受験期の「燃え尽き」は、努力不足ではなく、何の結果なのか
高校3年の秋ごろ、「机には向かっているのに何も頭に入らない」「勉強に意味を感じなくなった」「自分はどうせ無理だと思う」と話す受験生がいます。周囲からは「気合いが足りない」「あと少しの辛抱」と言われがちですが、心理学ではこの状態を学業バーンアウト(学校バーンアウト)として研究してきました。
フィンランドの Salmela-Aro らの研究では、学校バーンアウトを学業の要求による疲弊(exhaustion)、学校への冷めた・距離を置く態度(cynicism)、生徒としての不全感(inadequacy)の3要素で定義しています [1]。
この記事では、職場のバーンアウト研究で使われてきた仕事の要求−資源モデル(Job Demands-Resources, JD-R)を学業に当てはめた研究を中心に、受験期の燃え尽きは何から生じ、何で防げるのか、そして「バーンアウト」という概念そのものへの反論を検討します。受験のプレッシャーと精神的健康の全般については既存の連載で扱っているので、ここでは要求と資源の釣り合いに焦点を絞ります。
なお、気分の落ち込みが続く、眠れない・食べられない、自分を傷つけたい気持ちがある、といった場合は、この記事の手順より先に、医療機関や学校のカウンセラーに相談してください。
一言でいうと(この記事の結論)
学業の「要求」は1年後のバーンアウトと、学業の「資源」は1年後の没頭(エンゲージメント)と結びついていました [2]。
バーンアウトは学業成績と負の関係にあり(r = -0.24) [3]、後の抑うつ症状をより強く予測していました [4]。
——ただし、学生のバーンアウトを減らす介入の証拠はまだ幅が広く不確かで [5]、「バーンアウトは実質的に抑うつの一形態ではないか」という強い反論もあります [6]。
- 1,709人の4時点の縦断研究で、学業の要求は1年後のバーンアウトと、学業の資源は没頭と関連しました [2]。
- 進学を目指すコースの生徒は、職業コースの生徒より疲弊が大きく、冷めた態度と不全感が時間とともに増えました [7]。
- 29研究・109,396人の統合で、バーンアウトと学業成績の相関は r = -0.24、不全感では -0.39 [3]。
- 学校バーンアウトは、抑うつ症状が後のバーンアウトを予測する以上に、後の抑うつ症状を強く予測しました [4]。
- 【反証】介入の効果は g = 0.90 と大きく見えますが、信頼区間は 0.04〜1.75 と非常に広く、症状や介入の種類によっては有意でありませんでした [5]。
- 【反証】教員1,386人の研究で、バーンアウトと抑うつ症状の相関は 0.77、バーンアウトと判定された人の86%が抑うつの暫定診断基準を満たしました [6]。

1. 要求と資源——燃え尽きを「釣り合い」で考える
JD-R モデルは、もともと職場のストレス研究で使われてきた枠組みで、要求(負荷)がエネルギーを削る過程と、資源(支え)が意欲を生む過程の2つを想定します。Salmela-Aro と Upadyaya は、これを学校に当てはめ、フィンランドの青年1,709人を、義務教育から後期中等教育への移行期から2年後まで4時点で追跡しました [2]。
- 学業の要求は、1年後の学校バーンアウトと関連していた
- 学業の資源は、学業への没頭と関連していた
- 自己効力感(やればできるという見込み)は没頭と正に、バーンアウトと負に関連した
- バーンアウトは1年後の没頭を負に予測し、2年後の抑うつ症状と関連した。没頭は2年後の生活満足度と関連した
- バーンアウトは、学業の要求と精神的健康の結果との関係を媒介していた [2]
大学生を対象に理論を整理した Bakker と Mostert は、学業の要求と資源がそれぞれ独自に、また組み合わさって学生の健康に影響すること、そして学生自身が、要求と資源を能動的に最適化する行動をとることも、自分の学習環境を悪化させる自己妨害的な行動をとることもあることを論じています [8]。
「ストレスが高い」と「燃え尽きている」は同じではない
フランスの高校生540人を分類した研究では、「没頭型」(22.4%)は学業ストレスが高いにもかかわらず、社会的な支えを「リラックス型」と同程度に感じていました。一方で「燃え尽き型」(15.4%)は、学業ストレスが最も高く、支えを最も低く感じていました [9]。
一言でいうと
受験期の負荷が高いこと自体は避けられません。燃え尽きを分けるのは、負荷の高さだけでなく、それを支える資源があるかどうかです [2] [9]。
——「負荷を減らす」だけでなく「資源を足す」という発想が、このモデルの実務上の要点です。
2. 誰が、いつ燃え尽きやすいか
フィンランドの縦断研究は、進学を目指すコースで燃え尽きが進みやすいことを繰り返し示しています。
2008年の研究の著者らは、結果を「段階−環境適合理論」、つまり移行そのものより、移った先の環境の性質が、生徒の学校への感じ方の変化を左右するという考え方で解釈しています [7]。
対処の仕方による違い
韓国の中学生の縦断研究では、「努力と報酬の不均衡」の変化とバーンアウトの変化が連動し、問題に向き合う対処(問題焦点型)はこの関係を和らげた一方、気持ちを紛らわせる対処(情動焦点型)には和らげる効果がありませんでした [11]。
感情の調整とバーンアウトのメタ分析でも、適応的な感情調整の方略はバーンアウト全体と負に、感情調整の困難は疲弊・冷めた態度・効力感の低下のそれぞれと正に関連していました [12]。
3. 燃え尽きは、成績と心の健康に何をするか
Madigan と Curran のメタ分析は、29研究・109,396人で、バーンアウトと学業成績の関係を統合しました [3]。
| バーンアウトの要素 | 学業成績との相関 |
|---|---|
| バーンアウト全体 | r = -0.24 |
| 疲弊 | r = -0.15 |
| 冷めた態度 | r = -0.24 |
| 効力感の低下(不全感) | r = -0.39 |
注目すべきは、「疲れている」ことより「自分はできないと感じている」ことのほうが、成績と強く結びついていた点です。
精神的健康との関係では、15歳と17歳の青年を対象にした2つの縦断研究で、学校バーンアウトが後の抑うつ症状を予測する力は、抑うつ症状が後のバーンアウトを予測する力より強く、両者が互いに強め合う循環も見られました [4]。
4. 【反証】介入の証拠は薄く、概念そのものが問われている
反証1——介入の効果は、見かけほど確かではない
学生のバーンアウトを減らす介入を初めて統合したメタ分析は、中等教育と高等教育の17研究・2,462人(無作為化比較試験10、準実験7)を対象に、バーンアウト全体への効果を g = 0.90 と推定しました [5]。数字は大きく見えますが、95%信頼区間は 0.04〜1.75 と非常に広く、特定の症状・研究デザイン・介入の種類では効果が有意でなかったことも報告されています。最も証拠が強かったのは、無作為化比較試験、論理情動行動療法、マインドフルネスに基づく介入でした [5]。
運動の無作為化比較試験35本を統合した2026年のメタ分析でも、運動はバーンアウト全体を減らした(SMD = -0.45)ものの、疲弊・冷めた態度・効力感などの個々の要素には有意な効果がありませんでした [13]。
反証2——バーンアウトは抑うつの一形態ではないか
Schonfeld と Bianchi は、米国の教員1,386人で、バーンアウトと抑うつ症状の相関が 0.77(測定誤差を補正すると 0.84)に達し、ストレスに関わる3つの要因ともほぼ同じように相関し、バーンアウトと判定された教員の86%が抑うつの暫定診断基準を満たしたことから、バーンアウトの状態はおそらく抑うつの一形態であると結論しました [6]。対象は教員であり生徒ではありませんが、「燃え尽きただけで、うつではない」と区別して安心することは危険だという示唆は、受験生にも当てはまりえます。
反証3——成績との関係は、因果の向きが定まっていない
成績とのメタ分析は相関の統合であり [3]、成績が低いからバーンアウトが高まるという逆向きの経路も否定できません。実際、フィンランドの研究では成績の低い生徒ほどバーンアウトが高く [7]、高い成績がバーンアウトの増加を防いでいました [10]。
一言でいうと(反証のまとめ)
「このプログラムで燃え尽きが防げる」と言える段階ではありません [5]。
「燃え尽き」と呼んでいる状態が抑うつと重なっている可能性は高く [6]、家庭や塾で抱え込まず、専門家につなぐ判断が必要な場合があります。
5. 実務——要求と資源を「見える化」する週1回15分
- 毎週日曜に、3要素を各1問・5段階で記録する(2分)。「勉強のことを考えると疲れ切っている(疲弊)」「勉強に意味を感じない(冷めた態度)」「自分はうまくやれていないと感じる(不全感)」。不全感が最も成績と結びついていたので [3]、この1問の推移を特に見ます。
- その週の「要求」と「資源」を3つずつ書き出す(5分)。要求=模試、課題量、睡眠不足など。資源=相談できる人、できるようになった単元、休めた時間など。要求はバーンアウトに、資源は没頭に結びついていました [2]。
- 要求を1つ減らすか、資源を1つ足す行動を決める(5分)。負荷を減らせない時期は、「解けるようになった問題の記録」「週1回の相談の時間」など資源を足すほうを選びます。
- 悩みには「問題に向き合う対処」を1つ入れる(3分)。「分からない単元を先生に聞く日を決める」など。問題焦点型の対処は、努力と報酬の不均衡とバーンアウトの関係を和らげました [11]。
- 冷めた態度か不全感が3週連続で4以上、または気分の落ち込み・睡眠や食欲の変化が続くなら、勉強の計画を見直す前に専門家に相談する。バーンアウトは抑うつと強く重なっている可能性があります [6]。
保護者の方は、記録を「監視」に使わないでください。友人グループ内でバーンアウトが似てくる影響が見られたように [10]、周囲の関わり方は本人の状態に影響しえます。
この記事で言えないこと
- 引用した縦断研究の多くはフィンランドの青年で、日本の大学受験生を対象にした研究は、今回取得した範囲にはありません。
- バーンアウトと成績・抑うつの関係は主に相関・縦断の観察研究で、介入による因果は十分に確かめられていません。
- バーンアウトと抑うつの重なりについての強い証拠は、教員を対象にした研究です [6]。
- 本記事の記録の3問と「3週連続で4以上」は研究で検証された尺度や基準ではなく、相談の目安です。診断の代わりにはなりません。
当塾の立場
塾に来なくても、家庭でできること
- 週1回、疲弊・冷めた態度・不全感を5段階で記録する
- その週の要求と資源を書き出し、資源を1つ足す行動を決める
- 気分の落ち込みが続くときは、勉強の相談より先に専門家に相談する
それでも個別指導を使う理由
塾を検討される際は、次の3つを聞いてみてください。
- 受験期の生徒の疲れや意欲の低下に、どう気づいていますか
- 課題量を減らす判断を、何を基準にしていますか
- 学習の問題を超えていると判断したとき、どうしますか
まとめ
- 学業の要求はバーンアウトと、学業の資源は没頭と結びついていました [2]。
- 進学コースで疲弊が大きく、冷めた態度と不全感が時間とともに増えました [7] [1]。
- バーンアウトと成績の相関は r = -0.24、不全感で -0.39 [3]。後の抑うつ症状も予測しました [4]。
- 問題に向き合う対処は、努力と報酬の不均衡とバーンアウトの関係を和らげました [11]。
- 【反証】介入の効果は信頼区間が広く、要素によっては有意でありませんでした [5] [13]。
- 【反証】バーンアウトは抑うつの一形態である可能性が指摘されています [6]。
- そして——受験期の燃え尽きは「気合い」の問題ではなく、要求と資源の釣り合いの問題として記録し、続くときは専門家につなぐのが、証拠に沿った向き合い方です。
出典
- 【性別とコース・770人】Salmela-Aro, K. & Tynkkynen, L. (2012). Gendered pathways in school burnout among adolescents. Journal of Adolescence. DOI: 10.1016/j.adolescence.2012.01.001
- 【要求−資源モデル・1,709人の縦断】Salmela-Aro, K. & Upadyaya, K. (2014). School burnout and engagement in the context of demands-resources model. British Journal of Educational Psychology. DOI: 10.1111/bjep.12018
- 【成績とのメタ分析・109,396人】Madigan, D. J. & Curran, T. (2021). Does Burnout Affect Academic Achievement? A Meta-Analysis of over 100,000 Students. Educational Psychology Review. DOI: 10.1007/s10648-020-09533-1
- 【燃え尽きと抑うつの交差遅延】Salmela-Aro, K., Savolainen, H. & Holopainen, L. (2009). Depressive Symptoms and School Burnout During Adolescence: Evidence from Two Cross-lagged Longitudinal Studies. Journal of Youth and Adolescence. DOI: 10.1007/s10964-008-9334-3
- 【反証・介入のメタ分析】Madigan, D. J., Kim, L. E. & Glandorf, H. L. (2024). Interventions to reduce burnout in students: A systematic review and meta-analysis. European Journal of Psychology of Education. DOI: 10.1007/s10212-023-00731-3
- 【反証・抑うつとの重なり】Schonfeld, I. S. & Bianchi, R. (2016). Burnout and Depression: Two Entities or One? Journal of Clinical Psychology. DOI: 10.1002/jclp.22229
- 【進学コースと燃え尽き・658人】Salmela-Aro, K., Kiuru, N. & Nurmi, J.-E. (2008). The role of educational track in adolescents’ school burnout: A longitudinal study. British Journal of Educational Psychology. DOI: 10.1348/000709908×281628
- 【学業の要求−資源理論】Bakker, A. B. & Mostert, K. (2024). Study Demands-Resources Theory: Understanding Student Well-Being in Higher Education. Educational Psychology Review. DOI: 10.1007/s10648-024-09940-8
- 【高校生のプロファイル・540人】Vansoeterstede, A. et al. (2024). School burnout and schoolwork engagement profiles among French high school students: Associations with perceived academic stress and social support. Journal of Research on Adolescence. DOI: 10.1111/jora.12991
- 【友人の影響と成績の保護】Kiuru, N. et al. (2008). Peer Group Influence and Selection in Adolescents’ School Burnout: A Longitudinal Study. Merrill-Palmer Quarterly. DOI: 10.1353/mpq.2008.0008
- 【努力と報酬の不均衡と対処】Kim, B., Kim, E. & Lee, S. M. (2017). Examining longitudinal relationship among effort reward imbalance, coping strategies and academic burnout in Korean middle school students. School Psychology International. DOI: 10.1177/0143034317723685
- 【感情調整とのメタ分析】Iuga, I. A. & David, O. A. (2024). Emotion Regulation and Academic Burnout Among Youth: a Quantitative Meta-analysis. Educational Psychology Review. DOI: 10.1007/s10648-024-09930-w
- 【反証・運動の効果は要素別に有意でない】Wang, W. & Zhang, P. (2026). The impact of mindfulness training and physical exercise on student academic burnout and academic achievement: a systematic review and meta-analysis. Frontiers in Psychology. DOI: 10.3389/fpsyg.2026.1840246
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