面積図で4つの乗法公式の意味を読み取り、共通因数から始める因数分解、計算の工夫、整数の性質の証明まで例題と練習問題で一続きに練習できる構成です。
よくあるのは、休日の公民館の学習スペースで宿題を開き、(x+3)² を x²+9 と書いたあと、解答にある 6x がどこから出てきたのか迷うという場面です。2乗の記号を見ると、かっこの中のそれぞれを2乗したくなります。しかし、(x+3)² は (x+3)(x+3) という積です。かっこを外す前に、この意味へ戻ると、隠れていたかけ算を見つけられます。
式の展開と因数分解は、多くの教科書では中3で学びます。展開では積の形から和の形へ、因数分解では和の形から積の形へと式を変えます。見た目は変わっても、表している値は変わりません。面積を「縦×横」で求めるか、「小さな部分の面積の合計」で求めるかの違いに重ねると、両者のつながりが見えてきます。
公式の使い分けだけでなく、計算の抜けを探す方法や、答えを自分で確かめる方法まで身につけていきましょう。
この単元で身につけること
- 多項式どうしの積を展開します。片方の各項を、もう片方のすべての項にかけ、最後に同類項をまとめます。
- 4つの乗法公式を使います。真ん中の項や符号に注目し、式がどの形に当てはまるかを判断します。
- 共通因数をくくり出します。すべての項に共通する数や文字を探し、残る式をかっこの中に書きます。
- 公式を逆向きに使って因数分解します。2つの数の積と和を調べたり、平方の差を見つけたりします。
- 式の形を目的に合わせて選びます。暗算しやすい形への変形や、整数の性質の説明に利用します。
土台になるのは、これまで学んだ分配法則 a(b+c)=ab+ac と同類項の計算です。文字の部分が同じ項だけをまとめること、負の数をかけるときの符号も引き続き使います。公式が思い出せなくても、分配法則に戻って展開できれば、計算を続けられます。
基本の考え方
展開は、すべての組み合わせをかけること
積の形の式を、かっこのない和の形に表すことを展開といいます。(x+2)(x+3) なら、まず (x+2)×x+(x+2)×3 と分けます。さらに分配法則を使うと、x²+2x+3x+6 となり、同類項をまとめて x²+5x+6 です。2つの項と2つの項の積では、まとめる前に4つの積ができます。
図1は、1辺が a+b の正方形を4つに分けた面積図です。縦と横をそれぞれ a と b に分けると、a² の正方形、ab の長方形2つ、b² の正方形ができます。たとえば1辺が4mと2mを合わせた長さなら、全体の面積は36m²、部分の面積は16m²、8m²、8m²、4m²です。

図1のように、ab の部分は上下に1つずつあります。この2つを合わせるため、(a+b)² の真ん中には 2ab が必要です。図では長さとして正の数を考えていますが、公式そのものは分配法則から導けるので、文字に0や負の数を入れた場合にも成り立ちます。
4つの乗法公式と、使う場所
乗法公式は、よく出てくる展開をまとめた決まりです。次の4つでは、左辺と右辺は同じ値を表しています。
- (x+a)(x+b)=x²+(a+b)x+ab:定数どうしの和が x の係数、積が定数項になります。
- (a+b)²=a²+2ab+b²:和の2乗です。真ん中に2つの文字の積の2倍が入ります。
- (a-b)²=a²-2ab+b²:差の2乗です。真ん中は負、最後の項は正になります。
- (a+b)(a-b)=a²-b²:和と差の積です。途中の -ab と +ab が打ち消し合います。
(a-b)² の最後が +b² なのは、(-b)×(-b)=b² だからです。また、(a+b)(a-b) は同じかっこを2回かける式ではありません。2乗の公式と和と差の積の公式は、かっこが同じか、符号だけが違うかを見て選びます。
公式の文字は、その場所に入る式の目印です。(2x+3)² なら a の場所は 2x 全体、b の場所は 3 です。したがって (2x)²+2×2x×3+3²=4x²+12x+9 となります。文字の係数も一緒に2乗する点を押さえましょう。
因数分解は、積の形に戻すこと
ある式をいくつかの式の積で表すとき、積をつくるそれぞれの式を因数といいます。多項式を因数の積に表すことが因数分解です。たとえば x²+5x+6=(x+2)(x+3) では、x+2 と x+3 が因数です。x²+x+4x+6 のように和の形で分けただけでは、因数分解を終えたことにはなりません。
最初に探すのは、全項に共通する因数です。6x²+9x は 3x×2x+3x×3 と見られるので、3x(2x+3) と書けます。各項を 3x で割った結果が、かっこの中に残ります。共通因数を外に出したあと、かっこの中にも公式が使えないかを調べます。
x²+px+q の形なら、積が q、和が p になる2つの数を探します。積が正なら2つは同符号、積が負なら異符号です。たとえば x²-5x+6 は、積が6、和が -5 になる -2 と -3 を使い、(x-2)(x-3) となります。見つけた因数を展開して元に戻るか調べると、符号も確かめられます。
例題で解き方を確かめる
例題1 符号の異なるかっこを展開する
(2x-3)(x+4) を展開しましょう。両方のかっこに x があっても係数が違うので、まず分配法則で4つの積を書きます。
- (2x-3)(x+4)=2x×x+2x×4-3×x-3×4 とします。先頭の 2x を両方にかけてから、-3 を両方にかけると抜けを防げます。
- それぞれを計算して 2x²+8x-3x-12 とします。定数の積は負の数と正の数の積なので、-12 です。
- 同類項の 8x-3x をまとめます。2x² と x の項は文字の部分が違うため、合わせません。
答え:2x²+5x-12 です。
確認として x=1 を入れると、元の式は (2-3)(1+4)=-5、答えの式も 2+5-12=-5 です。ただし、1つの値で一致しただけでは、どんな x でも正しいことの証明にはなりません。途中の4つの積をたどる確認と組み合わせましょう。
例題2 積と和から因数を探す
x²+5x+6 を因数分解しましょう。図2は x を正の長さとし、4つの部分を1つの長方形に並べたものです。

- 全項に共通する数や文字があるかを確認します。定数項が6なので x は共通せず、1以外にくくり出す整数もありません。
- 積が6になる正の整数の組を挙げます。1と6の和は7、2と3の和は5なので、使うのは2と3です。
- x²+5x+6=(x+2)(x+3) と書きます。図2のように、面積の合計を長方形の縦と横の積で表すと、この2つの因数が現れます。
答え:(x+2)(x+3) です。
積だけ合う (x+1)(x+6) では、展開したときに x の係数が7になります。定数項だけを見て決めず、真ん中の項まで一致させることが必要です。図の上辺を読むと x+3、左辺を読むと x+2 ですが、かける順序を入れ替えても同じ積です。
例題3 共通因数を出してから公式を使う
3x²-27 を因数分解しましょう。係数がある式は、そのまま公式に当てはめようとする前に共通因数を探します。
- 3x² と -27 はどちらも3を因数にもつので、3x²-27=3(x²-9) とします。外に出した3は、式全体の値を保つために残します。
- かっこの中を x²-3² と見ます。2つの平方の差なので、a²-b²=(a+b)(a-b) が使えます。
- 3(x²-9)=3(x+3)(x-3) とします。逆に展開すると 3(x²-9)=3x²-27 となり、元の式に戻ります。
答え:3(x+3)(x-3) です。
3(x²-9) も積の形ですが、かっこの中をさらに因数分解できます。この単元の問題では、共通因数をくくったところで止めず、残った式が公式に当てはまるかまで確認しましょう。
例題4 式を変形して整数の性質を示す
「続く2つの整数の平方の差は奇数になる」ことを、後の整数の平方から前の整数の平方を引いて説明しましょう。いくつかの数で試すだけでなく、どの整数でも成り立つ理由を書きます。
- 前の整数を n とすると、後の整数は n+1 です。続く関係を同じ文字で表すと、2つの数の差が1であることを式に残せます。
- 平方の差は (n+1)²-n² です。展開すると n²+2n+1-n² となり、同類項をまとめて 2n+1 になります。
- n は整数なので 2n は2の倍数です。それに1を加えた 2n+1 は奇数であるため、求める性質が示せます。
答え:平方の差は 2n+1 と表せるので、奇数になります。
同じ差を因数分解しても、((n+1)+n)((n+1)-n)=(2n+1)×1 です。展開と因数分解のどちらを使っても、最後に「なぜ奇数といえるか」を言葉でつなぐと説明が完成します。
つまずきやすいところと直し方
誤り1 2乗の真ん中の項を落とす
誤った書き方:(x-4)²=x²+16。どこが違うかというと、(x-4)(x-4) のうち、x×(-4) と (-4)×x が抜けています。正しい書き方は、(x-4)²=x²-4x-4x+16=x²-8x+16 です。
図1の2つの長方形を思い出し、2乗には交差してかける項が2つあると確認しましょう。一方、x²-16 なら平方の差なので (x+4)(x-4) です。同じ4が見えても、元の式が同じかっこの2乗なのか、平方どうしの差なのかで扱いが変わります。
誤り2 共通因数を出すときに項を消す
誤った書き方:x²+x=x(x+0)。どこが違うかというと、x をくくったとき、後ろの x から何も残らないと考えています。しかし x=x×1 です。正しい書き方は、x²+x=x(x+1) となります。
くくり出す操作は、共通部分を消す操作ではありません。外の x をかっこの各項にかけて、元の2項がどちらも再現されるかを確かめましょう。外に出した因数と中に残る因数を対にして読むと、1を書き落としにくくなります。
誤り3 平方の差を差の2乗にする
誤った書き方:a²-b²=(a-b)²。どこが違うかというと、右辺を展開すると -2ab が余分に現れます。正しい書き方は a²-b²=(a+b)(a-b) です。図3では a>b>0 として、大きな正方形から小さな正方形を除いた部分を並べ替えています。

図3の左に残る2つの部分は、右では縦 a-b、横 a+b の長方形になります。橙の部分は回して移すだけなので、面積は変わりません。この公式を計算に使うと、102×98=(100+2)(100-2)=10000-4=9996 です。共通の100からの増減に注目すると、筆算を短い引き算に変えられます。
練習問題
次の4問を解きましょう。展開ではまとめる前の積、因数分解では選んだ数の積と和を途中に残すと、間違えた場所を見つけやすくなります。
練習1
(x+7)(x-2) を展開しましょう。
練習2
(3x-2)² を展開しましょう。
練習3
2x²-10x+12 を因数分解しましょう。
練習4
乗法公式を使って 99² を計算しましょう。
答えと解説
練習1の答えは x²+5x-14 です。x²-2x+7x-14 と展開し、-2x+7x をまとめます。定数項は7と -2 の積なので負になります。
練習2の答えは 9x²-12x+4 です。(3x)²-2×3x×2+2² と考えます。先頭の係数も2乗し、真ん中の項は積の2倍にします。
練習3の答えは 2(x-2)(x-3) です。まず 2(x²-5x+6) とし、積が6、和が -5 の2数を選びます。確認すると 2(x²-2x-3x+6)=2x²-10x+12 です。
練習4の答えは 9801 です。(100-1)²=10000-200+1 と計算します。10000-1 になった場合は、平方の差の公式と取り違えていないか確かめましょう。
次の単元へのつながりと家庭での確かめ方
因数分解は、次に学ぶ二次方程式で解を探す手がかりになります。また、式を先に整理してから数を代入すると、式の値を求める計算が軽くなることもあります。変形の目的を考える習慣が、この先の計算にもつながります。
家で5分確かめるなら、まず (x+2)² を公式なしで展開し、4つの積を指で追います。次に x²+6x+8 を因数分解し、展開して戻るかを調べます。答えはそれぞれ x²+4x+4、(x+2)(x+4) です。お子さまのノートを見るときも、答えの一致だけでなく、どの項とどの項をかけたかに目を向けると理解を確かめられます。
個別指導で確認する際は、公式の選び間違いか、分配法則や符号の計算でのつまずきかを途中式から見分けます。必要なら数だけのかっこの計算まで戻って確かめます。
まとめ
答えが合わないとき、すぐに最初から書き直す必要はありません。展開なら4つの積がそろっているか、因数分解なら展開して元に戻るかを調べると、直す場所を絞れます。正しい公式を書けたことと、目の前の式に正しく当てはめられたことは、途中式で結びつきます。
ノートの余白に残す1行は、暗記した公式でもかまいませんが、自分が抜かした積を書けば次の計算の目印になります。消えた真ん中の項を自分で取り戻せた1行に、式を読む力は表れます。





