えます。ここでは表記を軽くするため [0] などを0と書き、足し算は常に6で割った余りで行います。H={0,2,4} は部分群です。左剰余類は加法に合わせて a+H と書きます。
0+H={0,2,4}
1+H={1,3,5}
2+H={2,4,0}=H
残りの元から作る剰余類も、この2種類のいずれかです。G の6個の元を、3個ずつの2組に分けたので、6=2×3となります。なお1+H は部分群ではありません。単位元0を含まないからです。剰余類は部分群を平行移動したような集合ですが、それ自身がいつも部分群になるわけではありません。
元 g の位数とは、gᵐ=e となる最小の正整数 m です。そのような m が存在しなければ位数は無限です。有限群では ⟨g⟩ が部分群になることから、元の位数も |G| を割り切ります。S₃ では (12) の位数は2、(123) の位数は3で、どちらも6を割り切ります。ただし「|G| の約数 d ごとに、必ず位数 d の元がある」と定理を逆向きに読んではいけません。S₃ には位数6の元がなく、恒等置換、2つの位置の交換、3つの位置の巡回を調べれば確かめられます。
では、剰余類そのものを元とする群を作れるでしょうか。そのための条件が正規性です。部分群 N が正規部分群であるとは、任意の g∈G に対して gN=Ng が成り立つことです。これは、任意の n∈N に対して gng⁻¹∈N となることと同値です。ここで Ng={ng | n∈N} は右剰余類です。可換群では gn=ng なので、すべての部分群が正規部分群です。
正規部分群 N による商群 G/N は、剰余類全体の集合に、次の演算を入れた群です。
(aN)(bN)=abN
注意したいのは aN の代表 a は1つに決まらないことです。a′=an₁、b′=bn₂ と代表を替えると、
a′b′=an₁bn₂=ab(b⁻¹n₁b)n₂
となります。N が正規なら b⁻¹n₁b∈N で、最後の2つの因子の積も N に入ります。したがって a′b′N=abN となり、代表の選び方に依存しません。商群の演算が正しく定義できる理由は、この計算にあります。結合法則は G から引き継ぎ、単位元は N、aN の逆元は a⁻¹N です。
先ほどの Z/6Z では H が正規なので、商群は H と1+H の2元からなります。(1+H)+(1+H)=2+H=H となり、2で割った余りの加法群と同型です。偶数の余りをひとまとめにし、奇数の余りをひとまとめにしても、足し算の偶奇は失われません。商群は情報をまとめる操作ですが、演算に必要な情報は残しています。
正規でない場合も見ておきましょう。S₃ で H={e,(12)}、b=(23) とすると、bH={b,(132)}、Hb={b,(123)} となり、一致しません。さらに eH=(12)H なのに、代表を使って積を作ろうとすると、ebH=bH と (12)bH=(123)H は異なる剰余類になります。同じ入力のはずが異なる出力になるので、この方法では商群の積を定められません。
準同型 f:G→K に対し、単位元へ写る元全体 ker f={g∈G | f(g)=eₖ} を核といいます。核は正規部分群です。実際、n∈ker f なら f(gng⁻¹)=f(g)eₖf(g)⁻¹=eₖ です。Z/6Z から Z/2Z へ余りの偶奇を送る準同型の核は {0,2,4} で、先ほどの H に一致します。「何をまとめたか」は核で表され、「まとめた後にどんな計算が残るか」は商群で表されるのです。
方程式から始まる問いが、構造の研究へ広がる
群論の歴史を理解する入口の1つは、方程式の根の並べ替えです。根の値を具体的に求めるだけでなく、根を入れ替えたときにどの関係が保たれるかを調べると、置換が計算の対象になります。たとえば2つの文字 x、y を入れ替えても、x+y と xy は変わりません。一方で x-y は符号を変えます。同じ入れ替えでも、観察する式によって残る情報が違います。
ここからガロア理論では、数の足し算や掛け算の関係を保つ写像を通して、方程式の性質を調べる方向へ進みます。群論を初めて学ぶ段階で方程式の理論をすべて習得する必要はありません。ただ、置換を気ままに行うのではなく、ある関係を保つものだけを集める、という問題意識は押さえておくと役立ちます。
別の入口は幾何です。正方形の外形を保つ回転と鏡映は、図形がどのような対称性を持つかを記述します。また整数の合同式では、余りの計算の規則が前面に出ます。こうした対象の違いを越えて、操作の合成、恒等操作、逆操作を共通の公理へまとめると、抽象的な群が得られます。抽象化は、図形や数に触れずに話を難しくすることではありません。個別の対象に埋もれていた共通の証明を取り出すことです。
厳密さが必要になる場所も、この過程ではっきりします。並べ替える対象を定めなければ、同じ操作かどうかを判定できません。合成の向きを決めなければ、置換の積は読めません。剰余類を使って新しい計算を作るなら、代表元を替えても結果が同じであることを証明しなければなりません。群の公理や正規部分群の定義は、こうした不確定さを取り除くための言葉です。
研究の中では、群論が別の問題から必要になる流れもあります。特異点の解消とモジュラー・ガロア理論を扱う論考では、特異点解消の歴史をたどり、それに関わる研究がガロア理論へ、さらに群論の研究者との交流へつながった経緯が述べられています(Abhyankar, 2000)。これは、群論が独立した記号の体系として閉じているのではなく、幾何的な問題と代数的な問題の間に現れることを示す例です。
高校から大学への移行でも、同じ順番を小さくたどれます。最初に具体物があり、それを操作する計算があり、計算が共通して満たす条件が見つかります。その条件を定義として切り出すと、まだ見たことのない対象にも同じ証明を使えるようになります。歴史を年号の列として覚えるより、どの問いに答えるために操作を抽象化したのかを考えると、定義の必要性が見えてきます。
パズルの操作と結晶の対称性を同じ言葉で見る
ルービックキューブは、群の見方を試しやすい題材です。キューブ全体の向きを固定し、各面を回す操作が部品の位置や向きをどう変えるかを考えます。許された面回転を有限回合成して得られる変換全体は群になります。何もしない手順があり、各回転には逆回転があるからです。手順を取り消すには、最後の操作から逆向きに戻します。
一般に、群では (ab)⁻¹=b⁻¹a⁻¹ です。a⁻¹b⁻¹ ではなく、順序まで逆にする必要があります。実際、ab に b⁻¹a⁻¹ を続けて掛ければ、中央の bb⁻¹ が消え、次に aa⁻¹ が消えます。パズルの手順を戻すときの感覚が、そのまま群の等式になっています。
また、手順として異なることと、変換として異なることは区別しなければなりません。同じ面を直角ずつ4回回す手順と、何もしない手順は、最終的に各部品へ及ぼす変換として同じです。群の元を手順の文字列そのものだと思うと、この同一視を見落とします。到達可能な状態の数を考える際も、部品を自由に並べ替えた総数と、許された回転で到達できる数を混同しないことが必要です。
材料の研究では、操作を合成するという見方が、結晶の対称性を記述する基礎になります。結晶の点の配置を保つ回転や並進などを集め、どの変換が許されるかを調べます。有限の正方形と違い、無限に繰り返す配置には並進もあるので、扱う群が有限とは限りません。それでも恒等変換、合成、逆変換という枠組みは共通です。
磁気構造の研究をまとめた論文では、磁気空間群の機械可読な一覧と、磁気構造への超空間形式の拡張が、磁気対称性を扱う計算ツールの発展を支えたことが述べられています(Perez-Mato ほか, 2015)。対称性を文章や図だけでなく計算可能な形に整理することが、構造を記述し決定する作業につながっています。ここで群の言葉は、何が同じ構造を保つ操作なのかを共有する役割を持ちます。
一方、測定画像の局所的な構造に注目する研究もあります。個々の原子近傍を統計的に分析する方法を提示した論文は、平均的な単位胞へ情報をまとめる従来の記述では、微視的な自由度の情報が失われることに着目しています(Belianinov ほか, 2015)。群の公理だけで画像解析が完成するわけではありませんが、「何を同じとみなしてまとめ、何の違いを残すか」という問いは、ここでも具体的な意味を持ちます。商群の学習で行った情報のまとめ方と、応用先での分析目的の違いを意識して読むことができます。
さらに、周期的な結晶だけでなく非周期的な結晶の対称性も研究対象です。3次元の周期的・非周期的結晶の対称性分類を座標に依存しない形で述べ、フーリエ空間による記述と超空間による記述の結びつきを示した研究があります(Dräger・Mermin, 1996)。この研究では、非周期的結晶を高次元空間に埋め込まなくても超空間群が現れる形で記述されています。
ここで最初から専門的な結晶分類を覚える必要はありません。正方形で学んだ「見た目が戻る操作を集める」という考えが、対象と表現を精密にすることで研究の言葉になる、と捉えれば十分です。同時に、異なる表現で同じ構造を記述できるかという問いが、同型を学ぶ動機にもなります。
計算する手と、定義を読む目を往復させる
群論では、計算ができることと、対象の種類を区別できることの間に段差があります。r² を求められても、それが点なのか操作なのか曖昧なままだと、次に現れる aH でつまずきます。a は元、H は元の集合、aH も集合、G/H ではその集合が新しい群の元になります。この段階の違いを、答案に書き分けることが助けになります。
群論の概念理解を調べた研究では、教員養成課程の学生143人を対象とする事前・事後の測定を用い、3つの繰り返し現れる学習上の困難と、群論の領域ごとの学習を検討しています(Veith ほか, 2022)。対象は教員養成課程の学生であり、この結果を高校生全体のつまずきの割合や特定の勉強法の効果へ直接広げることはできません。以下の手順は、群の定義とここまでの具体例を結びつけるための学習上の提案です。
第1に、問題の冒頭に「集合」「演算」「単位元」を書きます。Z なら足し算か掛け算かを記し、置換なら合成の順序を記します。単位元を0と書いた直後に掛け算の逆数を探す、といった混線は、この短い準備で見つけやすくなります。逆元も、見た目の分数ではなく、演算して単位元になる相手として求めます。
第2に、小さな集合で公理を点検します。{e,r²} が部分群で、{e,r} がそうでない理由を、自分で積を書いて説明してみてください。「対称に見えるから」「元の数が少ないから」ではなく、どの条件を満たすか、どこで外れるかを述べます。有限の例を並べる作業は定義の理解を助けますが、一般の場合の証明を置き換えるものではありません。
第3に、置換の積は1つの位置ずつ追います。ab と ba の違いが見えなければ、まず1の移り先だけ調べます。1つでも異なる位置があれば、2つの写像は異なります。一方、等しいと主張するには、対象のすべての位置の移り先が一致することを示す必要があります。反例を探す作業と等しさを証明する作業では、必要な確認の量が違います。
第4に、剰余類は括弧の中身を一度展開します。1+H とだけ書かず {1,3,5} と書き、3+H も展開して一致を確かめます。その後で「代表元を変えても同じ集合になる」と言葉にします。商群の演算に進むときは、代表を替えた積が同じ剰余類へ戻るかを確かめます。正規性の式がどの行で必要になるかに線を引くと、定義と証明がつながります。
高校生のうちには、合同式、複素数の回転、集合と写像の言葉を丁寧に使うことが準備になります。公式を先取りするより、同じ計算を数と図の両方で説明してみるとよいでしょう。たとえば i を4回掛ける計算について、式では i⁴=1、図では1周、操作では恒等変換、と対応を述べられるようにします。
塾の授業では、計算を進める前に、記号が何を指すかを一緒に点検できます。講師が積の答えを言う前に、生徒に1つの位置の移り先を追ってもらい、次に定義のどの条件を使ったかを聞きます。正答だけでなく、計算の場所、操作の順序、集合の違いを説明できるかを見れば、次に戻るべき箇所が具体的になります。
家庭では、お子さまに専門用語の説明を急いで求める必要はありません。「その操作を戻すにはどうするの」「2つの順番を替えると同じになるの」と、手元の図や紙で確かめられる問いを共有できます。保護者が証明の採点まで担うより、途中の計算を置いておける時間や場所を整えることが、考えを続ける支えになります。
ここで手が止まるなら、止まった単元まで一緒に戻ります。武蔵境の数学塾(1 対 1)/お問い合わせ
抽象的な言葉に出会ったときの3つの問い
群論は計算より暗記が中心ですか
定義を正確に覚えることは必要ですが、暗記だけでは進みにくい分野です。逆元の存在を知っていても、置換の逆操作や余りの加法で具体的に相手を見つけられなければ、証明の途中でその条件を使えません。定義を1つ読んだら、それを満たす例と満たさない例を作り、違いを1行で説明してみてください。公理を使って左から逆元を掛ける、といった小さな計算が証明の骨組みになります。
すべての対称性は可換になりますか
なりません。同じ中心のまわりの平面回転だけなら、回転角を足すので順序を替えても結果は同じです。しかし置換群 S₃ では (12)(23) と (23)(12) が異なりました。図形でも回転と鏡映を組み合わせると順序が重要になる場合があります。「対称性だから交換できる」と判断せず、対象と操作を決めてから合成を確かめます。
商群を学ぶと、元の情報は全部なくなりますか
剰余類の中の違いは区別しなくなりますが、演算に関する構造を残します。Z/6Z の偶数の余りをまとめた例では、0と2と4の区別は失われても、偶数同士の和が偶数になり、奇数同士の和も偶数になる規則は残りました。何を忘れて何を保つかを、正規部分群と商群によって明示できます。単なる省略ではなく、残す情報を決めた新しい計算です。
夕方の面談席に置いた正方形へ戻ると、直角の回転を繰り返すだけの動作にも、単位元、逆元、巡回群という言葉が対応しています。紙を回す手つきと定義を結びつけたら、次は剰余類を実際に書き出し、代表元を替えた積を確かめられます。抽象的な記号を見て立ち止まったときには、その記号が指す操作や集合まで戻ればよいのです。群論の一歩目は、正方形を回す手から始められます。
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あわせて読む(数学の地図・高校数学の単元解説)
参考文献
- Shreeram S. Abhyankar(2000)「Resolution of singularities and modular Galois theory」Bulletin of the American Mathematical Society. https://doi.org/10.1090/s0273-0979-00-00892-2
- Juan Manuel Perez-Mato, Samuel V. Gallego, Emre S. Tasci ほか(2015)「Symmetry-Based Computational Tools for Magnetic Crystallography」Annual Review of Materials Research. https://doi.org/10.1146/annurev-matsci-070214-021008
- Alex Belianinov, Qian He, Mikhail Kravchenko ほか(2015)「Identification of phases, symmetries and defects through local crystallography」Nature Communications. https://doi.org/10.1038/ncomms8801
- Jörg Dräger, N. David Mermin(1996)「Superspace Groups without the Embedding: The Link between Superspace and Fourier-Space Crystallography」Physical Review Letters. https://doi.org/10.1103/physrevlett.76.1489
- Joaquin Marc Veith, Philipp Bitzenbauer, Boris Girnat(2022)「Exploring Learning Difficulties in Abstract Algebra: The Case of Group Theory」Education Sciences. https://doi.org/10.3390/educsci12080516
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