連載「単元別のつまずき研究——その単元で、生徒は実際に何をどう誤るか」全50回の第27回です。学習の仕方の目次を見る
「植物は土から栄養を取っている」。理科の授業でそう答える生徒は少なくありません。小学校で育てたアサガオやミニトマトに水と肥料をやり、土が乾いたら水を足す。その日常体験が、植物の栄養は土から来るというイメージを強く支えています。
ところが、光合成の単元に入ると、このイメージがそのまま誤答として表れます。土の中の養分を根から吸い上げて、葉でデンプンを作る。そう説明されると、生徒は「やっぱり土が栄養のもとなのだ」と納得してしまうのです。教科書に「二酸化炭素と水からデンプンを作る」と書いてあっても、頭の中では土の養分が主役のまま残ります。
本記事では、光合成の学習で生徒が「植物は土から栄養を取る」と考えてしまう背景と、その誤りをどう崩していくかを扱います。研究で報告されている生徒の反応を手がかりに、個別指導の机の前で使える問いかけと手順を具体的に示します。
なお、本連載は特定の教材や指導法を宣伝するものではありません。あくまで、生徒が実際にどこでつまずくかを観察し、指導の手がかりを共有するための記事です。
要点(結論から)
- 生徒は「肥料=栄養」「土=食べ物の供給源」という日常の枠組みで植物を見ています。この枠組みが光合成の理解を妨げます。
- 光合成で作られるデンプンは、材料である水と二酸化炭素から作られます。土の養分が直接デンプンに変わるわけではありません。
- 「植物の栄養」という言葉自体が誤解を招きます。動物の栄養と植物の栄養を同じ意味で捉えると、土から取るという考えが強化されます。
結論——土から栄養を取るという考えは、日常体験と用語の混同が重なって生じる
- 生徒は「肥料=栄養」「土=食べ物の供給源」という日常の枠組みで植物を見ています。この枠組みが光合成の理解を妨げます。
- 光合成で作られるデンプンは、材料である水と二酸化炭素から作られます。土の養分が直接デンプンに変わるわけではありません。
- 「植物の栄養」という言葉自体が誤解を招きます。動物の栄養と植物の栄養を同じ意味で捉えると、土から取るという考えが強化されます。
- 光合成を「食べ物を作る働き」とだけ教えると、材料の変化まで意識が向かず、土の養分が材料だという誤解が残ります。
- 指導では、植物の体を作る炭水化物がどこから来るのかを、物質の流れとして丁寧に追うことが有効です。
理由——なぜ「土から栄養」がこれほど強く残るのか
日常体験が作る素朴な説明
生徒は小学校に入る前から、植物に水をやると育つこと、土に肥料を混ぜるとよく育つことを知っています。鉢植えの土が減っていく様子を見て、植物が土を食べていると考える子どももいます。この素朴な説明は、日常生活では十分に役立ちます。水をやらなければ枯れるし、肥料をやれば花が咲くからです。
ところが光合成の学習では、この素朴な説明が壁になります。植物が大きくなるのは土の養分を取り込んだからだという考えは、一見すると観察事実と合っています。実際、土の養分は植物の成長に必要です。しかし、それはデンプンを作る材料としてではなく、窒素やカリウムなどの無機養分として、別の役割を担っています。この区別がつかないまま、「土の養分が植物の体を作る」という説明が生き残ります。
指導の場では、まず生徒の素朴な説明を否定せずに聞き出すことが大切です。「土が減るから食べている」という考えは、子どもなりの一貫した説明です。これを「違う」とだけ言うと、生徒は自分の観察を否定されたように感じ、新しい説明を受け入れる余地が狭くなります。
「栄養」という言葉の多義性
「栄養」という言葉は、動物では食べ物から得る有機物を指します。ご飯や肉に含まれる炭水化物やタンパク質が栄養です。一方、植物では光合成で作るデンプンが栄養と呼ばれることがあります。しかし、植物が根から吸う水や無機養分も「栄養」と呼ばれることがあり、ここで混乱が生じます。
生徒が「植物は土から栄養を取る」と言うとき、その「栄養」は動物の食べ物と同じ意味で使われています。土の中に、ご飯やパンのようなものが溶けていて、それを根が吸っているというイメージです。このイメージは、肥料の袋に「栄養分」と書かれていることでも補強されます。
光合成の授業で「植物は自分で栄養を作る」と教えると、生徒は「土の栄養を自分で作る」と読み替えることがあります。つまり、根が吸った土の養分を葉で加工してデンプンにしている、という理解です。この読み替えは、教師が意図した「無機物から有機物を作る」という説明とは大きく異なります。
このずれを防ぐには、「栄養」という言葉を避けて、「体を作る材料」と「体を動かすエネルギー源」という物質名で話すのが有効です。デンプンは炭素と水素と酸素からできていること、その炭素は二酸化炭素から来ることを、言葉の定義から丁寧に確認します。
研究が示す「食べ物を作る」説明の限界
光合成の指導法について、ある研究は「食べ物を作る」という見方と「炭水化物を作る」という見方の違いに注目しました。通常の guided discovery strategy では、光合成を「食べ物を作る働き」として捉える結果が主になると報告されています。一方、木材がどこから来るのかを問う教材を使った generative learning strategy では、光合成を炭水化物を作る過程として捉える生徒が多くなりました。
Barker M, Carr M. Teaching and learning about photosynthesis. Part 2: A generative learning strategy. International Journal of Science Education. 1989;11(2):141-152.
この研究が示唆するのは、「食べ物を作る」という説明が、生徒の日常的な栄養観と結びつきやすいということです。食べ物は口から入るもの、土から取るものという枠組みが残ったままでは、葉で作られるデンプンが「食べ物」として実感されません。むしろ、木材や茎、根など、植物の体そのものが炭水化物からできていることを示す方が、物質の変化として理解されやすくなります。
個別指導では、この研究の知見をそのまま使えます。教科書の「光合成は養分を作る働き」という記述を読んだ後で、「では、その養分は何という物質か」「その物質の炭素はどこから来たか」と問いかけるのです。養分という言葉を物質名に置き換えるだけで、生徒の理解の深さが変わります。
誤答の例——机の前で見える具体的なつまずき
| よくある誤答 | その子が考えていること | 確かめる問いかけ |
|---|---|---|
| 「植物は土の中の養分を吸って大きくなる」 | 土が減る、肥料をやると育つという経験から、土が直接体になると考えている | 「土の中の何が、植物の体のどの部分になると思う?」 |
| 「光合成は根から吸った養分を葉でデンプンに変える働き」 | 材料は土の養分で、葉は加工場だと考えている | 「デンプンの材料は何? その材料はどこから来る?」 |
| 「二酸化炭素は空気中のゴミで、植物が吸うと体に悪い」 | 二酸化炭素を不要なもの、排出物だと考えている | 「二酸化炭素の中の炭素は、植物の体のどこに使われると思う?」 |
| 「水は根から吸って葉から出すだけで、体の材料にはならない」 | 水は血液のような運搬役で、材料ではないと考えている | 「デンプンを作るとき、水の水素と酸素はどうなる?」 |
| 「植物は夜に呼吸をして、昼は光合成だけをしている」 | 光合成と呼吸を一日の時間で切り分けている | 「昼も植物の細胞は呼吸をしているとしたら、何が変わる?」 |
机の前で1対1で確かめる手順は、次のように進めます。
- まず「植物が大きくなるのは、何が増えたからか」を聞きます。生徒が「土の養分」と答えたら、それを否定せずにメモします。
- 次に、乾燥した土と植物の体を比べます。植物の体の大部分は水と炭水化物です。土の主成分は鉱物です。この違いを生徒自身に言わせます。
- デンプンの化学式を示し、炭素と水素と酸素からできていることを確認します。炭素の供給源として二酸化炭素、水素の供給源として水を挙げさせます。
- 「では、土の養分は何のためにあるのか」を考えさせます。窒素やカリウムが、デンプンではなくタンパク質や代謝の調節に関わることを、教科書の該当箇所を開いて一緒に確認します。
- 最後に、最初のメモに戻り、「土の養分が植物の体になる」という説明のどこを修正するかを、生徒自身の言葉で書かせます。
小学生では、まず「植物の体は何からできているか」を触って確かめるところから始めます。木の幹が固いのは、水と二酸化炭素から作られた炭水化物が積み重なったからだという説明は、小学生には驚きとして伝わります。中学生では、化学式と原子の移動を扱えるようになるため、二酸化炭素の炭素がデンプンの炭素になることを、原子の記号で追います。高校生では、光合成の明反応と暗反応を学ぶため、土の無機養分が酵素やクロロフィルの構成要素として間接的に関わることを整理します。
よくある誤読——研究結果をどう使わないか
「植物より動物の方が好き」という結果を、植物の学習を軽視する理由にしない
ある研究は、中学生が植物よりも動物を好んで学ぶ傾向を報告しています。動物は動き、目があり、音でコミュニケーションし、人間と関わる。そうした特徴が好みの理由として挙げられています。
Wandersee J. Plants or animals—which do junior high school students prefer to study?. Journal of Research in Science Teaching. 1986;23(5):415-426.
この結果を「生徒は植物に興味がないから、植物の学習は後回しでよい」と読むのは誤用です。この研究は、あくまで好みの傾向を示したものであり、植物の学習が不要だとは述べていません。むしろ、植物の学習では、動かない、目がない、音を出さないという特徴が、生徒の興味を引きにくいという指導上の課題を示しています。
正しい読み方は、植物の学習では「動き」や「相互作用」を別の形で見せる必要がある、というものです。光合成は、目に見えない気体と水が、葉の中でデンプンに変わる過程です。この変化を、時間を縮めた動画や、デンプン検出の実験で見せることで、動物の行動観察に近い興味を引き出せます。
「炭水化物を作る過程として理解した」という結果を、教材の効果の証明にしない
先に挙げた光合成の指導研究では、木材がどこから来るのかを問う教材を使ったクラスで、光合成を炭水化物を作る過程として捉える生徒が多かったと報告されています。この結果を「その教材を使えば必ず理解が深まる」と読むのは誤用です。
この研究は、特定の教師が特定のクラスで試行した結果です。教師の経験やクラスの状況、生徒の既有知識によって結果は変わります。また、この研究自体が、generative learning model の修正を提案しており、単純な教材比較ではありません。
正しい読み方は、「食べ物を作る」という説明だけでは、生徒の日常的な栄養観を揺さぶるには不十分かもしれない、という仮説として受け取ることです。個別指導では、この仮説を自分の生徒で確かめる姿勢が求められます。教材を変える前に、生徒が「食べ物」という言葉で何を想像しているかを聞く方が先です。
今週やること——土から栄養という考えを崩す3つの手順
- 授業の最初に「植物が大きくなるとき、何が増えているか」を自由に書かせます。土、水、肥料、日光など、生徒の言葉をそのまま記録します。
- デンプンの材料を問う問題を1問だけ出します。「デンプンに含まれる炭素は、次のどれから来るか。土、水、二酸化炭素、日光」という選択肢で、理由も書かせます。正解かどうかより、理由の記述を見ます。
- 翌週、同じ質問をもう一度出し、前回の自分の答えと比べさせます。変わったところ、変わらなかったところを生徒自身に説明させ、変わらなかった部分について対話します。
この記事で言えないこと
第一に、本記事で紹介した研究は、特定の地域と年代の生徒を対象にしたものです。光合成の誤概念がどの程度の割合で生じるか、どの指導法が最も効果的かについて、すべての生徒に当てはまる数値を示すことはできません。ここで述べた誤答例は、あくまで観察されることの多いパターンであり、すべての生徒が同じように考えるわけではありません。
第二に、本記事では土の無機養分の役割を詳しく扱っていません。窒素やカリウム、リンが植物の体内でどのように使われるかは、光合成の誤解を解く上で重要ですが、その詳細は高校の生物基礎や生物で学ぶ内容です。学年によっては、土の養分の役割を「体を作る材料ではない」とだけ伝え、詳しい代謝には立ち入らない方が適切な場合もあります。
第三に、生徒の誤概念は一人ひとり異なります。「土から栄養を取る」という考えの背景には、家庭での園芸経験、読んだ本の記述、以前の授業での説明など、さまざまな要因があります。本記事の手順は、あくまで出発点です。生徒の反応を見ながら、問いかけの順序や言葉を変える必要があります。特に、強いこだわりを持つ生徒には、一度の授業で考えを変えさせようとせず、数週間かけて揺さぶる方が現実的です。
当塾の立場
「植物は土から栄養を取る」という誤解は、家庭での会話や観察でも十分に揺さぶることができます。鉢植えの植物の重さを長期間測る、乾燥させた土と植物を比べる、デンプンの材料を親子で話し合う。こうしたことは、塾に通わなくてもできることです。まずはご家庭で、植物の体が何からできているかを話題にしてみてください。
その上で、塾が担える部分があるとすれば、生徒の説明を遮らずに聞き、その説明のどこに矛盾があるかを生徒自身に気づかせる対話の時間です。当塾では、光合成の単元で「植物が大きくなるとき、何が増えているか」を最初に書いてもらい、その答えを数週間後に見直すという手順を取っています。この手順は、生徒が自分の考えの変化を自分で確認するためのものであり、特別な教材は必要としません。
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出典
- Barker M, Carr M. Teaching and learning about photosynthesis. Part 2: A generative learning strategy. International Journal of Science Education. 1989;11(2):141-152.
- Wandersee J. Plants or animals—which do junior high school students prefer to study?. Journal of Research in Science Teaching. 1986;23(5):415-426.

