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測度論的確率論 コルモゴロフの公理から中心極限定理へ|武蔵野個別指導塾

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コインの表の割合を手がかりに、確率空間と期待値を定義し、大数の法則と中心極限定理の違いを計算で確かめます。独立性の意味やマルチンゲールの考え方までつながります。

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測度論的確率論 コルモゴロフの公理から中心極限定理へ

新幹線の座席で考える、偶然の長い列

修学旅行の新幹線の座席で、折り畳みテーブルに開いたノートへ「表、裏、裏、表」と書いてみます。隣の席の友人と、頭の中で公平なコインを投げる遊びです。「表が続いたから、次は裏が出やすい」と言われたら、どう答えますか。高校の確率で独立な試行を学んでいれば、次の表と裏の確率はそれぞれ 1/2 だと説明できます。それでも、「何度も投げれば表は半分くらいになる」という話との関係は、すぐには整理しにくいかもしれません。

ここには別々の問いが重なっています。次の結果を予測する問い、表の割合が落ち着くかという問い、半分からのずれがどの程度かという問いです。長く続けたときに割合が落ち着くことは、直前の偏りを次のコインが埋め合わせることではありません。この区別を数学の言葉で支えるのが、大数の法則や中心極限定理です。

さらに、投げる回数を決めず、無限に続く表裏の列全体を考えると、「場合の数で割る」だけでは確率を定められなくなります。無限個の結果のうち何を事象として扱い、その確率をどう計算するのか。大学の確率論では、最初にこの土台を作ります。

測度論的確率論は、難しい記号で身近な偶然を遠ざけるための学問ではありません。有限のくじ引き、連続的な測定誤差、時間とともに増える観測を、同じ規則の下で扱うための言葉です。高校数学の延長となる部分は多くの理系学部では 1〜2 年で学びますが、測度論を用いた厳密な扱いに進む時期は課程によって異なります。まずはコインの小さな計算から、無限を扱う必要性まで進みましょう。

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場合の数から、数えきれない結果へ

数学 A の場合の数と確率では、同様に確からしい有限個の結果を数えます。公平なコインを独立に 3 回投げると、順番を区別した表裏の列は 2³ = 8 通りあります。表を H、裏を T と書けば、HHH、HHT、HTH、HTT、THH、THT、TTH、TTT です。表の回数を X とすると、X = 2 となるのは HHT、HTH、THH なので、確率は 3/8 です。

分布を表にすると、場合の数がそのまま確率の重みになります。

表の回数 x 0 1 2 3
P(X = x) 1/8 3/8 3/8 1/8

表の回数の期待値は、値にその確率を掛けて足します。

E[X] = 0 × 1/8 + 1 × 3/8 + 2 × 3/8 + 3 × 1/8 = 3/2

期待値が 3/2 でも、1 回の実験で表が 1.5 回出ることはありません。期待値は起こり得る結果そのものとは限らず、確率を重みとした平均です。「期待」という日常語から、最もありそうな結果だと読み替えないようにしましょう。

数学 B の統計的な推測で扱う確率変数や分布も、この考え方につながります。一方、数学 III の積分は、連続的な値の期待値を扱う入口になります。0 以上 1 以下から一様に値 U を選ぶモデルでは、区間の確率をその長さで定めます。たとえば P(1/4 ≦ U ≦ 3/4) = 1/2 です。ただし、各実数を 1 つずつ数えて全体の個数で割ったわけではありません。

このモデルで、個々の点 a の確率 P(U = a) は 0 です。それでも区間全体の確率は 1 になります。「0 を足して 1 になるのか」と感じるところが、測度論への入り口です。確率の公理が保証するのは、互いに交わらない事象の可算個の和についての加法性です。可算とは、有限個であるか、自然数で順番を付けてすべて並べられることをいいます。実数の区間に含まれる点は可算個ではないので、点の確率を通常の無限級数のように足し合わせる規則は適用できません。

高校の計算が間違っていたのではなく、有限の場合に気にせず使えた条件が表に出てきたのです。同様に確からしいという前提、結果と事象の区別、どの種類の無限和を認めるかを確認すると、数え上げと積分を同じ確率論の中で結び付けられます。

確率空間は、結果と事象と重みを分ける

確率空間は、3 つの対象をまとめた組 (Ω, ℱ, P) です。Ω は標本空間で、起こり得る結果を集めた集合です。ℱ は事象として扱う Ω の部分集合の集まり、P は各事象へ確率を割り当てる関数です。結果 ω と、その結果を含む事象 A を分けて書くと、ω ∈ Ω、A ∈ ℱ となります。

ℱ は σ 加法族であることを要求します。これは、Ω を含み、補集合を取っても、可算個の和集合を取っても、その結果が再び ℱ に入るという意味です。記号では次の条件になります。

Ω ∈ ℱ

A ∈ ℱ ならば Ω ∖ A ∈ ℱ

A₁, A₂, … ∈ ℱ ならば ⋃ₙ₌₁∞ Aₙ ∈ ℱ

この条件があれば、「A が起こらない」「並べた事象のどれかが起こる」も事象として扱えます。また、補集合と和集合の関係から、可算個の共通部分も ℱ に入ります。無限列について「ある時点以降ずっと条件を満たす」と書く際に、この閉じた構造が必要です。

確率測度 P は、ℱ から [0, 1] への関数で、P(Ω) = 1 を満たします。さらに、互いに交わらない事象 A₁, A₂, … に対して、次の可算加法性を要求します。

P(⋃ₙ₌₁∞ Aₙ) = ∑ₙ₌₁∞ P(Aₙ)

これがコルモゴロフの公理に基づく確率の骨格です。P が非負の値を取り、全体の確率が 1 で、互いに交わらない事象には可算加法性がある、という約束です。有限の公平なコインでは ℱ を Ω のすべての部分集合とし、各列へ同じ確率を与えれば、この条件を満たします。連続的な標本空間では、すべての部分集合へ同じように長さを与えられるとは限らないため、測る対象の集まり ℱ を明示します。

次に、実数値確率変数 X を定義します。X は写像 X: Ω → ℝ であり、任意の実数 a について {ω ∈ Ω: X(ω) ≦ a} が ℱ に属するものです。この条件を可測性といいます。実数のボレル集合、つまり開集合から補集合と可算和などで作る集合 B に対して、{ω: X(ω) ∈ B} が事象になることと同値です。測定値の範囲を指定したときに、必ずその確率を尋ねられるようにする条件だと読めます。

コインを 3 回投げる例では、ω は HHT などの列で、X(ω) はその列に含まれる表の個数です。結果そのものを数に置き換える規則が X であり、X が取り得る各値へ確率をまとめたものが分布です。X の分布 μ は、ボレル集合 B に対して次のように定義します。

μ(B) = P(X ∈ B)

同じ表の回数 2 に対応する列が複数あっても、分布ではその確率が 3/8 に合算されます。標本空間を詳しく見るのか、観測する数だけを見るのかという視点の違いです。分布だけで期待値は計算できますが、複数の変数の関係を調べるには、それらを同時に記述する情報も必要です。

期待値は積分で定義します。E[|X|] < ∞ を満たす可積分な X に対して、次の式で有限の期待値を定めます。

E[X] = ∫Ω X dP

離散分布なら、これは ∑ₓ xP(X = x) です。分布が密度 f を持つなら、E[X] = ∫ℝ xf(x) dx になります。非負の確率変数では期待値が ∞ になることも認めますが、正の部分も負の部分も積分が無限大なら、差を取って期待値を定めることはできません。どんな確率変数にも有限の平均がある、と考えないことが大切です。

一様な U では密度は区間 [0, 1] 上で 1、それ以外で 0 なので、積分から次が得られます。

E[U] = ∫₀¹ x dx = 1/2

E[U²] = ∫₀¹ x² dx = 1/3

分散は E[X²] < ∞ のとき Var(X) = E[(X – E[X])²] と定めます。式を展開すると Var(X) = E[X²] – E[X]² なので、Var(U) = 1/3 – 1/4 = 1/12 です。平均が分布の中心を示すのに対し、分散は中心からのずれの二乗を平均しています。

独立性も印象ではなく式で定義します。事象 A と B が独立であるとは、P(A ∩ B) = P(A)P(B) が成立することです。確率変数 X と Y が独立とは、任意のボレル集合 B、C について次を満たすことです。

P(X ∈ B, Y ∈ C) = P(X ∈ B)P(Y ∈ C)

無限列が独立というときは、任意の有限個を取り出し、それぞれの値の範囲を指定した事象の共通部分の確率が、個々の確率の積になることを要求します。2 つずつ独立であるだけでは、この条件を満たすとは限りません。

また、独立と排反は別です。排反は A ∩ B が空集合であることです。ともに正の確率を持つ排反な事象なら、共通部分の確率は 0 なのに P(A)P(B) は正となるので、独立ではありません。足す場面の「重なりがない」と、掛ける場面の「独立である」を区別すると、確率の式を意味から選べます。

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平均が落ち着くことと、ずれの形が落ち着くこと

大数の法則は、標本平均が母平均へ近づくことを述べます。ここでは、X₁, X₂, … が独立で同じ分布に従い、共通の平均 μ と有限の分散 σ² を持つと仮定します。同じ分布に従うことを同分布といいます。標本平均を次のように書きます。

Aₙ = (X₁ + … + Xₙ)/n

この仮定の下で、大数の弱法則は、任意の ε > 0 に対して次が成り立つという主張です。

P(|Aₙ – μ| ≧ ε) → 0 (n → ∞)

これは確率収束です。許容する誤差 ε を先に固定すれば、その誤差以上に外れる確率が小さくなります。「ある回数から先は絶対に外れない」とは述べていません。

証明の要は、平均を取ると分散が小さくなることです。独立性によって異なる項の共分散が 0 となるので、和の分散は各項の分散の和になります。

Var(Aₙ) = (nσ²)/n² = σ²/n

さらに、Y が有限の分散を持つとき、チェビシェフの不等式は P(|Y – E[Y]| ≧ ε) ≦ Var(Y)/ε² を与えます。この不等式は、|Y – E[Y]| ≧ ε という事象の上で (Y – E[Y])² ≧ ε² となることから導けます。ずれの二乗の平均は、その事象の確率に ε² を掛けた値以上になるのです。これを Aₙ に適用すると、証明がまとまります。

P(|Aₙ – μ| ≧ ε) ≦ σ²/(nε²) → 0

公平なコインで、表なら Xᵢ = 1、裏なら Xᵢ = 0 と置きます。独立に投げるモデルなら μ = 1/2、σ² = 1/4 です。n = 1000、ε = 0.1 とすると、表の割合が 1/2 から 0.1 以上離れる確率について、次の上限が得られます。

P(|A₁₀₀₀ – 1/2| ≧ 0.1) ≦ (1/4)/(1000 × 0.1²) = 0.025

この 0.025 は厳密な上限であって、実際の確率と等しいとは限りません。不等式の便利さは、分布を細部まで計算せずに保証を得られることです。その代わり、上限が実際の値よりかなり大きい場合もあります。

大数の強法則は、近づき方を別の形で述べます。独立同分布で E[|X₁|] < ∞ なら、μ = E[X₁] として次が成立します。

P({ω: Aₙ(ω) → μ}) = 1

この収束をほとんど確実な収束といいます。無限に続く実験結果の列を 1 本ずつ考えたとき、その列に沿って平均が μ へ収束する結果全体の確率が 1 です。弱法則は各 n で外れている事象の確率を見ており、強法則は無限列に沿った収束という事象を見ています。強法則から確率収束も従いますが、先ほどのチェビシェフの不等式による証明だけで強法則を証明したことにはなりません。

公平なコインが永遠に表になる列は、標本空間から消されるわけではありません。その列では表の割合は 1 のままです。しかし、最初の n 回がすべて表となる確率は 1/2ⁿ なので、永遠に表が続く事象の確率は 0 です。「確率 1 で成り立つ」は「すべての結果で成り立つ」とは異なります。確率 0 の例外を認める表現だと理解しましょう。

次に中心極限定理です。独立同分布の X₁, X₂, … が平均 μ と分散 σ² を持ち、0 < σ² < ∞ と仮定します。標準化した和を次のように定めます。

Zₙ = (X₁ + … + Xₙ – nμ)/(σ√n)

このとき、任意の実数 x について P(Zₙ ≦ x) → Φ(x) が成り立ちます。Φ は標準正規分布の分布関数です。その密度は φ(t) = exp(-t²/2)/√(2π) で、Φ(x) はこの密度を -∞ から x まで積分した値です。分布関数を通じて分布の形が近づくことを分布収束といいます。

大数の法則が Aₙ のずれを小さく見るのに対し、中心極限定理では √n(Aₙ – μ)/σ と拡大して、残った揺らぎの形を調べます。平均との差は典型的には 1/√n 程度の大きさになり、合計の平均との差は √n 程度になります。割合が安定することと、合計のずれが増え得ることは両立します。

公平なコインを 100 回投げた表の回数 S は、平均 50、分散 25、標準偏差 5 です。ここで標準偏差は分散の平方根です。40 回以上 60 回以下である確率を厳密に求めると、二項係数 C(100, k) を使って次のように書けます。

P(40 ≦ S ≦ 60) = ∑ₖ₌₄₀⁶⁰ C(100, k)/2¹⁰⁰ ≈ 0.964800

整数値の範囲を連続分布で近似するため、境界を 39.5 と 60.5 に広げる連続補正を使うと、標準化した境界は -2.1 と 2.1 です。

P(40 ≦ S ≦ 60) ≈ Φ(2.1) – Φ(-2.1) ≈ 0.964271

厳密値との差は約 0.000529 です。これはこの計算例で比較した差であり、中心極限定理の主張だけから得られる一律の誤差保証ではありません。連続補正も有限回の近似を工夫する方法で、極限定理そのものとは区別します。無限に向かう定理を実際の回数で使うときは、このように厳密な計算ができる例で確かめると、近似の意味をつかめます。

数え上げの確率が、測度の言葉に出会うまで

有限の試行では、全体のうち何通りが目的の結果かを数えれば、多くの問題が解けます。しかし、測定値が連続的に動く場合や、終わりのない試行列を扱う場合は、場合の数という共通の分母を置けません。確率論が厳密な理論へ進む際の問題は、計算を増やすことだけでなく、異なる種類の偶然に一貫して適用できる定義を用意することでした。

測度から確率への歴史を扱う文献として、ルベーグからコルモゴロフへの流れを題名に掲げた研究があります(Bingham, 2000)。ここで注目したい接点は、長さや面積を扱う測度と確率が、ともに集合へ非負の値を割り当て、可算加法性を用いることです。確率では特に全空間の値を 1 にします。この共通の枠組みによって、確率変数を可測関数、期待値を積分として扱えるようになります。

コルモゴロフの確率論の基礎づけに至る源流を題材とする歴史研究もあります(Shafer・Vovk, 2006)。現在の整った公理から学び始めると、最初からその形が当然だったように感じますが、公理の働きは個々の確率を答えることとは違います。どのような計算も守る共通の規則を定め、それぞれのモデルが規則に従うかを確かめられるようにすることです。

たとえば P(Ω) = 1 という公理だけでは、コインが公平かは決まりません。表の確率を p とするモデルも作れます。独立性も公理から自動的に出てくるのではなく、複数の試行の関係に追加する条件です。純粋な数学としての整合性と、対象に合うモデルを選ぶ判断は、接していても別の役割を持ちます。

1933 年の公理化は、確率と統計の基礎に関わる業績です。帰納の問題を比較する研究でも、この公理化と、情報理論やランダムネスに関わるアルゴリズム的複雑性が取り上げられています(McCall, 2004)。ここでいう帰納は、観察した結果から、まだ見ていない結果へどう考えを進めるかという問題です。確率の計算規則を厳密にした後にも、その確率を観察や予測へどう結び付けるかという問いが残ります。

大学で公理を学ぶ意味は、身近な頻度の説明を捨てることではありません。「割合が落ち着く」を強法則の事象として書き、「ずれの形」を分布収束として書き分けることです。日常では同じ「近づく」で済ませる場面を区別できるようになると、定理の仮定や結論の違いが計算に直接関わっていることが見えてきます。

観測の平均と、情報を受け取る過程を扱う

測定誤差を平均で抑える場面は、大数の法則の直接的な応用です。真の値を θ とし、測定値を Yᵢ = θ + εᵢ と書きます。誤差 εᵢ が独立同分布で、平均 0、有限の分散 τ² を持つなら、測定値の平均の期待値は θ、分散は τ²/n です。標準偏差は τ/√n なので、測定回数を 4 倍にすると平均の標準偏差は半分になります。

ただし、同じずれを持つ測定器で何回測っても、そのずれが平均によって消えるとは限りません。もし誤差の平均が b なら、測定値の平均が近づく先は θ + b です。偶然の揺らぎと一定の偏りを分ける必要があります。また、繰り返し測定が独立とは限らず、依存がある場合は和の分散に共分散の項が残ります。公式を使う前に、測定の仕方を数式の仮定へ翻訳する段階が必要です。

情報の分野では、観察される列と、その列を生成する確率モデルの関係が問題になります。McCall の研究は、コルモゴロフ、ド・フィネッティ、ソロモノフによる帰納の問題への取り組みを比較し、アルゴリズム的複雑性と情報理論やランダムネスの関係を扱っています(McCall, 2004)。列を眺めて規則があるように感じることと、確率モデルの下でその列にどれほどの確率があるかを計算することは、同じ問いではありません。

公平なコインを独立に 3 回投げる場合、HHH も HTH も特定の 1 列としては確率 1/8 です。HHH は規則的に見えても、その 1 列の確率が他の 1 列より小さいわけではありません。一方、「表が 2 回」という性質には複数の列が属し、確率は 3/8 になります。データを見た後に特徴を選んだのか、見る前に事象を決めたのかを意識するだけでも、偶然の読み違いを減らせます。

さらに、時間とともに情報が増える状況を扱う入口がマルチンゲールです。時刻 n までに利用できる情報を σ 加法族 ℱₙ で表し、ℱₙ ⊂ ℱₙ₊₁ とします。この増大する族をフィルトレーションと呼びます。確率変数列 Mₙ が各時刻の情報 ℱₙ に関して可測で、E[|Mₙ|] < ∞ を満たし、次の条件がほとんど確実に成立するとき、Mₙ をこの情報に関するマルチンゲールといいます。

E[Mₙ₊₁ | ℱₙ] = Mₙ

左辺は条件付き期待値です。可積分な Y に対する E[Y | ℱₙ] は、ℱₙ に関して可測な可積分確率変数 Z で、任意の A ∈ ℱₙ について ∫A Z dP = ∫A Y dP を満たすものとして定義し、確率 0 の違いを除いて一意です。有限のモデルでは、現在までの情報で区別できる各場合に分け、その場合の中で平均を取る操作に対応します。

公平で独立なコインの結果を、表なら Dᵢ = 1、裏なら Dᵢ = -1 と記録します。M₀ = 0、Mₙ = D₁ + … + Dₙ とし、ℱₙ を最初の n 回の結果が与える情報とします。次の Dₙ₊₁ はその情報と独立で平均 0 なので、条件付き期待値の線形性から次が得られます。

E[Mₙ₊₁ | ℱₙ] = Mₙ + E[Dₙ₊₁ | ℱₙ] = Mₙ

たとえば現在の値が 2 なら、次は 3 と 1 がそれぞれ確率 1/2 で起こり、平均は (3 + 1)/2 = 2 です。値が一定という意味ではなく、現在の情報で次の値の平均を予測すると現在の値になる、という性質です。時間に沿って観測や予測を更新する際に、情報と平均の関係を正確に表せます。

この定義だけから、好きな時点で止めても期待値が必ず保存されるとは結論できません。停止時刻に関する定理には、停止時刻の有界性などの追加条件が必要です。まず定義の等式を 1 段先について確認し、その後にどの操作が許されるかを学ぶ順序が、マルチンゲールを扱う基礎になります。

記号を読む前に、何を固定したかを書き出す

確率論のつまずきには、計算の複雑さに加え、問題の状況を事象へ置き換える難しさがあります。第 11 学年の生徒 142 人へ 10 個の自由記述型の確率問題を課した質的研究では、多くの生徒が問題解決や確率概念の適用に難しさを示しました(Memnun・Ozbilen・Dinc, 2019)。対象は高校段階の生徒であり、この結果から測度論を学ぶ大学生の困難や特定の指導法の効果まで断定はできませんが、式へ代入する前の概念の確認に目を向ける材料になります。

学習の手順は、まず標本空間の要素を言葉で書くことです。「3 回の表裏の列」なのか「表の回数」なのかを決め、必要なら列を列挙します。次に、求めたい事象を集合や不等式で表します。「半分くらい」なら |Aₙ – 1/2| < ε とし、どの ε を許容するかを固定します。曖昧な表現を数式へ直す段階で、問題の輪郭がはっきりします。

その後、使う定理の仮定を横に書きます。独立なのか、同分布なのか、平均や分散は有限なのかを、問題文またはモデルから確かめます。最後に、結論が等式、不等式、近似、極限のどれなのかを読み直します。チェビシェフの上限を実際の確率と同じだと思う誤りも、この手順で見つけられます。計算が正しくても、結論の種類を変えてしまえば別の主張になります。

高校生のうちには、樹形図や表で小さな標本空間を漏れなく書き、同じ問題を期待値の線形性でも解く練習が役立ちます。3 回の表の回数なら、分布表による平均と、各回の指示変数を足す方法が一致することを確かめます。期待値の線形性 E[X + Y] = E[X] + E[Y] は、X と Y が可積分なら独立性なしで成立します。一方、分散を単純に足すには共分散が 0 という条件が必要です。どの計算で独立性を使ったかに印を付けると、公式の使い分けが明確になります。

塾で伴走するときは、答えが違った箇所だけを直すのでなく、「結果を数える段階」「事象を選ぶ段階」「定理を使う段階」のどこで考えがずれたかをノートから読み取ります。新幹線の座席で書いた表裏の列をもう一度見るつもりで、HHT と HTH を区別した理由、表の回数では同じ値にまとめた理由を説明してもらいます。説明が通れば、次に回数を増やした問題や連続分布へ進めます。

家庭では、お子さまが記号をすらすら言えるかよりも、「どんな条件なら使える式なのか」を自分の言葉で話せるかに耳を傾けていただければ十分です。毎回の結果を長期の平均と結び付けすぎず、考えを書き直す時間を持てると学習を支えやすくなります。理解が止まったときに、計算の速さだけで判断せず、小さな例へ戻る余地を残しておきましょう。

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確率 0 と極限定理についての 3 つの疑問

確率 0 の結果は、起こらないという意味ですか

一般には違います。[0, 1] の一様分布では、どの特定の点 a も P(U = a) = 0 ですが、得られる値は区間内のいずれかの点です。空集合の確率は必ず 0 でも、確率 0 の事象がすべて空集合とは限りません。強法則の「確率 1」も、例外が集合として存在しないという意味ではありません。

大数の法則があるなら、表の続いた後は裏が増えますか

独立なコインでは、過去に表が続いても次の裏の確率は変わりません。最初の一定回数に生じた偏りは、全体の回数 n が増えると割合への影響が小さくなります。たとえば初めの有限個の和を n で割った値は 0 へ近づきます。偏りを積極的に打ち消す力が働くと考える必要はありません。

中心極限定理は、すべてのデータを正規分布にしますか

元の各データの分布が正規分布に変わるわけではありません。ここで述べた定理は、独立同分布で有限の正の分散を持つ確率変数の和を、中心化し、適切な大きさで割ったものに関する主張です。依存が強い場合や分散が有限でない場合へ、そのまま適用することはできません。回数が有限なら近似の精度も別に検討します。

測度論的確率論を学ぶと、「偶然だからわからない」で止まっていた問いが、「どの事象の確率か」「どの情報を使った平均か」「何の意味で近づくか」という問いに変わります。高校で数えた表裏の列は、その問いを確かめる身近な手がかりとして残ります。公理や可測性を読んで迷ったときにも、小さな列を実際に書き、数と集合の対応へ戻れます。

大学数学の抽象性は、具体的な計算を置き去りにしません。定義から計算へ進み、計算から条件へ戻る往復によって、有限のコインと無限の試行列を同じ言葉で扱えるようになります。次に確率の式を使うときは、その式が語る事象を一文で書き添えてみましょう。偶然について筋道を立てて語る力は、その一文から育ちます。

あわせて読む(数学の地図・高校数学の単元解説)

参考文献

  1. Bingham, N. H.(2000)「Studies in the history of probability and statistics XLVI. Measure into probability: from Lebesgue to Kolmogorov」Biometrika. https://doi.org/10.1093/biomet/87.1.145
  2. Shafer, Glenn・Vovk, Vladimir(2006)「The sources of Kolmogorov’s Grundbegriffe」Statistical Science. https://doi.org/10.1214/088342305000000467
  3. McCall, John J.(2004)「Induction: from Kolmogorov and Solomonoff to de Finetti and back to Kolmogorov」Metroeconomica. https://doi.org/10.1111/j.0026-1386.2004.00190.x
  4. Memnun, Dilek Sezgin・Ozbilen, Omer・Dinc, Emre(2019)「A Qualitative Research on the Difficulties and Failures about Probability Concepts of High School Students」Journal of Educational Issues. https://doi.org/10.5296/jei.v5i1.14146

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