【連載第2回】見えない教育費——授業料は、大学でかかる金の半分にも満たない

授業料は、大学でかかる金の半分にも満たない

大学の費用を調べるとき、私たちはまず授業料を見ます。しかし日本学生支援機構(JASSO)が2年ごとに実施している学生生活調査の令和4年度結果を開くと、大学学部(昼間部)の学生1人あたりの年間費用は1,824,700円で、そのうち授業料は869,200円——全体の47.6%にすぎません [1]

第1回で、公立高等学校の学校教育費のうち最も大きい項目が授業料ではなく通学関係費だったことを見ました [3]。大学でも構図は同じです。授業料という、いちばん目につく数字を見ているあいだに、家計からはその倍の金が出ていきます。今回はその「見えない側」を数えます。

なぜ授業料ばかりが目に入るのでしょうか。ひとつには、授業料が一枚の請求書として届くからです。年に数回、まとまった額が明示されて請求される。一方で住居費は毎月の家賃として、食費は日々の買い物として、通学費は定期券として、別々の時期に別々の名目で出ていきます。同じ「大学に行くための費用」でも、束ねて請求されるものだけが「学費」として認識されます。

この認識のずれは、進路の比較を歪めます。授業料の差は表になって並びますが、住居費の差は表になりません。表になっている数字だけで比べれば、表になっていない数字のぶんだけ判断を誤ります。この回でやるのは、表になっていない側を表にすることです。

1. 学生生活費という概念

JASSOの学生生活調査は、学生の1年間の費用を学費生活費に分け、その合計を学生生活費と呼びます。定義は次のとおりです [1]

  • 学費=授業料、その他の学校納付金、修学費、課外活動費、通学費の合計
  • 生活費=食費、住居・光熱費、保健衛生費、娯楽・し好費、その他の日常費(通信費を含む)の合計

注意すべきは、「学費」に通学費と課外活動費が入っていることです。家庭で「学費」と言うとき、多くの場合それは授業料と納付金だけを指しています。この調査の定義はそれより広い。定義がずれたまま数字を比べると、話が噛み合いません。

2. 内訳を、全部並べる

大学学部(昼間部)の年間学生生活費の内訳です [1]

区分 項目 金額
学費 授業料 869,200円
その他の学校納付金 136,800円
修学費 49,900円
課外活動費 23,700円
通学費 67,700円
学費 計 1,147,300円
生活費 食費 158,400円
住居・光熱費 177,500円
保健衛生費 50,700円
娯楽・し好費 133,000円
その他の日常費 157,800円
生活費 計 677,400円
合計(学生生活費) 1,824,700円

構成比で見ると、学費が62.9%、生活費が37.1%。そして学費の内側では授業料が圧倒的ですが、全体に対しては47.6%です。

4年間に引き伸ばすと、1,824,700円 × 4 = 7,298,800円およそ730万円です。第1回で見た「幼稚園から高校まで15年間、すべて公立で約614万円」という数字 [3] を思い出してください。大学の4年間だけで、その15年分を上回ります。

3. 生活費は「どこに住むか」で決まる

生活費677,400円のうち、最大の項目は住居・光熱費の177,500円で、食費158,400円を上回ります [1]。これに学費側の通学費67,700円を足すと245,200円「どこに住み、どこから通うか」だけで年24万5千円が動きます。

この構造は、設置者別の比較にそのまま表れます。JASSOは次のように記述しています [1]

「学費と生活費を合わせた学生生活費の合計では、私立が国立より約48万円高くなっている。これは学費の差によるところが大きい。生活費については、国立・公立が私立よりも高くなっているが、その差の主な要因は『食費、住居・光熱費』となっており、自宅以外の学生の割合が高いためと考えられる。

読み飛ばしてはいけない部分です。国公立大学のほうが、生活費は高い。授業料が安いから総額も安いはずだ、という直感は、半分しか当たりません。国公立は自宅から通えない場所にあることが多く、そのぶん住居費と食費が乗る。授業料の差の一部は、住居費の差で相殺されます。

金額で確かめておきます。生活費の内訳のうち、住居・光熱費177,500円と食費158,400円を足すと335,900円です。この2項目だけで生活費677,400円の49.6%を占めます。JASSOが設置者別の差の主因として挙げたのが、まさにこの2項目でした [1]。自宅から通うか通わないかという一点が、生活費のおよそ半分を左右しているということです。

残る項目——保健衛生費50,700円、娯楽・し好費133,000円、その他の日常費157,800円——は、住居形態にあまり左右されない性質の支出です。つまり生活費は、住む場所で動く部分誰が学生でもかかる部分に、およそ半分ずつ分かれています。

これは進路選択の実務に直結します。「学費の安い国立」と「自宅から通える私立」を比べるとき、授業料だけを並べた表は、判断材料として不完全です。

もう一段、具体的に考えてみます。自宅から通える大学と、下宿が必要な大学を比べるとします。授業料が同額だとしても、後者には住居・光熱費177,500円がほぼ丸ごと乗ります。自宅生にも光熱費の按分はありますが、家賃は発生しません。食費158,400円も、自炊と実家では意味が変わります。

この調査は自宅生と自宅外生の内訳を分けて公表していないため、「自宅外だと年◯円多い」という数字を本稿で示すことはできません。示せるのは、JASSOが設置者別の生活費の差の主因を「食費、住居・光熱費」と特定し、その理由を「自宅以外の学生の割合が高いため」と記述している事実だけです [1]方向は分かるが、金額は分からない。この区別を守ることが、統計を読む作法です。

4. 学生生活費は、10年間ほとんど動いていない

大学学部(昼間部)の学生生活費の推移です [1]

年度 学生生活費
平成26年度 1,862,100円
平成28年度 1,884,200円
平成30年度 1,913,500円
令和2年度 1,813,000円
令和4年度 1,824,700円

平成30年度の1,913,500円が最も高く、令和2年度に1,813,000円まで下がり、令和4年度は1,824,700円で前回比+0.6%です [1]。10年間、おおむね180万円台で推移しています。

令和2年度の落ち込みは調査時期から見て新型コロナウイルス流行下の年度にあたりますが、この調査は落ち込みの原因を特定していません。「コロナで下がった」と書くのは、この資料からは踏み込みすぎです。事実として言えるのは、令和2年度に下がり、令和4年度にわずかに戻った、それだけです。

5. 家計簿に絶対に現れない費用

ここまでは、通帳から出ていく金の話でした。しかし教育経済学が費用として数えるものには、もう一つあります。

北條雅一は学歴収益率の総説で、教育投資の収益を測る内部収益率法を説明しています。内部収益率とは、教育投資期間中に発生する教育費用の合計の現在価値と、卒業したのちの就業期間中に期待される収益の合計の現在価値を等しくする割引率を指します。そしてその計算では、大学進学の例を「19歳で進学し22歳で卒業、23歳から60歳まで就業」と置きます [2]

この置き方が意味するところを、ゆっくり読んでください。23歳から働き始める、と置くということは、18歳や19歳から働いていれば得られたはずの数年分の賃金を、費用の側に数えているということです。これを機会費用と言います。ある選択をしたために、選ばなかった選択肢から得られたはずの利益を失う——その失われた利益が費用です。

機会費用は、家計簿には絶対に現れません。払っていないからです。しかし経済学は、それを払ったものとして数えます。授業料も生活費もゼロの学校があったとしても、進学には費用がかかる。時間という費用です。

機会費用という考え方が実務で効くのは、「進学しない」という選択肢と比べるときです。大学に行かないという選択は、費用ゼロの選択ではありません。進学した場合に得られたはずのもの——収益率6〜7%で表される部分 [2] ——を失う選択です。どちらを選んでも、選ばなかった側の利益は失われます。

同じ理屈は、浪人や留学や休学にも当てはまります。1年多く学ぶことの費用は、その年にかかる学費と生活費だけではなく、1年遅れて働き始めることで失う賃金を含みます。家計の議論がしばしば噛み合わないのは、片方が通帳の金額を、もう片方が時間を数えているからです。

本連載では、この機会費用の金額を算出しません。高卒で就職した場合の賃金についての一次資料を、私たちはまだ確認していないからです。概念としては存在するが、金額としては示さない——それがこの時点で誠実に言えることです。推計値をそれらしく作って並べることは、この連載ではしません。

6. 730万円の費用と、6〜7%という収益率を並べる

費用の側が見えてきたので、返りの側の数字と並べてみます。北條雅一の総説によれば、日本の大学学歴の収益率は概ね6〜7%程度で安定的に推移しており、労働政策研究・研修機構の調べ(2016)として高校卒と大学・大学院卒の間に7,500万円程度の生涯賃金差が紹介されています [2]

730万円を払って7,500万円が返る——そう読みたくなります。しかし、この2つの数字を直接割り算してはいけません。理由が3つあります。

ひとつ。7,500万円は生涯にわたる賃金の差であり、受け取るのは何十年も先です。いまの730万円と、30年後の100万円は、同じ価値ではありません。内部収益率法が「割引率」という考え方を使うのは、この時間のずれを揃えるためです [2]。収益率6〜7%という数字は、すでにその調整を経たあとの値です。

ふたつ。730万円は学生生活費であって、家計の負担額ではありません。この金額には、学生本人のアルバイト収入や奨学金でまかなわれた部分が含まれています。家計から何円出るかは、この数字からは決まりません。

みっつ。7,500万円は平均の差です。第1回でも引きましたが、北條は同じ論文で「すべての大卒者が平均的な収益を享受しているわけではない」と明記しています [2]。平均の差を自分の子どもの期待値として読むことは、統計的に正当化されません。

費用は確定しており、いま出ていきます。返りは平均としては大きいが、遅れて、ばらついて返ってきます。この非対称こそが、教育費という問題の本体です。数字を並べることはできても、割り算で答えが出る問いではありません。

7. 同じ構造が、高校にもある

第1回で見た数字を、この回の枠組みで読み直します。公立高等学校(全日制)の学校教育費351,523円のうち、通学関係費が97,634円(27.8%)で最大、授業料は45,272円(12.9%)でした [3]

通学関係費の定義は、文部科学省の資料によれば「通学のための交通費、スクールバス代、自転車通学が認められている学校での通学用自転車購入費等」です [3]。つまり距離の費用です。

高校で通学関係費が授業料の2.2倍、大学で住居・光熱費が食費を上回る。どちらも「学校までの距離」に対して払っている金です。学校を選ぶという行為は、同時に距離を選ぶ行為であり、距離には値段がついている——この連載が繰り返し戻ってくる一点です。

8. 定義がずれると、家庭の会話も噛み合わない

ここまで見てきた数字は、すべて定義に依存しています。定義を確認せずに金額だけを持ち出すと、家庭の中でも話が噛み合いません。実際に起きやすいずれを3つ挙げます。

ひとつめは「学費」という語です。JASSOの定義では、学費は授業料・その他の学校納付金・修学費・課外活動費・通学費の合計であり、1,147,300円です [1]。しかし家庭で「学費はいくら」と言うとき、多くは授業料869,200円か、それに納付金を足した1,006,000円あたりを指しています。同じ「学費」という語で、14万円から28万円の幅があります。どちらが正しいかではなく、どちらの意味で話しているかを先に揃える必要があります。

ふたつめは「生活費」です。この調査の生活費には、保健衛生費と娯楽・し好費と通信費が入っています [1]。仕送りの額を決めるときに、保護者が食費と家賃だけを想定していて、学生の側が通信費や交際費まで含めて考えていれば、同じ金額が違う意味を持ちます。133,000円の娯楽・し好費が調査の定義に含まれているという事実は、それを削れという話ではなく、最初から数えておくべき項目だという話です。

みっつめは「かかる金」と「家計から出る金」の区別です。すでに述べたとおり、学生生活費1,824,700円は学生1人あたりにかかる費用であって、保護者が払う額ではありません。アルバイト収入も奨学金も、この金額の内側にあります。「大学は年180万かかる」と「うちは年180万払う」は、まったく別の命題です。前者は調査が支持しますが、後者は支持しません。

第1回で「学習塾費」の定義に月謝だけでなく講習会費・教材費・模試代・交通費が含まれることを確認しました [3]。同じ作業を、大学の費用についても最初にやっておく——それがこの回の実務的な効用です。

9. 【反証】この数字が言えないこと

第一に、これは標本調査の推計値です。JASSOは「集計各表の数値は、この標本調査の有効回答を基礎として、調査対象学生総数についての推計値を算出した結果である」と明記しています [1]。母集団の実測ではありません。

第二に、内訳の合計と合計欄が一致しないことがあります。同じく「集計各表は端数処理(四捨五入)後の数値を使用しており、内訳の合計値と合計欄の値が一致しないことがある」と注記されています [1]。本文の表で内訳を足しても合計にぴたりと合わない場合があるのは、この処理のためです。数字を1円単位で信じる読み方は、この資料の性質に合いません。

第三に、これは平均です。第1回と同じ論点ですが、大学生の費用は住居形態・地域・学部によって大きく散らばります。自宅生と自宅外生では住居・光熱費の意味がまったく違います。平均の1,824,700円に近い学生が最も多い、とは限りません。

第四に、この調査は「誰が払ったか」を示していません。学生生活費は学生1人あたりの費用であって、その財源が保護者からの給付なのか、奨学金なのか、アルバイト収入なのかは、この数字の中では区別されていません。家計の負担額とは別の概念です。誰がどう払うかは、第4回(奨学金)と第5回(返済)で扱います。

第四の補足として、この調査は大学生を対象としており、進学しなかった同年代を含みません。したがって「大学に行った場合といかなかった場合の差」を、この資料だけから作ることはできません。比較対象がない調査から比較の結論を引き出すのは、第1回で述べた「支出であって効果ではない」という論点の、別の現れ方です。

第五に、機会費用について本稿は概念の説明にとどめており、金額を示していません。示していない以上、「大学進学の本当の費用は730万円プラス機会費用だ」とまでは言えても、その合計額を口にすることはできません。

10. 実務——面談で使える3つの問い

  1. 比べようとしている進路を、授業料ではなく「学生生活費」で並べ直せますか。授業料は全体の47.6%です。授業料だけの比較表は、半分以下の情報で判断していることになります。
  2. その進路は、自宅から通えますか。通えない場合、住居・光熱費と通学費をいくらと見込みますか。国公立のほうが生活費は高い、という調査の記述は、この問いを避けられなくします。
  3. 18歳からの4年間を、お子さん本人はどう使うつもりですか。機会費用の話です。金額は出しませんが、4年という時間に値段がついていることを、本人と保護者が同じ前提として持っているかどうかで、進学の意味づけが変わります。

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まとめ

  1. 大学学部(昼間部)の年間学生生活費は1,824,700円。そのうち授業料は869,200円で47.6%にすぎない。
  2. JASSOの定義では「学費」に通学費と課外活動費が含まれる。家庭の語感より広い。
  3. 4年間で約730万円。第1回で見た「幼稚園から高校まで15年間すべて公立で約614万円」を、大学4年だけで上回る。
  4. 生活費677,400円の最大項目は住居・光熱費177,500円で、食費を上回る。通学費と合わせると245,200円が「どこから通うか」の費用
  5. 生活費は国立・公立のほうが私立より高い。JASSOはその主因を「食費、住居・光熱費」とし、自宅以外の学生の割合が高いためと述べている。授業料の差は住居費の差で部分的に相殺される。
  6. 学生生活費は平成26年度からおおむね180万円台で推移し、令和4年度は前回比+0.6%。
  7. 機会費用という、家計簿に現れない費用がある。内部収益率法は大学進学を「19歳進学・22歳卒業・23歳就業」と置き、働かなかった数年分を費用として数えている。本連載はその金額を算出しない。
  8. これらは標本調査の推計値であり、端数処理のため内訳と合計が一致しないことがあり、誰が払ったかを示していない

出典

本文中の番号に対応します。原典に直接あたって確認したものだけを挙げています。結論に反する記述も、同じ基準で載せています。

  1. 【大学生の費用・実額】独立行政法人日本学生支援機構(2024)令和4年度学生生活調査報告。表1「年間学生生活費」、表2「学生生活費の推移」、表3「設置者別の学生生活費」、および〔留意事項〕の定義・端数処理・推計値に関する記述。調査ページはJASSO「令和4年度学生生活調査」
  2. 【内部収益率法・機会費用】北條雅一(2018)学歴収益率についての研究の現状と課題『日本労働研究雑誌』No.694, 2018年5月, pp.29-38。内部収益率の定義と、大学進学を「19歳で進学し22歳で卒業、23歳から60歳まで就業」と置く計算例。
  3. 【高校の費用内訳】文部科学省(2026)令和5年度子供の学習費調査結果のポイント(令和6年12月25日公表資料 訂正版・令和8年1月16日)。図4-2「公立・私立高等学校(全日制)における学校教育費の内訳」、および項目別定義の「通学費」。

連載「教育費は、家計に何をするのか」(全10回)

教育費を、労働経済学・教育経済学・公共経済学の実証研究から検討する全10回の連載です。学歴の「返り」ではなく、家計の「支払い」の側だけを扱います。

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宮川 涼 Founder
早稲田大学大学院文学研究科哲学専攻修士号修了、同大学大学院同専攻博士課程中退。日本倫理学会員 早稲田大学大学院文学研究科にてカント哲学を専攻する傍ら、精神分析学、スポーツ科学、文学、心理学など幅広く研究に携わっている。

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