連載「学びの意思決定——行動経済学・社会学・認知心理学から考える」全50回の第49回です。学習の仕方の目次を見る
記録をつけると続く。この連載では何度もそう書いてきました。では、その主張にはどれだけの根拠があるのでしょうか。目標の進捗を確認することが、実際に達成につながるのかを、138の研究をまとめて検討したメタ分析があります。
最後から2番目のこの回で、記録という行為そのものを扱います。この連載で紹介してきた多くの方法が、記録を前提にしているからです。
要点(結論から)
- 目標の進捗を確認することは、目標設定と達成のあいだをつなぐ過程として位置づけられてきた。
- この効果を定量化するため、138研究(N=19,951)を対象とした系統的な検討が行われた。
- 行動変容の介入研究では、理論的に特定された技法が結果を改善するかが検討されてきた。
結論——進捗を確認する行為自体が、行動を変える
- 目標の進捗を確認することは、目標設定と達成のあいだをつなぐ過程として位置づけられてきた。
- この効果を定量化するため、138研究(N=19,951)を対象とした系統的な検討が行われた。
- 行動変容の介入研究では、理論的に特定された技法が結果を改善するかが検討されてきた。
- 記録は、結果を測るための道具であると同時に、それ自体が介入として働く。
- 実務的には、記録の形式を軽くし、確認の頻度を決めることが要点になる。
理由——モニタリングは何をしているのか
138研究をまとめた検討
ハーキンらは、目標進捗のモニタリングが目標達成を促すかどうかを、実験的な証拠に基づいて検討しました。
Harkin B, Webb TL, Chang BPI, et al. Does monitoring goal progress promote goal attainment? A meta-analysis of the experimental evidence. Psychological Bulletin. 2016;142(2):198-229.
制御理論をはじめとする自己調整の枠組みでは、進捗のモニタリングは、目標を設定してから達成するまでのあいだに挟まる重要な過程とされてきました。しかし、その影響の大きさは定量化されていませんでした。
そこで、モニタリングを促す介入に参加者を無作為に割り当てた研究を系統的に探し、138研究(N=19,951)が同定されました。行動の遂行率と目標達成への影響が検討されています。
技法としての位置づけ
ミチーらは、健康行動の介入について、どの行動変容技法が結果を改善するかをメタ回帰で検討しました。
Michie S, Abraham C, Whittington C, McAteer J, Gupta S. Effective techniques in healthy eating and physical activity interventions: A meta-regression. Health Psychology. 2009;28(6):690-701.
この種の研究が扱っているのは、介入全体の効果ではなく、どの要素が効いているかです。介入は複数の技法の組み合わせであることが多く、どれが効いているかを分離する必要があります。
実務的な含意としては、記録や自己監視が、単独の技法として扱われうるということです。複雑な仕組みを導入しなくても、記録だけを足すことに意味があります。
具体例——記録の形式を比べる
| 形式 | 手間 | 続きやすさ | 使える情報 |
|---|---|---|---|
| カレンダーに丸 | 数秒 | 高い | 実行の有無、連続日数 |
| やった範囲を1行 | 10秒程度 | 高い | 進度、残量の見積もり |
| 時間と内容を表に | 1分程度 | 中 | 配分の分析 |
| 詳細な学習日誌 | 数分 | 低い | 多いが、続かなければ意味がない |
下に行くほど情報は増えますが、続きにくくなります。続かない記録は、情報をまったく生みません。上2つで足りる場面が大半です。
今日からできること
- 最も軽い形式から始める。 丸をつけるだけでも、モニタリングとして働きます。
- 記録する場所を固定する。 探す手間があると続きません。
- 確認の日を決める。 週に一度、記録を見る時間を置きます。
- 評価と分けて扱う。 第8回で述べたとおり、締めるときに評価を入れると記録が止まります。
- 目標と並べて書く。 第43回で述べたフィードバックの条件を満たします。
学年で変えるところ
- 小学生——丸やシールが機能します。ただし、報酬に変えない点に注意します。
- 中学生——範囲と進度の記録が有効になります。テスト前の逆算に使えます。
- 高校生——科目数が多く、配分の分析が必要になります。ただし形式は軽いまま保ちます。
記録は、見える場所に置く
記録の効果は、書くことだけでなく見えることからも来ます。引き出しにしまった記録は、確認の機会を失います。
実務的には、机の前の壁、教材の表紙の裏、カレンダー。毎日視界に入る場所に置きます。第7回で述べたデフォルトの考え方と同じで、判断なしに目に入る状態を作ります。
見える場所に置くことには、もう一つの働きがあります。第17回で述べた可視性です。家族が通りかかって見る状態であれば、他人の目が入ります。ただし、第20回で述べたとおり、可視性は逆に働くこともあります。本人が見られたくない様子なら、自室の中で見える場所にとどめます。
いずれにせよ、原則は同じです。探さないと見えない記録は、使われない。 記録の価値は、書いた量ではなく見返した回数で決まります。
週に一度、何を見るか
確認の時間に何をするかを決めておくと、記録が判断につながります。手順としては、次の3つで足ります。
- 実行できた日数を数える。 先週と比べます。増減の理由は、その場で考えなくて構いません。
- 進度と残量を突き合わせる。 このペースで、期限までに終わるか。終わらないなら、量か期限を調整します。
- できなかった項目を1か所に集める。 第27回で述べたとおり、集めたリストが次の練習の対象になります。
所要時間は5分です。長くすると、確認そのものが続かなくなります。
この5分が、この連載で扱ってきた多くの方法をつなぐ結び目になります。計画の補正(第3回)、撤退の判断(第4回)、較正の訓練(第33回)、配分の調整(第34回)。いずれも、記録を見る時間がなければ実行できません。
記録が行動を変える経路
記録は、単に情報を残すだけではありません。いくつかの経路で行動に働きかけます。
第一に、現状と目標の差が見えること。差が見えると、調整が起こります。見えなければ、調整のしようがありません。第43回で述べたフィードバックの条件です。
第二に、書く瞬間に行動が意識されること。記録することが分かっていると、行動そのものの選び方が変わります。第2回で述べた柔らかいコミットメント装置に近い働きです。
第三に、過去の自分が比較対象になること。第15回で述べたとおり、比較の基準を他人ではなく過去の自分に置くと、環境に振り回されにくくなります。記録は、その基準を提供します。
第四に、較正の材料になること。第33回で述べた見積もりの精度は、記録と実績を突き合わせることでしか上がりません。
紙かアプリか
記録の道具については、決まった正解がありません。それぞれに利点と副作用があります。
紙の利点は、開くまでの手間が小さく、しかも他の刺激が入らないことです。第39回で述べたとおり、記録のために端末を開くと、その画面に並んでいるものが次の行動を決めます。
アプリの利点は、集計と可視化が自動で行われることです。長期の傾向が見やすくなります。一方で、通知や他の機能が同居している点が副作用になります。
判断の基準としては、記録のために開いた端末を、記録だけで閉じられるかです。閉じられるならアプリでよく、そのまま別のものを見てしまうなら紙のほうが確実です。これは意志の強弱ではなく、第7回で述べた環境の問題です。
迷う場合は、紙から始めるのが安全です。続いてから、必要に応じて移行すればよい。記録の形式は、続くことが第一条件になります。
記録は、後から効いてくる
記録の価値は、つけている最中にはあまり感じられません。数週間分たまって、初めて見えるものがあります。
たとえば、実行できなかった日の偏りです。特定の曜日だけ抜けている、部活の後は必ず抜けている。数日分では気づけませんが、数週間分を並べると見えます。見えれば、その曜日の設計だけを変えられます。
同様に、見積もりの癖も蓄積で見えます。第3回で述べた計画錯誤の補正倍率は、記録がなければ決められません。何度か外した記録があって初めて、自分の倍率が推定できます。
したがって、記録を始めた最初の数週は、効果を実感しにくい時期です。ここで止めてしまうと、蓄積から得られるものをすべて失います。この時期を越えるために、形式を軽くしておく意味があります。
よくある失敗——記録を作り込む
記録が効くと知ると、丁寧な形式を作りたくなります。色分けした表、科目別のグラフ、細かい時間の内訳。作っているあいだは達成感がありますが、多くは数週間で止まります。
判断の基準は単純です。1日あたりの記録に、何秒かかるか。 30秒を超えるなら、続かない可能性が高くなります。
もう一つの失敗は、記録が途切れたときにやめてしまうことです。数日抜けると、埋めるのが面倒になり、そのまま終わります。対処は、抜けた日を空欄のまま進めると決めておくことです。埋めなくてよいと決めておけば、再開の障壁が下がります。
第45回で述べたとおり、崩れた後に戻れるかどうかが仕組みの価値を決めます。記録も例外ではありません。
何を記録するか
記録の対象は、目的によって変わります。この連載の内容に沿えば、優先順位は次のようになります。
- 実行したかどうか。 最も軽く、最も基本的です。連続日数が見えます。
- どこまで進んだか。 残量の見積もりに使えます。第3回で述べた計画錯誤の補正材料になります。
- 何ができなかったか。 第27回で述べたとおり、できなかった項目を集めることが、次の練習の対象になります。
- 予想と結果の差。 第33回で述べた較正の訓練です。
1から順に足していくのが現実的です。最初から4つ全部を記録しようとすると、手間が大きすぎて続きません。1が定着してから2を足す。第45回で述べた習慣化の順序と同じです。
保護者ができること——見るが、採点しない
記録が家庭にあると、つい評価したくなります。しかし、評価が入ると記録は正確でなくなります。
- 週に一度、一緒に見る。 頻度はこれで足ります。毎日確認すると監視になります。
- 数を確認するだけにする。 「今週は4日だね」。良し悪しの判定を足しません。
- 空欄を責めない。 責めると、次から埋めるために事実でない記録が生まれます。
3つ目が最も重要です。記録の価値は正確さにあります。正確でない記録は、較正にも配分にも使えません。正直に書ける状態を保つことが、家庭の側の役割になります。
記録の考え方を別の場面に当てはめる——部活と家の役割
進捗を確認するという行為は、学習全体の記録だけでなく、もっと小さな単位にも当てはめられます。たとえば、一日のうちに解いた問題の数を、その日の終わりに短く書き留める使い方です。大がかりな表を作る必要はなく、手帳の余白や付箋に一行書く程度で足ります。
教科を絞って記録する方法もあります。英単語の確認をした回数や、音読をした時間帯を、その場で印だけつけていくやり方です。印をつける行為そのものが、次にその教科へ向かうきっかけになることがあります。場所は机の上でも、移動中の電車の中でも構いません。
また、週の終わりに、その週に手をつけた単元を並べて眺める使い方もあります。出来栄えを評価するのではなく、触れた範囲を確認するだけです。この確認が、翌週の始め方に影響することがあります。
記録を見返さない——つけただけで終わる
記録を始めると、形式を整えたくなることがあります。欄を増やし、色を分け、見た目をそろえようとすると、記録そのものに時間がかかり、学習の時間が削られていきます。まずは一行から始め、必要を感じたときに足す、という順序が向いています。
次に、記録が途切れたときに、そこでやめてしまう場合があります。空白の日ができること自体は問題ではなく、空白を埋めようとして過去にさかのぼって書き足すと、かえって負担になります。抜けた日は抜けたままにして、次の日に一行書くほうが続きやすいと考えられます。
また、記録を見る時間帯が定まらないと、確認する習慣が定着しにくくなります。週に一度と決めていても、その曜日や時間帯が毎回変わると、見る機会を逃しやすくなります。決まった場面に結びつけておくと、思い出しやすくなります。
この記事で言えないこと
モニタリングの研究の多くは、健康行動——運動、食事、禁煙——を対象としています。学習行動に同じ大きさの効果が出るとは限りません。また、効果は記録の形式や頻度、目標との組み合わせによって変わります。
加えて、記録は行動の頻度に働きかけるものであり、学習の質を保証しません。毎日記録が埋まっていても、その時間の中身が浅い処理であれば、結果は変わりません。第3ブロックと第4ブロックが、その部分を扱っています。
当塾の立場
丸をつける、範囲を1行書く、週に一度見る。紙1枚で足ります。塾は必要ありません。
武蔵野個別指導塾では、指導の側でも記録を残し、生徒と共有しています。何ができるようになったか、どこで止まったか、どの型を使えたか。記録があると、前回からの変化を具体的に言えます。第10回で述べたとおり、承認を具体的にするには観察が要り、観察を残すには記録が要ります。記録は、生徒のためだけの道具ではありません。
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出典
- Harkin B, Webb TL, Chang BPI, et al. Does monitoring goal progress promote goal attainment? A meta-analysis of the experimental evidence. Psychological Bulletin. 2016;142(2):198-229.
- Michie S, Abraham C, Whittington C, McAteer J, Gupta S. Effective techniques in healthy eating and physical activity interventions: A meta-regression. Health Psychology. 2009;28(6):690-701.

