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複素関数論 正則関数とコーシーの積分定理|武蔵野個別指導塾

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複素微分の方向によらない極限から、正則関数と積分定理のつながりをたどります。留数を用いて実数の広義積分が π になる過程を計算し、定理を使う前に調べる領域と特異点の意味をつかめます。

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複素関数論 正則関数とコーシーの積分定理

水たまりに映る景色から、平面の関数を考える

雨上がりの校庭の水たまりをのぞくと、空と校舎が上下を入れ替えて映っています。水面の端に小石が落ちれば、輪になった波が広がり、映った線が曲がります。数学を教える立場からは、この景色を前に「平面の点を別の平面の点へ移すとき、何をもって滑らかと呼ぶのだろう」と問いかけたくなります。鏡に映す操作と、紙を回転させる操作は、どちらも図形をきれいに移します。しかし、複素関数論では、この違いが微分できるかどうかを分けます。

高校で学ぶ複素数は、実数だけでは解けない方程式を扱い、平面上の回転を表す数です。大学の複素関数論では、それを変数にして関数を調べます。入力が平面上を動くので、ある点への近づき方は左右だけではありません。上下からも斜めからも、曲がった道に沿っても近づけます。その全部について整合する微分を求めると、実数の微分よりも強い制約が生まれます。

その制約を満たす正則関数には、境界上の値から内部の値を計算できるという性質があります。さらに、実数の積分を求めるために複素平面へ回り道をすると、かえって計算が短くなることがあります。多くの理系学部では、1〜2 年で学ぶ微分積分や複素数の知識が入口になります。ここでは、式の中に i を付け加えるだけでは見えてこない、平面全体の整合性を追っていきます。

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複素数の掛け算と高校の微分をつなぐ

虚数単位 i は i² = -1 を満たします。複素数 z = x + iy を平面上の点 (x, y) と対応させると、実部 x が横座標、虚部 y が縦座標になります。絶対値 |z| = √(x² + y²) は原点からの距離です。実数の絶対値が数直線上の距離を表していたことが、そのまま平面へ広がっています。

まず、高校の複素数の計算を確かめましょう。

(1 + i)² = 1 + 2i + i² = 2i

1 + i の長さは √2、偏角は π/4 です。2 乗すると長さは 2、偏角は π/2 になります。一般に、0 でない複素数を掛ける操作は、長さの倍率と回転を同時に指定します。たとえば i 倍は、長さを変えずに反時計回りに π/2 回す操作です。偏角は回転の角度なので、2π の整数倍の違いを許して考えます。

次に、関数 f(z) = z² を実部と虚部に分けます。

f(x + iy) = (x² – y²) + i(2xy)

平面上の点 (x, y) が、別の平面上の点 (x² – y², 2xy) へ移っています。この対応を描くには、入力用と出力用の平面を分けると見通しがよくなります。実数関数のように横軸を入力、縦軸を出力にするだけでは、それぞれが持つ 2 つの座標を載せきれません。

微分の計算は高校の形とよく似ています。増分 h を 0 でない複素数として、差商を作ります。

((z + h)² – z²)/h = 2z + h

h がどの方向から 0 へ近づいても、右辺は 2z へ近づきます。したがって f′(z) = 2z です。z = 1 + i での微分係数は 2 + 2i になります。ここでの微分係数は傾きという実数ではなく、微小な変化を何倍し、どれだけ回すかをまとめた複素数です。

この式には、近似の誤差も現れています。

f(z + h) – f(z) = 2zh + h²

一次の項が 2zh、残りが h² です。残りの絶対値を |h| で割ると |h| になり、0 へ近づきます。この意味で、十分小さい範囲では複素数 2z を掛ける操作が関数の変化を説明します。ただし z = 0 では一次の項が消えます。そこでの振る舞いを回転と拡大だけで説明することはできません。

高校の数学 II の複素数、数学 C の複素数平面、数学 III の極限と微分がここで合流します。一方、実数の変数で微分できたからといって、そのまま複素数の変数でも微分できるとは限りません。実軸に沿った計算は、平面上の無数の近づき方のうちの一部だからです。

どの方向でも同じ微分が得られるという条件

複素微分の定義を正確に置きましょう。複素平面 C の開集合 D 上で定義された関数 f と、その中の点 a を考えます。開集合とは、各点のまわりに十分小さい円板を取ると、その円板全体が集合の中に入る集合です。記号では、各 a ∈ D に対し、ある r > 0 が存在して、|z – a| < r を満たす z がすべて D に属することです。

f が a で複素微分可能であるとは、次の極限が有限の複素数として存在することです。

f′(a) = lim[h → 0](f(a + h) – f(a))/h

この h は実数に限定しません。「極限が L である」をさらに言葉と記号で述べると、任意の ε > 0 に対してある δ > 0 が存在し、a + h ∈ D かつ 0 < |h| < δ ならば、|(f(a + h) – f(a))/h – L| < ε となることです。δ は近づく方向ごとに変えるのではなく、条件を満たすすべての h に通用する必要があります。

そして、f が開集合 D のすべての点で複素微分可能であるとき、f は D 上で正則であるといいます。ある 1 点で微分できることと、その周囲も含めて正則であることは違います。後で使う積分定理は、曲線やその内部を含む範囲での正則性を要求します。

反例として、複素共役を取る関数 f(z) = z̄ を調べます。z = x + iy に対して z̄ = x – iy です。幾何学的には実軸に関する反射で、最初の水面の話に対応する操作です。差商は h̄/h となります。h が 0 でない実数なら値は 1 ですが、h = it、t が 0 でない実数なら値は -1 です。近づく方向で値が違うので、この関数はどの点でも複素微分可能ではありません。連続で、図としてなめらかに見えるだけでは足りないのです。

実部と虚部を使うと、その違いを偏微分で表せます。f(x + iy) = u(x, y) + iv(x, y) と置きます。f がある点で複素微分可能なら、その点で u と v の偏微分が存在し、次のコーシー=リーマンの方程式が成り立ちます。

∂u/∂x = ∂v/∂y, ∂u/∂y = -∂v/∂x

理由の中心は、差商を横方向と縦方向で比べることです。横方向では極限が ∂u/∂x + i∂v/∂x になります。縦方向では、増分 it で割るため、極限は ∂v/∂y – i∂u/∂y になります。この 2 つが等しいことから、実部どうしと虚部どうしの等式が出ます。

逆向きには仮定が必要です。u と v の一階偏微分が D 上で連続で、D のすべての点でコーシー=リーマンの方程式を満たすなら、f は D 上で正則です。偏微分の連続性は、実変数の意味で一次近似が可能であることを保証し、上の方程式はその一次近似を複素数の掛け算の形にそろえます。方程式だけを 1 点で確かめて、周囲の正則性まで結論してはいけません。

f(z) = z² では u = x² – y²、v = 2xy です。偏微分は順に ∂u/∂x = 2x、∂u/∂y = -2y、∂v/∂x = 2y、∂v/∂y = 2x となり、方程式を満たします。これらは全平面で連続なので、z² は全平面で正則です。一方、共役の関数では u = x、v = -y となり、∂u/∂x = 1 と ∂v/∂y = -1 が一致しません。

「1 点だけ微分できる」の例も見ておきましょう。g(z) = |z|² では、0 における差商は |h|²/h = h̄ なので 0 へ近づき、g′(0) = 0 です。しかし u = x² + y²、v = 0 を方程式に入れると、2x = 0、2y = 0 が必要です。微分可能なのは原点だけで、原点を含むどんな開円板上でも正則ではありません。この区別が、定理の仮定を読むときの足場になります。

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閉じた道の積分と、内部の値を取り出す公式

複素積分も、まず定義から始めます。区分的に連続微分可能な曲線 γ を z = γ(t)、a ≦ t ≦ b で表し、f が曲線上で連続であるとします。このとき曲線に沿う複素積分を次で定めます。

∫γ f(z) dz = ∫[a から b]f(γ(t))γ′(t) dt

右辺は実部と虚部をそれぞれ実数の積分として計算します。dz を道の向きと長さを含む増分として扱うため、γ′(t) が必要です。関数の値を足すだけでも、曲線の長さだけを掛けるのでもありません。道を逆向きにたどれば、積分の符号は反転します。

ここでコーシーの積分定理の、使いやすい形を述べます。D が単連結な領域で、f が D 上で正則なら、D 内の任意の区分的に連続微分可能な閉曲線 γ に対し、∫γ f(z) dz = 0 です。領域とは空でない連結な開集合を指します。単連結とは、領域内のどの閉曲線も、その領域の中で連続的に変形して 1 点に縮められることです。平面でいえば穴のない範囲を思い描けますが、実際に問うのは曲線を領域からはみ出さずに縮められるかどうかです。

穴への注意は、f(z) = 1/z を使うと明確になります。単位円を反時計回りに z = cos t + i sin t、0 ≦ t ≦ 2π と表します。z′(t) = iz なので、次の計算になります。

∫[単位円](1/z) dz = ∫[0 から 2π]i dt = 2πi

0 にはなりません。1/z は原点を除いた平面では正則ですが、その領域には穴があり、この円を領域内で 1 点へ縮められないからです。曲線上に問題がないことと、曲線の内側にも問題がないことは別の条件です。

なぜ正則性が閉曲線の積分を消すのでしょうか。一階偏微分の連続性があり、なめらかな境界を持つ領域で考えると、グリーンの定理から仕組みが見えます。f = u + iv、dz = dx + i dy とすると、積分の実部は ∫(u dx – v dy)、虚部は ∫(v dx + u dy) です。それぞれを面積分に直すと、実部の被積分関数は -∂v/∂x – ∂u/∂y、虚部の被積分関数は ∂u/∂x – ∂v/∂y になります。コーシー=リーマンの方程式によって、どちらも 0 です。一般の積分定理にはさらに議論が要りますが、微分の方向の整合性が、周囲を一周した積分の打ち消し合いを生むことが見えます。

もう一つの中心が、コーシーの積分公式です。γ を反時計回りの区分的に滑らかな単純閉曲線とし、f が γ とその内部を含む開集合で正則であるとします。内部の点 a に対して、次が成り立ちます。

f(a) = (1/(2πi))∫γ f(z)/(z – a) dz

境界を一周する積分から内部の値が出てきます。分母が 0 になる a の存在は、定理の破綻ではありません。f 自体は内部で正則であり、積分する際に意図的に作った 1/(z – a) の特異性が、f(a) を取り出す役割を担います。

単位円で f(z) = z² + 1、a = 0 とすると、f(0) = 1 なので積分値は 2πi です。直接にも、(z² + 1)/z = z + 1/z と分けられます。z の積分は原始関数 z²/2 があるため閉曲線では 0、1/z の積分は先ほどの 2πi です。定理を使う計算と定義に戻る計算が同じ答えになります。

積分公式の意味は、数値を求めることにとどまりません。境界から離れた内部の点では、右辺の分母をその点について繰り返し微分できます。その結果、正則関数は何度でも複素微分でき、各点の近くで収束するべき級数に展開できます。実数の関数では 1 回微分できることと何度でも微分できることは別ですが、複素微分は、最初の条件からここまで強い性質を引き出します。

局所の計算が大きな領域へ広がるまで

複素関数論の歴史では、複素数を計算の道具として使う段階から、関数をどの領域で定義し、どのように微分や積分を行うかを吟味する段階への移行が大きな柱になります。歴史研究には、コーシーと複素関数論の 1830〜1857 年を題目にした章があります(Gray, 2015)。ここで注目したいのは、積分の値を得る技巧と、その計算を正当化する条件とが、ともに研究の対象になることです。

先ほどの 1/z の例が、その条件の必要性を端的に示します。式を見ただけなら、原点以外で普通に微分できる有理関数です。しかし一周する道を選ぶと、原点の存在が積分値に現れます。関数の式、定義される領域、道の取り方を一組にして扱う必要があります。高校の積分で慣れた「原始関数を求めて端の値を引く」という操作を、どの範囲で実行できるか問い直すのです。

現代の複素解析の文献にも、正則関数のいくつかの特徴づけをまとめ、複素平面の算術と幾何、正則関数の定義、コーシー=リーマンの方程式へ進む構成が見られます(Rodríguez ほか, 2013)。微分の定義、積分の性質、べき級数は別々の暗記事項ではなく、同じ関数の性質を異なる方向から捉える入り口なのです。

その関係をもう一歩進めるのが解析接続です。領域 D 上の正則関数 f に対し、D を含むより大きい領域 G 上の正則関数 F が存在し、D のすべての点で F(z) = f(z) となるとき、F は f を G へ解析接続したものといいます。局所的に与えられた関数を、もとの値を保ったまま広げる考え方です。

例として、|z| < 1 で収束する等比級数を考えます。

1 + z + z² + z³ + … = 1/(1 – z)

第 N 次までの部分和と右辺との差は、z の N + 1 乗を 1 – z で割ったものです。|z| < 1 ならこの差は 0 に近づくため、等式が成立します。ところが z = -2 では級数の各項が 0 に近づかず、級数は収束しません。それでも右辺の有理関数は z = -2 で定義でき、値は 1/3 です。右辺は、円板内で級数が表していた正則関数を、1 を除いた平面へ広げています。発散する級数をそのまま足して 1/3 とする話ではなく、同じ関数を別の表現で延長する話です。

この延長の一意性を支えるのが一致の定理です。同じ領域上で正則な 2 つの関数が、その領域内に集積点を持つ点集合で一致すれば、領域全体で一致します。集積点とは、その点にいくらでも近いところに、集合の別の点が存在する点です。特に、空でない開いた部分で一致するなら全体で一致します。ただし、任意の領域へ常に接続できるという意味ではありません。上の有理関数は z = 1 で極を持ち、そこを含めて正則に延長することはできません。どこまで広げられるかを、特異点が教えます。

留数で実積分を求め、平面の物理へ進む

特異点のまわりにある情報を積分へ取り出す道具が、留数です。a において関数 f が未定義または正則でなく、ある r > 0 に対して 0 < |z – a| < r の範囲で f が正則であるとき、a を f の孤立特異点といいます。可除特異点も含むので、a で正則に延長できないことまでは要求しません。その円環状の範囲では、負の次数も許すローラン級数が使えます。留数 Res(f, a) は、その展開の 1/(z – a) の項の係数です。たとえば f(z) = c/(z – a) + g(z) で g が a の近くで正則なら、留数は c です。

留数定理をここで使う形で述べます。γ が反時計回りの区分的に滑らかな単純閉曲線で、f が γ とその内部を含む開集合上で、内部の有限個の孤立特異点を除いて正則であり、γ 上には特異点がないとします。このとき ∫γ f(z) dz は、内部の留数の総和に 2πi を掛けた値になります。正則な部分の積分は消え、特異点の 1/(z – a) の項が一周の積分に残るのです。

具体的に、実数の広義積分を計算します。

I = ∫[-∞ から ∞]1/(1 + x²) dx

複素変数の関数 F(z) = 1/(z² + 1) を取り、R > 1 として、実軸上を -R から R へ進み、上半円を R から -R へ戻る道を選びます。分母は (z – i)(z + i) と因数分解でき、道の内側にある特異点は i だけです。単純な極なので、留数は次の極限で求まります。

Res(F, i) = lim[z → i](z – i)F(z) = 1/(2i) = -i/2

閉曲線全体の積分は 2πi × (-i/2) = π です。しかし、これだけでは実軸の積分が π とはまだ言えません。上半円の積分が極限で消えることを確かめる必要があります。|z| = R 上では逆三角不等式により |z² + 1| ≧ R² – 1 で、半円の長さは πR です。したがって、次の評価が成り立ちます。

|∫[上半円]F(z) dz| ≦ πR/(R² – 1) → 0 (R → ∞)

この評価によって I = π が得られます。実数側でも、|x| ≧ 1 なら 1/(1 + x²) ≦ 1/x² なので、両端の広義積分は収束します。左右を同時に伸ばす操作だけでなく、通常の意味での広義積分が存在することも確かめられました。実数の方法で求める ∫[-R から R]1/(1 + x²) dx = 2 arctan R とも整合します。

積分定理、積分公式、高階の導関数の公式、留数定理の関係を整理し、材料力学への適用に言及する研究もあります(Sun, 2012)。ここで行った計算は、特異点の情報を使って積分を処理する基本例です。物理で現れる式でも、どの特異点を囲むか、道の残りの部分の積分をどう評価するかという判断が必要になります。

もう一つの応用は等角写像です。正則関数 f が点 a で f′(a) ≠ 0 を満たすとき、その点では微小な図形が複素数 f′(a) の掛け算によって近似されます。したがって交わる曲線の角度が保たれます。等角写像と数値計算を扱う文献では、流体の流れ、熱伝導、音響、電気、磁気などへの応用が取り上げられています(Kythe, 2019)。境界の複雑な領域を扱いやすい領域へ移すことが、こうした応用を考える入口になります。

なぜ熱や電気と関係するのでしょうか。正則関数 f = u + iv の実部と虚部は、ラプラス方程式を満たします。たとえば u について、コーシー=リーマンの方程式をもう一度微分すると、混合偏微分の一致によって次が得られます。

∂²u/∂x² + ∂²u/∂y² = ∂²v/(∂x∂y) – ∂²v/(∂y∂x) = 0

この形の関数を調和関数と呼びます。熱源がなく、熱伝導率が一定で等方的な平面の定常温度をモデル化すると、同じラプラス方程式が現れます。等角写像で領域を移して調和関数を合成する方法は、境界条件を保って温度分布を考える手段になります。ただし角度を保つことは、長さや面積も保つという意味ではありません。f(z) = z² でも倍率は点によって変わり、原点では導関数が 0 なので等角性の条件から外れます。

方向、領域、特異点を別々に確かめる練習

複素関数論で手が止まるときは、計算が難しいというより、何を確かめる計算なのかが混ざっていることがあります。差商を計算するのか、正則な範囲を調べるのか、積分する道の内側を調べるのか。この 3 つを同じ欄に詰め込まず、ノートを分けて進めると、誤りの場所を見つけやすくなります。

複素数の算術と複素関数の幾何学的な理解を使い、ゲームを作る活動を取り入れた教育実践が報告されています(Dittman ほか, 2017)。対象は中等教育の数学教員を目指す学生の幾何の授業で、うまくいった制作と十分にうまくいかなかった制作の両方を扱う報告であり、この活動が高校生全般の成績を上げるとまでは言えません。ここから授業づくりの手がかりとして受け取りたいのは、複素関数を式で扱うことと、点がどう移るかを見ることを行き来する活動です。

学習の手順は、次のように組み立てられます。

  1. 入力と出力の平面を並べ、1、i、1 + i が関数でどこへ移るか記します。z² なら出力は順に 1、-1、2i です。点の対応を描いてから式を展開すれば、実部と虚部を取り違えたときにも気づけます。
  2. 微分を調べるときは、まず実方向と虚方向の差商を比べます。異なれば微分不可能と結論できます。一致した場合は、それだけで十分と思わず、任意の複素増分で極限を示すか、偏微分の連続性を含む十分条件を使います。
  3. 積分では、曲線の向きを矢印で描き、特異点を印で置きます。1/z の単位円積分を思い出し、曲線上だけでなく内部も調べます。定理の名前を書く前に、適用できる領域を示す習慣を付けます。
  4. 無限区間の積分では、閉曲線の計算と、追加した弧の評価を別の行にします。留数を正しく求めても、弧が消えるとは限りません。長さと関数の絶対値の上限を掛ける評価を、最後まで書きます。

高校生のうちには、複素数を極形式と直交形式の両方で表す練習が役立ちます。掛け算の回転を考えるときは極形式、実部と虚部の偏微分を計算するときは直交形式が便利です。また、極限で「いろいろな方向で同じ値に見える」と「すべての近づき方で同じ値になる」を区別しましょう。図は見当を付ける助けになりますが、すべての場合を保証する役割は定義や評価式が担います。

塾で扱いたいのは、答えの丸付けに加え、どの行が結論を支えているかを言葉にする練習です。たとえば共役の関数が微分できない理由なら、「虚数があるから」ではなく、「実方向と虚方向の差商が一致しないから」と説明します。積分定理なら、式の正則性と領域の単連結性を別々に確認します。一度の説明で全部を覚えようとせず、反例を隣に置いて条件の意味をつかんでいきます。

ご家庭では、お子さまに定理の名前や計算の速さだけを尋ねるより、「今日はどの条件が必要だったの」と聞いていただくと、理解を言葉にする機会になります。説明の途中で止まった箇所は、次に確かめたい箇所です。保護者が複素積分を解ける必要はありません。学習時間を確保し、図や途中式を広げたまま考え直せる余裕を持つことが、難しい定義に取り組む支えになります。

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複素平面へ進む前に確かめたい三つの疑問

実数の微分ができれば、複素微分もできますか

実軸上で微分できるだけでは足りません。共役の関数は実軸上では x を x に移すので、その範囲だけを見れば導関数は 1 です。しかし虚方向からの差商は -1 になり、複素微分は存在しません。実数での計算力を使いながら、増分を複素数全体へ広げる点を意識しましょう。

閉じた曲線に沿う積分は、いつも 0 ですか

いつもではありません。単連結な領域での正則性という条件を満たす場合に、コーシーの積分定理を使えます。単位円に沿う 1/z の積分は 2πi でした。閉じていることだけに注目せず、内部の原点で関数が定義できないことも調べる必要があります。

解析接続をすると、どんな級数にも値を付けられますか

そうではありません。解析接続は、正則関数として一致する範囲を保ちながら定義域を広げる操作です。等比級数の例では、級数が発散する点でも有理関数による延長が存在しましたが、それを通常の級数の和と呼ぶことはできません。特異点が延長を妨げる場合もあり、もとの級数の収束と、延長された関数の値は分けて考えます。

雨上がりの水たまりに映った景色と、平面の図形を回転させた景色。その違いを、差商が方向によって変わるかどうかで説明できるようになると、正則という言葉が手触りを持ちます。そこから閉曲線の積分、内部の値を取り出す公式、特異点を利用した実積分へと、同じ条件が働く範囲が広がっていきます。計算を急ぐ前に、近づく方向と関数の領域を描き込む。その一手が、複素平面で定理を使いこなす出発点になります。

あわせて読む(数学の地図・高校数学の単元解説)

参考文献

  1. J Gray(2015)「Cauchy and Complex Function Theory, 1830–1857」Springer. https://doi.org/10.1007/978-3-319-23715-2_10
  2. Rodríguez, Rubí E., Kra, Irwin, Gilman, Jane P.(2013)「Complex analysis. In the spirit of Lipman Bers」Graduate Texts in Mathematics. https://doi.org/10.1007/978-1-4419-7323-8
  3. Kythe, Prem K.(2019)「Handbook of conformal mappings and applications」CRC Press. https://doi.org/10.1201/9781315180236
  4. Xing Rong Sun(2012)「The Research on the Relationship between Cauchy Integral Theorem and Complex Function Integral in Mechanics of Materials」Advanced Materials Research. https://doi.org/10.4028/www.scientific.net/amr.502.120
  5. Dittman, Marki, Soto-Johnson, Hortensia, Dickinson, Scott ほか(2017)「Game Building with Complex-Valued Functions」PRIMUS. https://doi.org/10.1080/10511970.2016.1234527

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