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数理統計学 データから確率モデルを推し量る|武蔵野個別指導塾

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成功率の推定から信頼区間、p 値、ベイズ推測、回帰分析まで、条件と計算を結びつけて学びます。10 回中 8 回の成功が何を意味するかを、確率モデルに戻って判断する力を養います。

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数理統計学 データから確率モデルを推し量る

音楽ゲームの成功回数から何を言えるでしょうか

ゲームセンターの音楽ゲームの前で、同じ譜面を繰り返し練習しているところを思い浮かべてください。画面には細かい判定と得点が出ます。難しい箇所を通過した回数をノートに記すと、10 回のうち 8 回は成功しています。「もう成功率は 80% だ」と言いたくなりますが、次の 10 回でも同じ割合になるのでしょうか。指の疲れ、曲への慣れ、周囲の音、自分の集中状態も変わります。

数学を教える立場から、この記録の横にはまず「何を同じ条件と考えたか」を書いてほしいと思います。10 回中 8 回という記録そのものと、今後も続く成功の起こりやすさは違います。前者は観測済みの数であり、後者は直接見えない性質です。数理統計学は、その見えない性質を確率モデルの中で表し、有限個のデータからどこまで推し量れるかを考える分野です。

成功の確率を決めてから成功回数を計算するのが、確率の問題の基本です。統計では向きが逆になり、成功回数を見て確率を考えます。ただし、同じ成功回数を生む確率は 1 つには決まりません。候補を比較する方法と、結論に残る不確かさを示す方法が必要になります。

多くの理系学部では、こうした考え方を 1〜2 年で学びます。実験結果を比較するときも、観測機器を調整するときも、予測を作るときも、ばらつくデータの扱いが欠かせないからです。計算の最後に小数を出すことよりも、その小数がどの条件の下で何を表すかを説明することに、大学で学ぶ統計の中心があります。

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二項分布を逆向きに読んでみる

高校数学のデータの分析で学ぶ平均や分散は、手元の数値を整理する道具です。数学 A の場合の数と確率、数学 B の統計的な推測からは、標本のばらつきを考える道が続きます。数学 II・III の微分積分は、後で確率密度を積分したり、尤度という関数を最大にしたりするときに役立ちます。特定の公式だけを先取りするより、それぞれが何を担当するかを押さえると見通しが立ちます。

まず、各回の成功確率が p で一定、各回の結果が独立というモデルを置きます。成功を 1、失敗を 0 と表し、10 回の成功回数を K とします。このとき K は二項分布に従います。成功がちょうど 8 回となる確率は、成功する位置の選び方が 45 通りあるので、次の式になります。

P(K = 8) = 45 × p⁸ × (1 – p)²

もし p = 1/2 なら、各並びの確率は 1/1024 です。したがって、ちょうど 8 回成功する確率は 45/1024 ≈ 0.04395 となります。これに対し、p = 0.8 なら同じ事象の確率は 45 × 0.8⁸ × 0.2² ≈ 0.30199 です。観測された成功回数は、p = 1/2 のモデルより p = 0.8 のモデルの方で起こりやすいとわかります。

ここで「p = 0.8 が正しい確率は約 30%」とは言えません。求めたのは、p を固定したときに K = 8 が起こる確率です。条件として置いた p と、確率を求めた対象である K を入れ替えるには、別の仕組みが必要です。この向きの区別が、最尤法とベイズ推測を学ぶ入口になります。

もう 1 つ、記録された割合は 8/10 = 0.8 と正確に計算できますが、それだけで母集団の成功率が正確に決まるわけではありません。割合を求める算術と、未知の性質について推論する統計は、同じ数字を使っていても異なる問いに答えています。標本が小さいときには、とくにこの違いが目立ちます。

現実の練習では、成功確率が回を追って変わることもあります。その場合、一定の p を使った二項分布は状況を十分に表しません。データの数を増やしても、変化を無視するという問題は自動的には直りません。まず条件をそろえるのか、時間とともに確率が変わるモデルを作るのかを決める必要があります。数理統計学では、公式の計算より前に、データの集め方とモデルの対応を問います。

推定量のよさを定義から区別する

母集団とは、調べたい対象全体です。人や製品の集合を指す場合もあれば、ある条件で繰り返される測定の結果全体を、確率分布として捉える場合もあります。標本はそこから得た観測です。数理統計では、観測前の標本を確率変数 X₁, …, Xₙ と表し、観測後の具体的な値を x₁, …, xₙ と区別します。

未知の量を θ とし、その候補全体を Θ と書きます。統計モデルは、θ ∈ Θ で添字づけられた確率分布の族 {Pθ : θ ∈ Θ} です。ベルヌーイ分布の例なら θ = p、Θ = [0, 1] とし、Pₚ(X = 1) = p、Pₚ(X = 0) = 1 – p と定めます。これは成功か失敗かを表すモデルです。「何が未知なのか」を記号で明示すると、推定の目的が定まります。

無作為標本という言葉を使う際には、ここでは X₁, …, Xₙ が独立で同じ分布 Pθ に従うと仮定します。同じ分布であることは各回の確率法則が共通であること、独立であることは複数の結果の同時確率が対応する確率の積で表せることです。似た条件で集めたという日常語だけでは、この数学的条件まで保証されません。

統計量とは、未知の母数を式に含まず、標本だけから計算する量 T = g(X₁, …, Xₙ) です。その統計量を θ の推定に用いるとき、θ の推定量と呼びます。たとえば標本平均は X̄ = (X₁ + … + Xₙ)/n です。成功を 1、失敗を 0 とした標本なら、X̄ は成功割合になります。観測前の X̄ はばらつく確率変数であり、観測後の 0.8 は今回の推定値です。

推定量 T が θ の不偏推定量であるとは、期待値が存在し、すべての θ ∈ Θ に対して Eθ[T] = θ が成り立つことです。期待値は同じ仕組みで標本を何度も取り直したときの平均的な値を表します。不偏性は、今回の推定値が真値と一致する性質ではありません。ベルヌーイ標本なら Eₚ[Xᵢ] = p なので、期待値の線形性から Eₚ[X̄] = p となり、標本平均は不偏です。

一致性は、標本数を増やすときの性質です。推定量の列 Tₙ が θ に一致するとは、任意の θ ∈ Θ と任意の ε > 0 に対して、次が成り立つことをいいます。

n → ∞ のとき Pθ(|Tₙ – θ| > ε) → 0

どれほど狭い許容誤差 ε を決めても、その誤差を超える確率が標本数とともに 0 に近づく、という定義です。不偏性は各標本数での期待値を問い、一致性は標本数を大きくした極限を問います。この 2 つは別の性質です。

たとえば、標本をいくら集めても最初の X₁ だけで p を推定する方法は不偏です。しかし p = 1/2 のとき、X₁ は必ず真値から 1/2 だけ離れます。ε = 1/4 とすれば誤差が ε を超える確率はいつまでも 1 なので、一致推定量ではありません。データを追加しても使わなければ、精度は上がらないのです。

逆に Tₙ = (X₁ + … + Xₙ)/(n + 1) とすると、期待値は np/(n + 1) で、p > 0 なら不偏ではありません。それでも、標本平均に n/(n + 1) を掛けたものなので、標本平均が p に一致すれば Tₙ も p に一致します。この例は、有限の標本で少し偏ることと、極限で真値に近づくことが両立すると示しています。

効率性を考えるときには、比較の基準を先に決めます。ともに θ を不偏に推定する 2 つの方法なら、同じ θ における分散が小さい方は、真値の周りでの散らばりが小さいといえます。ただし分散だけなら、いつも同じ数を答える方法が最小になってしまいます。偏りのある方法まで比較するには、平均二乗誤差が役立ちます。

Eθ[(T – θ)²] = Varθ(T) + (Eθ[T] – θ)²

これは有限な二次モーメントの下で成り立ちます。T – θ を、平均からのずれと平均の偏りに分けて二乗すると、交差項の期待値が 0 になるためです。不偏なら平均二乗誤差は分散そのものですが、偏りがあればその二乗も加わります。効率的という言葉を聞いたら、不偏推定量の中での比較なのか、平均二乗誤差での比較なのか、あるいは大標本での比較なのかを確かめます。

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標本平均の保証と区間推定の計算

独立で同じ分布に従う X₁, …, Xₙ の平均を μ、有限な分散を σ² とすると、標本平均について E[X̄] = μ、Var(X̄) = σ²/n が成り立ちます。分散の式では独立性により異なる観測間の共分散が 0 になります。平均を取ればどんなデータでも分散が σ²/n になる、という主張ではありません。

チェビシェフの不等式をこの標本平均に適用すると、任意の ε > 0 について次を得ます。

P(|X̄ – μ| ≧ ε) ≦ σ²/(nε²)

右辺は n → ∞ で 0 に近づくので、標本平均の一致性が導けます。これが有限な分散を仮定した弱大数の法則の証明の核心です。分散が小さくなる計算を、誤差が大きくなる確率の上限につなぐところに意味があります。「たくさん集めれば落ち着く」という説明に、仮定と誤差の基準が加わりました。

ベルヌーイ分布では分散が p(1 – p) なので、成功割合の分散は p(1 – p)/n です。p = 1/2、n = 100、ε = 0.1 とすると、上の不等式による上限は 0.25 です。n = 400 なら 0.0625 になります。これは実際の誤差確率を求めた値ではなく、その上限です。また、標本平均の標準偏差は σ/√n ですから、標本数を 4 倍にすると半分になります。標本数と精度は単純な比例関係ではありません。

次に、同じ成功割合が最尤法でも得られることを確かめます。尤度は、観測データを固定し、母数の関数として見た確率または確率密度です。10 回中 8 回成功したデータなら、母数に依存しない正の係数を除いて、尤度を L(p) = p⁸(1 – p)² と書けます。最尤推定は、母数の候補範囲でこの値を最大にする方法です。

0 < p < 1 で自然対数を取ると、対数尤度は ℓ(p) = 8 log p + 2 log(1 – p) です。対数は単調増加なので、最大となる場所は変わりません。

ℓ′(p) = 8/p – 2/(1 – p)

これを 0 と置くと 8(1 – p) = 2p、したがって p = 0.8 です。さらに ℓ″(p) = -8/p² – 2/(1 – p)² < 0 なので、この点で最大になります。端点 p = 0, 1 では今回の尤度は 0 です。微分が 0 になる点を探すだけでなく、最大であることと母数の範囲まで確かめるのが一連の計算です。

このモデルでは効率性も具体的に扱えます。0 < p < 1 とし、n 回の成功回数を K とすると、対数尤度の微分は S = (K – np)/(p(1 – p)) です。この S をスコアと呼びます。Eₚ[S] = 0 で、その二乗の期待値 Iₙ(p) = Eₚ[S²] = n/(p(1 – p)) をフィッシャー情報量と呼びます。

この有限な標本空間で p の不偏推定量 T を考えると、Eₚ[T] = p の両辺を p で微分して Eₚ[TS] = 1 を得ます。和の項数が有限なので、微分を和の中へ入れられます。したがって Covₚ(T, S) = 1 です。コーシー・シュワルツの不等式から 1 ≦ Varₚ(T)Iₙ(p) となり、次の下限が出ます。

Varₚ(T) ≧ p(1 – p)/n

標本平均はちょうどこの分散を持つので、このモデルでは下限を達成する効率的な不偏推定量です。これはクラメール・ラオ型の分散下限を、ベルヌーイ標本について直接確かめたものです。一般のモデルでは微分と積分の交換などの条件が必要であり、すべての最尤推定量が有限の標本で不偏・効率的だとはいえません。

点推定に加えて、誤差を含む区間も考えましょう。X₁, …, Xₙ が独立で同じ正規分布 N(μ, σ²) に従い、σ > 0 が既知なら、Z = (X̄ – μ)/(σ/√n) は標準正規分布に厳密に従います。標準正規変数の -z から z までの確率が 0.95 となる正の数を z とすると、z ≈ 1.959964 です。Z の不等式を μ について解き直すと、信頼区間が得られます。

[X̄ – zσ/√n, X̄ + zσ/√n]

たとえば、一定条件の測定値について σ = 2、n = 16、観測した標本平均が 10 なら、σ/√n = 0.5 です。区間は約 [9.020, 10.980] となります。この計算例は正規モデルの測定値についてのものであり、成功か失敗かの記録にそのまま適用するものではありません。

一般に、データから作る区間 C(X₁, …, Xₙ) が信頼係数 0.95 の信頼区間であるとは、すべての母数について、その区間が母数を含む確率が少なくとも 0.95 であることです。今の正規モデルの区間では、その確率はちょうど 0.95 です。繰り返し標本を取り直すと区間の方が動き、μ は固定されています。観測後の特定の区間に対して、固定された μ が入る確率を 0.95 と割り当てたのではありません。σ が未知なら別の扱いが必要であり、標本標準偏差を代入するだけで今の厳密な保証が残るわけでもありません。

尤度を中心に見えてくる推測の歴史

数理統計学の歴史を読むと、観測値をまとめる方法だけでなく、よい推定とは何かを定める課題が見えてきます。Fisher の理論統計学の数学的基礎を扱う論文は、統計の実際的な方法の発展に対して、基本原理や基礎的な問題が十分に整理されていないという問題意識を示しています(Fisher, 1922)。先ほど区別した不偏性、一致性、効率性も、推定値が出ればそれでよいとはしない姿勢で読むと、必要性がわかります。

最尤法の形成そのものも歴史研究の対象です。Aldrich の論文は、Fisher と最尤法の成立を 1912〜1922 年という期間で取り上げています(Aldrich, 1997)。この題材から、高校の最大・最小問題と同じ微分計算を使う方法であっても、何を最大にするかという概念の成立は、独立した問いであると気づけます。単に最も大きな値を探すだけなら、最尤法を理解したことにはなりません。

ここで数学として整理すると、確率関数と尤度関数の違いが重要です。p を固定して可能なデータすべてについて確率を足せば 1 になります。一方、データを固定して p を動かす尤度は、p について積分して 1 になる必要がありません。また尤度に、p に依存しない正の定数を掛けても最大点は同じです。成功順序まで観測したときと成功回数だけを観測したときで組合せの係数が変わっても、今回の p の最尤推定値は一致します。

Hald の論文は、最尤法の歴史を逆確率と最小二乗法との関係で扱っています(Hald, 1999)。逆確率は、観測された結果から未知の原因や母数の側へ確率を向ける問題に関わる歴史的な言葉です。最小二乗法は観測値とモデルの予測の差の二乗和を小さくする方法です。このように、データから未知量へ進むという共通の目的があっても、出発点となる量は異なります。

数学的なつながりは自分でも確かめられます。独立な誤差が平均 0、共通の既知分散 σ² の正規分布に従う回帰モデルでは、対数尤度は「係数に依存しない項」から「残差平方和を 2σ² で割ったもの」を引いた形です。したがって回帰係数について尤度を最大にすることは、残差平方和を最小にすることと一致します。正規誤差という条件が、確率モデルの考え方と幾何的な近似の考え方を結びつけます。歴史の年号を覚えること以上に、この条件を式で言えることが学習の支えになります。

検定・ベイズ・回帰を同じデータ観から捉える

現代のデータ分析では、変化が偶然のばらつきで説明できるか、未知量について何を予測するか、変数同士にどんな関係があるかが問われます。まず検定では、検討の基準となる帰無仮説と、それに対する対立仮説を置きます。成功確率なら、帰無仮説 H₀ : p = 1/2、対立仮説 H₁ : p > 1/2 のように書きます。ここでは「大きい成功回数ほど帰無仮説に反する」という向きを、観測前に決めます。

この片側検定の p 値は、帰無仮説の下で、観測値以上の成功回数になる確率です。10 回中 8 回成功した場合には、ちょうど 8 回の確率だけでなく、9 回と 10 回の確率も足します。

p 値 = P₀.₅(K ≧ 8) = (45 + 10 + 1)/1024 = 0.0546875

有意水準をあらかじめ 0.05 として、p 値がそれ以下なら棄却する規則を使うと、今回は棄却しません。ただし「p = 1/2 と証明された」という意味ではありません。また、0.0546875 は帰無仮説が正しい確率でも、今回の結果が偶然である確率でもありません。帰無仮説を条件としたデータ側の確率です。両側の違いを検討したいなら検定の向きも変わるため、この数値をそのまま流用することはできません。

第 1 種の過誤は、帰無仮説が正しいのに棄却することです。有意水準はその確率を抑える基準になります。今回の規則では、成功回数が 9 回以上のときに棄却するため、p = 1/2 での棄却確率は 11/1024 ≈ 0.01074 です。成功回数が整数しか取れないので、実際の確率が 0.05 より小さくなります。第 2 種の過誤は、対立仮説に属する真値の下で棄却しないことです。真の p = 0.8 としても、この規則で棄却できる確率は約 0.37581 にとどまります。棄却できなかったことだけで、違いがないと決められない理由が数で見えます。

p 値の役割は研究上も検討されています。Hofmann と Meyer-Nieberg の論文は、オペレーションズ・リサーチにおける p 値の扱いを、米国統計学会の声明の理由と含意に関わる題材として掲げています(Hofmann・Meyer-Nieberg, 2018)。ここでの計算からも、p 値だけでは成功率の大きさも、推定の精度も伝わらないとわかります。推定値、区間、標本数、モデルの条件を合わせて読む必要があります。

ベイズ推測では、未知の p に事前分布を置き、データを得た後の事後分布を計算します。事前密度を π(p)、データを x と書くと、分母の積分が有限で正であるとき、事後密度は次の式で定義されます。

π(p | x) = L(p)π(p)/∫₀¹ L(q)π(q) dq

分子は尤度と事前密度の積で、分母は全体の積分を 1 にするための量です。q は積分するための変数にすぎません。Fienberg の論文は、ベイズ推測がいつ「ベイズ的」と呼ばれるようになったかを問いとしています(Fienberg, 2006)。名称の歴史とは別に、計算を理解するには、データを得る前と後で分布をどう更新したかを明示することが必要です。

例として 0 < p < 1 で π(p) = 1 という一様な事前密度を置きます。10 回中 8 回成功した後の密度は、積分で正規化すると π(p | x) = 495p⁸(1 – p)² となります。この分布はベータ分布の一種で、事後平均は 9/12 = 0.75、密度が最大になる p は 0.8 です。同じ条件で次の結果が、p を与えた下で過去と独立に生じるなら、次回の成功の事後予測確率は事後平均に等しく 0.75 です。

最尤推定値 0.8 と事後平均 0.75 は、計算違いではありません。前者は尤度の最大点、後者は事前分布を含めた事後分布の平均です。事前分布を変えると結果も変わります。一様という選択もモデルの一部であり、唯一の中立な出発点ではありません。事後分布の下で母数が入る確率を指定して作る区間は信用区間と呼び、標本抽出を繰り返す信頼区間の保証とは区別します。

最後に回帰分析を考えます。説明変数 x から目的変数 Y の平均を表す単回帰モデルは、Y = a + bx + ε と書けます。E[ε | x] = 0 と仮定すれば E[Y | x] = a + bx となります。固定した x の観測値が少なくとも 2 種類あれば、切片と傾きを最小二乗法で一意に求められます。これは誤差の正規性を置かなくても定義できる計算法で、推測の保証を加えるときに、分散や独立性などの仮定を追加します。

小さなデータとして (x, y) = (0, 1), (1, 2), (2, 2) を使います。x の平均は 1、y の平均は 5/3 です。最小二乗法の傾きは、偏差の積の和を x の偏差平方和で割って求めます。

b = {(-1) × (-2/3) + 0 × (1/3) + 1 × (1/3)}/{(-1)² + 0² + 1²} = 1/2

a = 5/3 – (1/2) × 1 = 7/6

予測値は順に 7/6, 5/3, 13/6、残差は -1/6, 1/3, -1/6 です。残差の和は 0、残差平方和は 1/6 となります。測定器の入力と出力の対応を近似する場合など、この計算は直線的な関係を読み取る入口になります。ただし傾きが得られたことだけで、x を操作すると必ずその分だけ Y が変わるとは言えません。因果の主張には、実験の設計や交絡要因の扱いも必要です。

定義を覚えた後に条件を言葉へ戻す

統計でつまずきやすいのは、公式を忘れることだけではありません。p 値を計算できても、「何を固定した確率か」を取り違えると結論が逆になります。Sotos らは、大学の統計入門科目の学生について、仮説検定の誤概念と、その理解に対する自信を研究対象にしています(Sotos ほか, 2009)。対象は大学の入門科目の学生であり、この研究だけから高校生にも同じ傾向や指導効果があるとは言えませんが、正答への自信と説明の正確さを別に点検する視点は、学習課題を作る助けになります。

第 1 の手順は、問題を読んだら「観測したもの」「未知のもの」「仮定したもの」を別々に書くことです。成功回数は観測したもの、p は未知のもの、独立性と一定の成功確率は仮定したものです。ここを分けてから式を書くと、p を確率変数として扱うベイズ推測と、固定した母数として扱う頻度論的な推測の違いも見えます。

第 2 の手順は、確率の式を必ず 1 文に戻すことです。P₀.₅(K ≧ 8) なら「成功確率が 1/2 のとき、10 回中 8 回以上成功する確率」と読みます。「成功確率が 1/2 である確率」と読んでいないか、声に出して確かめます。計算結果だけを隠すのではなく、記号の条件部分を隠して復元する練習も役立ちます。

第 3 の手順は、点推定と保証を別々に点検することです。推定値を出したら、不偏性を主張するなら期待値、一致性なら誤差確率の極限、信頼区間なら被覆確率を確かめます。証明の全体が難しくても、標本平均の分散で独立性をどこに使ったかを指せれば、仮定の役割を理解する足場になります。

第 4 の手順は、例の条件を 1 つだけ変えることです。独立を外す、既知の分散を未知にする、片側検定を両側の問題に変える、といった変更をします。そのとき、使える式と使えなくなる式を説明します。何も変わらないと答えたくなったところが、仮定を読み飛ばしていた箇所かもしれません。

高校生のうちには、二項分布で「ちょうど」と「以上」を区別する計算、期待値と分散、対数の微分を確かめておくとよいでしょう。余裕があれば、少ない試行回数についてすべての成功・失敗の並びを書き、推定量の分布を作ります。標本を取り直すと何が動くのかを目で追うと、不偏性や信頼区間の定義が単なる言葉ではなくなります。

塾で扱うなら、答えの数値と同じくらい、条件を説明する短い文を見ます。講師は「この確率では何が固定されていますか」「この区間は何を繰り返すと動きますか」と問い、混ざった概念を計算の出発点まで戻して整理します。一方、家庭ではお子さまの計算を採点する必要はありません。「その数字は何についての数字なの」と説明を聞き、考え直す時間を確保することが支えになります。説明が止まることは、考えるべき場所が見つかった合図として受け止められます。

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推測の範囲を確かめる 3 つの問い

データが多ければ、モデルが少し違っても大丈夫ですか

標本数を増やすと減るのは、想定した標本抽出の下でのばらつきです。対象の選び方が偏っている、成功確率が途中で変わる、記録が互いに依存する、といった問題は別に考えます。たとえば同じ測定値を繰り返し複写して件数を増やしても、新しい独立な観測にはなりません。数より先に、1 件が何を表しているかを確かめます。

有意でなければ、効果はないと考えてよいですか

棄却しなかったという結果だけでは、効果がないとは言えません。今回の検定例でも、p = 0.8 の下で棄却できる確率は半分未満でした。どれくらいの違いを捉えたいのか、標本数は十分か、推定区間にはどの範囲の値が入るかを一緒に見ます。逆に有意になっても、実用上大きな違いであるとは限りません。

ベイズ推測と最尤法はどちらを使えばよいですか

まず、最大点として母数を要約したいのか、事前情報を含む分布や予測がほしいのかを考えます。最尤法は尤度を基準にし、ベイズ推測は事前分布を加えて事後分布を作ります。方法の名前で優劣を決めるより、モデルの条件、利用する情報、求めたい結論を明らかにして選びます。どちらも、データの集め方を点検する責任をなくすものではありません。

音楽ゲームの前に戻ると、10 回中 8 回という記録の見え方は少し変わります。成功割合としては 0.8、一定の成功確率を仮定するモデルの最尤推定値としても 0.8 です。しかし、その数字から次回の成功を断言することも、練習の効果を証明することもできません。何を記録し、何を仮定し、どの方法で推測したかを添えて初めて、他の人が吟味できる結論になります。

平均、微分、確率の足し算といった高校数学の道具は、そのために使えます。大学の数理統計学は、それらの計算に「この結論をどこまで信頼するか」という問いを加えます。数値の向こうにある条件まで説明できたとき、データを読む視野が広がります。

あわせて読む(数学の地図・高校数学の単元解説)

参考文献

  1. R. A. Fisher(1922)「On the mathematical foundations of theoretical statistics」Philosophical Transactions of the Royal Society of London. Series A, Containing Papers of a Mathematical or Physical Character. https://doi.org/10.1098/rsta.1922.0009
  2. J. Aldrich(1997)「RA Fisher and the making of maximum likelihood 1912-1922」Statistical Science. https://doi.org/10.1214/ss/1030037906
  3. A. Hald(1999)「On the history of maximum likelihood in relation to inverse probability and least squares」Statistical Science. https://doi.org/10.1214/ss/1009212248
  4. Marko Hofmann, Silja Meyer-Nieberg(2018)「Time to dispense with the p-value in OR? Rationale and implications of the statement of the American Statistical Association (ASA) on p-values」CEJOR. Central European Journal of Operations Research. https://doi.org/10.1007/s10100-017-0484-9
  5. Stephen E. Fienberg(2006)「When did Bayesian inference become “Bayesian”?」Bayesian Analysis. https://doi.org/10.1214/06-ba101
  6. Ana Elisa Castro Sotos, Stijn Vanhoof, Wim Van den Noortgate ほか(2009)「How Confident Are Students in Their Misconceptions about Hypothesis Tests?」Journal of Statistics Education. https://doi.org/10.1080/10691898.2009.11889514

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