試験前の10分に、不安を書き出す——検証された介入|武蔵野個別指導塾が薦める学習の仕方

連載「学びの意思決定——行動経済学・社会学・認知心理学から考える」全50回の第46回です。学習の仕方の目次を見る

試験の直前に、これから受ける試験についての不安を10分間書き出す。それだけの介入で、成績が改善したという報告があります。実験室だけでなく、実際の教室でも無作為化した検証が行われました。

前々回、緊張そのものより頭の中を走る言葉が容量を占めることに触れました。この回では、その言葉を紙の上に出すという方法を扱います。

要点(結論から)

  • 重要な試験に臨むと、状況とその結果についての心配が生じ、それが遂行を損なうと想定される。
  • 試験前に、来たる試験についての考えを書き出させる介入が検証された。
  • 検証は、2つの実験室実験と2つの無作為化した現地実験で行われた。

結論——試験前に、不安を10分書き出す

  • 重要な試験に臨むと、状況とその結果についての心配が生じ、それが遂行を損なうと想定される。
  • 試験前に、来たる試験についての考えを書き出させる介入が検証された。
  • 検証は、2つの実験室実験と2つの無作為化した現地実験で行われた。
  • 書き出す内容は、解決策や励ましではなく、いま感じていることそのものでよい。
  • 実務的には、試験直前の10分を、書く時間に充てるという運用になる。

理由——書くと何が起きるのか

教室での無作為化実験

ラミレスとベイロックは、重要度の高い試験での成績を改善する心理学的介入を検証しました。

Ramirez G, Beilock SL. Writing About Testing Worries Boosts Exam Performance in the Classroom. Science. 2011;331(6014):211-213.

想定されていたのは、重要な試験に臨むことが、その状況と結果についての心配を生み、それが遂行を損なうという経路です。この想定に基づき、来たる試験についての考えを書き出すことで成績が改善するかどうかを検証しました。

検証の設計が重要です。2つの実験室実験に加えて、2つの無作為化した現地実験——実際の教室での試験——が行われています。実験室の結果が教室でも再現されるかどうかは、この種の介入では最も問われる点です。

なぜ書くことが効くのか

提案されている説明は、この連載で扱ってきた枠組みと接続します。試験中に心配が頭の中で走ると、その処理が作業記憶の容量を占めます。第21回で述べたとおり、一度に扱える項目は限られています。

書き出すことで、心配が外に出ます。第39回で扱った認知のオフロードと同じ構造です。保持し続ける必要がなくなれば、その分の容量が問題の処理に回ります。

加えて、漠然とした不安を言葉にする過程で、具体化が起こります。「まずい」という感覚が「時間が足りないかもしれない」「この単元が不安だ」という形になると、扱いやすくなります。

具体例——何を、どう書くか

書く内容 適否 理由
いま感じている不安そのもの 頭の中を外に出す
不安の理由や背景 具体化が進む
解決策や対策の計画 この場面では不要 直前に計画しても実行できない
自分への励まし 効果は不確か 検証された形とは異なる
試験と無関係な話題 対照条件 この条件と比較されている

3行目と4行目に注意してください。前向きなことを書くべきだと考えがちですが、検証された介入はいま感じていることを書く形です。無理に前向きにする必要はありません。

今日からできること

  1. 試験の直前10分を、書く時間にする。 紙とペンだけで足ります。
  2. 感じていることをそのまま書く。 文章の形でなくても構いません。
  3. 書いた紙は、見返さない。 出すことが目的です。
  4. 模試で一度試す。 本番で初めて行うより、効果を確かめてからのほうが安心です。
  5. 直前の詰め込みと、どちらを選ぶか決めておく。 両方はできません。

学年で変えるところ

  • 小学生——書くこと自体が負担になる場合があります。口頭で話すだけでも、外に出す働きは得られます。
  • 中学生——定期テストで試しやすい形です。何度か試して、自分に合うかを確かめられます。
  • 高校生——入試の直前は時間が限られます。事前に運用を決めておかないと、実行されません。

試験以外の場面でも使える

頭の中を占めている思考を外に出すという発想は、試験の場面に限りません。勉強が手につかない日、進路の不安が強い時期、人間関係が気になって集中できないとき。いずれも、同じ構造をしています。

実務的な運用としては、勉強を始める前に3分だけ書く時間を置きます。いま気になっていることを箇条書きにするだけです。書いた紙は裏返して、机の端に置きます。

この作業の効果は2つあります。第一に、保持の負荷が下がること。第二に、気になっていることが有限であると分かることです。頭の中にあるうちは無限に感じられるものが、書き出すと3つか4つしかないことが分かります。

さらに、書いた項目のうち今日できるものが1つでもあれば、それを先に片づけるという判断もできます。片づかないものは、そのまま置いておく。第8回で述べた時間の勘定と同じで、見えるようにすることが扱いの第一歩になります。

書き方の具体

「思っていることを書く」と言われても、手が止まることがあります。書き出しの型をいくつか挙げます。

  1. 「いま気になっているのは」——最も素直な入口です。
  2. 「もし失敗したら」——避けている想像を、あえて言葉にします。具体化すると小さくなることがあります。
  3. 「準備できているのは」「できていないのは」——事実の整理になります。
  4. 「いま体が感じているのは」——心拍、手の感じ。身体の感覚から入ると書きやすい場合があります。

どの型でも構いません。文章として整える必要はなく、単語の羅列でも働きます。目的は作品ではなく、外に出すことです。

時間は10分が目安ですが、書くことがなくなればそこで終えて構いません。逆に、書き足りない場合でも、試験の直前であれば時間で区切ります。

効きやすい人、そうでない人

この種の介入は、全員に同じように効くわけではありません。想定されている経路からすれば、試験中に心配が頭を占めている人に効きやすいことになります。

逆に、もともと心配がそれほど生じない人には、効く余地が小さくなります。書くこと自体が無駄というわけではありませんが、10分を別のことに使うほうがよい場合もあります。

自分がどちらかを判定する方法は、試験の後の振り返りです。解いている最中に、問題以外のことを考えていた時間があったか。あったなら、この介入を試す価値があります。

なお、心配の量は日によっても変わります。特に重要な試験の前ほど大きくなります。したがって、毎回行う必要はなく、重要度の高い試験に限って使うという運用も合理的です。

教室で検証されたという意味

この研究で特筆すべきなのは、実験室だけでなく実際の教室で無作為化した検証が行われた点です。学習法の情報を読むとき、この違いは重要な判断材料になります。

実験室の研究には利点があります。条件を統制でき、因果関係を特定しやすい。一方で、実験室の課題は本物の試験とは違います。重要度も、緊張も、時間の長さも異なります。

現地実験——実際の教室で、無作為に群を分けて行う研究——は、この隔たりを埋めます。効果が現実の場面でも現れるかどうかを確かめられます。第5回で扱った教員への報酬の研究も、現地実験でした。

読み手としては、次の順で信頼度を判断できます。実験室のみ、現地実験あり、複数の現地実験で再現。この研究は2つの実験室実験と2つの現地実験を組み合わせており、この分野では強い設計に入ります。

ただし、第42回で述べたとおり、強い設計の研究であっても、別の文化や対象で同じ結果が出るとは限りません。方向の示唆として受け取り、自分の場面で試して確かめる。この姿勢は、どの知見に対しても同じです。

他の対処と組み合わせる

試験場面の対処は、この回の方法だけではありません。連載で扱ってきたものを並べると、次のようになります。

  1. 条件を紙に書き出す(第21回)。 保持の負荷を下げます。試験中に実行できます。
  2. 解く順番を決めておく(第41回)。 本番での判断を減らします。事前に決めます。
  3. 不安を書き出す(この回)。 試験の直前に行います。
  4. 形式に慣れておく(第24回)。 長期の準備として行います。

4つは働く時点が違うため、併用できます。長期の準備、事前の決定、直前の作業、試験中の運用。どれか一つに頼るより、時点を分けて用意するほうが確実です。

そして、いずれも状態を直接変えようとしていません。緊張を消すのではなく、緊張があっても実行できる形を作る。この連載を通じての立場が、試験場面でも一貫します。

よくある失敗——直前まで詰め込む

試験直前の10分は、多くの生徒が最後の確認に使っています。この時間を書く時間に充てることには、抵抗があるかもしれません。

判断の材料として、次の点を挙げます。直前10分の詰め込みで新しく覚えられる量は限られています。第26回で述べた新近効果によって直後には出やすくなりますが、その効果も試験開始までに別の刺激が入れば弱まります。

一方、心配が容量を占めている状態は、試験時間全体に影響します。どちらの効果が大きいかは人によりますが、心配が強いタイプであれば、書くほうを選ぶ価値があります。

もう一つの失敗は、書く内容を前向きにしようとすることです。検証された形は、いま感じていることを書くものでした。前向きに書き換える作業は、それ自体が負荷になりえます。

押さえ込もうとすると、かえって残る

不安への対処として最もよく選ばれるのは、考えないようにすることです。「試験のことは考えない」「大丈夫だと思い込む」。ところがこの方法には、よく知られた難点があります。

考えないようにするには、何を考えないかを監視し続ける必要があります。監視そのものが、その内容を頭の中に置き続けることになります。結果として、押さえ込もうとするほど意識に上りやすくなる場合があります。

書き出すという方法は、逆の方向を取ります。いったん全部出す。出したものは紙の上にあるので、頭の中で保持する必要がなくなります。第39回で扱ったオフロードの考え方と同じです。

この対比は、実務的な判断の材料になります。抑え込む方向の対処——気にしない、忘れる、考えない——は、実行に注意を要します。外に出す方向の対処——書く、話す、記録する——は、実行が動作として完結します。緊張下では、後者のほうが確実に働きます。

書く代わりに、話す

書くことが苦手な場合、話すことでも同じ働きが得られる可能性があります。検証されているのは書く形ですが、外に出すという点では共通しています。

話す相手は、助言をしない人が向いています。助言が返ってくると、こちらの思考が相手の言葉に切り替わり、出し切る前に止まります。「そう思ってるんだね」と受け取るだけの相手が理想です。

第13回で述べた「状態を話せる相手」の役割は、ここにあります。解決策を出す相手ではなく、受け取る相手。この区別を家庭の中で共有しておくと、試験前の会話が変わります。

なお、話す相手がいない場合でも、声に出して壁に向かって話すだけで、外に出すという条件は満たせます。第37回で述べたとおり、相手の有無より、言葉にする作業そのものが働いています。

保護者ができること——直前に話しかけない

試験前の10分を書く時間に充てる場合、家庭でできることは邪魔をしないことです。

  1. 直前に激励しない。 「頑張ってね」は、期待の想起を促し、心配を増やす場合があります。
  2. 結果の話をしない。 「今回は大事だからね」は、結果への注意を強めます。
  3. 紙とペンを持たせる。 実行の準備だけを手伝います。

第41回で述べたとおり、状態に働きかける言葉は実行が難しく、行動に働きかけるほうが確実です。「書く時間を取ってね」という一言で足ります。

書く時間を別の場面に置き換える——発表前と試合前

試験前の書き出しは、入試や定期試験の場面だけのものではありません。たとえば、部活動の大会前や、人前で発表する直前など、結果を左右する出来事の前にも同じ手順が使えます。大切なのは、出来事そのものを変えようとするのではなく、その直前に頭の中にあるものを外へ出すことです。

勉強の場面でいえば、模擬試験の前日や、苦手な単元の確認テストの直前が当てはまります。机の上にノートを一冊だけ置き、時間を決めて、いま感じていることを書きます。書く内容は、うまくまとめる必要はありません。思いついた順に、短い言葉を並べるだけで十分だと考えられます。

また、朝の学習の前に、その日の予定や引っかかりを書く使い方もあります。夜に翌日の不安を書き出しておき、朝は書いたものを見返さずに机に向かう、という流れです。時間帯を変えることで、同じ行為が別の役割を果たすことがあります。

書いた後で気持ちが沈む——不安を掘り下げすぎる

この方法を試そうとして、うまくいかないと感じることは少なくありません。よくあるのは、書く時間を長く取りすぎてしまう場合です。長く書けば効果が増すわけではなく、むしろ疲れてしまい、その後の学習に支障が出ることがあります。時間を決めて、その範囲で切り上げる姿勢が助けになります。

次に多いのは、書いた内容を読み返して評価してしまうことです。読み返すと、書いたことの出来不出来が気になり、不安を整理するという目的から離れてしまいます。書いたら閉じる、あるいはそのまま置いておく、という扱いが向いています。

もう一点、書く道具にこだわりすぎる場合もあります。専用のノートや整った環境を用意しようとして、肝心の直前の時間を準備に使ってしまうことがあります。手元にある紙と筆記具で足りると考えられます。場所も、静かな自習室でなくても、教室の自分の席で構いません。

この記事で言えないこと

この介入は、米国の教室で検証されたものです。日本の試験文化や、対象の年齢によって効果が異なる可能性があります。また、心理学的な短時間の介入については、効果の再現性や条件依存性が議論されている領域でもあります。

加えて、この方法は試験中の遂行に働きかけるものであり、学力そのものを上げるものではありません。準備が足りていない状態を補う方法ではありません。

不安が日常的に強く、生活に影響が出ている場合は、この種の工夫では対処できません。別の支援を検討してください。

当塾の立場

紙とペンで、10分書く。費用はかかりません。模試で一度試せば、自分に合うかどうかも分かります。

武蔵野個別指導塾では、試験前に不安を訴える生徒に対して、まず書き出してもらうことがあります。話を聞くより先に、本人が書いたものを見る。書かれた内容が具体的であれば、対処すべき地点が決まります。漠然としたままでは、励ますことしかできません。第13回で述べた「状態を話せる相手」の役割は、この場面で機能します。

出典

  1. Ramirez G, Beilock SL. Writing About Testing Worries Boosts Exam Performance in the Classroom. Science. 2011;331(6014):211-213.

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