連載「学びの意思決定——行動経済学・社会学・認知心理学から考える」全50回の第29回です。学習の仕方の目次を見る
答えを見てから覚えるのと、自分で答えを作ってから確認するのとでは、後に残る量が違います。しかも、作った答えが間違っていても構いません。自分で作るという作業そのものが、記憶を変えます。この現象は生成効果と呼ばれます。
実務的には、この知見は勉強の順序を変えます。説明を読んでから問題を解く、という順序は自然ですが、逆にしたほうがよい場面があります。
要点(結論から)
- 自分で生成した語は、提示されて読んだだけの語より、よく記憶される。
- この優位は、再認・自由再生・手がかり再生・確信度のいずれの指標でも観測された。
- 符号化の規則、提示の速度、実験の計画といった条件を変えても、効果は持続した。
結論——先に自分で作る。間違っていてもよい
- 自分で生成した語は、提示されて読んだだけの語より、よく記憶される。
- この優位は、再認・自由再生・手がかり再生・確信度のいずれの指標でも観測された。
- 符号化の規則、提示の速度、実験の計画といった条件を変えても、効果は持続した。
- 後年のメタ分析でも、この効果は総合的に検討されている。
- 実務では、答えを見る前に、自分の答えを書くという一手間が、この効果を使う最短の方法である。
理由——生成すると何が変わるのか
5つの実験で確認された
スラメッカとグラフは、この現象を体系的に検討しました。参加者に、自分で語を生成させる条件と、同じ語を提示して読ませる条件を比較したのです。
Slamecka NJ, Graf P. The generation effect: Delineation of a phenomenon. Journal of Experimental Psychology: Human Learning and Memory. 1978;4(6):592-604.
5つの実験のすべてで、生成した条件のほうが成績が優れていました。しかも、手がかり再認、手がかりなしの再認、自由再生、手がかり再生、確信度の評定と、測り方を変えても同じ方向の結果が得られています。
さらに、符号化の規則を変えても、提示を実験者のペースにしても自分のペースにしても、被験者間の計画でも被験者内の計画でも、効果は残りました。条件を変えても消えないという点が、この現象の頑健さを示しています。
その後の検討
ベルチらは、生成効果に関する研究を集めてメタ分析を行い、この現象の全体像と、効果が変わる条件を検討しています。
Bertsch S, Pesta BJ, Wiscott R, McDaniel MA. The generation effect: A meta-analytic review. Memory & Cognition. 2007;35(2):201-210.
この種の総合的な検討が重要なのは、効果の有無だけでなく、どういう条件で大きく出るかが分かるためです。第6回で述べたとおり、単独の実験と総合の結果を両方見ることで、自分の条件に当てはまるかどうかを判断できます。
具体例——順序を入れ替えるだけ
| 作業 | ありがちな順序 | 生成を先に置く順序 |
|---|---|---|
| 英単語 | 意味を見て覚える | 意味を推測してから確認する |
| 解法 | 解説を読んでから解く | 手が止まるまで自分で書いてから読む |
| 用語 | 定義を読む | 自分の言葉で定義してから読む |
| 要約 | 模範要約を読む | 自分で要約してから比べる |
右列に共通しているのは、正解に触れる前に自分の版を作ることです。所要時間は数十秒しか変わりませんが、その数十秒のあいだに行われる処理が違います。
今日からできること
- 答えを見る前に、必ず何か書く。 「分からない」でも構いません。手を動かしてから見ます。
- 解説は、自分の解答と比べる形で読む。 最初から解説を読むと、読んだ内容が自分のものだと錯覚しやすくなります。
- 用語は、自分の言葉で言ってから定義を見る。 ずれた部分が、そのまま学ぶべき点になります。
- 穴埋めより、白紙のほうを選ぶ。 選択肢や部分的な手がかりがあるほど、生成の度合いは下がります。
- 予想してから確認する習慣を作る。 実験結果でも、次の展開でも、予想は生成の一種です。
学年で変えるところ
- 小学生——「どうなると思う?」と聞くだけで生成になります。正解を先に言わないことが要点です。
- 中学生——解説を先に読む癖がつきやすい時期です。5分考えてから読む、と時間で区切ると実行しやすくなります。
- 高校生——答案を書いてから模範解答を読む形にすると、差分が明確になります。差分こそが学ぶべき内容です。
生成には段階がある
「自分で作る」といっても、程度に幅があります。手がかりが多いほど生成の度合いは下がり、少ないほど上がります。実務的には、この段階を意識して使い分けます。
- 選択肢から選ぶ。 最も手がかりが多く、生成の度合いは低い。ただし、まったく手が出ない段階では入口として使えます。
- 頭文字や語数が与えられる。 部分的な手がかりがある状態です。中間の段階として有効です。
- 問いだけを見て書く。 手がかりは問いの言葉だけ。試験に最も近い形です。
- 問いも自分で作る。 範囲を見て、出そうな問いを自分で作ります。最も生成の度合いが高い作業です。
段階を上げていくのが基本ですが、いきなり4段目に行く必要はありません。まったく歯が立たない状態で白紙に向かっても、生成は起きず、時間だけが過ぎます。手がかりを少しずつ減らしていく形が、実行しやすくなります。
なお、4段目——自分で問いを作る——は、試験対策としても有効です。出題者の視点に立つ作業は、内容の構造を把握していないとできません。作れること自体が、理解の指標になります。
他の原則と組み合わせる
生成効果は、これまでの回で扱った原則と組み合わせやすい性質を持っています。
第24回の文脈依存記憶と合わせるなら、白紙に書いて生成する形が最も本番に近くなります。手がかりを減らすことは、生成の度合いを上げることと、検索条件を本番に揃えることの両方を同時に満たします。
第25回の処理水準と合わせるなら、生成の内容を意味に関わるものにします。綴りを生成するより、意味を自分の言葉で作るほうが、深い処理になります。
第27回の干渉と合わせるなら、生成する対象を範囲全体から均等に選びます。得意な項目だけを生成する練習は、偏りを強めます。
このように、個々の原則は独立した技ではなく、同じ1回の練習の中で同時に満たせます。実際、「範囲からランダムに選び、白紙に、自分の言葉で書く」という一つの手順が、3つの原則を同時に使っています。原則の数だけ作業を増やす必要はありません。
なぜ自分で作ると残るのか
説明はいくつか提案されてきました。代表的なのは、生成の過程で意味に関わる処理が行われるという説明です。第25回で扱った処理水準の考え方と重なります。
もう一つは、生成の過程で、その項目と他の知識とのつながりが作られるという説明です。自分の言葉で言い換えるには、手持ちの知識を使う必要があります。使われた知識との間に、経路ができます。
さらに、生成には失敗の情報が伴います。自分の答えと正解がずれたとき、そのずれ自体が印象に残ります。読むだけの場合、ずれは発生しません。
どの説明が正しいかはさておき、実務的な含意は共通です。正解に触れる前に、自分の版を作る。 この一手間が、複数の経路で記憶を助けます。
間違った答えを作ってしまう心配
「先に自分で考えると、間違った答えを覚えてしまうのではないか」という懸念があります。もっともな心配ですが、条件を1つ満たせば問題になりにくくなります。
条件は、生成のあとで必ず正解を確認することです。生成しただけで確認しないまま放置すると、誤りが残る可能性があります。逆に、直後に確認が入れば、誤りは修正され、しかも誤った予想と正解の対比が印象に残ります。
加えて、粘りすぎないことも要点です。第27回で述べたとおり、出てこない答えを長く探し続けると、誤った候補が強まることがあります。短く試して、出なければ確認する。この運用であれば、生成の利点を得ながら誤りの固定を避けられます。
生成は遅い。だから対象を選ぶ
生成には時間がかかります。1問あたり数十秒の追加でも、100問分となればまとまった時間になります。すべての内容に対して生成を行うのは現実的ではありません。
そこで、対象を選ぶ基準が要ります。実務的には、次の3つが優先されます。
- 繰り返し間違えている項目。 読むだけでは変わらなかったことが、既に実証されています。
- 試験で配点が大きい内容。 投じる時間に対する見返りが大きい部分です。
- 他の内容の前提になっている概念。 ここが曖昧だと、後続がすべて不安定になります。
逆に、初めて触れる内容を大量に処理する段階では、生成を挟まず通読するほうが速い場合があります。前提が何もない状態では、生成しようにも材料がないからです。全体を一度通してから、上の3つに対して生成を行う。この順序が現実的です。
よくある失敗——「先に解説を読むほうが効率的」という誤解
時間が限られていると、解説を先に読んで理解し、それから問題を解くほうが速いように感じられます。実際、その場では速く進みます。
問題は、解説を読んでいるあいだに生じる感覚です。書かれている内容は筋が通っているので、読めば分かります。この「分かる」は、自分で再現できることを意味しません。第24回で述べた再認と再生の違いです。
生成を先に置くと、進みは遅くなります。しかし、どこが分かっていないかがその場で判明します。同じ時間で扱える問題数は減りますが、扱った分の残り方が変わります。どちらを選ぶかは、残り時間と範囲によりますが、少なくとも「速く進む」ことと「残る」ことは別だと意識しておく価値があります。
保護者ができること——答えを先に言わない
家庭での会話に、この知見はそのまま使えます。要点は一つで、正解を先に渡さないことです。
- 「どう思う?」を先に置く。 質問されたとき、すぐ答えずに一度返します。
- 予想させてから確認する。 調べ物をするときも、調べる前に予想を言わせます。
- ずれを責めない。 ずれたこと自体が学習の材料です。ずれを指摘されると、次から予想を言わなくなります。
教えられる側にとって、先に答えを渡されるのは楽です。楽であることは、処理が浅いことの合図でもあります。
人に教えることも、生成である
友人に説明する、家族に今日習ったことを話す。こうした場面も、生成の一種です。説明するには、手元の知識から文を作る必要があります。読み上げるのではなく、組み立てる作業が入ります。
説明の相手は、必ずしも人である必要はありません。誰もいなければ、白紙に向かって説明を書く。声に出して説明する。いずれも、頭の中だけで確認するより生成の度合いが上がります。
そして説明の途中で詰まった箇所が、そのまま弱点になります。読んでいるときには気づかない穴が、話そうとすると見つかる。この発見は、生成を経なければ得られません。第13回で述べたとおり、質問できる相手を確保することには、説明する機会を確保するという側面もあります。
数学の例題を解くとき——答えを見る前に作る
先に自分で作るという原則は、暗記科目だけでなく、数学の例題を扱うときにも当てはまります。解説を読む前に、まず自分で手を動かしてみる。この順序を守るだけで、同じ例題から得られるものが変わることがあります。答えが合うかどうかとは別に、考えた過程そのものが残りやすくなると考えられます。
たとえば新しい単元の例題を開いた場面を考えます。解説を読んでから解くと、解法の流れは追いやすいものの、自分で考えた跡が残りません。一方、先に手を動かすと、どこで止まったか、どの条件を見落としたかが、後で振り返る手がかりになります。この手がかりは、解説を読んだだけでは得にくいものです。
また、先に解いてみることで、解説の読み方も変わります。自分が迷った箇所に注意が向き、そこを中心に確認することになります。解説を漫然と読むより、自分の詰まりを照らし合わせながら読むほうが、理解が深まる場面も多いと考えられます。順序を入れ替えるだけで、同じ教材の使い方が変わることがあります。
時間が足りなくなる——自分で作ると遅い
先に自分で作るという進め方は、どうしても時間がかかります。この点が、実行の段でつまずきやすいところです。限られた時間の中で多くの範囲をこなそうとすると、先に解説を読むほうが速く感じられ、ついそちらに流れてしまいます。
たとえば定期試験の直前、残りの範囲を詰め込もうとしている場面を考えます。一問ずつ自分で考える時間を取ると、その日のうちに予定していた範囲が終わらないことがあります。すると、途中から解説を先に読む形に切り替え、結局は元の進め方に戻ってしまうことがあります。
また、自分で作る時間を長く取りすぎると、確認の時間が残らなくなることもあります。考えてばかりで答え合わせができなければ、誤りに気づかないまま進んでしまいます。すべての問題で同じ手順を守るのではなく、対象を絞って先に作る時間を確保し、残りは確認中心にするという配分が現実的だと考えられます。
この記事で言えないこと
生成効果の実験は、語や単純な材料を用いたものが中心です。長い文章の理解や、複雑な問題解決に同じ大きさの効果が出るとは限りません。また、生成に要する時間が長い場合、同じ時間で扱える量が減るという費用も発生します。
加えて、まったく知識のない内容については、生成そのものが成立しません。第25回で述べたとおり、材料がなければ操作できません。生成を有効に使うには、最低限の前提知識が要ります。
当塾の立場
答えを見る前に書く、予想してから確認する、自分の言葉で定義してから読む。いずれも費用はかかりません。
武蔵野個別指導塾で気をつけているのは、先に説明しすぎないことです。分からないと言われたときに、すぐ解法を示すと、その場は進みます。しかし生成の機会が失われます。まず本人に書かせ、止まった地点を見てから、その地点に必要な部分だけを渡す。手間はかかりますが、残り方が違うと考えています。
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出典
- Slamecka NJ, Graf P. The generation effect: Delineation of a phenomenon. Journal of Experimental Psychology: Human Learning and Memory. 1978;4(6):592-604.
- Bertsch S, Pesta BJ, Wiscott R, McDaniel MA. The generation effect: A meta-analytic review. Memory & Cognition. 2007;35(2):201-210.

