覚える単位を大きくする——チャンク化と、型を持つということ|武蔵野個別指導塾が薦める学習の仕方

連載「学びの意思決定——行動経済学・社会学・認知心理学から考える」全50回の第23回です。学習の仕方の目次を見る

前回まで、一度に扱える項目の数には厳しい制限があると書きました。では熟達した人は、なぜ大量の情報を扱えるのでしょうか。答えは、容量が大きいからではありません。1つの項目に入る中身が違うからです。

チェスの研究が、この点を鮮やかに示しました。熟練者は盤面を一瞬見ただけで再現できます。ところが、駒をでたらめに並べた盤面では、初心者とほとんど変わりません。記憶力が優れているのではなく、意味のあるまとまりとして見えていることが差を作っていました。

要点(結論から)

  • 熟達者の記憶の優位は、意味のあるまとまり(チャンク)として符号化できることに由来する。
  • 意味を持たない配置では、この優位は消える。したがって一般的な記憶力の差ではない。
  • チャンクは経験の反復によって形成される。近道はないが、方向は決まっている。

結論——覚える量ではなく、まとまりの大きさを変える

  • 熟達者の記憶の優位は、意味のあるまとまり(チャンク)として符号化できることに由来する。
  • 意味を持たない配置では、この優位は消える。したがって一般的な記憶力の差ではない。
  • チャンクは経験の反復によって形成される。近道はないが、方向は決まっている。
  • 勉強では、ばらばらの事実をまとめて名前を付ける作業がチャンク化にあたる。
  • 単語・公式・解法の「型」を持つことは、記憶の節約であると同時に、思考の余裕を作る作業である。

理由——チェス盤が示したこと

並べ方を変えると、優位が消える

チェイスとサイモンは、チェスの熟練者と初心者に盤面を短時間提示し、再現させました。実際の対局で現れるような配置では、熟練者の再現は圧倒的に優れていました。

Chase WG, Simon HA. Perception in chess. Cognitive Psychology. 1973;4(1):55-81.

ところが、駒を無作為に配置した盤面では、その優位がほとんど消えました。熟練者が持っていたのは、汎用の記憶容量ではなく、その領域に固有のまとまりの辞書だったということになります。

この結果は、勉強の場面に直接効きます。「記憶力がいい人」に見える生徒は、多くの場合、その教科のまとまりを多く持っています。まとまりは経験から作られるので、後から増やせます。

まとまりはどう作られるか

ゴベらは、チャンク化の機構を学習研究の観点から整理しました。チャンクは、同時に、あるいは連続して現れる要素が繰り返し経験されることで形成されます。

Gobet F, Lane PCR, Croker S, et al. Chunking mechanisms in human learning. Trends in Cognitive Sciences. 2001;5(6):236-243.

重要なのは、まとまりが自動的に形成される側面を持つことです。意識的に「まとめよう」としなくても、繰り返し接していれば、よく一緒に現れるものは一つとして扱われるようになります。

同時に、意識的な整理が加速させることも知られています。ミラーが再符号化と呼んだのは、この意識的な側面でした。

Miller GA. The magical number seven, plus or minus two: Some limits on our capacity for processing information. Psychological Review. 1956;63(2):81-97.

具体例——教科ごとのチャンク

教科 ばらばらの状態 まとまった状態
数学 解法の手順を1行ずつ思い出す 「この形は因数分解して置き換え」で1つ
英語 単語を1語ずつ訳す 頻出のかたまり(連語・構文)で読む
社会 年号と事件を個別に覚える 因果の流れで1つの筋にする
理科 公式を個別に暗記する 同じ原理から導ける群としてまとめる

右列に共通しているのは、要素間の関係が入っていることです。関係が入ると、要素の数が減ったのと同じ効果が生まれます。

今日からできること

  1. まとまりに名前を付ける。 「この型は、置き換えの型」。名前が付くと、1つの項目として扱えます。
  2. 同じ型の問題を、続けて3問解く。 型の形成には反復が要ります。1問では、まとまりになりません。
  3. 英語は、語ではなく連語で覚える。 前置詞や動詞の組み合わせは、まとまりで出てきます。
  4. 年表は、因果でつなぐ。 つながった事項は、1つの流れとして保持できます。
  5. 自分の言葉で要約する。 要約は、まとまりを作る作業そのものです。

学年で変えるところ

  • 小学生——計算のまとまりが中心です。九九や繰り上がりの処理が自動化されると、文章題に使える容量が空きます。
  • 中学生——教科ごとに型が増える時期です。型に名前を付ける習慣をここで作ると、後が楽になります。
  • 高校生——扱う型の数が多く、整理しないと増えるばかりになります。同じ原理でまとめ直す作業が要ります。

まとまりを意図的に作る4つの手順

反復すれば自然にまとまりはできますが、意識的な整理を入れると速くなります。実務的には、次の4段が使えます。

  1. 集める。 同じように見える問題を3つ以上集めます。教科書の例題、ワークの問題、テストの過去問。ばらばらの場所にあるものを1か所へ持ってきます。
  2. 共通点を1行で書く。 「どれも、まず式を1つにまとめてから代入している」。この1行が、まとまりの核になります。
  3. 名前を付ける。 自分に通じる名前で構いません。「代入の型」「先にまとめる型」。教科書の用語である必要はありません。
  4. 違いを1行で書く。 まとめたあとに、区別が必要な条件を書きます。「ただし分母に文字がある場合は先に条件を確認する」。ここを書かないと、まとめすぎになります。

この4段は、1つの型につき10分程度で終わります。時間はかかりますが、型が1つできるたびに、以後その型の問題に使う容量が下がります。投資としては回収が早い部類です。

まとまりが邪魔になる場面もある

チャンク化には副作用もあります。まとまりとして見えるようになると、細部を見なくなることです。熟練者が見落とすのは、たいていこの種の見落としです。

試験の場面では、これが失点として現れます。見慣れた形だと判断して、条件の一部が違うことに気づかない。「いつもの問題だと思った」という失敗は、型を持っている生徒に特有のものです。型を持たない生徒は、そもそもこの誤り方をしません。

対処は、型を使う前に条件を読み上げることです。数値、単位、但し書き。型に当てはめる前の一手間として、条件の確認を入れます。第21回で述べたとおり、条件を紙に書き出しておくと、この確認が楽になります。

つまり、型は判断を速くしますが、速い判断には固有の誤りがあります。速さと正確さの両方を得るには、型を持ったうえで、当てはめる前に一度止まる手順を組み込むことになります。この「止まる」手順自体も、反復すれば型になります。

なぜ型を持つと、思考に余裕が生まれるのか

前回述べたとおり、一度に扱える項目は3〜5程度です。解法の手順が5段あり、それぞれが独立した項目として扱われていると、手順を思い出すだけで容量が埋まります。

型としてまとまっていれば、手順全体が1項目になります。空いた容量は、その問題に固有の条件——数値の違い、追加された制約——の処理に使えます。「応用が利かない」という状態の一部は、応用力の欠如ではなく、基本の型が容量を食っている状態です。

この見方に立つと、基礎の反復の意味が変わります。反復は、同じことを繰り返して安心するための作業ではありません。容量を空けるための作業です。目的が明確になると、どこまで反復すべきかも決まります。考えずに手が動くところまで、が目安になります。

熟達者が教えるのが下手になる理由

チャンク化には、もう一つ見落とせない帰結があります。まとまりとして処理できるようになった人には、その中身が見えなくなることです。自動化された手順は、意識に上がりません。

そのため、教える側は自分が何をしているかを正確に説明できなくなります。「ここは、こう見ればすぐ分かる」と言ってしまう。言われた側にとって、その「すぐ」の中身こそが分からない部分です。

この現象は、家庭でも起こります。保護者が自分の得意教科を教えようとして、うまく伝わらないことがあります。理解が足りないからではなく、まとまりが大きすぎて、要素に分解できないからです。

対処としては、分からない側に手順を言わせるほうが確実です。どこまでやったか、次に何をしようとしたか。言わせれば、どの要素が欠けているかが見えます。教える側が説明を増やすより、聞く側に言わせるほうが、欠けている要素の特定は速くなります。

この点は、第13回で扱った質問の型とも重なります。「ここまでは分かって、ここから分からない」という形が有効なのは、まとまりの境目を明示するからです。境目が分かれば、そこだけを分解して渡せます。

まとまりができると、速度が変わる

試験には制限時間があります。同じ内容を理解していても、処理の速度が違えば結果は変わります。そして速度の差の多くは、まとまりの有無から来ます。

1問ごとに手順を思い出している状態と、見た瞬間に型が決まる状態では、同じ問題にかかる時間が大きく違います。時間が足りないという相談に対して、解く速さを上げようとするより、型の数を増やすほうが確実なのはこのためです。

実務的には、時間を計って解く練習より先に、型の一覧を作るほうが効きます。型が揃っていない段階で時間を計ると、焦りだけが増えて、型を作る余裕がなくなります。順序としては、型を作る、型を使えるようにする、そのうえで時間を計る、となります。

よくある失敗——まとめずに量を増やす

問題集を何冊も解いているのに伸びない、という相談があります。多くの場合、解いた量ではなく、まとめる作業が足りていません。

解くたびに新しい手順として処理していると、経験は積み上がりますが、まとまりは増えません。同じ型の問題を、別々のものとして記憶し続けることになります。

対処は、解いた後に1行書くことです。「この問題は、○○の型」。名前が同じ問題が3つたまれば、それは1つのまとまりになります。第6回で扱った誤りの型の整理と、同じ作業です。

逆に、まとめすぎにも注意が要ります。「全部同じ」とまとめてしまうと、区別すべき条件が消えます。まとまりの粒度は、区別が必要な場面で分かれるように作ります。

保護者ができること——「どういう型だった?」と聞く

家庭でできる最も簡単な介入は、問題の中身ではなく型を聞くことです。内容が分からなくても実行できます。

  1. 「今日のはどういう型の問題?」——答えられるなら、まとまりができています。
  2. 「前に似たのをやった?」——過去の型と結びつける作業を促します。
  3. 「一言でいうと何をする問題?」——要約はチャンク化そのものです。

いずれも採点ではありません。答えられなくても構いません。答えようとする過程で、まとめる作業が起きます。

英単語と歴史の用語をまとめる——かたまりの作り方

まとまりを作るという考え方は、暗記だけでなく、技能を身につける場面にも当てはめることができます。たとえば書道では、一画ずつ丁寧に書く段階を経て、文字全体の形をとらえる段階に移ります。画の運びを一つのかたまりとして捉えられるようになると、意識を全体のバランスに向けやすくなります。

楽器の演奏でも同じです。最初は一音ずつ確認しますが、慣れてくると数小節をまとまりとして捉えられるようになります。まとまりができると、指の動きをいちいち考えなくても弾けるようになり、表現に意識を向けられます。水泳や球技でも、細かい動作の組み合わせが一つの動きとしてまとまっていく過程が見られます。

理科の実験でも、手順を一つずつ覚える段階から、目的に応じた手順のまとまりとして捉える段階へ進むことがあります。目的、準備、観察、記録という流れを一つの型として持っていると、初めての実験でも見通しを立てやすくなります。教科や分野が変わっても、まとまりを作るという発想は共通しています。

まとめ方が分からないまま詰め込む——かたまりができない

まとまりを作ろうとしても、うまくいかないことがあります。よくあるのは、まだ理解が浅い段階で無理にまとめようとする場合です。個々の内容を十分に確認しないまま一括りにすると、かえって誤解が残ることがあります。まずは要素を丁寧に確認し、そのうえでまとまりを作る順序が大切です。

また、作ったまとまりが別の場面で使えないこともあります。ある問題でうまくいった型が、条件の違う問題では当てはまらないことがあります。型を使うときは、前提となる条件が同じかどうかを確認する必要があります。型に頼りすぎると、応用の場面で手が止まることがあります。

時間帯によっても、まとまりの作りやすさは変わります。集中できる時間帯に新しいまとまりを作り、疲れているときは既にあるまとまりを使って確認する、といった使い分けが考えられます。道具を変えるだけではまとまりは作れないため、内容の理解と結びつけて進めることが大切です。

この記事で言えないこと

チェスの研究は、特定の領域における熟達を扱ったものです。チャンクの形成に要する経験の量は領域によって異なり、数か月で型が揃う領域もあれば、長期の経験を要する領域もあります。

また、チャンク化が進んでも、それはその領域の中での優位にとどまります。無作為な配置で優位が消えたのと同じ理由で、ある教科で型を多く持っていることが、別の教科の学習を直接には助けません。学習の転移については別の研究群が扱っています。

当塾の立場

型に名前を付ける、同じ型を続けて解く、一言で要約する。いずれも家庭でできます。

武蔵野個別指導塾で行っているのは、解けた問題について「どういう型か」を本人に言わせることです。解けたかどうかだけを確認して次へ進むと、まとまりは作られません。言葉にした型は記録に残し、次回同じ型が出たときに参照します。型の一覧が増えていくこと自体を、進歩の指標として使っています。

出典

  1. Chase WG, Simon HA. Perception in chess. Cognitive Psychology. 1973;4(1):55-81.
  2. Gobet F, Lane PCR, Croker S, et al. Chunking mechanisms in human learning. Trends in Cognitive Sciences. 2001;5(6):236-243.
  3. Miller GA. The magical number seven, plus or minus two: Some limits on our capacity for processing information. Psychological Review. 1956;63(2):81-97.

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