社会の地図・資料読解——資料が読めないより怖いのは「文章に合わせて資料を読む」こと

地図と資料が読めない子は、何が足りないのか

中学受験の社会では、知識を問う問題と並んで、地形図・雨温図・統計表・グラフを読み取る問題が数多く出ます。地図記号や等高線から土地の様子を読む、雨温図から都市を当てる、2つのグラフを組み合わせて理由を述べる。そして保護者の方からは、「用語は覚えているのに、資料問題になると点が取れない」というご相談をよくいただきます。

こうした力は、地理教育では地理空間的思考(geospatial thinking)、発達心理学では地図の理解、理科・数学教育ではグラフの解釈として、別々に研究されてきました。この記事ではその3つを突き合わせ、地図と資料を読む力は何でできていて、どこでつまずき、何をすれば伸びるのかを整理します。

先にお断りしておくと、この領域は大規模な無作為化試験やメタ分析が少なく、相関研究・小規模研究・レビューが中心です。そのため、この記事の結論は他の記事より控えめになります。

一言でいうと(この記事の結論)
地図を読む力は、年齢とともに伸びるが、空間能力と「地図と実際の空間を対応づける方略」に左右されます [1][2]
グラフを読む力は、読解力・算数の力に加えて、「その話題とグラフの形式を知っているか」で決まります [8]
しかし——文章に書かれた主張があると、人はグラフを無視したり、主張に合わせて歪めて読んだりします [12]
——資料問題の対策は「資料のパターン暗記」ではなく、「資料そのものから先に読み、文章や知識と照合する順序」を身につけることです。

結論を6点にまとめます。

  1. 5〜12歳の259名で、教室の地図上に人の位置と向きを示す課題は、年齢が上がるほどよくできた [1]
  2. 9〜10歳で、広い屋外での地図の使用は、空間能力と、地図と空間を対応づける方略の自発的な使用で予測された [2]
  3. 地図記号の色を実物の色と同じだと思い込む誤りは、5〜6歳で系統的、9〜10歳で解消していた [3]
  4. 小4(204名)のグラフ理解は、読解力・算数の力・話題とグラフ形式の予備知識で予測された [8]
  5. 反証。一方的な主張の文章と曖昧なグラフを読んだ学生は、グラフを無視するか、主張の方向に歪めて再現した [12]
  6. 反証。地理情報システム(GIS)の学習で伸びたのは、道具で明示的に学んだ空間概念だけだった [13]
マインドマップ図解:社会の地図・資料読解——資料が読めないより怖いのは「文章に合わせて資料を読む」こと
図:この記事の構造(Mapifyで作成したマインドマップ)

1. 地図を読む力はどう発達するか

地図を読むとは、紙の上の記号と、実際の空間を対応づけることです。この発達を長く研究してきた研究者らは、5〜12歳の259名に、教室に立っている大人の位置と向きを、教室の地図の上に書き込ませました。結果は、年齢が上がるほど成績がよく、男子が女子より成績がよかったというものでした [1]

小さな部屋ではなく、広く見慣れない屋外で調べた研究もあります。9〜10歳の40名がキャンパスを歩き、旗の位置を地図に書き込みました。成績を予測したのは、空間能力のテストの得点地図と空間を対応づける方略(地図の向きを実際の方向にそろえる、目印を照合するなど)を自発的に使うこと、そして性別(男子が有利)でした。公園を歩く映像を使ったコンピュータ課題でも同様の傾向で、誤りのパターンからは子どもに共通する方略と、個人ごとの方略の両方が見られ、著者らは今後の教育的介入で扱うべきだとしています [2]

記号の理解にも発達の段階があります。地図に色の点を付ける課題で、5〜6歳は、点の色が実物の色と一致しているほうを「探し物に役立つ地図」として系統的に誤って選び9〜10歳は正しく選び、7〜8歳はその中間でした [3]。6〜9歳の80名の研究では、人によって同じものを異なって解釈しうると理解する力が、年齢・知能・語彙・記憶を統制しても、実物に似た記号の意味を他人に伝える地図づくりの成功を予測しました [4]

一言でいうと
地図記号は「絵」ではなく「約束事」だと分かるのは、小学校中学年ごろです [3]
——そして高学年でも、地図を実際の空間に対応づける方略を自分から使う子と使わない子で差がつきます [2]。地形図の問題でつまずく子は、知識よりこの方略が抜けている可能性があります。

この力は長い時間をかけて育ちます。地理的な文脈での空間関係の理解を30問で測るテストを開発した研究では、熟達者の水準にあったのはおおむね大学院生、初心者の水準は9年生(中3)でした [7]。小学生の段階で完成を求める力ではない、ということです。

2. グラフを読む力は何で決まるか

グラフの理解については、小4の204名と中1の185名を対象にした研究が基本になります。話題の予備知識、グラフのテスト、読解と算数の学力テストを実施したところ、小4では、読解の学力、算数の学力、そして話題・数学的内容・グラフの形式についての予備知識が、それぞれグラフ理解を独自に予測しました。中1では、話題とグラフ形式の予備知識を除く同じ要因が予測因子でした。著者は、グラフを実際に作る活動に子どもを関わらせ、理解に必要な枠組み(スキーマ)を育てるべきだと提案しています [8]

理科教育の文献レビューも、グラフの解釈はグラフの特徴、グラフの内容、見る人の予備知識など多くの要因に影響される複雑な活動であり、生徒が持つ事前の理論や期待が、偏りや誤読を生みうると整理しています。そのうえで、グラフの解釈は明示的に教えるべきだと論じています [9]

形式が変わるとつまずく、という具体例もあります。小6への思考発話の研究では、横軸がとびとびの値(例:品目)のグラフから横軸が連続する値(例:時間や温度)の折れ線グラフに移るとき、個々のデータ点を読み取る段階の困難が、データ点どうしの関係や、グラフが表す現実の解釈にまで影響していました。とびとびのグラフで身につけた読み方は、連続のグラフの解釈を助けもし、妨げもしました [10]

一言でいうと
グラフが読めない原因は「グラフの読み方」だけでなく、読解力、算数の力、そして話題の知識にあります [8]
——雨温図が読めないのは、気候の知識がないからかもしれず、棒グラフと折れ線グラフの違いがつかめていないからかもしれません [10]。原因によって対処が違います。

3. 文章と資料を組み合わせると、何が起きるか

中学受験の社会では、リード文と資料を組み合わせた問題が多く出ます。この組み合わせには、効果と危険の両方があります。

中1の118名を対象にした歴史の実験では、文章に添えたグラフを、文章の要素・パターン・ラベル・因果の手がかりと密接に対応させたものと、対応の緩いもので比べました。読解力が中〜上位の生徒は、密接に対応したグラフのほうが、歴史的な概念の理解の成績が有意に高かったのです。一方、この研究は、当時の教科書のグラフには文章との対応がほとんどなく、学習中の概念を反映していないことが多いとも指摘しています [11]

一言でいうと
文章と資料がきちんと対応していれば、資料は理解を助けます。ただしその恩恵を受けたのは、読解力が中〜上位の生徒でした [11]

4. 反証——資料は「読まれていない」ことがある

ここからは、資料読解の指導に期待しすぎないための証拠です。

(1)文章の主張が、グラフを上書きする。大学生120名を、デジタル化が読解力に良い影響を与えたと主張する文章悪い影響を与えたと主張する文章に無作為に割り付け、どちらにも同じ曖昧なグラフを添えた研究では、学生は読後のレポートでグラフをほとんど無視するか、歪めて解釈し、文章とグラフの食い違いを調整したり文章に批判的な立場をとったりすることはまれでした。記憶からグラフを再現させると、再現は読んだ文章の主張の方向に強く偏っていました。しかもこの影響は、学生自身の事前の信念とは無関係に生じていました [12]

大学生でこうなのですから、リード文の誘導に引きずられて資料の数値を読み違える小学生がいても不思議ではありません。

(2)道具で学んだ概念しか伸びない。GISの授業を受けた大学生と受けていない大学生、計119名に空間関係の概念のテストを行った研究では、GISの学習が伸ばしたのは、ソフトウェアの道具や機能と結びつけて明示的に学んだ一部の空間概念だけで、多くの空間概念は、明示的な学習ではなく偶発的に身についていたと結論しています [13]。「デジタル地図で遊べば地図が読めるようになる」とは言えません。

(3)自信はあるのに、できていない。中学生の折れ線グラフの技能と態度を調べた研究では、生徒は折れ線グラフの技能が不足していたにもかかわらず、グラフについて高い自己効力感と肯定的な態度を持っていました。大多数が単純さを理由に棒グラフを好み、円グラフは描きにくいとして嫌っていました [14]

(4)カリキュラムを実施しても、出発点の差が残る。都市部の中学校の教師13名と生徒1,049名がエネルギー資源の地理空間カリキュラムに取り組んだ研究では、生徒は内容知識と地理空間的推論の力を有意に伸ばしましたが、終了時の成績を説明した重要な要因は生徒の最初の地理空間的推論の力内容知識の伸びでした [5]。地理空間的思考には、一般知能・地理の知識・地理への興味が直接影響していた、という構造方程式モデルの研究もあります [6]

一言でいうと(反証のまとめ)
資料問題でいちばん危ないのは「資料が読めない」ことより、「文章や思い込みに合わせて資料を読んでしまう」ことです [9][12]
——そして、ツールや教材に触れるだけでは広い力は育たず [13]本人の自信は実力の目安になりません [14]

5. 実務——家庭でできる地図・資料の読み取り練習

研究を踏まえ、「資料を先に読む順序」「地図と空間の対応づけ」「話題の知識とグラフ形式の区別」を軸にします。

  1. 資料問題は「資料→設問→リード文」の順で読む。リード文を先に読むと、その主張に合わせて資料を読んでしまいます [12]資料だけを見て、分かることを2つメモしてから設問とリード文に進みます。
  2. グラフは「軸・単位・形式」を声に出してから読む。「横軸は月、縦軸は降水量でミリ、棒グラフ」と言わせてから数値を読みます。形式の違い(とびとび/連続)が読み方を変えます [10]
  3. 自分でグラフを作る。週1回、新聞や教科書の統計表から、棒グラフか折れ線グラフを1つ手で描きます。グラフを作る活動は、理解に必要な枠組みを育てると提案されています [8]
  4. 地形図は、実際の場所で一度照合する。近所の地図(地理院地図の印刷など)を持って散歩し、地図の向きを実際の方向にそろえる、目印と記号を照合する、を体験させます。地図と空間を対応づける方略が成績を予測しました [2]
  5. 雨温図・統計問題で間違えたら、原因を「知識」「形式」「読み違い」に分ける。気候の知識がなかったのか、グラフの形式が分からなかったのか、数値を読み違えたのかで、戻る場所が違います [8][9]
  6. 「読めた気がする」を信じず、数値で答えさせる。「どこが一番多い?」ではなく「何月に何ミリ?」と具体的に答えさせます。自信と実力はずれていました [14]

この記事で言えないこと

  • 介入の効果の大きさ。この領域では、小学生を対象にした地図・グラフ読解の無作為化試験やメタ分析を、今回ほとんど見つけられませんでした。引用の多くは相関研究・小規模研究・レビューです。
  • 中学受験の資料問題への直接の当てはまり。日本の入試の地形図・統計資料問題を成果指標にした研究はありません。
  • 性差の意味。地図課題で男子が有利という結果 [1][2] は、経験や方略の違いを含みうるもので、能力の固定的な差を示すものとは言えません。

当塾の立場

まず、塾に来なくても家庭でできることです。資料を先に読む、軸・単位・形式を声に出す、統計表からグラフを描く、地図を持って散歩する、誤りの原因を分ける、数値で答えさせる——5節の手順は、教科書・新聞・近所の地図があれば家庭で実行できます。

それでも個別指導を使う理由を、この記事の研究に即して3つ挙げます。

  1. つまずきの原因が複数あり、答案だけでは区別できないこと。グラフの理解は、読解力・算数の力・話題とグラフ形式の予備知識で決まっていました [8]。どれが原因かは、子どもに読み方を話させて初めて分かります。
  2. 文章に引きずられた読み方を、その場で指摘できること。主張に合わせて資料を歪める傾向は大学生でも見られました [12]。資料のどの数値を根拠にしたかを1問ずつ確かめられます。
  3. 自信と実力のずれを、記録で示せること。グラフの技能が不足していても自己効力感は高いことがありました [14]。資料問題の正答を形式別に記録し、本人の見立てと照らし合わせます。

塾を選ぶ際は、次の3つを聞いてみてください。

  • 資料問題で、子どもがどの数値を根拠にしたかを確かめていますか
  • グラフや地図が読めない原因を、どう切り分けていますか
  • 地形図の学習で、実際の空間との対応をどう扱っていますか

まとめ

  1. 地図上に位置と向きを示す力は5〜12歳で年齢とともに伸びた [1]
  2. 高学年の地図の使用は、空間能力と地図・空間の対応づけ方略で予測された [2]記号を約束事と分かるのは9〜10歳ごろ [3]
  3. グラフ理解は読解力・算数の力・予備知識で予測され [8]、明示的に教えるべきとされる [9]
  4. 文章と密接に対応したグラフは、読解力のある生徒の理解を助けた [11]
  5. 反証。文章の主張があると、グラフは無視されるか歪めて読まれた [12]
  6. 反証。GIS学習で伸びたのは明示的に学んだ概念だけで [13]、自信は実力の目安にならなかった [14]
  7. 資料問題は「資料→設問→リード文」の順で読み、誤りの原因を知識・形式・読み違いに分ける。

出典

本文中の番号に対応します。抄録に直接あたって確認したものだけを挙げています。結論に反する研究も、同じ基準で載せています。この領域は大規模な実験研究が少ないため、相関研究・レビューを多く含みます。

  1. 【5〜12歳の地図上の位置と向き・259名】Liben, L. S. & Downs, R. M. (1993). Understanding person-space-map relations: Cartographic and developmental perspectives. Developmental Psychology. DOI: 10.1037/0012-1649.29.4.739
  2. 【9〜10歳の屋外での地図使用】Liben, L. S., Myers, L. J. & Christensen, A. E. (2013). Environmental-Scale Map Use in Middle Childhood: Links to Spatial Skills, Strategies, and Gender. Child Development. DOI: 10.1111/cdev.12090
  3. 【地図記号の理解の発達】Myers, L. J. & Liben, L. S. (2008). The Role of Intentionality and Iconicity in Children’s Developing Comprehension and Production of Cartographic Symbols. Child Development. DOI: 10.1111/j.1467-8624.2008.01150.x
  4. 【解釈的な心の理論と記号の理解・80名】Myers, L. J. & Liben, L. S. (2012). Graphic Symbols as “The Mind on Paper”: Links Between Children’s Interpretive Theory of Mind and Symbol Understanding. Child Development. DOI: 10.1111/j.1467-8624.2011.01693.x
  5. 【反証・地理空間カリキュラムと出発点の差・1,049名】Bodzin, A. M., Fu, Q. & Kulo, V. (2014). Examining the Effect of Enactment of a Geospatial Curriculum on Students’ Geospatial Thinking and Reasoning. Journal of Science Education and Technology. DOI: 10.1007/s10956-014-9488-6
  6. 【地理空間的思考に影響する要因】Xie, S., Zheng, X. & Sun, Y. (2021). The Factors and Mechanisms That Influence Geospatial Thinking: A Structural Equation Modeling Approach. Journal of Geography. DOI: 10.1080/00221341.2021.1967423
  7. 【地理空間的思考の熟達度テスト】Huynh, N. T. & Sharpe, B. (2012). An Assessment Instrument to Measure Geospatial Thinking Expertise. Journal of Geography. DOI: 10.1080/00221341.2012.682227
  8. 【小4と中1のグラフ理解の予測因子】Curcio, F. R. (1987). Comprehension of Mathematical Relationships Expressed in Graphs. Journal for Research in Mathematics Education. DOI: 10.5951/jresematheduc.18.5.0382
  9. 【グラフ解釈の困難・文献レビュー】Glazer, N. (2011). Challenges with graph interpretation: a review of the literature. Studies in Science Education. DOI: 10.1080/03057267.2011.605307
  10. 【小6の折れ線グラフ解釈】Boote, S. K. & Boote, D. N. (2017). Leaping from Discrete to Continuous Independent Variables: Sixth Graders’ Science Line Graph Interpretations. The Elementary School Journal. DOI: 10.1086/690204
  11. 【文章と対応したグラフ・中1の118名】Shand, K. (2009). The Interplay of Graph and Text in the Acquisition of Historical Constructs. Theory & Research in Social Education. DOI: 10.1080/00933104.2009.10473400
  12. 【反証・文章の主張がグラフを歪める・120名】Bråten, I., Strømsø, H. I. & Salmerón, L. (2025). Learning From Multiple Representations: What Happens When an Informational Text Is Combined With an Ambiguous Graph? Reading Research Quarterly. DOI: 10.1002/rrq.70043
  13. 【反証・GIS学習は明示的に学んだ概念のみ】Jo, I. & Hong, J. E. (2020). Effect of Learning GIS on Spatial Concept Understanding. Journal of Geography. DOI: 10.1080/00221341.2020.1745870
  14. 【反証・技能不足と高い自己効力感】Bursal, M. & Polat, F. (2020). Middle School Students’ Line Graph Skills and Affective States about Common Graph Types Used in Science Courses. International Journal of Education in Mathematics, Science and Technology. DOI: 10.46328/ijemst.v8i4.1026

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宮川 涼 Founder
早稲田大学大学院文学研究科哲学専攻修士号修了、同大学大学院同専攻博士課程中退。日本倫理学会員 早稲田大学大学院文学研究科にてカント哲学を専攻する傍ら、精神分析学、スポーツ科学、文学、心理学など幅広く研究に携わっている。

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