母集団と標本の関係を図で確認し、無作為抽出の方法や割合から人数を推定する例題に取り組めます。全数調査との使い分け、標本による結果の違い、推定値の読み方まで押さえておけば、ニュースの調査結果も読み解けます。
よくあるのは、休日の公園のベンチでアンケートの課題を見直し、「友達10人に聞いたら7人が賛成だった。町全体でも7割が賛成でよいのかな」と鉛筆が止まる場面です。7/10という割合の計算はできても、その結果をどこまで広げてよいかは、計算だけでは決まりません。調べた相手の選び方まで考える必要があります。
全員に聞ければよいのですが、人数が多ければ時間も手間もかかります。そこで、一部を調べた結果から全体のようすを推し量る標本調査を学びます。多くの教科書では中3で学ぶ内容で、割合や比例式の計算が、実際の調査を読むための道具になります。
この単元の目標は、推定人数を求めることだけではありません。「何を全体とするのか」「その一部をどう選んだのか」「結果は確定した数か」という3つの問いを持ち、計算結果の意味を自分の言葉で説明できるようになることです。
この単元で身につけること
- 全数調査と標本調査を区別します。調べる対象をすべて調べるのか、一部を調べて全体を推定するのかに注目します。
- 母集団と標本を対応させます。知りたい対象の全体が母集団、実際に取り出して調べる一部が標本です。
- 無作為に抽出する方法を考えます。くじや乱数を利用し、調べる人の好みで選ばない仕組みをつくります。
- 標本の割合から全体の数量を求めます。「標本での割合が母集団での割合に近い」と考えて、全体の人数や個数にかけます。
- 推定の結果を適切に読みます。選び方の偏りと、偶然による結果のばらつきを区別し、推定値を正確な実数と取り違えないようにします。
これまでに学んだ相対度数、確率、比例式が土台です。相対度数は標本の中の割合を表す場面で、確率は偏りの少ない選び方を考える場面で役立ちます。式をつくる前に「全体」と「条件に当てはまる部分」をそろえる習慣も引き継ぎます。
基本の考え方
全部を調べるか、一部から見通すか
調べたい対象のすべてを調べることを全数調査といいます。例えば、教室にあるいすのうち修理が必要なものを漏れなく見つけたいなら、すべてのいすを点検します。故障しているいすの割合だけでなく、どのいすを直すかが必要なので、一部の点検では目的を果たせません。
一方、対象の一部を調べ、その結果から全体の性質や数量を推定することを標本調査といいます。大量につくられた電球の寿命を調べる場合、すべてを寿命まで点灯すると販売できなくなります。このように調べることで品物を使い切ってしまう場合や、全数を調べる費用や時間が大きい場合には、標本調査が適しています。
どちらを選ぶかは、人数の多さだけでは決まりません。対象が少なくても一部から全体を推定すれば標本調査ですし、対象が多くてもすべてを調べれば全数調査です。また、全数調査でも記録の間違いや測定のずれは起こりえます。「全部調べたから、どんな誤りもない」とまではいえません。
母集団と標本は調査の目的から決める
ある施設の利用者全体の希望を知るために、利用者の一部に質問することを考えます。このとき、調査の対象となる全体を母集団、母集団から取り出した一部を標本といいます。標本に含まれる人や物の数が標本の大きさです。50人を調べたなら、標本の大きさは50です。
図1のように、標本は母集団から選ばれます。図では位置関係を見やすくするため、取り出した6人を右側にも描いています。右側の6人は新たに増えた人ではなく、左側で橙色にした同じ6人です。母集団の大きさは30、標本の大きさは6になります。

母集団を決めるときには、時期や範囲もそろえます。「先月の施設利用者の希望」を知りたいのに、今日の来館者だけを調べると、先月利用して今日は来ない人の意見が入りません。「誰について知りたいか」と「誰に聞けるか」は別の問いです。標本が母集団の一部になっているかを、最初に確かめましょう。
無作為抽出と推定を支える条件
母集団から標本を取り出すことを抽出といいます。人の判断や好みを入れず、母集団の各対象が等しい確率で選ばれるように取り出す方法が無作為抽出です。「適当に目についた人を選ぶ」という意味ではありません。身近な友達だけを選べば、好みや生活時間が似ている可能性があります。
具体的には、全員に番号をつけ、同じ形の紙に1つずつ番号を書き、見えないようにして十分に混ぜ、必要な枚数を引きます。紙の大きさや折り方をそろえるのは、特定の番号だけが引かれやすくなることを防ぐためです。人を重複なく選ぶなら、一度引いた紙は戻しません。
乱数を利用する方法もあります。例えば80人から10人を選ぶなら、1から80までが等しい確率で出る乱数を使い、異なる番号を10個選びます。すでに選んだ番号が出たら採用せず、選び直します。乱数表を使う場合も、読む方向や出発点などの規則を先に決め、都合のよい番号だけを拾わないことが必要です。
こうして選んだ標本の割合を、母集団の割合に近いとみなして推定します。ただし、無作為に選んでも毎回同じ結果になるわけではありません。よく混ぜた袋から玉を取り出しても、赤い玉の数が少しずつ違うのと同じで、偶然によるばらつきは残ります。
例題で解き方を確かめる
例題1 調査の目的に合う方法を選ぶ
次の調査には、全数調査と標本調査のどちらが適しているでしょうか。①貸し出す20台の自転車について、ブレーキの不具合がある車体を特定する。②同じ条件でつくった大量の乾電池について、使い切るまでの時間の傾向を知る。
- 何を知りたいのかを確かめます。①は不具合の割合ではなく、点検や修理が必要な車体そのものを特定する調査です。
- 調べずに残した対象があっても目的を果たせるか考えます。①で一部だけ調べると、調べなかった自転車に不具合が残るおそれがあるため、すべてを点検します。
- ②は検査で乾電池を使い切る点に注目します。全体の傾向を知るためなら、偏りなく選んだ一部を調べる標本調査が適しています。
答え:①は全数調査、②は標本調査です。
例題2 無作為に選ぶ手順を説明する
名簿に載っている80人の読書時間を調べるため、10人を標本として選びます。くじを使う方法を説明しましょう。
- 80人全員に1から80までの番号を重複なくつけます。全員を番号に対応させることで、初めから選ばれる可能性のない人が生じるのを防ぎます。
- 同じ形と大きさの紙80枚に番号を1つずつ書き、同じように折って箱に入れ、十分に混ぜます。番号が見えたり、手触りで区別できたりしないようにします。
- 中を見ずに10枚を引き、引いた紙は戻しません。対応する10人を調べれば、同じ人を2回数えずに標本の大きさを10にできます。
答え:全員の番号を書いた同じ条件のくじを十分に混ぜ、戻さずに10枚引き、その番号の10人を選びます。
この方法では1人が選ばれる確率は10/80 = 1/8です。選んだ後に「話しかけやすい人へ入れ替える」と、最初に整えた条件が崩れます。また、回答が得られなかった人が多い場合には、回答者だけの結果に偏りがないか考える必要があります。
例題3 標本の割合から人数を推定する
ある施設の登録者800人から無作為に100人を選んで調べたところ、36人が開館時間の延長を希望していました。登録者全体では何人程度が延長を希望していると推定できるでしょうか。
- 標本での希望者の割合を求めます。100人のうち36人なので、36/100 = 0.36です。分母は母集団の800人ではなく、実際に調べた100人になります。
- 母集団でも同じくらいの割合だと考えます。全体の人数800に標本の割合をかけ、800 × 0.36 = 288と求めます。
- 求めた数が何を表すか確認します。全員に聞いた結果ではないため、「288人」と断定せず、「約288人と推定される」と書きます。
答え:約288人が延長を希望していると推定されます。
図2では、2本の帯を同じ長さで描いて割合を比べています。上の帯全体は100人、下の帯全体は800人なので、帯の長さそのものが同じ人数を表すわけではありません。緑色の部分がどちらも全体の36%となる対応を見てください。

図2のように割合をそろえるなら、比例式36 : 100 = x : 800でも解けます。外側の積と内側の積を等しくして100x = 36 × 800、両辺を100で割ってx = 288です。800/100 = 8なので、人数を36 × 8と8倍しても同じ結果になります。
つまずきやすいところと直し方
誤り1 標本と母集団の分母を混ぜる
誤った書き方:「希望者の割合は36/800なので、800 × 36/800 = 36人」。どこが違うかというと、36人は調べた100人の中の希望者であり、800人全員の中で確認した希望者数ではない点です。分子と分母は、同じ調査範囲で対応させます。
正しい書き方は「標本の割合は36/100、全体の推定人数は800 × 36/100 = 288」です。迷ったら、分数の下に「調べた人数」、上に「その中の希望者」と言葉を添えましょう。標本を8倍の規模に広げるのに、希望者数だけが36のままという不自然さにも気づけます。
誤り2 人数を増やせば選び方は何でもよいと考える
誤った書き方:「施設の利用者全体の希望を知りたいので、朝の来館者をたくさん調べればよい」。朝に来ない利用者が選ばれず、生活時間に偏りが生じる可能性があります。人数を増やすだけでは、この選び方の問題は解消しません。
正しい書き方は「対象となる利用者全体から無作為に選ぶ」です。標本の大きさを考える前に、母集団のどの人にも選ばれる機会があるかを点検します。すぐ答えてくれる人だけで標本を埋める場合も、答えなかった人との違いが結果に影響しないか注意が必要です。
誤り3 無作為なら推定値は必ず一致すると考える
誤った書き方:「無作為に選んだのだから、母集団の割合は必ず40%」。無作為抽出は、標本が全体と完全に同じ構成になることを保証しません。図3は、赤い玉が全体の40%入った十分に大きな袋から、毎回すべて戻して混ぜ直し、20個ずつ取り出したときに起こりうる結果です。

図3のように、赤い玉が6個なら30%、8個なら40%、10個なら50%です。正しい書き方は「標本の割合から母集団の割合を推定するが、偶然によるずれがありうる」です。同じように無作為に選ぶ条件なら、標本を大きくすると一般にばらつきは小さくなる傾向がありますが、必ず真の値と一致するわけではありません。
練習問題
練習1
倉庫の40個の避難用ライトについて、点灯しないものをすべて見つけたいとします。全数調査と標本調査のどちらが適していますか。理由も説明しましょう。
練習2
120人から15人を無作為に選ぶとき、「希望者を先着順に15人選ぶ」という方法の問題点を説明しましょう。
練習3
1200人から無作為に80人を選んだところ、28人が徒歩で通っていました。全体で徒歩の人は何人程度と推定できますか。
練習4
赤い玉と白い玉が合計600個入った袋をよく混ぜ、50個を無作為に取り出すと赤い玉は18個でした。袋全体の赤い玉の個数を推定し、その結果が確定した個数といえるか説明しましょう。
答えと解説
練習1:全数調査です。使えないライトを漏れなく特定するには、40個すべての点灯を確かめる必要があります。
練習2:希望しない人には選ばれる機会がなく、早く申し込める人に偏る可能性があります。全員の番号からくじで15個を選ぶなどの方法に直します。
練習3:約420人です。標本での割合は28/80 = 0.35なので、1200 × 0.35 = 420となります。
練習4:約216個です。600 × 18/50 = 216と推定します。一部を調べた結果なので、実際の個数とずれる可能性があり、確定した個数とはいえません。
次の単元へのつながりと家庭での確かめ方
標本調査は、今後データから判断したり、調査結果の妥当性を考えたりするときの土台になります。数値の大きさだけでなく、その数値が得られた手順まで読む視点が育ちます。
家庭では、5分で次の2つを試せます。1つ目は、色の違う紙片を10枚ずつ用意し、袋で混ぜて5枚引くことです。色の割合を記録してすべて戻し、繰り返すと、同じ袋でも結果が違うことを確かめられます。2つ目は「家族の夕食の希望」と「町の人の夕食の希望」を並べ、それぞれ誰に聞けばよいか話すことです。知りたい全体が変われば、適切な調査相手も変わります。
個別指導では、割合の式で止まる場合には「何人中の何人か」まで戻って確認します。計算が合っていても、選び方の問題なら、母集団に含まれる人を具体的に挙げるところから整理します。
まとめ
調査の答えに人数を書くときは、その数を得た道筋もたどってみましょう。全員を数えた数なのか、一部の割合を広げた数なのかによって、同じ「288人」でも意味は変わります。根拠を説明するためには、母集団、標本、抽出の方法を式と結びつける必要があります。
「約」と添えることは、計算への自信を弱めることではありません。調べた範囲を超えて述べる部分を明らかにする、数学の正確さです。推定の説得力は、計算の前に誰をどう選んだかに支えられています。





