グラフを描けない原因は作図固有の手続きの未習得|武蔵野個別指導塾が薦める学習の仕方

連載「単元別のつまずき研究——その単元で、生徒は実際に何をどう誤るか」全50回の第19回です。学習の仕方の目次を見る

「このグラフ、何を表しているか説明して」と聞くと、傾きや交点の意味をすらすら答える。ところが「では、同じ関係を自分でグラフに描いてみて」と白紙を渡すと、手が止まる。塾の個別指導でよく出会う場面です。

グラフを読む力と描く力は、一見すると同じ「グラフの力」のように思えます。しかし実際には、読める生徒が必ずしも描けるとは限りません。むしろ、読解はできているのに作図になると座標の取り方、目盛りの振り方、点のつなぎ方のどこかで誤るケースが多く見られます。

今回は、グラフを「読めるのに描けない」というつまずきに焦点を当てます。研究知見をもとに、なぜ読解と作図の間にずれが生まれるのかを整理し、実際の誤答例と、個別指導の机の前でできる確かめ方を示します。

なお、この記事で扱うのは主に一次関数や比例、理科の実験データを表す折れ線グラフなど、中学から高校の初歩で登場する基本的なグラフです。読者の生徒がどの段階でつまずいているかを切り分ける手がかりにしてください。

要点(結論から)

  • グラフの読解と作図は、同じ概念を使っていても必要になる技能が異なります。読めることは描けることを保証しません。
  • 作図で最初につまずくのは、座標平面に点を正しく置く手続きです。軸の名前と目盛りの対応を確認せずに描き始める生徒が多くいます。
  • 次につまずくのは、点と点の間をどう結ぶかという判断です。データの点を定規で機械的につないでしまい、関数のグラフとしての形を考えないことがあります。

結論——グラフを描けない原因は「読む力」の不足ではなく、作図固有の手続きの未習得にある

  • グラフの読解と作図は、同じ概念を使っていても必要になる技能が異なります。読めることは描けることを保証しません。
  • 作図で最初につまずくのは、座標平面に点を正しく置く手続きです。軸の名前と目盛りの対応を確認せずに描き始める生徒が多くいます。
  • 次につまずくのは、点と点の間をどう結ぶかという判断です。データの点を定規で機械的につないでしまい、関数のグラフとしての形を考えないことがあります。
  • さらに、目盛りの間隔を自分で決められないという問題があります。与えられたグラフ用紙なら読めるのに、白紙に軸から描く段階で止まる生徒がいます。
  • 指導では、読解問題を増やすよりも、作図の手順を小さく区切って確かめる方が効果的です。描く活動の中で誤りを観察して初めて見えるつまずきがあります。

理由——読解と作図は別の課題であり、作図には作図固有の判断が含まれる

読む課題と描く課題では、生徒に求められる作業の向きが逆になる

グラフを読むとき、生徒は完成された図を受け取ります。そこにはすでに軸があり、目盛りが振られ、点や線が描かれています。生徒の仕事は、その図から情報を取り出すことです。傾きを読み取る、交点の座標を答える、変化の様子を言葉にする。これらはすべて、与えられた表現を別の表現に翻訳する作業です。

一方、グラフを描くとき、生徒は数式や表、文章で与えられた情報から、軸や目盛りを自分で設定し、点を置き、線を引くという一連の手順を組み立てなければなりません。読むときには意識しなくて済んだ「どこに軸を描くか」「一目盛りをいくつにするか」「点を線で結ぶのか、結ばないのか」といった判断が、すべて生徒の側に降りかかります。

この違いは、グラフの学習を扱った研究でも、解釈と作図が別の課題として分析されていることと重なります。関数とグラフに関する研究を概観したレビューでは、関数の表現には代数、表、グラフがあり、それぞれの表現を解釈する課題と構成する課題が区別されて論じられています。

Leinhardt G, Zaslavsky O, Stein M, et al. Functions, Graphs, and Graphing: Tasks, Learning, and Teaching. Review of Educational Research. 1990;60(1):1.

つまり、読めるのに描けないという状態は、生徒の理解が不完全なのではなく、作図という別種の課題に必要な手続きがまだ入っていないと考える方が実態に近いのです。

選択式の問題では見えない作図の誤りがある

学校のテストや問題集では、グラフの読み取りを選択式で問うことが多くあります。正しいグラフを選ばせる問題、傾きを選ばせる問題、変化の様子を言葉で選ばせる問題などです。これらの問題では、生徒は選択肢の中から正解を探すことができます。選択肢がヒントになり、また、明らかに違う選択肢を消去することで正解にたどり着くこともあります。

ところが、白紙にグラフを描かせる自由記述形式の課題では、選択肢という手がかりがありません。軸を描くところから、目盛りを決め、点を置き、線を引くまで、すべてを自分の判断で進める必要があります。そのため、選択式では正解できていた生徒が、自由記述では描けないという食い違いが生じます。

この食い違いは、グラフ能力の評価方法に関する研究でも指摘されています。折れ線グラフの作図と解釈を複数の形式で比べた研究では、選択式の結果と自由記述式の結果の間に多くのずれが見られたと報告されています。

Berg C, Smith P. Assessing students’ abilities to construct and interpret line graphs: Disparities between multiple‐choice and free‐response instruments. Science Education. 1994;78(6):527-554.

この研究が示唆するのは、選択式の正答だけを見て「グラフができる」と判断するのは危ういということです。作図の力を見るには、実際に描かせて、その過程を観察する必要があります。

作図では「何を一定にするか」という判断が暗黙のうちに求められる

グラフを描くとき、生徒は目に見えない約束事をいくつも守らなければなりません。軸は直角に交わること、目盛りは等間隔に振ること、独立変数を横軸に、従属変数を縦軸に置くこと。これらは教科書には書かれていても、読むときにはすでに満たされているため、生徒の意識に上りにくい約束事です。

たとえば、比例のグラフを描く場面を考えます。表に「xが1のときyが2、xが2のときyが4」と並んでいれば、生徒は点を置くことはできます。しかし、白紙に軸を描く段階で、x軸とy軸の長さをどうするか、一目盛りをいくつにするかは、生徒自身が決めなければなりません。この判断を意識したことがない生徒は、軸を描いたものの目盛りが不等間隔になったり、点が用紙からはみ出したりします。

また、理科の実験で測ったデータを折れ線グラフにする場合も、測定点を線で結ぶのか、滑らかな曲線で近似するのか、それとも点のまま残すのかという判断が必要です。この判断は、読むときには「すでに描かれた線」として与えられているため、練習になっていないことが多いのです。

作図の指導では、これらの暗黙の約束事を一つずつ言語化して、生徒が自分の判断として選べるようにすることが大切です。

誤答の例——作図のどの段階で何を誤るかを具体的に見る

よくある誤答 その子が考えていること 確かめる問いかけ
x軸とy軸の目盛りを同じ間隔にしない 目盛りはただ数を並べればよいと思っている 「xが1増えると、yはいくつ増える? その増え方が目盛りの間隔に合っている?」
比例のグラフを折れ線で描く 表の点を順番に定規で結ぶのがグラフだと思っている 「xが1と2の間、たとえばxが1と2の真ん中のとき、yはどうなる?」
点を打ったあと、原点を通らない直線を引く 点と点の間だけを結べばよいと思っている 「xが0のとき、yはいくつになる? その点はどこに来る?」
軸に名前を書かない、単位を書かない 自分が分かればよいと思っている 「このグラフを初めて見る人に、何のグラフか伝わる?」
目盛りの数字を飛び飛びに書く 測った値だけを目盛りに書けばよいと思っている 「目盛りと目盛りの間は、いつも同じ量を表している?」

机の前で1対1で確かめるときは、次の手順が有効です。

  1. 最初に、数式や表を渡して「この関係をグラフに描いて」とだけ伝え、途中で口を出さずに描かせます。描いている手元を観察します。
  2. 描き終えたら、まず軸と目盛りを確認します。「x軸はどっち? 一目盛りはいくつ?」と聞き、生徒が自分の設定を説明できるかを見ます。
  3. 次に、表にない値、たとえばxが0のときや、xが整数と整数の間のときのyを尋ねます。その点がグラフ上のどこに来るかを指さしてもらいます。
  4. 最後に、描いた線の形について「なぜこの形になるの?」と理由を聞きます。点を結んだだけなのか、関数の変化として考えたのかを区別します。
  5. 誤りがあれば、その場で直させるのではなく、誤りに気づく問いかけを一つだけして、もう一度描かせます。

小学生では、折れ線グラフの目盛りの振り方でつまずきます。測った値だけを目盛りに書き、間隔がそろわないことがあります。まず方眼紙に目盛りを振る練習を短く繰り返すと、作図の負担が減ります。

中学生では、比例や一次関数のグラフで、点を折れ線で結ぶ誤りが目立ちます。表の点だけをつなぐのではなく、xが連続して変わるときのyの変化を考えさせる問いかけが有効です。

高校生では、二次関数や物理のグラフで、頂点や切片などの特徴的な点だけを頼りに形を決めようとして、途中の変化を無視することがあります。微分や変化率の考え方と結びつけて、曲線の形を言葉で説明させる練習が役立ちます。

よくある誤読——研究結果を「選択式は悪い」とだけ受け取らない

誤用されがちな読み方——「選択式の問題は使うべきでない」

先に紹介した研究では、選択式と自由記述式の結果にずれがあることが示されています。この結果だけを見て、「選択式の問題はグラフの力を測れないから使うべきでない」と結論づけるのは、研究の読み方として性急です。

選択式の問題は、短時間で多くの項目を確認できる、採点が安定する、授業の導入で生徒の反応を素早く集められるといった利点があります。また、選択式でも、誤答の選択肢を工夫すれば、生徒がどの段階で誤っているかをある程度推測できます。問題は形式そのものではなく、選択式の結果だけで「グラフができる」と判断してしまうことです。

指導の場面では、選択式を入口に使い、そのあとで自由記述の作図課題を必ず入れるという組み合わせが現実的です。形式を対立させるのではなく、目的に応じて使い分けることが大切です。

正しい読み方——作図の過程を観察して初めて見える誤りがある

研究が示しているのは、評価の方法によって見えるものが変わるということです。選択式では、生徒が最終的に正しい選択肢を選べたかどうかが見えます。しかし、その生徒が実際に軸を描けるのか、目盛りを等間隔に振れるのか、点を正しく置けるのかは、選択式の結果からは分かりません。

作図の指導で重要なのは、完成したグラフの正誤だけでなく、描いている途中の判断を見ることです。軸を描く前に何を考えたか、目盛りをどう決めたか、点を打つ順番、線を引くときの迷い。これらは、個別指導のように生徒の手元を近くで見られる場でこそ観察できます。

したがって、研究結果を指導に生かすなら、「選択式で正解でも、作図をさせてみる」という手順を日常に組み込むことです。読めるのに描けない生徒を見つけるには、描かせる場面を作る以外に方法はありません。

今週やること——作図の手順を三つに分けて確かめる

  1. 生徒に白紙を渡し、簡単な比例か一次関数の関係を一つ与えて、グラフを描かせます。その際、口出しをせず、描く手元を観察します。軸を描く順番、目盛りを振る間隔、点を打つ位置、線を引くときの迷いを記録します。
  2. 描き終えたグラフについて、軸の名前、一目盛りの意味、点と点の間の値の三つを質問します。生徒が自分の描いたグラフを説明できるかどうかで、理解の深さを確かめます。
  3. 同じ関係を、今度は方眼紙に描かせます。白紙との違いを生徒に言葉で説明させ、目盛りの設定という判断が作図の一部であることを意識させます。

この記事で言えないこと

この記事で紹介した研究は、グラフの解釈と作図をめぐる一般的な傾向を示したものです。特定の生徒がどの段階でつまずくかは、学年やそれまでの学習経験、理科と数学のどちらの文脈でグラフを扱ってきたかによって大きく変わります。ここに書いた誤答例が、すべての生徒に当てはまるわけではありません。

また、研究で示されているのは、選択式と自由記述式の間にずれがあるという事実です。そのずれがどのような指導で解消されるか、どのくらいの期間で改善するかについては、この記事の範囲を超えています。個々の生徒に合った手立ては、実際に作図の過程を観察しながら探る必要があります。

さらに、グラフを描く力は、数学の関数だけでなく、理科の実験データの整理や、社会科の統計資料の読み取りなど、教科をまたいで使われる技能です。この記事では主に数学と理科の初歩的なグラフを念頭に置きましたが、教科ごとの文脈の違いまでは扱いきれていません。生徒のつまずきを考えるときは、どの教科のどの場面でグラフを描かせているかも含めて見る必要があります。

当塾の立場

グラフの作図練習は、家庭でも十分にできます。白紙と定規を用意し、教科書や問題集にある表や式をグラフに描かせるだけです。大切なのは、描いたあとに「なぜその目盛りにしたの」「点と点の間はどうなるの」と問いかけることです。この問いかけは、保護者の方にもできることです。特別な教材も、塾の授業も、必ずしも必要ではありません。

そのうえで、塾が担えるとすれば、作図の過程を継続的に観察し、誤りのパターンを記録して、次の一手を選ぶことです。たとえば、目盛りの間隔がそろわない生徒には、方眼紙に軸だけを描いたシートを渡し、目盛りを振る練習だけを短く繰り返すという手順を取ります。読めるのに描けない生徒には、描く場面を増やし、その場で誤りに気づく問いかけを重ねることが、個別指導の役割だと考えています。

出典

  1. Leinhardt G, Zaslavsky O, Stein M, et al. Functions, Graphs, and Graphing: Tasks, Learning, and Teaching. Review of Educational Research. 1990;60(1):1.
  2. Berg C, Smith P. Assessing students’ abilities to construct and interpret line graphs: Disparities between multiple‐choice and free‐response instruments. Science Education. 1994;78(6):527-554.

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