遺伝の確率は多数の子の割合で1個体の姿を保証しない|武蔵野個別指導塾が薦める学習の仕方

連載「単元別のつまずき研究——その単元で、生徒は実際に何をどう誤るか」全50回の第28回です。学習の仕方の目次を見る

「AAとAaをかけ合わせると、子はAAが1、Aaが2、aaが1の割合で生まれる。だから優性の形質が出る確率は4分の3です」と説明した直後、生徒がこう言いました。「でも、生まれる子は1匹だけですよね。だったら、その子に優性の形質が出るか出ないかは、結局どっちかじゃないんですか」。確率の計算はできるのに、それが目の前の生物の形質とどうつながるのかが、ぴんと来ていない様子です。

この連載では、単元ごとに生徒が実際にどこで何を誤るのかを、研究知見と指導の現場の両面から掘り下げています。今回は遺伝を取り上げます。メンデル遺伝の基本を学んだあとの生徒に、確率と形質の関係が結びつかないという、根の深いつまずきについて考えます。

遺伝の単元では、用語の暗記や交配表の作り方に意識が向きがちです。しかし、生徒が本当に戸惑うのは、計算上の割合と、実際に生まれてくる子の姿との間にある隔たりです。ここを埋めないまま進むと、遺伝の学習は単なる数合わせで終わってしまいます。

この記事では、まず結論としてつまずきの正体を整理し、そのあと研究が示す理由、具体的な誤答例、指導の際に注意したい誤読、そして今週できる実践を順に示します。

要点(結論から)

  • 生徒は、交配で生じる遺伝子型の比を、そのまま「次に生まれる子の姿を決める順番」のように捉えてしまうことがあります。
  • 確率は多数の子をまとめて見たときの割合であって、1個体にどの形質が出るかを前もって保証するものではない、という区別がついていません。
  • 遺伝子と形質を同じもののように扱う日常的な見方が、遺伝子型と表現型の区別をあいまいにしています。

結論——確率は「たくさんの中の割合」であり、1個体の姿を決める保証ではない

  • 生徒は、交配で生じる遺伝子型の比を、そのまま「次に生まれる子の姿を決める順番」のように捉えてしまうことがあります。
  • 確率は多数の子をまとめて見たときの割合であって、1個体にどの形質が出るかを前もって保証するものではない、という区別がついていません。
  • 遺伝子と形質を同じもののように扱う日常的な見方が、遺伝子型と表現型の区別をあいまいにしています。
  • 「優性=強い・必ず出る」という語感が、確率の理解をさらに揺らがせます。
  • 指導では、交配表の数を数えさせる前に、同じ交配を何度も繰り返したときの全体像をイメージさせる段階が必要です。

理由——なぜ確率と形質が結びつかないのか

遺伝子を「小さな形質の粒」として捉えている

生徒の多くは、遺伝子を「形質そのものを運ぶ小さな粒」のようなものとして理解しています。この見方では、遺伝子と形質がほぼ同じものになり、遺伝子型と表現型を分けて考える余地が生まれません。すると、遺伝子の組み合わせが決まった時点で、その子の姿もすでに決まっているように感じられます。

このような日常的な概念について、ドイツの生徒を対象にした面接調査と、イギリスの生徒を対象にした質問紙調査を組み合わせた研究があります。そこでは、遺伝子を形質を持つ小さな粒子と見なす考え方が、科学的概念の理解を制限する可能性が指摘されています。

Lewis J, Kattmann U. Traits, genes, particles and information: re‐visiting students’ understandings of genetics. International Journal of Science Education. 2004;26(2):195-206.

この研究が示すのは、遺伝子と形質を同一視する見方では、遺伝子が表現型として現れる仕組みを考える必要自体が生まれないということです。つまり、確率の話をする以前に、遺伝子型と表現型が別の層であるという認識が育っていないのです。

指導の場面では、この点を言葉の定義だけでなく、具体例を通して揺さぶる必要があります。たとえば、同じ遺伝子型でも環境や偶然によって表現型が変わることがある例を出すと、遺伝子と形質が一対一で結びついているわけではないことに気づきやすくなります。

確率を「次に起きることの予言」として読んでしまう

交配表で「AA:Aa:aa=1:2:1」と出たとき、生徒はしばしば「4回生まれたら、そのうち1回はAA、2回はAa、1回はaaになる」と考えます。さらに一歩進んで、「最初の子がAAだったら、次の子はAaのはずだ」というように、過去の結果が次の結果に影響すると捉えることもあります。

これは、確率を割合としてではなく、順番に現れる予定表として読んでいる状態です。コインを投げて表が出たから次は裏が出やすい、と考えるのと同じ誤りですが、遺伝の文脈では「優性の形質が続いたから、そろそろ劣性の形質が出る番だ」という言い方で現れます。

確率の正しい意味は、同じ条件で非常に多くの子が生まれた場合に、全体としてどのような割合に近づくかを表すものです。1個体ずつの結果を予言する力はありません。この区別は、数学の確率の授業で学んでいても、生物の文脈では改めて確認する必要があります。

指導では、交配の試行を何度も繰り返すシミュレーションを見せることが有効です。試行回数が少ないうちは割合が大きくぶれること、回数を重ねると理論値に近づくことを観察させると、「確率はたくさんの中の割合」という理解が定着しやすくなります。

「優性」という語の日常的な響きが理解を妨げる

「優性」という言葉は、日常語の「優れている」「強い」という響きを引きずります。そのため、生徒は優性の形質が「必ず現れる」「劣性を押さえつける」というイメージを持ちやすくなります。このイメージがあると、優性の遺伝子を1つでも持っていれば、その形質が必ず出ると考えてしまい、確率の入る余地がなくなります。

実際には、優性と劣性は形質の強さや良し悪しを表すものではなく、ヘテロ接合のときにどちらの形質が表現型として現れやすいかという関係を示すにすぎません。しかし、この用語の説明を省くと、生徒は日常的な語感のまま学習を進めてしまいます。

また、優性の形質が現れる確率が4分の3であることを、「優性のほうが強いから4分の3も出るのだ」と理由づける生徒もいます。確率の値と、優性という語の持つ強さのイメージが混ざっている状態です。ここでは、確率の値は配偶子の組み合わせの数から来ているのであって、形質の強さから来ているのではないことを、交配表に立ち返って確認する必要があります。

高校生を対象にした古典的な研究でも、メンデル遺伝の基礎を学ぶ際に生徒が経験する困難が複数報告されています。そこには、用語の理解と、交配の結果を予測する手続きの理解が、必ずしも同時に進まないという問題が含まれています。

Stewart J. Difficulties Experienced by High School Students When Learning Basic Mendelian Genetics. The American Biology Teacher. 1982;44(2):80-89.

この研究は、交配の手続きを覚えることと、その背後にある概念を理解することの間にずれがあることを示唆しています。用語の日常的な響きをそのままにしておくと、手続きだけが先に進み、概念の理解が置き去りになるのです。

誤答の例——確率と形質の結びつきを確かめる

よくある誤答 その子が考えていること 確かめる問いかけ
「AaとAaの交配では、子が4匹生まれたら、優性が3匹、劣性が1匹になる」 割合を、少ない数での実現値そのものとして捉えている 「4匹ではなく、40匹生まれたら、ちょうど30匹と10匹になると思いますか。それとも、だいたいそのくらいになると思いますか」
「最初の子が劣性の形質だったから、次の子は優性の形質になるはずだ」 過去の結果が次の結果に影響すると考えている 「コインを2回投げて、1回目が表だったら、2回目は裏が出やすくなりますか。遺伝でも同じように考えてよいのでしょうか」
「優性の遺伝子を持っている子は、必ず優性の形質が出る」 優性を「強い・必ず勝つ」という日常的な意味で捉えている 「優性の遺伝子を持っていても、表現型が優性にならない場合はあるでしょうか。優性という言葉は、何と何の関係を表していますか」
「遺伝子型がAaなら、形質はAとaが半分ずつ混ざった中間になる」 遺伝子と形質を同じ層のものとして、足し算のように考えている 「遺伝子型と表現型は、同じものを指していますか。Aaという組み合わせから、実際の姿はどう決まりますか」
「劣性の形質が出る確率は4分の1だから、4回に1回は必ず出る」 確率を、少ない試行でも必ず実現する規則として捉えている 「4回に1回というのは、4回やれば必ず1回出るという意味でしょうか。それとも、もっと多くの回数で見たときの割合でしょうか」

机の前で1対1で確かめるときは、次の手順が有効です。

  1. まず、交配表を書かせて、遺伝子型の比を出させます。この段階では、まだ確率という言葉を使わず、「組み合わせの数」として数えさせます。
  2. 次に、「この交配から子が1匹生まれるとします。この子の遺伝子型は、4つの枠のうちのどれか1つです。どの枠になるか、前もって決められますか」と問います。ここで「決められない」と言えたら、確率の入り口に立っています。
  3. そのうえで、「では、同じ交配から子が100匹生まれたとしたら、優性の形質の子はだいたいどれくらいになりそうですか」と、多数の場合に話を広げます。ここで「だいたい75匹くらい」と言えれば、割合としての確率に近づいています。
  4. 最後に、「でも、100匹のうち最初の1匹が優性か劣性かは、前もってわかりますか」と戻します。この往復によって、1個体の予測と多数の割合の違いが浮き彫りになります。
  5. 可能なら、コインや乱数を使った簡単なシミュレーションを挟みます。試行回数が少ないときのばらつきと、多いときの安定を実際に見せると、言葉だけの説明より納得しやすくなります。

小学生では、遺伝の仕組みそのものを深く教える段階ではありません。しかし、身近な生物の親子の似ているところを観察する中で、「似ているけれど、同じではない」という感覚を育てておくことが、後の学習の土台になります。確率については、コインやサイコロで「次に何が出るかはわからないけれど、何度もやるとだいたいの割合になる」という経験を積ませるとよいでしょう。

中学生では、遺伝の規則性を学ぶ際に、交配表の作り方と確率の意味を同時に教えるのではなく、まず組み合わせの数を数える段階を十分に取ることが大切です。そのうえで、実際の子の数が少ないときには理論値からずれることを、具体例で確認させます。優性と劣性の用語についても、日常的な意味と切り離して定義を確認する時間が必要です。

高校生では、遺伝子型と表現型の区別を前提としたうえで、確率の計算と実際の交配結果のずれを統計的な視点から捉えることが求められます。さらに、遺伝子が形質として現れるまでには発生や環境の要因が関わることを学ぶと、遺伝子と形質を同一視する見方から離れやすくなります。

よくある誤読——研究結果をどう使わないか

「生徒は遺伝を理解できない」と決めつける誤読

研究が示しているのは、生徒が遺伝について日常的な概念を持っており、それが科学的概念の学習と衝突するということです。これは「生徒は遺伝を理解できない」ということを意味しません。むしろ、日常的な概念を出発点として、それを科学的概念へと組み替えていく道筋があることを示しています。

指導の際に注意したいのは、生徒の誤答を単なる知識不足として処理しないことです。誤答の背後には、その子なりの一貫した考え方があります。遺伝子を形質の粒と見なす考え方は、日常的な経験からはむしろ自然に生まれるものです。これを否定するのではなく、「その考え方だと、こういう場面で説明が難しくなる」と具体的に示すことで、概念の組み替えが始まります。

また、研究で報告されている困難は、特定の指導法の失敗を示すものではありません。生徒が遺伝を学ぶときに通る、ある種の通過点として読むべきです。指導者は、その通過点を予測しておくことで、焦らずに次の手を打つことができます。

「確率を教えれば解決する」と単純化する誤読

確率と形質が結びつかない問題は、確率の計算練習を増やせば解決するわけではありません。むしろ、計算ができるようになるほど、計算と実際の生物の姿とのずれが意識されにくくなることもあります。交配表を正しく書ける生徒が、その意味を問われると答えられないという事態は、このずれの現れです。

研究が示すのは、遺伝子と形質の関係についての概念的な理解が、確率の理解の土台になるということです。遺伝子型と表現型の区別、優性と劣性の意味、そして確率が多数の試行についての記述であること。この3つを順に確認してから計算に入ることで、初めて確率と形質が結びつきます。

したがって、指導の順序としては、計算の手続きを先に教えてから概念を補うのではなく、概念の確認を先に行い、そのうえで計算を位置づけるのが適切です。この順序を逆にすると、生徒は計算の正しさに安心して、概念のあいまいさに気づかないまま進んでしまいます。

今週やること——確率と形質をつなぐ3つの手順

  1. 交配表を書かせたあと、「この4つの枠のうち、次に生まれる子はどれですか」と問いかけます。「どれかはわからない」と言えるかどうかを確かめます。言えなければ、確率の導入を急がず、まず「わからない」ことを共有します。
  2. コインを10回投げさせ、表の回数を記録させます。次に、クラス全体や別の組の結果と合わせて、回数が増えると表の割合が2分の1に近づくことを観察させます。これを遺伝の交配に置き換えて、「4分の3も、たくさん集めたときの割合だ」と確認します。
  3. 「優性」という言葉を、日常語の「強い」から切り離すために、優性の形質が現れない場合の例を1つ示します。そのうえで、優性と劣性は「ヘテロ接合のときにどちらが表現型に現れるか」という関係を表す言葉だと定義し直します。

この記事で言えないこと

この記事で紹介した研究は、特定の時期に特定の地域で行われた調査に基づいています。生徒のつまずきの傾向は、学習環境や指導の順序、使用する教材によって変わり得ます。ここで述べた誤答例が、すべての生徒に当てはまるわけではありません。

また、遺伝のつまずきには、確率と形質の関係以外にも、減数分裂の理解、遺伝子の分子的な実体、連鎖や組換えなど、さまざまな要因が関わります。今回はそのうちの1つの側面に絞っており、遺伝の学習全体の困難を網羅したものではありません。

さらに、個々の生徒がどのような日常的概念を持っているかは、一人ひとり異なります。同じ誤答をしていても、その背後にある考え方は同じとは限りません。指導にあたっては、ここで示した問いかけを手がかりにしながら、実際の生徒の言葉を丁寧に聞き取ることが欠かせません。

当塾の立場

確率と形質の関係をめぐるつまずきは、家庭でも十分に取り組める部分があります。コインを投げて割合の安定を観察すること、身近な生物の親子を観察して「似ているけれど同じではない」ことを言葉にすることは、特別な教材がなくてもできます。まずは、こうした日常的な経験を積むことをお勧めします。

そのうえで、塾が担えるのは、生徒の誤答の背後にある考え方を1対1で聞き取り、その子の言葉に合わせて概念の組み替えを手伝うことです。具体的には、交配表を書いたあとに「この4つの枠のうち、次に生まれる子はどれですか」と問い、生徒が「どれかはわからない」と言えるまで待つこと。この1つの問いかけを丁寧に行うだけでも、確率と形質の結びつきは大きく変わります。

出典

  1. Stewart J. Difficulties Experienced by High School Students When Learning Basic Mendelian Genetics. The American Biology Teacher. 1982;44(2):80-89.
  2. Lewis J, Kattmann U. Traits, genes, particles and information: re‐visiting students’ understandings of genetics. International Journal of Science Education. 2004;26(2):195-206.

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