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測度論とルベーグ積分 「面積」を測るとはどういうことか|武蔵野個別指導塾

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有理数でだけ値が1になる関数は積分できるのでしょうか。測度と可測関数の定義から、単調収束・優収束の条件、期待値との関係まで、具体的な計算を通して積分の意味を捉え直します。

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測度論とルベーグ積分 「面積」を測るとはどういうことか

理工書の棚で立ち止まる「積分」の続き

駅前の書店の理工書の棚で、微分積分の本の隣に「測度」「ルベーグ積分」という背表紙を見つけたとします。高校では曲線の下の面積を積分で求めました。それなのに、大学では面積を測る方法から学び直すのでしょうか。塾の授業でこの問いを扱うなら、まず紙に長方形を描き、その横に「有理数の位置でだけ高さが1」と書いてみます。長方形なら塗れますが、後者は鉛筆をどこに置けばよいのか迷うはずです。

有理数と無理数は、どんなに短い区間にも現れます。有理数の位置だけを塗るつもりでも、普通の線の太さでは描き分けられません。ところが数学では、その集まりの長さを0とし、無理数側には区間全体と同じ長さを与えます。「無数にある」と「長さを占める」は違うというのが、測度論への入口です。

さらに大切なのは、関数を次々と近似するときです。近似した関数の積分を計算して、その極限を取れば、元の関数の積分になるのでしょうか。グラフが各点で近づくだけでは、答えは決まりません。幅が狭くなる一方で高さが大きくなる部分には、消えない面積が残ることがあります。

測度論とルベーグ積分は、長さの意味を整え、こうした極限操作に条件を与えます。公式の数を増やす勉強というより、公式を使ってよい理由を確かめる勉強です。高校の面積計算を足場にして、集合を測ること、関数を積み上げること、極限を通すことを順に見ていきましょう。

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長方形の和から、分割しても消えない隔たりへ

高校の数学IIIで学ぶ積分を使い、区間[0,1]で f(x)=x² の面積を求めます。原始関数を使えば次の計算です。

∫₀¹ x² dx = [x³/3]₀¹ = 1/3

これを長方形の和から見直します。区間を n 等分すると幅は1/nです。x² は[0,1]で増加するので、各小区間の右端の高さを採用した和 Rₙ は、真の面積以上になります。

Rₙ = ∑ₖ₌₁ⁿ (k/n)² × (1/n)

平方の和の公式を代入すると、次のようになります。

Rₙ = n(n+1)(2n+1)/(6n³) = 1/3 + 1/(2n) + 1/(6n²)

左端の高さを使う和 Lₙ も計算できます。

Lₙ = 1/3 – 1/(2n) + 1/(6n²)

したがって Rₙ – Lₙ = 1/n です。分割を細かくすれば、上から測った面積と下から測った面積の差は0に近づきます。n=2 なら L₂=1/8、R₂=5/8、n=4 なら L₄=7/32、R₄=15/32 です。どちらの場合も1/3を挟み、隔たりが縮んでいます。積分の値が1/3になるのは、原始関数がたまたま見つかったからだけではありません。

有界閉区間上の有界な実数値関数について、分割ごとに各小区間での下限と上限を取り、幅を掛けて足したものを下和、上和と呼びます。すべての分割にわたる下和の上限と、上和の下限が一致するとき、その関数はリーマン積分可能です。曲線を滑らかに描けるかどうかではなく、上下の評価が一致することが中心にあります。

では、[0,1]の有理数で D(x)=1、無理数で D(x)=0 と置くとどうなるでしょうか。どの正の長さの小区間にも有理数と無理数があるため、下限は0、上限は1です。どのように分割しても下和は0、上和は1になります。細かくすれば解決するという期待が、ここでは成り立ちません。この関数はリーマン積分できません。

それでも「値1の場所が占める長さ」を先に測れれば、積分を考える道は残ります。横軸を小区間に切る方法から、同じ値を取る場所を集合としてまとめる方法へ、見る順序を変えるのです。ただし、任意の集合に無条件で長さを割り当てるわけにはいきません。どの集合を測る対象にするかを、最初に定める必要があります。

測る集合を決めてから関数を積み上げる

まず、全体集合 X の中で測ることを許した部分集合の集まりを Σ と書きます。Σ がσ加法族であるとは、X を含み、補集合を取っても、可算個の集合の和集合を取っても、Σ から出ないことです。記号では次の条件を課します。

X ∈ Σ

A ∈ Σ ならば X∖A ∈ Σ

A₁,A₂,… ∈ Σ ならば ⋃ₙ₌₁∞ Aₙ ∈ Σ

「可算個」は、自然数で順番を付けて並べられる個数を指します。これらの条件から空集合もΣに属し、可算個の共通部分もΣに属します。補集合は「その事象が起こらない」、和集合は「どれかが起こる」に対応するので、この閉じ方は後で確率にも生きます。

測度 μ は、Σ の各集合に0以上の数、または∞を割り当てる写像です。空集合の測度を0とし、互いに交わらない可算個の集合について、全体の測度が個々の測度の和になることを要求します。

μ: Σ → [0,∞], μ(∅)=0

Aᵢ ∩ Aⱼ = ∅(i≠j)ならば μ(⋃ₙ₌₁∞ Aₙ)=∑ₙ₌₁∞ μ(Aₙ)

これを可算加法性といいます。X、Σ、μ を組にした (X,Σ,μ) が測度空間です。測度は長さだけとは限りません。要素の個数を数える測度も、全体を1に規格化した確率測度もあります。何を測度に選んだかで、同じ集合の重みは変わります。

実数直線では、区間の測度がその長さになるルベーグ測度 m を考えます。例えば a≦b のとき、m([a,b])=b-a です。ルベーグ可測集合全体はσ加法族をなし、開区間や閉区間を含みます。その構成の入口では、集合 E を可算個の開区間 I₁,I₂,…で覆い、その長さの総和をできるだけ小さくすることで外測度を作ります。

m外(E)=inf{∑ₙ₌₁∞ |Iₙ| : E ⊂ ⋃ₙ₌₁∞ Iₙ, 各 Iₙ は開区間}

ここで |Iₙ| は区間の長さです。さらに任意の集合 T に対して m外(T)=m外(T∩E)+m外(T∖E) が成り立つ E をルベーグ可測とします。E の内外に切り分けても測った量が保たれるという条件です。この条件を満たす集合に外測度を制限すると、測度が得られます。すべての部分集合が可測だと仮定せず、足し算と両立する対象を選んでいる点が大切です。

一点 {a} はどんなに短い区間でも覆えるので、m({a})=0 です。[0,1]内の有理数は可算個に並べられるため、可算加法性からその集まりの測度も0になります。一方、区間全体の測度は1ですから、無理数の部分の測度は1です。ここで「区間も点の集まりなのだから長さ0では」と考えたら、可算という条件に戻ってください。区間内の実数すべてを自然数で漏れなく並べることはできません。測度が約束するのは可算加法性であり、任意の個数にわたる加法性ではありません。

次に、実数値関数 f: X→R が可測であるとは、どの実数 a に対しても、値が a より大きい場所がΣに属することです。

任意の a ∈ R に対して {x ∈ X : f(x)>a} ∈ Σ

これは、関数の高さで選んだ場所を測れるという条件です。例えば可測集合 A の指示関数 1ₐ は、A 上で1、それ以外で0を取る関数です。その高さで切り出される集合は X、A、∅のいずれかなので可測です。先ほどの D も、有理数の集合の指示関数として可測になります。

有限個の非負の値だけを取る可測関数を、非負単関数と呼びます。互いに交わらない可測集合 A₁,…,Aᵣ と非負の有限な数 c₁,…,cᵣ によって、s=∑ⱼ₌₁ʳ cⱼ1ₐⱼ と書けます。その積分は「高さと、その高さを取る集合の測度との積」を足したものです。

∫ s dμ = ∑ⱼ₌₁ʳ cⱼ μ(Aⱼ)

高さ0の部分は寄与0とします。例えば[0,1]で、[0,1/4)上の値を2、[1/4,1]上の値を4とする単関数の積分は、2×1/4+4×3/4=7/2です。端点の入れ方を変えても、一点のルベーグ測度は0なので結果は変わりません。

非負可測関数 f のルベーグ積分は、下から f を越えない非負単関数の積分の上限として定義します。

∫ f dμ = sup{∫ s dμ : s は非負単関数, 0≦s≦f}

値として∞も許します。正負のある実数値可測関数では、f⁺=max(f,0)、f⁻=max(-f,0) と分けます。∫|f|dμ<∞ なら可積分と呼び、∫f dμ=∫f⁺dμ-∫f⁻dμ と定義します。この条件があれば∞-∞という定まらない計算を避けられます。

最後に「ほとんど至るところ」を定義します。ある性質が、測度0の可測集合 N の外で成り立つとき、その性質は μ に関してほとんど至るところ成り立つといいます。略記は a.e. です。「例外が少しある」という感覚的な表現ではなく、例外を測度0の集合に収められるという条件です。D はほとんど至るところ0で、ルベーグ積分は0になります。積分は、測度0の場所だけで値を変えても変わりません。

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極限を積分の中に入れるための二つの条件

定義を使って、まず f(x)=x を[0,1]で下から近似しましょう。自然数 n に対し、k=0,…,n-1 の各区間 [k/n,(k+1)/n) で sₙ(x)=k/n と置き、sₙ(1)=1 とします。階段の高さと x の差は0以上1/n以下です。単関数の積分は、等差数列の和から求まります。

∫₀¹ sₙ dm = ∑ₖ₌₀ⁿ⁻¹ (k/n)×(1/n) = (n-1)/(2n)

一方、sₙ+1/n は f を上から押さえます。その積分は (n+1)/(2n) なので、∫₀¹ x dm はこの二つの値に挟まれます。両者の極限は1/2であり、ルベーグ積分でも高校と同じ値が出ます。ただし、sₙ の列は n を1ずつ増やしたときに各点で単調増加するとは限りません。単調性を使いたいなら、分割数を2、4、8、…と倍にして、前の分割を保ったまま細かくします。この区別は定理を適用する際に欠かせません。

単調収束定理は、測度空間上の非負可測関数列 fₙ が、各点で0≦f₁≦f₂≦…を満たし、fₙ→f となるとき、次の等式が成り立つという定理です。

∫ f dμ = limₙ→∞ ∫ fₙ dμ

f は∞を取ってもよく、積分の値が∞になる場合も含みます。共通の測度0の集合を除いて単調性と収束が成立する場合も、極限 f が非負可測関数であると仮定すれば使えます。非負であることと、値が減らないことが重要です。「収束するから」という理由だけで積分と極限を交換しているわけではありません。

この定理の証明の要を一つ見ます。∫fₙdμ≦∫fdμ なので、極限が右側を越えないことはすぐにわかります。逆向きには、0≦s≦f を満たす任意の非負単関数と、0<c<1 を取ります。Eₙ={x:fₙ(x)≧c s(x)} と置くと、Eₙ は増加し、その和集合は X になります。s(x)>0 の点では極限 f(x) が c s(x) より大きいため、いずれ fₙ(x) がその高さに達するからです。s(x)=0 の点は最初から Eₙ に入ります。

従って ∫fₙdμ≧c∫Eₙ s dμ です。ここで ∫Eₙ は集合 Eₙ 上で積分する意味です。単関数は有限個の高さしか持たないので、可算加法性から導かれる集合の増加列に対する測度の連続性を使い、∫Eₙ s dμ→∫s dμ とできます。最後に c を1へ近づけ、s の積分の上限を取れば逆向きの不等式が得られます。関数の極限を、まず集合の増加と有限個の高さに分解するのが核心です。

第二の定理は優収束定理です。測度空間上の実数値可測関数列 fₙ がほとんど至るところ f に収束し、f も可測とします。さらに非負可積分関数 g が存在し、すべての n に対して |fₙ|≦g がほとんど至るところ成り立つなら、f は可積分であり、次が成り立ちます。

limₙ→∞ ∫ |fₙ-f| dμ = 0

従って limₙ→∞∫fₙdμ=∫fdμ です。ここでは単調性を要求しない代わりに、全項を一つの可積分関数で押さえます。n ごとに別の上限を見つけるだけでは、条件を満たしません。

[0,1]上で fₙ(x)=xⁿ を考えます。0≦x<1 では xⁿ→0、x=1 では常に1ですから、ほとんど至るところ0に収束します。すべての n で |fₙ(x)|≦1 であり、この区間上の定数関数1は可積分です。優収束定理が適用でき、積分は0へ近づきます。実際の計算も一致します。

∫₀¹ xⁿ dx = [x の (n+1) 乗/(n+1)]₀¹ = 1/(n+1) → 0

n=1、2、4 のときは、それぞれ1/2、1/3、1/5です。一点で収束先が違っても積分の極限に影響しないことが、この例で見えます。

対照的に、[0,1]で hₙ(x)=n を 0<x<1/n のときだけ取り、それ以外では0とします。どの固定した x>0 も、n が十分大きくなると細い区間から外れます。x=0 でも初めから0なので、各点で hₙ→0 です。しかし積分は次の通りです。

∫₀¹ hₙ dm = n×(1/n) = 1

関数の極限の積分は0、積分の極限は1です。優収束定理の条件がそろっていないため、矛盾ではありません。実際、すべての hₙ を押さえる可積分関数は存在しません。n=2ᵏ とし、区間 (1/2ᵏ⁺¹,1/2ᵏ) を見ると、そこで上から押さえる関数 g はほとんど至るところ2ᵏ以上です。従って各区間の積分は少なくとも1/2になります。区間は互いに交わらないので、無限個を足せば∫g dm=∞となってしまいます。高さの集中を制御する条件が、目に見える計算として必要になるのです。

原始関数の問題から測度と積分の理論へ

積分の拡張は、奇妙なグラフを扱うためだけに生まれたわけではありません。微分と積分をどこまで結び付けられるかという、微積分の中心の問題がありました。Lebesgueの1902年の論文「Intégrale, Longueur, Aire」では、リーマン積分できない導関数があるという問題を背景に、積分概念の拡張が扱われています。導関数が有界な場合の問題の解消と、リーマン積分が存在するときにはその値と新しい積分の値が一致することが示されています(Lebesgue, 1902)。

高校の計算では、連続な関数を積分し、原始関数との差で値を求める場面が中心です。その範囲では、積分法を変更する必要は感じにくいでしょう。しかし、ある関数が微分可能であっても、その導関数がいつでも連続になるとは限りません。微分して得た関数をもう一度積分したいという自然な要求が、従来の積分可能性の範囲を問い直します。ここで必要なのは、既存の計算を壊さずに適用範囲を広げる定義です。

測度と新しい積分の誕生を振り返った百年記念の論考も、二つの概念が関連しながら解析学に入ったことを述べています。また、初期の測度の定式化における存在と一意性の問題にも触れています(Bonyほか, 2001)。「区間には長さを与える」と宣言するだけでは理論は完成しません。集合を合併したり補集合を取ったりした後でも矛盾せず、必要な加法性を満たすものが実際に作れるかを示す必要があります。

この歴史を学ぶ際には、名前の順番を覚えるより、解決したい要求を追うと理解が深まります。区間の長さと整合すること、可算個の互いに交わらない集合を足せること、非負関数を下から近似できること、極限と積分の関係を保証することです。それぞれが、前の節で扱った定義や定理に対応します。

一方、「測度論なしのルベーグ積分」という題名の論文もあります(Van Daele, 1990)。ここから読み取れるのは、ルベーグ積分への導入経路そのものが検討の対象になるということです。測度空間から順に組み立てる学び方では、確率や一般の空間へ進む際の共通の言葉を先に整えられます。難しい記号を我慢して通過するのではなく、それぞれがどんな操作を支えているかを理解すると、抽象化の目的が見えてきます。

確率の期待値も「高さと重み」の積分になる

確率論では、全体集合 Ω、事象のσ加法族 F、確率測度 P を組にした (Ω,F,P) を使います。一般の測度空間に P(Ω)=1 という条件が加わったものです。実数値確率変数 Y は、Ω 上の可測関数です。「Y がある値より大きい」という条件で選んだ集合が事象にならなければ、その確率を定義できません。可測性は、数式で表した量を確率として扱うための条件なのです。

Y が可積分なら、その期待値は E[Y]=∫Ω Y dP です。離散的な場合に習う「値と確率を掛けて足す」は、単関数の積分と同じ形をしています。例えば、Y が0、2、5を取る確率を、それぞれ1/2、1/3、1/6とします。確率の合計は1で、期待値は次の通りです。

E[Y] = 0×1/2 + 2×1/3 + 5×1/6 = 3/2

測度を長さから確率へ変えても、積分の骨組みは変わりません。連続型の例として、[0,1]上に密度 p(x)=2x を置きます。非負であり、∫₀¹ 2x dx=1 なので、確率密度として使えます。この分布に従う座標の期待値は、単なる区間の中央ではありません。

E[Y] = ∫₀¹ x×2x dx = 2∫₀¹ x² dx = 2/3

大きい x の側ほど密度が高いため、その重みを反映した平均になります。密度が存在する場合は、確率測度による積分を、このように密度を掛けた長さによる積分で表せます。ただし、すべての確率分布に長さに対する密度があるわけではありません。先ほどの有限個の値を取る分布も含めて、一つの記法で扱えるのが測度による期待値です。

近似計算でも収束定理が役立ちます。例えば非負の可測な損失 Y を、Yₙ=min(Y,n) と上限 n で切り詰めます。各点で Yₙ は Y に向かって増加するため、単調収束定理により E[Yₙ]→E[Y] です。期待値が∞の場合も含まれます。非負でない近似列や増減する近似列では、優収束定理のような別の条件を調べます。先ほどの尖った hₙ の例は、ほとんど確実に0へ近づいても期待値が0へ近づくとは限らない例にもなります。

測度を伴う積分は、確率と解析が交わる研究にも現れます。例えばLapidusの論文の題名は、ルベーグ=スティルチェス測度を伴うファインマン=カッツ公式と、一般の場合の積分方程式を扱うことを示しています(Lapidus, 1989)。ここで個別の公式を適用するには追加の設定が必要ですが、研究対象を表す段階から「どの測度で積分するか」が組み込まれている点に注目できます。初学者にとっても、積分記号の後ろの dx や dP を読み飛ばさないことが、応用への確かな準備になります。

定義の量化と、計算の重みを一緒に読む

測度論でつまずきやすいのは、記号の多さに加え、似た言葉の条件が少しずつ違うことです。「有界」と「可積分」、「各点」と「ほとんど至るところ」、「収束」と「単調収束」を一度に覚えようとすると、肝心の違いが埋もれます。例えば定数関数1は[0,1]では可積分ですが、実数直線全体にルベーグ測度を入れると積分は∞です。関数の式だけでなく、領域と測度をセットで読む必要があります。

積分の学習について、ErgeneとÖzdemirは、リーマン和を用いたモデリング活動による定積分理解を検討しています(Ergene・Özdemir, 2022)。対象は微積分を履修済みで積分の理解が限られていた数学の教員養成課程の学生28人であり、質的な事例研究なので、その対象と方法からルベーグ積分の学習効果一般を直接結論づけることはできません。それでも、定積分を計算手続きだけでなく、量のモデルと結び付けて考えるという授業づくりの問いは、この分野の入口にもつながります。

自習では、次の順序で一つの例を扱ってみてください。

  1. 全体集合、測る集合の集まり、測度を先に書きます。[0,1]の長さなのか、有限個の結果の確率なのかを決めます。積分する関数の式は、その後に置きます。
  2. 指示関数や単関数へ戻し、「高さ」と「その高さを取る集合の測度」を別々に計算します。長方形の和なら幅、期待値なら確率が重みになります。
  3. 定理を使う前に、非負性、可測性、単調性、収束する場所、共通の可積分な上界を点検します。必要条件を関数の横に短く書き、満たさないものを空欄のままにしません。
  4. 条件を一つ外した例を比較します。xⁿ と hₙ を並べ、どちらもほとんど至るところ0へ近づくのに、積分の挙動が違う理由を自分の言葉で説明します。

「すべての n に対して一つの g がある」と「n ごとに g がある」の違いも、文章に戻すと見えやすくなります。前者では近似列全体に共通する制御を求めています。hₙ は各項だけなら有界で可積分ですが、その事実だけでは列全体の積分の極限を制御できません。定理の量化の順序は、記号上の飾りではありません。

高校生のうちには、集合の和と共通部分、数列の極限、等差数列や平方の和、区分求積法を丁寧につなぐとよいでしょう。x² の右端和を計算した後で、左端和との差まで求めてみます。値が近いことだけでなく、なぜ誤差が縮むかを説明する練習が、大学の定理の仮定を読む力になります。まだ可測集合の構成を最後まで証明できなくても、この準備は進められます。

塾で担いたいのは、説明が止まった場所を細かく見分けることです。Σという集合の集まりに戸惑ったのか、可算加法性で可算という語を落としたのか、gの積分が有限だと確かめ忘れたのかでは、次に戻る例が違います。単関数の計算を一緒に行い、使った定義を言葉で確かめ、再び定理へ戻る往復を授業の中に作ります。

ご家庭では、お子さまが証明をすぐ完成できるかだけを目安にせず、「今回はどの条件が必要だったの」と一つ尋ねる程度でも、学習の進み方を共有できます。測度論では、計算が増える前に言葉の精度が上がる時期があります。定義を読み直す時間を停滞と決めつけず、昨日は区別できなかった条件を今日説明できるかという変化を見ると、取り組みの手応えを捉えやすくなります。

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面積0と積分の拡張についての三つの問い

測度0の集合は、存在しないと考えてよいですか

いいえ。一点も、区間内の有理数全体も存在します。ルベーグ測度が0というだけです。さらに測度を変えると重みも変わります。例えば一点 a に重みを集中させ、a を含む集合に1、それ以外に0を与える確率測度では、{a} の測度は1です。「ほとんど至るところ」を読む際には、どの測度に関する話かを必ず確かめます。

リーマン積分は使わなくなるのでしょうか

有界閉区間上でリーマン積分可能な関数はルベーグ積分可能で、値は一致します。高校で身につけた原始関数の計算はそのまま役立ちます。ただし、一般の広義積分が有限値に収束しても、絶対値の積分が有限とは限りません。広義積分とルベーグ可積分性を、名前だけで同じものとして扱わないようにします。

値が発散する非負関数は積分できないのですか

非負可測関数のルベーグ積分は∞を許して定義されています。一方、「可積分」という語は通常、絶対値の積分が有限であることを意味します。積分が定義されることと有限であることを分けると、単調収束定理が∞の場合まで述べられる理由も見えてきます。問題文でどちらを求められているかを読み分けてください。

駅前の書店の棚で見かけた「測度」という語は、面積計算を遠ざける壁のように見えたかもしれません。しかし、その中身は、何を測り、どの重みで足し、どの条件で極限を取れるかを明らかにする工夫です。有理数の集まりの測度0と、細く高くなる関数の積分1を並べると、「小さく見える」という印象だけでは足りない理由がわかります。次に積分記号を見たときは、関数だけでなく領域と測度、そして交換しようとしている操作にも目を向けてみてください。その読み方から、面積の計算は極限を扱う確かな道具へ育ちます。

あわせて読む(数学の地図・高校数学の単元解説)

参考文献

  1. H. Lebesgue(1902)「Intégrale, Longueur, Aire」Annali di Matematica Pura ed Applicata. https://doi.org/10.1007/bf02420592
  2. Jean-Michel Bony, Gustave Choquet, Gilles Lebeau(2001)「The centenary of the Lebesgue integral」Comptes Rendus de l’Académie des Sciences. Série I. Mathématique. https://doi.org/10.1016/s0764-4442(00)01829-2
  3. A. Van Daele(1990)「The Lebesgue Integral Without Measure Theory」The American Mathematical Monthly. https://doi.org/10.2307/2324331
  4. Michel L. Lapidus(1989)「The Feynman-Kac formula with a Lebesgue-Stieltjes measure: An integral equation in the general case」Integral Equations and Operator Theory. https://doi.org/10.1007/bf01195113
  5. Özkan Ergene, Ahmet Sükrü Özdemir(2022)「Understanding the Definite Integral with the Help of Riemann Sums」Participatory Educational Research. https://doi.org/10.17275/per.22.75.9.3

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